09/10/06 19:04:09
>>949
貞漫画で「アスカ」って呼んでたのよ
アニメでは弐号機パイロットとしか呼んでなかったはず
951:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/06 19:44:32
詳しく覚えてないがあれはアスカ個人に対してじゃ無くて
ミサト等に命令するときの呼び方だったような…
シンジのことをミサトとの会話では初号機パイロットって呼んでるときもあるし
952:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/06 20:04:10
アニメ版だと一度もレイと会話シーンの無い加地さんでさえ
「レイ」って呼んでたからな>貞漫版
レイからすれば「何? この人…」だっただろう
953:DISTRESS ◆xfCLDS4d/.
09/10/06 20:35:55
空気読まず続き投下 このスレで終わるかな?
マンションにつくと早速調理を始める。
アスカと腕を組んでたもんだから、
デート気分でついついだらだらとしてしまった。もう七時半だ。
肉を一生懸命こねてる途中で、テレビの前でゴロゴロしてたアスカが来た。
「バカシンジ、それあたしもやる!」
「えぇー! いいよ、アスカはゆっくりしてなよ!」
「遠慮しなくたっていいわよ! この天才アスカ様にまっかせなさぁ~い!」
トホホ・・・ 気持ちは嬉しいけど更に遅くなりそうな気がしてたまらないよ・・・
「えっと・・・ じゃあお肉はこねたから、形をつくってくれる?」
「おっけ~ そんなの超余裕じゃない!」
横顔がとっても楽しそう・・・
よかったな・・・ あの殺伐とした雰囲気はどこへ行ったやら・・・って!!
「アスカぁ~! 指の間から肉がボロボロ落ちてるよ!」
「うっさいわねぇ~ 仕方ないでしょ初めてなんだから!」
「ほら、こうやってぺたぺたって空気抜いて・・・」
そう言ってアスカの手を取りぺたぺたと肉の形を整えていく。
「ほら、アスカわかった? ・・・アスカ?」
返事がないから顔をのぞき込んで見る。
954:DISTRESS ◆xfCLDS4d/.
09/10/06 20:51:35
やばい。
昨日の夜見せたあの顔。
でもどうして・・・
「アスカ、どうしたの?」
「・・・別に。あの女にもこうやって手取り足取り教えたのかなぁ?って思っただけ」
「そんな・・・ もう忘れようよ。もう綾波はその・・・振ったんだよ?」
「どーせあんたのことだから曖昧な感じにしたんじゃないの?」
「違うよ!」
気づけば自分でもびっくりするくらいの大声を出していた。
「僕だって・・・ アスカのために頑張ってるんだよ?
それなのに、何でわかってくれないんだよ!!」
自分の太股に怒りをぶつける。
あんなにほんわかしていた気持ちが一気に崩れさった。
「・・・」
俯いて唇を噛みしめていると、アスカが抱きしめてきた。
暖かい。包み込むような柔らかい感触。
「シンジ・・・ ごめん」
この一言で僕は我に帰った。
「僕の方こそごめん。せっかくハンバーグなのに・・・台無しだね」
「なぁにいってんのよバカシンジ! 早く作っちゃって食べましょうよ!
きっとおいしいわよぉ~ なんせこのあたしが作ってるんだから!」
フフッ。アスカらしいや。
「そうだね! じゃあ作ろっか!」
「やっぱり・・・ やり方わかんないからちゃんと教えてよね!」
955:DISTRESS ◆xfCLDS4d/.
09/10/06 21:10:19
そういい終えた後の顔は真っ赤だ。
「うん! じゃあ始めよう!」
アスカの手を取り、やり方をもう一度教える。
アスカがとてもいとおしい。
そんな気持ちを込めながら、おいしくなるように作っていった。
そして・・・
「できた!」
「うん! それじゃあ食べよう!」
「いただきます!」
二人で同時に言うと、真っ先に口へハンバーグを運ぶ。
・・・おいしい!
「アスカ、どう?」
「おいしい! 今までのハンバーグの中で一番の出来ね!」
満面の笑みのアスカ。とってもかわいい。
よかった・・・
と、いきなり電子音が鳴り響いた。
「シンジ、電話!」
「うん」
席をたって受話器を取る。
「はい、もしもし」
「シンジ君? 今から言う話を落ち着いて聞いてちょうだい」
「リツコさん。話ってなんですか?」
電話の対応してる間にもアスカはおいしそうにハンバーグを食べている。
「・・・葛城三佐が。・・・ミサトが亡くなったわ。」
へ?
「えっと、嘘ですよね?」
笑いながら尋ねる。心臓がバクバクする。
「本当よ。
上はエヴァのパイロットに精神的なダメージを与えてはいけないと判断したらしく、伏せておくように言われたわ」
「えっと、今日は四月一日」
956:DISTRESS ◆xfCLDS4d/.
09/10/06 21:29:11
「落ち着きなさい! 現実から逃げようとしても何も始まらないわ!
現実を受け止め、冷静に対処しなさい」
「うそだうそだうそだうそだ」
「・・・中学生には無理な要求だったわね。
明日カウンセラーを付けて詳しい話をするから、アスカと一緒に来てちょうだい。
私だって悲しいわ。でも受け入れるしかないのよ。
・・・こんな仕事柄だものね」
「・・・」
黙って受話器を置く。
「シンジ、どうしたの?」
「・・・」
黙って自分の部屋へ駆け込む。
「シンジ! 待ちなさいよ!」
嘘だ。信じたくない。逃げ出したい。
嫌だ。ミサトさんがいなくなるなんて。
優しい態度で、時には厳しく僕に接してくれた。
でももういない。
涙が止まることなく流れ続ける。どうすれば僕は救われるのか。
誰が戦場で支えてくれるのか。
胸が痛い。涙が止まらない。
「ミサトさん・・・
ミサトさんミサトさん、ミサトさぁーーん!!」
クソ。なんでだよ。
さっきは死因なんて聞けなかった。逃げた。嫌だから。
逃げちゃだめ?
そんなの知るか。逃げたっていいんだ。逃げて何が悪い。
「嫌なことから逃げて何が悪いんだよぉーーー」
思いは気づくと声になっていた。
957:DISTRESS ◆xfCLDS4d/.
09/10/06 21:47:58
いつだってそうだ。
大切な人は僕の周りから消えていく。
母さん、父さん、それにミサトさん・・・
アスカだって今は優しいけど、どーせ消えてしまうんだ。
だいたいアスカが僕なんかを好きになるわけがない。
いやだ。
全部嫌だ。何もかも。
誰にも優しくされないんだったら生きている意味はない。
死にたい。でもできない。臆病だから。
もうどうでもいい。どうとでもなれ。
トントン。
「シンジ、入るわよ」
もう嫌だ。誰とも話したくない。
「・・・」
ベットの隅っこに腰をかけた。
「聞いたわ。リツコに電話したの。ホント信じられない」
声が震えてる。アスカも泣いた後なのだろう。
「ミサトって・・・ あんな酒飲みでだらしない女だったけど」
「・・・」
「いい奴だったわ。あいつが死んじゃったなんて信じたくない」
そんなのわかってる。
言って何になる。
僕に優しくしようとするのは止めてよ!
「あっちいってくれ」
「シンジ・・・ 気持ちはわかるわ、でも・・・」
「あっち行けっていってるだろ!!」
アスカを睨み付ける。出てけ。
「出てけ出てけ出てけ出てけ」
壁を何発も殴る。今朝の傷にできていた瘡蓋が剥がれる。
958:DISTRESS ◆xfCLDS4d/.
09/10/06 22:07:52
意味がない。わかってて殴る。
「僕に優しくしないで!
また捨てられるんだ。アスカにも。
もうこれ以上こんな苦しみたくさんだ!くそぉ・・・」
「シンジ・・・」
アスカが抱きついてきた。
やめてくれ。触らないで。
「放せ、放せよーー」
「嫌! 絶対放さない!」
「そんなに僕を苦しめたいの?
だったら僕を殺してよ!殺せよ!」
「このクソバカシンジぃぃ!!」
アスカが全力で僕の事をベットに押し倒してきた。
僕の上に馬乗りになって襟首を掴んでくる。
「なんでわかんないのよ!」
「何が?」
アスカの瞳から涙があふれ出す。
「あんたの事、あたしがどれだけ想ってるかわかってんの?」
「・・・やめてよ、そんな嘘つくの」
「嘘じゃない!
私をみて! 私に触って!
私を一人にしないで!」
あんな強気なアスカが・・・
こんな事言うなんて。
嘘で言うとは思えなかった。
「あたしがなんであんたを好きになったかわかる?」
「・・・わからない」
「・・・あんた、あたしに似てんのよ。
他人なんて所詮他人。本気で自分の事を想ってくれてる人なんていない。だから誰もいらない。
でもほんとは人一倍愛されたい。人一倍寂しがり屋。
・・・そうでしょ?」
959:DIS ◆xfCLDS4d/.
09/10/06 22:11:09
用事入ったので今日はここまで。
痛すぎって思った人はNGしてくださいませ。
でも、最終的には救われます。
960:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/06 22:12:46
乙
痛いとは全く思わなかったけど、シンジの反応が唐突で極端すぎて?だった
961:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/06 22:15:44
乙
まぁ確かにシンジが唐突すぎて違和感感じる
962:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/06 22:34:22
GJ
続き待ってる
963:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/06 23:21:38
GJです
ただミサトを殺す必要はなかったのでは?
964:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/06 23:43:38
GJ!!
だが>>963と同感かなぁ
965:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/07 00:34:18
ミサトも大好きな俺にこれはキツかった
つーかエヴァキャラはみんな好きだからこーいうの苦手だわ
でもとりあえず頑張って
どうせなら最後まで読みたいし
期待してます
966:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/07 00:39:27
チッ
良い所で続くか!
967:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/07 00:45:59
話に詰まったら転校生と人を殺す、のは止めましょう。
と、あだち充が言ってたようなww
968:DIS ◆xfCLDS4d/.
09/10/07 00:53:09
やっぱミサトについてはこんな感じになりますよね、すいません。
ただ、自分もエヴァキャラは全員好きなのでキャラを虐殺することはありません。
969:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/07 01:10:03
猫シンジもペロペロもDISさんもGJ!
良いスレになってきたね~
970:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/07 01:19:50
>>967
「お前が言うか!」って感じだな
971:猫シンジ
09/10/07 02:04:13
>>898の続き
結局その日のサルベージ作業は失敗に終わった。
僕は人間に戻れず、アスカも綾波は悲しい顔で塞ぎ込んだままだった。
みんなが幸せになれると思ったのに、一体どうしてこんな事になってしまったんだろう。
患畜用の小さなベッドの上で僕は自分の浅はかさを呪った。
リツコさんとミサトさんの会話によると明後日の再サルベージがラストチャンスらしい。
次に失敗すれば僕はネルフの備品として初号機のダミープラグにされるそうだ。
ミサトさんが凄い剣幕で抗議している。だけど父さんよりも偉い所からの命令らしい。
これ以上パイロット一人に予算と時間は割けないんだってさ。
ダミーって偽者とか身代わりという意味だよね。
猫のまま代理パイロットをするって意味かな?
口論の末、『次で成功させれば問題ないわ』というリツコさんを信じることになった。
今夜から泊まりでミサトさんも全データの洗い直しを手伝うそうだ。
僕のせいで色々とごめんなさい。
帰りのバスの中、アスカは一言も喋らずにぼんやりと外を見ながら僕の頭を撫でていた。
なんだろう。つい最近も同じアスカを見たような気がする。
ああ、思い出した。確かジオフロントに『行方不明の僕』を探しにいった帰りだ。
あの時と同じ顔をしているんだ。
「にゃーん……」
「……」
僕は同じ事を繰り返してしまった。
ちゃんと僕を心配してくれていたのに、それを知っていたはずなのに。
アスカの表面だけを見て、勝手に嫌われてるって思い込んで。嫌われないようにって。
どうして僕はいつもこうなんだろう。
『そうやって人の顔色ばかり伺ってるからよ』
不意にミサトさんの言葉を思い出した。
972:猫シンジ
09/10/07 02:05:08
帰宅後、アスカは僕の食事を用意するとベッドに突っ伏したまま動かなくなった。
気分転換になればと何度も鳴いて興味を引こうとしたけれど逆効果。
「うるさい……」
と小声で一言だけ残し、アスカは枕を頭に被って耳を塞いでしまった。
いっそ怒鳴られた方がどれだけ気が楽か。って馬鹿か僕は。それじゃ駄目なんだ。
僕じゃなくてアスカの気が晴れないと意味がないんだ。
ペンペンペケペケ♪ ペペペンペケケ♪
重苦しい空気に軽快な着信音がリビングから流れ込んできた。
面倒なのか、気が付いていないのかアスカに動く気配はない。
使徒だったり、緊急連絡だったら大変だ。
ここぞとばかりに僕は部屋を飛び出し、ソファーに置き忘れられた携帯電話に向かった。
着信表示は『ヒカリ』。なんだ洞木さんか。
でも彼女ならアスカの沈んだ気分を変えられるかもしれない。
きっとトウジ絡みの明るいニュースだろう。そうに決まってる。
そう信じた僕は携帯電話を咥え、着信が切れないうちにと急いでアスカの元へと戻った。
最近は軽量化されていて助かるよ。
ペンペンペケペケ♪ ペペペンペケケ♪
「にゃーん! にゃにゃーん! にゃにゃにゃにゃーん!」
「……」
僕と携帯電話に気が付いたアスカは顔を上げ、視線を着信表示に向けた。
「にゃーん」
そして得意気に鳴く僕に視線を合わそうとせず、着信を無視してまた枕を被った。
973:猫シンジ
09/10/07 02:06:33
洞木さんからの着信はそれから3コールほどで切れ、またも部屋は重い雰囲気に包まれた。
いるだけで息が詰まってしまいそうだ。アスカ本人はどれ程なのだろうか。
そんなに悲しむほど僕に価値はないよ。喋れるのなら、そう言ってあげたい。
きっと殴られるだろうけど、それでアスカに元気が戻るなら安いものだ。
居辛さに耐え切れず部屋を出ようとすると猫耳にアスカの呟きが聞こえた。
「返して」
振り向くとアスカが僕を見つめていた。
「シンジを返して、お願いだから」
泣いていたのだろうか。涙は見えないけど、目がウサギのように真っ赤だった。
「あいつは気弱で軟弱で鈍感で意気地なしだけど、あいつなりに精一杯やってたの」
いつも僕は一杯一杯だったとは思う。でも本当に精一杯のことをしていたのだろうか。
「自分のことも満足に出来ないくせに人のことばっかり心配してる奴なの」
違うよ。僕は他人ことを考えている気になってただけで、本当は何も見ていなかったんだ。
「だからシジ。シンジを連れて行かないで。あたしにシンジを返して」
僕はアスカの言葉に最後まで聞くことが出来ずその場から逃げ出した。
猫になって知ったことは自分が見ていた世界の狭さ。
そして猫でい続けて知ったことは、傷付く恐怖と無縁で手に入る幸せなんてないってことだ。
サルベージの時、僕が猫でいることがアスカにとって良い事だと思ったんだ。
猫でいたいと思った。人間の僕は必要ないと思った。だからきっと人に戻れなかった。
でも本当にそう思ったんだろうか?
ただ自分が優しくされたかっただけ、嫌われたくなかっただけじゃないのか。
猫でいればアスカに好かれていられる。人間に戻ったら嫌われる。そう思ったんだ。
ただ自分が傷付きたくなかっただけ。それだけだ。
みんなが幸せになれるとか、アスカを喜ばせたかったなんて、そんなの薄っぺらい言い訳だ。
自分では何もせず赤ん坊のように優しく接して貰える、そんな境遇を手放したくなかっただけじゃないか。
最低だ。このままじゃ本当に最低だ。だからせめて最低だった、にしよう。
974:猫シンジ
09/10/07 02:08:41
あれからアスカは僕とまともに顔を会わせなかった。僕も会わせられなかった。
だけどゆっくりと考えることは出来た。僕に出来ること、僕の本当にしたいこと。
そして明後日。再サルベージ作業は何事もなく終了した。
僕は猫にされた時と同じように本当にあっさりと人間の姿へと戻っていたんだ。
ミサトさんは泣いて喜んでくれたけれど、そこにアスカの姿はなかった。
何を思ったか自宅待機しているらしい。
やっぱり元に戻っただけで喜んで貰えるって考えは甘いようだ。
マンションへ戻るまでに五回くらい転びかけ、その内の一回は思い切り引っ繰り返った。
体が妙にフラフラする。どうも身軽な四足歩行に慣れすぎてしまったらしい。
それに視界も全然違うからバランス感覚も狂っているみたいだ。
猫になった時は気にならなかったんだけどな。
玄関の前で深呼吸を一回二回。駄目だ全然落ち着かない。
アスカに会ったらまず最初に―
ここ何日かかけて考えた言葉を思い出していると、急に玄関が開いた。
「さっきから何をボーっと突っ立てるわけ?」
「え…あ…う…」
心の準備がまだ出来ていないんだよアスカ。
僕は酸素の足りない金魚のように無様に口をパクパクとさせた。
頭の中まで真っ白。色々と準備してきたのに全部吹き飛んでしまった。
なのにアスカは睨むような目で僕の言葉を待っている。
「た……ただいま」
必死に頭を回転させて出たのがそれだった。
もっと気の利いた言葉があるだろ。こういう時やっぱり駄目なんだ僕は。
「おかえり。早く入んなさいよ」
半分パニックを起こしたような僕を見て、アスカは呆れたような微笑を浮かべた。
予定とは大分違っているけど結果オーライ、かな。
975:猫シンジ
09/10/07 02:10:07
せっかく人間に戻ったというのに僕はリビングで借りてきた猫状態だ。
どうしよう。アスカに話したいことは一杯あるのに上手い切り出し口が見つからない。
取り合えず何か会話をしないことには始まらないけど意識すると話題も思いつかない。
猫の時の記憶は覚えてないってことになっているから迂闊な事は言えないし。
「シンジ、コーヒー飲む?」
「淹れてくれるの? ありがとう」
あああ、せっかくチャンスだったのに何で即会話を終わらすんだ。僕のバカー!
しかもアスカ台所へ行っちゃったじゃないか。
夕飯の材料かとうもろこしでも買って来れば良かった。
なんか他に話題ないかな話題。その辺に落ちてない?
落ち着きのない僕の目が拾ったのは、ソファーの端に置いてある紫色のお面だった。
何故こんな所にあるのかは気にしない。溺れる猫はお面も掴む。
「何このお面?」
「夏祭りの夜店で買ったのよ。それはシンジにあげるわ」
「いいの?」
「私は人気No1の弐号機を持ってるしねー。初号機は在庫処分だってさ」
そう。これは角は短いし眼つきも悪くて不恰好だけど初号機だ。
よし。これでお祭り関連の話題が出来た。
ありがとう父さん。今日この時の為に初号機は紫色だったんだね。在庫処分万歳。
「そっか。お祭り、もう終わっちゃったんだね。ちぇ、僕も行きたかったな」
「はい、珈琲お待ちどうさま。花火の写真ならあるけど見る?」
僕の答えを聞く前にアスカは写真を取りに部屋へと向かっていた。
明らかに分量を間違えているインスタント珈琲も何故か美味しく感じる。
あれ? このコップは誰のだっけ? 見たこともない青い宝石模様のコップだ。Blue water?
「あたしのをそれの赤にしたのよ。その余り。あたしとペアグラスだなんて光栄に思いなさいよ」
夜店のお姉さん、恋人と使えって行ってたっけ。まさかね。
アスカが上機嫌なんで前のコップがどうなったかは聞かないことにした。
976:猫シンジ
09/10/07 02:12:05
「こっちがみんなで取った写真。で、こっちがあたしとシジ。可愛いでしょ」
お祭りの写真だ。猫の僕もしっかり映ってる。今更だけど夢じゃなかったんだな。
「この黒猫が僕だったの?」
「そーよ。はっきり言ってあんたの数百倍は可愛かったわね」
アスカが説明する夏祭り解説は少し誇張も入っていて大げさだったけど凄く楽しそうだ。
僕も実際に行っていたのに、今の方が楽しいと思えるのは何でだろう?
「来年は僕も一緒に行けるかな?」
「勝手に行けばいいじゃない。あたしは絶対あんたを誘わないけど」
「そんなぁ……じゃあ僕がアスカを誘ったら?」
「どうしてもっていうのなら、一人ぼっちじゃあまりにも可哀相だから誘われてあげるわ」
ありがとう。今年は誘えなくてごめんね。そう心の中で呟いた。
やっぱりアスカと話せるのは凄く嬉しい。猫の時は味わえなかった喜びだ。
多分すぐにまた怒らせたり喧嘩したりするのだろうけど、それもきっと幸せの一つなんだろう。
「ところでシンジ。あんたなーんか言い忘れてない?」
言い忘れてる事って何だろう。ええと、珈琲美味しかったよ? コップありがとう?
どれも違うみたいで、アスカは空いたグラスを片付けに行ってしまった。
「ご、ごめん。その……」
「別に無理しなくても良いわよ。リンゴ切るけど食べる?」
少し落胆したような声が胸にズキリと来る。
何だろう? 夏祭りの写真と話を聞いて僕が言うことって。
僕は夏祭りの記憶はないことになってるのに――あ、そうか。
記憶があるから気が付かなかったんだ。本物を見てしまっていたから。
「アスカ。あの浴衣、凄く似合っていて……」
「今更取ってつけたように言わなくても良いわよ!! この――痛っ!」
また指を切ったらしい。何やってんだよ。包丁を持ったままよそ見するなんて。
いや話しかけた僕も悪いけど。とにかく―
977:猫シンジ
09/10/07 02:12:51
咄嗟にアスカの指先を口に含むと血を舐め取りながら舌先で傷を軽く確かめた。
猫の時にもやって感じたけど、こうすると傷口の様子が良く分かるんだ。
じんわりと広がる血の味は自分の血とは違い、何だか鉄のようなのに甘く感じた。
「ば、ばか! 何やってんのよ……」
涙を堪えているのかアスカの目が潤んでいるような気もする。
少し頬も染まっているし、もしかして照れてるのかな。
ちょっと大胆すぎて殴られても仕方ないかなと思ったけど、結構いい感じかも。
いや何だか凄くいい。アスカの指の感触が急に鮮明に感じられてきた。
名残惜しいけど消毒液と絆創膏を食器棚の引き出しから取り出して手当て。よし完璧だ。
「うん、広いけど深くない。大丈夫、これなら傷は残らないよ」
「そういう問題じゃないわよ……ばか」
アスカは頬を染めたまま俯いて指先を潤んだ瞳で見つめている。
そうだ。今なら言える。僕の気持ちをアスカに告白しよう。
もしかしたら嫌われてしまうかも知れないけど、それでも伝えたいんだ。
「アスカ、僕は……!」
「……シンジ!」
僕の言葉を遮って俯いていたアスカが顔を上げて僕を見つめた。
頬を染めていた顔が全体的に赤くなっている。
こ、これはもしやアスカから告白が? まさかそんな。
ここでその些細な確率に掛ける、そんな言い訳で逃げちゃ駄目だ。
このタイミングを逃しちゃ駄目なんだ。
男として、いや降って湧いた幸運に依存しない為にも僕から言わなければいけない。
そう、逃げちゃ駄目だ。
978:猫シンジ
09/10/07 02:14:11
「アスカ! 僕は―むぐっ!」
意を決して開いた僕の口をアスカの無事な方の手が塞いだ。
塞いだというよりも顔を掴んだという感じだ。
アスカは僕に告白すらさせてくれないのだろうか。
僕を見つめるアスカの顔が真っ赤に紅潮している。まさか本当にアスカから?
でもそれにしては潤んでいた瞳で見つめるというより、睨まれている様な気が。
「シンジ……。あんた何で食器棚に絆創膏が入ってるって知ってたの? 普段は救急箱よね?」
それは―猫の僕が救急箱を破壊したからです、はい。
不味い。猫の記憶があるってバレたみたい。
照れてるんじゃなくて、顔を真っ赤にするほど怒ってるんだ。
「シジだった時のこと、どのくらい覚えてるのよ? 正直に言いなさいよ。怒らないから」
「ほ、ほぼ全部……かな。いや隠そうとしたわけじゃないんだ。言い出すタイミングが……」
アスカの手が不意に外された。逃げ出したい。やっぱり僕は意気地なしだ。
「記憶を失え―!!!!!!」
アスカの拳が逃げようとした僕の顔面を綺麗に捉えた。
痛い。痛いから。それに怪我した手で殴っちゃ駄目だってば。
ごめんなさい少し手加減して。泣きながら怒らなくてもいいじゃないか。
「忘れなさいよシンジ! 全部、全部忘れなさいよ!」
アスカが倒れた僕の上に馬乗りになり、胸倉を掴んで無茶な要求をしている。
三分くらい前まで結構いい雰囲気だったのに何でこんなことになっちゃったんだろ。
内緒にした僕の自業自得といわれればそれまでだけどさ。
そうか、また振り出しに戻っちゃうのか。でもそれは嫌だ。嫌なんだ。
「ほら返事は!? 絶対に思い出すんじゃないわよ!」
「嫌だよ。僕は…何も忘れない!」
僕はアスカの手を解くと強引に抱き寄せた。
大胆? 構うもんか。これ以上嫌われる要素なんかないさ。
979:猫シンジ
09/10/07 02:15:00
ああ、アスカの匂いがする。猫だった時は遠くからでも分かった。
でも今はこんなに近くないと分からないんだね。
「猫になって沢山のアスカを知ったよ。優しいアスカ、強いアスカ、そして弱いアスカ。
全部僕の大事な記憶だ。大事な思い出なんだ。だから…何一つ忘れやしない。
泣いてたアスカも、笑ってたアスカも、今怒ってるアスカも全部……好きだから」
何を言っているのか自分でも良く分からない。思ったことを羅列しているだけだ。
でもアスカを好きだということだけは間違いない。後は―どうでもいいや。
「アスカのことが好きだから! だから何も忘れたくない!」
「あんたバカァ? あたしの気持ちなんて無視して言いたいことばっかり!」
そう言うだけ言ってからゴツンとアスカの頭突きが僕の額に入った。
不意打ちだったのもあって頭がくらくらするほどの強烈なやつだ。
「ごめん、酷いことばかりして。嫌われても構わない。だけどいつか必ず振り向かせるから」
もう一回アスカが身を剃らした。頭突きに備えて僕は思わず目を瞑る。
「本当にバカね。最初っからあんたを見ている女をどうやって振り向かせるのよ」
今度は僕の唇を柔らかい感触が襲った。とろけるように柔らかいアスカの唇。
前にした時のキスとは全くの別物だ。キスがこんなに素敵なものだったなんて知らなかったよ。
全く予想していなかった感触と幸せに僕は時間が止まればいいとさえ思った。
けれど直ぐに思い直す。現状に甘えて未来に恐怖することの愚かさは十分に思い知ったから。
どんなに恐くても自分から歩き出さなければ、本当の幸せには辿り着けないんだ。
「シンジはこれからもずーっとシジのままね。あたしのペットにしてあげるから」
「嫌だよ。猫のままじゃアスカを抱きしめられないし……アスカに好きだって言えない」
「うふふ……そうよね。やっぱりあたしもシジよりシンジの方が好き」
その言葉を確かめるように僕はもう一度アスカと唇を重ねた。
こうして今日、僕の名前はシジから碇シンジへと戻った。
<<おわり>>
980:猫シンジ
09/10/07 02:16:11
ギリギリこのスレで終了を迎えられました。
ネタを抵抗してくれた方、感想をくれた方、支援してくれた方、本当にありがとうございました。
人間に戻ってからの展開に期待してくださった方、ごめんなさい。
>>942、943、945
単純な表記ミスと見直し不足です。ごめんなさい。
981:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/07 04:54:38
>>980
GJ!楽しませてもらいました。ありがとう。
982:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/07 08:47:41
GJ! 乙!
ひぃっぃぃ。
ええ話や猫シンジ大好きだ!
983:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/07 11:50:22
誰か次スレよろ
984:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/07 12:11:47
勝手にだが立てさせてもらった
LAS小説投下総合スレ21
スレリンク(eva板)
985:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/07 13:44:12
>>980
お疲れ様でした。GJ!
可愛がられていたシジだけど、最後は自分の手でアスカを抱きしめられてよかったよ~
986:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/07 13:56:01
>>980
ども。ネタ抵抗した者ですw
シンジが猫になる…とかいう曖昧なリクエストを最高の作品にしていただき、ありがとうございました!
ラスト人間に戻っても、やっぱり可愛い2人がたまりません。
うわ~最近全然書いてないから、自分も頑張って何か書かないとw
987:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/07 13:57:04
>>984
あとスレ立て乙です!
988:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/07 22:45:44
埋めるか
989:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/07 22:47:20
惣
990:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/07 23:10:05
流
991:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/07 23:28:12
ア
992:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/07 23:31:49
す
993:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/07 23:34:04
カ
994:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/07 23:34:18
ラ
995:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/07 23:36:50
ン
996:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/07 23:38:52
グ
997:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/07 23:39:57
レ
998:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/07 23:40:30
l
999:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/07 23:41:55
>>989-998
素晴らしい
1000:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/07 23:43:06
1000ならアスカと結婚
1001:1001
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もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。