09/08/24 12:20:38
投下前からここまで荒れるってよほどの超大作なんだろうな
701:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 12:31:01
>>699
そこんとこどうなんだろうな
一気に投下か分けて投下か
702:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 12:31:01
>>693
お恥ずかしいw
>>671でしたごめんなさいw
>>694
20をN3さんに預けて、他作は21に行けばいいんじゃない?
703:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 12:36:28
問題は誰がスレを建てるか
704:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 12:38:20
>>703
立てることは立てられるけど、N3さんに確認とらんとなぁ
705:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 12:38:57
早く解決して元の流れに戻るといいなぁ~
706:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 12:57:54
>>702
それいいかも
707:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 13:17:20
N3だけ特別扱いするなよ
新スレをもう立てるとか正気の沙汰じゃない
708:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 13:30:14
>>707
投下量が問題だっての
709:ふぅ。
09/08/24 14:44:20
「じゃ、後片付けしてくるから。」
「うん」
「んんー…、あれ?寝ちゃってたの?」
午前三時。
「もうひと眠りするかぁ。」
と言ったものの、あれだけ早く寝てしまったので眠ろうにも眠れない。
眠ってるシンジの顔をベッドの上から見つめていた。
「…まだあるんじゃん、あたししか知らない顔。」
触ったら、壊れてしまいそう。
もう、この気持ちを認めてしまうしかなかった。
告白でもすれば、付き合ってくれそう。
でもそれはいや。絶対にいや。
あたしだけが依存してるみたいで。
もしかしたら、好きになっちゃったかもしれない。
けど、あたしを本気で好きでいてくれないシンジなんて、大っきらい。
710:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 14:46:34
>>708
じゃあ問題ない投下量教えてそれをまもってもらおうよ
投下もされてないのにいきなり隔離前提の話は作者に対して酷い
711:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 15:22:31
>>709
続きwktk
712:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 16:34:19
特別扱いなんかしなくていいだろ
それが駄目なら自サイト作るか投稿するかしかないね
713:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 17:08:37
N3マダー?
714:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 17:35:45
>>709
続きマダー?
715:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 18:18:17
>>536
書き始めて、LASじゃ無い気がして来たので、取りあえずLASエンドで閉めました。
マリとアスカの関係は実は興味があるんですがそれこそここでは違うので
あえて書きませんでした。別の小説スレッドに落とすネタを今練っている所です。
716:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 18:23:10
>>715
別のLASスレですか?
それか別のカプとか?
717:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 18:23:22
>>715
じゃあ次のはLASじゃないってことかな?
だったら残念だけど、頑張ってください
そしてまたLAS書いてくれたら超嬉しいです
718:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 18:30:15
>>716
アスカ×マリスレか、ノンジャンルかな?
良く考えたら、俺はアスカが好きなんであってLASは
二の次って気がしてきました。
アスカに幸せになって欲しいから、LASって言う事なんですよね。
719:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 18:31:47
別にそれは言わなくていい
720:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 18:35:51
ふ~ん。まあ仕方ないね。
とりあえず乙でした。
721:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 18:49:08
LASは二の次でしたとかLASスレでよく言えたなw
感想書いた奴とか楽しみにしてた奴の身になれよ…
まあでも作家さんは神様です。また別スレでも頑張って
乙
722:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 20:03:40
結局N3の件は?
ここでおk?
723:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 20:10:24
>>721
二の次って言う言い方は誤解をうけますよね。
個人的には、カブとは誰かを幸せにする方法論だと思って居ます。
それで、アスカを幸せにする為にはLASしかないと言うのが俺の
見解です。
724:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 20:22:25
式波惣流スレにあった旧新アスカが混在するSSで、
惣流が主人公なのに式波とシンジがカップルになったっぽいんだ。
LASなんだが微妙にLASでないような気がしてすげー複雑な気分。
仲人プレイっぽいのが救いだけど、厳密にはイタモノ(悲恋系?)に属するのかな?
725:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 20:24:14
>>722
N3が来ない事にはどうにもこうにも
726:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 20:24:21
RemembranceだってLASだってことになってるんだからそのくらいインジャネーノ
727:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 20:24:56
>カブと
おばあちゃんが言っていた…男にはやってはいけないことが2つある
女の子を泣かせることと、食べ物を粗末にすることだ
728:537
09/08/24 20:32:57
今回は大丈夫かと思ってたんですが投下すると荒れそうですね
少し時間がかかると思いますが、11の他にも書きためてるのが有るんでブログかなんかで公開することにしようかと考えてます。
今回は職人様&読者様お騒がせ致しまして申し訳ありませんでした。
729:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 20:36:14
>>728
スレ立てるから気にしなくて大丈夫ですよ?
なんなら投下してもらえた方が嬉しいですし
730:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 20:40:10
>>728
おお帰ってきてくれたか!お騒がせなんてとんでもないですよ。
投下スレ20立てますから、出来れば投下してもらいたいです。2ちゃんの方が感想も書きやすいです。
731:537
09/08/24 20:41:21
スレたてていただけるなら、私としてはそのほうがありがたいです。
お願いしてもよろしいでょうか?
732:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 20:44:47
>>731
>>671と同じスレタイでいいですか?
ソッコー立ててきますが
733:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 20:46:52
>>727
俺のおばあちゃんはこうも言ってた
「人が歩むのは人の道、その道を拓くのは天の道」
「絆とは決して断ち切る事のできない深い繋がり…たとえ離れていても心と心が繋がっている」
「たとえ世界を敵に回しても守るべきものがある」
「美味しい物を食べるのは楽しいが、一番楽しいのはそれを待っている間だ」
「人は人を愛すると弱くなる…けど、恥ずかしがることはない。それは本当の弱さじゃないから」
ってな
734:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 20:47:27
やめろボケブログで細々やってりゃいいじゃね~か
735:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 20:48:08
>>732
さんせー
736:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 20:50:49
絶対たてるなよ
どうしても投下したけりゃここにしろ!あらしてやるから
737:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 20:53:24
通訳プリーズ
738:537
09/08/24 20:54:31
スレタイはなんでもいいのでお任せします。
739:732
09/08/24 20:54:38
規制で立てれなかった…orz
誰か頼んます
740:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 20:56:19
>>739
バーカwwww
741:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 20:58:07
>>739
行って来ま
742:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 21:00:35
ドゾー
LAS小説総合投下スレ20【N3】
スレリンク(eva板)
743:732
09/08/24 21:02:05
>>742
ありがとw乙です
744:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 21:09:26
専スレみたいなの立てたのね。乙です。
じゃあこちらもマターリ投下待ちますか。
745:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 21:12:34
やっとこさ落ぢづくな゛
746:if
09/08/24 21:36:13
「空気クラッシャー」とか「栽培マン」とか言ってるけど、否定はせんよ
すいませんでした
747:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 21:37:13
よし、さっそく空気クラッシュしてくれ
748:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 21:38:43
>>746
消えてくれ
749:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 22:51:07
してるんだよ
「空気をクラッシュする」と言ったら既にそれは実行されているんだよ
750:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 23:08:26
うおっ
今夜投下しようかと思ってたけど、やっても大丈夫?
751:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 23:10:55
お願いしまつ
752:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 23:12:00
おk
たぶんまだだけど、そのうち投下します
あっちは使っちゃだめなんだよね?
753:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/24 23:15:25
ダメ。釣りだったぽいので次スレに使いましょうか
754:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/25 00:01:31
あれだけスレ消費させといて結局釣りとか
悪質ってレベル越えてるw
755:674
09/08/25 00:13:04
ばんわ
なんとか完結させたくて頑張っております
スピード重視で荒いと思うけど、すんません
よく考えたらサファリパークしか行ったことなかったわ!
・学園異性系イタモノ注意
・明るめ・・・?え?
NGワード キンモクセイ
756:キンモクセイ
09/08/25 00:14:25
髪を下ろして鏡の前で微笑む自分の姿は、いつもより大人っぽく見える気がした。
肩からさらりと髪が流れ落ちる。あたしの髪は今日も艶めいていて、相変わらず綺麗だと思う。
自分で言うなよ、なんて、またシンジにツッコまれそうだけど、事実は事実なんだからいいじゃない。
蜂蜜色に輝くこの髪は、ママではなくパパからもらったもの。
ママを捨てたパパだけど…、パパにもらったこの髪と青い瞳の色は自分でも嫌いじゃなかった。
サイドの髪を花の飾りのついたピンで止めて、最後に軽く色付きのリップを唇にひいた。
こんなもんかな?と、玄関にある鏡の前で一回転する。
クリームイエローのシフォンワンピースがふわりと蕾みを開くように舞った。
裾の短めのデニムジャケットを羽織って、足元にはキャメル色のブーツ。
赤い小さなポーチを肩にかけて、玄関の扉のスイッチに人差し指を近付ける。
…少し、甘すぎた格好かも知れない。コレじゃまるでデートに行くみたいじゃないの。
デート、と言う言葉にあたしは血の気が引いていくのを感じた。
何を考えてるんだろう、あたしは。いくら特別だろうと相手は友だちじゃない。
女を前面に押し出したような、こんなふわふわのワンピースを着る自分が急に汚らわしく感じて、あたしは慌てて翻った。
デニムパンツに着替えよう、と部屋へ戻るために一度履いたブーツに手をかける。
「んしょ、んしょ…」
なかなかブーツが脱げなくて、あくせくして。
「おはよう……って、なにしてんの?」
もたついている間に、シンジはすでにあたしの後ろに立っていた。
あたしはこの時ほど、自分がマヌケだと感じたことはない。
流れるように映り変わっていく、窓から見える景色。まるで映画のフィルムみたいだ。ビルばかり映したつまらないフィルム。
朝と言っても日曜日の電車の中に、平日のような混雑さはない。
他人の匂いの混じり合う電車独特の空気があまり好きじゃないので、ありがたかった。
出勤前のサラリーマンや高校生たちであふれ返る車内の臭いなんて、想像するだけで気持ち悪い。
幸いにも、休日らしく子供連れの家族とか、女の子同士のグループやカップルばかりで。
757:キンモクセイ
09/08/25 00:15:34
さすがに座席は空いてなかったので、あたしたちは仕方なく扉の前に寄りかかっていた。
ちらり、と横目で隣に立つシンジを見る。
シンジの着ているアーガイル柄の黒いカーディガン、前にも見たことあるやつだ。
カーマインの細身のパンツとの組み合わせはなかなか良いと思う。
そんなことより問題なのは、さっきからのシンジの態度だった。
両腕を胸の前で組んで、ずっと景色ばかりを見ている。
マンションを出たときから口数が少なくて、ぶっきらぼうで、なんだか変だ。
どこか億劫な眼差しを外に向けて、あたしを見ようとしない。
なんなのよ、一体…。
あたしはシンジから視線を外してため息をついた。
そのまま自分の服に視線を移してまたひとつ、ため息をつく。
結局着て来てしまった、シフォンのワンピース。可愛いと思っていた裾のフリルが今は恨めしい。
唯一利点があるとすれば、ふんわりとしたフォルムが身体の線を隠してくれて、
あたしを舐めまわすような視線が減ることだろうか。向かいの斜め右に座る若い男の人のように、単純に顔を赤くするだけで。
例外として、左側の優先席に座るハゲオヤジのようにスケベな視線を寄こすやつもいる。
睨み付けてやると、オヤジは慌てて目を逸らした。これだから電車は嫌いなのよ。
シンジと言えば、相変わらず窓の外を見ている。
その澄ました横っ面を叩きたくなったけど、さすがに公衆の面前では憚られるので、
ブーツの底でその足を踏んづけてやることにした。
「い゛っ…!」
踏まれた足を抱えこんで、シンジが呻く。
「なにすっ…」
「やっとあたしを見たわね」
シンジのマヌケな顔に向けてにっと笑う。
シンジがはっと目を見開かせて、ごめんと言った。
「これからふたりで遊びに行こうっていうのに、やめなさいよそんな態度。つまんないじゃん」
「ごめん…」
そう二回謝ったそばから、また目を逸らす。今度は俯いて。
あんたいい加減にしなさいよ、と叫びかけて、その前にシンジがぼそりと呟いた。
「…今日のアスカ…」
「なによ」
758:キンモクセイ
09/08/25 00:16:43
シンジが顔上げる。
「今日のアスカ、クラゲみたいだ」
もう一度、ブーツの底でぐりぐりと踏みつけてやった。
空は日に日に遠くなっていく。
おとといの雨の跡なんて微塵も感じさせないほどに、今日の天気は晴れ渡っていた。
雲は薄く、筋を描くように浮かんでいる。今日のあたしにはそれがだけが残念。
ふわふわとしたクラゲのような丸い雲が浮かぶ、初夏の空なら……もしかしたら、あたし飛べたかも知れないのに。
だって、あたしはクラゲ。ぷかぷか浮かぶクラゲ。
「ねぇ、シンジ。クラゲゾーンはどこ?」
「…すみません、動物園にはないです」
「ざんねーん。仲間に会いたかったのになあ!」
ペンギンはいるのに、クラゲがいないって不公平よね!
柵の下で、ペンギンたちもクエクエッって鳴いて同意してる。
そうよね。あんたたちも海の仲間が欲しいわよね。
「ごめんって…!クラゲだなんて、ほんの冗談だったんだよ」
ペンギンの柵から乗り出すように、シンジがあたしをのぞき込んでくる。
そんな必死にならなくても、別にそれほどあたしは怒ってない。
ふわふわクラゲのワンピース、なんて素敵なんだろう。女の子が、とてもデートに着ていくような服じゃないわ。
おかげで肩の荷が下りて、気が楽になった。
……もう二度と着ないけど。
「その、…戸惑って、つい、冗談言っちゃったんだよ!…だってアスカ、いつもと感じが違うから…」
「はぁ?なにがよ」
「……だから、その、可愛いって言ってんだよ!」
「はいはい、その手には何度も引っかからないわよ」
「ちがっ…」
759:キンモクセイ
09/08/25 00:17:32
図書室での一件は忘れていない。
シンジのからかいを軽く流して、動物園のパンフレットを開く。
「次は何を見・よ・う・か・なぁ~」
「アスカ…」
せっかく来たんだから、楽しみましょ!
そう言って、何か言いたそうにまごつくシンジの腕を引っ張って、あたしは歩きだした。
あたしの少し後ろを歩くシンジを引きずるようにして、ずんずん先へ進む。
「次はキリンを見るわよっ」
「はぁ…りょーかい」
日曜の動物園は家族連れが多くて、はじけるような子どもたちのはしゃぎ声に溢れていた。
けれど、遊園地のような騒がしさやせわしさはなくて、動物たちに合わせて時間はゆっくりと流れていく。
ただ動物を見ているだけなのに、不思議に楽しくて。
あたしは子どものようにはしゃぎまわった。
「シンジ!見て!あいつシンジにそっくり!」
指差した先には、ぼけっとしたマヌケ顔の毛むくじゃらが何匹も。
水辺でぼーっとしたままさっきから何も動かない。
「どこが似てるんだよ、カピバラじゃないか!」
どうやらこいつらが、カピバラとか言う世界最大のネズミらしい。
何をもってネズミとされているのかは謎だけど、くりくりとした大きな黒い瞳はとても可愛い。小さいころのシンジみたいね。
カピバラに似てると言われるのが不満らしくて、シンジは眉を寄せてむっつりとしている。
「あ…でも、泳ぎが得意って書いてあるわ。そこはシンジと違うわね」
「悪かったな、カナヅチで」
「ほら見て!気持ちよさそうに目を瞑る表情なんて、ほんとマヌケで笑えるわ」
くすくすと転がるようにあたしが笑うと、シンジはさらにむくれた。
お返しとばかりにニホンザルのゾーンで、あの子猿アスカに似てるねって、
キーキーと人一倍(猿一倍?)うるさい猿を指差してシンジは悪戯っぽく笑った。
そんな風にからかったって、今日のあたしは動じないわよ?
だって、おサルじゃなくてクラゲだもの。
残念ながら、おサルのマスコットはうちのベランダで日向ぼっこしてるのよ。雨でびしょびしょに濡れちゃったから。
そう言ってやったら、シンジはつまらなさそうに口を尖らせた。
760:キンモクセイ
09/08/25 00:18:48
ゾウやキリンやチンパンジーみたいに、サービス精神旺盛に子どもたちの相手をする動物たちもいれば、
ライオンなんかはのべっとしてお腹を上に向けてダレているだけ。
集団でお昼寝する姿なんてとても百獣の王に見えなくて、これじゃ百睡の王ねと、シンジと笑い合った。
「あと、なに見てないっけ?」
園内のレストランでお昼をとっている時に、シンジが牛丼を頬張りながら聞いてきた。
あたしは、シンジに奢ってもらったミートスパゲティのフォークを置いて、パンフレットを取り出す。
それほど大きな動物園ではなかったので、もうほとんど見てまわってしまっていた。
「えっと…パラダイスゾーンって、珍しい南国の鳥とか……あと、意外にもトラを見てないわ」
「トラ?メジャーなの忘れてたね」
パラダイスゾーンはレストランのすぐ近くにあった。背の高いガラス張りの大きな建物の中に、
まるでジャングルのように鬱蒼と木が繁っている。
中は温室になっていて、デニムのジャケットが少し煩わしく感じた。
「わあ…!綺麗!」
ほんとうに綺麗だった。赤や白、黄色に青色、色とりどりの鳥たち。
すごく尾の長いのもいれば、バナナのような長いくちばしを持っていたり、
自分の体と同じくらいに大きな、そしてカラフルなくちばしを持っている鳥もいた。
シンジも目を輝かせて、そんな鳥たちを見ていた。
「パラダイスっていうの、分かるよね。本当に楽園みたいだ」
シンジの言葉に、あたしも頷く。
「見て見て!フラミンゴもいるわよ!」
道なりに進んだ先の大きな池に、サーモンピンクに色づいたたくさんのフラミンゴたちが群れをなして立っている。
実物で見るフラミンゴは思ったよりも大きくて、あたしと同じくらいの身長はあった。
棒みたいなあんな細い足で、どうして大きな体を支えてられるのかが不思議でたまらない。
「綺麗ね…でも、フラミンゴって渡り鳥じゃなかったっけ?」
テレビの動物番組で、そんなことを言っていた気がする。
湖から湖へと自由に旅するフラミンゴ。でもその旅の理由はまだよく分かっていないと、その番組の学者が言っていた。
美しい羽を広げて、群れをなして飛ぶ姿はきっと美しいだろうな。
761:キンモクセイ
09/08/25 00:19:47
「…ここの鳥たちや動物たちは、どこか違うところへ行きたいとか思わないのかしら」
「今のままで彼らが幸せなら、それでいいじゃないか」
どこへも行く必要なんてないよ。
そう呟くシンジの目は、どこか遠くを見つめているようだった。
「シンジ君っ!?」
若い、女の声だった。聞き覚えのある、少し高めの可愛らしい声。
突然呼ばれたことにびっくりして、あたしたちは慌てて振り返った。
「あーやっぱり!!シンジ君だ!ひっさしぶりだねぇ♪」
あたしの胸がズキリと痛む。
あの時と変わらない、子犬のような人なつこい笑顔の。あの女。
「マナっ!?」
シンジが驚きに声を高くした。
霧島さんがシンジに駆け寄って、後ろで腕を組みながら媚びるように覗きこむ。
「背、高くなったねー。見違えちゃった!」
「どうしたんだよ!?こんなところで!?」
「ん?私もデート」
後ろに、背の高い男の人の姿が見えた。浅黒い肌をした、体格のいい、野生的な感じのする人だ。
シンジとはまるで正反対の。
「ところで、元気にしてる?」
「まぁまぁだよ」
見れば分かるじゃない、とあたしは心の中で愚痴をこぼす。
彼氏が後ろにいるっていうのに、どうしてこんな風に違う男と親しく話せるんだろう。
「卒業以来だから、一年半ぶりだねっ。シンジ君、違う高校に進学しちゃったからさ」
「マナも元気そうでよかったよ」
「元気だよぉ、私の取り得だもん。シンジ君、ここにはよく来るの?」
「ううん、初めてだよ」
あたしはなんとなく疎外感を感じて、話し込むふたりに背を向けた。霧島さんがあたしに話しかけないのは仕方ない。
中学時代、仲の良い関係でもなかったし。それに、今さら親しく話しかけられたって困る。
ぼんやりと、フラミンゴたちを見つめる。その中の二匹が、仲の良さそうにくちばしをつつき合っていた。
762:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/25 00:20:48
「あたしはよく来るんだよ。動物、好きなの知ってるでしょ?今日は部活も休みだから久しぶりに…」
「それよりさ、ムサシ君が怒っちゃうよ」
シンジの声に拒絶の色を感じて、あたしは驚いて思わずシンジを見る。
冷たい色だった。怒りなのか無関心なのか、あたしには分からない。
「あ…そうだね、ごめん」
霧島さんの表情が、あの笑顔から急に真顔に変わった。あたしをちらり、と見る。
「やっぱり、あなたたち付き合ったんだね」
「そうだよ」
…なんですって!?
すぐさま、そう答えたシンジの言葉にあたしは動揺した。
胸の痛みと、どきどきとがいっぺんに来て、あたしが戸惑っている間に。
霧島さんの方が先に、口を開く。
「…そっか。良かったね、シンジ君。じゃあねっ、シンジ君に惣流さんっ」
最後に調子を取り戻しながらそう言葉を残して、彼氏の待つ方へと行ってしまった。
ふたりで腕を組んで、寄り添うようにして、その後ろ姿は気がつけば小さくなっていた。
「男のつまらない意地に巻き込んで、ごめん」
「…サイテイね。冗談でもやめてよ、そんなウソ」
「…ごめん」
つまらない意地。男の意地。
元カノの前で見栄を張りたいからって、あたしを利用するのはやめてよ。
あたしの心をこれ以上かき乱すのはやめてよ。
ずっと昔に諦めてるのに、忘れたふりをしてるのに。
あたしは、あんたと友だちでいたいのに。
少しでも嬉しいと感じている自分が、たまらなく嫌だった。
「ねえ、シンジ。好きだったひとに、今彼氏がいるってどんな気持ち?」
「別に。好きなひとがいるから、関係ないよ」
ほんと言うと、少しフクザツだけど。
そう言って、シンジはふっと苦笑いした。
好きなひと、シンジに好きなひと…。3年前のあの時と同じように、シンジに告げられた。
でも大丈夫。今のあたしはちゃんと笑える。
763:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/25 00:22:45
この状況で投下する厚顔振りがエライw
764:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/25 00:24:57
キター!支援
765:キンモクセイ
09/08/25 00:28:35
それなのに日に日に弱っていって…最後には死んでしまった。
「猫にね、牛乳はあげちゃだめだったのよ。消化不良を起こして、下痢になっちゃうから」
ミルクを飲んだあと、子猫はいつも下痢をしていた。
「アントンは…きっと、脱水を起こして死んじゃったのね。あたしたちが毎日毎日、少しずつアントンを殺していたのよ」
シンジに慰められながら、あたしはわんわん泣いた。自分が殺してしまったことも知らないで。
「知らなかったんだから仕方ないよ、僕たち子どもだったんだから…」
知らないって残酷よね。
知らないことで相手を傷つけて、時には殺してしまう。
そこに例え、優しさや愛情があっても。
とりあえずいじょう。
すんません。はやく終わらせたくて。
>>524
男女間の友情はありえるのか?ってのは疑問でもあったり希望でもあったり。
いちお、モデルとなる友だちがおります。その子らは仲いいけど。
恋愛ってむつかしいね!
ちなみに、温室にいるフラミンゴは渡り鳥じゃないヤツだよ!
766:キンモクセイ
09/08/25 00:29:46
「あんた、好きなひとが出来たんだ」
フラミンゴの前の柵に体をもたれかけて、あたしは笑った。心から歓迎するよに。
「ずっと…いるよ」
遠くを見つめて。
「だから、好きなひとに恋人がいる苦しみなら、よく分かる」
シンジの言葉に、あたしは小さく息をのんだ。
あたしと、一緒だ。
「あたしもよく分かるよ、シンジ」
シンジは瞳を伏せて、そっかと呟いた。
檻の中のトラは、さっきから左へ行ったり右へ行ったり。
あたしたちから視線は外さないで、こっちに顔を向けたまま何度も往復してる。
「変なの。これって警戒してるの?」
とあたしが聞くと、シンジは、
「歓迎してるのかもよ」
と返した。
あたしがあんまり美人だから、トラも嬉しがってるのね。
あたしがそう言ったら。シンジがいつも通り、自分で言うなよと返してくれる。
いいのよ。自分で言ったって。
自分の魅力を自覚しない人は、それだけ周りを不幸にするのよ。あんたみたいにさ。
「ねえシンジ、このトラ見てたら…あの子猫のこと思い出さない?」
「アントンのこと?」
幼いころにふたりで拾った、キジトラ模様の小さな子猫。
大人たちには内緒で、ふたりで育てようってあたしが言ったの。
大きなダンボールにその子を入れて、近所の廃材置き場に隠して。
学校の帰りいつも寄っては三人で遊んでた。
こっそり持って帰った給食のミルクをふたりであげて、
一生懸命ミルクを飲む子猫を見ながら、はやく大きくならないかなぁってふたりでわくわくしてた。
たくさんたくさんミルクを飲む子猫。
あんなに元気だったのに。あんなに可愛がってあげたのに。
767:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/25 00:31:08
>>765
何か数レス飛んでる気が...
768:764
09/08/25 00:32:51
すみません…ぬけてました…
>>762の次は>>766です
ほんとすみません…
あと、完結すると思ってたかたすみません…
クライマックスまだですすみません…
769:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/25 00:33:26
>>765
>>766
順番逆かな?
770:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/25 00:33:33
イタモノってその雰囲気だけが勝負なんだから、イタイ描写を織り交ぜないと見かけ倒れw
771:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/25 00:36:03
>>768
GJ!二人の微妙な距離感や心のすれ違いが切ない
772:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/25 00:44:48
キンモクセイきたか!相変わらずGJです
773:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/25 01:25:32
>>770
誰に言ってるんだか良く分からん
774:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/25 02:09:04
あぁぁキンモクセイさん常々GJ!
もうもどかしすぎるww
775:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/25 03:09:20 FTF+L7ej
あ、投下するんだ
よかったよかった
776:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/25 03:38:32
キンモクセイきとるーーー!!
毎度GJすぎる!そして切なすぎる。
続き楽しみに待ってます!
777:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/25 15:19:00
gj!
ちょうど秋に差し掛かったいま、キンモクセイさんの文が余計に切なさを感じます!
アスカが報われれば良いなぁ。
778:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/25 17:19:50
やっぱこのスレはこうじゃなくちゃな。GJです
>>777
ウチはまだまだ夏真っ盛りだわw
779:ふぅ。
09/08/25 17:50:54
そんなことを考えてる間も、ヤツはすやすや寝てる。
なんだかばからしくなってきた。
「…早く寝よう」
「アスカー、シンジくーん!ほら起きて!!」
「ママ!」
「…おばさん?」
「もぉ~、二人で仲良く寝てるもんだから起こしたくなかったけど…遅刻、しちゃうわよ?」
「そっかぁ。もう朝なんだね。そういやアスカもう大丈夫なの?」
「ぴんぴんしてる!けど一応熱計ってなかったら学校行く」
「アスカ、風邪ひいてたの!?なんでママに連絡しないのよ!」
「忙しいって言ってたんだもん。それに…昨日はシンジが来てくれたしね」
「もう、子供が親に変な気を使わなくていいのよ!
てっきり昨日は二人で…」
「もう!変なこと言わなくていいのよ!!」
「ふふ、照れなくてもいいじゃない。朝ご飯、作ったから食べてね。ほら、シンジくんも。」
「ち、違うわよ!!」
「あっはい…、ありがとうございます」
780:ふぅ。
09/08/25 17:52:30
「ママぁ、あたし牛乳やだぁ」
「だめだよアスカ、ちゃんと飲まないと身長伸びないよ。」
「あんたに言われたくないわよ!ちびのくせに!」
「…シンジくん、昨日はありがとうねぇ。
あんなこと言ってるけど、本当はアスカはシンジくん大好きなのよ。」
「そんなことないと思いますけど…」
「そうよ!ママ?いい加減なこと言わないで!
あたしはもぉーっとおっとこらしい人が好きなんだから!」
「あらぁ、こんなにアスカの面倒みてくれる人いないわよ~。」
「違うわよ、あたしがシンジの面倒見てやってるんだから!」
「ほ、ほらぁ!早く学校行かないと…」
「あんた、教科書とか家じゃないの?」
「ちゃんと持ってきといた。ここに来る前に時間割とかも合わせといたし。」
「そっか。」
「じゃ、いってきまーす!」
「おばさん、ごちそうさまでした!」
「はいはーい、じゃ気をつけてねぇ~」
781:ふぅ。
09/08/25 17:53:34
「はぁ~…眠たい」
「昨日眠れなかったの?」
そうよ、あんたのせいよ。
「そりゃあ、シンジが隣で寝てるなんて気持ち悪くて寝れないわよぉ~
ずっと寝言で「アスカ、アスカ…」って言ってるんですもの。」
「…えっ!?本当にそんなこと言ってた!?」
まさかコイツ、思い当たる夢でも見てたのかしら。
「今日さっそくヒカリとそれをネタにでもしようかしら!」
「ちょ、ちょっとやめてよアスカ!!」
「じゃあどんな夢見てたのか白状しなさい!」
「…いやだよ」
「なに!?じゃああんたが小学校三年生になってもおねしょしてたことも
みんなに言ってやるんだから!」
「そんなぁ…言っても蹴らないでよ?殴らないでよ?」
「…なに?」
「えーっと、たぶん、アスカがお嫁さんになった夢。」
「きもちわるーい!変なこと言ってないでさっさと行くわよバカシンジ!!」
782:ふぅ。
09/08/25 18:14:13
そう言って走ると、風が思いっきり髪をかきあげた。
にやついてんの、ばれちゃう。
でもこんな自分も嫌いじゃない。
夢、どんなだったんだろう。
幸せだったのかなぁ?
こうやって、ずっとあたしを追いかけて。
今はまだ、なにも言わなくていいから。
783:ふぅ。
09/08/25 18:19:42
とりあえず、塾行ってきます!
あと、関西出身です。
二学期制なんで始まるのちょっと早いんですよ。
読んでくれている方本当にありがとうございます!
では本当に行ってきます。
784:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/25 18:39:50
>>783
GJ!看病モノのほのぼのLASだね
会話の間に地の文をもうちょっと入れると描写がもっと深くなる気がする
785:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/25 18:48:17
>会話の間に地の文をもうちょっと入れると描写がもっと深くなる気がする
まあ、そうかもしれないけど、これはこういう作風なんでしょう。
今さら変えるのも変だろうし。
地の文ほとんど入らないのに名作ってことになってる作品だってあるわけで。
実際、3人以上の会話を会話文だけでつないでいくのって、けっこう技ですしね。
(まあ、技だからうまくいかないことももちろんあるでしょうけど、チャレンジしなけりゃうまくもならないですし。)
786:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/25 19:06:00
>とりあえず、塾行ってきます!
>あと、関西出身です。
>二学期制なんで始まるのちょっと早いんですよ。
これは書かなくてもいいだろ…どうして夏は誰も彼も聞いてもないのに(ry
787:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/25 19:20:04
GJです!2人とも可愛ええのぉ~
ちなみにまだ続くんだよね?それか終わり?
788:名無し
09/08/25 19:30:17 ZLcU98An
LAS大好きだけどアスカがシンジ君以外に抱かれるのは絶対に嫌!
絶対に嫌!
惣流アスカと碇シンジが幸せでありますように
789:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/25 19:47:23
あげんなよ
790:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/25 20:04:47
キンモクセイとふぅ。GJ!
あとは入れ替わりの投下待ちか・・・
791:if
09/08/25 22:38:33
キンモクセイさん最高
792:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/25 22:46:39
お前は書き込んでる暇あったら35冊の小説さっさと全部読めよw
793:if
09/08/25 23:00:09
+7冊
794:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/25 23:02:39
>>793
だったらなおさら読めよww
795:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/25 23:03:56
>>793
もうすぐ夏休み終わるんだし、早く宿題すませとけ
796:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/25 23:05:22
>>793
ワロタwww
なんでその面白い返し技がSSで出ないんだw
797:if
09/08/25 23:07:49
すいません、ハートマン教官
798:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/25 23:22:55
↑よ。どうでもいいがSSを投下しる!
799:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/26 00:29:47
ifは「出来の悪い子程かわいい」の典型だなw
800:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/26 00:38:37
ずっと軒亜って人とifが同一人物だと思ってたw
801:674
09/08/26 08:37:23
おはよう
軽くスレ独占状態ですみません
8月中に終わらせたくて、もうスピードだけでがりがり行ってます
プロット通りに進んでるのかよー分からん状態で…
たぶんもうすぐ終わります。
・異性系イタモノ注意
・異性絡みアリ!
・痛い?のかな?よーわからん
NGワード キンモクセイ
802:キンモクセイ
09/08/26 08:38:24
「碇」と書かれた表札に描かれた天使の絵と2~3秒ほどにらめっこしてから、あたしは息を吐いた。
開閉ボタンを押すと、シュッという空気音を立てて玄関の扉が開く。
「おーはよっ!シンジ、準備出来た?」
名前を呼んだ相手ではなくて、奥から出てきたのはおばさんだった。
これはいつも通り。
「おはよう、アスカちゃん」
「おはようございますおばさん。シンジ、起きてる?」
「いつもいつもごめんなさいねぇ…」
おほほ、と口元に手をかざしてすまなさそうに笑って。
「シンジ!早くしなさい!」
そう叫ぶおばさんも、いつも通り。
わかってるよ!、と奥からシンジの声とともにバタバタと足音が聞こえてくる。
10年以上続く、このあわただしい早朝。
変わらない光景に呆れるけれど、ほっとする。
「おはよう、アスカ」
「Guten Morgen!シンジ!はやく行こっ」
今日の朝は特に寒い。
一面に広がる灰色の雲が、太陽を隠してしまっていた。
同時に、冷えた空気の中に湿っぽさを感じる。
「今日、雨降るかなぁ」
シンジが空を仰いで呟いた。
「天気予報は午後から晴れるって、そう言ってたわ」
そう言いながらも、あたしも一応傘は持ってきていた。
あのお気に入りの赤い花柄の傘。
「テレビと天気予報だけは信じるなって、父さんが…。ま、いいか。傘はあるし」
ほら、と自分の自転車のハンドルにかけてある透明傘を指して、シンジが言った。
「傘さし運転は違法よ」
803:キンモクセイ
09/08/26 08:39:47
「どうせ乗らないよ」
その言葉の通りで。
今だって自転車があるのに、シンジは乗っていない。
あたしが歩く隣で、自転車を引きながら一緒に歩いているだけだ。
たまのたまに、ふたり乗りで通学する日もあるけど。
もちろん、先生にバレないように校門の手前で降りるようにしてる。
「昨日、楽しかったわね」
動物園を出たあとに、時間が余ったからふたりでカラオケに行って、そのあとご飯を食べて。
あの女と会ってからは陰鬱な感情が尾を引いていたけど、そういう感情を誤魔化すのには慣れてる。
それに動物園自体はすごく新鮮で楽しかった。
シンジがずっと一緒だったってのもあるし、
生で動物を見るのがあんなに面白いなんて思わなかった。
動物園が初めてってわけじゃないけど、
前に行ったのはすごく幼い頃のことで…あまり覚えていないから。
あたしがまだドイツにいた頃に行った、ベルリンの動物園。
パパとつないだ手のひらの大きさだけが、記憶にかすかに残ってる。
「サルもいいけど、特にカピバラ!あたし、また見に行きたいわ」
あたしの言葉に、シンジが心底嬉しそうに微笑んだ。
「良かった。水族館にするかどっちか迷ったんだけど…あっ」
シンジがはっとして、口を押さえる。
迷った?
どういうこと?
「き、昨日のさっ。帰ってからテレビでやってた映画見た?
シュワルツェネッガー大統領の若い頃が出てるやつ。
燃え盛る白い別荘をバックに歩く、上半身裸のシュワちゃんがー…」
「シンジ?」
「…M60片手に次々と敵を蹴散らすシーンはいつ見ても―…」
「シンジ!誤魔化さないでよ!…迷ったってどういうこと?
新聞屋さんにもらったんじゃないの?」
黙り込むシンジ。
あたしがシンジの前に回り込んでじっと見つめると、目を泳がせる。
804:キンモクセイ
09/08/26 08:40:33
「………」
「………」
しばらくして、観念したようにシンジが小さく口を開いた。
「…新聞屋のお兄さんが洗剤をくれたのは本当だよ」
「動物園のチケット、あんたが買ってくれたのね」
「………」
シンジがまた黙り込む。
「…どうしてウソついたの?」
あたしは責めてるつもりはかった。純粋に、疑問だった。
どうしてわざわざウソついて。
そんな必要ないじゃない。
それなのに、シンジは眉間にしわをよせて、むっと表情を強張らせて。
「別ににいいだろっ」
強く言い放って、自転車のサドルにまたがる。
「シンジ!待ちなさいよ!」
あたしを避けて、あたしの声も無視して、シンジは自転車をこぎだした。
「…なんなの」
みるみるうちに背中が遠くなっていく。
あたしは茫然と、その場に立ち尽くした。
学校に近づくにつれ、生徒の数は増していく。
登校する生徒たちの波の中で、あたしはひとり歩いていた。
いつもは気にならない周りの騒がしさも、この時ばかりは煩わしいものでしかない。
特に五月蝿い女の子たちの集団から距離を置いて、あたしは歩みを急がせた。
シンジはほんとうに先に行ってしまったんだろうか。
学校に着いてすぐに、自転車置き場を覗く。
そこに、シンジの紫の自転車を見つけた。
なんなのよ、ムカつく。勝手に怒ってあたしを置いて行っちゃってさ。
…問い詰めてやらなきゃ。
805:キンモクセイ
09/08/26 08:41:52
「アスカ」
後ろからかけられた声は、あまり聞きたくない声だった。
一瞬ためらって、仕方なく振り返る。
また怒ったように眉を釣り上げて、目をギラギラさせたあいつがいた。
「昨日、なんで電話に出なかったんだ?」
「家に忘れてのよ。ずっと出かけてたから」
それは本当のこと。
家へ帰って着信履歴を見て、ウンザリしてかけ直さなかったのも本当のこと。
「ウソつけよ!」
「ウソじゃないわ」
「どうせまた、碇といたんだろ!碇がいるからオレを無視して…」
「そうよ、悪い?あたし、シンジの方が大事なの。
こないだのことなら、単なる気まぐれよ」
あんたなんか比べものにならないほどずっとずっとずっと、大事よ。
「でもね、友だちなの。シンジは。それが分からないなら、あんたとあたし」
別れましょ。
そう言い切る前にチャイムが鳴る。
「悪いけど、先行くから」
あたしを呼び止める男を無視して、あたしはその場から走り去った。
あいつはもうダメだ。
あたしを求めすぎてる。
こんな、つまらないあたしに執着しすぎてる。
あいつをこれ以上不幸にする前に…はやく別れてしまおう。
806:キンモクセイ
09/08/26 08:42:40
「進路希望のプリント、今週中にちゃんと提出しておけよー。分かってるなー!」
教壇の前の担任の言葉で、あたしは白紙のままのプリントの存在を思い出した。
「お前ら2年の後半にさしかかってんだからな、ちゃんと真剣に考えろよ」
結局シンジは京都にしたんだろうか。
あれからシンジと進路の話はなにもしていない。
あれからずっと、ウソをついたままだ。
…あたしはドイツへ行かないってことも、ちゃんと伝えようと思う。
そのためにも、早くシンジと話をしなくちゃ。
2時限目の数学が終わったあと、あたしはシンジの姿を探しに教室を出た。
シンジが籍を置くクラスは、あたしの教室のふたつ隣にある。
朝の態度を問い詰めてやろうと意気込んで、あたしはシンジの教室へと乗り込んだ。
窓際の後ろの席で、男子生徒と談話するシンジの姿を見つける。
周りで起こる騒がしい男の声を無視して、あたしはシンジへつかつかと歩み寄った。
シンジもあたしの姿に気づいて、途端ばつの悪そうな顔をする。
「ちょっと来て」
シンジの腕を引っ張って、あたしたちは教室を出た。
そのままシンジを引きずるように廊下を歩いて、階段を上って、その先の屋上へ出る。
「…なんだよ」
あたしが腕を放すと、シンジがふてくされたように呟いた。
外はまだ曇っている。湿気を含んだ冷たさが、あたしたちを包み込む。
「朝のあんたの態度、あれなんなの?」
シンジの態度にむっとして、あたしはつい強い口調で言ってしまった。
「あたしを置いて、勝手に先に行っちゃって!」
「…それについては謝るさ」
「別に謝らなくていいわよ!あたしは、あんたがなんで怒ったのか、それが知りたい」
「アスカは別に知らなくていいよ」
807:キンモクセイ
09/08/26 08:45:35
なによそれ!
あたしは叫んでいた。思いのほか大きな声が出てしまって、自分でも驚く。
「僕には僕の意地があるんだよ!」
今度はシンジが叫んでいた。
あたしを睨みつけて、こんな強い目をするシンジは初めてだった。
あたしは思わず息をのむ。
「…昨日言ってた、男の意地ってやつなの?」
あたしの問いに、シンジが首を横に振る。
「違うよ、僕の意地だ。ほんとうにつまらない、クソ食らえな意地だ!」
「シンジ…?」
「何度捨てようと思ったか!…そのたびに自分を戒めて、また意地を張って。
僕だって、このままでいられるならそれでいいと思ってたさ。
ずっとこの日が続くなら、それでいいと思ってたさ…。
…ありえないと分かってはいても…それを信じていたのに…
……でも、君があんなことを言うから…」
言葉を繋ぐたびに、シンジの声は掠れて小さくなっていって。
―…お願いだから、どこへも行かないでくれ……アスカ
最後の言葉は、あまりにも小さすぎてあたしには聞こえなかった。
ただ、シンジのその弱々しい姿に、シンジの本当の姿を垣間見た気がして…。
たまらなく愛しくて、あたしはそんなシンジを抱きしめたくて。
でも、出来なかった。そんな資格はあたしにはないから。
うなだれるシンジを、あたしは静かに見つめ続けていた。こみ上げる痛みに胸を押さえながら。
「…なんてね、別に最初から怒ってなんかないよ」
しばらくして、顔をあげたシンジがにやっと笑う。
「アスカ、もうそろそろ戻らなきゃやばいんじゃ?僕のクラスさ、次の授業英語なんだよ」
ただでさえ目付けられてんのにそのうえ遅刻したらマズいって!
さっきの弱々しい姿なんてかけらも見せないで、なんでもないよ、と笑って誤魔化してる。
あたしは、こんな風に笑う誰かを知っていた。それは、……あたし自身だ。
808:キンモクセイ
09/08/26 08:46:39
放課後。静まり返った教室の中で、あたしはひとり窓の外を見ていた。
その不安定さが秋を象徴するように、午後の天気は雨へと変わっていた。
銀絹の糸のように、静かに滴り落ちる雨を見ると…シンジのチェロを思い出す。
柔らかで、穏やかで、そして悲しげな。
あんなに苦しそうに言葉を吐くシンジを見るのは初めてだった。
あたしの知ってるシンジは、バカで、でも優しくて、いつも明るく笑ってて。
あの女と別れたときだって、意外にもあっけらかんとしていて。
落ち込むシンジを慰めてやろうと目論んでいたあたしは、そんなシンジに拍子抜けした記憶がある。
…シンジは、何かに苦しんでる。
どうしてかは分からない、それが何かは分からない、でも、なぜか知るのが怖くて。
知ってしまうと、あたしたちが終わってしまうような予感がしたから。
ふと、ポケットの中でケータイが振動していたのに気付いた。
急いで取り出す。
…あいつからの着信だ。
画面を開いて、通話ボタンをすぐに押した。
ちゃんと話をして、別れよう。
「もしもし?」
そう決心して、あたしはケータイに耳を当てた。
あたしの声に、雰囲気に。
あいつも、あたしが何を言い出そうとしているのか察したんだろう。
あいつは何も言わず、あたしたちの間には重苦しい空気が流れて。
まだ学校にいたあいつに呼び出されて、
あたしたちは屋上へ出る扉の手前で向かい合って立っていた。
外には雨が降っているから出られない。
扉の前は6畳ぐらいのスペースになっていて、
モップやバケツなどごちゃごちゃと色んなものが倉庫のように置かれている。
そこに置ききれないものは、階段の方まであふれていた。
809:キンモクセイ
09/08/26 08:47:27
ホコリと湿気の混じり合った嫌な臭いがする。
沈黙と、臭いと、目の前の男に、あたしはため息をついた。
屋上側の壁にもたれながら、静かに話を切り出す。
「…あたしたち、別れましょ」
「なんでだよ!!!」
叫ぶあいつの姿を、あたしは冷めた目で見る。
ダメなのよ、もうあんた。
「あんた…あたしを求めすぎたのよ。最初から分かってたでしょ?
あたしはただのダッチワイフ。キスもいい。セックスもいい。
けど、それ以上求めたって何も返ってこないって」
あたしがあんたと付き合ったのは、あんたがそれを理解していると思ったから。
体だけの関係に満足する男だと思ったから。
「あたしも、あんたを利用してるだけなのよ…サイテーよ、こんな女」
「それでもいい、俺、お前が好きなんだ」
だめ。
そんな関係フェアじゃないわ。いくら想ってくれたって、あたしはあんたを絶対好きにはならないのよ。
何も与えることなんで出来ないのよ。
「ばっかじゃないの?
…あたしはあんたなんか、これっぽっちも好きじゃない!
ただの飾りよ、マスコットよ!」
あいつの目が、あたしを睨むように見据える。
「…碇だろ。お前…碇が好きだからっ」
「そうよ」
あたしが肯定したことに、さらに視線をキツくして。
「好きで好きでたまらないわ!ずっと前から大好きよ!本当はあんたじゃなっ」
最後まで言い終える前に、
伸びてきた腕に肩を捕まれて無理やり唇を重ねられた。肉と肉のぶつかり合うだけのキス。
けどね、あんたと別れるのに…シンジは関係ないわ。
ただのあたしの都合よ。
810:キンモクセイ
09/08/26 08:48:18
あたしは目を開いたまま、目の前にある男の顔を見つめる。
焦りに汗を浮かべながら目を瞑る男の顔は、とても滑稽に映った。
やっと唇を離した男に、あたしは冷たくこう言い放つ。
「これで満足した?もう終わりにしましょ」
「っ…!!」
逆上した男があたしの腕をひねりあげて、そのままあたしを壁に押し付ける。
ぐぅっと、痛みに声が出た。
あたしの首筋を舐めながら、スカートを捲り上げて太ももが露わになる。
下着の中に侵入してきた男のゴツゴツした指が、あたしの中心を弄ぶ。
太ももに男の固くなりつつあるモノを感じながら、どこか醒めていた。
あたしは人事のように今の自分を状況を見て、
これって、犯されるって言うのかなあ、なんて暢気に考えた。
「…っ…あっ…ん…」
体は正直なもので、心は別にあっても悦を感じて少し反応したらしく、息が漏れる。
かちゃかちゃとベルトを外す音が響いた。
ガタッ
下から物音が聞こえて、はっとした。
階段のところで、よく見知った黒い瞳と視線がぶつかって。
とても綺麗で、大きくて、少しタレ目がちの。あたしが大好きなひとの瞳。
―シンジ!!
「うおっ」
あたしに絡みつく男の股間を蹴って、肩を突き飛ばした。
呆然とあたしを見やるシンジの横をすり抜けて、あたしは走った。
後ろで、モップやバケツが倒れて大きな音をたてた。誰かがあたしを呼ぶ声がする。
そんなのおかまいなしに、あたしは走った。
811:キンモクセイ
09/08/26 08:58:15
呆然とあたしを見る、見開かれた黒い瞳。
その瞳の中に、愉悦に喘ぐあたしの姿が、はっきりと映っていた。
シンジに見られた。見られてしまった。
女としてのあたしを、汚れたあたしを、あんな形で見られた。ずっと隠してきたのに!
その事実が頭の中をぐるぐると駆け巡って、あたしを締め上げる。
一番シンジに見られたくなかった姿、そして、一番シンジにさらけ出したかった姿。
あたしは怖かった。
これをきっかけに、何かが変わるんじゃないかって。
そしてそれはあたしにとって、終わりへの始まりでもあったから。
とりあえず以上です
まだありますけど、規制されてるのですみません
ほんと長くて申し訳ないです
812:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/26 09:06:13
GJ
続き気になる
813:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/26 09:21:36
GJっす!
あとどれぐらい?
814:674
09/08/26 09:31:33
書き込めるかな?
>>813
ラストまではまだ書いてないです。
プロットは出来てんだけど、どうにも脱線しがちで。
あんま関係ないけどシンジがツンデレ気味だったのは、
本当に好きな相手にはちょっとツンデレしちゃう本編シンジから。(→父さん)
じゃ、さっきの続きいきます
NGワード キンモクセイ
815:キンモクセイ
09/08/26 09:32:17
朝の太陽のまぶしさも、ひんやりと落ち着いた空気も、テレビの中で元気に喋るアナウンサーの声も。
すべてがあたしを憂鬱にさせる。
新しい一日が始まったからって、すべてがリセットされるわけじゃない。
昨日のことを思い出して、あたしのさらに憂鬱になった。
あの後すぐに、あたしはひとりで家に帰ってすぐに熱いシャワーを浴びた。
汚いあたしを洗い流して、シンジに見られたという事実を、すべてを無かったことにしたくて。
普段ならそれで気分が晴れて、いつものあたしが取り戻せるはずなのに。
…都合よくいかないものね、ほんと。
その後、夕飯も食べないでずっと部屋に篭って、毛布に包まっていた。
ママがいなくて良かったと思う。
今週はずっと研究所に詰めっぱなしで家には帰ってこないから。
ケータイの画面を開いて、ママにおはようのメールを送信する。
ごめんなさい、ママ。
あたし今日、学校をサボるわ。
ケータイの履歴には、あいつの名前もシンジの名前も無かった。
昨日の雨がウソみたいに、窓から見える空は澄んでいて。
あたしが知ってる空の中では一番の高さだった。
やることもなく毛布にくるまりながらソファに寝そべって、ぼんやりと見知った天井を見つめる。
どうやってシンジに言い訳しよう、
どう誤魔化そうといくら考えても、何も思い浮かばなくて。
むしろ考えれば考えるほどに、
それが鎖のようにあたしを絡めこんで、深い海の底へ沈めようとする。
毛布を頭まで被って丸まって、あたしは目をつぶった。
まるで貝みたい。
深海に沈む貝ね。
クラゲの次は貝だなんて、まるでありきたりでセンスもない。馬鹿みたい。
あたしは自分で自分を鼻で笑った。
816:キンモクセイ
09/08/26 09:33:13
玄関の扉が開く音がして、あたしは慌てて飛び起きる。
…人の気配がする。
まさかママかしら、
と思って壁の時計を見たけれど、針はまだ午後の1時半すぎを指していた。
あたしは毛布を頭から被ったままで、玄関へと続く廊下をおそるおそる覗きにいく。
「アスカ、いるの?」
柔らかい声。優しい声。…シンジの声だ。
いつもならまっさきに飛びつく声でも、その時ばかりはびくりと体を震わせて、あたしは立ち止まった。
なぜシンジが、あたしの家の鍵を。
「…いるよね?」
息を殺す。
それでも布の擦れる音や息遣いが消えることはなくて。
「おじゃまします」
シンジが靴を脱いで廊下を歩いてくる音が聞こえてくる。
あたしはあせった。
どうしよう、まだなにも言い訳なんか考えてない。
とりあえず、その場から逃げようとして。
ゴンッ
「痛っ!」
毛布の裾を踏んづけて、おでこと鼻を床にぶつけていた。
後ろで、くくく…と笑う声がする。
「笑うな!不法侵入者!」
あたしは床に屈んだまま、シンジをキッと睨みつけた。
817:キンモクセイ
09/08/26 09:34:14
「不法ではありません。キョウコさんから借りましたー!」
勝ち誇ったように、鍵をぶらぶらと持ちながら見せつけてくる。
そのいつもと変わらないシンジに、あたしの心に巣くう不安が少しだけ和らぐ。
「…どういうことよ?あんた、学校は?」
シンジの服装はいつもの制服姿だ。
学生ズボンに、そして紺のVネックのセーター。
「途中でサボってきたんだよ。鍵は研究所に行って借りてきた。…アスカこそ、どうして」
あたしは何も答えないで、また毛布をすっぽりと被った。
まだ言い訳をなにも考えてない。
まだ会うのには早すぎる。
あたしの完璧な防御体制に、シンジがため息をつくのが聞こえた。
「僕、お昼まだなんだ。お腹空いたんだけど…なにかもらっていい?」
「………棚の中にカップラーメンがあるわ」
「じゃ、遠慮なくいただくよ」
毛布にくるまれた真っ暗な闇の中にあるは、シンジの動く音とあたしの鼓動、そして息だけ。
シンジは、あいつに愛撫され喘ぐあたしを見てどう思ったのだろう。
汚らしいと軽蔑した?
それとも興奮した?
あたしは前者であって欲しいと願う。
女として見られるよりも、貶される方がマシだった。
「ねえ、味噌と豚骨、どっちを食べていいの?」
「豚骨はあたしのだからダメ」
しばらくすると、お湯のポコポコと沸く音がしてきた。
蒸気に部屋が暖められて、少しだけ毛布の中の空気が暑くなる。
「…アスカも食べる?」
「いらない」
そう言ったのに。
シンジの言葉に答えるように、あたしのお腹がぎゅるると鳴った。
…恥ずかしい。
心と体は繋がってるなんて一体誰が言ったんだろう。ウソつきだ。
シンジがくすっと笑って、じゃあ豚骨だね、と言った。
818:キンモクセイ
09/08/26 09:35:30
シンジが作ってくれたラーメンをおとなしく食べてから、あたしはソファへ戻る。
毛布をずるずると引きずって。
豚骨ラーメンはやっぱりおいしかった。
台所から届いていたがさがさと片付けるような音が止んで、
シンジがリビングへとやってくる気配がする。
シンジの座る重みで、ソファが唸った。
「ねぇ」
毛布から少し顔を出して、隣にいるシンジを見る。
シンジは床に放っておいたあたしの携帯ゲームを持っていた。
電源の付く音がして、ゲームからマヌケなBGMが流れ出す。
あたしはそのまま続けた。
「忘れなさいよ、昨日見たことは」
自分でも苦しい言い訳だって分かってる。
でも、昨日のことを無かったことにするのが、あたしたちにとってのベストなの。
「人の記憶はそんな都合の良いようには、出来てないよ」
あたしの言葉を否定して、目は伏せままに濡れた黒い瞳だけが、ゆっくりとあたしを見る。
ぞくりと背筋が震えた。
…やめてよ、そんな目でみるのは。
「…いいから忘れなさいって言ってんの!」
「昨日…、実は」
あたしが語気を荒げても、シンジは淡々として。
「最初から聞いてたんだ、アスカと先輩の話」
あたしにそう告げた。
全部、全部知られてしまってたんだ…サイテーなあたしを。あたしの気持ちを。
たまらなくなって、あたしは立ち上がって逃げようとする。
けど、すぐにシンジが腕を掴んで。
「放しなさいよ!」
「嫌だ」
819:キンモクセイ
09/08/26 09:36:54
きつく握られて動けない。
「放せっ!」
叫ぶあたしを、黒い瞳を揺れらして、じっと見つめてくる。
「…どこへも行かないでよ、アスカ」
その瞳は、あの時の同じ、とても弱々しい色をしていた。
あたしを見つめて、その愛しさがあたしに絡みついて、身動きを取れなくする。
「もう無理だよ、限界だ」
強く、腕を引っ張られる。
一瞬のことだった。
気がついたら、あたしはシンジの腕の中にいた。
「他の男にアスカをあんな風にされて、
そんなものを見せつけられて、隣で笑っていられるわけないだろ!」
あたしの首筋に顔をうずめて、あたしを抱き締めて、叫んで。
吐き出す言葉が、あたしの心を震わす。
「意地を張って、自分を押し殺して、
これ以上アスカを奪われるのを黙って見てるのは嫌なんだ!」
背中に回された腕が、あたしを強く引き寄せた。
きつく、きつく、さらに抱き締められる。
あたしの体が壊れるぐらいに。
あたしの心も壊すように。
「好きだよ、アスカ…本当に、好きだ…」
耳にそっと触れて、熱い吐息に乗せて、シンジは囁いた。
ああ…。
あたしの心は喜びに震える。
欲しくて欲しくてたまらなかった、その言葉を告げられて。
それは、もっとも恐れていたことだった。
続く
820:674
09/08/26 09:38:48
とりあえず以上です
お目汚しすんませんでした
アスカは、とーちゃんかーちゃんが離婚したトラウマ抱えてます
描写不足ですみません では
今月中が無理だったら、もしかしたら来月は更新ムリかも知れません
そうなったらすみません
821:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/26 09:52:49
うわー寸止めorz
GJ
822:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/26 10:22:56
>>820
GJ!!
マジか…なんとか完結させてください!
823:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/26 10:33:36
GJ
シンジの吐露がいいな
824:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/26 11:32:21
つまんね
糞レベルだな
825:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/26 11:36:09
…と、糞レベルすら書けない便所コオロギが申しております。
826:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/26 11:40:05
ッつあああああああああ!!!!!
キンモクセイったあああああああ!!!!
アスカ素直になれよ…ぐふぅ。GJでしたっ続き楽しみにまって…ます…うぐぅ
827:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/26 15:56:45
やばいパシャりそうだ、俺>キンモクセイ
828:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/26 16:44:35
結末が早くしりたいけど、
終わってしまうのは嫌だな。
いつまでも読み続けたい(;´Д`)…ハァハァ<キンモクセイ
829:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/26 18:21:01
気持ち悪い感想が増えてきた…
830:if
09/08/26 18:25:29
うああああ!!!
帰ってきたら、とんでもない事になってるな
キンモクセイさん待ってました
俺は、キンモクセイさんの世界に引きずり込まれて、出られない状態です
831:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/26 18:57:32
しばらくそこに籠もってくれw
みんなが忘れた頃にまた出てこいw
832:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/26 18:58:09
男と女の関係になりたいシンジと
なりたくないアスカか~
これは難しい
833:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/26 19:03:18 byNb26K6
GJにも程がある
キンモクセイに埋もれてしにたい
834:if
09/08/26 20:17:23
すいません。でも、言わせてください。
前にも書いたと思いますが、もう一回言います。
告白するには勇気がいります。
シンジは勇気を出して告白した。
アスカも本当はシンジが好きなんだと思う
二人とも恋愛するのが不器用なんですね。
本当に人を好きになるのは難しいですね
俺も興奮してしまいました。
そして+3冊です
次の投下は
8月29日か30日です。
<アイス再び…>
835:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/26 20:32:20
>>834
なんか憎めないわお前ww
836:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/26 20:37:18
いや、お前もう来なくていいから…
見苦しいから…ね?
837:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/26 20:59:39
買った小説×30回読んでから来い
838:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/26 21:06:21
読んだからって上達するもんなの?
純粋な疑問
839:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/26 21:07:17
>>836
そうか?俺は結構好きだけどな
何より 俺じゃ文章書けないしな
840:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/26 21:11:32
最近は大分マシになったと思うぞ
俺もまだまだだし…
841:if
09/08/26 21:17:48
すいません。
今、暴走しています。
あと、29日か30日に投下したら止めます。たぶん
そして次の投下は、10月以降です。
それまで我慢してください。
空気クラッシャーですので
842:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/26 21:25:42 Wia/LNTd
シンジは告白なんかしないよ
843:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/26 21:32:07
>>841
298 名前: if [sage] 投稿日: 2009/07/27(月) 22:38:56 ID:???
やっぱりプロは違うな
昨日、調子に乗ってサキエル話と
シャムシェル話を投下しようと思っていたが、やめて良かったよ
またこのスレが大惨事になるとこでした・・・いや俺か・・
この話はいいな。癒されるな
なんか元気が出てきた、明日も仕事が頑張れる。
みなさんお休みなさい
314 名前: if [sage] 投稿日: 2009/07/28(火) 23:53:56 ID:???
どうもありがとうございます
今、シンジ君に戦略自衛隊に入隊させて訓練する話を考えています
最後は旧劇場に絡めようと思います
多分、投下はしません
いや、出来ない
では、おやすみなさい
今度こそ、さよなら
お前の飽きっぽい性格に付き合わされるスレ住民の気持ちを考えたことあるか?
844:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/26 21:36:51
>>841
なんで最低限のルールを守らないの?
845:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/26 21:42:13
>>838
マジレスすると、実際に書かなきゃダメ
好きな作家の雰囲気とか文体とかマネしたり
846:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/26 21:50:38
>>842
するよ
好きな子になら
シンちゃんって結構積極的だし頑固で一途だぞ?
847:if
09/08/26 21:58:49
もう逃げない
848:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/26 22:06:02
キンモクセイすごすぎる。
849:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/26 22:06:06
>>847
三年ROMれ
850:ふぅ。
09/08/26 22:12:18
今朝のこと、誰かに話したくてしょうがない。
「おっはよー!ヒカリ~!!」
「どうしたの?今日なんかすごく機嫌いいけどなんかあったの?
「んーまぁね、ちょっと聞いてよ。今朝シンジがねぇ…」
あたしは近づいてくるあいつに気付かずに言いかけた。
「ちょっと!!言わないって約束したじゃないかぁ!」
「あ~らシンジ、そーだったわねぇ~」
ヒカリのほうを見て、「あとで話す」と口を動かせた。
「んじゃアスカ、教室のカギ直してくるから!」
どうにか伝わったようで、走って行った。
振り向くと、シンジはふくれっ面。
そんな表情するからいつまでたっても子供みたいなのよ。
そんな子供に惚れたのは誰だったか今は忘れた。
「なんで言おうとしたのさ、言わないって約束だったのに…ひどいじゃないかぁ」
「ごめんごめん、ちょーっと口がすべっちゃってぇ…へっへー」
「もう…ほんとアスカは口が軽いんだからぁ。」
「なぁんですってー!!」
「シンジくん!おはよ!」
「おはよう、霧島さん。」
満面の笑みでシンジに近づく。
何にやついてんのよ。
今すぐ蹴り飛ばしてやりたいけど、
今朝のことがあったから特別に許してあげるわ。
そう思いながらもマナの声を聞くと無意識にイライラしていた。
「あっ、居たのぉ?おはよう~」
マナは余裕の笑顔であたしに言った。
「…おはよう」
たぶんあたし、今笑ってない。
こんなことになったのも、こないだの出来事があったからだ。
851:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/26 22:13:31
>>834
気持ち悪いなもう来るなよ
852:ふぅ。
09/08/26 22:13:58
ある日、あたしはマナに放課後に呼び出された。
「あたしね、碇くんのことが好きなの~。
それで確認しておきたいことがあるんだけど。」
「…なに?」
「惣流さんって、碇くんとどうゆう関係なの?」
「どうゆうって…ただの幼馴染よ。
そもそもあんた転校してきたばっかなのにいつシンジを好きになったの!?」
「ん~初めて、見た時かなぁ~。
でもなにもないならよかったぁ~それじゃあね~」
いやなことを思い出していると、チャイムの音で我に帰った。
「さぁーて、英語の準備しなきゃあ~」
そういって自分のロッカーのほうへ走った。
「ほんとだーはやくしなきゃ」
碇と霧島だから、出席番号が近いのでロッカーも近い。
あたしはずっと後ろのほう。
なによ、まだなんか話してる。
でもあたしはあいつの夢にあんな形で出てきたんだから。
ぜんっぜん負けてないわよ。
そんなことを考えながら、席に着いた。
853:ふぅ。
09/08/26 22:15:09
「はーい、じゃあ教科書90ページ開いて」
うそっ…間違えて国語の教科書持ってきちゃった。
仕方ない、先生に言って取りに行こう。
そう思って手を上げようとしたとき、後ろから教科書を持った手が伸びてきた。
「いいわよ、あんたどうやって授業すんのよ…」
そう言った瞬間、表紙に書いてある見慣れた落書きに目が行った。
「これ、あたしの?」
「そうだよ。アスカが国語持って行くの見たんだ。
呼んでもぼーっとしてて聞こえてなかったみたいだし。」
「ありがと」
こんなことがある度、あたしはシンジへの気持ちを再確認する。
困った時に何も言わないで助けてくれるこの性格は、
口だけ「守ってやる」とかぬかしてるその辺の男とは違っていた。
ただ、自然にこんなことを誰にでもする。
それはさっきみたいにあたしを傷つけることもあった。
でも結局はまた引き寄せられる。
馬鹿ね、あたしって。
854:ふぅ。
09/08/26 22:16:05
「弁当や弁当~!これこそが学校最大の楽しみや~」
「ヒカリ、今日は屋上で食べない?
教室に馬鹿が三人もいるから話も出来ないわよ。」
「え、えぇ。」
「ちょーっとヒカリ、それ鈴原の持ってたお弁当箱と一緒じゃない?」
「えっ、いきなりなにを言うのよ!」
「あんた、あたしの話だけ聞こうったってそうはいかないわよー。」
「うん…まぁ鈴原んち、妹が入院してたりで大変だから、いっつも食堂のパンばっか食べてるのよ。
だからたまにはお弁当も、どうかなって…。」
「へぇ~、案外うまくいってんのね。」
あたしがうらやましそうな顔をしたのか、ヒカリは聞いてきた。
「アスカはどうなの?シンジくんと」
「なんであいつが出てくんのよ!」
もう今更隠しても意味ないか…と思いつつもつい出てしまうこの言葉。
「まあまあ…、今朝の話はなんだったの?」
「んーとね、大したことない話なんだけどね、」
そういって風邪ひいたときに看病してくれた話、
夢でお嫁さんになった話、一時間目の英語のときの話をした。
「そっかぁ。やっぱりアスカ、シンジくんのこと好きなんだぁ。
でもね、さっき体育のとき噂になってたんだけど…」
「えぇ!?マナが告白!?」
「うん…今日するって。」
まだ負けと決まったわけじゃない。
でも…気分が悪くなった。
「残り、食べていいわよ。」
855:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/26 22:18:33
リアルタイムGJ!
856:ふぅ。
09/08/26 22:59:50
とまあ、一応こんなかんじです。
感想ありがとうございます。
今回地の文増やしてみました。
いや、少ないですね(笑)
今から付け足してもって意見もあったんですが
やっぱりあったほうがいいかなと。
ご指摘ありがとうございました。
これ、上と下みたいなかんじで
二部構成みたいな感じにしようと思ってます。
長くなりますが…すみません。
857:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/26 23:00:44
GJです!
出来れば「今日の投下はここまで~」みたいなレスが欲しいです
858:857
09/08/26 23:04:15
>>856
ああ、被った。ごめんなさいw
859:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/26 23:13:44
>>856
GJ!
860:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/27 01:14:41
ふう。さんイイよー!嫉妬するアスカと素直なシンジが可愛いw
あと個人的に、恋のライバルはやっぱマナがいいね!
861:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/27 13:30:48
ふぅ。さんGJ!
2人のやり取りが微笑ましいです。
862:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/27 17:10:27
円谷さんや軒亜さんはパッタリ来なくなったな...
863:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/27 17:13:58
円谷さんは、少し様子見タイムと自サイトに書いてた
864:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/27 17:40:55
なぜ様子見?
865:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/27 17:42:53
ifを畏れているのだろう
866:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/27 17:56:53
>>864
自サイトに直接書くか、一旦こちらに投下して溜まったら転載か迷ってるみたいね。
俺は一旦ここに投下してもらった方が見やすいなぁ。織月さんもそうしてるみたいに。
まあもちろん決めるのは本人だけどさ。
867:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/27 18:19:17
円谷氏自サイト持ってたん?
868:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/27 18:27:12
投下してもらったほうが感想書きやすいし、嬉しいけどなw
869:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/27 19:03:30
>>867
>>153
870:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 01:35:51
>>500
バッハとパッヘルドル:カノンを
買って来た
iPhoneにも入れた 準備は出きた
iTunesで同期するなら
レンタルで良かった気がするが•••
871:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 02:31:58
>>870
パッヘルベルな。
ブラームスならハイドンバリエーションなんか聴きやすいぞ。
872:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 08:12:28
>>871
今度はレンタル屋さん行ってみる
873:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 08:19:23
>>872
無伴奏チェロ組曲も一度聴いてみて。
個人的にはカザルスのやつが好き。
874:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 08:36:44
って、すでに買ってたのか。めんご。
875:674
09/08/28 10:01:00
前回投稿したところがあまりにも中途半端なことに気づいて、きりがいいとこまで投稿してしまい
たぶん今日終わりそう。ふう
・異性系イタモノ注意
NGワード キンモクセイ
876:キンモクセイ
09/08/28 10:02:06
重なり合う体に、シンジの鼓動を、体温を、息を感じてしまう。
耳から頬へ、頬から額に。
ついばむように口付けをされて、
そのたびに体の奥がじんと熱くなって、あたしは身じろいだ。
「アスカ…」
そんな甘い声であたしを呼ばないで。
そんな優しい瞳であたしを見つめないで。
どうして。
どうして。
どうしてあんたは!
あたしは何も変わりたくないのに、このままでいたいのに。
逃げ出したくて、でも。
あたしの中のシンジを求める心が、
歓喜に震える女のあたしが、あたしを内側から縛りつけて。
…あたしを身動き出来なくするの。
やがてシンジの息が、あたしの唇へと近づいてくる。
「…だめっ、だめよ……シンジっ…」
…それ以上はやめてっ。
今ならまだ、間に合う。
あたしたち、友だちのままで…!
喉を震わせて、やっとのことで搾り出した声はひどく掠れていた。
その声を塞ごうとするように、シンジがあたしの頭を抱き寄せて。
「んっ…!」
押し付けられたシンジの唇は、
想像していたよりも薄くて、少し、かさついていた。
こんなに愛おしくて、こんなに悲しいキスは初めてだった。
視界が滲んで、涙が頬を伝っていく。
877:キンモクセイ
09/08/28 10:02:58
「…っ…もう、終わりだわ…!」
シンジの唇から顔を逸らして、あたしを抱き寄せる体を突き飛ばした。
そして、そのまま床にへたり込んでしまう。
ポロポロと涙が零れて、止まらなかった。
嗚咽が漏れた。
もう、今までのあたしたちでいられなくなったことが。
あたしたちが男と女になってしまったことが。
それが悲しくて。
そう、いずれパパとママのようになってしまうんだわ…!
「…アスカ、泣かないで」
あたしの頬に伸びてきた優しい手を、払いのける。
いずれいなくなってしまう優しさなんて、いらない。
もういらない。
「うるさい!!
…あんたはいつもそうよ。
自分ばっかり勝手に先へ進んで、あたしは取り残されるばっかりでっ…!」
胸の内に隠していた感情の奔流が、言葉が、涙とともに溢れ出る。
「何が好きよ…!
あんたが先に裏切っておきながら今さらなによ…!
あたしだってずっとずっと好きだったわ!
あんたがあの女と付き合う前から!ずっとよ!」
シンジはじっとあたしを見つめている。
その瞳の中に、みっともなく泣き叫んで、喚いてるあたしがいる。
喉が潰れそうに痛い。
「でもあんたがあの女と付き合うようになって!痛くて、苦しくて…!
どうしようもなくて…
だから他の男で寂しさ紛らわせたの!
その間もずっとあんたのことしか考えてなかったわ!」
そうすればシンジに抱かれているような気になれた。
女のあたしが嬌声をあげて喜んで、そんな自分に吐き気がした。
878:キンモクセイ
09/08/28 10:03:40
「あたしだって、あんたにキスされたかった…
あたしの初めてだってあんたにあげたかった…!
でも、あんたは他の女を見て、あたしを見てくれなかった
けど、やっぱりあたしはあんたが好きで
一緒にいたくて…」
苦しみも、切なさも、痛みも、我慢した。
笑ってシンジにウソついて、自分にもウソついて。
重力に引かれるままに涙がぽたぽたと床の上に滴り落ちて、まるで水たまりのよう。
「友だちなら…ずっと一緒にいられると思ったから……
あたしはっ…あたしはあんたと一緒にいられれば…
何も変わらないままで、ずっとずっと一緒にいられれば…
それだけでよかったのに…なのに、どうして…」
声をあげて、わぁわぁ泣いた。
まるで幼い子どもみたいに、きっと顔は真っ赤なって、涙でぐちゃぐちゃで。
とても酷い顔だったと思う。
「……アスカ、ごめん…」
力無く床に投げ出されたあたしの手に、シンジが手を重ねる。
その手をまた、はねのけて拒絶した。
「…あんたとあたし、もう終わりよ…!おしまいなのよ!」
変わらないものなんてない。
そんなこと、最初から分かっていた。
人は流れ、時は流れ、気持ちも流れていく。
保証のある関係なんてどこにもない。
シンジもいつか、パパのようにいなくなる。
きっとそうだ。
それが怖くて、あたしはまた自分にウソをついた。
879:キンモクセイ
09/08/28 10:04:32
「出ていけ…!あんたの顔なんて見たくない!あんたなんて、もういらない…!!」
シンジの傷ついた瞳を、悲しみに歪む眉を、去っていく背中を見たくなくて、あたしは膝を抱えて俯いた。
シンジのいなくなった部屋の中で、俯いて、目を瞑って、ただ泣き続けた。
終わらせたのはあたし自身だ。
本当に、馬鹿ね。
14歳のあたしが、隣で泣いていた。
シンジとあの日見かけたキンモクセイは、すでに散ってしまっていた。
深緑の葉だけを残して。
地面の上に、茶色くなってしわがれたかけらが散らばっている。
あの花のなれの果てだった。
あの、強く、噎せ返るほどに甘い香りは、もうしない。
続く
とりあえずいじょう
あともう少し
880:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 10:14:59
GJ!
アスカ…素直になれよな。
881:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 10:31:10
えっ!
シンジ帰ったの!?
882:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 10:41:02
>>873
きた~ BGM付きで逝くぜ
883:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 10:49:59
明日までの期限の報告書が有るんだ
無理言って 有給休暇をお願いしたんだ
アスカとシンジが幸せになれれば
もう どうでもいいや
884:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 10:57:11
うは常に寸止めキンモクセイ。
でも、好きだ…ありがとう
885:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 11:11:32
もうヤバイ
886:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 11:33:56
読者側で感想じゃなくて自分語りしてる人たちは何なの?
うざいことこのうえないんだけど
887:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 11:38:40
べつにええがな
888:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 11:41:30
>>886
お前もじゃない•••
889:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 12:05:25
作者の自分語りは文句言って
読者のはありってのはおかしい
890:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 12:05:35
盛り上げるための不自然な所為を繰り返してアスカがキチガイ染みたLASになるのは、良くあること。
最後に素直になるのも類型的で、今更感はあるなあw
891:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 12:07:57
まぁ気にせずに流れ戻そうや
892:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 12:37:56
おお!キンモクセイさん相変わらずGJです!!
毎回楽しみにしてます
でも、もうすぐ終わるんですよね…
うれしいような悲しいような複雑な気持ちです
最後はアスカとシンジが結ばれて、幸せになってほしいです
893:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 14:19:35
>>890
だがそれがいい
キンモクセイGJすぎる
二人が幸せになるといいな…
894:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 14:23:45
投下スレの作品に何を期待しているんだおまいらは。
そこそこの作品がそこそこ読めりゃいいんだよ。
895:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 15:20:00
if「じゃあ俺の作品も読んでください」
896:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 15:56:33
分かった。
俺が悪かったから許してくれ。
897:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 17:38:40
投下待ち
898:if
09/08/28 17:53:54
呼んだ
899:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 17:54:43
>>899
まったく呼んでない
900:if
09/08/28 17:59:19
失礼しました
901:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 18:00:46
>>898読んだ?
902:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 18:29:27
>>901
次の投下で明らかになるだろう
どうせ読んでないから時間の無駄な落書きを披露してくれると信じてる
903:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 18:31:44 oJfbKVQg
>>890
毎度思うんだがタダで小説読んでるくせになんでこんなに偉そうなの?
何様だよw
904:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 18:34:49
気持ちはわかるが構うなよ
905:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 18:35:41
このスレでは読者の方が偉いらしいしな
906:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 18:38:59
>>905
金を払っていればそうだけど、タダで読ませて貰ってる以上
それは無いよな。
907:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 18:40:08
もういいから
スルーしようぜ、変に荒れるだけだって
908:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 18:40:24
>>903
荒らしたいだけの人でしょ。文句しか書いてない。
909:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 18:43:19
sage
キンモクセイお待ちしておりますm(__)m
910:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 18:44:10
俺はたとえ上手くても、上手くなくても読めるだけで満足
911:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 22:39:19
>>879
キター!GJ!
このスレに限らず監視して変な方向に持っていこうとする粘着がいるけど
気にせず投下してほしい。キンモクセイさんの作風、大好きです。
912:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 22:59:11
>>903
駄作を投下するのも自由だし、キツイ評価を言うのも自由。
それがこのスレ。
913:674
09/08/28 23:13:51
ばんわ。
なんかもうガツガツカツカツですが、なんとか出来た。最終回です。
もう少しちゃんと練りたかったけど、カンベンです
そいや、前回のとこでよっこらセックスさせようか迷ったんだけど結局やめた。
・異性系じゃなくなったけどイタモノ注意
NGワード キンモクセイ
914:キンモクセイ
09/08/28 23:15:03
あれからのあたしたちはお互いを避けるように何も話さず、視線も交わさず。
小さい頃からあれだけ同じ世界を過ごしてきたのに。
今も同じ空間に、同じ次元の中に生きているのに。
まるで遠い存在なって、お互い、見ないフリをした。
シンジが遅刻しないで、ひとりで学校へ行くようになって。
あたしがシンジと時間をずらして登校するようになって。
やがて隣の部屋から、朝の慌ただしいおばさんの声もシンジの声も消えて、
静かに朝を迎えるようになったのはいつだっただろうか。
学校が同じでもクラスが別だと、関わることもほとんどない。
お互いに共通の友人なんていないし、シンジがいなくなった穴を埋めるように、
あたしはヒカリやクラスの女友だちとよく遊ぶようになっていた。
学校で見かけるシンジは、よく男子たちとつるみながら笑っていて。
ああ、あいつは大丈夫なんだ、と安心しながらも少し胸が痛かった。
時がすべて癒やしてくれる。
時がすべてを洗い流してくれる。
…そんな言葉はウソだ。
ずっと一緒だったシンジが、当たり前のように一緒にいたシンジが、そばにいない。
ヒカリと遊んでも、学校の友だちと騒いでも、虚しさしか感じなくて。
顔は笑っていても、心は笑えなかった。
シンジの姿を見るたびに胸の奥がつぶれて、ぐしゃぐしゃになって、その痛みは日に日に強くなる。
ひとりでいる時に、ふと、シンジを思い出して、涙が零す。
自分で投げ出して、いらないと叫んで、いなくなったらひとりで泣いてる。
なんて馬鹿なんだろう、あたし。
915:キンモクセイ
09/08/28 23:15:57
それでも時は流れ続けていく。
ただ淡々と、残酷に。
あたしがいくら泣いて叫んでも、誰も立ち止まってくれやなんかしない。
ひとり置いていかれないように、あたしはがむしゃらに前へ進むしかなかった。
心に大きな穴を空けたままで。
あいつのいない、何も無い日常を過ごしていく。
シンジは、どうなのかな。
きっとシンジは、何事もなかったように前へ進んで、またひとり歩いていくんだろう。
その春。
風の噂で、あの男は某大学へ受かったと聞いた。
あたしと別れて、別の世界に生きて、次は新しい世界へと歩みを進めていく。
悲しみもない。一抹の寂しさすらない。
心から、あいつも頑張ったんだなぁって、そう思う。
気が付けばあたしはもう、3年生になっていた。
「惣流はドイツの大学へ入学希望だったな」
「はい」
「成績も申し分ないし、まあ、大丈夫だろう」
模試の結果が書かれた紙を見て、先生が笑う。
去年の秋に、シンジと離れてすぐに、あたしはママと一緒にドイツへ帰ることに決めていた。
ママはあたしがドイツへ帰ることを、笑って受け入れてくれて。
あたしとシンジのことも気づいているはずなのに、何も言わなかった。
おばさんやおじさんも、あたしに何も言わないで、いつもの笑顔で接してくれる。
916:キンモクセイ
09/08/28 23:17:17
たぶん、ママたちなりに気遣ってくれてるんだと感じた。
日本の高校に通ってるあたしは、ドイツの大学に入るためには語学資格が必要で。
受験勉強で、特別なことと言えばあたしにとってはそれくらい。
あとはこのままセンター試験でいい成績を取れば大丈夫、と先生がまた笑った。
ある日、あたしはあの小さなレコード店を訪れていた。
「久しぶり、おじさん」
「おお、いらっしゃい。あの時のお嬢さん」
中はあいかわらずくたびれた匂いがしていて、出迎えてくれたおじさんの笑顔も変わらない。
「お元気でしたか?」
「ん…まぁね。おじさんは?」
「ははは…私はねえ。どうも最近、腰の調子が悪くてね」
この年になると、立ったままは辛くて、と苦笑いするおじさんの足元に小さな椅子が見えた。
あの時には無かったものだ。変わらないと思ったけど、やっぱりあの時とは少し違う。
「あのね、おじさん」
「ん?」
「バッハの無伴奏チェロ組曲と、ブラームスの前ここで聴いてたやつ…置いてある?」
おじさんは、どの演奏家のものがいい?って訊いてくれたけど、別に誰のものでも良かった。
あたしはチェロの音色が聴きたかっただけだから。
おじさんのおすすめしてくれたものを適当に選んで、代金を渡す。
「幼馴染の彼は、どうしておられるのかな?」
「きっと、元気よ。たぶん」
お釣りを受け取りながら、あたしはあっさりと答えた。
おじさんの表情が、少し淋しげに曇る。
「それじゃ、おじさん」
おじさんの、ありがとうという言葉を背中に受けながら、あたしは店を出た。
917:キンモクセイ
09/08/28 23:18:10
いくら名演奏家と呼ばれる人たちのチェロを聴いたって、やっぱりシンジの音色とは違って。
あたしが好きなのは、あの少し拙くて、でも美しくて柔らかいチェロの音色だ。
こんなCDで、あたしの胸に空いた穴を埋めることなんて出来なかった。
「シンジのチェロ…また聴きたいな…」
ぽつりと、呟いた。
春が終わって、夏も過ぎて、季節の隙間がやってくる。
遠くなっていく空を眺めながら、あたしはいつも、シンジを想う。
あのキンモクセイも、再び美しく花を咲かせていた。
散っても散っても、この世に生きている限りこいつは咲き誇り続けるんだろう。
花を眺めながら、なんてしたたかなやつ、と笑った。
風がそよいで、さわさわと花を揺らす。甘い香りが、広がった。
あんたの中のキンモクセイ、まだ咲いてるね。
前よりもたくさん。とても綺麗。
14歳のあたしが、悲しげに微笑んでいる。
ごめんね、とあたしは呟いた。
時間とともに人は変わって、心も変わって、やがて終わりを迎えるはずなのに。
シンジへの想いは募るばかりで、さらに大きく膨らんで。
もうどうしようもないけど、ただ、シンジに会いたいと思った。
918:キンモクセイ
09/08/28 23:18:56
「アスカ」
穏やかで、柔らかくて、少し鼻にかかったような声。
声の高さは変わっても、奥に隠れる優しさは小さい頃から変わらない。
何度も何度も聞き慣れた、「アスカ」という言葉。あたしの名前。
幻のように聞こえてきて、あたしははっとする。
後ろに、シンジがいた。
初号機と名づけた紫色の自転車にまたがって、あたしを見てる。
「後ろ、乗る?」
訊かれて、あたしはこくんと頷いた。
ああ、懐かしい。シンジの背中だ。
男のくせに華奢で、少し猫背気味に自転車を漕ぐところなんて変わらないね。
泣きそうになるのを抑えて、あたしはシンジの腰をぎゅっと掴んだ。
「久しぶりにさ」
シンジが、前を向いたまま言う。シンジの、丸い後頭部が揺れた。
「久しぶりに、ふたりでしよう。河川敷のとこで、キャッチボール」
「うん」
風は穏やかで、川の水面を優しく揺らす。
草木は、夏の冴えるような緑から、少しずつ色を変えていた。
春のような明るさは無いけれど、穏やかな優しさを感じる。
嫌いじゃない、とあたしは思う。
子どもたちの明るい声が響いた。
はしゃいで、走り回って。ふと、女の子が転んでしまう。
泣き始める女の子に、男の子が駆け寄って慰めていた。
919:キンモクセイ
09/08/28 23:20:42
あたしたちはここに来てからずっと、無言でボールを投げ合っている。
お互いに何も話しださず、ただ黙々と。
不思議に緊張した空気は無く、緩やかに時間は過ぎていった。
「あれからさ」
最初に口を開いたのはシンジだった。
シンジが投げた白いボールが空を飛んで、あたしの左手のグローブへと落ちてくる。
「あれから…色々考えたんだ。
アスカと離れて、ひとりになって。
僕はずっと、知らない間にアスカを傷つけてたんだって分かって…
だったら、アスカの言うとおり僕なんていない方がいいんじゃないかって。
そう思って、離れてた。
こんなことになるなら、告白しなきゃよかったって…何度も後悔してさ」
「シンジ、シンジは…悪くないわ」
シンジへとボールを投げる。綺麗に曲線を描いて、そのままグローブに吸い込まれていった。
「なんにも、悪くない」
「うん、僕もそう思う」
にやり、と。
シンジがあんまり、明け透けに笑うものだから、あたしは少し呆気に取られてしまった。
「考えれば考えるほどさ、
好き同士だったのにどうして離れなきゃいけないんだろうって。
僕は単純でバカだから、もやもやしながらそればっかり考えてた」
そう言って、シンジが投げる。
あたしは受け取れずに、ボールがグローブから転がり落ちた。
「それは…、あたしが臆病だからよ」
ボールがコロコロと転がって、あたしから離れていく。
920:キンモクセイ
09/08/28 23:22:26
「ほんとはね、嬉しかった。
シンジがあたしを好きだって言ってくれて、本当に嬉しかった。
でも、同時にとても怖くなったの。
あんたがパパみたいに他の女を好きになって、あたしの前からいなくなったらどうしようって。
友だちならいいわ。ずっと一緒にいられるもの。終わりがないもの」
「…自分の心にウソついて、苦しみ続けながら?」
はっとしてシンジを見る。
シンジは、あの優しい瞳をあたしに向けて、そのまま続けた。
「アスカの言う通り…
人の心は刹那的で、あやふやで、そこに絶対なんてものはないよ。
恋人であっても友だちであっても家族であってもそうだ。
昨日は笑いあってたのに、次の日には憎くなって殺してしまうことだってあるかもしれない。
会いたいと願っていた相手だったのに、
いざ会ってみると怖くなって首を絞めてしまうかもしれない。
愛しいと感じていたのに、次の瞬間突き放してしまうかもしれない」
「そうよ、だから怖かったのよ!
……分かってたわ。本当は。友だちなんてもの、みせかけだけの希望にすぎないって。
でも、怖くて。それでもシンジのそばを離れたくなくて。
関係が崩れた瞬間、すべてを失ってしまうんじゃないかって…!」
あたし自身が壊したとは言え、事実そうなった。
子どものような関係でいられなくなったあたしたちは、散り散りになって。
それぞれ、別の世界で生きていこうとしていたはずだ。
なのに、今さらどうして。
転がったボールの方へ、シンジがゆっくりと歩いていく。
「…僕だって怖かったよ。この1年間も、ずっと怖かった。
アスカが違う誰かを好きになって、僕のことなんて忘れてしまったらどうしようって」
921:キンモクセイ
09/08/28 23:23:56
ボールを拾って、川の向こう岸を見つめるシンジ。
あたしからは、シンジのうしろ姿しか見えない。
シンジの背中、シンジの黒い髪。ああ、変わらない。
その顔を見ることは出来ないけれど、すこし、その手が震えているようだった。
「さっきだって、もしアスカが僕を拒絶して、一緒に来てくれなかったらって
…そう考えたら、怖くて仕方なかった。アスカと一緒で、僕も臆病なんだ。
でも、僕はアスカより単純でバカだから」
シンジが振り返る。
「アスカの……」
少し間が空いて。
なに?、とあたしは首を傾けた。
シンジが口を開く。
「アスカのお尻がさ。初号機の後ろにないと、寂しいんだ。アスカの大きいお尻が」
「―っ!!ばかシンジ!!!!」
グローブを思い切り投げつけてやる。
バシッ!と大きな音を立てて、見事シンジの顔へ命中した。
「大きいってなによっ!!!あたしのこのお尻のどこが!」
くくくっ…と、お腹を押さえてシンジが震えていた。
グローブの当たった鼻を真っ赤にさせて、よく見れば笑ってる。
「よかった、やっぱりアスカはアスカだ」
そう言って微笑んだシンジの笑顔が、あまりにも綺麗で。
あたしは真っ赤になって、俯いてしまった。
去年よりも汚くなった赤いスニーカーが、一歩ずつあたしに近づいてくる。
あたしの前でその赤いスニーカーが止まって。
俯くあたしを覗き込むようにシンジが身を屈めた。
シンジの顔が目の前に突然現れて、あたしの心臓が跳ね上がる。
じっと見つめる黒い瞳から、あたしは目が離せない。
「やっぱり僕は、アスカが好きだよ…今まで以上にもっと好きだ
だからこそ今の瞬間を、アスカと一緒にいたいんだ。大好きな、アスカと」
922:キンモクセイ
09/08/28 23:26:05
シンジの瞳の中に、バカみたいに赤くなってるあたしがいた。
これ以上にないくらい心臓が跳ね上がって踊ってる。
シンジの気持ちが、まだあたしを想ってくれてる気持ちが、本当に嬉しかった。
シンジへの想いが、感情が、また大きく膨らんで、あたしの瞳から涙となってポロポロと零れた。
「あんたバカね…こんなバカでめんどくさい女、まだ好きなんて…」
泣きながら、笑う。
「ばかシンジには、ばかアスカじゃなきゃ駄目なんだ」
だって、ふたりともバカだから、とシンジも笑った。
「バカっ…!」
そのまま勢いよくシンジに飛び込んで、思いっきり抱き締めた。
わーっ!と叫びながら、シンジが後ろへ倒れこむ。
「あたしも、好き…!好きよ、好き…大好きよ。ばかシンジ…!」
あたしの言葉に答えるように、シンジの腕が、ぎゅうっとあたしを抱き締め返してくれる。
ねえ、シンジ。あたし、シンジを好きでいてもいいのかな。
ふたりで芝生の上に倒れこんで、強く強く抱き締め合った。
「わーバカップルだー!」
「ヒュー!らぶらぶぅー!」
「はぐ、してるぜ!はぐ!」
「ガーイジン!ガーイジン!」
はやし立てる子どもの声がして、はっとして顔を上げる。
シンジとふたりで周りを見ると、4人の男の子に囲まれていた。
その少し後ろに、目をキラキラさせながら顔を赤くして、あたしたちを見る女の子がふたり。
河川敷の道を走る自転車のおじさんもあたしたちを茫然と見てる。
高架橋の下にいる野球帽を被った少年も顔を赤くしていて。
自分たちが公衆の前で何をしていたかに気付いた。
恥ずかしさに、体温が一気に上昇する。
馬乗りになった状態だったあたしは、慌ててシンジから離れた。
923:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 23:28:38
支援
924:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 23:33:23
支援
925:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 23:38:31
支援
926:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 23:39:12
SSというよりも携帯小説か、コレは。
927:キンモクセイ
09/08/28 23:45:03
「あ、こっちのねーちゃんほんとにガイジンだ」
「まっかっかー!」
「う、うるさい!!」
叫んで、隣のシンジをちらっと見る。
シンジも真っ赤になって俯いていた。
「い、行きましょシンジ!」
「う、うん」
シンジの腕を引っ張りながら、その場から逃げ出す。
後ろから子どもたちの、やんやとはやし立てる声がまだ続いていた。
日は傾いて、空が赤らみ始めていて。
空の青色と夕日の赤色が混じり合った、薄紫の帯が西に見える。
沈む太陽を背に、川の向こうの団地の建物は黒い影になっていた。
シンジの背中に体を預けて、
変わらない景色を眺めながら、あたしたちを乗せた初号機は川沿いの道を走っていく。
ぽっちゃりとした柴犬を連れた、あの時のおばさんとすれ違った。
あたしたちを見てにっこり顔を綻ばせて、そんなおばさんにあたしも微笑み返した。
やがて、おばさんの姿も小さくなっていく。
「ねぇ、アスカ」
背中から聞こえる声は、甘く優しい。
なに?、とあたしも甘えた声で返す。
シンジの腰に腕を回して、ぎゅうっと体を寄せた。
夕日のせいか、シンジの耳が少し赤い。
「…進路希望にさ、僕も、ベルリンって書いたよ」
「…どういうこと?」
シンジの言葉に驚いて、思わずシンジの体を力の限り締め付けてしまう。
「あ、アスカ…く、苦しい!」
ふらふらとバランスを崩した初号機とシンジの声に我に返った。
928:キンモクセイ
09/08/28 23:47:06
腕を緩めると、シンジがはぁはぁと息をつく。
「ねぇ、どういうこと?」
「いつか約束したろ?ふたりでドイツへ行こうって」
「だめー!!!」
キキキーっとブレーキの音がして、初号機が止まる。
後ろを向いたシンジが驚いた顔をして、あたしを見た。
少し高いシンジを見上げるようにして、あたしはもう一度同じことを言う。
「だめよ!」
「なんで?」
あたしの拒否に、シンジが目をぱちぱちと瞬かせた。
「あたしは何もしてなくて、シンジばっかり…、そんなのフェアじゃないわ!
シンジはシンジの行きたい大学へ行きなさいよ」
「嫌だ」
今度はあたしが、シンジの拒否に目をぱちぱちさせる。
「アスカと一緒じゃなきゃ、嫌だ」
「あのね」
「い・や・だ」
まるで幼子みたいに、頑なに言う。
変なところで頑固なシンジの癖が出た。
「英語もドイツ語もちゃんと勉強してるんだよ?
まぁ、国語とか現社はまだ微妙だけどさ…
とにかく、せっかく昨日、父さんと母さんの説得に成功したところなんだ!
だから、アスカを迎えに来たんだよっ!」
そう叫んで、赤くなった顔を隠すようにシンジが前を向く。
「バカね…」
シンジの想いに、あたしを想ってくれていたその想いの大きさに、愛しさが爆発して。
あたしはその感情に突き動かされるままに荷台から飛び降りて、シンジの首元に腕を廻して抱き締めた。
もう、他人の目なんて、そんなもの関係ない。
「あ、アスカ…?」
シンジに再び好きと言われて、それでも不安が無かったと言えばウソになる。
929:キンモクセイ
09/08/28 23:50:29
けど、シンジなら、大丈夫。
あたしが好きなシンジなら、きっと、信じることが出来ると思えた。
少なくとも、今、あたしがシンジと想う気持ちと、
シンジがあたしを想ってくれる気持ちは間違いなく本物だから。
シンジに廻した腕を離して、頬に触れる。愛しく、撫でるように。
そして、その薄い唇に、そっとキスをした。
2度目のキスは、とても優しい気持ちになれた。
「でもやっぱりだめ」
「なんでさ!?」
身を乗り出しすシンジの鼻を、ちょんと押さえる。
「あたしがっ、シンジと一緒のところへ行くの!
シンジ、前に京都に行きたいって言ってたでしょ?」
「アスカ!」
「そ・の・代・わ・り!」
「な、なに?」
ぎゅっと両腕でシンジを抱き寄せて、その首筋に顔を寄せる。
耳にそっと唇を触れて、あたしは小さく呟いた。
「また、あんたのチェロ…いっぱい聴かせてね…」
「…りょーかい」
シンジの指があたしの髪の中に滑り込んできて、あたしを優しく抱き寄せた。
永遠なんて望みません。
ただ、今はこの想いを、この幸せを、大切にしたいの。
甘い香りがあたしたちを包み込む。
ああ、なんて愛しい香りだろう。
14歳のあたしが、キンモクセイの花の前で、笑ってた。
終わり
930:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/28 23:56:26
キンモクセイさん
お疲れ様でした。ありがとうございます
931:674
09/08/28 23:57:30
キンモクセイの花言葉
初恋 高潔 謙虚 変わらぬ魅力 真実の愛
拙作に付き合っていただきありがとうございました
色々詰め込みすぎて、なかなか上手くいかないもんだなって反省してます
もう少し時間に余裕があれば、ちゃんと練って、書いてみたかったです
普段はイラスト描きなんですが、小説もなかなか楽しかったのでまた機会があれば書いてみたいです
みんなの応援にほんと助けられた!
やっぱLASはいいなと思えた夏の終わりでした。
932:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/29 00:01:49
キンモクセイさんGJ!ハッピーエンドキター!
素敵な作品でずっと楽しませてもらいました。投下ありがとうございました!
933:543
09/08/29 00:10:19
>>931
これだけ情景描写や心理描写が巧みで、ぐいぐい引き込ませる文章書けて、
その上本業絵師さんとか凄過ぎです!
作題の花言葉解説最後に持ってこられて正直「やられた」とか思いましたw
アスカのセフレには終始ムカついていましたが、レコード店のおいちゃんと
犬散歩させているオバチャンには和みました。
なんにせよお疲れ様です。良い作品読めて随分ぽかぽかさせて頂きました!
934:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/29 00:11:07
イタ部分って丸々要らんやんw>キンモクセイ
935:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/29 00:14:08
遠回りをしながらも、最後には二人が結ばれてよかったです。
とってもすばらしい作品でした。
キンモクセイさん、お疲れ様でした。
本当にありがとうございました。
936:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/29 00:14:41
教訓:ビッチにも乙女な部分はある
937:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/29 00:33:25
乙
感動したぜ
938:674
09/08/29 00:34:30
>>934
自分でもちょっとそんな気がしてたけど許しておくれ
本当は軽い恋愛短編話のつもりだったから、シンジは他に好きな女の子を作るような普通の男で、アスカはそれに振り回される役だった
意外にもシンジがアスカを一途に好き好きになってしまって…
ドーテーショジョ同士じゃなくてもいいじゃん
…なつもりが、精神的純愛になっていきました
マナ関連にしても、色々書き切れなかったとはそういうことです
939:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/29 00:40:46
>>934
携帯小説の基本フォーマットだろ? >ビッチが男に救われる
940:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/29 00:45:27
自演するならもっと工夫したらどうか
941:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/29 00:46:54
>>938
純愛と云うよりも、女性からの夢小説でしょ。
セフレが居て、それとは別に恋人までとかね。
シンジが都合の良過ぎる男でありすぎると思うが?
942:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/29 00:51:30
>>940
構っちゃだめぇーー!!きっとみんなわかってる 890=912=926=939=941
ってか携帯小説で巨万の富を稼いでる人もいるから実は褒めてんのかもよw
943:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/29 00:56:11
>>941
こいつちゃんと読んでないな
アスカの今の彼氏は先輩のひとりだけで、シンジもシンジでマナ他に三人と付き合ってた
今どきの普通の高校生だ
944:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/29 01:00:44
>>941
このスレまで監視か…
その時間をもっと有益に使ったらどうだろうか?
945:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/29 01:03:06
>>943
今どきの普通の高校生じゃ、萌えんだろww
946:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/29 01:05:50
うわべだけのイタモノって質が悪い。
947:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/29 01:08:03
冷夏のせいか、いつもより遅れて夏厨が出てきた感はあるw
948:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/29 01:09:48
特定の熱狂的信者を獲得するか、あからさまなアンチを産むかの諸刃の剣だな
今回はやや信者が優勢と見てるが
949:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/29 01:09:52
いや、本当によかったです。GJ!<キンモクセイ
ちょっと心がささくれてるアスカを
ふわふわとしたシンジが優しく包み込む感じが素敵でした。
本編ではみられないシンジですが、無理さがなくてよかったです。
またぜひ読ませてください!
950:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/29 01:30:44
キンモクセイさん素晴らしかった。ありがとう!!
951:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/08/29 01:32:47
>>948
その様子だね
私は受け付けないのであぼ~んさせて貰っているが