落ち着いてLRS小説を投下するスレ7at EVA
落ち着いてLRS小説を投下するスレ7 - 暇つぶし2ch550:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/07 23:44:01
またまた投下きたwジャマしてすまん

551: ◆IE6Fz3VBJU
09/09/07 23:44:01
「うわぁっ!」
シンジが慌てて後ろを向いた。
「ちょっ、ちょっとファースト! あんた何してんのよ! シンジ、見ちゃダメよ!」
アスカは慌てて腰を浮かせ、シンジに指示をする。
「みっ、見ないよ!」
風呂上りのレイがバスタオルを首にかけ、下着姿のまま居間に入ってきたのだった。
「何してるって……何?」
不思議そうな顔でレイが言う。
「いくらこいつが軟弱で根性ナシだからって、そんな扇情的なカッコでうろつかれたらどうなるか分からないわよ?」と、呆れたようにアスカは言った。
「扇情的?……それって碇君が私に性欲を感じる……ってこと?」
アスカはあやうく飲みかけのアイスティーを吐き出しそうになった。シンジは真っ赤になって下を向いている。
「あんた、ちょっと、言い方ってもんがあるでしょうがっ」
「碇君は、大丈夫よ」
レイは意味ありげな様子でシンジを見た。
「何でそんなことが言えるのよ」
「だって」と、レイは口を開いた。「碇君が私の部屋に来たとき……」
「うわあああっ!」シンジは手を振ってレイの言葉を遮った。「綾波、ストップ!」
「な、何なのあんたたち……。デキてんの?」アスカはひるんだ。
「デキてなんかないよ! 何言ってるんだよ、惣流。変なこと言うなよ。綾波に迷惑だよ。……そうだ、お風呂入ってくる」
シンジは立ち上がるとよろけるようにバスルームへ去っていった。
「なーんか怪しいの」
アスカがレイのほうを見ると、レイはくすくすと笑っていた。
「あんた、あいつのコトからかったんでしょ」アスカは呆れたように言った。「タチ悪いのね」

―あれには参ったな。
一緒に住んでみると、レイには人の目を気にしない側面があるとシンジにも分かってきた。いや、人の目というより人を人とも思わないと言ったほうがいいのか……。
「ね。ファースト」
アスカの言葉にシンジは現実に戻った。
「……何?」と、レイは前を向いたまま答える。
「あんた、家族とかは?」

552: ◆IE6Fz3VBJU
09/09/07 23:47:25
シンジはドキリとした。シンジには訊きたくても訊けない話だった。
幼いころ父―つまりゲンドウ―に引き取られ、去年から一人暮らしをしていると聞いてはいたが、
それについての詮索はシンジにはできなかった。どんな事情があるか分からないからだ。ミサトもリツコも詳しいところは知らないようだった。
「いないわ。私は小さいころに司令に引き取られた。それ以前の記憶はないの」
「……悪いこと訊いたわね」
「別に。興味、ないもの」
アスカが眉をひそめた。
「興味ないって、どういう意味?」
「文字通りの意味。私の家族は死んだのかも知れないし、どこかで生きてるのかも知れない。どっちか知らないけど、私はどうでもいいってこと」
シンジとアスカの目が合った。さすがのアスカも呆気にとられた顔をしていた。
シンジはぞっとしていた。レイは強がりでそう言っているのではない。本気だった。だからこそ背筋が寒くなったのだ。
「自分がどういう経緯で預けられたのか、司令に訊いたこともないの?」
「ない」
「気にならないの? 本当に?」
「全然、ならない」
レイの無表情は変わらなかった。何かを隠している顔ではない。本当の意味での無表情だった。
何故かシンジは見ていられなくなって、俯いてしまう。
テレビからどっと笑い声が流れて 微妙に重い空気に白々しさを付け加えた。


553: ◆IE6Fz3VBJU
09/09/07 23:48:17
レイが歯を磨きに洗面所に行った隙に、アスカがシンジに押し殺した声で話しかけてきた。
「あいつ、ちょっとおかしくない?」
「……いや、別に、おかしくない……と思うけど」
きっぱりと言ったつもりだったが、濁したような口調になった。
「何もしてないときってあるじゃない? 見てると、何てーのかしら、ぼーっとしてるんじゃなくて、魂が抜けてるような気がするのよね」
アスカは腕組みして考え込むような表情になる。それはシンジも感じるところだった。レイが何もせず、真正面を向いて座っている様子を見ると、全身の産毛がそそけ立つ気分になることがある。
「さっきもさ、本当に家族のこと興味ないっていう感じだったじゃん。そんなのってある?」
「うーん……」
父とのことがあるだけにシンジには答えられない。本音を言えばありえないと言いたいところだ。
「何か、あいつ……。ちょっと可哀想、かな」
シンジははっとした。アスカの顔に、今までの彼女のイメージでは想像できないような翳が差した気がしたからだ。
しかしそれは一瞬のことだった。
「ま、いいけどさ。私には関係ないことだし。……私、もう寝る」アスカは立ち上がるとシンジを睨みつけた。「今、あんた私の寝姿想像したでしょ。絶対にのぞかないでよ!」
「想像してないし、のぞかないよ」シンジはため息をついて言った。

 □

そして、一日千秋の思いで待ちわびていた最終日。
まさにこの六日間はシンジにとってまさに地獄と言うべきものだった。
アスカはことあるごとにレイにつっかかるし、片やレイはことあるごとにアスカに嫌味、皮肉、当てこすりを言うのである。
その度にシンジが間に割って入り、その場を丸くおさめるのに最大限の努力を払うのだった。
心労のあまり日に日にシンジは食が細り、頬は痩せこけ、目は落ち窪み、あばら骨は浮き出て―というのは言い過ぎにしても、
これがあと一ヶ月続けば確実にその状態になっていただろう。
そんな地獄の日々も、今日で最後だ。

554: ◆IE6Fz3VBJU
09/09/07 23:49:07
幸いにもユニゾンの練習は二人とも口喧嘩を適度に―つまりシンジがくたくたに疲れる程度に―はさみつつも真面目にこなしていた。
最後はミサトさんも太鼓判を押していたから大丈夫だろう。いや、大丈夫に違いない、大丈夫であってくれ―シンジは心からそう願った。
万が一、失敗してもう一度N2爆雷投下で使徒の侵攻を阻止、その間にまた練習を―などという事態になったら、家出を真剣に考慮する羽目になる。
―これ以上は僕には無理だ。
横になり、音楽を聴きながらシンジはそう結論づける。
曲が変わった。
ふと、この前の家族の話を思い出した。
あのときシンジはレイの赤い目の奥に闇を見た気がした。
あるいは、どこまで続いているのか想像もできないし、底があるのかも分からない、暗くて深い海。
人間嫌いとか、孤独を好む性格とかでは言い表せない、とても異質なものがそこにはあった。
それはまるで人間とは―。
シンジは首を振った。これ以上はレイを侮辱することになる。
―綾波……。
シンジの胸がちくりと痛んだ。
それはないよな、とシンジは思う。
平気で犬を蹴ったり、家族がいなくてもさびしくない―というよりも、さびしいという感情が備わってないような物言い。
エヴァに乗るのは大人に自分の言うことを聞かせるため。
監獄よりも寒々とした、異様な部屋。
何より彼女はこの環境を嫌がっていない。自ら進んで受け入れている。
本当はイヤなんだけど仕方なくエヴァに乗っている、というほうがまだ救われる。
いや、それは自分のことか―とシンジは苦笑する。
―綾波が現状でいいのなら僕がとやかく言うことじゃないのかも知れない。
実際、レイが何か悩みを抱えているようには、とてもではないが見えない。
しかし、シンジは釈然としない。どこか痛ましいものをレイに感じてしまっている。
―綾波って、何を考えているんだろう。
考えるうちに、よく分からなくなってくる。

555: ◆IE6Fz3VBJU
09/09/07 23:51:18
と。
突然ふすまが開いた。
シンジは自分でも惚れ惚れするほどのスピードで音楽を止めて、眠っているフリをした。
柔らかい足音がして、次にどさりという身体が倒れこむ湿った音。
慎重に目を開いたシンジはその人物の正体を見た。
―アスカ!?
アスカが寝ぼけてシンジの寝床に入ってきてしまったのだ。
混乱するシンジ。アスカの寝顔がまともに視界に入ってくる。
黙っていれば貶すところのない美貌を見ていると、心臓が突然思いついたように自己主張をはじめた。
―どっ……どうしよう。起こしたほうがいいのかな。
やっぱり起こそう。
決心した途端にふすまが再び開き、シンジの身体が硬直した。
ミサトは残業でいないから、今度はレイしかいない。
―いったい何をしに? って、ちょっと待てよ、これは誤解されるシチュエーションではないだろうか。
弁解するべきか、それともいっそ眠ったフリをしたほうがいいのだろうか?
シンジの心は千々に乱れるが、とりあえず眠ったフリをすることにする。
しかし事態はシンジの思いも寄らない方向に向かっていった。
同じように足音がして、同じように身体が倒れこむ音がする。
―え?

556: ◆IE6Fz3VBJU
09/09/07 23:52:21
後ろを見ると、すやすやと眠るレイの白い顔が。
―い、いったい何だこの状況は!? 
シンジはふとあることを思いついた。
―まさか、これは……シンクロの成果!?
アスカとレイの身体から漂ってくる甘い香りで頭がくらくらした。
どちらに目を向けても柔らかそうな身体が目に飛び込んでくる。さすがのシンジもこれはたまったものではない。
―居間で寝よう。
そう決めたシンジは、ゆっくりと立ち上がって寝場所を移そうとした。
しかし―。
―!?
上半身を起こそうとしたとき、まるで狙ったようにアスカの足がシンジの足に乗っかってきて、シンジの動きを封じてしまった。
シンジが激しく動揺した次の瞬間、今度はレイの手がシンジの胸の上にどさりと乗ってきた。
―何でこんなことに……!?
シンジはケンスケの言葉を思い出した。前門の虎、後門の狼とはまさにこのことだ。
シンジは諦めて、仰向けになって必死に眠ろうとした。
しかし睡眠というのはこちらが手を伸ばすほど遠ざかってしまうものであり、結局シンジは朝までほとんど眠ることが出来なかった……。

557: ◆IE6Fz3VBJU
09/09/07 23:54:48

 □

作戦当日。
シンジは赤くなった頬をさすりながらミサトやリツコと発令所に詰め掛けていた。徹夜に近かったので、かなり眠い。
目ざとい加持はすぐに気がついた。
「おや、シンジ君。その頬は誰にぶたれたんだ?」
「……惣流ですよ」
起き抜けにアスカに平手打ちを食らったのだ。シンジは自分は悪くないと抗議したものの、弁解を許さないアスカに結局は謝罪することになった。
レイのほうは何も言わず、何もなかったかのように振舞っていた。実際特に何も感じていないのだろうとシンジは考えている。
それはそれで少しさびしいような気がしないでもない。
「君は女の子を怒らせるタイプなのかな? そうは見えないんだがなぁ」
「僕が悪いんじゃないんですよ!」
「……女の子を怒らせるタイプは加持君、あなたでしょ」と、ミサトが冷たく口を挟む。
「俺は君を怒らせるようなことをした覚えはないんだがな。むしろ喜んでもらえるような」
「あーはいはい、黙った黙った! もう、今日は作戦決行の日なんだから! ふざけていると出てってもらうわよ!」
加持はシンジと目を合わせると、大仰に肩をすくめてみせた。

……零号機と弐号機の蹴りが使徒のコアに同時に突き刺さり、破壊した。
「やった!」ミサトはガッツポーズを取り、振り返った。「シンジ君も大変だったでしょ」
ミサトはシンジを見て、くすりと笑った。リツコと加持も微笑を浮かべている。
緊張の糸が切れたのか、シンジは座り込み、壁に背をもたせかけて穏やかな寝息を立てていた。
「お疲れ様、シンジ君」

(続く)

558:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/07 23:55:35
楽しみにしてた黒レイきた、乙です

559:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/07 23:56:44
>>557
GJ乙なんだぜ

560: ◆IE6Fz3VBJU
09/09/07 23:57:30
題名もペンネームも思いつかないのでトリップにしました。

>>550
いえいえ、連続投稿規制というのがあって、エヴァ板の場合、最新の15レスのうち10レスが同じIPだと規制の対象になるらしいので(?)、
途中で書き込みしてくれるとありがたいです。

561:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/08 00:17:13
黒レイ氏も乙
今日はLRS投下まつりだな

とりあえず>>540氏のぽか波さん劇場に禿萌
そのシンジサイドのストーリーも見てみたいw
また続きまってます

562:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/08 00:18:38
面白いんだが、ちょっと動物虐待はいきすぎだと思った

563:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/08 01:23:39
>>562
漫画で猫絞め殺してるのに比べたらこれくらいは良いんでね?

黒レイ氏もぽか波氏も乙。

564:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/08 01:25:45
>>540GJ
危うくパシャるとこだったぜ

>>557GJ
シンジ君マジお疲れ様です

565:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/08 02:25:12
犬蹴るのはやり過ぎだ

566:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/08 08:28:51
ポカ波劇場良かった~!
幸せいっぱいトキメいて読んだ(*゚∀゚)=3


567:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/08 20:50:36
ぽか波さん、ほんとにぽかぽかした!
なんとなく彼氏に会いたくなりましたw
無理しない程度にまた書いてほしいです!

568:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/09 00:52:42
中学編でも見てみたいね

569:君のとなり
09/09/09 02:51:14
「……シンジ君、レイのこと好きだろう?」

僕の思考はフリーズ。

「え……あ、その」

しどろもどろになってしまう僕。
カヲル君はそんな僕に構わず続ける。

「どうしてなんだい?」

「なな、なんで?」

わかったの、と続ける僕を制してカヲル君は質問する。



「だからどうしてレイなんだい?」

「いや、だって……綺麗だし、一目惚れっていうか」

うんだって本当に綺麗だし、あの瞳も宝石みたいで吸い込まれs……

(って、はっ、僕はなんてことを)

流されるままに答えてしまった。
ああ、とうずくまりたくなる。



570:君のとなり
09/09/09 02:52:12
「君の態度を見てたら誰でもわかるよ」

カヲル君は追撃の天才だ。

さらに、本当に分かりやすかったからねとワンツーパンチのコンボ。
あまりの衝撃に僕は頭を抱えた。

(僕ってそんなに分かりやすいかなぁ……うぅ)


――というかあれだけ赤くなったり青くなったりしていたら誰でもわかるだろう。

そこまでの考えは僕の頭にはなくただなんで?とハテナマークでいっぱいだった。
恥ずかしくて顔から火が出そうだ。



「――おっとそうだ、僕とレイの関係だったっけ?」

そんな僕をひとしきり見つめたあと、突然思い出したかのように彼は言った。

「そうだね……何から始めたらいいか………」

そう言うと、少し首をかしげ考えこむ。
その仕草もかなり優雅というのか様になってる。
僕も見習いたいものだ………無理か。

そんなくだらないことを考えているうちに考えがまとまったようで彼はまた口を開いた。

「そうだね……僕たちは両親がいないんだ。いわゆる孤児ってやつかな」


571:君のとなり
09/09/09 02:53:16
「えっ……」

衝撃の告白で僕は何か聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がする。
カヲル君はそんな僕の様子を見て笑いながら、気にすることないよと言った。

「いやでも……ごめんね。そんなこと聞いちゃって」

「君は知らなかったんだ、しかたないさ」

そう言って笑うカヲル君。

見とれる僕。

店内を流れるおかしな空気―たぶんピンク色。

………いや僕にその気はないよ


「――それで僕らは京都の児童養護施設に住んでいたんだ」

それからカヲル君はどんどん話を続ける。

そこで綾波と一緒にみんなで生活していたこと。
子供たちの親と呼べる人―冬月さんは優しく生活は充実していたらしい。

「まぁなかなか楽しく暮らしてたんだけどね」

みんなとここで大人になるまで一緒に過ごす、そんな生活が続くと思っていた。

変化があったのは去年の冬だったそうだ。


572:君のとなり
09/09/09 02:54:32
突然の知らせ。
聞くとその人は綾波の遠い親戚らしい。
綾波の存在を風の噂か聞いたらしく、引き取りたいと申し出たそうだ。

「もちろん、僕たちは」

反対した。今まで一緒に育った家族と誰もが離れたくなかった。
家族と離れたくない、とその親戚にみんなで抗議もしたらしい。

「でも結局、駄目だったんだ」

―その人もそうとう頑固らしくてね、一歩も譲らなかったんだ。

「でも今はそれでよかったと思うよ、帰る家、ホームがあるという事実は幸せに繋がる。よい事だよ。」

でもそう言うカヲル君の目は少し寂しそうだった。

引き取られた後もちょくちょく電話で話したらしいが最近ちょっと様子がおかしいみたいだったから―

「様子がおかしい?」

「まぁね……まぁ原因も今日分かったから大丈夫さ」

それならいいけど、と僕はまた口を閉じる。

そしてカヲル君は話を続ける。

「そんなこともあって僕が代表として会いに来たんだ」

競争率は高かったけどね、と笑う。

573:君のとなり
09/09/09 02:55:55
そしていつのまにか頼んでいたコーヒーを啜った。

「これで僕の話は終わりさ」

そういうと、綾波もカヲル君も大変だったんだなぁなどと考えている僕をみてこう続ける。

「今度は君の話を聞かせてよ」

「えぇ!!」

「僕だけ話すなんてフェアじゃないだろう?」

うぅそうだけどさぁ。

「……何が聞きたいの」

なるべく簡単に答えられるやつで
僕はあきらめてそう言った。

「聞きたいことは一つだけさ……レイと君の関係さ」

どこまで進んでるのかなって、そう言ってまた笑う。
……誰かに似てると思ったら面白いことを見つけた時とミサト先生にそっくりだ。

「いっいやだよ」

一応抵抗はしてみる。
すると突然カヲル君は笑顔を引っ込め無表情になる。


574:君のとなり
09/09/09 02:56:38
「………………」

「………………」



重々しい沈黙



「………………一目惚れしてからはずっと後ろ姿を追ってみていました」


はい負けました。
降参です、勝てる気がしません。

(どうしてカヲル君にこんなこと話すんだろう…)

また心の中でさめざめと涙を流す。

するとカヲル君はまた笑顔になり、僕に洗いざらい聞いてきた。
でも結局見てただけということが分かるとつまらなそうだった。

「もっと積極的に行動すればいいのに」

いや無理です。
僕の心臓がもちません。

思ったことをそのまま口に出すと、

「いや、でも君が少しでも関わろうとしない限り、君の想いは伝わることはないよ」


575:君のとなり
09/09/09 02:57:20
「そうだけど……」

「君はレイのことが好きなんだろう?」

じゃあ行動するべきさ、とカヲル君は言う。

僕だって出来ることなら綾波と話をしたい。
僕のことを知ってもらいたいし、綾波のことを知りたい。
そしてできればこの距離を縮めたい。
君のとなりを歩きたい。

でも……

「僕には無理だよ……」

思わずつぶやく。
綾波に嫌われるのが、僕の気持ちが裏切られるのが怖いんだ。



「一時的接触を極端に避けるね、君は。」

突然話し始める彼。

「怖いのかい?想い人と触れ合うのが。」

そう、怖いんだ。綾波の想いを知るのが。

「他人の想いを知らなければ裏切られる事も、互いに傷つく事も無い。でも、寂しさを忘れる事もないよ。」

そうなのかな……

576:君のとなり
09/09/09 02:58:32
「人間は寂しさを永久になくす事はできない。ヒトは一人だからね。
 ただ忘れる事が出来るから、ヒトは生きていけるのさ。」

そこまで言うと真剣な表情でこう続けた。

「でも君の想い、気持ちは本物だろう?その想いを忘れてはいけない。
 もしその想いにきちんと向かい合うべきだよ。
 痛みは忘れることができるが、後悔はずっと残るからね。」

……そうだよね……僕だって後悔はしたくない。
僕の気持ちが裏切られるかもしれない。
でもそれでもいいんだよね。
だって今の僕の―綾波が好きって気持ちは本当だと思うから……

「ありがとう」

僕はいつのまにかそう言っていた。

「カヲル君と話せてよかった。」

本当にそう思う。

「僕もできるだけがんばってみるよ」

なんか少しだけ恥ずかしいな。
駄目もとだけどね、と照れ隠しにそう言って笑った。

「そう、常に人間は心に痛みを感じている。心が痛がりだから生きるのも辛いと感じる。ガラスのように繊細だね? 特に君の心は」


577:君のとなり
09/09/09 02:59:36
あれ?
カヲル君は僕の話を聞いてたのかな?
なにかよくわからないことをつぶやいている。

「好意に値するよ」

突然カヲル君の顔が近づいてきた。

「こ、好意?」

突然すぎてカヲル君の言葉がうまく理解できずにオウム返しをしてしまう僕。
 
それに答えようとカヲル君が口を開いた瞬間だった。

「……何をしているの?」

絶対零度の視線と声が僕たちに降りかかる。

「やぁおかえり」

気がつくといつの間にか手を握られていた。

「………取り込み中だった?」

さ、最悪だ……

そしてまた店内を重い空気が包み込んだ。

578:569
09/09/09 03:06:40
>>572 突然の知らせ。の前が抜けたぜヤッフゥー
「レイを引き取りたいという人が現れたんだ」
を各自脳内で書き込みしてください

>>540>>557の神職人さんGJすぎです
遅ればせながら参戦してみました
まぁ今回はぽかぽか要素0ですね
嫉妬シンジは次回に期待してください

579:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/09 03:18:11
乙なんだぜ!続き楽しみだ

580:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/09 04:38:07
いっぱい投下されている!
有り難いっス!

581:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/09 11:56:14
お題が有れば書くよ!(ただし学園系)


582:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/09 13:58:32
君とな氏の続き楽しみにしてました
何気にパなそうな綾波さんの描写が楽しみだw

冬月先生は京都で16人の孤児の面倒をみてたのかしらん



583:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/09 15:02:35
>>581
学校の帰り道に雨が降ってきて、レイがシンジを家に雨宿りさせる展開がみたい

584:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/10 03:29:48 8g6lUu1o


585:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/10 09:28:50
>>581
すれ違う両想い系でひとつ!
相手に恐怖を抱きつつお互いギクシャクして
自分の本当の気持ちに後から気付くシンジと綾波3人目で

586:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/10 20:06:24
二人称について質問させて。
綾波(三人目)は綾波(二人目)を何と呼ぶのが相応しいと思う?
「二人目の私」、「前の私」、「私」もしくは他?

三人目が死んだ二人目に嫉妬して悩むネタを考えているんだがスタートから躓いた。

587:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/10 20:55:17
「あの人」とか「彼女」とかの不特定名称を使いそうな気がする。

588:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/11 01:38:22
エヴァ2では零号機の中の人を「エヴァの中の私」って言ってたから
「二人目の私」、「前の私」とかじゃない?

まぁゲームだし当てにはならんかもしれんが参考程度に

589:10=581
09/09/11 10:54:54
>>583>>585

おk。このスレの内に完結させる。

590:586
09/09/11 16:54:56
ここはイタモノOKだっけ?
書いてたら倦怠期や嫉妬を通り越してというか無理心中しそうな綾波になってきたんだが。

591:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/11 16:58:56
>>590
ずいぶん前だが、ほんの少しだけ痛設定ありのを投下したら袋叩き ><

592:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/11 17:31:43
注意書きしていたもの駄目な人にスルー要請すればいいと思う

593:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/11 17:42:19
無駄。イタモノって表示したのに読んで火病を起こすアレな人だらけだから。

594:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/11 18:10:33
どう痛いのか説明プリーズ。
寝取られ系だけはノーサンキュー

595:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/11 18:50:18
やっぱ止めといた方が無難ですね。


内容的には昼メロにありがちなネタで、
平和になり周囲に祝福されてシンジと交際していた綾波(三人目)が、
シンジが本当に好きなのは二人目の方だと知ってヤンデレ化するような感じ。
鏡に二人目の日記帳を叩き付けて「私はあなたの代わりじゃない!」とか。

596:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/11 19:45:23
ノンジャンルに行け

597:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/11 19:46:02
俺としては全然有りなんだが。

598:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/11 19:57:24
ノンジャンルには一人LAS作者がいるからな
もしかしたら比較されるかも

599:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/11 23:21:29
っつーか、イタモノの定義って何さ?

600:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/12 13:30:54
イタモノの定義なんて人それぞれだしな
がっつり注意書きして苦手な人はスルーじゃ駄目なのか?

601:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/12 15:48:45
注意書きすればいいってもんじゃないと思うがね

602:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/12 17:42:46
注意書すればまったく問題無いだろ

603:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/12 17:44:11
いるからな。イタモノ苦手な人は読むなと書いてあるのに読んで、許せないとか
騒ぎ立てるクレーマーが。

604:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/12 23:09:14
そんなクレーマーなんぞスルーして職人にはどんどん投下して欲しいよ

605: ◆IE6Fz3VBJU
09/09/13 00:06:58
>>557

9.

マヤは誰もいない休憩室で、一人落ち着かない様子で待っていた。普段なら温かい紅茶かコーヒーを飲むところなのだが、
今はそんな気にはなれなかった。今は―待ち人が綾波レイであるときは。
ため息をつくと、壁掛け時計を見て、誰もいないと分かっているのにきょろきょろと部屋の中を見回す。
以前のことを思い出したのだ。椅子の下も確認したくなるが、さすがにそれは我慢した。
ここの休憩室は、十畳ぐらいのスペースで、長椅子と湯沸かし器、自動販売機がある程度の、小ぢんまりした空間だった。
他にもっと大規模の休憩所があり、たいていの職員はそちらで休んでいるから、こちらは空いていることが多い。
とはいえ、いつ誰が入ってくるか分からない。マヤに落ち着きのない原因の一つだった。
もう一つの理由―。すでに約束の時間を二十分ほどオーバーしている。
今回の用件を考えると、なるべく早く済ませて帰りたいのだが……。
マヤが腰を浮かせ、いったん外に出ようかと思ったとき、ドアがシュッという音を立てて開いた。
「レイちゃん」
マヤの声に安堵の色が混じる。
レイは遅れた詫びなど言う素振りも見せず、マヤのもとにつかつかと歩み寄ると、無造作に手を伸ばした。
マヤはその小ぶりな手にひるみつつも、脇に抱えたファイルの中からホッチキスで数枚綴じてある束を抜き出して、レイに差し出した。
「これが、アスカちゃんの個人データ。その……悪用は、絶対にしないでね?」
我ながら白々しい物言いだとマヤは思う。悪用しないわけがないのだ。そのためにマヤに頼んだのだから。
「何でこんなに時間がかかったの?」
「それは……プロテクトを解除するためのプログラムを一から作らなくちゃダメで……。プリントアウトしたのもコピー禁止までは解除できなかったの……」
レイの赤い目はすべてを見通すかのようにマヤには思われた。
「ほ……本当ですよ!」
「別に嘘とは言ってないけど」
レイは唇の両端をほんの少し持ち上げた。

606: ◆IE6Fz3VBJU
09/09/13 00:09:56
「う……」
「ま、信用するわ」レイは肩をすくめる。「それじゃ、伊吹さん。ごきげんよう」
「あ、あの。写真は……」
「大丈夫。厳重に保管しておくから。ごきげんよう、伊吹さん」
ううう、と泣きべそをかきながらマヤが退場すると、レイは長椅子に座ってアスカの個人データを読みにかかった。
すぐにレイの瞳が強い光を放ちはじめた。
―あらあら。ずいぶん面白いトラウマを持ってるのね。まるで人間みたいじゃない。
くすくすと笑い出した。
レイは、またしてもいいオモチャを手に入れたのだった。

家に帰り、電気を点けて自分の部屋を見回すと、微妙な違和感を覚えた。
最近―具体的に言うならミサトのマンションから戻ってからだが、どういうわけか、部屋が広く感じられることがたまにあるのだ。
これはおかしいことだった。ミサトの部屋はここよりも広かったのだから、前よりも狭く感じるのが理屈だろう。
なのになぜ広く感じるのか。
それに―。
静かだ。
観光客も訪れない、学者の調査も入らない、死者のみがひっそりと眠る古代の遺跡のように。
あるいは海の底のように、静かな場所。
いや、静かなのは前からだ。この静謐さを以前は認識していなかっただけだ。
静かに感じるのは、うるさいところから帰ってきたからだろう。これは分かる。理屈に合っている。
ただ、それだけのことだ。大した意味はない。
レイは首を振った。
そう。
私は、何も思わない。
何をどうとも、思ってはいない。

まどろみに落ちる前に、今日もリツコから渡された錠剤を飲むのを忘れていたことに気がついた。
別に意識して、ということではないのだが、最近飲まないことが多くなっている。
明日にしよう、とレイは眠りに落ちる寸前に思う。
明日に―。

607: ◆IE6Fz3VBJU
09/09/13 00:11:59

 □

レイは思いきりよく飛び込んだ。水飛沫がほとんど飛ばない。人の身体が水の中に勢いをつけて入ったとは思えないようなスムーズさだった。
クロールも平泳ぎもせずに、ただひたすら潜水で水中を進む。
水の感触や、冷たさが心地いい。
それに、水の中だと自由になれる気がして気持ちよかった。もっとも、別に陸の上で不自由を感じているわけではなかったが。
―場所は室内プール。修学旅行に行けない三人のために、せめて気分だけでもとミサトが勧めたのだった。
壁際まで進むと、いったん浮上して大きく息を吸う。
ふと、いつもゲンドウと行っている実験のことを思い出す。実験とは言うが、レイはあれが何であるのかは分からない。仮に、実験と言っているだけだ。
LCLで満たされた容器の中でぷかぷかと浮いているだけ。
あれは一体何のためにやっているのだろう。小さいころからの、ほとんど習慣化された行為ゆえに、何の疑問も持たなかった。
そういうものだと思っていたのだ。
いくつの頃だったか、一度訊いたことがあるが、ゲンドウは「身体のためだ」と言ったきりだった。「お前は特別なのだ」とも言った気がする。
特別であることに異存はなく、それきりだった。別に害があるわけでもない。
自分がかなり自由に行動していることは自覚しているので、その代償と無意識のうちに考えているのかも知れない。
レイはふたたび潜水して、向こう側を目指す。
ひょっとするとゲンドウは自分に性的な欲望を抱いているのだろうかと疑問に思ったことがあった。
そうではないのはすぐに分かった。ゲンドウは違うものを見ている。それが何であるのかは分からないが、自分―綾波レイを見ているのではないことは確かだった。
ゲンドウと言えば、何かのときのために、密かに設置したビデオカメラで容器に浮かぶ自分を見つめる姿を隠し撮りしてある。
ロリコンの変態の汚名を着せられたのでは司令の座は保てないだろう。
保険は常にかけておくものだ。
レイはプールから上がると、タオルを手に身体を拭きながら、おかしなことだと思った。
普段はこんなことを考えたりしないのに。水の中に入ったせいだろうか。

608: ◆IE6Fz3VBJU
09/09/13 00:13:49
レイの思考は二人の―シンジとアスカの声に遮られた。目も自然と二人の方に向けられる。
アスカがシンジにのしかかるようにしてシンジのPCを覗き込んでいた。
会話の内容を聞くと、宿題のことらしい。
「熱膨張? 幼稚な事やってるのね。とどのつまり、ものってのはあたためれば……」
「そりゃそうだけど……」
「あたしの場合、胸だけあたためれば、少しはオッパイが大きくなるのかな?」
「そ、そんなこと聞かれたって、分かんないよ!」
シンジは顔を赤らめている。
―?
レイは眉をしかめ、胸を手でおさえた。胸の辺りが息苦しい感じがする。先ほどまでの快適な気分は消え去って、不愉快になっていた。
プールサイドに場所を移したアスカに、シンジはちらちらと視線を送っている。
「見て見てシンジ、バックロールエントリー!」
アスカが能天気なかけ声とともにプールに入り、派手な音と水飛沫が飛んだ。
レイは顔を背けると、レイの身体にはやや大きめのデッキチェアに身を横たえた。
天井を見上げる。何故だか分からないがむかむかする。何か―悪いものでも食べたのだろうか? 
人の気配を感じた。
「綾波」
シンジだった。いつもの気弱そうな微笑を浮かべている。拒否されたらどうしようかと考えているような、弱い笑み。
シンジはおずおずと向かいの椅子に腰をかけた。
「大丈夫? 気分悪くない?」
レイはシンジの観察眼に少し驚いた。ぼーっとしているようで、意外とよく見ている男だ。
「ええ、大丈夫。久しぶりに泳いだせいかも知れない」
「あまり無理しないほうがいいよ」
レイは黙っていた。無理をしたつもりはないし、指図されるのも嫌いだ。
二人はしばらく沈黙する。アスカのはしゃぐ声が室内に響いている。
―うるさい猿だ。
レイは心持ち苛立ちを覚える。
どこかに行けばいいのに。

609: ◆IE6Fz3VBJU
09/09/13 00:15:43
シンジはアスカに少し目をやり、それからレイに戻した。
「修学旅行、残念だったね」
「別に」
あんなものに行く気は毛頭なかった。ばかばかしいことこの上ない。
「綾波は、どこかに旅行に行きたいと思わない?」
「別に」と、レイは同じ言葉で答える。
シンジはつれないレイの返答にも意に介した様子を見せず、
「行き先は沖縄だって。海がすごく綺麗らしいよ。……いや、綾波、さっき気持ちよさそうに泳いでいたから。沖縄とか行って泳いでみたいんじゃないかって思って」
「……見てたの?」
自分が動揺していることに気がついて、レイは驚いた。さらに驚くことに、動揺は怒りには繋がらなかった。
「い、いや、その……」シンジは赤くなった。「別に見てたってわけじゃなくて……。ただ、綾波のああいう表情って見たことなかったから」
「……そう」
「あ、もうこんな時間だ」シンジは話題を逸らすように、「お昼にしない? お腹空いたよ」
「ええ、そうね」と、レイはうなずいた。
それから不思議そうに首をかしげ、小声で「あれ……?」と呟いていた。
いつの間にか、胸の痛みも、息苦しさも、不愉快な気分も消えていた。先ほどの快適な気分が戻っている。
いや、むしろ前よりも気分がいいくらいだった。
たぶん―。
レイは深くは考えなかった。
たぶん、気のせいだったのだろう。

 □

浅間山地震研究所。
使徒観測という想定外の目的を達成するために限界を超えて沈降させたため、観測機は圧壊した。
いきなり押しかけてきて、無理難題を言う部外者への反感から生じる冷たい空気は、むろんミサトには通じなかった。
「解析は?」
「ぎりぎりで間に合いましたね。パターン青です」
「間違いない。使徒だわ」
ミサトはうなずいた。観測機もこれで報われたというものだ。
研究所はネルフの管轄下に置かれたことを宣言し、ミサトは電話をかけるために部屋の外に出た。

610: ◆IE6Fz3VBJU
09/09/13 00:16:33

 □

「これが使徒?」
召集されたチルドレンの目には、巨大な卵の中に眠る、奇怪な胎児のような姿が映っている。
リツコはかすかにうなずいて言った。「そうよ。まだ完成体になっていない蛹の状態みたいなものね」
リツコの説明をBGM代わりにして、三人はじっとスクリーンを見ている。
「今回の作戦は使徒の捕獲を最優先とします。できうる限り原形をとどめ、生きたまま回収すること」
「できなかったときは?」
「即時殲滅。いいわね?」
「はい」
「作戦担当者は……」
アスカはぴょんぴょんと飛び跳ねながら元気よく手を挙げた。
「はいは~い、私が潜る!」
シンジが横目でアスカを見る。何かを諦めているような―同時に何かを期待しているような顔。
しかし、次のリツコの台詞を聞いて意外そうな表情になった。
「アスカ。弐号機で担当して」
「はーい! こんなの楽勝じゃん!」
レイには好都合な話だった。レイが好むのは肉弾戦による殲滅だった。水の中ならともかく、マグマの中になど潜りたくない。
アスカが潜りたいのなら好きなだけ潜ればいい。
もっとも零号機には特殊装備は規格外なので、もともとレイの可能性はなかったのだが。
「レイは……」
リツコとレイの視線が合う。
「……レイも一緒に来てもらいます。初号機と火口で待機してちょうだい。零号機にはD型装備は取り付けられないけど、万が一アスカが捕獲できなかったときの―」
リツコの言葉を耳にして、アスカが頬をぷっと膨らませた。
「私、失敗なんかしない! バカシンジじゃあるまいし! 縁起でもないこと言わないでよね!」
「失敗するなんて思ってないわ。でも、万が一に備えるのが大人なのよ、アスカ」
「ふん」と、アスカはそっぽを向いた。

611: ◆IE6Fz3VBJU
09/09/13 00:17:19
レイは相変わらずのアスカの子供っぽさに少し呆れる。
保険はつねにかけておくものだ。賭け金が多いときは、特に。
アスカはレイの視線に気がついたのか、レイの方を見て、「いっとくけど、あんたの出番なんかないからね」と宣言した。
「……だと、いいわね」
「なによ、その言い方」
「まぁまぁ、二人とも」と、シンジが即座に仲裁に入る。先ごろさんざん経験したので、パブロフの犬のように反射的に割って入ってしまうのだった。
……当初はレイは本部で待機のはずだった。それを読んだレイが、自分も出撃させるよう、リツコに掛け合ったのだ。
だいたい本部で待機など意味の無い行為だ。第3新東京市の迎撃システムはいまだ復帰の途中であるし、そもそもが大して役に立たない。
つまり、使徒をどこで迎え撃つか、場所は浅間山だろうが第3新東京市だろうが大して関係ないということだ。
それなら戦力を分散するより、初号機と一緒にいたほうがいい。
以上の理屈をもって、レイは「ある行為」と引き換えに同行を要求した。
D型装備を見たアスカの行動など簡単に予測できる。その対応を自分がやってやろうというのだった。
「……まぁ、分かったわ。もしアスカがそういう行動に出て、あなたが阻止できたら許可します」
リツコはやや訝しげだったが、とりあえずはそう答えておいた。

「いやぁぁぁ! なによ、これぇ!」
案の定―耐熱仕様のプラグスーツに格好悪いだのダサいだの大騒ぎしたあと、D型装備を身に着けた弐号機を見て、アスカは金切り声を上げた。
加持のさりげない誘導にもアスカの意志は変わらないようだった。
レイは笑いを堪えるのに苦労する。まったく、予想していた通りに動いてくれるのだから笑いも漏れるというものだ。
レイは、僕が……と言い出したシンジを抑えて手を挙げた。
「私が弐号機で出るわ」
またしても予想通りにアスカは行動した。レイが挙げた手を振り払って、鋭い声で言った。
「あなたには私の弐号機に触って欲しくないの、悪いけど」
それからリツコのほうを向いて、
「ファーストが出るくらいなら私が行くわ」
リツコを思わずレイを見た。レイの赤い目はこう言っていた。
ほら、私の言った通りでしょう?

612: ◆IE6Fz3VBJU
09/09/13 00:18:45

 □

限界深度まで潜っても使徒は見つからなかったが、レイにはどうでもいいことだった。
ミサトはさらなる沈降を命令したようだ。
どうせなら底まで潜ってしまえばいいのに―とレイは思う。そこで一生暮らしていればいい。
と―。
レイのモニターにもアスカの見ている映像が映っているが、何かがいた。
どうやら使徒を発見したようだ。しばらくののち、
「目標、捕獲しました」
全員の安堵のため声が聞こえてくるようだった。
「アスカ、大丈夫?」
シンジの無線がレイの耳にも届く。
レイはふと違和感を覚えた。違和感の正体はすぐに分かった。
アスカ?
いつの間にあの猿を下の名前で呼ぶようになったのだろう?
「あったり前よ、案ずるより生むが易し、てね。やっぱ楽勝じゃん? でもこれじゃあ……」
アスカは緊張が解けたのか、いっぺんに喋りだした。
「ちっ」
レイは舌打ちした。面白くない。こんなことならわざわざ出向くことはなかった。ばかばかしい。
天井を見上げて顔をしかめたレイだったが、突然鳴り出した警戒音に反射的にモニターに目をやる。
使徒が羽化をはじめたのだった。
―面白くなってきたわね。
レイは目を細めて事の成り行きを見守ることにした。

613: ◆IE6Fz3VBJU
09/09/13 00:20:27

……しかし、レイの期待通りには展開しなかった。
―なんだ、詰まらない。
アスカが機転をきかせて使徒を撃破した。してしまったのだ。
アスカの得意顔など見せられてはたまらない。レイがモニターを切ろうとしたとき、そのモニターに、アスカが見ているのと同じ光景が映し出された。
弐号機と地上を結んでいるケーブルが、次々と切れていく光景が。
ただの偶然か、それとも最期のあがきか、弐号機に食いついていた使徒が死に際にちぎっていったのだ。
思わず手を叩きそうになる。
―さ・よ・な・ら。弐号機パイロット。口ほどにもなかったわね。最期にあなたがあげる悲鳴を心ゆくまで味わってあげるわ。
レイは、唇の両端を吊り上げた。やはり来てよかった。最高の瞬間が見られるのだから。
しかし、次の瞬間―。
「!?」
レイは目を見開いていた。
滅多にないことだが、レイは心の底から驚愕していたのだった。
モニターには初号機の姿が映っていた。
アスカを助け出すために、マグマの中に飛び込んだ、初号機の姿が。
「何……やってるの……」
レイは呆然と呟いた。
「何やってるの、碇君!?」

614: ◆IE6Fz3VBJU
09/09/13 00:22:05
脳裏にシンジの笑顔が浮かんだ。
……綾波が無事で、良かったよ。
―何が無事で良かったよ、だ。
―誰でもいいのか。
誰でも助けるのか。
レイは操縦桿を力いっぱい握り締めた。怒りのあまり、目の前が白くなる。
いや。違う。目の前で同僚がピンチになったいるのだから、助けるのは当然だと言える。
シンジはレイではない。レイは助けたりはしないが、レイ以外は誰だってそうするのだ。
だから。
だから、これは別に怒るようなことではない。
しかし、気分が悪いのは事実だ。怒っているのは事実だ。
どうして私は怒っているのだろう? その理由を考えるのは大事なことのような気がした。
レイは珍しく、自分の心を探る。マグマのように煮えたぎっている、自分の心の中を。
―。
そうか。
私は、別に、碇君が猿を助けたことに怒っているのではない。
猿が助かったことに気分を害しているだけだ。
それだけのことだった。それだけのことだったのだ。
考えてみると、あっけないほど簡単なことだった。急速に怒りもおさまってくる。
―?
レイは胸をおさえた。また胸が痛くなったのだ。刺すような痛みだった。
さっきは気のせいだと思ったのに。
一時的にしろ、激怒したせいだろうか?
あまりこういうことが続くようだと、医者に診てもらう必要があるかも知れない―レイはぼんやりとそう考えていた。

615: ◆IE6Fz3VBJU
09/09/13 00:23:07

リツコは、こつ、こつとペンで机を叩きながらモニターに映るレイの表情を見ていた。
いや、ただ見ていたわけではない。
観察していたのだ。薄い笑みを浮かべながら、貴重な研究対象を観察するように、レイを見ていた。
その細められた目がどんなことを読み取っているのかは、誰にも分からないことだった。

エヴァから降りたシンジとアスカはひとしきり話し込んでいる。
なぜか助けられた方が偉そうだ。
「これで私に貸しが出来たとは考えないことね。貸し借り損益計算書を調べたら、まだまだ私のは大幅な黒字、あんたのは大幅な赤字なんだからね!」
「そんえき……? ……まぁ、分かってるよ。別に貸しとか、思ってないから。今度僕がピンチになったら助けてもらうよ」
「ふん! 男のクセに女に頼ろうっての?」
「いや、別にそういうことを期待してるわけじゃないんだけどな……」
苦笑していたシンジだったが、立ち去ろうとしていたレイに気がつくと、慌てて駆け寄ってきた。
「綾波! これからみんなで、温泉に行くんだって。綾波も……来るよね?」
「私は行かない」
「え……」
てっきり了承の返事が来るものと思っていたシンジは、意外な反応に固まってしまう。
「弐号機パイロットと一緒に行けばいいじゃない。温泉ですって? ちょうどいいわ、背中のノミでも取り合いっこすれば?」
レイは呆気に取られているシンジを振り向きもせず、足取り荒く格納庫から出て行った。

(続く)

616: ◆IE6Fz3VBJU
09/09/13 00:25:43
今までだいたい1週間に1話程度のペースでやってきましたが、作りためておいたのがなくなってしまい、そういうわけにもいかなくなりました。
全15話か16話、2週間に1話投下で今年中に終わることができたらいいなぁ……と思っています。

617:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/13 00:30:52
乙です、黒レイを一番楽しみにしてます。がんばってください

618:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/13 00:49:51
GJそして乙
期待して待ってるから、ゆっくりでも頑張ってね

619:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/13 06:17:55
>>595
最終的に甘くなれば最高

620:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/13 07:00:07
乙です。
そしてリツコが何考えてるのか怖エェ。
ていうか、リツコにしてみれば憎しみの対象でもあった母をいたぶるための最良の駒
だと思いながらレイを見ていても不思議じゃない。

621:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/13 08:55:49
>>616

GJ!

リッちゃんは気づいたのに、当の本人がまだ良く分かってないw
黒レイかわいいよ黒レイ

622:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/13 11:12:10
気付いちゃったらマジでアスカ殺しかねないなこいつは・・・。

623:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/13 22:28:35
黒レイの変化に期待

>>595
ちょっと読みたくなってきた

624:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/13 23:39:00 3Of2xGLs
面白い。
こういうレイもいいですね。
期待。

625:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/14 07:33:13
>>616
GJ! アスカにはどんどん黒波さんを嫉妬させて欲しい
リツコの動向も気になる

626:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/14 17:00:08
黒レイ、いよいよ変化が大きくなってきて展開が俄然気になってきた
次の投下楽しみに待ってますわ

627:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/14 19:49:23
>>616
さすがの上手さですね
今後も期待しています

628:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/15 05:18:21
>>616 の大人気ぶりにワロタ

629:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/18 08:54:09
このスレの作品って誰が保存するの?

630:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/18 13:37:34
>>629
いない

631:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/20 21:59:40
保守

632:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/22 21:33:48
hosyu


633:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/23 22:12:08 dx/OQ/EC
投下期待age

634:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/23 22:21:11
>>616
焦らずゆっくりと推敲に推敲を重ねてお願いします
期待してます

635:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/23 23:30:16
黒波さん、もうすぐなのかな。楽しみワクワク

636:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/24 07:51:10
>>629
久々更新来た
URLリンク(lrs.s282.xrea.com)

637:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/26 19:36:42
ほす

638:634
09/09/27 18:12:07
早く投下してんか!

639: ◆IE6Fz3VBJU
09/09/28 01:13:39
>>615

10.

相も変わらずうんざりするような快晴の日だった。居丈高な太陽の周りを、申し訳程度の雲が臣従のように取り巻いている。
その青空の下、レイは手ぶらで通学路を歩いていた。教科書や勉強道具などは学校に置きっぱなしなのだ。勉強など大してしなくても
テストの成績はいい。学校に出席しなくてもうるさく言われない所以である。
同じクラスの男子生徒が数人、レイの少し前を歩いていた。レイには気づいていないようだ。
特に聞き耳を立てているわけではないのだが、自然と話し声が耳に入ってくる。
「碇のやつさぁ、惣流と同棲してるんだってよ」
「本当かよ! まったく羨ましいよなぁ。美人の司令官と一緒に住んでるって話は聞いてたけど」
「司令官じゃなくて大佐だって話だぜ。いや、大佐じゃなかったかな?」
「まぁ、そこら辺はどうでもいいけどさ」
「相田くらいだな、気にするのは……。あいつら、もうキスとかしてるんじゃねえの?」
「何だかんだいって仲良さそうだからなぁ。惣流、碇と話してるときが素って感じ、するんだよな」
「俺もそう思う。いいよなぁ。羨ましいよなぁ」
レイは足を止めた。俯いて、少しの間、そこに立ちつくしていた。
みしり―と、何かが軋む音を、レイは聞いたような気がした。

教室に入ると、シンジとアスカはもう来ていた。もっとも二人が早いのではなく、レイがいつものようにぎりぎりで登校するだけの話なのだが。
二人は何か口喧嘩をしているようだった。あれで仲が良いのだろうか、とレイは不思議に思う。とてもそうは見えない。いつも言い争いばかりしている。
……もうキスとかしてるんじゃねえの?
別に、したければいくらでもすればいい。
私には関係のないことだ。
レイは頬杖をつき、窓の外の青空と空に浮かぶ雲を見て―眉を顰める。雲の形が気に入らなかったし、抜けるような青空も逆に嘘臭くて気に障る。
「だいたい何で僕がアスカの持ち物まで気にかけなきゃいけないんだよ! 忘れたのはアスカの自業自得だろ!」
「うっさい、レディに気をつかうのが男ってもんでしょーが!」
うるさいのはあなたよ、とレイは思った。少しは黙っていられないのか。
「誰がレディだよ、まったく……」
シンジの呆れたような反論に、生徒の何人かが含み笑いを洩らした。

640: ◆IE6Fz3VBJU
09/09/28 01:15:29

昼休みになり、今日の昼食はどうしようかとレイは考える。食欲がなかった。買いにいくのも面倒だ。
思い返すと、ここ最近は学校に来ている。ここ最近―碇シンジが転校してきてからだ。
以前はよく休んだり、登校しても昼で帰ったりしていたものだが。
しかし―。
―今日は気分も悪いし、久しぶりに早退してしまおうか。
決断すると即行動に移るのがレイの性分である。
腰を浮かせた、その時―シンジに声をかけられた。
「綾波」
「―何?」
自分でも不機嫌だと分かる声音。なぜ不機嫌なのかは分からない。
「これ」シンジは右手に持っていたものをレイの机の上に置いた。「お弁当。良かったら……食べて」
シンジはレイの不審気な表情を見て慌てて付け加えた。
「いや、アスカとミサトさんの分、僕が作ってるんだ。一人分増えても大した手間じゃないから」
レイは黙って弁当箱を見る。
「えーっと。いらない?」
「……いえ。もらうわ」
レイの無表情が少し崩れた。何かシンジに言うことがあるような気がして、口を開きかけたのだ。だが、考えているうちに、
シンジは「じゃあ」と言って自分の席に戻ってしまった。ジャージとメガネに囃し立てられているようだ。
その様子を横目で見ていると、アスカと視線が合った。面白くなさそうな顔をしていた。ふとアスカの手元に視線をやると、
弁当箱の下に敷かれているのは、レイの目の前にあるのと同じ模様のランチクロスだった。
視線を正面に戻し、レイは弁当箱に手をかける。
その日は結局、早退せずに、最後まで授業を受けた。

641: ◆IE6Fz3VBJU
09/09/28 01:16:36
 □

「ん?」
あれ、という顔でシンジは手に持った受話器を見た。

「それは碇司令、ホントに忙しかったんじゃないの」と、先頭を行くアスカが言った。
シンジが、ゲンドウとの電話中に、急に回線が切れたという話をしているところだった。
「そっかなー、途中で切ったっていうより故障した感じだったけど」
シンジはいまいち納得がいかない様子だった。もっとも、実際に耳にした者でなければこの違和感は分からないかも知れないとも思う。ぶつり、という音も聞いたような気がする。
「も~、男のクセにいちいち細かいこと気にするのやめたら?」
アスカが眉をしかめ、呆れたように言った。
レイは二人の様子を、最後尾で黙って見ている。陽炎でゆらめく二人の背中が、やけに遠く感じられた。

「下で何かあったと考えるのが自然ね」
何度押しても反応のない電子ロックのテンキーから指を離し、レイはまるで関心の無いような口調で告げた。
カードも通らないし、どの入り口も開かない。非常回線も使えないという異常事態だった。
何はともあれ、本部に行かなければ話にならない。
三人は、第七ルートから本部に入ることにした。

 □

「しっかし、ちょろい相手だったわね。あんなのばっかりだったら物足りなくてしょうがないわ。オードブルだけ食べて帰らなきゃいけない感じ?」
アスカは首の後ろで手を組み、壁に背中をもたせかけ、組んだ脚をぶらつかせながら言った。
「え……大変だったじゃないか」と、シンジは少し目を丸くする。
実際、いつものようにレイとアスカの仲裁に奔走したシンジにとっては、大変どころの話ではなかった。エヴァに搭乗できてホッとしたくらいなのだ。
レイとアスカの諍いがあまりに頻繁なので、仲裁に入るスピードも手法もだんだん手馴れてきていることに少し複雑な気持ちになるシンジだった。
「バカね。それは停電という状況がタイヘンだっただけで、敵自体は楽勝だったじゃん。あんた程度のライフルで片付くくらいなんだし」
「別に、誰のライフルでも一緒だと思うよ」
「うっさいわね。私が撃つライフルの方が威力が凄いし、射程距離だって長くなるのよ! 私みたいに美しい乙女が撃つ方がライフルだって喜ぶでしょ?」
「滅茶苦茶な話だ……」

642: ◆IE6Fz3VBJU
09/09/28 01:18:19
三人は溶解液で侵入を図った第九使徒を撃退したあと、そのままネルフ本部で待機を命じられていた。
何があるか分からないからというのがその理由で、アスカもシンジもそれで納得しているようだが、使徒の件が片付いた以上、
単にパイロットに構っている暇がないだけではないかとレイは疑っている。ここにいるのが飽きたらすぐに帰るつもりだった。
「それにしても暑いわねぇ……。電源はまだ回復しないの?」
アスカがぱたぱたと手であおぐ。
「予備は回復してるよ。ここの電気も付いてるし。本格的な復帰はもうちょっとかかるらしいよ」
アスカはあっそ、と返答するとレイに視線を向けた。
「あんたはいつも涼しそうでいいわね、ファースト」
レイは無視を決め込んだ。確かに涼しげに見えるレイだが、暑さを全く感じないわけではない。その証拠に今も暑さのせいで苛々している。アスカを無視しているのも、まともに相手にすればますます暑苦しくなるからだ。
「いかにも冷血人間って感じだし、暑さも感じないんでしょうね」
無視を続けるレイに、普段ならさらにつっかかるアスカだが、この台詞だけ言って素直に引っ込んだ。
どうやら機嫌がいいらしい。
「それはともかく! シンジ、これであんたに借りは返したからね」
借りを返す? なんのことか分からずにレイは首をひねる。しばらく考えて、やっと分かった。
浅間山で助けられたことか。
レイは借りを作るとか、恩に着るといった思考をしないので、とっさには思いつかなかったのだ。
シンジはアスカの言葉を聞いて、苦笑いのような笑みを浮かべた。
二人に何か通じ合うものがあった―ようにレイには思えた。
それが直接のきっかけになったのか、あるいは単に荷物を限界まで積んだロバに最後に乗せた藁の一本だったのかは分からない。分からないが、この時レイは無意識に決意したのだった。
アスカはおもむろに立ち上がると、出口に向かってどかどかと突き進みはじめた。
「あーもう我慢できない! シャワー浴びてくる!」
「でも、たぶんお湯は出ないと思うよ」
「水は出るでしょ? それで十分!」

643: ◆IE6Fz3VBJU
09/09/28 01:20:53
アスカはいったん外に出たものの、すぐに顔をのぞかせて、「のぞかないでよ! のぞいたら殺すから」と鼻に皺を寄せて宣言した。
「のぞかないよ!」まったく、とシンジは肩をすくめて、「……参っちゃうよね、アスカにも」
所在なさげになったシンジが少し笑いながらレイに話しかける。
「だいたい、自意識過剰なんだよな……。そうそう、この間僕が……」
「知ってる? 碇君。弐号機パイロットの過去」
レイはシンジの言葉を遮った。
「え?」
「教えてあげる」
……それからレイはアスカの過去を詳細にシンジに語った。くすくすと笑いながら語った。途中で可笑しさに耐え切れず、たびたび中断した。
「―それで、自分の母親が首を吊ってるところを見たんだって」
あはは、とレイは声を立てて笑った。
おかしいね。
おかしいよね、碇君。
どんな気持ちだったんだろうね。
私は親がいないから分からないけど、母親がそんなことになって、どんな気持ちだったんだろうね。
夢にも出てくるんだろうね。
碇君、照る照る坊主でも吊らしておいたら? あの猿が見たらびっくりするわよ、きっと。
そんなことを言いつつ、レイは笑った。話す内容さえ脇に置けば、女子中学生らしい、純真そうな笑いだった。
ひとしきり笑い―レイは真顔に戻る。シンジはまったく笑っていなかった。青ざめた顔で、レイを見ていた。
「綾波……」喘ぐように、シンジは言った。「そのこと……絶対、アスカには……、いや、僕以外の人に喋っちゃ、ダメだよ」
レイの唇が少し歪む。指図されるのは大嫌いだった。たとえ誰であろうとも、どんなことであろうとも。
「絶対に、ダメだ」
「私の勝手だから」
レイは、吐き捨てるように言った。
そんなの、私が決めることだから。
「ダメだ! 綾波!」
突然の怒鳴り声にレイは驚いた。他人に向かってこういう風に怒鳴る男だとは思わなかった。
シンジに抱きつかれるほうが、まだしも驚かなかったろう。

644: ◆IE6Fz3VBJU
09/09/28 01:22:24
レイはカッとなる。
よりによって、この自分に向かって。
「ダメ? 碇君、あなたどんな権利があって私にそんな事言うの?」
レイの声がきつくなる。他人に怒鳴られて大人しく引っ込むレイではない。
「綾波、君は……人の気持ちが、分からないの……?」
レイは首を傾げた。私が、人の気持ちが分からないですって? おかしなことを言う。
「人の気持ちなんて分かるわ。弐号機パイロットは嫌がるに決まってる、触れられたくないことに決まってるわ。ほら。私には分かる。簡単に分かる」
「……いや、違うんだ、綾波。そういうことじゃない。そういう……ことじゃないんだ」
シンジは違うんだ、と繰り返し言った。違うんだ、綾波。違うんだ……。
「なら、何?」
「人の……嫌がることを言ったりしちゃいけないんだ」
シンジはまるで眩暈がしたようにふらりとよろめいた。親指と人差し指でこめかみを押さえている。
「なぜ? どうして人の嫌がることをしちゃいけないの? 私がしたいんだから、いいのよ」
「綾波……」
シンジは絶句した。
「綾波……」
レイは不思議そうに問いかける。いや、本当に不思議だった。
「碇君、あなた……何で泣いてるの?」
シンジは涙を流していた。大粒の涙がぽろぽろとシンジの頬を流れていく。
シンジは口を噤んだまま答えない。
ふいに―。
レイの胸に、苛立ちが湧いた。
「何で泣いているか、訊いてるんだけど?」
「可哀想、だから……」
「誰が?」
顔をしかめてレイは訊ねる。あの猿が可哀想だというの? まぁ、確かに客観的には可哀想と言える状況だろう。レイには面白くないことであったが、シンジがそう思うのも無理はない。
しかし、シンジの答えはレイの予想だにしないものだった。
「……綾波が」
「……は?」
レイはぽかんと口を開け、シンジが「……なんて、冗談だよ、綾波」と言い出すのを待つかのように、シンジの口の辺りを凝視した。
しかし、シンジはそれきり黙ったままだ。

645: ◆IE6Fz3VBJU
09/09/28 01:24:08
―私? 私が可哀想?
 ・ ・
「私が?」
どうやらシンジは真面目にそう言っているのだと理解すると、レイの頭の中が真っ白になった。目の前で閃光弾が炸裂したかのようだ。
 ・ ・  ・ ・ ・
「私が、可哀想?」
レイの、ただでさえ白い顔が、新雪のように白くなった。
「何で?」
レイは、シンジに詰め寄っていた。
「何で、私が可哀想なの?」
シンジは黙っている。黙ったまま、レイの赤い目を見つめている。
「答えて」と、レイは言った。声が震えているのが自分でも分かった。それがレイには気に食わなかった。まるで、動揺しているみたいではないか。
「答えて、碇君!」
レイは叫んだ。
シンジはそれでも何も答えない。
気がつくと―
レイは、右手を振りかざしていた。
肉が肉を叩く、乾いた音。
シンジは避けなかった。避ける素振りも見せなかった。レイの右の掌がシンジの左頬を張った瞬間をのぞいて、ずっと、レイの目を見ていた。
レイは唇を震わせた。何か言うべきだと思ったが、言葉は何も出てこない。
シンジを睨みつけ―踵を返すと、アスカと同じようにドアに向かった。危うく走りそうになるが我慢する。
ドアが開き、ちょうどシャワーから帰ってきたアスカと鉢合わせした。
「ん?」
アスカは目をぱちぱち瞬きさせて、
「どうしたの? あんた、何か、凄く怒ってる?」
次の瞬間、アスカはレイに突き飛ばされ、よろめいた。
「な、な、何よ?」遠ざかるレイの背中に呆然と目をやる。
「何なの、いったい?」
アスカはきょとんとした顔で言った。

646: ◆IE6Fz3VBJU
09/09/28 01:26:23

 □

どいつもこいつも―
死んでしまえ。
猿も、碇シンジもだ。
レイは腹立ち紛れに足元の小石を思い切り蹴飛ばした。小石は夜の闇の中に、溶けるように消えていった。
闇の色が濃い。疎開が相次いでいるせいで、夜に灯りをつける家が減っているからだ。
道路沿いに配置されている街灯も、使徒との戦闘のためにところどころ破壊され、修理されずに放置されているため、
その役目を十分に果たしているとは言い難い。むしろ暗闇をいっそう暗くしている感がある。
その濃密な闇が支配する夜の道を、レイは唇を噛みしめながら歩いていた。
馴染みのステーキ屋に行って肉を貪るように食べてきたところだった。ほとんどやけ食いに近いような食べ方で、殺気溢れるレイの食事に周囲の客も唖然としていた。
このまま真っ直ぐ家に帰っても、煮えくり返るような腹立ちはおさまらないだろう。だから、歩くことにした。
歩いているうちに多少は落ち着いてきたものの、タールのようなどす黒い怒りを燃料に、まだ炎は燃え続けている。
今まで感じたことのないような感情だった。いつもの瞬間湯沸かし器的な、ほとんどその場限りのものとは違って、いつまでもしつこく残り続けるような感じの怒り。
レイは無意識に親指を唇に持っていき、爪を噛んだ。
哀れむということは、馬鹿にすることだ。碇シンジは―あの男は私を哀れんだ。私はあの男に哀れまれた。馬鹿にされたのだ。
今まで生きてきて、あそこまで面と向かって馬鹿にされたことはない。
胸がむかむかする。なにか大きい塊がつまっているようで、気持ちが悪い。吐き気すら感じる。
何様だと思ってるのだろうか、あの男は。
私が―
私が、可哀想?
許せない。
絶対に許さない。
レイは憤怒に身を焦がしてはいるが、同時に後悔もしていた。馬鹿なことをしたとも心の片隅で思っている。
なぜ、あんなことを言ってしまったのだろう―と。
普段の怒りと質が違うのは、自省の念も込められているから―つまりは自分にも怒りの矛先が向けられているからなのだが、レイは自覚していない。何となく、いつもと違うと思っている。
シンジとアスカが話しているところを見たら、アスカの家庭の事情を言いたくなった。言いたくなったら口に出すのがレイの性格で、それだけのことだ。
それの何が悪い?

647: ◆IE6Fz3VBJU
09/09/28 01:27:41
だいたい、なぜ泣く? 意味が分からない。あの涙は何?
第五使徒戦で泣いたのはいい。
あれは、私が無事だったからだ。
―あれ?
レイは足を止めると、近くの電信柱に手をかけた。俯いて、考える。
よく考えるとおかしいことがある。
私が無事で、なぜ碇シンジが泣いた?
あの男の性格を考えれば、無事でないよりは、無事のほうが嬉しいだろうというのは想像できる。
しかし、泣くようなことではない。
逆の立場だったら、私は泣くだろうか? 碇シンジが無事で、私は泣く?
泣かない。当たり前のことだ。
だいいち、私は今まで泣いたことがない。泣くという行為が、分からない。
ない―と思う。
ゲンドウは泣くだろうか。泣かない。ミサトは? リツコは? クラスメイトは? その他ネルフの人間は?
誰も泣かない。誰も私のために泣いたりはしないだろう。
あの男だけが私のために涙を流した。
あの男だけが、私のために涙を流すのだ。
ということは。
さっき泣いたのも、私の―。
前方からのハイビームの強烈な光にレイは目を細めた。カーブを曲がってきた車が放つ光だった。
同時に、道路の向かい側から小さな生き物が渡ってくるのを視界の隅に捉えた。
犬だ。仔犬がこちらに歩いてくる。
鋭い、耳に突き刺さるような音。
急ブレーキの音だ。
一秒の何分の一の短い時間でレイの脳裏をよぎったものは、
……犬を蹴っちゃダメだよ。
というシンジの言葉だった。
レイは、舌打ちとともに車の前に飛び出していた。

648: ◆IE6Fz3VBJU
09/09/28 01:29:28

 □

ネルフに入って一番辛いことは、と訊かれたら、青葉シゲルは「待つこと」だと答える。
いや、青葉ならずとも、ネルフ関係者のほとんどはそう答えるに違いない。
なにしろ使徒はいつ、なんどきやって来るか分からない代物なのだ。
人間という生物は、常時緊張を保てるようには出来ていない。どうしたって気が抜けるときがある。
……というわけで、遅番に入っている長髪のオペレーター、青葉シゲルは、椅子にだらしなく座り、エア・ギターを弾いて時間を潰していた。
ソリッドでヘビーな(つもりの)リフからシャープなカッティングを使用したセンスのある(つもりの)バッキング、ソロはタッピングやスキッピングを多用したテクニカルな(つもりの)もの。最後はパワーコードを一発かき鳴らして……。
「ジャー……」
ン、と言い終わらないうちにけたたましい警戒音が鳴り響いた。
「うわっ、と!」
思わず前のめりになりつつも、モニターを確認する。
「ATフィールド発生!」
使徒か? 青葉の全身に緊張が走る。
「パターンオレンジ、解析不……いや、人間!?」
モニターにはHUMAN BEINGの文字が点滅している。
青葉は舌打ちした。どうなってる? こんなことは想定外だ。
「どうしたの?」
いつものように残業中だったリツコが白衣姿で駆け込んできた。かすかに声が掠れているのはタバコの吸いすぎのためだろう。

649: ◆IE6Fz3VBJU
09/09/28 01:30:42
「いや、それが……」
青葉はいったんリツコにやった視線を再びモニターに戻す。すると―
「ATフィールド、消失……しました」
警戒音も止まっている。
「発生場所は……?」
「ここです。いったん発生して瞬時に消えました。時間にして……0コンマ89」
青葉が拡大した場所をモニターに映して指し示した。
リツコは顔色を変えた。「ここは……!?」
「ご存知ですか? ここに、何か?」
「……いえ、何でもないわ」リツコの表情は黒板消しでチョークを消したようにすっと元に戻った。「どうやら誤作動のようね。機械であれ、人間であれ、100%はないということよ」
「ええ、まぁ……。人間がATフィールドを展開するなんて、有り得ないことですからね」
「一応、部隊を送って調べて頂戴。私はログを解析してみるわ」
「了解」
さっそく手配にかかる青葉を横目に、リツコは気づかれないようにそっとため息をついた。
「まったく……。どういうつもりなのかしら、あの娘」

 □

レイは、目の前のフロント部分がひしゃげた乗用車を無表情な顔でしばらく見つめると、横に回りこんで運転席を覗き込んだ。
中年の女性が呻きながら顔を起こそうとしていた。
スピードを出していなかったのと、エアバッグのお陰で怪我はしていないようだ。せいぜい鞭打ち病に悩むくらいで済むだろう。
まさか何もないところで壁にぶつかるとは思わなかっただろうから、精神的なショックは大きいかも知れないし、警察や保険屋に説明するのに
ひと苦労するかも知れない―というより説明できないかも知れない―が、それはレイの知ったことではない。
レイはその場から離れ、家へと歩きはじめた。あと五分も歩けば着く。
この場にはもうすぐネルフの連中が来るはずだ。それまでには退散したかった。面倒はご免だ。
そこで仔犬の鳴き声に気づき、レイは立ち止まった。
そうだ。犬のことをすっかり忘れていた。
レイが立ち止まると仔犬も立ち止まり、舌を出しながら何かを期待するようにレイを凝視した。
お世辞にも可愛いとは言えない仔犬だった。むくむくとした全身の毛は薄汚れている。レイは犬の種類など知らないし、興味もないから、何犬なのか分からない。

650: ◆IE6Fz3VBJU
09/09/28 01:31:59
「……ついてくるな」
犬に人間の言葉通じるわけがない。馬鹿げたことをしてる、とレイは思った。もっともそれを言うならこうやって犬を助けたこと自体が馬鹿げている。
いったい私は何をしているのだろう?
今日は馬鹿なことしかしない日のようだった。
犬から目を逸らすと、また歩きはじめる。
柔らかい足音から、犬が後をついてくるのが分かった。
今度は廃屋のような、レイだけが住民のマンションの前まで振り返らなかった。
「……蹴るよ?」
レイはサッカーボールを蹴るときのように、右足を後方に跳ね上げた。その姿勢のまま数秒とまる。バランス感覚が発達しているのか、微動だにしない。
仔犬は脅しなどものともせず、同じように微動だにせずレイを見つめている。
「ちっ」
舌打ちすると、跳ね上げた足を思い切り地面に叩きつけた。
アスファルトと靴底から生まれた、やや甲高い、鞭を打つような音に仔犬はびくりと身体を震わせる。
レイはふんと鼻で笑うと、階段を上りだした。
自分の部屋の前まで来ると、ドアノブに手をかけて考える。
犬が後をついてきているのは見ないでも分かっていた。
このまま素早く部屋に入って放って置けば、犬はどこかに行ってしまうだろう。それで仕舞いだ。
今日は馬鹿なことしかしていないのだから、最後ぐらいはまともな行動を取らないといけない。
私は馬鹿ではないのだから。
碇シンジに馬鹿にされるような人間ではないのだから。
レイはドアを見つめながら言った。
「あなた、ひとり……?」
仔犬が、くーんと鳴いた。
「そう。私と同じね。私も……」
レイはドアに額を押し付けた。ひんやりとした感触が心地良かった。
―私も、ひとり。
しばらくそのままでいた。
それからレイは、愚行続きの今日のなかでも、とびっきりの馬鹿げたことをした。
ドアを開けると、仔犬に向かってこう言ったのだ。
「おいで」

(続く)

651:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/28 01:33:47
きたー!乙であります!!

652:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/28 02:46:24
乙です…!
わんこが気になるところ

653:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/28 03:31:13
黒波さんの人か おつ

654:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/28 06:51:30
乙っす

655:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/28 08:55:57
乙ですb
あのわんこが何気に伏線だったとは

656:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/28 14:50:16
デレ期キター(゚∀゚)──!!

657:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/28 18:10:27
わんこちゃん逃げてー!

658:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/28 18:34:58
なんかもうレイが別人w

659:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/28 20:10:42
どうもありがとうございました乙乙

660:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/28 22:22:10
>>636
サンクス。

管理人さんよろしく

661:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/28 23:36:30
「おいで」
かわえええええ

662:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/29 04:22:59
投下されてた!
子犬は勝手に柴犬に変換して読まさせてもらいますw

663:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/29 09:58:33
豆柴キボン

664:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/09/30 08:44:57
>>650

GJ. GJ.

665:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/01 22:27:03 Pff8Nryn
よかった!
続き読みたい

はやく

うま

666:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/02 00:43:11
おいでなすったな黒レイさん徐々にシンジに丸め込まれる側になってきてないか?

667:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/02 21:27:39 4ybBBFQ5
非18禁マイナーなギャルゲーSS コンペスレ
スレリンク(gal板:1-100番)

なぜ 下の作品の二次創作が少ないのか?
SS作家様たちに 下の作品 SSを書いてくれといって 頼みたいです。

1. 初恋ばれんたいん スペシャル
初恋ばれんたいん スペシャル PS版は あまりのテンポの悪さ,ロードは遅い(パラメーターが上がる度に、
いちいち読み込みに行くらしい・・・)のせいで、悪評が集中しました。ですが 初恋ばれんたいん スペシャル
PC版は テンポ,ロード問題が改善して 快適です。 (初恋ばれんたいん スペシャル PC版 プレイをお勧めします!)
初恋ばれんたいん スペシャルは ゲームシステム的にはどうしようもない欠陥品だけど。
初恋ばれんたいん スペシャル のキャラ設定とか、イベント、ストーリーに素晴らしいだけに
SSがないのが とても惜しいと思います。

2. エーベルージュ
科学と魔法が共存する異世界を舞台にしたトリフェルズ魔法学園の初等部に入学するところからスタートする。
前半は初等部で2年間、後半は高等部で3年間の学園生活を送り卒業するまでとなる。
(音声、イベントが追加された PS,SS版 プレイをおすすめします。) 同じワーランドシリーズなのに
ファンタスティックフォーチュンSSは多いのに 似ている 魔法学院物なのに ネギま、ゼロの使い魔 SSは多いのに
エーベルージュのSSがほとんどありませんでした。

3. センチメンタルグラフティ2
センチメンタルグラフティ1のSSは多いのにセンチメンタルグラフティ2のSSがほとんどありませんでした。
前作『センチメンタルグラフティ1』の主人公が交通事故で死亡したという設定で
センチメンタルグラフティ2の主人公と前作 センチメンタルグラフティ1の12人のヒロインたちとの感動的な話です
前作(センチメンタルグラフティ1)がなければ センチメンタルグラフティ2は『ONE~輝く季節へ~』の茜シナリオを
を軽くしのぐ名作なのではないかと思っております。 (システムはクソ、シナリオ回想モードプレイをおすすめします。)

668:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/05 15:29:48
黒レイの続きが早く読みたいでやんす

669:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/08 09:27:27
もうすぐなのかな

670:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/12 08:49:53
こないね

671:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/12 10:05:18
ワクワク

672: ◆IE6Fz3VBJU
09/10/12 22:36:31
>>650

11.

レイはシンジと言葉を交わさなくなった。シンジの方からは話しかけてくるが、レイが徹底的に無視するのだ。
それもわざとらしく無視するのではなく、本当に言葉が聞こえないような態度であって、同時に周囲が鼻白むほどの徹底振りだった。
ケンスケなどは、シンジがレイに話しかけた時、レイのあまりの反応の無さに自分の空耳ではないかと疑い、シンジに「お前、今綾波に何か言ったよな?」と確かめたほどである。
こういう無視の仕方は綾波レイにしか出来ないのではないかと思わせるような、背筋が寒くなるほど非人間的な振る舞いだった。
「あんたたち、何かあったの?」
アスカも目を丸くしてシンジに訊く始末だった。
「うん、ちょっと……怒らせちゃって」
アスカに限らず、誰かに同じ事を訊かれると、言葉少なにシンジはそう答えた。

レイは無言のまま思い切り弁当箱を払いのけた。弁当箱は隣の席の生徒の机に当たり、床に落ちた。
昼休みの浮ついた喧騒に包まれていた教室が、レイの周囲だけ静寂に変わった。
「何すんのよ!」
すぐにアスカが血相を変えてレイに詰め寄る。
アスカの怒声に今度は教室中が静まり返り、全員の目が三人に集まった。
「いいんだ、アスカ。僕が余計なことしたから……」
シンジは静かに言うと、腰を屈めて床に落ちた弁当箱を拾い上げた。
「よかないわよ! せっかく作ったのに……。それにね、私は食べ物を粗末にするやつは許せないの!」
アスカは髪の毛を逆立てんばかりにして怒っていた。珍しいことに、他人のために怒っている。
レイはアスカも周囲の目も意に返さず、正面に視線を置いたまま静かに立ち上がった。滑らかだが、どこか機械を思い起こさせる動きだった。
「どこ行くのよ」と、アスカが手を広げて通せんぼをする。
「どきなさい、猿」
レイはあくまでアスカもシンジも見ない。
「猿って言うな、この」
無論素直にどいたりするアスカではなかった。
「謝んなさいよ、シンジに」
レイはそこではじめてアスカを見た。その目が久しぶりに人間らしい感情に染まる。
「なぜ、私が謝るの?」
レイがどうやら本気で疑問に思っていると分かり、アスカは一瞬言葉を失った。

673: ◆IE6Fz3VBJU
09/10/12 22:39:02
「……弁当、落としたでしょ!」
「……」
肩をすくめると、レイは無言でアスカを押しのけ、教室の出口に向かって歩き出す。
「あっ、こら……!」
アスカはレイの肩に手をかけようとして、逆に誰かが自分の肩に手を置いたことに気づいて振り返った。
シンジが黙って首を振っている。アスカは追いかけるタイミングを失ってしまった。
ドアをぴしゃりと閉める音が、静まり返った教室にやけに大きく響いた。
「待ちなさいよ! このバカ!」
アスカの叫び声は虚しく跳ね返った。
石を呑んだように静まり返っていた教室が、それを合図にしたように徐々にざわめきを取り戻していった。
トウジがサンドイッチを口に運びながら、目を丸くして言った。
「ひゃー。ゴジラ対キングギドラやな。ありゃ間に入ったらエヴァでもやられてまうやろ」
「委員長がいなくてよかったな。ガメラも加わるところだったぜ」と、頬杖をついて見ていたケンスケが言った。

「あら、レイ。犬の様子はどう? ちゃんと面倒見てる?」
「……ええ」
リツコはレイと本部の廊下ですれ違った。訓練帰りで、プラグスーツに身を包んでいる。一見すると相変わらずの無表情だが、リツコには微妙に普段と違うものを感じていた。
もっとも、どこがどうとまでは分からなかったが。
「散歩は……連れてってないでしょうね」
レイが犬を散歩してる姿など想像も出来ない。自分で言ったことながら、おかしくて笑いそうになる。
「放し飼いだから」
「そう。車に気をつけるのよ。まぁ、最近疎開が多くて通行量も減ってはいるけれど。そうそう、名前は?」
レイは不思議そうに首をかしげた。
「名前?」
「犬の名前よ。……まさか、つけてないの?」と、そんなわけがないだろうと思いつつも一応訊いてみる。
「つけてないわ」
「じゃあ、何て呼んでるの?」
「犬」
「犬!?」

674: ◆IE6Fz3VBJU
09/10/12 22:40:47
リツコはさすがにレイがそこまで無頓着だとは思わず、驚愕する。
「だって犬だもの」
「それはそうだけど……。普通は名前をつけるものよ、レイ。だいたい呼ぶときに困るでしょう」
ふうん、とレイは言った。もちろん、付ける気などなかった。椅子やテレビに名前を付ける人間はいない。レイにとっては、それと同じことだった。
「考えておくわ」
リツコは気のない返事をして歩み去るレイの後姿を見ながら、この間の電話の件を思い出していた。

……電話が鳴ったとき、リツコはちょうど帰り支度をしている最中だった。電話を取るのに少し躊躇する。
このところ残業続きで、さすがのリツコもいい加減疲れていた。今日は誤作動騒ぎ―本当は誤作動ではないと考えていたが―もあって、さらに厄介ごとに巻き込まれるのは勘弁して欲しいところだった。
数秒のためらいの後、諦めのため息をつくと受話器を取った。
「犬って、何食べるの?」
電話が繋がるなり、いきなり質問された。
「レイ……? どうしたの、突然」
レイの性格を知ってはいるものの、さすがに今回の突拍子の無さは過去に例があったかどうか容易に思い出せないほどだ。
「いいから答えて。仔犬には何を食べさせたらいいの?」
「それは……無難なところだと、ドッグフードじゃないかしら? 仔犬用のものもあるらしいわよ」
我ながら馬鹿馬鹿しい返答だと思うが、そう答えるしかない。まるで1+1の答えを真面目に質問されたかのようだ。
「ドッグフード……。どこに売ってるの?」
「スーパーとか。あと、コンビニで売ってるけど」
「そう」
「ちょっと待ちなさい、レイ! あなたさっき―」
リツコはツー、ツーと愛想のない音を発する受話器を忌々しげに置いて、先ほどと同じ台詞を吐いた。
「まったく……。どういうつもりなのかしら、あの娘」
しかし、いったんは上げた腰を再び下ろして、
「仔犬ですって……? ひょっとして、犬を飼うつもりなのかしら……。あの娘が?」
肘を机につき、手の甲に顎を乗せると、ふふ、と含み笑いを洩らした。
とても楽しそうな笑いだった。

675: ◆IE6Fz3VBJU
09/10/12 22:42:31
 □

レイは今日も学校に行かない。シンジの顔を見たくないからだ。
どうしてもネルフ本部では顔を会わせてしまうから、その分他の場所でシンジの顔を見る機会を減らさねばならない。
学校に行かなくなると、自然と時間をもてあますようになった。
本部にいるとき以外、何もすることがない。今もこうやってベッドに寝そべって天井を見ている。
前は何をしていたのだろう? 単に以前と同じになっただけなのに。
半年も経っていないことなのに、思い出せなかった。不思議な気分だった。
まるで碇シンジが来る前と後で別人になってしまったかのようだ。
仔犬が寄ってきて、くーんと鳴いた。
レイは起き上がってベッドの端に座り、目の前でうろうろする仔犬を、まるでつい最近発見されたばかりの新種の動物だとでも言うような目で見下ろした。
今まで犬はおろか、生き物など飼ったことがない。かといって人に聞くのも嫌だった。この間はリツコに電話してしまったが、これ以上リツコに頼るのは避けたい。
そこで本屋にいって「犬の飼い方」の類の本を何冊か買ってきて、ぱらぱらと読んでみた。
結論から言うと、エサと水をやって、あとは放っておくということに落ち着いた。しつけだの何だの書いてあったが、そんなことをする気はなかった。
むろん散歩になど連れて行かない。隣の部屋を開けっ放しにしておいて、自由に出入りさせておくだけだ。行きたいところにいけばいい。
そのうちどこかへ去っていくのかも知れないし、ここに居つくかも知れない。どちらでもよかった。
仔犬がぶんぶんと尻尾を振って、何かをせがむように軽くジャンプした。
―エサ?
いや、エサはさっきやったばかりだ。エサでなければ何?
本に書いてあったことを思い出した。
……犬は飼い主に撫でてもらうと喜びます。
レイは手を伸ばして、仔犬の頭を撫でてみた。仔犬は舌を出し、目を細めて喉の奥で小さく鳴いた。
掌が温かい。どこかで似たようなぬくもりを感じたような気がした。
目を閉じて記憶を探るが、思い出せない。
思い出せないから、黙ったまま犬の頭を撫でている。

676: ◆IE6Fz3VBJU
09/10/12 22:46:04
 □

ミサトはため息をついて、目の前に立つチルドレンの顔を順繰りに見ていった。
これから0コンマのあとに0が何個も続くような成功率しかない作戦に入るのに、肝心の三人の仲がこれまでにないほど悪化しているのである。
具体的に言えば、レイと、シンジ・アスカの関係だ。いや、険悪なのはレイとアスカで、シンジとレイは険悪という訳ではない。
レイとアスカはまだいい。常識的な範囲内での険悪さであって、両者の性格を考えると、むしろ仲が悪い方が自然だとも言える。
問題はレイとシンジの方で、ミサトには原因不明の理由で、レイがシンジのことを一方的に無視しているのである。
まるでシンジが透明人間かなにかで、レイにはシンジの姿を見ることも言葉を聞くこともできないとでもいうような、
自然でありながら同時に滴るような悪意を感じさせる態度だった。
シンジに理由を訊いても曖昧なことを言って答えないし、レイにいたってはどうせまともに答えないのだから、質問する気にもなれない。
この場の空気はどんよりと、そしてひんやりとしていて、並みの神経の持ち主なら居たたまれないものになっている。
「いい? あなたたち」作戦をあらかた伝えると、ミサトは腕を組んだ。「別に友達同士になれとは言わないわ。でも、作戦に支障が出るようじゃ困るのよ。
特に今回はあなたたち三人のコンビネーションが問われることになるんだから」
「ふん。こんなもの、私一人だってイケるわよ」
「アスカ」
ミサトは苦笑する。
無論、一人でこの広大な落下予測地域をカバー出来るわけがないのはアスカも分かってるし、ミサトもアスカが分かってることは分かっている。
ほとんど条件反射的に口をついて出ただけだ。
「分かってるわ。誰かさんと違って、子供じゃないもの」と、レイが言った。
―また余計なことを。
ミサトは頭が痛くなる。
案の定、アスカがこれまた条件反射的に反発する。
「誰よそれは? 私だっての?」
「やめなさい、二人とも」ミサトはため息を無理矢理抑えつけた。「あなたは大丈夫、シンジ君?」
「……え? ごめんなさい、何がです?」
シンジは顔を上げて、ぼんやりと答えた。
ミサトは頭を抱えそうになった。
本当に大丈夫なのだろうか?
あまり考えたくないことだが、奇跡は滅多に起こらないから奇跡―なのだった。

677: ◆IE6Fz3VBJU
09/10/12 22:47:56
レイは微妙な違和感を覚え、落ち着かない気分になった。胸の奥がざわめくような、嫌な感じ。
もっともそう感じたのも一瞬のことだった。今は余計な事を考えている場合ではない。
ミサトの合図とともに、零号機をスタートさせた。

 □

マンションの前にシンジが立っているのが、遠目からでも分かった。アスファルトから立ち昇る熱気にゆらめき、幻のように見えるが、間違いなくシンジの姿だ。
レイは舌打ちとともに立ち止まり、引き返してどこかで時間を潰そうかと考えた。
―まさか。
それではまるで逃げているみたいではないか。
なぜ私がそんな真似をしなくてはならない? どうかしてる。
シンジは結構な距離までレイに気が付かなかったらしい。レイの影に少しの間目を留めて、それから跳ね上げるように顔を上げた。
「綾波……」
どうせぼんやりしていたのだろう。レイはシンジのこういうところにも苛々する。きっと恐竜並みの神経をしているのだ。
「綾波、最近学校来てないけど……。どうしたの?」
レイはここ最近そうしているように、完全に無視してシンジの脇を通り過ぎる。
「これ、プリント。届けてくれって言われたから……」
シンジはまるでこの間拾った仔犬のように、少し後ろを付いてくる。
「綾波―。その……。この間のこと、悪かったと思ってる。でも、もっと人のことを考えないといけないし、君は出来ると思う」
ふいにレイの胸に激しい苛立ちがよぎった。振り返って、シンジが持っているプリントの束をはじき飛ばそうと手を振りかぶる。
しかし、振り上げた手は行き場を失った。
仔犬がマンションの方から全速力で走り寄ってきて、ゴムボールのように飛び跳ねながらレイの足にまとわりつきはじめたからだ。
「何で出てくるの」と、慌てて叱りつけるがもう遅い。仔犬は構ってもらえたと勘違いしたのか、レイの周りをぐるぐると回る。
「その犬、綾波が飼ってるの?」
シンジはかなり驚いた顔をしていた。

678: ◆IE6Fz3VBJU
09/10/12 22:49:07
レイは顔が熱くなるのを感じた。どういうわけか、恥ずかしかった。
つい、「そうよ。悪い?」とシンジに答えてしまっていた。二度と口を利くものかと思っていたのに。
「いや、もちろん悪くないよ。逆に、嬉しいよ。やっぱり、僕が思っていた通りだ」
「え?」
思っていた通り? シンジの予想外の返答にレイは眉をひそめる。
「綾波は、本当は優しい子なんだってこと」
「は……」
レイは一瞬、殴られたように仰け反って―笑い声を立てていた。
―本当は優しい子?
―本物のバカだ、この男は。
これほど笑える話を聞いたのは初めてかも知れない。自分が優しいという形容詞からほど遠い性格だということはレイにも分かっている。
いったいどこをどう解釈すれば自分が優しいと誤解できるのか? 嘘をついているようには見えないから、真面目に言っているのだろう。
頭がおかしいとしか思えなかった。
レイがあまりに笑うせいか、シンジはやや顔を紅潮させ、ムキになって、「動物を好きな人に悪い人はいないんだ」と力説した。
シンジはレイが笑い止むまで困惑した様子で待っていた。レイが笑い止むと、
「名前、何ていうの?」
―リツコと同じことを質問するのね。
そんなに名前が気になるのだろうか?
「犬」
「え、と……? ひょっとして、名前が犬ってこと?」
「そう」レイは何を当たり前のことを聞くのかと訝しげな顔で、「犬だから、犬」
「か、変わっ……ユニークな名前だね……」
何と言えばいいのかよく分からず、シンジは考えた末にそう言った。

679: ◆IE6Fz3VBJU
09/10/12 22:50:54
「変わってない名前は?」
シンジは考え込む。
「え……。なんだろ。ポチとか太郎とかジョンとか……って、いまどきそんな名前つけないか。何だろうね……。生き物飼ったことないから、分かんないや」
その言葉を最後に二人の間に沈黙が立ち込めた。仔犬のせわしなく息をする音だけが耳につく。
特に何がきっかけということは無かった。レイにとっては単に思っていることを口にするだけだった。
レイは曖昧に微笑むシンジを冷たい目で見つめて、
「碇君、私は」
いったん言葉を切った。シンジはレイが何か大事なことを話そうとしているのを察知して、真剣なまなざしでレイの目を視線を合わせる。
「私は、あなたのことが大嫌い。二度と話しかけてこないで」
シンジの表情はほとんど変わらなかった。霞がかかったような、いくぶん女性的な顔つきはふだんと同じだった。目だけはやや悲しげだった。
「さよなら」
レイはそう言い捨てると、シンジを背後に残し、マンションのぼろぼろの階段を上っていった。

 □

レイはエサ箱にいっぱいのドッグフードと、一口も飲まれていない水をじっと見つめた。
犬が姿を見せなくなって、これで三日目になる。
自分の部屋に戻ると、ベッドに寝転がって天井を見る。
逃げたのだろう、とレイは推測した。しょせんは動物、人間とは違うのだ。
人に飼われるのが嫌だったのだろう。私が動物になったとしても、誰かに飼われるのは嫌だ。
……事故には気をつけなさいよ。
リツコの言葉が脳裏に蘇った。
だから?
レイは目を閉じる。
もともと私が助けなければあそこで轢かれて死んでいたのだ。仮にどこかで野垂れ死んでいるとしても、死ぬのが少し遅くなっただけの話だった。
シャワーを浴びてすっきりして、犬のことなんか忘れて寝てしまおう。
レイは立ち上がると、バスルームの前まで行ってドアノブに手をかけた。
それから―
手を離し、諦めのため息をつくと、靴を履いて外に出た。

680: ◆IE6Fz3VBJU
09/10/12 22:55:34

正面から出て行くと保安部に見つかるので、マンションの横手にあるブロック塀をよじ登って敷地の外に出ることにした。別に見つかっても構わないが、犬を探してるなどと知られたくなかった。
もう八時を回っている。常夏の国と言えども、さすがにあたりはもう暗い。
しかしレイはほとんど動物的といってもいいほど、異様に夜目が効いた。さして苦もなく辺りを捜すことが出来る。
もし車に撥ねられたのなら、当然道路だから、道路沿いに歩いて目を配る。
周囲を一回りしたら戻ろうと、この時は思っていた。
―。
レイは顔を上げた。額に水滴が当たった気がしたのだ。
水滴がぽつり、ぽつりと続けて当たる。滴は次第に大きくなり、そして―。
大雨になった。

―どうかしてる。
レイは雨の中を歩きながら、自分に呆れ、驚いていた。こんな事は全く意味がない。早く家に帰ってシャワーを浴び、犬の事など忘れてぐっすりと寝るのだ。
それでもレイは周囲に目をやりながら歩いている。滝のような雨だから、これも意味がない行為だった。雨のカーテンに囲まれているようなものだ。
多分、意地になっているのだろう。是が非でも犬を見つけてやる、と。
本当に?
よく分からなかった。
あの男に本当は優しい子だと言われたから?
―まさか。
レイは笑っていた。笑い声は雨が地面を叩く音にかき消された。
あの男は嫌いだ。わけの分からないことを言うから。
レイの思考は犬を離れ、シンジに向かった。
そもそも碇シンジにあんな事を言わなければ良かったのだ。そうすればあの仔犬とも出会わなかったし、今こうして土砂降りの中を歩く羽目に陥らずに済んだ。
それに―。
と、レイは下を向きながら思う。雨が髪を伝ってぽたぽたと地面に落ちる。
それに、あの男の涙を見なくて済んだ。

681: ◆IE6Fz3VBJU
09/10/12 22:56:48
最初の涙の理由は分かる。私が無事だったからだ。
悪い気はしなかった。いや―。嬉しかったような気がする。
しかし、今度の涙は。
嬉しくなかった。嫌な気分になった。
なぜ泣いた? 理由が分からない。分からないから嫌な気分になるのだろう。
可哀想。
私が、可哀想だから。
私が可哀想だから泣いた。
私の何が可哀想なのだろう?
知りたかった。
それを知ることは重要な事のような気がする。
レイは、今、生まれて初めて人の心が知りたいと思っていた。

何時間経ったのだろう? どれくらい歩いているのだろう?
道路沿いを捜して、途中の公園や、繁華街も見て回った。
しかし、雨が降っているし、夜ということもあるが、所詮はひとりの行動だ。限界がある。
―名前を付けておけば良かった。
レイは後悔した。リツコに言われた時に名前を付けておけば、捜索も多少は楽になったかも知れない。
中学生の女の子が土砂降りの中を、傘もささずに歩いている姿は異様であったが、人通りはほとんどなく、声をかけられることもなかった。もっともかけられてもレイは無視しただろう。
―もう、終わりにしよう。
さすがに捜索を断念する。まさか一晩中歩き回るわけにもいかない。
気持ちが切れたのか、どっと疲れが襲ってきた。
家に着いたときには疲労困憊といった態で、おもしでもついているのかと思うほど重い脚を引きずるように四階まで引き上げた。靴の中まで水が入り、歩くたびにぐしゃぐしゃと濡れた音をたてる。
再び、馬鹿な事をしたという思いにとらわれる。
それを言うなら、最近、ずっと馬鹿な事をしているような気がする。最近―碇シンジが来てから、ずっと。
ミサトの家に行ったこともそうだ。
なぜだかあの男の言う事を素直に聞いてしまった。何だかんだ理屈をつけていたが、今考えると馬鹿げた理由だった。料理を作るとか、何とか。
下らない理由だ。
402号室の前まで来ると、雨の音にかき消されがちだったが、犬の鳴き声が聞こえたような気がした。
―気のせい?

682: ◆IE6Fz3VBJU
09/10/12 22:58:40
ドアを開けっ放しのままの401号室に入ると、すぐに仔犬がしっぽを振って駆け寄ってきた。
レイは足にまとわりついてくる仔犬を無表情な顔で見下ろした。
尻尾を振るのは嬉しい証拠と書いてあったから、今犬は嬉しいのだろうと思った。
身体からぽたぽたと雨が滴り落ち、床に大きな水溜りをつくった。
―名前を。
レイは目を閉じた。
名前を、つけなければ。
かなりの時間そうしていたような気がするし、あっという間だった気もする。
相応しい名前を思いついて、レイは目を開けた。
「……そうね。あなた、あの男みたいに言うことを聞かないし、何をするか分からないし―」
「それにすぐに逃げるところも似ているから―」
「シンジと呼ぶわ」
我ながら名案だと思った。あの男の名前など犬に相応しいのだ。ささやかな復讐のように思われて、愉快だった。
「分かった、シンジ?」
くすくす笑いながらレイは言った。

「そう。分かったわ。……ご苦労さま。つまらない仕事を押し付けて悪かったわね。じゃあ、仔犬は戻しておいて頂戴」
リツコは電話を切ると、無意識のうちにタバコに手を伸ばした。指先がタバコに触れると、びっくりしたように顔を上げる。
タバコを拾い上げて、弄ぶ。今日はもう吸い過ぎだと分かっていた。しかし、リツコの逡巡はそれほど長い時間は続かなかった。
火を点け、深々と吸い込んだ。
ゆらゆらと拡散していく紫煙を見るともなしに見つめながら、リツコは物思いに耽る。
―まさか本当に犬を捜しに出かけるなんて、ね。
仔犬を「誘拐」しておいて、レイの様子を観察するのがリツコの目的だった。おそらくは気にしないだろうと思っていたが、驚くような行為にレイは出た。
一体どういう心境の変化なのか分からないが、あるいはレイの中の「彼女」―リツコは「あれ」と呼んでいる―の占める割合が減ってきているのかも知れない。
どうやらレイは好ましい方向に変わりつつあるようだった。
すなわち、ゲンドウの思い描いた通りの方向に。
そしてそれは、リツコにとっても待ち望んでいた変化だった。

(続く) 

683:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/12 23:19:54 LuIgMDlR
この数日毎日来ていた甲斐があったw

684:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/12 23:30:00
いいねいいねw

685:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/12 23:33:02
GJGJGJGJ

686:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/12 23:55:11
ひゃっほーーーーーう!GJ!!

687:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/13 01:05:29
このハイクオリティさなら何週間でも何ヶ月でも待てる。

688:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/13 02:42:27
良いぞ~GJです!

689:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/13 03:32:58
犬ネタに続き何やら新たな伏線が・・・飽きさせないなぁ~面白いです!

690:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/13 04:27:22
黒レイには幸せになってほしいな
どのレイも幸せになってほしいけどw

691:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/13 07:57:54
キタワア 乙!

692:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/13 10:34:04
起きたらきてた。すごい良い!12話が楽しみ

693:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/14 07:45:14
人間の感情を少しずつ理解していくって所は原作と同じだよね。
以前の性格は正反対だがw読んでてそのギャップが面白い

694:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/14 08:40:20
一人目だと確かにこんなもんだろうな

695:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/14 18:46:43
レイちゃん可愛い

696:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/16 13:40:06
シンジさんもお疲れさまです!

697:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/16 20:27:59
待てねえw

698:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/19 22:39:11
リツコぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

699:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/22 18:28:45
>>581が待ちきれん!

700:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/22 22:51:08
2週間は長い

701:581
09/10/23 00:45:06
>>699
三人目って難しいんだZE

702:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/24 18:19:47
黒レイぽんはやくみたい

703:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/25 11:12:35
ぽんってなんだ

704:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/25 15:53:45
昨日、破3回目行ってきた
新劇レイと黒波のギャップがたまらん
そしてポカ波さん劇場が新劇の同一線上だと思うと身悶えした
職人さん方…ほんとに乙!


705:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/25 16:40:10
今日中にきてほしい

706:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/25 17:54:11
君のとなり完結してないよね?

707:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/25 18:28:06
うん

708:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/26 22:05:51
書くかどうかはまだ解らないけど、ここに2ndRINGの三次小説をupしても平気かな?
作者が日記で三次小説はお好きにどうぞ、と言ってくれたから書いてみたいという気もする。
ただ、好きではない人もいるからさ。
嫌な人は自衛してくれるだろうか。

709:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/26 22:16:22
自分はみてみたい

710:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/26 22:56:14
2ちゃんに来る位の人なら、自分のホムペ作ってそこに掲載する位出来るのでは?

無料ホームページ作成サイトいっぱいあるし。



711:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/10/26 23:11:12
俺もそっちのほうがいいと思う
黒レイ今日はこないのかな

712: ◆IE6Fz3VBJU
09/10/27 01:15:23
>>682

12.

夢を見ていた。たまに見る夢だ。いつ以来だか思い出せないほど久しぶりだった。
嫌な―とても嫌な夢。
なにせ、首を絞められているのだから。いくら夢の中とはいっても、気分が悪い。
首を絞めているのは白衣の女だった。若くはないが、年寄りでもない。その中間の年齢の女。
普段は落ち着いていて理知的な表情しか見たことがないが、今はよく研いだ刃物のような鋭利な殺意と、煮えたぎるような憎悪が両目から迸っている。
整った顔立ちだけに、より凄惨な色合いが濃い。
なぜ自分が首を絞められているのか、とレイは疑問に思う。この夢を見るのも久しぶりなので、忘れてしまった。
ああ、そうだ。自分がこの女に酷いことを言ったからだ。
ばあさんは用済み。ばあさんはしつこい。そう所長が言っている。
確かそんなことを言った。
失敗した。
これほどまでにこの女が怒るとは思わなかったのだ。
ちょっとした冗談のつもりだったのに。
テレビドラマでやっていた台詞を少し弄っただけの話だった。
だいたいゲンドウが本当にそう思っていたとして、子供の前で口にする訳がない。
そんなことが分からなくなるほど、気に障ったのか。
いや―。自分の言葉だけでこれほどの憎悪が生み出されるというのは、ない。
何かあるのだ。
この女とゲンドウとの間に。
無論、男と女の関係に決まっている。当時はもちろん分からなかったけど、今は分かる。
それはいい。それはいいとして、やはりまだ疑問が残る。
いくら酷いことを言われても、私のような子供を殺そうとするなんて、有り得るだろうか?
大の大人が子供に少しばかり―まぁ、少しではないかも知れないが―嫌なことを言われて、殺人を試みるなどということが。
有り得ない。
私だ。
私に何かがあるに違いない。この女を刺激するような、何かが。
普段から、この女は私を憎んでいたのだ。
言葉は引き金になっただけ。銃には弾が込められていて、発射される瞬間を待っていたのだ。

713: ◆IE6Fz3VBJU
09/10/27 01:19:09
「あんたなんかね」と、白衣の女は言った。
あんたなんか、
「    」と白衣の女は続ける。
まただ。
いつもこの台詞が聞こえない。首を絞められているから? よく分からない。
何て言ってるんだろう。
何か、大事なことを言っている気がする。
ぐいぐいと女の手は首を絞めてくる。女の充血した目が視界いっぱいに広がっていく。背中が反り返る。
苦しい。夢の中なのに、とてもリアルな苦しさだ。思わず女の手に爪を立てる。しかし、女はいっこうに力を緩める気配がない。
レイの喉からぐっという音が漏れ、キーンという金属音が頭を貫いた。
目の前が暗くなっていく。
暗く、暗く……
そして―。
レイは目を覚ましていた。
上半身を起こして咄嗟に首に手をやる。全身が汗で濡れていた。
嫌な夢を見た―。
思わず安堵のため息をつくと、犬の鳴き声と、カリカリという何かを引っかいているような音が廊下のほうから聞こえてきた。
シンジがエサを催促しているのだ。どうやらこの音で目が覚めたらしい。
「犬の分際で人間様を急かすなんて、いい度胸ね」
レイはそう呟くと起き上がり―よろめいた。
「……?」
体勢を立て直そうとしたが、うまくいかず、ベッドに尻餅をついてしまった。
身体がだるく、熱っぽい。それに節々が痛い。
レイは額に手を当てて、はじめて自分が熱を出していることに気が付いた。押し当てた掌が熱い。
一瞬、このまま寝ていようかと思った。
しかし、大きく息を吸って再び立ち上がり、隣の部屋に行ってエサと水をやった。仔犬はちぎれんばかりに尻尾を振っていた。
レイの唇には自嘲の笑みが浮かんでいる。雨の中、何時間も出歩いた代償だ。馬鹿げた行為にはそれなりの結果がついてくるということだった。
よろめきながらベッドに戻ると、倒れこむように身体を横にした。
しばらく寝ていれば治るだろう、とレイは思った。こんなのは、なんでもない。
しかし、レイの思った通りにはいかなかった。

714: ◆IE6Fz3VBJU
09/10/27 01:20:37

「おっ、何や」
最初にその犬に気が付いたのはトウジだった。
シンジ、ケンスケとトウジの三人は下校の途中で、今日は駅前のゲームセンターにでも行こうかという話をしていたところだった。
「何?」と、シンジとケンスケはトウジの見ている方向に目をやった。
「犬だ……。こっちに向かって走ってくる」
ケンスケの言うとおり、仔犬が坂の半分くらいのところから猛烈な勢いで駆け下りてくる。
そして三人の足元で止まると、駆け下りてきたのと同じくらいの勢いで、キャンキャンと吠えはじめた。
「何だ……? シンジ、お前に用があるみたいだぜ」
確かに仔犬はシンジに向かって吠えている。
「ええ……。何だろう?」
シンジはやや後ずさる。いくら仔犬とはいえ、こう猛烈に吠え立てられると、正直少し怖い。
「お前、この犬いじめただろ。きっと復讐しにきたんだ」
「そんなことしてないよ!」
足元で吠えたてる仔犬を困惑気味に見下ろすシンジの記憶に、閃くものがあった。
「あ、この犬」
「なんや、知っとるんか? 首輪はしてへんけど体はキレイにしとるし、野良犬とはちゃうやろな」
「ごめん! 今日はここで。ちょっと用が出来たから」
シンジは二人にそう告げると、仔犬が来た方向に向かって走り出した。仔犬もシンジと一緒に走っていく。
「お、おい! 碇! いったい何なんだ?」
トウジとケンスケは互いに顔を見合わせた。

402号室のドアは少し開いていた。一瞬シンジは不審に思うが、仔犬の出入りのためだとすぐに気がついた。
「綾波、いる……?」
シンジはおそるおそる声をかける。チェーンもかけてないのは不用心だと思った。
もう一度声をかけるが返答はない。シンジは迷った。レイに話しかけるなといわれたこともあるし、何しろ前回の訪問のことがある。
またシャワーを浴びてたところだった、なんて破目になったら今度こそ取り返しがつかない。
ためらうシンジの背中を押したのは仔犬だった。何をぼやぼやしているのかと責め立てるように、猛烈な勢いで吠えはじめたのだ。
「分かった、分かったよ。何かあったんだね」

715: ◆IE6Fz3VBJU
09/10/27 01:22:06
シンジは決心してドアを開け、中に入った。以前入ったときに感じた、薄暗い、洞窟のような空間という印象は変わらなかった。
「綾波、入るよ」
廊下を過ぎ、部屋に足を踏み入れると、ベッドにレイが横たわっているのが目に入った。一目で具合が悪いと分かる様子だった。
「綾波……!?」
慌てて駆け寄り、額に手を押し当てるが、その熱さに思わず離してしまう。
「すごい熱だ……」
レイが苦しそうに呻いた。「大丈夫?」と言いかけて、シンジは息を呑んだ。口紅など塗っていないはずなのに異様に赤く見える唇や、
乱れて頬にかかっている汗に濡れた髪の毛、熱のせいで紅潮した肌―普段のレイからは感じることのない色気に圧倒された。
シンジは思わず生唾を飲み込んで―それから強烈な罪悪感に苛まれた。自分で自分の頭を殴りたくなる。
―こんなときに、何を考えているんだ。
「ミサトさんに電話しなくちゃ」
携帯を取り出して、ミサトにかける。
「シンちゃん? 珍しいわね、どうしたの?」と能天気に言うミサトに、シンジは事情を説明した。
その間、主人の苦しみを察したのか、仔犬がうろうろと歩き回りながら悲しげに鳴いている。
話終わると、仔犬の頭をそっと撫でた。
「今、お医者さん呼んだから、大丈夫」と、シンジは犬とレイの両方に語りかけた。

716: ◆IE6Fz3VBJU
09/10/27 01:22:53

猛烈な寒気がした。熱が出てるはずなのに、なぜ寒いのか。震えが止まらない。
そう言えば最近薬を飲んでなかった。それもまずかったか、と、レイはぼんやり考える。
目を開けると天井がぐるぐる回っているような気がして気持ちが悪くなった。目を閉じると、何故か昔のことが脳裏に浮かんでくる。
ゲンドウがレイに語りかけている。まだ幼いころだ。おそらく、これが最初の記憶。
ユイ。そろそろ帰ろう。
レイは首をかしげる。ユイ? それが私の名前?
いや、間違えた。いいんだ、気にするな。お前の名前はレイだ。
ゲンドウはどこか気まずそうに答える。
ユイという名前がゲンドウの死んだ妻のものだと知ったのは、だいぶ後になってからだ。
目をつむり、苦痛に喘ぐレイの脳裏に、今までの出来事が、時期も順番もでたらめに浮かんでくる。
ふーん、可哀想にねえ。ご両親が。それで今所長のところに? 男手一人では大変でしょうに。あらイヤだ、私は……うふふ。
この薬は毎日飲むこと。そう。これとこれを一錠ずつ。習慣にして頂戴。
失敗作ですわ。廃棄なされたほうがよろしいかと。……ッ! 女を殴るなんて男のやることじゃありませんわよ。母にもこうやって―誰? そこにいるのは!?
私の言うことを聞きなさい。ばらしてもいいの?
しかし……ちょっと不気味ですねぇ、あの子。何か観察されてるような気がしてしょうがないんですよ。おっと、それより今夜は一杯やりませんか? いい店知ってるんですよ。
ええ。どうも彼女……リリスの影響が大きいのではないかと。ATフィールドが生身で使えるのもその関係だと思われます。
謝りなさいよ。
レイ。ちょっと、あなた、性格悪すぎるわよ。そんなんじゃいつかしっぺ返しを食らうわよ。
ばあさんは用済み。ばあさんはしつこいって。
人間じゃないみたいだな。薄気味悪いよ。
凄い……。レイ、あなた、やっぱりシンクロ率を自由に操れるのね。でもそれは隠しておいたほうがいいわ。何で? 色々調べられたら厄介だからよ。……ゼーレがうるさいから。
お前、気持ち悪いな。何だよ、その赤い目は。化け物かよ。ははっ。……いてっ! 何だこいつ! おい、やめろ! やめてくれよ! 血だ……。お母さん! 血が出てるよ……!
これは……。彼女か、碇?


次ページ
最新レス表示
レスジャンプ
類似スレ一覧
スレッドの検索
話題のニュース
おまかせリスト
オプション
しおりを挟む
スレッドに書込
スレッドの一覧
暇つぶし2ch