LAS小説投下総合スレ18at EVA
LAS小説投下総合スレ18 - 暇つぶし2ch2:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/06/28 14:44:46
乙です!

3:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/06/28 14:51:01
>>1
前スレもだけど、コレ↓スレ抜けてますぜ

LASを投下しましょう。甘LAS、シリアスLAS、イタモノLASなどジャンルは問いません。
また、LARSやハーレム物の中で描かれるLASなどもOKですが主軸はLASで。他カプが主軸なら該当スレへ。

エロ分が多ければエロパロ板へ投下で、当板は全年齢対象です 。
原作にどれだけ直球な表現があったからといってもエロ分が多いとスレ削除を食らいます。

あなたがLASと思えば、それはLASなのです。

あと、LASSS保管庫のリンクも張っとく

LASスレ投下SS保管庫
URLリンク(las.nobody.jp)



4:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/06/28 16:57:45
乙です

5:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/06/28 17:15:08
早速SS投下町

6:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/06/28 20:56:52
乙乙

7:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/06/28 22:38:14
即死回避

8:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/06/29 14:14:16
乙ですーノシ

9:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/06/29 15:35:48
なんかもう甘甘なLASが読みたいorz

10:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/06/29 18:21:04
そして最後は参号機に乗るんですね
わかります

11:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/06/29 18:56:37
>>9
俺で良ければ書くよ

12:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/06/29 19:19:48
wktkしとく

13:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/06/29 20:12:05
臥してお願いします
もう立ち直れなくて、
苦しい

14:8CG3/fgH3E改め ◆4GEknWtgks
09/06/29 21:27:55
>>11っす
即席で書いたヤツだけど、甘いかな?シリアスかもしれん
あんま期待しないで読んでちょーだい(´д`)


きっといい日々に

寒空の下を少しずつ歩きながら、赤い手袋に包まれた掌を擦り合わせる。
はぁー、と吹き掛けた白い息は少しの間だけあたしの手を暖めて、スゥッ、と儚
く空気中に消えた。
あいつが一緒なら、ギュッと手を繋いで暖め合うのになぁ。
一歩一歩踏み締める度に、降り積もった雪がぎゅっぎゅっ、と音を立てる。

公園で雪合戦を繰り広げる子供達の姿が目に留まる。しばらく立ち止まり、中々
に微笑ましい光景を眺めて、また歩き出す。
あいつに「子供が欲しい」なんて言ったら、なんて答えるかしら。真っ赤になっ
て「ま、まだ早いよ!」って言う? それとも困った顔をして「ちょっと……な
あ……」なんてあたしを傷付けるかしら。
多分、そんな一筋縄では行かないだろう。
そんな取り留めの無いことを思う。
昔は子供なんて欲しくなかったのに、今はなぜこんなにもあいつの子供が欲しい
と思えるのだろう。
暗澹とした気持ちで見上げた曇り空には、朧気な太陽の光があった。
家に向けて歩くごとに、食い込んでくるバッグの肩紐を直す。


15: ◆4GEknWtgks
09/06/29 21:30:36

胸が震える。バイブ機能で震える携帯をジャンパーの胸ポケットから取り出した。
ディスプレイを開くと、一件のメール。二回ボタンを押し、メールを開く。
シンジからのメッセージだった。
「ごめん、コンビニでも良いから牛乳も買ってきてくれないかな? 代わりにお
菓子、ひとつだけ買ってきてもいいから」
笑いながら溜め息を吐き、携帯を閉じる。
ほんの三分前に通り過ぎたばかりのコンビニへ踵を返す。
まったく、メールでも謝るなんて、本当にバカシンジね。
暖房が入った暖かいコンビニで、冷気に冷やされた棚から低脂肪の合成牛乳を一
本、スナック菓子をひとつお菓子棚から取り、レジに持っていく。会計を終えて
商品を入れた袋を差し出す顔馴染みの店員が、あたしに軽く微笑みを向ける。袋
を受け取ったあたしも、それに微笑みで答えた。
店員が女の子じゃなくて男で、あいつが傍にいたらどうなるだろう。嫉妬に狂っ
てくれるのだろうか。
コンビニを出て再びマンションへ向かう。
「あら、アスカ」
暖房の効いた玄関に入り、手袋を外すと、隣人の姑(予定)と小姑(予定)がエ
レベーターから降りてきたところだった。
「どっか行くの?」
リツコにそう訊く。
「ええ、ちょっとネルフに」


16: ◆4GEknWtgks
09/06/29 21:31:58

「そりゃまたどうして? ネルフは辞めた筈なのに」
うーん、それがね、とリツコはうんざりとしたように言う。
「マヤの後輩がまた問題起こしたそうなのよ。マギがエラーだけしか表示しない
らしくて」
「それで、なんでレイが?」
なぜだかシンジの義妹レイが一緒にいる。
「社会勉強。で、あなたは?」と答えたリツコが逆にあたしに訊き返す。
「使いっぱしり……?」
失礼なことをぼそりと呟いたレイに、あたしは目を座らせて睨む。
リツコも「呆れた」という風に横目で見ながら軽く溜め息を吐く。
そのリツコの隣に立つ小姑(これも予定)は、そんなあたしの目にも怯むことも
なく、静かに燃えるキャンドルの炎を思わせる赤い瞳を、あたしに向ける。
「……はぁ、あんたはいい加減学習しなさいよ」
あたしは不遜な気持ちを込めて腕を組む。
「なにを?」
「人間関係、コミュニケーションってヤツをよ」
「人間関係……それは美味しいもの?」
「とぼけるなバカレイ」
「……はぁ、仮にも妹になろうという女性にバカなんて言うのは好ましくないわ
ね。そんなようじゃレイにいびられるんじゃないかしら。小姑は鬼百匹に向かう
……とも言うのよ」
鬼云々はイマイチ解らない(恐らく小姑は怖いって事なんだろう)けれど、リツ
コの溜め息混じりの軽い叱責に、「へーい」と軽く返事をする。


17: ◆4GEknWtgks
09/06/29 21:32:52

「レイは?」
最近すっかり母親が板についた(似合わないくらいにね)リツコにたしなめられ
たレイは、唇を尖らせて斜め下を向いた。
なによ、あんたすねてんの?
まったく、女の子っつー自覚が無いのかしらコイツは。
まあこれはこれで可愛い……のかな。
「どうしたの」
リツコがドスを聞かせた声でレイに訊き、ギロッと横目にレイを睨めつける。
きゃあ、こわ。
「……ごめんなさい、お母さん……むぎゅ」
意外と素直な事を言いつつも、いまだに下を向き続けるレイの顔を、両手で挟ん
で真正面に見据える。
「そんなすねた顔してちゃ、美人が台無しだっつの」
「ひゃひぉふふほぉ」
「何言ってんのかわかんないわよー」
おらおら。
「ふひゃひふひゃひ……いたい……」
ぐりぐりと柔らかいほっぺを存分にこね回してから解放してやる。
「……そう、もう駄目なのね、お嫁にいけない……」
「バカ言わないの」
真っ赤なホッペを押さえて、レイは少し恨めしそうな表情を浮かべてあたしを睨
む。


18: ◆4GEknWtgks
09/06/29 21:33:52

「ま、まるっきり外れって訳じゃないけど」
「やっぱり使いっぱしりね」
「ちがうっつの。ただのお使いよ。お・つ・か・い」
「ものは言いようね」
「ぐ……なによそのいいぐさ。まるであたしが口八丁の言い訳してるみたいじゃ
……」
「レイ! 行くわよ」
気付くと、既にリツコはあたし達のどーしようもない言い合いを放って、マンシ
ョンのエントランスから体を半身乗り出していて、それに気付いたレイがハッと
した顔をしてリツコを追う。
あたしはその後ろ姿にベーッと舌を出して見送った。
はぁ、まったくもー、ホントの母娘よりも仲が良いんじゃないかしら。
それを羨ましく思っていることは、あいつも知らない心の奥底に、ママの出来事
と共に仕舞われているけれど。

「ただいまー」
三和土で靴の雪を落として、玄関に上がり、服掛けにジャンパーを掛ける。
「おかえりっ、寒かったでしょう? 紅茶飲む?」
「飲むっ!」


19: ◆4GEknWtgks
09/06/29 21:34:47

はい、と鞄とコンビニ袋を渡し、シンジはその鞄から買い物を次々と取り出して
冷蔵庫に納めていく。
あたしはリビングのソファに腰を下ろし、飼い猫のミーを抱き寄せる。
中々暖かい。
飼い猫と言えば、飼いペンギンのペンペンは抱いたこともなかったなぁ。ペンペ
ンは今何しているだろう。たしかヒカリのところに居たらしいけど、ヒカリとは
あれから一度も会ってないし。もしかしたらペンペンはもう食べられてしまった
のかもしれない。直後にあったあの食糧難なら、それも決して有り得ない話では
ない気がした。
「あんたは食べないからね」
ちょこちょこと顎の下を擽ってやると、ミーは気持ち良さそうに目を細め、喉を
ゴロゴロと鳴らして寛ぐ。
「シンジは食べる予定だけど」
もちろん別の意味でね。
「呼んだー?」
紅茶を淹れていたシンジがダイニングキッチンから顔を出してあたしに呼び掛け
る。
「呼んでないわよー」
「ふーん……」
そう相槌を打ちながら歩いてきたシンジは、紅茶ポットと二対ティーカップと角
砂糖の器を載せたサーバーを、テーブルに置いた。
「ダンケ」
「あぁ……またミケを膝の上に……」
「なによ、悪い?」
ミー(ミケの事ね)とのスキンシップを邪魔するなんて不届きなヤツね。
「だってスカートや服に毛がくっ付くじゃないか。しかも外行きのヤツだし……」


20: ◆4GEknWtgks
09/06/29 21:35:48

「文句あんのー?」
「洗濯が大変なんだよ? いつも言ってるのになぁ……」
溜め息を吐きながらシンジはティーカップに紅茶を注ぐ。
芳潤なお茶っ葉の薫りが立ち上る。
こんなわがままなあたしに、シンジは文句を言いながら、いつも優しくしてくれ
る。
ティーカップに、角砂糖をたっぷり入れる。
いつから甘いものが好きになったんだろう、とあたしはティースプーンで角砂糖
を溶かしながら考えた。
昔は大人になろうとしてコーヒーもブラックだったし、紅茶にも何も入れなかっ
た。
そうすれば早く大人になれるものだと信じていた。
それが幻想に過ぎないってことも、それが子供の証拠だって事にも、今になって
気付いたのだけれど。
シンジは紅茶の薫りと風味を味わいたいらしく、何も入れずに飲む。
角砂糖がようやく溶けた(それでも溶けきらなかった砂糖が底に沈んでいるのだ
けれど)紅茶を口に運ぶ。
甘い。とても甘い。あたしの味蕾を刺激する。
「こっち来なさいよ」
あたしはシンジに言った。
「え?」
「いいから」
あたしはシンジを引き寄せ、隣に座らせる。
「あ、アスカぁ……」


21: ◆4GEknWtgks
09/06/29 21:37:17

情けない声を上げるけど、無視無視。
肩に頭を乗せて瞳を閉じる。
心地好い。
ミーの毛波を撫でながら、シンジの暖かさを堪能する。
「ねぇ、アスカ」
「なによ」
あたしは、この雰囲気に期待して、そして。
「晩御飯の用意が出来ないんだけど……」
殴ってやった。
あれから二年、いまだに同居を続けていて告白も済ませたっつーのに、キスすら
してくれないなんてなぁ。
「じゃあ」
シンジは立ち上がる。
「晩御飯用意するから先にお風呂入ってきてくれる?」
「ん、わかった」
あたしは、んーっ、と伸びをしながら部屋から着替を持って脱衣所へ向かった。
服を脱ぎ捨ててクリームカラーの眼帯を外し、産まれたままの姿になったあたし
はバスルームに入り、シャワーの蛇口を捻る。
シャワーのお湯を浴びて体を暖める。
鏡を見ると、そこには量産機の槍に貫かれた傷痕が、うっすらと残っていた。
あたしはこの体を抱き締める。
退色した左目が、あたし自身を掴み所のない眼差しで見つめる。
きっとシンジは、あたしの事を心の底から綺麗だとは言ってくれないだろう。
だけどあたしはそんなことを気にしない。
気にしないよう、自分に言い聞かせる。


22: ◆4GEknWtgks
09/06/29 21:38:23

シンジの本心は解らない。
自信なんて持てる筈がない。
誰にも他人の心の中なんて解らない。
シンジがキスをしようとしないのは、あたしを醜いと思っているから?
自信なんて持てる筈がない。
だけどあたしはあいつを信じる。
逆にあたしは?
自問自答。
あたしからエヴァを奪った男。あたしをオカズにした男。あたしの首を絞めた男
を赦したの?
ええ、あたしはあいつを赦したの。
あたしはあいつが好きなの?
好きよ。
なぜ?
だって、一緒にいると落ち着くもの。
ヤツが他の女と喋っているのを見れば、嫉妬に狂うもの。
狂おしい。
……ああ、駄目よ駄目。
取り留めのない自問自答を中断したあたしは、スポンジを手にしてボディソープ
を染み込ませ、体を洗っていく。
一生懸命に洗う。
そうすれば全ての汚れが浄化されるように感じるから。


23: ◆4GEknWtgks
09/06/29 21:39:52
シャワーで泡を洗い流し、自慢の長い髪を洗いに掛る。
昔はLCLのおかげで枝毛だらけの髪だったけど、そう髪を酷使する訳でもない
今は、枝毛のあまり無いさらさらの艶髪だ。
あの頃より美しくなったのは、この髪と胸だけかも知れない。
バスタブのお湯につかり、おもいっきり体を伸ばす。
といってもバスタブが狭いので、足首から先がバスタブからはみ出してしまうの
だけれど。
この瞬間が心地好い。
全てのしがらみから解放されるようで。
服ではなく、お湯に包まれているからだろうか。
十分に暖まったあたしは、バスタブから上がった。

「うー、さむさむ……」
お風呂から上がると陽は既に落ちていて、赤い月が空に輝いていた。
シンジはもう晩御飯を作り終えていて、美味しそうな料理がテーブルの上に並ん
でいた。
あたしは冷蔵庫から専用の牛乳を出して湯上がりの水分補給。
「ラッパ飲みなんて行儀悪いよ?」
「なによ、いつもの事じゃない」
牛乳を仕舞い、夕食の席につく。
「ミサトおっそーい」
愚痴る。
「……先に、食べちゃおうか?」
「へ? 待たないの?」


24: ◆4GEknWtgks
09/06/29 21:41:17
予想外ではあった。
シンジならミサトを待つかと思ったんだけど。
今までもそうだったし。
「だってお腹空いたんだろ?」
ふーん、と相槌を打つ。
「な、なんだよ……」
「あんたもいつまでも飼いならされたオトコのままってわけじゃないのね」
「なにそれ」
「そのまんま。少しはあたしの恋人らしくなったんじゃない? ってこと」
「もう……恥ずかしいこと言わないでよ」
男が言うような言葉じゃないわね。
「恥ずかしいなんて失礼ね」
「もういいから、早く食べよう。お腹空いたでしょ」
そう言うとシンジはミーのご飯を用意して、ミサトの分の料理にラップをして、
ふたつのコップに水を注いで席に着いた。
あたしも席に着く。
「いただきます」
ふたりで合掌した。

食事が終わって、まだミサトは帰ってこない。
シンジはキッチンで使った食器を洗っている。
かちゃかちゃと控え目な音が聞こえてくる。
あたしは床に寝ているミーの背中を撫でながら、しどけなくソファに寝そべって、
テレビのバラエティ番組を見ていた。
テーブルにはさっきのお茶っ葉とは違う薫りの紅茶がある。


25: ◆4GEknWtgks
09/06/29 21:42:20
さっきの紅茶は、ただ良い薫りしか感じなかったけれど、今あたしの嗅覚を擽る
薫りは、どちらかと言えば落ち着くような、懐かしいような薫りがする。
きゅっ、と蛇口を締める音がして、シンジが食器を洗い終わったのだと解る。
シンジはそのままベランダの方に行って、取り込んだ洗濯物を籠ごと持ってくる
と、あたしの反対側に座ってその洗濯物を丁寧に畳み始めた。
あたしはそれを眺める。
沸き上がる。
なにが?
あたしの欲望が。
願望が。
「ねえ」
あたしは声を掛ける。
多分あたしは、今のこの穏やかな生活を壊してもいい、と思うほど、シンジを求
めていたのかもしれない。
「なに?」
シンジは、あたしを見ずに応えた。
「子供、欲しい」
手が、止まる。
「は? 誰の?」
シンジはあたしを怪訝そうな顔で見た。
あたしは表情を一切動かさず、シンジを見つめた。
動かせば、泣いてしまいそうだから。
「 だ か ら 、 あ ん た と あ た し の 子 供 が 欲 し 
い の 」
沈黙。


26: ◆4GEknWtgks
09/06/29 21:43:16
ただ暖房のゴォーという音だけが、部屋の空間を支配する。
「……ば、馬鹿言わないでよ!」
「なにが『馬鹿なこと』よ。あたしはしごく本気なんだけど」
「そんな……僕達まだ……」
「『17歳じゃないか』?」
シンジが、口を噤む。
あたしは溜め息を吐いて続けた。
「なにも今欲しいって訳じゃないの。いつか欲しいってこと。自立もしてないう
ちに子供なんて養えるわけないじゃない。約束……婚約して欲しいだけ」
「婚約……」
重い言葉。恋人とはまた違う、一時の約束ではなくて、将来を一生共にする為の
約束。
「それとも、傷だらけの女はイヤ?」
あたしは、眼帯を捲り、パジャマをたくし上げた。
晒される傷痕。
薄くて、目を凝らさなければそうそう見付けられないような、だけどはっきりと
した傷痕。
「これじゃ、立たない?」
自分の言葉に赤くなる。
「気にしなくていいのよ? イヤならイヤって言っていい。あたしを好きになっ
てくれる人ぐらい、人類12億人の中に一人くらいいるわよ。キャリアウーマン
にでもなって、ドイツの田舎で余生を過ごすことだって出来る。言っとくケド、
同情なんて真っ平ごめんよ。好きじゃなきゃ、意味ないもの」
あたしは服を直し、眼帯を下げた。
「同情なんかしたら殺してやる」
同情なんていらない。
偽りなんていらない。
好きなのは解ってる。
あたしが欲しいのは、その更に先。


27: ◆4GEknWtgks
09/06/29 21:44:14
「好きだよ……僕は、アスカのこと」
「キスもしてくれないのに?」
あたしがあんなにねだったのに、してくれなかったくせに。
せいぜい手を触れ合ったり、繋いだりするだけのプラトニックな恋人関係。
「……僕は、しちゃいけないんだ……」
「……あたしが嫌いってことね」
「違うよ!」
シンジが声を荒げる。
驚いたミーが起きて、廊下に駆けていった。
「あーあ。ミーが行っちゃった」
あたしは間の抜けた声で言う。
「……どうして……」
「ん?」
「……どうしてアスカは僕と……エッチ……したいの?」
「はぁ?」
あたしは笑う。
「誰があんたとセックスしたいなんて言った?」
「だって……」
「あたしはね!」
あたしはシンジの言葉を遮る。
「あたしはあんたとしたいなんて言ってない……そりゃしたいケド……でもね、
それが目的じゃないの。あたしが欲しいのはあんたとの生活よ。結婚もしたい。
あんたの子供が、家族が欲しいのよ」
あたしに無かった、家族。
それが欲しい。
それも、偽りの家族なんかじゃない、本物の家族。


28: ◆4GEknWtgks
09/06/29 21:45:28
シンジが欲しい。
シンジとしたい。
「あたしが好きならしよう。キスして、その先も。多分きもちいいだろうけど、
やっぱり子供が欲しい」
あたしはずっと思ってた。
シンジと結婚したいって。
何故だろう。子供も欲しくてたまらないの。
レイもリツコも、司令だって、根回しはとうに済んでるのよ?
あとはあんたの意思だけなの。
あたしは決心した。
今、唐突に、家事をするあんたを見て。
次はあんたの番。
きっかけなんて些細なもの。
ずっと思っていたんだから。
「あたしと結婚するか、それともあたしを追い出すか。ふたつにひとつ。あたし
に告白して優しくしたのは、償いか、それとも愛情なのか」
答えを求める。
いつの間にか、ミーは戻ってきていて、シンジの足に寄りかかって眠っていた。
「アスカは……」
シンジは口を開く。
「……後悔しない?」
「え?」
「僕と結婚して、後悔しない? 親の愛情も、なにも知らない僕と結婚して」
あたしは、笑った。
「愚問よ。知らないからどうだって言うの。あたしも知らない。だからなんだっ
て? そうして尻込みして、欲しいものを手にしようとしないのは、愚か者のす
ることよ」


29: ◆4GEknWtgks
09/06/29 21:48:13
あたしは尻込みなんてしない。
明日を恐れない。
だって明日香だもの。
「好きだって、何度言ったと思ってんの」
あたしはシンジの傍へ躙り寄る。
「赦したのよ。あたしをおかずにしたことも、あたしの首を絞めたことも」
「うん……」
これは、二年前の再確認。
あたしは赦した。
コイツがあたしに告白した時に。
「好き? あたしのこと」
「……好き……だ」
「もっとはっきり。告白して」
シンジのズボンを、掴む。
意を決したように、または漸くしがらみから解放されたように、シンジはあたし
に告白する。
「……好き……僕は、アスカが好きだ……」
「告白」
シンジの手が、あたしの手に重なる。
「ずっと、思ってた。アスカと家族になれればどんなにいいかって……だから、僕と、結婚……してください」
あたしは、心を満たすその言葉に満足した。
あたしはそれの更に先を要求する。
「婚約のキスをして」
「……いいの?」
「早く」
あたしはちょっと苛立って。


30: ◆4GEknWtgks
09/06/29 21:49:49
でもいつまでも待ってやるつもりで。
「……じゃあ……する、よ?」
そしてシンジは恥ずかしげに怖ず怖ずとあたしに顔を寄せ、キスをした。
ホッペに。
「ちょ……」
なんで唇にしないのよ!
ちょっと! と言おうとしたあたしの顔に、次のキスが降る。
おでこや顎、そして唇に幾つものキスが降る。
首筋、そして耳。
あたしの顔の、ありとあらゆる場所に沢山キスマークが刻まれた。
「あっ……」
シンジの手が眼帯を外す。
そして舌が瞼を撫でた。
あたしは恥ずかしさで真っ赤になってしまっていたけど、今までの分まで発散す
るようなシンジの熱いバードキスに、なされるがままになってしまう。
「ちょっと……あんた、もう……」
おでこをを最後に、シンジは唇を離してあたしを見つめた。
「ごめん……ね」
キスを漸く止めて、すっきりしたように笑うシンジに、あたしはなんだか毒気を
抜かれてしまって。
こんなのもいいかも知れない、と思った矢先だった。

「中々お熱いようだな」
その声にあたし達は同時に玄関の方を振り返る。
そこには、色眼鏡を止め、普通のスタイリッシュな眼鏡を掛けて、呆れたような
(あの頃の姿からは信じられないような表情だけど)顔をしたシンジのパパと、
ニヤニヤ顔のミサトがいて、あたしはシンジを跳ね退けて居住まいを正す。


31: ◆4GEknWtgks
09/06/29 21:52:16
シンジはただボゥとしてあたしに跳ね退けられた姿勢のまま。
あたしが蹴ってやると漸く居住まい(しかも正座だ)を正したくらいの体たらく。
もう、恥ずかしい!
「なんで父さんが!」
切ない声を上げるシンジの抗議も、「息子の家に来てはいかんのか? 俺がせっ
かく心を入れ替えて親父をしているというのにな」という寂しげな言葉に粉砕さ
れた。

そのあとはニヤニヤ顔を引き締めたミサトに貞操がなんの、恥じらいがなんのと
二人揃ってこってりと絞られた訳で。
ついでに、シンジのパパを追ってやって来たレイのきつい視線まで受けることに
なったのは予想外だったけどね。
これで同居していたのが、引き離されたらどうしよう! なんて心配もまったく
の杞憂だった。
「あたし達、このまま?」
シンジの頭を、本当に不器用な手付きでぐしゃぐしゃと撫でたお義父さん(こう
呼んでもいいわよね?)に聞いたあたしの心配も、「婚約者と住んで何が悪い」
という武骨な飯草に消えてしまう。

その夜、あたしとシンジは互いの毛布を交換して眠りに着いた。
最初は真っ赤で興奮して、だけどその安堵感に包まれて眠りについた。
明日からの、また違う幸せな日々に思いをはせて。
約束したあたし達。
幸せな未来を築けると、あたし達は信じる。
あしたからの日々は、どんなにいい日になるだろう。


32:NL ◆4GEknWtgks
09/06/29 21:56:58
終了
アレ?連投規制は?問題なし?10レス以上投下しちゃってるケド……
つか、ぬけたパートとかないかな('A`)


33:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/06/29 22:18:18
無限に投下できんのかこのスレはw
とりあえず乙です
あとで読みますね

34:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/06/29 22:18:30
GJ(*´Д`)
おいらもLASの肝は赦しだと思います

35:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/06/29 22:35:46
一気読みしましたGJ!!

36:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/06/30 10:05:53
癒されました!GJ!!!

37:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/02 00:43:57
投下待ちしてます

38:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/04 00:24:05
URLリンク(jlab.r0m.biz)


39:プロテインX
09/07/04 12:56:55

『おだやかな午後』

下校しようと思って机の中から教科書やノートを出そうとしたら、くしゃくしゃに丸めた紙が出てきた。広げてみるとその紙には、「シンジ、××駅に来なさい。アスカ」と書かれてあった。……今度はどんなわがままに付き合わされるんだろう。思わずため息が出た。
「おー、シンジ。かえるでー」
とトウジ。
「ごめん、なんか用事できちゃって」
とぼく。
駅に着くと、アスカはもう既に居た。
「遅いわよ、バカシンジ」
「ごめんアスカ。……で、今日は何?」
「この近くにケーキがおいしい喫茶店があってさ。いつもならヒカリと行くんだけど、ヒカリ、ダイエットするっていうから、あんたはその代わりってわけ」
「ここら辺にそんな喫茶店あったんだ」
「さ、行くわよ」
アスカの後に付いて歩くこと数分でその喫茶店の前に着いた。
アスカはすこし笑顔で、
「どう? いい感じのお店でしょ」
と言った。
「うん。なんだか昔ながらの喫茶店って感じがする」
アスカがドアを開けると、カラン、コロンと音がした。店内は冷房がきいていて、ぼくは座席に座り一息ついた。
メニューを見ながら、
「何がお勧め?」
と訊いたら、同じくメニューを見ているアスカが、
「うーん、何がお勧めっていうか、あたしが食べたいケーキをあんたと半分こするからあんたはブレンドコーヒーでも頼めばいいんじゃない? よし、決まったわ」

40:プロテインX
09/07/04 14:35:49
アスカは店員を呼ぶと、
「あたしはモンブランと、チョコレートケーキと、ブレンドコーヒー。あんたは?」
「じゃあぼくもブレンドで」
注文し終わり、すこしの沈黙の後、アスカは、
「最近、使徒来ないわね」
と言った。
「んー、そうだね」
「あんたはさ、もう使徒が来ないといいなって思ってんの?」
「うん。アスカは違うの?」
「あたしは違うわ。せっかくエヴァのパイロットやってるのに全然活躍できないじゃない。する事っていったらシンクロテストばっかだし。意味ないわよ、こんなの」
「ぼくはもう来ないほうがいいな。痛い思いするの嫌だし。……アスカはエヴァ乗るの好き?」
「あたしだって痛いのは嫌だけどエヴァに乗るのは好き。あんたは、あ、ケーキ来た」
店員がコーヒーと、ケーキをテーブルに並べながら、
「お待たせいたしました。ご注文の品は以上でおそろいでしょうか」
「ええ」
とアスカ。
アスカは器用にモンブランとチョコレートケーキを半分にして、
「はい」
と言って、お皿に乗せてぼくに渡してくれた。
「ありがと」
ぼくがコーヒーに砂糖とミルクを入れたらアスカが、
「あーあ。あんた今自分が何やったかわかってる?」
「え? コーヒーに砂糖とミルクを入れただけだけど―」
「違うわ。おいしいコーヒーの味を台無しにしたのよ。ほんとにあんたって馬鹿よね」
なにも怒らなくたっていいのにと思いつつ、
「わかったよ。今度ここのコーヒー飲む時はしないよ」
と言った。

41:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/04 15:02:04
マッタリ更新してるなw続き町

42:プロテインX
09/07/04 18:14:45
モンブランも、チョコレートケーキも、コーヒーも、アスカがおいしいと言うだけあってとてもおいしかった。
「これ、ほんとにおいしいね」
と言ったら、アスカは、
「コーヒーに余計な物混ぜなければもっとおいしかったのにね」
と意地悪な笑みを浮かべて言った。
ぼくはうんざりして何も言い返さなかった。
ふと疑問に思って、
「そういえばなんでケーキ半分こにしたの?」
と訊いてみたら、
「一個丸々食べて、何種類も食べたら太っちゃうじゃない。ま、あたしはネルフにあるジムでヨガやってるからそうそう太らないけど。……たぶんミサトはヤバいことになってるわよ」
なるほど、と思った。
アスカが、
「えーっと、さっきなんの話してたっけ」
「さっきって?」
「ほら、えーっと、そう、エヴァの話よ。あんたエヴァに乗るの嫌なの?」
「嫌、かな」
「あたしは思い通り動かせた時なんか楽しいけど。あんたは一度もそういう時ないの?」
「うーん……。あっ、アスカとユニゾンした時は楽しかったな。いや、楽しいっていうよりも無心っていうのかな。痛みとか恐怖とか忘れられてた気がする」
アスカは笑いながら、
「練習の時のあんた、本当に駄目だったわよね」
ぼくはすこしむっとして、
「いいんじゃないか、本番では使徒を倒せたんだから」
「ま、結果オーライよね」
またすこしの沈黙。レトロな感じの店内を音楽が静かに流れていた。ぼくはすっかりくつろいでいた。それはアスカも同じのようだった。

43:プロテインX
09/07/05 15:55:59
書き間違えた箇所。

「おー、シンジ。かえるで」×
「おー、シンジ。帰るで」〇

「いいんじゃないか、本番では使徒を倒せたんだから」×
「いいじゃないか、本番では使徒を倒せたんだから」〇

44:プロテインX
09/07/05 16:40:06
ぼくは、
「本当にいい喫茶店だね。音楽もうるさくないし」
「そういえばあんた、いつもカセットで何聞いてるの?」
「聞いてみる?」
と言って、ぼくはバッグの中からSDATを取り出した。
テープを巻き戻して、自分の左耳にイヤホンをはめて、
「はい」
と言って、もう片方のイヤホンをアスカに渡した。
アスカは、
「あんた、もうすこし近づきなさいよ。あたしがイヤホン付けられないじゃない」
「あ、うん」
と言って、ぼくはテーブルに身を乗り出した。アスカもテーブルに身を乗り出した。
ぼくは、アスカとの距離がすごく近くなったのにすこしどきどきしながら、アスカが髪をかき分けながらイヤホンをはめたのを見て、スタートボタンを押した。

45:プロテインX
09/07/05 16:41:33
音楽が流れ始めて、アスカが、
「あ、あたしこの曲知ってる! なんて曲だっけ」
「え、アスカ、この曲の名前知らないの? モーツァルトの『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』だよ」
「曲名知らないとなんか問題あんの? あんた生意気!」
とアスカは怒った。ぼくは慌てて、
「ごめん、アスカはなんでもできるから知ってると思ったんだ」
アスカはまだ怒っている声で、
「あたしだって知らない事ぐらいあるわよ」
と言った。
こんなに近くで、こんな風にアスカの顔を見るのは初めてだなとぼくは思った。
「なによ、人の顔じろじろ見て」
とアスカ。
「いや、アスカの目の色ってきれいだなって思って」
「お、おだてたってなんにもしないんだからね! ここだって割り勘よ!」
「アスカ、声が大きいよ」
それっきりアスカは黙ってしまった。何かまずい事言ったのかなとぼくは思った。
アスカがイヤホンを外して、
「もういいわ。帰るわよ」
と言ったので、
「うん、帰ろうか」
とぼくも言った。

46:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/05 21:35:29
終わり…かな?
とりあえず乙!

47:プロテインX
09/07/05 23:26:03
コーヒーとケーキ代を割り勘で払って、外に出たらもう夕方だった。
ぼくがアスカに、
「スーパー寄ってってもいいかな」
と訊いたら、
「うん、いいわよ」
と言ったので、スーパーへ行き、買い物をして、二人で食料品の入った袋を持って外に出たら、トウジに出くわした。
「なんやシンジ、用事て夫婦一緒の買い物の事やったんかいな」
とトウジが言った。ぼくが反論する間もなくアスカが、
「あんたふざけたこと言ってるとハイキックをお見舞いするわよ!」
「うわ、こらあかん、退散しよ。またな、シンジ」
と言って、トウジは走って逃げていった。
ぼくはなんだかおかしくって声に出して笑っていた。
アスカがまっかな顔で、
「あんた何がそんなにおかしいわけ?」
「だってアスカ、すごく怒るんだもん」
「あんた達って三馬鹿よ。……シンジ、今日の晩ごはん何?」
「うーん、何にしようかなあ」
そうして、日が暮れていくなか、ぼくとアスカは買い物袋をぶら下げて、ミサトさんとぼく達の家に帰っていった。

終わり。


感想があったら書いてくれると嬉しいです。『もしシンジだけが甘えん坊だったら』というスレッドにも、以前に小説を投下したのでよろしかったら読んでみてください。
原稿用紙に書いてから、ケータイで投下しているのでなかなかしんどいっす。

48:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/05 23:47:45
乙であった

49:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/05 23:51:54
GJです。偉いね~用紙に書いてからなんて
出来ればまとめて連投してほしいかな。若干読みにくい
ただ作品は良かったです
ちなみに甘えん坊スレの作品はLAS?

50:プロテインX
09/07/06 03:56:12
>>49
甘えん坊スレはLASではないです。
連投は正直無理です……。せめてキーボードで入力できたら……。ケータイだときついっす。
いいですよ、原稿用紙。文章上達目指し、日々精進!

51:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/06 16:48:23
>>50
連投なら、メールの本文に書いて保存するなりして1投下分ずつコピペするとか、どう?
まあ、そんな問題じゃないのかも知れんけど


52:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/08 18:00:12
『今日は久しぶりの休みのはずなのに・・・』

僕は独り言を呟きながらエントリープラグ内に居る 
学校帰りからの緊急呼び出し、体に緊張が走ったが、それは直ぐに冷めてしまった 

リツコさんからの緊急シンクロテスト、しかも僕だけって・・・ 

『シンジ君、ご免なさいね。休みのはずなのに・・・』

『いや、特に予定もなかったんで』

僕は上っ面の返事をした 
内心としては憂鬱 

『では、シンクロ開始』

グゥゥン 

プログラムを変えたのか、いつもとプラグ内が違う気がする 

まぁ~そんな事はどうでも良いや 

早く終わる事だけを意識していれば良い 

あれ、眠いのかな・・・ 
目が霞んで、意識が遠くなる感覚が出始めた 

何か周りが騒がしい 

僕はそこで意識を失った・・・ 


53:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/08 18:13:48
大海原

僕は今、漂っている 

何故だろう、水中なのに息が出来るなんて・・・ 


魚や海草、それが存在しない海なんてあるのかな?



あぁ~これは夢だ 

夢に違いない 

僕は夢を見てるんだ 


そう思うと、目の前が少しずつ明るくなり始めた 


お目覚めの時間か・・・ 


すると周りが反射する様に明るくなり、眼前を遮断した 



『ほ~ら、やっぱり夢だ』そう呟くと僕は目を覚ました



54:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/08 21:10:40

『何処だ、ここ?』

そこは病室では無かった 
部屋が丸太や材木で出来ている、ペンションなどにあるバンガローやログハウスの様だ。 


着ている服もよく見れば着ていたプラグスーツではなく、ごく一般的な黒のスウェットに変わっていた 


どうやら病室では無い場所に自分が居る事が理解できたようである。 


ガチャ・・・
突然、部屋のドアが開く音がした 


思わずシンジは、その音のした方向に顔向けた。

55:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/08 22:05:47
続きまってます

56:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/08 23:19:35

そこには赤い髪を伸ばした美しい女性が立っていた 

シンジは思わず、見惚れてしまった 


『綺麗だ・・・』
彼は思わず、呟いた 


『あら、貴方って紳士ね。嬉しいわ』

女性はクスッと笑った 

その姿もとても美しく、いとおしく感じるほどだ 



『ねぇ~貴方、大丈夫?』

『へっ?』

気が付くと彼女はシンジのベッドの傍まで来ていた 
彼女がこんなに近くに来るまでシンジは見惚れていたようである。 


『ぜぁざぁあ・・・だ、だ、大丈、大丈夫です!!』
思わずシンジは舌が回らず、噛み噛みで返事をした。 


57:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/08 23:31:15
『その様子なら大丈夫そうね』

『待ってて、今食事を持ってくるから』


彼女はそう言うと部屋から出て行った 


彼女が出て行った跡は、香水だろうかラベンダーの香りが広がっていた 


『美しい人だな~スタイルも良いし』

そう呟く彼の顔はにやけていた 


程なくして、先ほどの女性が部屋へ戻って来た 

その手には暖かいスープが入った深皿を載せたトレイを持っていた 



58:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/08 23:42:38
『ゴメンなさいね、残り物だけど・・・』

そう言うと女性はシンジにスープの載ったトレイとスプーンを渡した 


中身はピューレ状にしたトマトとカボチャ、茄子、ジャガイモ、玉ねぎと言った野菜が入ったミネストローネであった 


程よい暖かさと食欲を掻き立てる匂い、お腹を空かしていたシンジには最高の攻撃だった 



『いただきます』


そう言うと銀色のスプーンをスープに潜らし、一杯すくい上げると自らの口へと運んだ 






『美味しい』


59:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/09 00:41:58

『本当に紳士ね、貴方。無理しなくて良いのよ』
  
女性は顔を赤くしながらも、クスッと笑っていた 

『いえいえ、本当に美味しいですよ』

シンジは女性の顔を見てドキッとしていた 


そんな女性を見ながら、シンジは心でふと感じていた 


女性は彼女に似ている 


そう、彼のパイロット仲間兼同居人の彼女である 


そして、彼が憧れる彼女の姿に女性の姿を重ねていた 


そんな事を考えていると、部屋のドアが開いた

60:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/09 13:02:15
コテハン付けてくれると、読みやすくて嬉しいんだが

61:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/09 13:42:31
そこには長身の男性が立っていた 

『目覚めたみたいだね、一安心だ』

男性はそう言うとシンジの居るベッドに近づいて来た 
『いやぁ~ビックリしたよ、この近くの岸に裸で横たわっていたもんだからさ』
(裸?なんで・・・) 
(岸?ここは海に近いのかな・・・) 

『僕が普段着ている服だから大きいからもしれないけど我慢してくれ』

『はぁ・・・』

『そうだ、自己紹介がまだだったね。』

62:LAS仮面
09/07/09 20:52:20
質問なんですが
此処は、どっちかというとシリアス系オンリーですかね?

63:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/09 20:56:23
なんでもアリだから総合です

64:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/09 20:58:08
ごめん、強度のエロもなしね

65:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/09 21:03:26
>>62
イタモノ系もおkよ

>あなたがLASと思えば、それはLASなのです。


66:LAS仮面
09/07/09 21:04:44
サンクス。
明日あたり投下してみます。

67:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/09 21:12:51
>>61
マイペースすぎます…続き楽しみなのに…

68:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/09 23:40:21
>>61
『僕は神児、碇神児でこっちが僕の女房の明日香』 

『ヨロシク』

(えっ・・・シンジにアスカだって?)

『で、君は?』
シンジに神児は質問した 
『僕はシンジです、苗字は~』

ここでシンジの思考が止まった。 

(あれ?僕はシンジだけど、苗字はなんだ?)
(そもそも僕は何故ここに居るんだ?)
(もしかして、記憶喪失ってヤツ?)

『すいません、あとは解りません・・・』
シンジは声のトーンを少し落として返事をした 

『あら記憶喪失ってヤツかしら、神児?』

それを聞いた明日香が神児に尋ねた 


69:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/09 23:56:27
『そうらしいね、まぁ~記憶があろうがなかろうが、一命を取り留めただけでも良いとすれば良いんじゃない』

神児は愛想良く、明日香に返答した 

『それに・・・』

神児の声が急に低くなった 
『人は思い出さない事が幸せな記憶だってある、僕もそうなれたら良いのに・・・』

その言葉を話す神児の目はどこか寂しげであった。 

明日香は『ハッ』と何か感付いた様に神児の体を右肘でこずいた。  


『ともかくウチ二人は、君は大歓迎だからね』
 


70:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/10 17:02:37
『あっ、いやでも・・・』
シンジは戸惑った

『記憶喪失のままじゃ危ないし、久しぶりのお客様だから遠慮なんていらないさ』

神児はニコリと語りかける
何故だか、シンジは神児の笑顔に安心感を感じた




その日からシンジ、神児、明日香の共同生活が始まった






共同生活を始めて解った事だが、夫妻が住んでいる場所は草原のような場所にあり、少し先には森が広がっていた。
シンジが倒れていた湖と言うのは、その森を抜けた先にあると神児に聞かされた

71:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/10 17:05:52
>>70
修正

『あっ、いやでも・・・』
シンジは戸惑った

『記憶喪失のままじゃ危ないし、久しぶりのお客様だから遠慮なんていらないさ』

神児はニコリと語りかける
何故だか、シンジは神児の笑顔に安心感を感じた




その日からシンジ、神児、明日香の共同生活が始まった






共同生活を始めて解った事だが、夫妻が住んでいる場所は草原のような場所にあり、少し先には森が広がっていた。
シンジが倒れていた岸と言うのは湖で、その森を抜けた先にあると神児に聞かされた

72:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/10 23:23:58
>>33
(´д`)マダー

73:72
09/07/10 23:31:59
安価間違えた

>>66
(´д`)マダー


74:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/11 10:17:16
夫妻はとても仲が良かった。 

シンジは聞いてみた。
『二人はどうして出会ったのか?』


明日香は顔を赤くしながら『そんな事を聞くもんじゃないわ』
と笑われてしまった。 


対して神児に聞くと『僕と彼女は絆だからさ、自分の素直な気持ちに気付くのが遅すぎたんだ・・・』 
と意味深な事を言われた。 


そんな事がありながら、3人の共同生活は進んで行った。 






しかし、シンジの記憶は一向に蘇る事は無かった。

75:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/11 21:35:41
age

76: ◆7bmU7xwlbc
09/07/13 20:07:52 a2QSW9z2
LASスレがひとつしかないんだけど、長編LASをどっかに落としたいんだよね…
どうしよう

77:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/13 20:13:07
どういうこと?
ここに落とせないっていうこと?

78:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/13 20:31:40 a2QSW9z2
ここ連載中だし、他スレでLAS投稿できるとこないかなあ

79:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/13 20:46:38
コテつけりゃ問題ないかと…
一応別にLAS小説投下出来るスレあるけど、なんかそこも連載中ぽいし
一応ここね、好きな方にどうぞ。あとなるべくsageて

落ち着いてLAS小説を投下するスレ 15
スレリンク(eva板)

80:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/13 21:36:50
>>76
投下待ってます

81:kou
09/07/13 22:05:36
>78じゃないんだけど、俺もここで投下していいかな?
携帯な上に長くても3,4レスなんだけど。

82:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/13 22:15:02
お願いしまーす

83:kou
09/07/13 22:47:40
うす、投下させてもらいます

『夜明けのスキャット』

第三新東京の夜。意味の無いネオンが光り輝く時間に彼女はそこにいた。
昼はあんなに穏やかだった町並みも、大人のエゴと欲にまみれた世界に変貌する。
そんな街から逃げるように『セカンドインパクトの謎』と銘打たれた小汚い映画館に身を寄せた彼女は、待合室のロビーの椅子で転がっていた。

『そろそろ帰ってきなよ。ミサトさんも

パチン、と読みかけたメールを閉じる。
些細な、本当に些細なやり取りが原因で発展した喧嘩のせいで上げた拳を下ろせず、半ば自暴自棄に部屋を飛び出した。
誰にも会いたくなかったし、まして友達の家に転がり込むなど言語道断だった。
そして行き着いたのがここ。

『今日は帰らない。もう寝るから。探しになんか来ないでアンタも寝なさい。』

少ない電池残量の携帯からメールを送る。こうして強い口調で諌めればアイツは来ない、と彼女はたかを括った。いや、自信があった。
不機嫌に引っ張り上げた段ボールを肩まで乗せて身を埋めるように壁に背を向け、目を閉じた。

いつもこうだ…
と、いつものように後悔しながら。

84:kou
09/07/13 23:19:15
『夜明けのスキャット』2

夢を見た。
学校やネルフ、学校の登下校の道、マンション、果てはエヴァの中に至るまで場面は様々だが内容は一貫していた。
「ゴメンよアスカ…アスカぁ…」
泣きながら、自分に縋り付くシンジ。
人目を気にせずただひたすら自分に許しを乞う。意味が分からない。
謝りたいのは自分なのに。そうしなければならないのは自分なのに。こう対処されることを望んでいるのか、とまた自分が嫌になった。
シンジに縋り付かれた自分は何もしなかった。軽蔑することも許すこともしない。
夢の世界に鏡は無いので、どんな顔でその状況にいるのかも分からない。

ただ分かるのはそんな自分を俯瞰で見ていて、ひたすら腹がたった思いだけだった。

やがて場面は転換。遠くに彼ががいる。地に足がついていないような浮遊感があった。
「アスカ、ゴメン。ばいばい」
こちらを見てそういうと、振り向いてどこかへ歩きだした。
「待って!謝る、謝るからぁ!?」
手を伸ばせど距離は遠く、近付こうとも前へ進めない。
「シンジィ!?」
現実ならば足が縺れて転んでしまいそうな程、めちゃくちゃな動きで追い掛ける。
追いつけない。
転んだ。
痛い。
何が?
心が。

目が覚める直前の彼女は悟った。

依存している、と。

85:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/13 23:31:54
私怨

86:kou
09/07/14 00:11:37
『夜明けのスキャット』3

意識が完全に身体に戻るには時間がかかりそうだった。椅子の綿は寄っていて固いし、すぐ隣の店から臭う廃棄物の腐臭のせいでもう一度眠りたいとも思った。
だが、目を閉じればまたあの夢を見てしまいそうで、続きを見てしまいそうなのでやめておいた。
それでも体は起こせない。ギシギシと痛むのだ。
はぁ、と大きい溜息をついたあと、ポケットを探って携帯をさぐった。
大きなストラップが一個ついた携帯を探すのはさしたる苦労もなく、するりと顔面まで持ち上げられた。
着信の様子はない。メールの新着もない。
正直に言えばかなり悲しい気持ちになった。
が、今はまだ夜明け前。時計は4:36を示している。

悲しい?自分からけしかけたことなのに?
淋しい?探すなと言ったのは自分なのに?
叩きつけたくなった。携帯じゃなく、自分の頭を。

正確には分からないが10分ほど、そのままボーッとしていた。ささくれ立った心の表面をどうにか収めようと、天井の小さな染みを数えた。
「…ぅん…」

寝返りを打つと肺が押されて思いがけず変な声が出た。数時間ぶりに聞いた自分の声が堪らなく恥ずかしく、腹立たしかったので完全に目が覚める。

これは妥協じゃない。譲歩だ。
と自分に言い聞かせながら、携帯を開いた。

『残り電池残量が僅かです。』

87:kou
09/07/14 00:56:45
『夜明けのスキャット』4

「やばっ」
ガバッと起き上がって目を懲らす。電池残量がもう数ミリしかない。
焦ってしまうと直情的になってしまうのは悪い癖で電話すればいいものを、時間のかかるメール画面を起動してしまう。なんと送ればいいのか、起きぬけの頭では考えもまとまらず機械的に入力画面に入る。

『ごめん』 違う
『来て』 どこに?
『帰る』 勝手にどうぞ
『大嫌い』 でしょうね

電話!
素早くメール画面を抜け、電話帳から碇を選ぶ。この作業はとても早かった。

プルル… プルル… プ… プチッ ピーピー…
『電池残量が足りません』

「最悪…」
と呟きかけたその時、映画館の外から聞き慣れた着メロが聞こえた。一瞬だけ。
重なった段ボールを跳ね退け、飛び出すように外へ出る。空は深い紫色。

ドアの横のエセレンガ作りの壁にもたれ掛かっている、Tシャツ姿の男。いや、男というには小さな影。
すやすやと、無理な体勢で寝息を立てる彼は、すぐそばにいる彼女の存在に気付いていない。
そっと彼の携帯を懐から取り出し、自分の着信履歴を消した。そのかわりメール画面に入り、短い文章を書き残して閉じる。そして、朝日が上りきるまでもう少し寝ていようと、ロビーに戻る。

『悪かったわね、バカシンジ。ありがとう』

夜は流れず星も消えない
愛の歌 響くだけ


終わりです。お目汚しサーセンでした。

88:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/14 01:00:39
おお、切ない感じが良かったよGJ!


89:kou
09/07/14 01:13:16
コピペ能力の乏しい携帯で書いたのでたいした推敲も出来ず落としてしまい、申し訳ないです。
破であの曲が使われていたのを聞いて、懐メロ繋がりで思い付きました。
Qからアスカ、幸せになれるといいですね。

90:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/14 04:16:08
GJ!
まだこんな実力のあるLAS書きさんが残ってるとは思いもしなかった。

91: ◆7bmU7xwlbc
09/07/14 04:30:41
完成…
やったら設定のややこいLASが出来てしまいました。
たぶん中~長編になりそう。
朝になったら投稿します。

92:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/14 12:11:22
>>87
良かったっすGJ!
ところで、シンジはどうやってアスカの居場所を見付けたんだろう……?ミサトにでも教えてもらったのかな

>>91
待ってます!


93: ◆7bmU7xwlbc
09/07/14 15:07:23 6VGsqVWh
この惑星のはるか上空をとりまくように吹き荒れている暴風圏のすぐ下まで高高度観測気球で昇っていって、大気の観測機器をとりつけたプローブを空域に投入するのが、その日のぼくのシゴトだった。
これは確かに他の人がやりたがらないような危険な任務ではあったけれど、少しでも空に近づくことができれば僕は満足だったから、中央気象局のリツコさんから依頼が来たときもいつもみたいに二つ返事で了承した。
ぼくが危険なシゴトを引き受けるのは今に始まったことでもないんだけれど、周りの人に余計な心配はかけたくなかったからこのことはシゴトが終わるまで黙っているつもりだった。
それでも、今朝になってミサトさんに気づかれてしまった。気象局で上空の気象データを念入りにチェックしている姿を目撃されたのは大失敗だったと思う。
ミサトさんはもう諦め顔だったけれど、アスカはやっぱり烈火のごとく怒った。
ぼくの顔面に強烈な張り手を食らわせて、アンタみたいな馬鹿はしらない、いつか死んじゃえばいいんだって叫んで家を飛び出してしまった。
本当にごめんよアスカ。でも、よもやしくじるとは思っていなかったんだ。
今度の任務も今までどおり難なくこなして、ぼくらは当分の間苦労しないだけのお金を手に入れる。そのつもりだった。
たぶん、油断していたんだろう。我ながら本当に馬鹿なことをしたものだ。
自分が好奇心のあまり身を滅ぼすタイプだろうということは前々から自覚していたつもりだったんだけど、まさか今日がその日だとは思わなかった。

94: ◆7bmU7xwlbc
09/07/14 15:09:05
# >>93続き 「空を知らない少年」

時は数十分さかのぼる。

午前八時三十二分、高度11000メートル。
ここまで上昇すると、上空を覆う暴風圏の赤茶げた雲をとおして、わずかながら光が届くようになる。
といっても、周囲がわずかながらぼんやりと明るくなる程度だ。ちなみに、下界は濃い闇の中に溶け込んでいて何も見えない。
もっと上昇することができればさらに明るくなるだろうし、暴風圏の分厚い雷雲を通り抜けることができさえすれば、かつてはこの世界の隅々まで照らしていた「太陽」すら拝めることだろう。
もっとも、最後の仮定が今の人間にとって不可能なことくらい嫌というほどわかっていた。
暴風圏が生きた人間の進入を許してくれる世界でないことくらい、子供だって知っている。
十五年前にセカンドインパクトが起こって以来、この雲の上に広がっているという「空」とやらを見た人間はひとりとしていない…

午後九時九分、高度13000メートル。
暴風が吹き荒れる危険空域まであとわずか1000メートルのところで「あらわし」を停船させた。
周囲の風速はすでに秒速30メートルをはるかに越えていて、「あらわし」は不安定な気流に煽られて常に上下左右へと大きく揺れている。
油断していると投げ出されそうなほどの揺れに、僕は操縦席に自分の身体を固定しているベルトをきつく締めた。
ただの高高度気球にすぎない「あらわし」がこの気流に吹き飛ばされないでいるのは、「あらわし」が第三新東京の気象観測所とたった数本の単分子ワイヤーで繋がれているからにすぎない。
このワイヤーは長さ1kmにつき数十グラムの重さしかないにも関わらず、恐るべき強度を誇る。
それだけではなく、ワイヤを通して地上と通信まで出来るのだ。まさにこの船の生命線だ。

「こちら『あらわし』、予定空域に到着しました。」
通信装置を通して地上に呼びかける。

〈ありがとうシンジ君、あなたに頼んでよかったわ。〉

地上管制が答えた。リツコさんの声だ。
赤城リツコさんはこの惑星の気象と分子生物学を専門に研究している、ちょっとミステリアスな感じのする白衣の研究者さんだ。
ミサトさんとは昔からの付き合いらしくて、冒険家の加持リョウジさんといっしょによくつるんでいたらしい。

95: ◆7bmU7xwlbc
09/07/14 15:09:58
〈今日は大気が荒れ気味なのに、こんなに早く対流圏を突破できる気球乗りはなかなかいないわよ。シンジ君、あなた才能あるわね。〉

ぼくは、顔が勝手に赤くなるのを感じた。この気球が一人乗りで良かったと思う。

地上にいたころのぼくは、不器用で、人付き合いが苦手で、自分が人よりも優れているなんて夢にも思ったことはなかった。
そんな僕にもひとつだけ居場所が出来たんだ。大空を目指しているとき、たった独りであばれる気球と格闘しているとき、ぼくはぼくでいられる。
自分が生きていると心の底から実感できる。やりたいことをやっているだけなのに、人に認めてもらえる。
それだけに、リツコさんの言葉は嬉しかった。

「あ…ありがとうございました。でも…、でも、ぼくに気球の操り方を教えてくれた加持さんほどじゃないんです…」

ある日、風来坊のように第三新東京にふらりとやってきた加持さんと僕がいた時間は、今考えてみれば、ごくごく短い期間だった。
それでも、彼はぼくに空を飛ぶことを教えてくれた。
薄暗いジオフロントで生きることだけが人生じゃないことを教えてくれたのだ。
僕にとって彼の存在はあまりに大きかった。
そして、ある日突然、加持さんは空に消えた。まだ、教えてもらうことがたくさん残っていたのに。
この大空のどこかで、今でも元気に飛んでいると信じたい。
いつか彼が語っていたように、暴風圏のはるか上にあるという、青の世界を…

〈そうね…でも、いつか…あなたなら必ず彼を越えられるわ。〉

「…」

〈夢に真摯に生きる人は、その努力はかならず報われてしかるべきだもの。自信を持っていいわよ、シンジ君。〉

僕が、自分が、加持さんを超える日が来るとはとても信じられない。
それでも、彼に近づくことはできる。そう信じている。

96: ◆7bmU7xwlbc
09/07/14 15:11:33
「はい… では、プローブを放出します。」

〈ええ、お願いね。2分間隔で9個ずつ放出して頂戴。6分程度で終わるわ。〉

「了解しました。」

「あらわし」の上部に四つある気嚢には缶ジュースの缶ほどの大きさの円筒形のプローブがそれぞれ九個つずつ設置されている。
このプローブは放出されるやいなや、上部から小さな気球を膨らませて暴風圏へと一直線に昇っていく。
そして、暴風圏内に突入すると風速や気温、気圧、正確な自身の位置などありとあらゆる気象データを収集して、地上に転送するというわけだ。
そう、前人未踏の地である暴風圏内部の気流の流れを正確に調べるのがリツコさんのホットな研究なのだ。
リツコさんの理論によれば、この惑星の上空を常に支配している暴風圏の内部は常に一定ではなく、その内部でも風が強かったり弱かったりする場所があるらしい。
一定条件下では安定した無風地帯すら発生するという。
その無風地帯を通れば…ひょっとしたら…暴風圏のその上へと、本当の大空へと、生きて抜けることができるかもしれない。
あくまで理論上は。
少なからぬ報酬が目当てというのもあるが、ぼくがリツコさんの研究を支援している理由のひとつがこれなのだ。
何年かかるかわからないが、これが僕の夢を叶える最短距離なのだ…恐らく。

「放出開始…」

「あらわし」の制御コンピューターにプローブを放出するコマンドを入力するとすぐに、窓の外を、風船の一群が赤茶げた雲に向かって上昇していく様子が見えた。
がんばれよ、と彼らにひっそりとエールを送る。
彼らが有益なデータを持ち帰ってくれればそれだけリツコさんの研究がはかどる。それだけ空が近くなる。

そう思いながら窓の外をぼうっと眺めていたそのとき、上空にあるはずものを見つけて、僕の目はそれに釘付けになった。
これまで来た時は、いつだって暴風圏の最下部には分厚くてのっぺりとした雲がかかっていて、それ以上の進入を強く阻んでいた。
それなのに、今では「あらわし」のすぐ上にある雲の一部に直径数百メートルほどの大穴が開いており、その大穴は雲を突き抜けてはるか上へと伸びているかのようだった。
それは信じられない光景だった。あんなにも人間を拒絶していた世界が、いま、ぼくの前で門を開こうとしている。

97: ◆7bmU7xwlbc
09/07/14 15:12:47
瞬間、「あそこにいかなければ」という衝動と、「やめろ」と絶叫する理性がぼくの中でごちゃまぜになった。
だが、それはわずかしか続かなかった。

〈シンジ君、あれ…見ているかしら?〉
あんなにクールだったリツコさんの声が心なしか動揺している。

「はい。リツコさん、あそこに残りのプローブを放出してみます。」

〈そのためにはいくらか高度を上げなければいけないわ、危険です、とても許可できません。その場でプローブを全て放出してすぐに帰還しなさい。〉

「あと500メートルで構いません。必ず成功させてみせます。」
ぼくの手は既に操縦桿を握り締めていた。

〈シンジ君!危険です。やめなさい!〉
リツコさんの絶叫はもう僕にはとどいていなかった。

「あらわし」を翻弄する風は先ほどよりもはるかに強くなっていた。
雲にあいた穴のはるか奥底には強烈な稲光が四方八方へと飛び交っていて、まるでこの世の終わりを覗き込んでいるかのようだった。
たしかに…あの中に入ったら生きて帰ることなどできないだろう。
ぼくは暴れる機体を制御しつつ、レーダーや放出済みのプローブからの情報から周辺の気流を読み、目的地への最短距離を頭のなかではじき出した。

「いける…」
ぼくは自分に言い聞かせるようにつぶやいたが、その声は心なしか震えていたように思える。
機体と地上をつなぐワイヤに過度の負荷がかからないよう慎重にワイヤを伸展させ、「あらわし」を少しずつ雲穴に接近させる。
自身のカンと経験だけを頼りに、できるだけ風に逆らわないよう、それでいて吹き流されないように…
300メートルまでは順調に高度をあげることができた。

だが、あと200メートルまで接近したとき、巨人の腕で殴られたかのような衝撃が「あらわし」に襲いかかった。
後ろからの不意打ちに心の準備ができていなかったぼくは、座席から引き剥がされて、操縦席の前にあるモニタに頭をひどく叩きつけられた。
目の前に星が散った。
あやうく気を失いかけたがかろうじてのところで踏みとどまる。

98: ◆7bmU7xwlbc
09/07/14 15:16:09
たぶん、落雷を受けたのだと思う。
キャビンの照明が激しく点滅し、ついには消えた。キャビンの中に電子回路が焼け焦げる匂いが充満し、一部の観測機器が派手に火花を上げるのが見えた。
衝撃にふらつきながらもプローブの放出コマンドを入力すると、小さな電子音とともに全てのプローブが失われたことがわかった。
プローブの群れは、放出されるやいなや周囲の強風にとらわれて、急にひゅっ、と加速するとものすごい勢いで穴の中に引きずりこまれて、消えた。
このままではお前もひきずりこまれるぞ、と本能が危険を告げた。
次の瞬間には緊急降下装置のボタンを拳で殴り付けている僕の姿があった。
「あらわし」を支える四つのヘリウム気嚢のうちふたつが切り離され、浮力を失った「あらわし」は急速に、はるか下の闇の中へと、第三
新東京へと降下していった。
プローブを飲み込んだ雲の大穴が、しだいに小さくなっていくのが見える。
「あらわし」は多少損傷したものの、生命維持システムには問題はないようだったし、地上でいくらか修理すればまた飛べることだろう。

とてつもなく危ない目にあったというのに、誰も見たことのないものを見た興奮のためか、恐怖は不思議なくらい感じなかった。

目標地点までは行けなかったものの、27個のプローブのうちいくつかはぼくの目論み通りに雲の穴に侵入し、その構成メカニズムを部分的
にでも解き明かしてくれることだろう。
これで、ぼくの任務は終わりだ。
さあ帰ろう。
早く帰って、きょう目撃したことをアスカやミサトさんに話そう。

「任務終了、帰還します」

<…シンジ君、あなたが命令を無視するような人だとは思わなかったわ。まるであの男そっくり>

<次、私の命令を無視したら損耗した気嚢の修理代をあなたに請求するわよ。わかってるの?>
…と、リツコさん。
声色こそ怒ってはいるが、実際には値千金のデータを手に入れることが出来て心の底から喜んでいるのが目に見えるようだ。
隠しているつもりでも、これだけはわかってしまう。
リツコさんもまた、僕と同じように、夢の中に生きる人なのだから。

99: ◆7bmU7xwlbc
09/07/14 15:17:23
「ところで、プローブは…?」

<うち24個が雲穴に侵入、順調にデータを送信中よ。
本当に貴重なデータだわ。私のセカンドインパクト後の気象モデルはより完璧なものに近づくことでしょう。
あなたには…一応…お礼をいわなきゃいけないわね>

やっぱり。
ぼくは苦笑しながら、ほとんど無意識に、さっき打ち付けた額をさすった…

ぬるりとした嫌な感触があった。

あれ?

額に触れた手はどす黒い血に染まっていた。
あわてて下を見下ろす。
着ている操縦服は真っ赤で、少なからぬ血が滴り落ちているようだ。

そうか、ぼくは怪我をしたんだ。
おそらく、さっき頭をぶつけた時だ。
全然痛くもなんともないのに、血は滝のように流れ落ちている、へんな体験だ。

<シンジ君、どうしたの?>

すみませんリツコさん、ちょっと怪我してしまいました…

<シンジ君!?>

だから、すこし怪我しただけです…
だから心配しないで…

あれ、どうして声が出ないんだろう…あれ?


100: ◆7bmU7xwlbc
09/07/14 15:18:26
いつのまにか、ぼくは冷たいキャビンの床に倒れていた。
なんとか操縦席に戻ろうともがいたが、ひざから崩れおれて駄目だった。
何か行動を起こすことすら億劫に感じる。
頭から流れおちた血が、床に小さな血だまりを作っていくのが横目に見えた。
ここで初めて、自分の怪我が「ちょっと」では無いことに気づいた。
どうも、額の皮膚を切っただけではないらしい。
「あらわし」と地上をつなぐワイヤを巻き戻すことで、この船は自動でも地表に帰りつくことができるが、たぶん間に合わないだろう。
恐怖はない。むしろ、死がこんなにあっけなく訪れることに驚く。

ぼくは、暴風圏をぬけることも、その上にある世界を見ることもなく死ぬ。
それだけが悔しくてならないけれど、やりたいことはやったのだから、これはその結果だ。
いや…とうの昔に父に捨てられ、母にも死なれたぼくには、自分の欲求に正直に生きることくらいしかできなかったのだ。
それくらいしか…

目の前が急速に暗くなって、意識がゆっくりと遠くなる。

その時、不意にひとりの女性の顔が浮かんだ。
どうしてだろう…ぼくはたった独りで生きてきたはずなのに。
このぼくが、死を目前にして誰かの顔を思い浮かべるとは思いもしなかった。

101: ◆7bmU7xwlbc
09/07/14 15:23:15
アスカ…
人付き合いの苦手なぼくに、嫌な顔の一つくらいはしてたけど…いつでも付き合ってくれたのは君だけだった。
ぼくの、たった一人の友達と言える人だった。
わがままな君はいつもぼくを振り回していたけれど、不思議と悪い気分はしなかった。
それどころか、アスカと出会ってはじめて、空に上がらない日も悪くないなと思えるようになったんだ。
もう少し、あとほんの少し、君と一緒にいられたら僕は変われた…
…そんな予感がしていたのに。
わがままな僕でごめん。

最後の力を振り絞って、空を見上げる。
そして、ぼくは見た。確かに見た。
その空は、ぼくが知っているような、赤い毒々しい雲に覆われてなんていなくて…
その空を…青く、信じられないくらい澄み渡った空を…
鳥が…白い鳥が飛んでいる。

ぼくの意識は霧散した。


102: ◆7bmU7xwlbc
09/07/14 15:30:56
###
1話はこれで終わりです。
まだまだ続けたいですがまだ書いていません。
ごめんなさい、次の話では必ずアスカを出します。

スレ汚しスマソでした

103:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/14 16:22:39
なんぞこれww超楽しみなんだがww
GJ!次、待ってます!

104:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/14 18:09:10
GJ!
タフなシンジだなぁ


105:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/14 20:11:27
久々に胸が震えたわ!

106:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/15 00:52:25
この手のは、初期設定がどっかに行かないように纏めるのが難しいんだよなw

107:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/15 00:56:27
文章も達者でいらっしゃいますな
続きwktk

108:円谷 ◆bgvu1ECAmM
09/07/15 03:18:42
急に思いついたLAS投下しちゃうけど、いいよね? 答えは聞いて(ry

109:円谷 ◆bgvu1ECAmM
09/07/15 03:20:17
【悪魔と天使の間に…】


「使徒と人間って、すごく近い存在なんだよね」
「はあ? 何よ、いきなり」

放課後。
アスカと連れ立ってミサトのマンションへの帰路を往くシンジ。
ふと。物憂げにシンジが、自身の抱える疑問を口に出したのは、そんな時だった。

「使徒って何なんだろ、って考えてて……」

朝の時点ではいつもと同じだったシンジが、今は随分とブルーになっていた。
先刻から相槌が不明瞭というか曖昧だったワケね……とアスカは理解する。
だから、あえて応えた。

「使徒は使徒。アタシ達の斃すべき敵! それ以上でもそれ以下でもないじゃない」

当たり前のコト聞かないでよ、と。
アスカは、さも当然の如く言ってのける。

「アタシ達はエヴァに乗って、使徒を斃してればそれでいいのよ。難しいコトは大人達に任せてれば」
「でも……いいのかなぁ、それで」

思考の迷宮にシンジは囚われる。
古人曰く「敵を知り、己を知らば、百戦危うからず」。
だがシンジは自分が戦っている敵の正体も、自分が乗っている兵器の正体も知らない。
ただ漠然と、父の手紙に導かれ、この街に来て、気がついたら戦いの渦中に居た。

110:円谷 ◆bgvu1ECAmM
09/07/15 03:21:28
「アスカってユーロ空軍のエースだったんでしょ。戦う時、敵に関する情報を事前に確認してなかったの?」
「うぐっ。痛いトコロを……」

意外な虚を突かれたらしく、アスカが微かな困惑の表情を浮かべる。

「……正直な話、アタシもよく知らないのよね。使徒については」
「なんだ、アスカも知らないんじゃないか」
「うっさいわね! アタシにだって、分からないコトくらい……ある、わよ」

末端のパイロットには公開されていない情報が、使徒にもエヴァにも多過ぎる。
ネルフという組織がどういうモノであるか。サードインパクトを引き起こす使徒とは何者なのか。
使徒を斃す為に作られたエヴァとは一体何か? 全ての使徒を殲滅した時、何が起こるのか。
シンジもアスカも、その実、全容を知り得ていなかった。

「第一、使徒って妙なカタチしたヤツ多いじゃない?
 アタシが日本に来る前にアンタと依怙贔屓が斃したっていう使徒とか……変形した、って話だし」
「うん。加粒子砲を撃つ時とか、ATフィールドを展開する時、変形してた」
「いくら99.89%、人間と構成パターンが同じだろうが、そんな芸当が出来る時点で“化け物”でしょ。
 共存の可能性0%ね。奴らを全て殲滅しない限り、どの道、人類に未来は無いわ」

サードインパクトが起きちゃ元も子もないでしょ! とアスカが鼻を鳴らす。
第六使徒との決戦前、ドグマの地下で見せてもらった白い巨人――リリスと、使徒が接触するとサードインパクトが起こる。
シンジはミサトに、そう聞かされた。

「でも……そうね。アタシが使徒だったら、シンジはどうする?」
「アスカが、使徒?」
「例え話よ。本物のアタシはとっくに殺されてて、使徒がアタシに成り変わってるの。
 使徒だった頃の記憶も何もかも忘れて、自分が式波・アスカ・ラングレーだって、本気で思いこんでるとしたら……アンタ、どうする?」

黄昏刻。アスカの蒼い瞳が、シンジを射抜くように見開かれた。

111:円谷 ◆bgvu1ECAmM
09/07/15 03:22:46
「僕は……」
「アタシを殺す?」
「な、何言ってんだよ、アスカっ!?」

今までの落ち込み様が嘘のように、シンジは息巻く。
だが一向にアスカは気に留める様子もなく、言葉を続けた。

「碇司令が命令したら、どう?」

鞄を両手で持ったアスカが、一歩ずつ踏み出してシンジに迫る。
シンジの背後に待つのは、夕方になってやっと冷えてきた通学路の壁。

「……父さんが命令したって、殺さないよ。……殺せるワケないじゃないか」
「意気地なし。アタシが本当に使徒だったら、サードインパクトが起きて、みんな死ぬのに」
「そんなの……サードインパクトなんか、知らないよ! どんな理由があっても……僕に、アスカは殺せないよ……」

アスカの顔から僅かに視線を逸らして、シンジは苦虫を噛み潰したような顔で、自身の本心を吐露する。

「どうして? シンジはどうしてアタシを殺せないの?」
「それは……」
「何よ。それは、何?」

いよいよ、追い詰められた。
互いの唇の動きが手に取る様に分かる位置まで、2人の距離は縮まっていて。

「ア、アスカがっ!」
「アタシが?」
「僕にとって……アスカは、たっ、大切な人、なんだ……。アスカが使徒でも、僕には、そういうの無理なんだ……ごめん」

南無三とばかりに。シンジは所々痞えながらも、ハッキリと想いを口にする。

112:円谷 ◆bgvu1ECAmM
09/07/15 03:23:58
「ふぅん。アンタ、アタシのコト……そんな風に思ってたんだ」
「ダ、ダメかな」
「ダメね。全っ然ダメ!」

アンタ、馬鹿ぁ? と。途端に、アスカの態度は“いつもの彼女”に戻っていく。

「こっちは冗談のつもりだったのに。やめてよね、告白染みたコト……マジな顔して言うのは」
「う、嘘じゃないよ。アスカのコト……大切に思ってる……」
「会って、まだ少ししか経ってないのに?」
「いいじゃないか……。僕だって……誰かを好きになるし、大切にしたいって、思うよ……」

チラリとアスカが盗み見たシンジは。まるで捨てられた子犬のように不安の入り混じった顔をしていて。
ちょっとした心理テストの予定が、大幅に狂ってしまった事実をアスカに告げていた。
同時に、胸の甘い痛みも、別の事実を彼女に告げる。

「……ホントにおめでたい程のバカね。バカシンジ。バーカ、バーカ」
「う……」
「……でも」

キョロキョロと周囲を見回して、人目が無いことを確認すると。

「アンタがそこまで言うなら……“なってあげてもいい”わよ」
「え……何に?」
「い、言わせないでよっ! だ、だから……アンタの……シンジの、大切な人になってあげるのよ……このアタシがっ!」

“なってあげる”を強調しつつ、アスカはシンジの手を取った。指を絡め、束縛するように。鞄が地面に落ちても、気にする余裕すらない。

「その代わり……アンタも、アタシの大切な人に……してあげよっか……?」

113:円谷 ◆bgvu1ECAmM
09/07/15 03:25:47
***************

「誰かと手を繋ぐのって……なんか、いいよね」
「な、なんかって何よ? ヤラしいわね……」
「そういう意味じゃ……」

自分の手が、誰かを守る為の手であること。アスカを守る為の手であるという自信が、際限なく湧き出てくる。
ミサトのマンションまで残り数十メートルも無いが、ずっと繋いでいたい。そう思わせるに難くないアスカの手。

「……これ、朝はやらない方がいいわね」
「どうして? い、痛っ……」

シンジと絡めた指に少し力を込め、アスカは朱に染まった顔で暗にはにかみ、訴える。

「アンタ、馬鹿ぁ!? 恥ずかし過ぎるのよ、主にアタシがっ!」
「そ、そうなんだ……」
「放課後限定よ! あとミサトの前とか、リツコの前でもダメ! ……2人きりの時なら、いいけど」
「(諜報部の人も見てるだろうし、それって結局ミサトさんに報告されちゃうんじゃ……)」

せっかく互いの想いを分かち合えたというのに、障害は未だ多く。アスカとの恋愛が前途多難であることを思い知らせてくれる。

「……アスカとなら」
「アタシとなら?」
「……アスカが居てくれれば。僕は、ずっと……笑える気がするんだ」

アスカは僕が守るから。大切な人だから、僕が絶対に守らなきゃいけないんだ、と。シンジは強く、それでいて優しくアスカの手を握る。

「バカね、逆よ。……アタシが、アンタを守ってあげる」

アンタってば、アタシがついてないと全然ダメだもの、と。とびきりの笑顔で、アスカもシンジの手を強く握り返した。           【おわり】

114:円谷 ◆bgvu1ECAmM
09/07/15 03:26:48
タイトルは「帰ってきたウルトラマン」の31話から拝借
時系列的には「破」のエヴァ3号機起動実験のちょっと前くらいのパラレルってコトで
ばいちゃ

115:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/15 03:52:38
でかしたぞLAS書き人よ
また来いよー

116:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/15 04:12:24
よかった!乙

117:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/15 07:51:10
>>114
面白かったよ~ 

素ネタが解る俺からすれば使徒がちびっこに成り済ましてネルフに侵入して、シンジに『お前が私を殺す時がお前の最後だ』みたいな事を言って・・・ 
みたいな内容かと思ったよ

118:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/15 07:59:33
投下乙でした~


119:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/15 22:47:40
ううっ
この後の3号機起動実験を考えるとせつない。

120:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/16 04:26:52 YFL8N4DM
age

121: ◆7bmU7xwlbc
09/07/16 04:29:55
>>93-101の日本語がおかしかった部分などを修正したものを再うpします。
ちょい読みやすくなったと思います。
続きの2話は今日か、明日のうちに出来る見込みです。

「空を知らない少年」①

この惑星のはるか上空をとりまくように吹き荒れている暴風圏のすぐ下まで観測気球で昇っていって、大気の観測機器をとりつけたプローブを空域に投入するのが、その日のぼくのシゴトだった。
これは確かに他の人がやりたがらないような任務ではあったけれど、少しでも空に近づくことができれば僕は満足だったから、中央気象局のリツコさんから依頼が来たときもいつもみたいに二つ返事で了承したんだ。
ぼくが危険なシゴトを引き受けるのは今に始まったことでもない。それでも、周りの人に余計な心配はかけたくなかったから、このことはシゴトが終わるまで黙っているつもりだった。
それでも、今朝になってミサトさんに気づかれてしまった。気象局で上空の気象データを念入りにチェックしている姿を目撃されたのは大失敗だったと思う。
ミサトさんはもう諦め顔だったけれど、アスカはやっぱり烈火のごとく怒った。
ぼくの顔面に強烈な張り手を食らわせて、アンタみたいな馬鹿はしらない、いつか死んじゃえばいいんだって叫んで家を飛び出してしまった。
本当にごめんよアスカ。でも、よもやしくじるとは思っていなかったんだ。
今度の任務も今までどおり難なくこなして、ぼくらは当分の間苦労しないだけのお金を手に入れる。そのつもりだった。
たぶん、油断していたんだろう。
自分が好奇心のあまり身を滅ぼすタイプだろうということは前々から自覚していたつもりだったんだけど、まさか今日がその日だとは思わなかった。


122:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/16 04:32:21 YFL8N4DM
時は数十分さかのぼる。

高度11000メートル。
ここまで上昇すると、上空を覆う暴風圏の赤茶げた雲をとおして、わずかながら光が届くようになる。
といっても、周囲が心なしかぼんやりと明るくなる程度だ。ちなみに、下界は濃い闇の中に溶け込んでいて何も見えない。
もっと上昇することができればさらに明るくなるだろうし、暴風圏の分厚い雷雲を通り抜けることができさえすれば、かつてはこの世界の隅々まで照らしていた「太陽」すら拝めることだろう。
もっとも、最後の仮定が今の時代の人間にとって不可能なことは嫌というほどわかっていた。
暴風圏が生きた人間の進入を許してくれる世界でないことくらい、子供だって知っていることだ。
十五年前にセカンドインパクトが起こって以来、この雲の上に広がっているという「空」とやらを見た人間はひとりとしていない…

高度13000メートル。
暴風が吹き荒れる危険空域まであとわずか1000メートルのところで「あらわし」を停船させた。
周囲の風速はすでに秒速30メートルをはるかに越えていて、「あらわし」は不安定な気流に煽られて常に上下左右へと大きく揺れている。

うかうかしていると投げ出されそうなほどの揺れに、僕は操縦席に自分の身体を固定しているベルトをきつく締めることで対抗する。
これも、大自然の猛威の前では気休めでしかないが…。

ただの高高度気球にすぎない「あらわし」がこの気流に吹き飛ばされないでいるのは、第三新東京の気象観測所とたった数本の単分子ワイヤーで繋がれているからにすぎない。
このワイヤーは長さ1kmにつき数十グラムの重さしかないにも関わらず、恐るべき強度を誇る。
それだけではなく、ワイヤを通して地上と通信まで出来るのだ。まさにこの船の生命線だ。

「こちら『あらわし』、予定空域に到着しました。」
通信装置を通して地上に呼びかける。

〈ありがとうシンジ君、あなたに頼んでよかったわ。〉

地上管制が答えた。リツコさんの声だ。
赤城リツコさんはこの惑星の気象と分子生物学を専門に研究している、ちょっとミステリアスな感じのする白衣の研究者さんだ。
ミサトさんとは学生時代からの付き合いらしくて、冒険家の加持リョウジさんと三人でよくつるんでいたらしい。

123:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/16 04:33:58 YFL8N4DM
〈今日は大気が荒れ気味なのに、こんなに早く対流圏を突破できる気球乗りはなかなかいないわよ。シンジ君、あなた才能あるわね。〉

ぼくは、顔が勝手に赤くなるのを感じた。この気球が一人乗りで良かったと思う。

地上にいたころのぼくは、不器用で、人付き合いが苦手で、自分が人よりも優れているなんて夢にも思ったことはなかった。
そんな僕にもひとつだけ居場所が出来たんだ。大空を目指しているとき、たった独りであばれる気球と格闘しているとき、ぼくはぼくでいられる。
自分が生きていると心の底から実感できる。やりたいことをやっているだけなのに、人に認めてもらえる。
それだけに、リツコさんの言葉は嬉しかった。

「あ…ありがとうございました。でも…、でも、ぼくに気球の操り方を教えてくれた加持さんほどじゃないんです…」

ある日、風来坊のように第三新東京にふらりとやってきた加持さんと僕がいた時間は、今考えてみれば、ごくごく短い期間だった。
それでも、彼はぼくに空を飛ぶことを教えてくれた。
薄暗いジオフロントで生きることだけが人生じゃないことを教えてくれたのだ。
僕にとって彼の存在はあまりに大きかった。
そして、ある日突然、加持さんは空に消えた。まだ、教えてもらうことがたくさん残っていたのに。
この大空のどこかで、今でも元気に飛んでいると信じたい。
いつか彼が語っていたように、暴風圏のはるか上にあるという、青の世界を…

〈そうね…でも、いつか…あなたなら必ず彼を越えられるわ。〉

「…」

〈夢に真摯に生きる人は、その努力はかならず報われてしかるべきだもの。自信を持っていいわよ、シンジ君。〉

僕が、自分が、あの加持さんを越える日が来るとはとても思えない。
それでも、少しでも彼に近づくことはできるんじゃないか。そう信じている。

124:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/16 04:35:26 YFL8N4DM
「はい… じゃあ、プローブを放出します。」

〈ええ、お願いね。2分間隔で9個ずつ放出して頂戴。6分程度で終わるわ。〉

「了解しました。」

「あらわし」の上部に四つある気嚢には缶ジュースの缶ほどの大きさの円筒形のプローブがそれぞれ九個つずつ設置されている。
このプローブは放出されるやいなや、上部から小さな気球を膨らませて暴風圏へと一直線に昇っていく。
そして、暴風圏内に突入すると風速や気温、気圧、正確な自身の位置などありとあらゆる気象データを収集して、地上に転送するというわ
けだ。
そう、前人未踏の地である暴風圏内部の気流の流れを正確に調べるのがリツコさんのホットな研究なのだ。
リツコさんの理論によれば、この惑星の上空を常に支配している暴風圏の内部は常に一定ではなく、その内部でも風が強かったり弱かったりする場所があるらしい。
一定条件下では安定した無風地帯すら発生するという。
その無風地帯を通れば…ひょっとしたら…暴風圏のその上へと、本当の大空へと、生きて抜けることができるかもしれない。
あくまで理論上は。
少なからぬ報酬が目当てというのもあるが、ぼくがリツコさんの研究を支援している理由のひとつがこれなのだ。
何年かかるかわからないが、これが僕の夢を叶える最短距離なのだ…恐らく。

「放出開始…」

「あらわし」の制御コンピューターにプローブを放出するコマンドを入力するとすぐに、窓の外を、風船の一群が赤茶げた雲に向かって上
昇していく様子が見えた。
がんばれよ、と彼らにひっそりとエールを送る。
彼らが有益なデータを持ち帰ってくれればそれだけリツコさんの研究がはかどる。それだけ空が近くなる。

そう思いながら窓の外をぼうっと眺めていたそのとき、僕の眼は上空に、あるはずのないものを見つけた。
これまで来た時は、いつだって暴風圏の最下部には分厚くてのっぺりとした雲がかかっていて、それ以上の人間の進入を強く阻んでいた。

それなのに、今では「あらわし」のすぐ上にある雲の一部に直径数百メートルほどの大穴が開いており、切れ切れになった雲のカケラがもの凄い勢いで穴の周辺を回転していた。
その大穴は下部境界面の雲を突き抜けて、暴風圏の奥深く、はるか上へと伸びているようだった。

125: ◆7bmU7xwlbc
09/07/16 04:44:51

それは信じられない光景だった。あんなにも強く人間を拒絶していた世界の門が、いま、ぼくの前で開こうとしている。

瞬間、「あそこにいかなければ」という衝動と、「やめろ」と絶叫する理性がぼくの中でごちゃまぜになった。
だが、それはわずかしか続かなかった。

〈シンジ君、あれ…見ているかしら?〉
あんなにクールだったリツコさんの声が心なしか動揺している。

「はい。リツコさん、あそこに残りのプローブを放出してみます。」

〈そのためにはいくらか高度を上げなければいけないわ>

「僕ならできます。まかせてください」

<危険です、とても許可できません。その場でプローブを全て放出してすぐに帰還しなさい。〉

「あと500メートルで構いません。必ず成功させてみせます。」

ぼくの手は既に操縦桿を握り締めていた。

〈シンジ君!やめなさい!〉

リツコさんの絶叫はもう僕にはとどいていなかった。
「あらわし」を翻弄する風は先ほどよりもはるかに強くなっていた。
雲にあいた穴のはるか奥底には強烈な稲光が四方八方へと飛び交っていて、まるでこの世の終わりを覗き込んでいるかのようだった。
たしかに…あの中に入ったら生きて帰ることなどできないだろう。
ぼくは暴れる機体を制御しつつ、レーダーや放出済みのプローブからの情報から周辺の気流を読み、目的地への最短距離を頭のなかではじき出した。

126: ◆7bmU7xwlbc
09/07/16 04:46:27
「いける…」

ぼくは自分に言い聞かせるようにつぶやいたが、その声は震えていたように思える。
機体と地上をつなぐワイヤに過度の負荷がかからないよう慎重にワイヤを伸展させ、「あらわし」を少しずつ雲穴に接近させる。
自身のカンと経験だけを頼りに、できるだけ風に逆らわないよう、それでいて吹き流されないように…
300メートルまでは順調に高度をあげることができた。

だが、あと200メートルまで接近したとき、窓の外が強烈な白光に包まれたかと思うと、巨人の腕で殴られたかのようなすさまじい衝撃が「あらわし」に襲いかかった。
後ろからの不意打ちに心の準備ができていなかったぼくは、座席から引き剥がされて、操縦席の前面に設置されているレーダーモニタの角に頭をひどく叩きつけてしまった。
目の前に星が散った。
あやうく気を失いかけたがかろうじてのところで踏みとどまる。
ここで失神すれば、死ぬ。

127: ◆7bmU7xwlbc
09/07/16 04:50:49
たぶん、落雷をもろに受けたのだと思う。
境界面の雲は、ひどく帯電している場合があるから…
照明が激しく点滅し、ついには消えた。キャビンの中に電子回路が焼け焦げる匂いが充満し、一部の観測機器が派手に火花を上げるのが見えた。
衝撃にふらつきながらもプローブの放出コマンドを入力すると、小さな電子音とともに全てのプローブが失われたことがわかった。
プローブの群れは、放出されるやいなや周囲の強風にとらわれて、急にひゅっ、と加速するとものすごい勢いで穴の中に引きずりこまれて、消えた。
このままではお前もひきずりこまれるぞ、と本能が危険を告げ、次の瞬間には緊急降下装置のボタンを拳で殴り付けている僕の姿があった

「あらわし」を支える四つのヘリウム気嚢のうちふたつが切り離され、浮力を失った「あらわし」は急速に、はるか下の闇の中へと、人間の住むべき世界である第三新東京へと降下していった。
プローブを飲み込んだ雲の大穴がしだいに遠ざかって、小さくなっていくのが見える。
「あらわし」は落雷により電子機器の一部を損傷したものの、うまく防御回路が作動してくれたおかげで生命維持システムにも操縦系統にも問題はないようだった。
緊急時とはいえ気嚢を捨ててしまったのは痛かったが、地上で修理すればまた飛べることだろう。

とんでもなく危ない目にあったというのに、世界の秘密をほんの少しでも垣間見ることができた興奮のためか、恐怖は不思議なくらい感じなかった。


128: ◆7bmU7xwlbc
09/07/16 04:51:33
目標地点までは行けなかったけれど、27個のプローブのうちいくつかはぼくの目論み通りに雲の穴に侵入し、その構成メカニズムを部分的にでも解き明かしてくれることだろう。
これで、ぼくの役目は終わりだ。
さあ帰ろう。
早く帰って、きょう目撃したことをアスカやミサトさんに話そう。
ぼくが当分の間は空に昇らないと聞けば、きっと喜んでくれるはずさ。

「任務終了、帰還します」

しばらくの沈黙ののち…

<…シンジ君、あなたが命令を無視するような人だとは思わなかったわ。まるであの男そっくりね>

<次、私の命令を聞かなかったら損耗した気嚢の修理代をあなたに請求するわよ。わかってるの?>

…と、リツコさん。
声色こそ怒ってはいるが、実際には値千金のデータを手に入れることが出来て心の底から喜んでいるのが目に見えるようだ。
隠しているつもりでも、これだけはわかってしまう。
リツコさんもまた、僕と同じように、夢の中に生きる人だからだ。

「ところで、プローブは…?」

<うち24個が雲穴に侵入、順調にデータを送信中よ。
本当に貴重なデータだわ。私のセカンドインパクト後の気象モデルはより完璧なものに近づくことでしょう。
あなたには…一応…お礼をいわなきゃいけないわね>

やっぱり。
ぼくは苦笑しながら、ほとんど無意識に、さっき打ち付けた額をさすった…

129: ◆7bmU7xwlbc
09/07/16 04:52:59
ぬるりとした嫌な感触があった。

あれ?

額に触れた手はどす黒い血に染まっていた。
あわてて下を見下ろす。
着ている操縦服は真っ赤で、少なからぬ血が滴り落ちているようだ。

そうか、ぼくは怪我をしたんだ。
おそらく、さっき頭をぶつけた時だ。
全然痛くもなんともないのに、血は滝のように流れ落ちている、へんな体験だ。

<シンジ君、どうしたの?>

すみませんリツコさん、ちょっと怪我してしまいました…

<シンジ君!?>

だから、すこし怪我しただけです…
だから心配しないで…

あれ、どうして声が出ないんだろう…あれ?

いつのまにか、ぼくは冷たいキャビンの床に倒れていた。
なんとか操縦席に戻ろうともがいたが、ひざから崩れおれて駄目だった。
何か行動を起こすことすら億劫に感じる。
頭から流れおちた血が、床に小さな血だまりを作っていくのが横目に見えた。
どうも、額の皮膚を切っただけではないらしい…
ここで初めて、自分の怪我が「ちょっと」では無いことに気づいた。
「あらわし」と地上をつなぐワイヤを巻き戻すことで、この船は自動でも地表に帰りつくことができるが、たぶん間に合わないだろう。
恐怖はない。むしろ、死がこんなにあっけなく訪れることに驚く。

130: ◆7bmU7xwlbc
09/07/16 05:00:59
ぼくは、暴風圏をぬけることも、その上にある世界を見ることもなく死ぬんだ。
それだけが悔しくてならないけれど、やりたいことはやったのだから、これはその結果だ。
いや…とうの昔に父に捨てられ、母にも死なれたぼくには、自分の欲求に正直に生きることくらいしかできなかったのだ。
それくらいしか…

目の前が急速に暗くなって、意識がゆっくりと遠くなる。

その時、不意にひとりの少女の顔が浮かんだ。
どうしてだろう…ぼくはたった独りで生きてきたはずなのに。
このぼくが、死を目前にして誰かの顔を思い浮かべるとは思いもしなかった。

アスカ…
人付き合いの苦手なぼくに、嫌な顔の一つくらいはしてたけど…いつでも付き合ってくれたのは君だけだった。
ぼくの、たった一人の友達と言える人だった。
わがままな君はいつもぼくを振り回していたけれど、不思議と悪い気分はしなかった。
それどころか、アスカと出会ってはじめて、空に上がらない日も悪くないなと思えるようになったんだ。
もう少し、あとほんの少し、君と一緒にいられたら僕は変われた…
…そんな予感がしていたのに。
わがままな僕でごめん。

最後の力を振り絞って、上を仰ぎ見る。
そして、ぼくは見た。確かに見た。
空は、ぼくが知っているような、赤い毒々しい雲に覆われてなんていなくて…
まるで、果てしのない深淵を覗き込んでいるかのような深い青だった。
そんなはずはない、ぼくが見上げているのはキャビンの無機質な天井のはずなのだから。
でも、これがただの幻影だったとしても構わないと思った。これこそが僕が見たかった色だったのだから。
そして、その空を、一羽の鳥が飛んでいた。
鳥が空を舞う姿なんて生まれてから一度だって見たことはないのだけど、たしかにそれは鳥だと思った。
何に囚われることもなく、自由気ままに空を舞う白い鳥だ。

ぼくは、必死にその影に手を伸ばそうとして…
ぼくの意識は霧散した。

131:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/16 11:46:46
イイヨー続き町!

132:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/16 18:44:24
>>14の人まじパネェっす!!泣きました。キュン死っす。うぅ…今日の日はさようならがトラウマ確定だ。

133:円谷 ◆bgvu1ECAmM
09/07/17 02:20:29
また急に思いついたLAS投下しちゃうけど、いいよね? 答えは聞いて(ry

134:円谷 ◆bgvu1ECAmM
09/07/17 02:21:31
【空の 贈り物】


ある晴れた昼下がりに。

「あーあ。暇ね……」

第三新東京市第一中学校の屋上にて、寛ぐ女子生徒が一人。
最近転入して来たばかりの少女、式波・アスカ・ラングレーだった。

「シンクロテストも無いし、あれっきり使徒も攻めて来ないし……」

雲間から零れる日差しにも慣れてしまったのか、暑さも気にせず彼女は携帯ゲームを続けていた。
無論、本来ならば学校にゲーム機器を持ち込んだ時点で没収対象となるのだが、彼女が街を守る決戦兵器の
パイロットであることを考慮してか、咎める教師など居るはずも無く。

「なんか……面白いコト、ないかな」

新天地で生活を開始して、早数週間。日本は使徒との激戦地と聞いてはいたが、ここのところは暇を持て余すばかり。
第8の使徒との会敵では苦戦を強いられたが、今度はそうはいかない。
次こそはとリベンジを誓ったアスカだったが、肝心の使徒が攻めて来ないのだから、どうしようもなかった。

「ん……?」

特に思い当たることもなかったのだが、何の気なしに空を見上げると、

「ちょっとぉ! どいて、どいて、どいて―――――――――っ!!!!」
「え……な、何っ!?」

青い空から少女が、降って来た。

135:円谷 ◆bgvu1ECAmM
09/07/17 02:22:22
「きゃああああっ!? ……いったぁぁぁいっ!!」

パラシュートで降下してきた少女が「どいてー!」とアスカに促した時には、もう手遅れで。
さすがに起き上って回避する暇などなく、降下する少女は、アスカに受け止められるような姿勢で“緊急着地”に成功する。
クッション代わりにされ、コンクリートの床に背中を叩きつけられたアスカは堪らない。

「もうっ! 何よ、何よ、何なのよぉっ!?」

受け止めた、と言うよりは、押し潰された、という表現が正しいだろうか。
チカチカする目を必死に抉じ開けて顔を上げると、空から降って来た少女の豊満な胸が、アスカの目に飛び込んでくる。
ちょうど谷間に該当する部分に、アスカの顔が“挟まれている”のだ。

「(ア……アタシよりも、おっきい……!?)」

などと考えたのは僅かな間。
即座に少女の谷間から顔を離して、アスカは空から体当たりを見舞ってくれた無礼な相手を見やった。
アスカと同年代の、それでいて異国の情緒を思わせる髪と瞳の色をした少女だった。

「いてて……アレ? メガネ、メガネ……」

しかし少女はアスカをさほど気にする様子も見せず、パラシュートを切り離すと同時に
アスカの身体から離れ、何事か呟きながら周囲の床に膝を突き、両手でペタペタと探しモノに興じ始めた。

「ちょっとアンタっ! 何なのよ、一体っ!? ……聞いてんの!?」

アスカの怒声など何処吹く風、と言わんばかりに。
少女は黒いニーソックスに包まれた両脚と、チェックのミニスカートで覆われた丸いヒップを惜し気も無く
見せつけながら、探しモノを続けるのだった。同性ながら、厭に扇情的な光景だと、アスカは密かに思う。

「(……変な女!)」

136:円谷 ◆bgvu1ECAmM
09/07/17 02:23:40
「あ。あったあった♪」

ようやく探しモノが見つかったらしく、少女はソレを拾い上げた。赤いフレームのメガネだった。
両耳にかけると、少女の視線がアスカに注がれた。
と、不意に電子音が屋上に鳴り響いた。アスカのゲーム機でも携帯でも無い。眼前の少女から、音は聞こえる。

「はい。こちらマリ。うん、風に流されちゃって」
「(……英語?)」

空から降って来た少女改め、メガネの少女の口から紡がれた日本語ではない異国の言語に
同じく異国育ちのアスカは敏感に反応する。訛りからして、自分と同じユーロ圏の出身だろうか。

「何処かの学校か何かみたい。えー? だって極秘入国しろって話だったじゃない。
 うん、うん。そっちはそっちで話つけて。ピックアップよろしく。うん、それじゃ」
「(極秘入国……? 何言ってんのかしら、この子)」

確かに、そう言った。他国のスパイだろうか。
ネルフやその上層組織であるゼーレ、エヴァの運用を快く思わない諸外国の秘密組織は多い。
アスカ自身のように年端のいかない少女がユーロ空軍に属している以上、子供が組織の尖兵たるスパイとして教育されるケースは多々ある。
……まあ、こんなドジをやらかすような少女が秘密組織のスパイとは到底思えないが。

「さて、と」

通信機を切り、いよいよメガネの少女がアスカの方を向く。
少女が何者かは現時点では不明だが、万が一本当に他国からのスパイだとしたら厄介だ。
アスカもユーロ空軍のエースの名に恥じぬ格闘技術の持ち主ではあるが、相手の実力は未知数。おまけにこちらは武器も所持していない。
メガネの少女がナイフもしくは銃などで武装していた場合、いかにアスカでも無傷で彼女を組み伏せるコトは難しいだろう。

「(保安部は何やってんのよ、もぉ~~~~っ!?)」

常夏の日差しとは別の、嫌な汗がアスカの頬を伝う。

137:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/17 02:23:55
wktk保守

138:円谷 ◆bgvu1ECAmM
09/07/17 02:24:50
「貴女……いい匂いがする。LCLの匂い?」
「―――っ!?」

身構える余裕すら無かった。呆気に取られるがまま、アスカは拍子抜けした声を洩らす。
容易くメガネの少女はアスカの間合いに踏み込むと、まるで十年来の友人のように顔を近づけてくる。
この距離ならば、メガネの少女は容易くアスカの唇を奪える……それくらいの超至近距離。
加えて言及すれば、ナイフもしくは銃で攻撃された場合、致命傷は免れない距離でもあった。

「ふぅん。……貴女、面白いね」

メガネの少女の吐息と鼻からの呼吸音がアスカの首筋や制服にかかっていたのは、ほんの数秒のこと。
ひとしきりアスカの体臭をクンクンと嗅ぎ終わると、何事も無かったかのようにメガネの少女はアスカから離れた。
生きた心地がしないのはアスカである。油断していたとは言え、見ず知らずの他人(それも通信機で極秘入国を仄めかす様な得体の知れない相手)に
ここまでの接近を許したのは、生まれて初めてだったからだ。

「はい、これ」

そう言うと、メガネの少女はアスカにゲーム機――――ワンダースワンを手渡した。
少女との激突時、アスカが床に放り出してしまったせいか、起動中だった画面は真っ黒だ。

「壊れてたら、弁償したげる。いつかね」

無心のままゲーム機を受け取ったアスカの頭を、少女は数回優しく撫でると、

「じゃ、このコトは他言無用で! ネルフの子猫ちゃん」

パラシュートをズルズルと引き摺り、トントンと階段を下る音を響かせながら、屋上から姿を消した。

「……子猫ちゃん?」

139:円谷 ◆bgvu1ECAmM
09/07/17 02:26:02
*********


「ってコトがあったのよね、今日」
「アスカ……他言無用って言われたのに、僕に喋っちゃってるし……」

ミサトのマンションへの帰宅後。
アスカは今日出会った少女のコトを、一部始終シンジに話していた。
ちょうど夕食時なのだが、ミサトは帰りが遅いようで、食卓には着いていない。

「LCLのコトも知ってたんだ、その人。……ミサトさんに報告した方がいいんじゃないの?」
「かもね。でも、どーせ保安部が報告してるでしょ。アタシらの護衛と監視が仕事なんだし」
「あ、そっか」

それもそうだね、とシンジが頷く。

「全く! 変な女だったわ……空から降って来るなんて、ヒジョーシキもいい所よっ!!」

未だにメガネの少女に押し倒された背中が痛むのか、時折アスカは背中を擦っていた。
幸いゲーム機の方は無事だったものの、ソフトのデータはパーになったと、憤ったのはつい先刻のことだ。

「でもさ」

アスカを宥める様に、口に運んでいたカレーを飲み込んだシンジが呟く。

「アスカだって、空から降って来たじゃない」
「はぁっ?」

ほら、第7使徒が攻めてきた時にさ、とシンジは語る。
確かにシンジの言う通り、アスカは輸送中のエヴァ2号機と共に“空から降って来た”経験が、あった。

140:円谷 ◆bgvu1ECAmM
09/07/17 02:27:19
「アンタ馬鹿ぁ!? あのメガネ女みたく、アタシも変なヤツだってぇのっ!?」
「ち、違うよっ! そうじゃなくて……その……」

バンとテーブルに手を叩きつけて迫るアスカに、シンジは口籠る素振りを見せる。
しかし、彼女の機嫌を元に戻すことが最優先であると自覚し、言葉を続けた。

「何て言うかさ……すごく、綺麗だったんだ」
「綺麗……?」

今にもシンジに掴みかからんといった勢いだったアスカだが、寸前で落ち着きを取り戻した。
ゆっくりと姿勢を正すと、隣でスプーンを持ったまま硬直するシンジの声に、耳を傾ける。

「あの時の……空から降って来た2号機は、すごく綺麗だった……から」
「ま、まあ……そうよね。何たってアタシの2号機は、正式タイプの本物のエヴァンゲリオンだもん」
「うん……。使徒が攻めてる最中なのに、何でそんなコト思ったのか、僕にも分からないけど……」
「人は美しいものを見ると状況とか考えず、素直に感動しちゃうものなのよ。バカシンジのクセに、美的センスは備わってるようね!」
「ど、どうも……」

アスカの力説に、つい頷いてしまうシンジ。最早彼女が「黒」と言えば、「白」でさえ「黒」と答えてしまいそうだ。

「あ、あと……」
「?」
「2号機から、降りて来たアスカも……」
「アタシが……何よ?」
「……すごく、綺麗だった」
「! ……え?」

ドキン、とアスカの胸が高鳴る。
頭の中で何度もシンジの「綺麗だった」という言葉を反芻し、理解することに努めた。
次第に鼓動が速くなり、体温が上がって、息苦しくなってくる。

141:円谷 ◆bgvu1ECAmM
09/07/17 02:28:29
「な、何よ。今になって、そんな御世辞言われたって……」
「御世辞じゃないよ! ホ、ホントに……綺麗な子だな、って……思ったから」

真っ赤に染まった顔を見られまいとシンジから目を逸らすアスカ。
一方でシンジも、アスカから視線を外されないようにと食い下がる。

「アスカは……すごく綺麗だよ。か、可愛いし……強いし……」
「あ……う……」

アスカがシンジに迫られる番が、来た。
ゾクゾクと全身の産毛という産毛が総毛立ち、クーラーを効かせているはずなのに馬鹿に暑く感じる。
昼同様、あのメガネの少女に容易く接近を許したように、今度はシンジの接近を許してしまう。

「アスカと一緒なら……多分、これからも僕は……たっ、戦えると思うから!」
「シンジ……」

ギュッと手を握られ、アスカは返す言葉が思い浮かばぬ程に狼狽する。
いや、飽くまで態度では最小限に留め、心の中では縦横無尽にシンジへの想いが駆け巡っていた。
親の七光でエヴァのパイロットに選ばれただけと思いきや、ここぞと言う時には皆を守ろうと孤軍奮闘する少年。
何処か儚げで、自分の一定の領域には他人を入れたがらない、それでいて他者に理解してもらおうと必死に足掻く。
……シンジが自分にそっくりなコトにアスカが気づいたのは、いつ頃からだろうか。

「……ねぇ。アンタ―――アタシのコト、好き?」
「えっ!? ……す、好きだよ」
「もっとハッキリ言って! じゃないと……アタシ、何も答えないわよ」
「ア、アスカが好きだっ! 父さんよりも……母さんよりも……ミサトさんよりも……綾波よりも……僕は、アスカが好きだから……」
「……そ。アタシもアンタのコト、好きよ……ちょっとだけ、ね」

照れ隠しに笑うと、アスカは腕を伸ばし、シンジを抱き寄せた。薄いシャツの布越しに、アスカの軟らかい双つの胸の感触が伝わってくる。
メガネの少女が言っていたというLCLの匂いはしなかったが、アスカの蕩けるような甘い匂いだけは、ハッキリとシンジの鼻腔を擽っていた。    【終劇】

142:円谷 ◆bgvu1ECAmM
09/07/17 02:29:20
タイトルは「ウルトラマン」の34話から拝借
時系列的には「破」の第8使徒戦~4号機消滅の間くらいのパラレルで
ばいちゃ

143:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/17 02:42:00
>>142
俺お前の書く話好きだわ


144:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/17 03:24:50
>>142
GJ!
愛してるわ

145:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/17 07:22:19
GJです。文章も好み

146:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/17 09:47:39
>>142
GJ!

147:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/17 12:18:31
GJ!
うまいぞ

148:名無しが氏んでも代わりはいるもの
09/07/17 21:32:43
GJ
最初はマリと遭遇するのがアスカに代わったという
話と思いきや・・その後のLASへのつなぎが絶妙!
ご馳走様です。

149: ◆7bmU7xwlbc
09/07/18 01:40:19
>>121-130つづき
「空を知らない少年」②

バカシンジを張り倒したのは何時間も前のことなのに、私の右手は私自身の不器用さを責めるように、いまだにしくしくと痛んでいた。
シンジをひっぱたくのはこれがはじめてというわけでもないけれど、こういう時はいつでも、心まで痛む。
でも、今朝ほど強くあいつをひっぱたいたのは、たぶんはじめてだ。
その挙句、私があいつにぶつけた言葉…

「もう、アンタみたいな馬鹿は知らない。好きにすればいい。いつか死んじゃえばいいんだ。」

シンジは、怒ってもよかった。
許されないことを言ったあたしを逆にひっぱたいてもよかった。
むしろ、そうしてくれたら…

でも、シンジは引っぱたかれた頬に手をあてて、悲しそうな目をした…
ただ、それだけだった。
そうだ、忘れてた。シンジは私にどんなにひどい扱いを受けても、決して文句の一つも言わない。
そのかわり、あいつは自分を責める。
あいつは悪くも何ともないのに。ただ、自分の行きたい所に行こうとしただけなのに。
もう、あいつの悲しみに満ちた黒い目を見ていられなくて、私はアパートメントを飛び出した。
しばらく走ってから、立ち止まって振り返ったけれど、誰も追いかけてはこなかった。

どうして私は、いつもこうなんだろう。自分の気持ちを伝える、ただそれだけのことができないんだろう。

行かないで。
私を独りにしないで。

私が言いたかったのはたったこれだけなのに。
あのとき、この言葉が言えていたら、あるいは…

150: ◆7bmU7xwlbc
09/07/18 01:43:39
いま、シンジは昏々と眠り続けている。
薄暗くて殺風景な病室に、医療機器の単調な電子音だけがむなしく響いている。
これまで彼の寝顔をこっそり覗き見するのは好きだったけれど、額を包帯でぐるぐる巻きにされたいまの彼の姿は痛々しくて見ていられない。
シンジがネルフ総合病院に運び込まれて、大きな手術を受けたのが昼前で、今はもう真夜中過ぎだ。
命の危険は過ぎ去ったが、この怪我で後遺症が残るかどうかは彼が目覚めて検査をしてみないとわからないと医者は言っていた。

これは、罰なんだ。
わがままで人を傷つけてばかりのあたしに神様が罰を与えたんだ。
でも、謝るから。あたしが悪かったならいくらでも謝るから。
生活がちょっとくらい苦しかったって文句は言わない。
あんたが空にのぼらなくったって済むように、あたしだって頑張って働いてみせるから。

「だから…はやく…起きてよ…バカ…シンジ…」
声を上げて泣きそうになるのを、必死でこらえる。

そのとき、病室のドアが開いて誰かが入ってきた。いっぱいにふくらんだ紙袋を両手に下げたミサトだ。
生活態度こそだらしないけれど、シンジが怪我した時にまっさきに駆けつけた私たちの同居人。

「ミサト…?」

私はミサトに背をむけたまま、そっと目尻をぬぐった。

「こんばんはーアスカ。ちょーっち持ってくるものがあってね。
シンちゃんの着替えとか、いろいろ。長期戦になりそうだしね。」

ミサトは持ってきた紙袋をシンジのベッドの脇にドンと置くと、その中からピンクの弁当箱を取り出した。
普段、私が学校で使っている弁当箱だ。

「それ、何?」
「あなた朝から何も食べて無いんでしょう?食べなさい」


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