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>>50>>53
「使ってください」
その叫びと共に、先ほどまでベンチがあった場所に二本のナイフが残された。
(彼女の血が付着している? 彼女の能力は体液が毒であること、ならこれは毒塗り刃か)
視線の端でそれを捉えると、ナイフは金属製のベルトの装飾に吸い寄せられ、海部ヶ崎の腰に固定された。
「……逃がす為の時間稼ぎか……」
「だけど……私の動きが止まったあの一瞬の時間を攻撃に使わなかったのは間違いだったな。
さっきの異能値がほとんど全力時のものだったとしたら、これから先、あんたに勝ち目はない。
私の隙を突かない限りは……ね」
「でも、私はもう隙を作らないし、作らせない。
もっとも、まだ力を隠してるんだとしたら話は別かもしれないけど……さて、どうかな─?」
「……機関の人間はよくしゃべる」
小さい声でそう呟いた直後、ジャージの女性が粉塵を残して視界から消失する。
正確には粉塵をおこした後、姿を消したのだが、一瞬の出来事にその二つが同時に起きたかのように見えた。
そして、背後からの殺気。
(後ろ……っ!!)
とっさに身を捻り、相手の攻撃を紙一重で逃れる。
(手刀!? さっき、容易くあの網を切り裂いた……)
海部ヶ崎はそのまま体の向きを半回転させつつ、その回転を利用して相手の首へ横一文字に刀を振る。
しかしそれは予測されていたかのよう避けられ、刀は虚しく空を切った。
至近距離は危険だと判断し、即座にバックステップを踏んで相手と約二メートルの間合いを取る。
それはたった数秒の間の出来事だった。
だが、この一連の動作が海部ヶ崎にある決心をさせた。
「……ダメですね。どうやら私の考えは甘かった」
その発言と共に海部ヶ崎は肩に背負っていたギターケースを自分の目の前に突き立てた。
そして金具を開けつつ、
「予想以上に私とあなたとの差は激しい。だからいきなり全部使う破目にはなりたくありませんでしたが、仕方ありません。
…………一気に全力です」
その台詞と同時に通常より大きめのギターケースの内側より銀色の突風がジャージの女性へ吹きぬける。
一直線の軌道の為、その線上を離れることで簡単に避けられる。
ジャージの女性が銀の風の軌跡を眼で追うと、そこには風の正体が姿を現していた。
それは刃。
手斧、剣、ナイフ、鎌、日本刀、刀身のみの刃―――
どれもがゲームや漫画で見かけるサイズよりは一回り小さいものだったが、刃の光は充分の威光を放っている。
そしてそれらはまるで棘の如く、切っ先を全てジャージの女性一点に向けられている。
その刃たちのうちの一本の剣の上に、ケースを背負い、刀を持った海部ヶ崎がジャージの女性を見下ろしている。
「……いきます!!」
その声と共に海部ヶ崎は地を駆けて、相手へ突進する。
そしてその周りを無数の刃たちが直線かつ、不規則に飛び交う。
それはまるで刃の鎧。切り裂くではなく、突き刺すことを重点とする攻撃。
宙を舞う無数の刃は相手の動きを封じ、手に握り締めた刀が命を狩る。
刃の嵐に身を包み、海部ヶ崎は自分の持てる力の最大に近い技を放つ。
百花斉放―――!!
【海部ヶ崎 綺咲:氷室 霞美に攻撃】