10/06/03 04:14:18 0
>>18
氷室は屋根から屋根へと、まるで普通に道を歩くかのような涼しい顔で飛び移っていく。
その超人的ともいえる移動スピードはスキャナーが捕捉した目標との距離をグングンと詰めていく。
目標まで残り50m─40m─30m─20m─
接触まで秒読み段階に入ったその時、氷室の頭上を大きな黒い影がかすめた。
「─!?」
頭上を見上げた氷室は、思わず目を大きく見開いた。
影の正体、それは巨大な鳥─
見たこともない程の巨大さを誇る怪鳥が一人の男を掴んでどこへともなく羽ばたいてゆく姿だった。
(誰かの能力……)
異様な光景に、氷室はすかさずそう直感した。
そしてその能力を持つ者こそ、スキャナーが捕捉した異能者であろうということも……。
スキャナーが電子音と共に大きな矢印を表示し、その方向に補足した目標がいることを告げる。
氷室が目線を移すと、そこには痩せた高校生くらいの少年の姿があった。
一見すると異能者に見えないほどひ弱な体格をしているのだが、
彼の体から微かに立ち昇るオーラは、スキャナーが捉えた異能者であるという紛れも無い証拠であった。
「……あんな冴えないのが『化身』とは思えないけど……」
浮かない顔をしながら呟く。
だが、かといって確かめもせずに目算だけで済ませるわけにもいかない。
氷室は一つ大きく深呼吸をした後、何を思っているのか不敵に笑いながら
「ふふ…おにーさん、か…。可愛かったなー。ぜひ今度遊んでやりたいものだ…!」
と漏らす少年の背後に、静かに降り立った。
「そんなに遊びたい? なら相手してあげようか? この私がね」
声には殺気も怒気も、その他の感情も一切込められていない、乾いたような声に少年が振り向く。
その顔はいきなり現れた女に驚いているような、
何を思っての言葉なのか理解するのが難しいといったような、そんな感じだ。
氷室は、そんな少年が抱いた疑問を見透かしたように、目を細めて言った。
「私が何者か、その質問に対して言えることは一つ。私はあなたの命を狙う敵だということ。
お解かり? 解ったなら──初めから全力でかかってきな。
万が一にも生き延びたいなら、あなたはそうするしかない……」
【氷室 霞美:虹色 優と接触】