10/05/31 21:46:51 0
「私は海部ヶ崎 綺咲と言います。花が何とかって言いましたが、私の貴方への警戒心は変わりませんよ。
助けてもらったわけではありませんし、逆に折角のチャンスをあなたが文字通り足蹴にしたのですから」
「こっちからも質問です。あなたは機関か、それと似たような所の出身の人間なのでしょうか?
あなたの行動や身体から出る雰囲気が一般の人間のものとは思えません……あなた、何者です。答えてくれませんか」
綺咲の白い喉仏から奏でられる音律は凛と澄み渡り遼太郎の耳まで届く。
その瞳にはありありと警戒の色を滲ませていた。
遼太郎は自分の返答が殆ど正体を告げているようなものだということを理解しながら口を開く。
「私が紳士である事が分かって貰えませんでしたか……。 それと綺咲さん、私は貴女の質問には何一つ答えることはできません」
わざとらしく肩を落として見せかぶりを振った。
「でも貴女のような美女に迫られたらおもわず喋ってしまうかもしれませんね」
薄く笑みを浮かべると一気に綺咲との間合いを縮め、彼女の胴体めがけ横薙ぎに鋭い蹴りを繰り出す。
並の人間なら反応も出来ない速さだが綺咲は当然のように躱し、攻撃を避けられ僅かに体勢を崩した遼太郎に袈裟懸けに斬りつけてくる。
遼太郎は軸足に力を込め、片足だけで大きく後ろに跳躍する。
「おっと、危な―っとと」
大きく跳躍しすぎたのかそこには足場はなく、遼太郎は無残に地上へと落下する。
落ちた体勢は悪かったものの二階建てだったことに加え、落ちた場所に植物が植えてあったことで全くの無傷であった。
しかし、これほど大きな隙を見逃すほど甘い相手では無かった。
遼太郎が落ちるとすぐさま電信柱を垂直に渡り、刀で遼太郎を串刺しにするべく迫ってくる。
重力による加速で鋭さを増す綺咲の刃が深く突き刺さる。
「やれやれ、危ないですね。 でも、貴女の手によって死ねるな―うぼぁ」
遼太郎は影に溶け綺咲の刃を避け、綺咲の真横に現われるがそれを見越した綺咲の蹴りによって言葉を遮られる。
そして地に突き刺さった刀を引き抜き、再び剣を振るう、その見事な剣舞は思わず戦うことを忘れて魅入ってしまうほどに美しかった。
遼太郎はただひたすら攻撃を避け続ける、何の意味もない回避に見えるが遼太郎は綺咲の影が自分の前に伸びるような立ち位置になるように誘導しつつ回避していた。
精一杯回避しても綺咲の剣戟が遼太郎に幾つもの傷をつけていく、遼太郎は迫り来る白刃を気にもとめず唐突に動きを止める。
「貴女は強い、しかしこのままでは貴女は私には勝てませんよ」
綺咲が肉薄してくる、その影が遼太郎の足下に触れた途端その動きは止まる。
口に笑みを張り付かせ、綺咲に問いかける。
「私の能力は分かりましたか? ヒントが欲しいようでしたら差し上げますよ、尤も次の一撃を耐えることが出来たらですけどね」
遼太郎は前に踏み込み踵を軽く上げると、片足を軸として体重の乗った鋭い回し蹴りを綺咲の腹部に叩き込む。
まるで鞭のようにしなる足から繰り出される蹴りに綺咲の身体は埃のように吹き飛んだ。
「もっと美しく啼いて下さい、ゲネラルパウゼにはまだ早いですよ」
【棗遼太郎: 海部ヶ崎 綺咲に戦いを挑む】