サバイバルTRPG:寝台特急からの脱出at CHARANETA2
サバイバルTRPG:寝台特急からの脱出 - 暇つぶし2ch199:MOBS ◆wRQwHnp5OOVI
10/06/14 21:38:48 0
>>198

「……オメェさん、ワッケ分かんねえ勘してんだな」

次から次へと矢継ぎ早に、メモ用紙を発見していく奈緒子に呆れた視線を注ぎつつ、
金髪ヤクザは自分の手の内で徐々に厚みを増長させていくメモの束を眼前に運ぶ。
トンネルに列車は仄かに冷冽な二重の牢獄と化け、遍く自然光を妨げ、彼と奈緒子の周囲に欠損なき暗闇を取り巻かせていた。
だが彼の手中に収められたメモは、列車内に溜まった冥夜に呑み込まれる事なく、姿と刻まれた文字を晒す。
食堂車にいた、一人の男から無理矢理手渡された、蝋燭の曖昧に揺らぐ灯火によって。
その男は様々な理屈を捏ねて、金髪ヤクザに蝋燭を持っていかせたが、
その内容は、本音を述べるならば薄気味が悪いものであった為、彼は意図して想起する事を放棄した。

「……ともあれ、だ。このメモ、同じ物で幾つか被ってんのがありやがる。
 ご丁寧に日時も書いてあるから、最新の奴以外は捨てちまうぞ。構わねェな」

確認を取り、しかし回答を待つ事はなく、金髪は邪魔な物を見繕い纏めて握り締め、捨て去った。

「とりあえず、このメモに書いてあるのは大体有用なモンばっかだな。客室にある奴に関しちゃ、
 後で食堂車に帰って名乗り出させりゃいい。しらばっくれたり、話も聞かねえような奴がいそうなのは、面倒だがな。
 特にあの糞気に食わねえメタボ野郎だ。非常食があるだなんて知ったら、今度こそ引き篭って、出てこねえぞ」

朧気な輪郭の灯りが、金髪ヤクザの苦々しい表情を暗がりの中から、浮き彫りにさせる。

「隠し部屋ってのも気になるが、そもそもどう言った経緯で、列車の中に隠し部屋があんのかが分からねェ。
 見取り図とか……ここの何処かにねェもんか。それと適時照らし合わせていきゃ、見つけられるかもな。
 ……ともあれ、今はまだ探せねえだろうがな。目の前の事から、潰していくぜ」

差し当たり、彼はロビー車のスタッフルームのドアに、手を掛ける。
ドアは金属同士が噛み合う手応えで、堅固な絆を主張し、
力ずくでは到底引き剥がせぬ態を示していた。

「それに……場合によっちゃ、くたばった奴がドアの鍵を持ってる事も、あり得るだろうな。
 死体漁りは、出来ればしたくねえんだが。……オイ、アンタ。三歩先だ。踏んでやるんじゃねえぞ。足元も照らすな」

何があるかを、彼は明言しない。
言うまでもなく、一体どんな『物』があるのかなど、この暗闇の中でも明白だと言うのに、それでもだ。

「……後で、起きねえ連中もどうにかしねえとな。事が長引く事も、十分あり得るんだ。
 地下道への入り口でもありゃ、そこに突っ込めるんだが。あるわきゃねえよな。
 どっかの部屋に……その内臭い出しちまうか。列車の外にでも放り出して、焼いちまうのが一番だな」

足でやや大きく半円を描き、何かを踏み越え、金髪ヤクザは顔を横に向け尻目で、背後を振り返る。
蝋燭の灯りは、彼自身の身体によって阻まれ、足元に沈殿した闇を払う事は、無かった。

「さて、どうするよ? この先は運の良い奴が引き当てて、今現在最高に運の悪い連中達の部屋が続くぜ。
 一旦帰って刑事共と情報の共有をするか。それとも進むか、だ。まあ鍵が無けりゃ殆どの部屋にゃ入れねえだろうがよ。
 一応、ドアがいい具合にひん曲がってたりすりゃ、俺が蹴りをかましてやってもいいぜ。勿論、それで開くかは分かんねえけどな」

【食堂車からSSルーム方向へ向かってる。って事で良いんだよな?
 熱血警官はこちらを先行していて、刑事さん検事さん方はBツイン~展望車へ。
 こちら側の運転席は全壊で、下半身のない死体が転がってると
 違うようなら……まあ脳内修正を頼む】

200:MOBS ◆wRQwHnp5OOVI
10/06/14 21:39:28 0
食堂車を照らす光源は、恰幅の些か良過ぎるんじゃないかと糾弾したくなる
オバサンの置いていった蝋燭が数本のみだった。
アザラシみたいな体系のオバサンだったけど、海の豹と書いて海豹とは甚だ詐欺な気がするのは僕だけだろうか。
早速だけど話が逸れた。閑話休題。

蝋燭の灯火は頼りなく、別段風も嘶いてはいないと言うのに揺らいでいる。
辺りを見回してみると、誰も彼もが膝を抱えて座りながらもぎらついた上目遣いで踊る火を凝視していた。
まるで、と言うか見たまんま怪しげな儀式に勤しむ狂信者の方々みたいだけれども、
彼らがこの非常時下で宗教活動が敢行出来る程に敬虔だとは余り思えない。
日本人だしね、無宗教無神論万歳だね。その割に困った時の神頼みとか言っちゃう辺り素敵な根性が丸出しだけど。
ともあれ僕は立ち上がると、足の無事だったテーブルに立てられた蝋燭を引っ掴み、
ものの見事にマルヤの自由業に身を置いてそうな金髪さんに差し出した。
俄かに部屋の隅で丸まってた面々が立ち上がり抗議の声を上げるけど、マルヤさんがいるせいか今一歩の迫力しか出せずにいるらしい。

「……知ってますか? 人って、本当は火が怖いんですよ。そしてこの暗闇では、蝋燭の火はとても浮き彫りになる」

特に蝋燭の灯りは白と赤のコントラストが絶妙で、その事が余計に恐怖心を煽る。
赤い炎が、段々と白を呑み込んでいく。心の臓が気味悪く高鳴り、
その音が時間は留まる事無く刻まれている事を否応なしに告げてくれる。
分かった所で何の意味も無い情報に、彼らは根ざす所のない切迫感を覚えるんだ。
何よりも蝋燭が燃えて尽きていく様は、『有』が『無』へと果てていく様子を
これ以上ないくらいに示唆して彼らに見せつける。
不規則に揺動して動揺を誘うあの灯火を睥睨し続けて、それが潰える時、
果たして彼らは正気を保っていられるのだろうか?

「さっきまでの自分達が一体どんな顔をして蝋燭を見つめていたか。
 今どんな顔をしているか、鏡でもあればいいんですけどね。
 あ、携帯がありましたっけ。お望みとあれば写メってあげますよ。圏外だけど赤外線通信は出来ますし」

意図的にズレた事を語り騙って、僕は彼らの意識を、敵意と気概を掻き乱す。
ささくれだらけになった心は、砕けた時周りに棘を撒き散らす。
だったら僕は先んじて彼らの心を手折って、ぐちゃぐちゃに溶かしておこう。
死んでしまった時、間違っても僕達に破片が飛び散ったりしないように。
ただ何処かに流れるなり蒸発するなりで、いつの間にか静かな枯渇を迎えるように。
僕達の為に、自分の為に、僕は彼らの心に死に至る毒を仕込もう。
誰もが抗議の姿勢を取り止め再び床に座り込んでから、僕はマルヤさんに蝋燭を手渡した。
そうして元来た道を引き返して、待たせていた女の子の傍に座り込む。

「ごめんまーちゃん、待たせちゃったね」

帰還するや否やまーちゃんは壁に背を預けた僕に、
椅子代わりだと言わんばかりに跨って圧し掛かる。
まーちゃん成分を過分に含有した香気が僕の鼻腔から全身を巡り、
これだけで僕はさっき貰った分の食料を蝋燭代わりに燃やして
足元が見えないなあとかほざいても生きていける位だ。

まあ、嘘だけど。多分周りの皆様方に撲殺されるんじゃないかな。

さてさて、ともあれこの状況とまーちゃんは混ぜるな危険と
厳重にラベルを貼ってもおいても良い位の状況なんだけどね。
一応彼らが妙な気を起こさないようにと立ち振る舞ってはみたけど、
効果の程はまーちゃんが呼び寄せる悪意の前には川底の小石くらいの物だろう。
何と言っても、まーちゃんは人の悪意と両思いなのだから。

畢竟、僕もこの列車の探検に加わらなきゃいけないのかも知れない。
差し当たって、まずはまーちゃんの説得から始めないと。
幸いさっき貰った食料があるから、多分何とかなるだろうけど……今度は一体どうなるやら。

【パニックイベントとかそれっぽいモノの類の種を蒔いてみたり。今現在は『僕』の言葉が牽制となってますけど、
 時間や状況の膠着、悪化で多分パーになる人が出てくるんじゃないでしょうかね。逆に希望のある発言や振る舞いは抑止力になる、みたいな】

201:名無しになりきれ
10/06/15 00:03:02 0
 

202:杉下右京 ◆0NfeAvRda6
10/06/15 01:04:52 0
>>196
>「とは言え、手当たり次第行くしかねェか。他に手もねえしなあ。
 
「ええ、脱出の手筈を整えるのが最優先ですねぇ。
まだ、車内で救助を待っている方がいる可能性もあります。」

金髪の男性の言葉を聞きながら、右京はゆっくりと相槌を打つ。

> オイテメェら、動ける奴は探しに出やがれ。出たくねえってなら……まあ別に強制したりはしねーけどよ。
>食い扶持ががっつり減るくれーは覚悟しろよ。働かざる者、だ」

男の言葉に耳を傾けながら、彼なりにこの状況を整える為の言動である事を
右京は理解した。
この状況で、無理やりにでも力を合わせなければ1人や2人程度では
どうにもならない。
怪我の無い者、軽傷の者ならば人手は多い方がいい。

>……運転席、か。残念ながらライトもミュージックも俺達に愛想を尽かしたようでだんまりだ。
>少なくとも血と瓦礫のコントラストで一見さんお断りとは書いてなかったがな。彼女達のご機嫌を直すには素敵なキャンディが必要だろう

「随分と詩的な言葉を語る方ですねぇ。とても、あちらの方面の方とは思えませんねぇ。
いや、これは失礼。最近はあちらの方も知的な方が多いとは聞いてはいますね。」

右京は眼鏡の奥で男の表情をつぶさに観察しながら、取り出した手帳を見つめる。

>「お前ら四六時中人の悪意と謎とにらめっこしてるんだろう? だったらコイツをくれてやる」

「なるほど……興味深いですねぇ。で、これを何処で?
先程の地震から少ししか経っていませんしねぇ……もしや、貴方は
この手帳の中身について何か心当たりでも?いや、無いのでしたら
杞憂ですが。」

【金髪の男に質問】

203:名無しになりきれ
10/06/15 01:17:26 0
1

204:MOBS ◆wRQwHnp5OOVI
10/06/15 07:42:49 0
【む、俺の杞憂ならいいんだが、金髪ヤクザとバーテンダーは別の人間だぜ
 と言うか、これに関しちゃ完全に俺のミスだな。次からは名前欄に個別の名称を刻んでいこう
 本当なら名前を付けろって話なんだろうが、それはこいつらがあくまでモブでしかないと言う
 俺の意に反する為勘弁してくれ。ついでに俺が今手元に抱えているのは

 金髪ヤクザ:奈緒子と探索中
 バーテンダー:刑事殿達と接触
         感覚としては彼らが運転席に向かう途中で、既に運転席からの帰り道に出くわした
         って所だ。マズいようなら良いように補完してしまってくれ
 小太り中年:食堂車でブルっている
     『僕』:蝋燭を金髪に渡して、パニックを危惧している
茶髪の皮肉屋:芸人と接触。だが彼は一人で旅立たれたようだし現状フリーだな

と、こんな所だ。それじゃ



 ――Good Luck.(楽しくやろうぜ)】

205:バーテンダー ◆wRQwHnp5OOVI
10/06/15 19:01:21 0
> 「随分と詩的な言葉を語る方ですねぇ。とても、あちらの方面の方とは思えませんねぇ。
> いや、これは失礼。最近はあちらの方も知的な方が多いとは聞いてはいますね。」

「詩人になる手っ取り早い方法を知ってるか? 今すぐ食堂車に引き返して
 転がってるボトルに片っ端からキスしてやればいい。俺の恋人達は奥の厨房の冷蔵庫に
 監禁されちまったから、浮気はバレやしないだろう」

それにしてもあの倒れちまった冷蔵庫、一体誰が起こすんだろうな。
俺はエライジャクレイグのボトルを抱きながらじゃないと寝れないんだ。
中の酒や食料が駄目になる前にどなたさんかにお願いしたいモンだ。

崩し過ぎて視界の上で踊っている前髪を横に逸らす。
ただでさえ暗いんだ。これ以上の暗幕は必要ないぜ。
肩を寄せ合う女性もここにはいない事だしな。

代わりにさっき、瓦礫に蹴躓いて床と熱烈なキスをしちまった。
余りにも情熱的過ぎて、思春期の少年よろしく鼻血が出ちまうくらいだったな。
まったく俺と彼女の仲を取り持ってくれるとは、あの瓦礫はとことん憎らしい奴だ。
思わず親愛と感謝の情を込めて蹴りをぶち込んでやったが、爪先が死ぬほど痛んだだけで終わった。

それにしても「あちらの方面」か。
一体この紳士―いや、刑事は何処まで知ってる?
いや、単に俺の格好から表の職種を察しただけか。

> 「なるほど……興味深いですねぇ。で、これを何処で?
> 先程の地震から少ししか経っていませんしねぇ……もしや、貴方は
> この手帳の中身について何か心当たりでも?いや、無いのでしたら
> 杞憂ですが。」

「見つけたのは運転席の隅だ。打ち捨てられて啜り泣いてたって訳じゃないが、見つけたのは偶然だな。
 作業員達とはバーの内装について幾つか言葉を交わしたが、それだけだ。
 ……いや、愚痴が喧しかったんで黙らせる為に何度か酒を振る舞いはしたか。愚痴の内容ってのが、丁度その手帳の中身と被るな」

多少後付けらしい言葉が肺の奥から勝手に飛び出ていったが、まあ問題ないだろう。
そんな怪しまれるような『ムジュン』なんて物は、無い筈だ。
胸の奥で煙草の紫煙のように渦巻く不安を溶かすように、俺は隠し持っていた酒を嚥下する。

【まあお約束だが、「ムジュン」があるって事でよろしく頼む
 ITEM『作業員の手帳』:愚痴が多いが、かなり細やかに記されている日記帳だ
 GET:右京、御剣、糸井】

206:御剣怜侍 ◆7h7z5ETgh6
10/06/15 20:02:08 0
御剣は、他の人間と共に歩いていた。
廊下のあちらこちらには、壊れた家具や割れたガラスの残骸が落ち、踏みしめるたびにぱりぱりと音を立てた。
その音を聞きながら、御剣は思考を巡らせた。
否―正確には、”めぐらせようとしていた”というべきか。
地震直後より幾分思考はクリアになっていたが、どうもショックから抜け切れていない。
こんな状況だ。冷静な思考能力、とりわけ普段の自分が持っているロジック思考こそ、大きな武器になる。
しかし内心に凝る原初体験的な恐怖が、そこから御剣の思考を遮っていた。

(―怯えるな、冷静になれ、こんな時に過去の傷痕などどうでもいいだろう!)

御剣は自分を心のうちで叱責しながら、バーテンダーが持っていた、手帳に目をやった。
どうやらこの列車は、随分な突貫工事で作られたもののようだった。
見た目の豪奢さとは裏腹に、その内部の腐敗は相当らしい。
その内容を一瞥し、ふと、疑問に思った事があった。

「……この手帳の、中身なのだが」
と、御剣は話を切り出した。
「×月○○日に、こう記述されているな。《二階建車両》……と。
しかし、私の見た限り、この列車に二階建てになっている部分はなかったと思うのだが……」


207:バーテンダー ◆wRQwHnp5OOVI
10/06/16 01:12:20 0
> 「……この手帳の、中身なのだが」

「何だ? 悪いが男に突きつけられた文章なんざ見る気はないぜ。一度バーの客の手紙を受け取ったら三日三晩追い回されてな」

これ見よがしに大仰な動きでボトルを傾け、暗闇に紛れる検事の面をボトルと指の隙間から垣間見る。
少なくとも青ひげで筋肉質のデカブツよりかは、一緒にいても精神衛生に優しそうだ。
だが何よりも幸いなのは、万一の事があっても殴り倒せそうって事だな。
鉄パイプと酒瓶でしこたま殴ってやらなきゃ黙らない、なんて事はないだろう。

> 「×月○○日に、こう記述されているな。《二階建車両》……と。
> しかし、私の見た限り、この列車に二階建てになっている部分はなかったと思うのだが……」

細めた視界を広げ、安酒のボトルを下ろす。
成る程、これはつまりアレか。
この検事殿は俺を疑っていると見て間違いないようだ。

でなけりゃその疑問を俺の顔面に引っ掛ける理由がない。
俺のベストから作業用オイルの臭いが漂ってるってならとにかく、だ。
生憎バーの酒棚にそんな奴を招いた覚えはないな。

「……あぁ、外からじゃ分からないだろうがな。実はスタッフが過ごしたり物置代わりになっていたり、言わば楽屋裏としての二階があるのさ。
 何なら、後で確認しに行ってみればいい。階段ならロビーの奥、スタッフルーム入ってすぐ右だ。
 手帳の内容を疑うなら、俺に尋ねるまでもなく自分の足で確かめた方が手っ取り早いと思うぞ、『色男さん』よ。勿論手帳の持ち主を探してもいいが、余りオススメはしないな」

口元が微かに釣り上がる衝動を隠すべく、俺はもう一度ボトルを傾けた。
流石の俺も確認しようのある事で嘘を吐く程、酔っ払っちゃいない。
そんな事を言っているようじゃ、呼び名は色男の方が良さそうだな。

【新たな情報は出たが、「ムジュン」では無かったって所だな。
 酔っぱらいとの問答に時間を掛けるのも何だからな、>>197の手帳と>>205のバーテンダーの口振りを照らし合わせてくれればいい。
 書いてない事が見つかるだろう。それでも分かり難いって言うなら……その時は俺が悪かった。稚拙ながら解を述べさせてもらうとするさ】

208:名無しになりきれ
10/06/16 01:23:02 0
e

209: ◆0ZRb1KkMsw
10/06/16 01:27:28 0
アインから放られた羊皮紙を諸手で受け取り、順を追って目を通して行く。
彼の提示した『神戒円環』の草案とは、つまるところ『自壊円環』の真逆をなぞる理論である。

『自壊円環』が土地を強引に重ね、融合させることで『無限の有』を構築する術式であるならば、
『神戒円環』は空間を強引に裂き、分離させることで『極限の無』を生み出す術式。
その性質は正しく世界の"掛け算"と"割り算"。故に、術式そのもののシステムは同じものを共有できる。

(なるほど『異端』……正道を進むならば到底至り得ない発想。これが、『持たざる者』の極致―!)

内心で舌を巻く。アインが一連の事件の過程で『自壊円環』の内容を知ったとするならば、彼はたった半日でこれほどの理論を組み上げたことになる。
術式学を修めたセシリアですら、ルキフェルによってもたらされた発想の種を術式として纏め上げるのにたっぷり半月はかかったというのに。

読み進める。羊皮紙に記されているのは、『神戒円環』の暴発を押さえ込む為の制御方法案。
魔術、聖術、錬金術、果ては道術や遁術、呪術といった古今東西の魔法技術的見地から見た制御術式の数々。
それらは、一つ一つの記述こそ『自壊円環』の制御を研究する段階でセシリアが調べ尽くしたのと同じ内容であったが、
術式同士の組み合わせや呪法特性などによって最大限の効果を発揮できるよう巧みに構築されている。

「うん、これなら範囲を極限まで狭めた術式の暴走を『封殺』する形で抑え込められそうだね――」

紙面を見つめる視界の隅に、ふと不穏な文字列を見かける。瞬きを繰り返して、もう一度筆記を追う。
アインの言う『制御』は言わば術式の内容に干渉するのではなく起こした現象そのものを別の統御術で押さえ込むという、言わば『力技』。
それを成立させるには、必然莫大な『力』を用意する必要がある。一介の術者では到底調達できないような、甚大な魔力が。

『魔力』はごく一部の例外を除いてこの世界のあらゆる人類が平等にその身に宿す力である。膂力や体力と同列と言って良い。
後者二つとの決定的な差異は、『媒体間で力のやりとりができる点』と、『あらゆる力に代替できる点』。
すなわち、他者と受け渡しのできる万能エネルギー、それが魔力なのだが。

(この制御術式が要求する魔力は、個人が運用できる規模じゃない。『命』を全て薪とし炉にくべてようやく捻出される水準!)

それ故に、『生贄』。各方面の術式に関して熟達した腕をもつ者を三人犠牲にすれば、この術式は抑え込める。
単純に、純粋に、純然に、『魔力が足りないから』というただそれだけの理由で、人死になしに『神戒円環』は発動しない。
なるほど、まさしく『神を戒める』術式である。古来から、人は単価の低い人の命を消耗品にしながら神と渡り合ってきたのだから。

安い犠牲だ、と思う。ルキフェルの脅威は最早一国を傾かせるレベルである。
そんな戦略級の、純正の魔族相手に人がたった三人死ぬだけで対抗できるのだから、命を足し引きするならば大黒字だ。
ここで止めねば、もっと多くの人が死ぬ。慈悲なき天秤の上では、ルキフェルにつり合う重さをもつ命など皆無なのだから。

「魔術に関しても当てはいるよ。それと、場合によっては―錬金術も。内輪の人脈でどうにかなりはしそうだね」

セシリアは死生観まで常識と靴先を揃える必要はないと断じている。人を殺すための兵器を開発する身だ。
倫理や道徳とは一線を引いた心の高台に立たねば、いずれ罪悪の水嵩が増して息ができなくなる。
それを人に強要するつもりはないし、そうある自分に一種の矜持めいたものを持っているが、今回に限っては自己の内だけでは処理できない。
人の命は平等だ。平等に『価値がない』。社会にとって価値を有するのは人命ではなく、人が生み出す副産物だ。
『命の値打ち』とは、命を削って為した功績の級。だからこそ、人命を湯水のように消費する戦争が許容される。

(だから、私は躊躇しない。それが例え他人の命でも―業を背負う覚悟がある)

アイン=セルピエロは生贄の必要性を苦々しく吐き捨てたが、セシリアはむしろその事実を歓迎してさえいた。
最後の手段にしておきたいということは、手を選ばなければ今すぐにでも実行できるということなのだから。
不意に部屋の隅から声を投げかけられ、臓腑が浮くのを感じる。不穏な気配に、背筋が総毛立った。
腰に下げていた魔導杖を声のした方向へ向け、精査術式を紡ごうとしたところで、機先を制された。
    
(一体どこから―!! 研究院は技術流出の防止の為に隠蔽検知と悪意封殺の結界が張ってあるのに……!)

210: ◆0ZRb1KkMsw
10/06/16 01:31:31 0
落ち合う場所である"銀の杯亭"の酒場へと向かうオリン
気がついたときは、すでに約束の刻は間近だった
扉を開けると、多くの人々で賑わっていた。食事に来たと思しき若い男女。酒を豪快に呷る中年の男
忙しなくフロアを駆けるウェイトレス。厨房で引っ切り無しに来る注文と格闘している料理人
オリンは、ギルバート、フィオナの姿を視認すると、それらを掻き分けながらテーブルへと進んでいく
まだ卓上には何も置かれてなく、微妙な沈黙がこの場を支配していた
空いている椅子に腰掛ける。レクストは、まだ来ていない様だ
─入り口から豪快に扉が開く音がした
腕を剣に巻きつけたままの格好で、レクストが此方へと駆けて来る
軽口を叩いてはいるが、レクストは腕を折られている
気取られぬために明るく振舞っているのか、それとも素なのかは、よく分からないが
リフレクティア―。何故か、その名に既視感を覚える。しかし、いま思考すべき事ではない

「……俺はユスト=オリン。オリンで構わない。」

一瞬の間を置き、言葉を続ける

「……俺は、ある件を追っている。ギルドなどの仕事絡みでは無く、個人的にな。」

実際、今言えるのはこの程度の事だ昨日今日見知ったばかりの相手に、自身の記憶が無い事をベラベラと喋る必要は無いいつ敵対するとも分からない。それに、俺の目的に偽りはない

「……最近、立て続けに帝都近郊で"事"が発生している。ヴァフティア、メトロサウス、エストアリア。……これらの件は偶然では無い。そして、ある人物が関係していると、俺は推測している。」

ここで一旦、言葉を止めた相手がどう返すか、オリンは静かに待つことにした―

「任務に失敗した?」

一転、目を縫われた少年、皇帝の使者である彼は強く眉根を寄せながらそう言った。縫われた部分が引き連れ、
瞼が少し横に伸びる。ランプの作った陰影が、その動きを誇張する。

「ああ、」
「めくらだからって、嘘を言わないで下さい。あそこに――」

少年は杖の先を床に転がされた濡れ鼠の死体に向けた。

「――あそこに転がってる“息づかい”は、何ですか?人間のもののように思われますけど」
「あれは女だ」

女?それはどう言う。と言いかけて、少年ははたと沈黙した。直ぐに表情がいつもの通り、微笑を湛えたものに戻る。
感情を隠そうとしているのだ。そう推測する。してやられた、と内心では忌々しく思っている事だろう。

「晒し者にされている“男”は居なかった。任務は失敗した。
いや、そもそも成功は有り得なかったと言うべきか」

皇帝には、そう伝えておいてくれ。そう言ってランプに手を延ばし、灯りを消す為、蓋を横にずらす。待ってく
ださい、と少年がようやく声を出す。何か計略に孔を見付けたか、とひやりとしたが、少年の口から出てきたのは単なる足掻き、彼個人の言葉だった。

「何故このような事を?」

答えずに、ランプを消し、少年を外へ追いやる。扉を閉める寸前、久々に個人としての意識を見せた彼に敬意を表して、一言だけ言葉を返した。

「リフレクティアだ、ナイアル。それしか言えない」

それぞれが部屋に入ったあと、ギルバートはニヤリと笑みを浮かべ、自室でグラスにワインを注いでいた。
こうして一人っきりになれたのだから。オリンとレクストに水をかけたのは何も臭いを流す為だけではない。
腕を折っているとはいえ体力の高いレクストやまだ面識の殆どないオリンを自然にかつ強制的に湯に向かわせる為だ。
フィオナの負傷は重く、一番鼻の利きそうなマリルに押し付けた事によりこちらを探る余裕はなくなるだろう。ハスタはまだ帰ってきていないが、鉢合わせるとしたらオリンの部屋だ。
誰かが尋ねてくる可能性を排除してようやく、ギルバートは人狼の表情から本来の闇の住人に戻るのだった。グラスに満たされたワインは水鏡を応用した通信術式。そこで部下からの報告を聞く。この数時間で起こった事を。
神殿前広場で何が起こったのかはわからない。ただ結果として、生存者一人を残し、その場にいた者は全て死に絶えた、という事。
群集に紛れ込ましていた部下二人は、なんのメッセージを残す間もなく死んだのだ。そこから導き出される答えは…。ギルバートの眉間に深い皺がよる。

211: ◆0ZRb1KkMsw
10/06/16 01:35:21 0
更に報告は続く。唯一の生存者セシリアはアインとともに研究室に向かったこと。そして、継続した探査項目であった『門』の行方の中間報告。

「ふ~~~~~・・・これで15人か。ごっそりと減ったものだ、な。」

報告を聞き終え、ワインを飲み干したギルバートの口からは自嘲めいた言葉が漏れ出した。ルキフェル、ティンダロスの猟犬、皇帝、そして…様々な意思が交錯し、事態は急転を迎えようとしている。
予断を許さぬ状況の中で次の一手をどう撃つか。手札は揃っているとは言い難い中で、切るカードの選択には慎重を要する。深い深い思考の渦の底に無数の選択肢がたゆたっている。
銀の酒場亭の済みのテーブルで身支度を整えた一行が揃う。腕が折れているというのに変らぬから周りを見せるレクストを見て小さくため息をつくと、オリンの言葉を聞く。
個人的に事件を追う身。そしてあの力量。上手くすれば良い駒になってくれるだろう。

「まあ、いろいろあったが生きて帰ってこれたんだ。つまりは『次』の戦いもある。まずは命の水を流し込んでからにしようじゃないか。」

給仕が持ってきたグラスをそれぞれに配り、一旦流れを切る。十分時間をかけ果実酒を半分ほど流し込んだあと、ゆっくりとオリンに向け言葉を紡ぐ。

「俺はギルバート。改めて礼を言うよ、オリン。俺達はヴァフティアから来た。」

ヴァフティアから来た。これだけでオリンには通じるものがあるだろう。自分と同じ事件を追っている、と。

「あんなとこ(下水道)まで降りてきたから大体の察しはついていたけどな。多分俺達はあんたの推測の一歩先。その『ある人物』を追っているんだ。
地下下水道で俺達が這い蹲っている間、その『ある人物』は地上で大暴れしていたらしい。まあ、間抜けな話しだな。逆に命拾いしたのかもしれんが……。
同じ目的なら協力体制を築けると思うが、まあ、ここで俺達の話を聞くだけでも有益だと思うぜ?さっきのメイドが持ってきた手紙、それ関係なんだろう?」

オリンへ話し終わると顎でフィオナを促した。

「あの……その……、マリルさん……ここまで手伝っていただかなくても大丈夫なのですが……。」

浴槽の湯船の中でフィオナは縮こまっていた。口まで浸かっているせいか抗議の声もぷくぷくと雑音混じりでいまいち要領を得ていない。
下水道から帰還し、銀の杯亭の扉をくぐったフィオナ達を待っていたのは亭主の刺す様な視線だった。
酒場兼飲食店兼宿屋を営む主にしてみれば、下水の臭いが染み付いた一同は営業妨害以外の何者でも無いのだから無理からぬことだろう。
流石に知らん振りをして話し合いを始める訳にもいかず、「先ず風呂に入れ」というギルバートの鶴の一声により各自部屋へ散って行った。
とりわけ重度の怪我を負っていた事もあり、マリルはフィオナの手助けとして一緒について来たのだった。浴室の中までも。

「うー……。」

元怪我人の遠慮など何処吹く風といった様子で聞き流すマリルに根負けし、フィオナは小さく呻く。メイドという職業だからか、それとも本人の資質によるものなのか、マリルの所作は浴室内でも際立っていた。
フィオナの抗議も不快から来たものではない、むしろ痒い所に手が届く程の凄まじく洗練された介護が無性に恥ずかしかったからなのだ。

「あ……ありがとう……ございました。」

一通りマリルに身体を洗われ、湯船の中に戻ったフィオナは再び膝を抱えて縮った。その体勢をとったことで自然と左腕が目に入る。噛み千切られた二の腕は"治癒"で復元してあるが傷跡は残っている。
元通りに治すことも出来たのだが敢えてそうしたのだ。戒め。弟を救えなかったこと。仲間を危険に晒したこと。その後悔を忘れないようにするための一種の呪い。

(ジェイド……)

師の手紙が本当ならば弟は既に人では無い。外法により二度目の生を植え付けられた不死者、ヴァフティアで会ったレクストの母親と同じ存在なのだ。
ならばどうする、見捨てるか―そんなことは出来はしない。護るための力を求めて出て行ったジェイドとは真逆、破壊の限りを尽くす魔へと変えられようとしているのだ。
救わなければならない、姉として弟の魂をだ。フィオナは俯いていた顔を上げると立ち上がり、マリルを見据える。

「マリルさん!ルキフェル達の行動で何か新しい情報は―」

そこまで言って、はたと我に返った。つうっと湯が身体を伝う感覚とマリルの視線。ざばんっ、と飛沫をあげてフィオナは再び湯船の中へ没した。
血塗れの神官衣は諦め、室内着に着替えたフィオナはマリルと一緒に一階の酒場へと降りて行く。賑わう店内を見回すと、隅のテーブルにギルバートが居るのを発見した。

212: ◆0ZRb1KkMsw
10/06/16 01:37:47 0
「お待たせしました。」

声をかけて椅子に座る。程なく下水で会った剣士の青年と合流し、それから少ししてレクストが駆け込んで来た。
折れた左腕大仰に振り回しながら来たせいか、席についた頃には額に脂汗が浮いているのが見てとれる。
青年―ユスト=オリンという名だ―へ軽口交じりの挨拶をするレクストに次いで、フィオナも自己紹介を済ませることにした。

「オリンさん、先程は危ないところをありがとうございました。私はフィオナ・アレリイ。見ての通りの―」

いつも通りの動作でルグス神殿の意匠を示そうとして無いのを思い出す。

「あっとと……。マリルさん、お手数ですがレクストさんの腕を掴んでいてもらえますか?」

聖句を唱えて"治癒"の奇跡を顕現し、「見ての通りの神殿騎士です」と定型文の自己紹介を終える。
下水道内では気づかなかったが、オリンは複数の魔剣を所持しているようだった。
その全てを自在に操れるのだとしたら剣士としての実力は相当のものだろう。

『俺はギルバート。改めて礼を言うよ、オリン。俺達はヴァフティアから来た。』

最後はギルバート。ヴァフティアから来た。という部分を強調して伝えている。
鋭い彼がこういう言い方をするからには、オリンが個人的に追っている件もヴァフティア事変、ひいてはルキフェル絡みなのだろう。
続けてギルバートが話した内容もそのことを裏付けていた。

『―同じ目的なら協力体制を築けると思うが、まあ、ここで俺達の話を聞くだけでも有益だと思うぜ?
さっきのメイドが持ってきた手紙、それ関係なんだろう?』
「ええ、その通りです。」

ギルバートに促され師の手紙をテーブルの上に広げる。
既に内容を知っているマリル以外の全員が目を通したのを確認して、フィオナはゆっくりと言葉を吐き出した。

「レクストさん、ギルバートさん。お二人はもう知っていたようですね……。ありがとうございました、ジェイドに代わり改めてお礼を言わせてください。ですが、この件に関しては相手の出方を待つほか無いと思いますので後にしましょう。」

手紙を読んだ二人の表情で真実なのだと悟った。だが今は停滞する時では無い。弟の魂を救ってみせると決意したばかりなのだから。

「……差出人の"マンモン"というのは修道院時代の恩師です。
 創生史に詳しく"最も敬虔な聖騎士"とか、"神との邂逅を果たした者"などと云われる方なのですが今はルキフェルの傍に居ます。
 額面通りならばルキフェルを倒すために近づいた、ということなのでしょうけれど……。
 それより気になるのは『ルキフェルを倒す事は出来ない。子が親を討てぬと同じ事だ。』の一文。
 『意味はいずれ分かる。』ともありますが……どなたか解りますか?」

>「魔術に関しても当てはいるよ。それと、場合によっては―錬金術も。内輪の人脈でどうにかなりはしそうだね」

澱みの無い口調で答えるセシリアに、アインは小さく相槌だけを返した。二人の反応の違いは、そのまま両者が学問の道へと身を投じた理由に直結しているのだろう。
兵器を作るべくして兵器を作るセシリアと、恩人を救う為の手段として求めた知が、結果として兵器を作る事に繋がったアインの。
無論アインとて査定を乗り越えるべく、皇帝に取り入るべく兵器の開発を行った事はある。だがそれでも、やはりセシリア程に達観する事は出来なかった。

>「成る程、流石は帝都における正道と異端の最高頭脳。」

眉尻を落としていたアインは、しかし突如虚空から発せられた声に忽ち、表情を驚愕に染める。だが、彼の動きはそれだけに留まった。何もしない、と言う訳ではない。
魔術であれ何であれ、魔力を一切持たない彼は日用品やSIPNですら魔力触媒を用いねば使用出来ず、当然隠遁術の類を用いた相手には完全に無力なのである。
詰まる所彼は、ただ硬直の態を晒す事しか出来なかったのだ。咄嗟に動いたセシリアさえただの一声で制止され、アインの面持ちに再び影が差す。
先程までの気後れの色ではなく、純然な戦慄の影を
  
> 「帝国には魔が蔓延り、衰退の兆しを見せ、世界は動こうとしております。
>  それとともにあなた方のような優秀な人材が散るのは実に惜しい。
>  事が成就した暁にはいっそのこと帝国を離れてはいかがですか?
>  まだ何処とはお互いの為に申せませんが、それは割符代わり…ご一考ください。」

だがどうやら相手方に、二人に対する害意はないようだ。
アインが畏怖した刃の閃きの代わりに放たれたのは二枚の銀貨と、それが机で跳ねて奏でる小気味いい金属音だった。

213: ◆0ZRb1KkMsw
10/06/16 01:39:44 0
「……一枚だけ、か。期待されてるんだか、されていないんだか分からんな」

セシリアが一枚を取り、残ったもう一枚の銀貨を見つめて、アインは呟く。
姿なき声は彼を『異端の最高頭脳』と称したが、アインはそれをタチの悪い皮肉としか捉えられなかった。
『異端の最高頭脳』は自分ではない。誰よりも早く『異端』を見出した人がいて、自分はその上に煩雑に物を積んでいるだけなのだ、と。
もしも姿なき声の主が『先生』の事を認識しているのならば、この銀貨は彼に向けられた物ではないのだろう。
彼が意気込み通り『先生』を治せば銀貨は彼女へと渡り、助けられなかったとしても銀貨はアインの手に残る。
またもしも彼が恩人を救えなかった事に絶望して、或いは単純にこの先起こる出来事で命を落としたとしても、それは元々そうなる道理であったに過ぎない。
どうあっても姿なき声の者達に、損は無いのだ。
つくづくタチが悪いと、アインは誰に対しての物か分からない嘲笑を零した。

> 「帝都の暗部がパトロンについてくれるみたいだよ。そして私もいいこと考えた。『門』を探そう。
>  この"銀貨"の人達の情報網なら『生きていると仮定して』、門の居場所の欠片ぐらいは掴んでると思うから」
>
> 「―こういうのにうってつけの人材を一人、知ってる。んー、この時間じゃちょっと早いかな……
>  夜を待ってから3番ハードルの『落陽庵』へ行こう。勤務明けの夜はいつも、あそこで酔いつぶれてるはずだから」
>
> 「今のうちに調べられるだけ調べておこうか。"銀貨"の人をこっちから呼び出す方法も知らないし。
>  まずは『ヴァフティア事変』―『門』が関わった中で最新の事件からいってみよう」

「……いいだろう。どうせ今後の事に関しては、お前の当てが頼りだ。僕に出来るのはそれくらいか」

ひとまずはアインも銀貨を手中に納め、

「―エクステリアさん! 貴族が急患として運び込まれてきました! 神殿じゃどうしようもない症状だそうです!」

不意にドアの外から、セシリアを呼び求める声が響いた。防音術式は基本内から外へのみの効果であるとは言え、十分に分厚い木製のドア越しにでも、切迫感の伝わる大音響で。

「……僕は構わんぞ。ヴァフティア事変の資料だけなら、全て掻き集めても高が知れているだろう。それ以前のカルティックな資料となれば一人では骨が折れるが、どうせそれらに『門』自体の足取りが書かれているとは思えん」

最後に資料索引のオーブを借りる旨を告げ、鞄から起動用の魔力媒体を取り出すと、彼は卓を離れ作業を始めた。

「―どうなってる! 魔族化が止まらないぞ! これはまるで『降魔』―!いや、あれよりタチが悪い! 聖水が効かないだなんて、どう言う事だ!」

搬入された貴族は浴びせられた聖水に、快方の気配どころか悲鳴を上げるばかりだった。叫び、のた打ち回る貴族を警備の従士が二人掛かりの捕縛術式で押さえ込み、術士が処置に当たる。
だが彼らは声を荒らげるばかりで、肝心の手は動かせずにいた。当然だ。魔族化に対して行える処置など本来、手遅れになる前に聖水をぶち撒けるくらいしかない。それどころか『降魔』以外の魔族化など、そもそも前例が皆無なのだ。

「何でだ! 何故聖水が効かない!?」

貴族は右の眼窩から血を横溢させている。そして彼の眼球の表面では、血よりも深い赤の何かが回転していた。
『赤眼』である。帝都より配られた『赤眼』が円環を描き、秘められた術式を発動しているのだ。
その術式とは、『培養』。そして術の『対象』は―  

「……駄目だ、俺らじゃ手に負えん! エクステリアさんを呼んでくる!従士さん方は最悪自分らの判断で仕留めてくれ! 責任はウチが持つ!」

そして術者の片割れは、部屋を飛び出てセシリアの研究室へと駆けていく。
何故、聖水が効かないのか。『降魔』ではない、全く新しい魔族化が起きているのか。
―『培養』の『対象』が、人間の中に微かに眠る『魔族の血』であるからだ。
『赤眼』に巧妙に隠蔽された錬金術の円陣が、『魔族の血』を段々と増大させているのだ。
眼窩から溢れる血は、内包し得る許容量を超えて排出される『人間の血』である。

人間に無理矢理『魔』を降ろすのではなく、人の身が元始の片親の姿を取り戻すだけ。
だからこそ、聖水は対処法ではなく単純に苦痛を与える物としかならない。
貴族の肩から右手に掛けての血管が不自然に膨れ上がり、
脈打ち、その度に腕は魔族のそれへと近付いていく。

セシリア・エクステリアならば、或いはこの現象に歯止めを掛けられるかもしれない。

214:杉下右京 ◆0NfeAvRda6
10/06/16 01:40:29 0
【これは失礼、>>205さん。すぐに人を勘違いするのが僕の悪い癖。
こちらもそのように保管しておきます。】

>>211
最後に1つだけ宜しいですか?
僕の予想が正しければ、ですがもしかして貴方はダークファンタジーという
物語に書き込まれるおつもりだったのでは?
もし宜しければ、再度スレッドを見直すことをお勧めしますよ。
いや、気付いていらっしゃるのならば失礼。過ぎた親切心が、僕の悪い癖です。

215:杉下右京 ◆0NfeAvRda6
10/06/17 22:49:58 0
>>205
>「詩人になる手っ取り早い方法を知ってるか? 今すぐ食堂車に引き返して
>転がってるボトルに片っ端からキスしてやればいい。俺の恋人達は奥の厨房の冷蔵に
>監禁されちまったから、浮気はバレやしないだろう」

「生憎、私は非常時に酒を嗜む趣味はありませんのでねぇ……遠慮させて頂きますよ。
あ、それと。先程の手帳の件ですが―」

懐から1枚の新聞の切り抜きを見せる。
「列車の整備員、立て続けに謎の失踪」。

「ご存知あったかもしれませんが、一応。私は刑事なもので、こういう
報道には逐次目を通していますのでね。ここ数週間の間に、数名の作業員が
原因不明の失踪をしているというわけです。
そして、この手帳。」

御剣から手帳を拾い上げ、最後のページのよこの名前欄を指差す。

「出雲太陽。これがこの手帳の持ち主でしょうねぇ……そして、
これが5日前の夕刊の社会面です。」

”30代男性 不審死”

「彼は鉄道会社の作業員としてここ半年以上はある巨大なプロジェクトに
関っていたそうですよ。彼の名前は、そう。
出雲太陽です。」

右京は微笑を浮かべると、バーテンダーと御剣の方を見た。

「この事故と、謎の失踪。そして手帳の持ち主の不審死。
繋がりが無いとは言い切れませんねぇ。
それに、御剣君の指摘した”2階”という記述も気になります。」

【手帳の持ち主について述べる、御剣の疑問を同じくバーテンダーに向ける】


216:山田奈緒子 ◆oOWEk44fpA
10/06/18 00:18:32 0
>>199
>「さて、どうするよ? この先は運の良い奴が引き当てて、今現在最高に運の悪い連中達の部屋が続くぜ。
 一旦帰って刑事共と情報の共有をするか。それとも進むか、だ。まあ鍵が無けりゃ殆どの部屋にゃ入れねえだろうがよ。
 一応、ドアがいい具合にひん曲がってたりすりゃ、俺が蹴りをかましてやってもいいぜ。勿論、それで開くかは分かんねえけどな」

暫し考え、結論を出す。
「あの凄い刑事さんならこれを見たら何か分かるかもしれない。
非常食は非常時……すでに非常時だけどもっといざという時に取っておいた方がいい。
こんな所に長く居ないでさっさと脱出しましょう!」
さっさと脱出しなければ大変なことになる。なぜなら山田さんの寝相は滅茶苦茶悪い。
もしも列車内缶詰状態が長引いて寝るような事になったら
寝ながら上半身を起こして貞子のように這いまわりパニックイベントの引き金を引いてしまう事は間違いない。

>>200
列車のほぼ中央にあたる食堂車まで戻ってくる。不安げな乗客達が待機している。
「ああ、大きい蝋燭を持ってたんだった。そっちの方がいいですよね」
食堂車の隅に置いておいたトランクを開き、普通よりでかい蝋燭と少し大き目の布を取り出す。
「崖の上のポ○ョの物真似しまーす。“ポ○ョ、これ大きくして!” “分かったそ○すけー”」

蝋燭を暫し布で隠してから外すと……
「おっきくなっちゃったー!」
どう見ても他のマジシャンのネタだが、とにもかくにも大きめの蝋燭が灯った。
残念ながらマジックの仕掛けはばらしてはいけないので詳細に書く事は出来ないが、種も仕掛けもあるのだ!
まあ火は何らかの手順で小さい蝋燭から移したのだろう。
ちなみに今は光源の確保が一番の目的なので元の小さい蝋燭も人が目を離した隙にさりげなーく置く。

「お待たせしました。あんなので少しでも気が紛れてくれればいいんですけどねえ……」
右京達と合流するべく展望車方面へ。

217:糸井緋芽子 ◆0mZJc5qfZk
10/06/18 22:47:32 0
>>206 >>207 >>215

手帳を取り出す気障な台詞回しのバーテン風男。
糸井緋芽子はこの酔いどれバーテンと銀縁メガネとひらひらネクタイのやり取りを興味津々で聞いていた。


「あらっ?アンタ刑事さんなの?やっぱりねぇ~ズイブンずけずけ詮索好きなとこがあると思ってたのよ!」

銀縁メガネの男の職業を耳にした緋芽子は自分のことを棚に上げて無遠慮な感想を述べる。
しかも更に無遠慮に手帳を受け取った銀縁メガネの腕を掴み自分の方に捻じ曲げると手帳を覗き見ようとする。
銀縁メガネの刑事の腕にぶら下がるようにして手帳を読む緋芽子。

「アラアラ、あら~っ謎の手帳に失踪事件に不審死?なんだか二時間ドラマみたいじゃないのよ。
この変な日記書いた奴が列車作ってたわけ?
ずいぶん突貫工事の手抜き作業みたいじゃないの。
アタシらこんな手抜き電車の試乗会に当選したっての?まったく世の中どうなってんだかねえ~

そんなに気になるならその楽屋裏の二階に言ってみりゃいいじゃないのよ。
どうせ救助が来るまで暇なんだからこの際行ってみようじゃないの。」

「救助って言えば、かれこれ数時間経つってのに警察も救助隊もさっぱり来る気配ないねえ
そういえば何年か前大きな列車事故があったわね!トンネル内の火災事故!
あれのときワイドショーで言ってたんだけど
こういう電車って事故の時の緊急連絡用にトンネルの中でも通じる『列車無線』ってのがあるらしいね。
作業員や運転士はちゃんと連絡したのかねぇ~?」


糸井緋芽子は救助が遅いことを不審に思っている。

218:金髪ヤクザ ◆wRQwHnp5OOVI
10/06/19 00:47:18 0
> 「あの凄い刑事さんならこれを見たら何か分かるかもしれない。
> 非常食は非常時……すでに非常時だけどもっといざという時に取っておいた方がいい。
> こんな所に長く居ないでさっさと脱出しましょう!」

「そうか、まあいよいよヤバいって時に非常食の話をチラつかせりゃ、希望の繋ぎにも、ならぁな。
 とは言え、何で今まで黙ってたって反感買う事も、あり得るだろうがよ
 存在だけは明かすか、あの刑事共だけにでも明かすか、誰しもに黙っとくか、考えとくんだな」

金髪ヤクザは言いながら、客室のドアを無造作に、蹴る。
鈍い音を響き暗闇を揺らがせ、それを幾度か繰り返すと、
既に鍵が傷んでいたと思しきドアは一際大きな音を床と合唱し、倒れ伏した。

「……そんな目で見んな。ここは元々俺の部屋だ。なけなしの財産を、回収するだけだ」

幾つかの私物を持ち出し、彼は使命の続行を為し得なくなったドアを踏み、部屋を出る。
しかして引き続き奈緒子に付いて、刑事達の元へと歩み始めた。
彼の懐の僅かな膨らみは、彼の体に纏わり付く宵闇の贋作に覆われ、誰にも見えなかった。

【非常食に関して、いつ、誰に、明かすかの選択肢を振っといた
 金髪ヤクザが勝手に明かすかも知れないが、奈緒子さんが自由に明かしても構わない】



219:嘘つき ◆wRQwHnp5OOVI
10/06/19 00:48:26 0

> 「ああ、大きい蝋燭を持ってたんだった。そっちの方がいいですよね」
> 「崖の上のポ○ョの物真似しまーす。“ポ○ョ、これ大きくして!” “分かったそ○すけー”」
> 蝋燭を暫し布で隠してから外すと……
> 「おっきくなっちゃったー!」

幾分の空回り感が否めない手品師然のお姉さんが小芝居と共に、幾本もの蝋燭を灯す。
忽ち僕らの周囲を満たしていた冥夜は蒸発して跡形もなく、物陰や部屋の隅に残留するだけとなった。
普通の人は暗闇の中の、ただ一つの炎に脅える。
だけどまーちゃんは暗黒を背景に揺れる炎にも純粋な無明にも、どうしようもなく心を乱す。
だから僕は今まで何とかまーちゃんが怖がらないように傍に居て、
役者不足と知りながらも気を紛らわせて宥め続ける事くらいしか出来なかった。
それが燃え盛る業火にバケツで消火活動を敢行する事にも似た焼け石に水、
崩落への歩みを僅かに遅らせるだけの行為でしか無いと分かっていながらも。
けれどもこれだけ明るければ周りの人達は勿論、まーちゃんもいい塩梅に微睡み眠ってくれるんじゃないだろうか。
と言うか既にうつらうつらと宇宙を宿したような瞳を潤ませて、稚児の如く僕に体重を委ねつつある。
ぶっちゃけちょっと重いけど、そんな事を言おうものなら
僕の長い友達が最低二桁単位で殉職する事請け合いなので奥歯で噛み殺して胸中へと飲み下しておこう。

> 「お待たせしました。あんなので少しでも気が紛れてくれればいいんですけどねえ……」

十分です。本当にありがとうございました、名も知らぬお姉さん。
あなたのお陰で僕とまーちゃんは救われました。
後は平成の名探偵と名高いこの僕が列車の隅から隅までを隈なく網羅して見事脱出へと誘うだけです。

まあ言うまでもなく嘘だけど。
そもそも仮に僕が名探偵だったとしても、瓦礫や歪曲して開かずのドアだらけであろう車内では役立たず丸出しなんだろうなあ。

「……まーちゃん? ……寝ちゃったね。よし、そこのお姉さん。これ、僕らの部屋の鍵です。
 探索で差し当たったら使って下さい。特に盗む物はありませんけど、物色もご随意に。まあ、鍵と錠のどちらか歪んでたらアウトなんですけどね」


【鍵を手渡しました。カードキーかアナログな鍵かは御自由にどうぞ。そちらに合わせますので
 あとまーちゃんは暗闇に長居すると発狂しちゃうんです。
 蝋燭が燃え尽きたりしたら、大変な事になるかもしれません。嘘だったら良かったのに】

【バーテンダーに関しては……色男さんの投下を待ってから投下するとしようか
 あまり頻繁にレスをした所で、無闇に混乱させるばかりだろうからな
 ただでさえ酔っぱらいの相手で大変だろう。のんびりやってくれ】


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