10/05/22 14:51:35 0
>>33 >>60
糸井緋芽子は急ピッチで食事を済ませた。
本来ならば食べたことも無いフランス料理のフルコースにいちいち感嘆の声を上げながら
じっくりたっぷりゆっくり食べるところだが車両から出て行く黒服の男が気になって仕方なかったからだ。
もちろん食べ残しは持参のタッパーに入れて持ち帰る。
通路沿いの席に写メを撮ってくれた逆メリハリ女子を見かけた。
追加注文をとりながら食事にガッついている。
「さっきはありがとね!それにしてもアンタよく食べるわねぇ~!彼氏いないでしょ?」
彼氏持ちがいくら懸賞に当たったとはいえこんな退屈な一人旅に来るわけが無い。
すれ違いぎわに女子にお礼(のつもり)を述べるとそのまま食堂車を出た。
探している黒服の男は最後尾の展望車にいた。緋芽子は黒服の男に話しかけた。
「さっきは災難だったわね!食事中変なのに絡まれて。
列車の旅なんて食事くらいしか楽しみないのにね!
あれが最近増えてるっていう困った若者なのかねえ?
彼は悪気は無いんでしょうよ。
自己顕示欲だけ一丁前で人との話し方がわかんないのよね、きっと。
ああいうのの話に付き合うのもアタシたち大人の仕事かもしれないね。
ところでアンタひょっとしてお医者さんかなんか?
いや、薬の匂いがしたからね。医者だとしたら開業医でしょ?
その格好…!開業医っていわば自由業だから変わった人が多いからね…アラ変なこと言って悪いわね
アタシも悪気はないのよ!」
独り言の多い若者のことをとやかく言いながら自分自身も暴言を吐いている糸井緋芽子なのであった。