10/05/25 21:28:06 0
>>101
>失血によって意識は朦朧とし、視界も暗んでいた彼は、
>しかし誰かの声に反応して辛うじて手を震わせる。
「……あれは。大丈夫ですかっ!?」
顔を強張らせ、右京は足元が覚束ない車内を駆ける。
>誰かが自分の傍へと駆け寄ったのを感じ取ると、彼は最早光を認める事は能わない目を、それでも誰かの元へと向ける。
>力強く、意識を、命を手放すまいとするように誰かのズボンの裾、
>或いは袖―最早彼にはそれすら分からない―を掴むと、彼はたった一度だけ許された声を振り絞る。
「しっかりしなさい!」
しかし返事は無い。ただ、男は何かを伝える為だろうか。
消えそうな声で語り始めた。
>「……無線機と、非常用のマスターキーを探せ……運転席にあったものは……無線も鍵も……両方潰れてしまっているだろう……。
>どちらも……期限に間に合わせる為煩雑な積載作業だったが……それでも何処かにある……筈だ……。
「……分かりましたよ。マスターキーですね。携帯が通じない以上、
無線機も必要でしょう……」
> 無線は救助要請に……マスターキーは……反対側の運転席が無事なら……それで電車を動かせる……。
>トンネルが塞がっていても……上手くやれば……瓦礫をどかす位は……出来るだろう……。
>ここはもう……駅に近い筈だ……。救助を呼ぶか瓦礫を何とかすれば……君達は助かるぞ……!」
「……君。しっかりしなさぁい!!……くっ。」
右京は顔を強張らせ、溜息を吐く。目の前に救える筈の人がいながら
何も出来ない自分に苛立ちを覚えながらも、彼はすぐに冷徹な仮面をその顔に戻す。
「……貴方の言葉、無駄にはしませんよ。必ず、売られた喧嘩は勝ちます。
そして、必ず……脱出してみせます。」
右京は静かに、そして力強く言うと男の顔にハンカチをかけ歩き出した。
【マスターキー、無線機を探す為に食堂車方面へ―>】