09/12/07 19:48:22 0
>「その…双見家の方々にもお話を聞きたいんだけど、今伺って問題無いかな?」
「双見の人たちは二つの峰の仲裁役ですから狸と狐のどっちとも仲は悪くないはずですけど、
当主を無くして混乱してるでしょうから、力になってくれるかなあ…。
でも何か手掛かりが掴めるかもしれないし、とりあえず行ってみましょう。」
双神山は両峰の頂きが約1500m、中腹の狸大岩が750m、双見家は400m程度の位置にある。
岩屋を出て、やってきた山道を逆向きに東峰を下ると、前方には目にも鮮やかな紅葉。
下方に眼を移せば、木々の間から伝統的な造りの日本家屋が建っているのが見える。
紅葉の中に佇む広い屋敷の周りには茶色や黄色の朽ち葉が絨毯の様に重なり、どこか寂れた印象だ。
「あのー…東の峰の化け狸で惣介と申しますけど、どなたかいらっしゃいますか…?」
時代劇に出てくる奉行所の門や寺の山門を思わせる立派な門の前に立って、呼び鈴を押す惣介。
ギィと音を軋ませて重々しく門が開くと、出てきたのは藍染めの着物に身を包む黒髪の少女。
『始めまして…本来ならこのシナリオのゲストキャラだったはずの双見響子と申します…。』
しかし、出てくるなり小声で何やら意味不明な事を呟く。
『いえ…冗談です…。』
真顔だが冗談だったようだ。
「あのー…最近この辺りの山で起きてる怪異について聞きたいんですけれど…。」
『そうですか…では、立ち話も何ですのでどうぞ中へお入りください…。
家は昔から狐狗狸(こっくり)関係のトラブルを扱ってきましたから…その手の資料には事欠きません。』
双見家の息女は、道すがら家の歴史について話してくれた。
昔むかーし、双見家の開祖様は仲の悪い狐どんと狸どんの争いを仲裁して双見の家を起こしたーそうなー。
開祖は霊山管理の窓口になると、双峰の主の力を借りて動物霊全般のトラブルを解決しておったーそうじゃー。
双見の家はゴーストスイーパーという言葉の無かった時代から続く、退魔や除霊を行ってきた家系であったとさ。
――ナレーションが日本昔話風なのは気にしてはいけない。
『今、義母が参りますので…少々お待ち下さい…。』
GSたちを何畳もある広い座敷へと通すと案内の少女は下がり、
代わって歳の頃は30半ばぐらいの喪服を纏った女性が現れた。
髪を結い上げた和風の美人で、やや吊りあがった目と口の端が、どこか猫を思わせる。
女は"現当主"の双見玉緒と名乗り、突然の訪問者たちに愛想良く微笑んだ。
とりあえず玉緒に赤目山と双神山の異変について、かくかくしかじかと事情を語る惣介。
『山でそのような事が…本来なら私たちが解決しなければならないというのにお恥ずかしい限りです。
ですが、御当主様が亡くなられて子供たちの中にも家を継ぐだけの霊力に秀でた者はおらず…。
このような苦難の時に牧街様のような逞しい殿方が我が家を訪れて下さったのは、天の思し召しかもしれません…。』
玉緒は、そっと牧街の手に己の手を重ねると黒い瞳を潤ませて、じっと牧街の瞳を見つめる。
『書庫には、何百年分もの記録を収めておりますので手掛かりとなる事もあるかとは存じますが、
何分にも膨大な量ですので、探すには半日は掛かると思います。
牧街様さえ宜しければ、今日はこちらに泊ってお調べになられては如何でしょうか?』