09/11/23 23:09:31 0
りゅ
101:カフェ ◆YNbEhcUF/I
09/11/23 23:16:31 0
冥土カフェの二階に事務所を持つ事が出来たカフェ。
これで仕事も増えて商売繁盛、と思いきや……
「おかしい……なぜ依頼が来ないのじゃ?」
依頼が来なくて暇なので分析してみよう。
そもそもGSの商売相手は悪霊や妖怪の恐怖に震える一般人。
大してノリもよくないまともな常識人だ。
悪霊だってやたらハイテンションな人の前に出るのは気が引けるだろう。多分。
まともな常識人はわざわざ怪しげな店とタイアップしてる事務所に行ったりしないのだ。
もっと言うと秋葉原流のGSのところに行ったりしないのだ。
と、結論らしきものが出た所で。
>「もしもし、誰かいますかー?」
一番乗りの客がキタ――!
というわけで用意しておいたクラッカーを鳴らしつつ。
「喜べ、少年。そなたが我がGS事務所の最初の客じゃ!
袴とはまた乙な服を……」
カフェは少年が狸だという事に気づいたようだった。
「人里まで降りてくるとはどうしたのだ?
さては狐との抗争か? 21世紀狸合戦ぽんぽこか!?」
普通なら報酬が葉っぱで払われるんじゃないかなど心配するところだが
何しろ今は初めての客が来たため舞い上がっている!
相手が狸だったことにむしろ喜んでいるようだ!
102:惣介 ◆Sl.qrwsKik
09/11/24 20:53:37 0
『りゅ。』
「わあー。」
突然、階段の下の方からお魚咥えたドラ猫ならぬ、猫耳の少年が飛びかかり、惣介の背中にしがみついてきた。
「もう…だれなの?離れてよ…。おんぶお化けなのかなあ…そうだったらやだなあ。」
手を伸ばして、背中の猫耳少年を振り払おうにもしっかりしがみ付いて背中から離れない。
これは、本題の前に背中のおんぶお化けを退治してもらわないといけないかもしれない。
事務所に足に踏み入れた惣介を出迎えたのは、パンと音を立てるクラッカー。
色とりどりの紙吹雪が舞い、何本もの紙テープがパサリと惣介の頭を覆う。
>カフェ「喜べ、少年。そなたが我がGS事務所の最初の客じゃ!
袴とはまた乙な服を……」
とりあえず頭のテープを払いのけて、キョロキョロと頭を動かす。
部屋には、目の前の西洋のドレスっぽい服を着てる女の人しかいない。
妖怪退治をすると聞いて、修験者や巫女をイメージしていた惣介のイメージとは何となく違う。
「あのー…ここで悪い妖怪を退治してくれるって下で聞いたんですけどー…?」
もしかしてキャバクラという店に入ってしまったのかもしれないと思い、少し自信なさげにカフェに尋ねる。
>カフェ「人里まで降りてくるとはどうしたのだ?
さては狐との抗争か? 21世紀狸合戦ぽんぽこか!?」
「わぁ…もう正体も目的もばれてる。」
いままで不審気味だった惣介の目も一転して尊敬…とは言わないまでも驚嘆の眼差しぐらいのものには変わった。
変な人しかいなくて、ちょっとだけ帰ろうかなと思っていた惣介も思い直して自己紹介を始める。
「初めまして。僕は惣介。今は人間の格好に変化してるんだけど、仰る通りに双神山に住んでる狸です。
あ…双神山っていうのは僕の住んでる二つの峰を持つ霊山で、それぞれの峰に主がいる山なんです。
東の峰には化け狸の主の大狸様が棲んでて、僕たちみたいな大勢の小狸に化け方とか色々教えてくれます。
そして、反対側の西の峰は妖孤っていうずる賢くて迷惑な狐とその手下たちの縄張りです。
それで…そのー…退治してほしいのは、その妖孤なんですけどー…。」
話も核心に入り、惣介もギュっと握りこぶしを作る。
「西の峰の狐たちも半年くらい前まではおとなしかったんです。
だけど、双見家っていう昔から二つの山の仲裁をしてた家の偉い人がぽっくり逝ってからは、
わざわざ東の峰までやって来て、通り道にゴミを撒いたり、竹林を荒らしたりして嫌がらせをしてくるんです。
大狸様も妖孤から贈られてきた牡蠣を食べて倒れちゃうし…。
もう、あいつらにはずっと西の峰でおとなしくしてて欲しいよ…。
おばちゃん…どうかあいつらを懲らしめて!」
猫耳の少年…秋葉原道場の師範は、まだ惣介の背中。
頭を下げた拍子に惣介はバランスを崩してステンと転び、鼻を床に打ちつけた。
すかさず師範は惣介の鼻に『Sl.qrwsKik』と書かれた絆創膏をペタンと貼る。
『貼っておくにゃ。それは、しばらく剥がしちゃダメにゃ。』
「あいたた…変なもの貼らないでよ。何これ取れないよー…。」
103:カフェ ◆YNbEhcUF/I
09/11/25 23:11:36 0
なぜか少年の背中には猫耳ロリショタ少年がくっついている。
「ふむふむ、狐どもの横暴に困っておると……よーし、妾に任せ」
>「(前略)おばちゃん…どうかあいつらを懲らしめて!」
すてーん! マンガ的にずっこけてスライディングした。
「妾をおばちゃんと呼んだのはそなたが初めてじゃ……!」
『まだまだ修行が足りんということにゃ。
ぼくちんは修行を積んだから滅多な事ではバレないにゃ』
「ちょい待て! こちとら師匠と違って実年齢にしてもまだそんなにいってないぞ!」
姉弟漫才はそれぐらいにしておいて。
『とにかく……このままにしておくのは可哀想にゃ。助けてあげにゃさい!』
師範は狸くんに情が移ってしまったらしい。
こうなったらもうおばちゃんと呼ばれようが依頼を受けるという選択肢しか存在しない。
「ではさっそく西の峰とやらに行ってみようではないか!」
師匠がアイテム携帯電話を使用しタクシーを召喚した。
『ではいくにゃ!』
「ところで師匠も一緒に行くのか?」
『もちろんにゃ。でも疲れるから……
じゃなくてカフェの精進のために余程危なくなるまで手は出さないにゃ』
要するにこの師範、暇人のようである。
104:惣介 ◆Sl.qrwsKik
09/11/26 21:54:38 0
>カフェ「ちょい待て! こちとら師匠と違って実年齢にしてもまだそんなにいってないぞ!」
「実年齢……へぇ、人間も変化の術を使えるんだ。」
カフェと師範のやりとりから、惣介も彼らの年齢がかなり上だという事を察する。
惣介の背は小柄なカフェよりもさらに小さい。
カフェをおばちゃんと呼んだのは、単に自分より(ほんの少しだが)背が高かったからである。
自分より大きい=大人と適当に判断をしたに過ぎない。
田舎の山に棲んでいて人間を見慣れない惣介には、まだ人間の年齢やら何やらの判断は難しいのだ。
要は、人間にとって狸の個体識別が難しいのと同じ理屈である。
――程なくして、一台のタクシーが冥土カフェの前に停車した。
「けふんっ!けほっ!」
円筒型のマフラーから微かに燻る青い煙に顔を近づけると排ガスを吸い込んでむせる。
狸は基本的に好奇心が強く、人間が作ったり設置したものには強い興味を示すのだ。
ドアが開くと、当然真っ先にタクシーに乗り込む。
車内では、総白髪で60を超えているであろうタクシーの運転手が陽気に行き先を聞いてきた。
『どこまで行くんかね?』
「えーと、双神山までお願いします。」
『ああ…あそこね。ハイハイ、カッ飛ばして行くよ。』
「そういえば、ここに来る時は全然外の景色を見れなかったなあ。」
惣介は子どもが電車でするようにシートに膝立ちになる。
来る時は、ゴーストスイーパーを探せるかが気がかりで、ろくに景色を見ることが出来なかった。
改めて窓から都会の風景を眺め、外の景色に夢中になる。
駅の近くに差しかかると車内からは忙しく出入りする作業員の様子が見て取れた。
「何してるんだろう?」
『今、秋葉原駅では巨大駅ナカ商業施設“グランドアキバ”の工事中にゃ。』
やがて、タクシーは雑然とした市街を出て高速道路に入った。
『ハイハイ、ちょっと本気出すね。もちろん安全運転だから心配いらないよ。』
運転手がアクセルをめいいっぱい踏み、エンジンが猛獣の様な唸り声を上げる。
なぜかタクシーの速度計を隠すようにタオルを置く運転手。
疾風の四足獣と化したタクシーが道路を走行する車たちを縫うように…いや、切り刻むように追い越す。
――S県・月見ヶ原市。
高速道路の単調な景色とその他諸々の要因は、時の流れを曖昧にしていた。
ここに来るまでに費やした時間は、ほんの数時間のようにも、或いは十数時間経ったようにも感じられる。
一体どこにあるというんだろうか。 月見ヶ原市は。
辺りは山逢いの田園地帯という感じで民家もまばら。
そこかしこに生えるススキがいかにも郊外の田舎という印象を与える。
「何だか、あっと言う間に着いたなぁ。あ…あそこのM字型の山が双神山です。」
105:名無しになりきれ
09/11/26 22:04:22 O
バサバサバサバサッ
カア~カア~
106:牧街 ◆GwyfLokZWa7/
09/11/28 00:45:10 0
恥ずかしながら、帰ってまいりました!ご迷惑をおかけして申し訳ございません!
PC、再びできるようになりました
また俺、書いてよろしいでしょうか?
107:惣介 ◆Sl.qrwsKik
09/11/28 01:00:08 0
【お帰りなさい、牧街さん。もちろん歓迎ですよ。
山の主の仲裁役をしている双見家か、西の峰の妖狐の依頼で来た事にすれば、
すむーずに月見ヶ原市まで来られると思います。
設定も導入ぐらいで、殆ど決めてないので好き勝手に風呂敷を広げても大丈夫です】
108:カフェ ◆YNbEhcUF/I
09/11/28 01:10:18 0
>>106
【うをおおおおお!! よくぞ帰った!
いつの間にやら夜がふけてしまったので取り急ぎこれだけすまぬ!
本編は明日書くぞ】
109:名無しになりきれ
09/11/28 12:34:49 0
ニャコーン
ようかいきつねこ参上
110:カフェ ◆YNbEhcUF/I
09/11/28 13:02:53 0
>104
>『ハイハイ、ちょっと本気出すね。もちろん安全運転だから心配いらないよ。』
どうやら猫バスならぬ猫タクシーに乗ってしまったようだ!
「うむ。確かにこれなら妾達だけは安全……」
と、呑気な事を言っている場合ではなかった。
(ひゅんひゅんひゅん!)
「おい、窓の外がSFのワープシーンのようになっておるぞ!」
「気のせいにゃ」
そう言われてみれば窓の外には田園地帯は広がっていた。
「気のせいか。そりゃそうじゃ。
トンネルの向こうは不思議の町でした、なんてあるわけないな」
「心配しなくても秋葉原だって十分不思議の町にゃ」
>「何だか、あっと言う間に着いたなぁ。あ…あそこのM字型の山が双神山です。」
「ここから先は車が入れないから歩いてね~」
と、猫タクシーの運転手。
>105
徒歩で双神山に向かう御一行。
カラスの鳴き声が聞こえ、いかにも何か出そうな雰囲気を演出している。
>106
「ニャコーン 、ようかいきつねこ参上!」
あ! 野生 の 妖怪 が 飛び出してきた!
111:カフェ ◆YNbEhcUF/I
09/11/28 13:06:33 0
師匠「こりゃ、そこのレスアンカーは106じゃなくて>109にゃ!」
カフェ「な、なんてこった!」
師匠「だがもちろん牧街殿の所に野生の妖怪が出てもOK!」
112:名無しになりきれ
09/11/28 22:42:09 0
【>>106
恥ずかしがるな!胸を張れ!良くぞ帰ってきた!】
113:牧街 ◆GwyfLokZWa7/
09/11/28 23:07:26 0
>>107
ありがとうございます
んでは、お言葉に甘えてちょっと風呂敷広げた方法で登場したいと思います
>>108
ありがとうございます、殿堂編の間に戻って来れず申し訳ありません
んでは、俺も参戦させていただきます(言い忘れましたが、PCに触れられるのは休日と祝祭日のみなのであしからず)
S県、双神山を山二つ越えた先の山、赤目山
その赤目山中腹にあるほら穴を、牧街を含む数名の腕利きの恐山流除霊道場のGSと、恐山流の師範が破邪札を初めとした武器を構えて取り囲んでいる
恐山流除霊道場の面々は、あのアニメ殿堂事件から牧街が抜けて以後ずっと、この赤目山で発生したある怪事件の捜査にあたっていた
その事件とは、校外授業に来た小学生達が血塗れの老婆の集団に襲撃されたというもので
老婆達は明らかにこの世の物ではない動きで動き回り、必死で逃げる生徒達を次々と斬りつけていき、ゲタゲタと不気味に笑ったという
幸いにも死者は出なかったものの、大きな怪我を負った生徒が多々出たため
事態を重く見た地元自治体は恐山流除霊道場に依頼し
その依頼から老婆達の正体が相当危険な物であり、一刻も早い討伐が必要だと感じた恐山師範は、直ちに実動可能な戦力を各地から呼び出し、遂に、数日にわたる調査と、数度の老婆達との交戦を経て、遂にその根城を暴き出したのである
「攻撃開始」
師範の声に、洞穴の横にはりついていた防護服姿のGS二人が、中に何かを投げ込んだ
程なくして、洞穴の中からすさまじい量の煙が立ち上ってくる
この煙には、霊体にとって有害な物質が多数含まれており、これで中の妖怪をあぶりだそうという分だ
が、妖怪達は暫くたっても一向に穴の奥から出てくる気配は無い
それでも、GS達は辛抱強く穴を包囲したまま、煙の立ち込める洞窟を見つめつづける
しばらく、沈黙の時が流れ
「罠だ!!」
「ぇえ!?んなとーとつ…ぬぅわ!!」
師範が叫びを上げ、牧街が地面に伏せた瞬間、数本の包丁がGS達の周囲の木々の間から放たれてきた
「ぎゃ!」
「げ!?」
反応できなかったGSが何人か、斬りつけられたのか刺さったのか、とにかく悲鳴が上がり、それと同時に、木々の間からGS達の倍の数の血塗れの不気味な老婆が現れ、GS達に襲い掛かってくる
「囲まれているぞ!」
「糞!何で気配がしなかったんだ!」
『ゲーーーゲゲゲーー』
半ばパニックになりつつ、破邪札や霊波刀といった武器で応戦するGS達だったが、素早く動き回る老婆らの攻撃に、完全に劣勢に立たされてしまった
「落ち着け!」
霊波の篭った杖で襲い掛かってきた老婆を一刀両断、真っ二つにした師匠が、混乱する弟子達に向かって叫んだ
「んで各自、頑張れ!」
「ぶっ!?」
「ちょっ!」
切羽詰まった状況で間の抜けた事を言う師範に、まじめに何か指示があるんじゃないかと聞いていた弟子達から突っ込みが入ろうとするが
しかし老婆達の猛攻がギャグに入る事を許さない
「~~~~~~~~~~~」
牧街に至っては老婆に組み敷かれ、迫り来る包丁を押さえつけるのに精一杯で、他に構う余裕が無いという有様だ
「ぇえい己等ぁ!もっと頑張らんかぁ!!」
だがそんな圧倒的不利な状況にも関わらず、恐山師範は杖を振るい、元気に叫び、一人大立ち回りを演じている
『ゲ!』
『ケケケ!!』
そんな恐山師範に、老婆達は攻撃を集中し、4~5体の老婆が師範を取り囲んで素早い動きと包丁で縦横無尽に師匠を攻めてきた
如何に一流GSといえど、この猛攻には苦戦を強いられる
さしもの師匠も老婆の攻撃に喋る余裕が無くなったかと思われた、その時
114:牧街 ◆GwyfLokZWa7/
09/11/28 23:40:09 0
「じょれぇえはきぃあ”ぃでぅああああああああああぁ!!」
叫び声と共に、師範のコークスクリューが老婆の一匹を吹き飛ばした
しかし、大振りのパンチだったため隙も多く、そこをすかさず複数の老婆の包丁が斬りつける
噴出す鮮血!しかし、師範は怯まない
「いいか!うんこタレ共!ピンチの時程闘志を燃やせ!除霊は悪霊共に心で負けたらもうそこで幸運の女神に後任すしか無くなんだ!わかったら気合入れろ!カス!!」
決して浅くないダメージを負っているにも関わらず、放たれた師範の叫びに、苦戦していたGS達の目に、闘志が甦っていく
「俺はうんこたれじゃねぇああああああああああああ」
「んなとこで死ねるかぁ!俺には少女漫画家になる夢があんじゃああああああああ」
「ダンゴ虫が家で俺の帰り待ってんだよおおおおおお」
程なくして
師匠の魂の叫びでパワーアップしたGS等により、老婆の群れは何とか退治された
しかし、老婆数匹に逃亡を許してしまい、恐山側の被害も、決して少なくなく
戦闘に参加した恐山流GS7名の内、2人が重態で病院に送られ、3人が骨折など除霊に支障が出るレベルの怪我を負い
自らも手傷を負ったため追撃は不可能と判断した師範は山を一時的に封鎖し
新たな討伐隊を編成すると共に、赤目山の裏にある、歩通ノ山とその向こうの山である、双神山に、それぞれ怪我が軽い残ったGS2人を老婆達の逃走を予想し、警戒要員として派遣する事にした
と言う分で…
>>109
>「ニャコーン 、ようかいきつねこ参上!」
>あ! 野生 の 妖怪 が 飛び出してきた!
「どぅおわああああああああああああああああああああ」
牧街は悲鳴を上げて逃げ出した
双神山にはこの男が派遣されてきた分だが、謎の老婆軍団と戦うにしろ、狐達と戦うにしろ、このヘタレが役に立つかは、全くの未知数……いや…火を見るよりも……
とにかく
突然現れたきつねこにびびり、思わず全力ダッシュで逃走した牧街は、双神山に向かってくるタクシーを発見する
「OHナイスタイミング!へーールプ!へーールプ!」
そして、どう見ても悪霊を倒す人間ではなく、ホラー映画の冒頭で主人公の車に助けを求めるキャラの様に、タクシーに助けを求めていく
>>112
ありがとうございます
そう言って頂けると、もう何よりで何よりで
115:惣介 ◆Sl.qrwsKik
09/11/29 01:32:31 0
>114
ススキを掻き分けて飛び出す影。
>牧街「OHナイスタイミング!へーールプ!へーールプ!」
ドンッ!という音と共にタクシーに軽い衝撃が走った。
「あれ、なんか撥ねたのかな? もしかして…。」
途端に惣介の頭に暗い予感がよぎる。
狸は車のヘッドライトにすくんでしまう習性があり、よく車に撥ねられるのだ。
もしかして撥ねられたのは……。
慌ててタクシーから降りると、目に入るのは呆然とした表情のジャケットを着た人間の男。
「何だ人間かあ……良かった。」
“車は急に止まれない”という言葉がある。
歩行者に車の注意を喚起する標語だ。
乾いた路面を時速40kmで走っている車は、急ブレーキをかけてもその地点から約8m進む。
もし凍った路面なら、車はブレーキを踏んでからも約41mもの距離を進まねば停止できない。
仮に昨日今日に雪が降っていたら、S県の自動車事故による死亡者数が一人増えていたであろう。
要するに妖怪が現れた時でも、歩行者は決して車道に飛び出してはいけないという話だ。
「カフェさんのお知り合いですか?」
タクシーから降り、かくかくしかじかのやりとりをする牧街とカフェを見守る。
どうやら間一髪でブレーキが間に会ったのか、大した怪我でもなさそうだ。
「へー…牧街さんも凄腕のGSなんだ。謎の老婆軍団なんて、とてもおいし…恐ろしいですね。」
116:惣介 ◆Sl.qrwsKik
09/11/29 01:35:53 0
都会の排ガスに馴れた肺に、山から降りて来る清涼で澄み切った冷気が入り込む。
かくして双神山の入口に着いた一向の前に、ひたすら長い石段が現れた。
「では、行きましょう。この階段は全部で2222段あるそうですよ。」
さすがに霊山だけあって森厳な雰囲気。
石段に足をかけると静電気に打たれたような、微かにピリッとした感覚が背筋を走る。
これは霊気で満ちた場所に特有の現象で、霊能者でなくとも感覚の鋭敏な人間なら感じる事であろう。
赤と黄色に色づいた葉の茂る樹陰が晩秋を知らせ、静謐な空気が山の一切を包む。
ふと見上げれば、何処かより湧き出る霧が山の頂きを霞ませる。
――端的に表現するとNHKで深夜に放送されている風景番組の様な光景だ。
やがて道はΨ字路となり、行く手が三つに分かれる。
「階段をまっすぐ登ると双見家です。僕は行った事無いけど巫女の一族が住んでるそうです。
そういえば前に大狸様が、双見家は当主がぽっくり逝って後継ぎを誰にするか迷ってるって言ってたなあ。
僕たちから向かって右の道は東峰に続いてて、反対側が西峰になります。」
西峰の入り口からは、林道の奥に鮮やかな朱の鳥居が建っているのが見える。
「僕たちも何度か西峰の狐たちに仕返しに行こうとしたんですけど、
あいつら“惑わしの九つ鳥居”とかいう仕掛けを作ってて、何度行っても迷ってしまうんです。
いきなり西峰に行くのは危険だから、まず東峰の中腹にある“狸大岩”まで行って作戦を練りましょう。
何だかお腹も空いてきたし、あったかい、バ、バ肉鍋も食…ふぇ…べた、た…い…ふぇ…ふぇくしゅ!」
最後の方は、くしゃみで何を言ったか明瞭としない。
「ここからは東峰です。」
四つ辻を右手に曲がると太いしめ縄が檜に張り渡されるのが見え、そこから先が霊獣の領域である事を示す。
石段も途切れており、でこぼこした獣道はハイキングシューズでないと厳しいかもしれない。
無数の青竹が生える竹林まで歩は進み、辺りは一面くすんだ青みの緑。
「ここは、僕たちがよく腹鼓の練習をしている所で“狸囃子の竹林”なんて呼ばれてます。」
言っているそばからポンポコポンポコ軽快な音が聞こえてくる。
「ここまで来れば、もういいや。ずっと人間の姿だと、ちょっと肩が凝るんだよね。」
ボンッ!と煙を上げて惣介の姿が人間から狸に変わり、軽やかに走り出す。
そのまま竹林の中を分け入ると、開けた場所に鎮座しているのは寝そべった狸の形をしている大岩。
「この岩屋が狸大岩です。こう見えて中は八百八十八匹の狸がくつろげるほど広いんですよ。
とりあえず、戦いの前にあったかい鍋でも食べて元気を出しましょう。
化け狸の作る鍋物はとってもおいしいですから、ぜひ食べて行ってください。」
岩屋の中に入ると、たちまち何十匹もの化け狸が現れて忙しく歓待の準備を始める。
いそいそと座布団を出したり、火鉢を持ってきたり、足湯を用意したり、肩を揉んだりもしてくれる。
やがて二匹の狸によって、湯気が立ち上り、芳醇な香りを放つ、何とも美味しそうな鍋が運ばれてきた。
117:カフェ ◆YNbEhcUF/I
09/11/30 00:13:51 0
>115
>「OHナイスタイミング!へーールプ!へーールプ!」
「牧街殿おおお! 助けに来てくれたのか……感謝するぞ!」
ヘルプの意味を勘違いしているらしかった。
>「カフェさんのお知り合いですか?」
「そうじゃ。父上の恩人でのう。牧街殿が来てくれたからには安心じゃ!」
>「へー…牧街さんも凄腕のGSなんだ。謎の老婆軍団なんて、とてもおいし…恐ろしいですね。」
「おいし……?」
>116
「何だかお腹も空いてきたし、あったかい、バ、バ肉鍋も食…ふぇ…べた、た…い…ふぇ…ふぇくしゅ!」
「馬肉鍋か! 美味しそうじゃのう」
ゴスロリ傘をステッキ代わりにしながら登っていく。
後で馬肉鍋が食べられるかもしれないと思うとやる気がでるものである。
―狸大岩
「おお、極楽極楽」
狸達の歓待を受けてご満悦である。
「うまいうまい」
平然と馬肉鍋を食べている!
118:カフェ ◆YNbEhcUF/I
09/11/30 00:22:10 0
「美味しいにゃ~」
カフェと同じく馬肉鍋を美味しそうに食べていた師範であるが、突然箸を止める。
「……にゅ!? 何か来る!」
その数秒後、老婆がよく聞き取れない奇声を発しながら乱入してきた!
『キサマラナニクットンジャケケケ!!』
「馬肉鍋にゃ~~!!」
どう見ても逃走した老婆です。本当にありがとうございました!
119:カフェ ◆YNbEhcUF/I
09/11/30 00:24:59 0
>117 ×ゴスロリ傘 ○ロリータ傘 連投ゴメンネ
120:名無しになりきれ
09/11/30 01:45:43 O
121:名無しになりきれ
09/11/30 09:01:12 O
122:名無しになりきれ
09/11/30 21:11:00 O
123:名無しになりきれ
09/12/01 11:15:16 O
じゃのぅ
124:名無しになりきれ
09/12/01 17:12:11 O
クリスティーヌ?
125:惣介 ◆Sl.qrwsKik
09/12/01 21:29:44 0
化け狸たちによるGSの歓待。
>カフェ「うまいうまい」
>師範「美味しいにゃ~」
箸が忙しなく動き、たちまち減ってゆく鍋の中身。
それを見てケタケタ気味悪く笑い、顔を見合わせる惣介と化け狸たち。
「僕たちの作った鍋は美味しいですか?それは良かったです。
でもそれは馬肉鍋じゃないんですよ。馬肉なんて高価な代物じゃありません。その鍋の正体は……。」
次第に声の調子には陰が籠り、鬱々とした響きのものへと転じてゆく。
明かりに置かれた行燈の炎が揺れると、岩屋の壁に化け狸たちの影が怪しく伸びた。
「……その鍋の正体はなぁ婆肉鍋さ!!!」
周りで甲斐甲斐しく世話をしていた狸たちが、一斉におどろおどろしい妖怪の姿へと変化した!
鬼、天狗、河童、鎌鼬にのっぺらぼう、一つ目小僧にその他諸々の百鬼夜行。
今や惣介の姿も3m以上ある岩屋の天井に届く大入道。
「こんなところまでホイホイついて来ちまったのが運の尽きよ。
俺たちは人間だって構わず食っちまう妖怪だぜ?
霊力を持った者を食らえば、俺たちの力はグンと増す!
さあさ、お前らは鍋にして食おか、刺身にして食おか。」
牧街とカフェ、師範の四方八方を妖怪の群れがグルリと取り囲む。
山椒魚に似た妖怪が、真っ赤な長い舌を伸ばして牧街の頬をチロチロと舐める。
カフェの手にしたロリータ傘はバサリと開き、柄の手先を足に変じてピョンピョン飛び始める。
大蜘蛛は糸を吐き、人魂は踊り狂い、生首が転がり回ってケラケラ笑う。
>師範「……にゅ!? 何か来る!」
>老婆『キサマラナニクットンジャケケケ!!』
師範の声に外を見れば、岩屋の入口には謎の老婆妖怪が立ちはだかっていた。
老婆妖怪はギョロリと飛び出しそうな目玉で岩屋の狂騒を眺め、
手にした大振りの出刃包丁をベロリと舐めながら岩屋の入口を塞ぐ。
まるで逃走を試みる獲物たちが飛び込んでくるのを待つかのように。
『ここは自力で切り抜ける所にゃ~。』
手を貸さずとも大事には至らないとでも思っているのか、
師範は何事も無いかのように落ち着き払って座っていた。
126:カフェ ◆YNbEhcUF/I
09/12/02 22:44:39 0
>125
「な、なんてことじゃ! とりあえず……逃走ッ!!」
逃げ道を塞ぐように老婆妖怪が現れる。
「ひぃいいいいいいいいいいい!!」
婆肉鍋を食べていた所に老婆妖怪とは偶然にしては出来過ぎてはいないか。
仲間が鍋にされた事に怒っているのだと勝手に思い込み、苦し紛れにトンチキな説得を始める。
「待ってくれ! 鍋を作ったのはきゃっつら! 妾は馬肉鍋だと騙されていたんじゃ!
お主の友達の……そうじゃな、クリスティーヌも鍋にされてしまったぞ!」
苦し紛れの説得だが奇跡的に効果はあった。
老婆妖怪はまだ少し残っている鍋に駆け寄って覗き込む。
「クリスティーヌ! ウウ……ソンナ姿ニナッテ……」
なんとなく展開を見守る一同。
「全員許サンケケケケケケ!!」
老婆妖怪は周囲にいる者に見境なく斬りかかり始めた。
まず最初に、運悪く近くにいた山椒魚の妖怪が綺麗にさばかれてしまった!
「あばばばばばば!! どういうことじゃ? 師匠!」
叫びながらも疑問はしっかり師範に尋ねるカフェ。
「人間同士が戦争するのと一緒。妖怪同士でも仲がいいとは限らないという事にゃ」
そして混乱に乗じての逃走を試みる。
127:足長おぢさん
09/12/02 23:57:23 O
チリンチリン
大型自転車が通りますよ
チリンチリン
128:名無しになりきれ
09/12/03 12:25:36 0
ケイ?ケイじゃないか!?ミーさんは元気かい?
誰かと勘違いしているようです
129:牧街 ◆GwyfLokZWa7/
09/12/04 18:38:01 0
>>116
「いってて…すんません」
もろ車に轢かれていたのに、いててとかすいませんとか言った程度で済ませ、平然と物語に参加していく牧街
その頑丈さに、轢いた運転手は呆然としていたが、ややあって、大丈夫ですかとおそるおそる聞いてきた
ここから少々運転手との事故の事後処理の話があるのだが、本編と全く関係ない上つまらないので省いておく
結果的に大丈夫だったんだからいいじゃないですかとか牧街が人の良さを発揮し、タクシーも大したダメージも無かったため、何事も無く終わった
良い子の皆さんへ
牧街は凄い鍛えているから車に轢かれても大丈夫なのです
皆さんは車を甘く見ては駄目ですよ、交通安全を守りましょう
>「何だ人間かあ……良かった。」
車の中からの声に、牧街は思いっきりびくっとする
(か…怪人!?もしくは人間をムシケラ程度に思っている類の怪人!?ヤベ、変な妖怪から逃げるのに夢中で余計ヤバイのにあたってもうたか!?)
惣介の発言に、敵の幹部とかが登場する時己の残虐さをアピールするために殺されるキャラになってしまったのではないかとビビル牧街
>>117
>「牧街殿おおお! 助けに来てくれたのか……感謝するぞ!」
と、思ったら、タクシーの中から見知った顔が出てきた
「カフェさんでは無いですか、どうかしたのですか?へ?狐と狸の戦いがあって狐倒すのに協力して欲しい?」
(他所当たってください俺忙しい)
即効でそう言って断ろうとしたところで惣介の背中の少年が、何かこっちにちらっと見せた
「………わかりました、女の子や子供だけを危険にさらしてはおけません、力の限り戦わせてもらいませう!」
先ほどまでのヘタレさはどこへやら
一転して勇敢な態度を見せる牧街
その態度に、喜ぶ惣介とカフェの後ろにいたカフェの師匠が頷いて小切手を懐にしまった
何だか生々しいと思うかもしれないが
牧街が見たのは小切手に良く似たレアフィギアの引換券なので、多分問題ない
とにもかくにもこうして牧街も双神山の騒動に巻き込まれる事となった
130:牧街 ◆GwyfLokZWa7/
09/12/04 19:23:08 0
さて、んでもってとりあえず狸等のアジトに入ってきた牧街
景色は美しく、自然は豊かで、彼の顔は……微妙である
(あー…こーゆーとこに師匠がいないのに来る事になるたぁなぁ…)
どうやら過去にこーゆーとこでヤバイ修行を課せられた事があるようだ
惣介が林の説明で「練習」と言う言葉を使っただけでも、ビクッとしている
車に轢かれても平然としている人間ができるまでの日々は、相当過酷な物だったのだろう
で、ユニークなデザインの岩屋の中で、狸らのもてなしを受ける事となったのだが…
(………そういや狸って雑食だったよな…)
カフェ等と席を同じくした牧街は、馬の肉以外にミミズとか入ってるんじゃないかと一瞬戸惑ってしまう
この辺、ヘタレで臆病な生き物は用心深い
(後で変な病気になったらヤダナぁ…うぇ…)
しかし、横で子供二人(実はどっちも牧街よか年上だが)がもくもく食ってる手前、自分も手をつけないわけにもいかない
おそーるおそる肉をつまんでみて
「ん、上手い」
普通に食べ物の味がしたので、そのまま普通に食べてしまった
この辺、馬鹿な生き物は信じたものを疑わない
ややあって、鍋の中身が全滅し、狸らがケタケタ笑い出した
背筋を冷たいものがすーっと登っていく
>「僕たちの作った鍋は美味しいですか?それは良かったです。
>でもそれは馬肉鍋じゃないんですよ。馬肉なんて高価な代物じゃありません。その鍋の正体は……。」
この辺で、既に牧街は口から泡吹いていた
間違いなくはずれを引いたという核心に、牧街の頭の中は真っ白になっていく
>「……その鍋の正体はなぁ婆肉鍋さ!!!」
一瞬、きょとんとなる牧街
(…うん○の鍋?いや、それならババ(糞)鍋っていうわな)
どういやら、婆の肉の鍋だという事が一瞬で理解できてなかったようだ
しかし、次の瞬間惣介らが一斉に妖怪化したため、我に返って仰天する
「ぉひ………」
ただ妖怪が出るだけならともかく、カフェの持っていた傘まで妖怪化したところから、もう何かとにかくとんでもない状態のようだ
しかも、カフェの同僚らしい少年も妖怪に毒されたのか、何か妙な事を落ち着いて言っている
そんなとてつもない状態に牧街は最早声もでず、即効ダッシュで出口へ向かおうとした、その時
>老婆『キサマラナニクットンジャケケケ!!』
131:牧街 ◆GwyfLokZWa7/
09/12/04 20:21:05 0
例の老婆が岩戸の前に現れたのだ!
驚いた牧街はネズミを見たドラえもんの様に高く飛び上がり、全力で岩屋の壁まで後退する
が
老婆の行動に注目していた牧街の表情が、少しずつ、冷静さを帯びてきた
>「クリスティーヌ! ウウ……ソンナ姿ニナッテ……」
>「全員許サンケケケケケケ!!」
叫んで暴れ狂う老婆と、それに応戦する妖怪達
しかし、何か足の長い自転車の男とかが出てきたと思ったり、老婆が途中で妖怪の内の一匹をケイさんなどと言って声かけたりと、何だか支離滅裂な展開だ
牧街はため息を一つすると、懐から無線っぽい物を取り出す
それは一瞬うねった後、ガマへと姿を変えたが、構わずに牧街は話し始めた
「師範!こちら牧街、妖怪の群れに取り囲まれました!もう助かりそうにありません!俺に構わず、すぐに砲爆撃で双神山一帯を吹っ飛ばしてください!」
ぎょっとして行動を止める妖怪達に構わず、牧街は通話を続ける
「ナパームも対地ミサイルも使って結構です!穴の中に隠れていようが林に逃げ込もうが構わない程に吹っ飛ばして焼き払ってください!それと山から出てくる奴がいたら全て妖怪です!構わずに発砲し…」
『ちょ、ちょっと、ストップ!待った!』
妖怪の内の一匹が慌てて牧街の言葉をさえぎり、他の妖怪たちの視線がそいつに集まっていく
『く…食わない、お前だけ、助けてやるから、そんな物騒な事は』
「師範!空爆の必要も…」
『ギャーーー!やめて!もうB29はイヤだーーーーーー』
牧街の脅しに悲鳴を上げたのは、なんとあの老婆だった
老婆は慌ててぼんっと音を立てて老狸に変わり、牧街の足にすがりついてくる
『おねげーーーします!爆撃しないで!焼かないデーーーー!』
老狸の態度に、牧街は軽くため息をついてガマになった無線機を懐にしまった
通話状態は最初からOFFになっている
「………砲爆撃何かできませんよ、幾ら恐山GSだって、軍隊じゃないんだからそんな事できません」
牧街の言葉に、老狸は安心したのか、再び老婆に変わり、ぴょんと飛びのいて包丁を構えた
『ケケケケケケ!よくも騙したなGS~!ワシのこの包丁で貴様の舌を』
「爺ちゃん、もうバレテルよ」
再び勇んで戦おうとする老婆に、切り殺された山椒魚がのたのた近づいて行き、言った
へ?んな馬鹿なと再び暴れようとする老婆妖怪を他の妖怪…いや狸らが押さえつけにかかっていく
「………もう少し人選…いや、狸選に気をつけてください、あんなのに家の道場のGSは遅れを取りません」
自分達が痛手を負わされた妖怪の役に、半分ボケたような老人を選ん事を咎めるために言葉に少しトゲを持たせながら、牧街は3mの巨人に向けて言った
牧街は自分には自信は無かったが、自分の所属する恐山流のGS資格者達の実力には心から自信を持っていた
そのGS達が、あんな半分ボケたギャグ妖怪には絶対負けない
そんな味方への確信が、腕試しだか、追い返しだかという狸達の自分達への化かしを破ったのである
つまり、老婆出してくれたおかげで運よく本来絶対見破れない術を見破ったのだ
132:惣介 ◆Sl.qrwsKik
09/12/05 00:26:43 0
>牧街「………もう少し人選…いや、狸選に気をつけてください、あんなのに家の道場のGSは遅れを取りません」
「あっちゃー…やっぱりばれてたか。だから僕は止めようって言ったんだけどなあ。」
『何言ってるんだよ。惣介もノリノリだったじゃないか。』
『丸爺しゃんに任せなかったら、成功してた~のに~!』
ボン!ボン!ボン!と一斉に妖怪変化を解いて、言い合いになる化け狸たち。
「皆さん済みません…。腕試しなんかをしてしまって。
でも妖孤は危険な妖怪で、その上謎の鬼婆も暴れ回ってるわけですから必要かなあと思って…。
あ…決して途中から化かすのが楽しくなったわけではありませんよ。本当に本当です。」
ぺこりと頭を下げる惣介。
化け狸たちは基本的に悪戯好きな妖怪であり、しばしばこういった真似をするのだ。
たまに度が過ぎて、GSに退治されてしまう狸もいるようではあるが。
「あ…ちなみに鍋の具材も鬼婆妖怪の肉じゃなくて山で取れた雉の鍋です。
いくら僕たち化け狸でも、得体の知れない妖怪の肉なんて鍋にしませんって!
まあ昔話なんかでは婆汁を食べてますけどね………あれはあんまりおいしくないそうですよ。」
「――ところで謎の婆妖怪の正体っていったい何なんでしょうね?
実体を持ってるみたいだし、悪霊というより妖怪っぽいですけど……うーん。誰か知ってる?」
惣介が仲間の化け狸に問うと、先程河童に化けていた太郎丸が進み出る。
『赤目山の老婆かぁ……あそこの山の主が零落しちまって妖怪になったんじゃないかねぇ?
山姥って妖怪がいるが、あいつらも元々は山の神だしなぁ。
もしかしたら山霊が祠か何かを壊されて怒ってたりするんじゃないかい?』
「うーん。じゃあ赤目山を調べないと分からないね。」
すかさず、他の化け狸より一回り大きい次郎丸が違う違うと口角泡を飛ばして別の意見を述べる。
『いやいや妖狐だよ!奴の手下ならやりかねないって!絶対そうだ!
最近この辺りをうろついてる“きつねこ”っていう狐だか猫だか分からないのが特にアヤシイ!
まったく…化かすだけならともかく、鬼婆の集団に化けて人間を襲うなんて太ぇ奴らだ!
こうなったら、さっそく皆で西の峰に行って全面戦争だ!』
「やっぱり狐たちが化けて暴れてるのかな…?」
ひと際小さい化け狸、九郎丸も話に乗り遅れまいと輪に加わる。
『そういえば三日前に隣山の歩通ノ山で、何かの呪い(まじない)をしてた怪しい奴を見かけた~でしゅ~!
何だろうと思って後を付けたけど、すぐに巻かれてしまったでしゅ…。』
「歩通ノ山は霊山でもないし、これといったおかしな話も聞かないけどなあ。うーん。
もし狐の仕業じゃないなら、僕たちだけじゃ手に負えないかも知れない…。
あ…そうだった!こんな時の為に凄腕の専門家の方たちを連れて来たんだった。」
惣介は葉っぱを頭に乗せて、再び少年の姿に変化すると床に手をつく。
「牧街さん、カフェさんにお師匠さん、改めてお願いします。
どうか、この辺りの山で起きている異変を解決してくれないでしょうか?
無事に解決してくれたら、僕たちの宝の金の茶釜を差し上げますので……どうかお願いします!」
133:カフェ ◆YNbEhcUF/I
09/12/05 23:46:41 0
>131
牧街は見事に狸達の化かしを暴いてみせた!
「すごいぞ、牧街どの!」
鍋も雉だったようで一安心である。
「あの程度を見抜けないとはカフェはまだ修行が足りにゃいにゃあ。
まあ最初の妖怪のボケを引きだしたからよしとするにゃ」
「そういう師匠もちょっと焦っておらんかったか!?」
「き、気のせいにゃ!」
>132
>「牧街さん、カフェさんにお師匠さん、改めてお願いします。
どうか、この辺りの山で起きている異変を解決してくれないでしょうか?
無事に解決してくれたら、僕たちの宝の金の茶釜を差し上げますので……どうかお願いします!」
「うむ、任せるがよい!」
散々化かされた直後だというのに二つ返事なのは、人がいいから……
ではなくきっと金の茶釜の威力が絶大だったのだ。
惣介達の会話をもとに推理をする。
推理といっても、もちろんヲタク的思考を駆使した妄想である。
ヲタは黒幕や第三勢力が出てくる展開が大好きなのだ。
「むむむ、黒幕の陰謀を感じるのう……。
狐と狸に仲たがいをさせ共倒れになるのを虎視眈々と狙っている何者かの!
日本の伝統的な化ける動物は狐と狸が二大勢力だが、実はもう一つある。
化け猫だ! 平成狸合戦ぽんぽこでそう言っておった!
きつねこの正体はねこのような妖狐ではなく狐っぽい化け猫かもしれぬ。
歩通ノ山には猫は住んでおらぬか?」
134:牧街 ◆GwyfLokZWa7/
09/12/06 20:40:38 0
>>132
惣介の謝罪の言葉と、カフェのねぎらいの言葉に、牧街の表情は微妙だ
(アレ…偶然見破れただけなんだけどなぁ……)
自分の力を過大評価されて送られる現場に、ろくな所は無い
下手すれば死ぬ、ソレは嫌だ、嫌過ぎる
「あの…やっぱお」
>まあ昔話なんかでは婆汁を食べてますけどね………あれはあんまりおいしくないそうですよ。」
…牧街の背筋に、再び冷たいものがよぎった
牧街の実力では、この場の狸らが本気出して襲ってきたら、まず間違いなく無残な最期を迎える事となるだろう
そう、彼等は悪魔で妖怪なのだ
迂闊に断ると、どんな目に合うかわからない
そこでここはとりあえず、抜けるタイミングを待つことにする
ともかく話題は赤目山に出現した謎の老婆の物へと移り変わる
>もしかしたら山霊が祠か何かを壊されて怒ってたりするんじゃないかい?』
「いえぇ、その節は師範も思いついて、赤目山のそう言ったポイントを調べてみたんですが、特に異常は見られませんでした、えぇ」
赤目山の基本的な調査は、恐山流のGS達が赤目山についてすぐ、既に行われており
その結果、山の霊や山の霊的ポイントなど、山に元々ある霊的な物に特に異常は見られず
また、赤目山に関係する資料からも赤目山と老婆に関係する記録は発見できなかったため
老婆は赤目山が産み出したものではないという結論が既に出ていた
>『いやいや妖狐だよ!奴の手下ならやりかねないって!絶対そうだ!
「うーん…、いやその説もちょっと違う気がします、そんな事すれば狸の他にゴーストスイーパーまで敵にまわす事になりますから、狐にとってマイナスでしかないと思うんですよ、えぇ」
狐が欲しいのは、狸等の話しを聞く限り、この双神山だ
それならばわざわざ赤目山まで行って人間を襲う理由は無いはずである
ますます敵の正体がわからなくなってきた、その時
>『そういえば三日前に隣山の歩通ノ山で、何かの呪い(まじない)をしてた怪しい奴を見かけた~でしゅ~!
「……それは…調べる必要があると思います、ええ」
第三者の登場に、牧街の顔が真剣みを帯びる
ここまでの話を総括すると、あの老婆達はやはり何者かが送り込んだ可能性が高いのだ
その何者かが老婆と関係あるにしろ無いにしろ、絶対に調べてみる必要がある
>「牧街さん、カフェさんにお師匠さん、改めてお願いします。
「あ、えぇ、はい、元々そのつもりで来てまして…」
改まった態度に、元々その事件を解決すべくこっちに来てる牧街は何だか申し訳が無くなり、ぽりぽりと頬をかく
報酬は師範からも出るし、協力費としてカフェの師匠からも小切手を貰う事になっている
この上狸達から金の茶釜を貰ってしまっては、来世でろくな事が無さどうだと思ったのだ
(でも、茶釜は欲しい)
しかし、除霊不能の勿体無いお化けが何匹も取り付いている牧街はそのまま金の茶釜を貰う事を承認せんとして…
「…はい、茶釜は結構です、えぇ、はい」
茶釜を見て、何かを感じたのか、牧街は茶釜の受け取りを断ってしまった
(アレは…無理だ)
金の延べ棒よりずっと大きな茶釜を見ながら、牧街は首を横に振る
何故牧街が茶釜を諦めたかは、この場では伏せておこう。ヒントを言うと、茶釜は純金製だ
135:牧街 ◆GwyfLokZWa7/
09/12/06 21:06:19 0
>>133
しかし、どうやらカフェは茶釜の受け取りを承認したようである
(……カフェさん、意外と…)
その判断に、牧街は少々の間感心したようにカフェを見ていると、カフェはおもむろにとんでもない事を言ってきた
>「むむむ、黒幕の陰謀を感じるのう……。
「心当たりあるんですか!?」
意外、といった表情でカフェを見た牧街は、続く言葉にほうほうと納得する
「なる程…でも、何故双神山を狙う歩通ノ山の化け猫が赤目山で暴れたりするんですか?勝手に狐と狸が戦って消耗したとこ襲えばいいんだし…」
そこで、牧街はあっと声を上げ、懐から無線機を取り出した
「すんません、師範にこっちで起こってる事を報告してきますね」
そう言って、牧街は席を立ち、しばらく外で何事か会話していたが、やがて動揺した様子で戻ってきた
「今、聞いてきたんですけど、こっちに向かった恐山流の老婆討伐チームが、急な別件で来れなくなったみたいなんです。何でも同じ様な老婆が別の山にも現れて、子供がさらわれたとか何とか…。
とにかく、向こうが片付くまで、こっちは我々だけで何とかするしかないみたいです」
慌てている牧街の言葉に、しかし、狸もカフェらも落ち着いている
彼等としては元々自分等で何とかする問題だったので、恐山流の討伐チームなんぞ来ようが来まいが関係無いのだろう
「…あー…」
一人慌てていた牧街は何となく恥ずかしくなり咳払いを一つすると、惣介の方を向いた
「その…双見家の方々にもお話を聞きたいんだけど、今伺って問題無いかな?」
136:惣介 ◆Sl.qrwsKik
09/12/07 19:45:53 0
>「むむむ、黒幕の陰謀を感じるのう……。(中略) 歩通ノ山には猫は住んでおらぬか?」
何やら始まる陰謀論にざわつく化け狸たち。
「猫かぁ……どうだったかなあ。歩通ノ山にはあんまり行かないし…うーん。
これは歩通ノ山も調べる必要がありそうだなぁ…。
まずは、土地勘のある僕たちの誰かが怪しい物がないかを偵察しに行った方が良いかもしれないね。
半日もあれば一通り調べるには十分だろうけど、大勢でぞろぞろ行ったらすぐに気付かれるし、
偵察に行くのは一人にした方が良いのかな?」
『俺に任せてくれれば、雉にでも化けて空から偵察してくるぜぃ。』
意気揚々と太郎丸が胸を叩く。
『いやいや俺に任せてくれ!見つかりそうになったら地蔵にでも化けてやり過ごすさ!』
葉っぱを咥えて、次郎丸も名乗りを上げる。
『九郎丸はマトリョーシカに化けて潜入するでしゅ~。任せる~でしゅ~。』
甲高い声で主張するのは、すでにマトリョーシカ人形に化けた九郎丸。
『亀の甲より歳の功。この丸爺に任せてつかーさい。
何の変哲も無い路上工事員に化けてれば、婆も襲ってこんじゃろ。』
先程の失敗を挽回するべく、ボケかけた丸爺も立候補する。
「どうしよう……ここは選択を誤ると偵察に失敗するかも知れないけど……そうだ!
誰が偵察に行くかは専門家のGSの人たちに決めてもらおうよ。」
こうして化け狸たちは歩通ノ山偵察の人選ならぬ、狸選をGSたちに任せることにしたのであった。
歴戦のGSたちに任せれば、万が一にも狸選を間違う事はあるまい。
137:惣介 ◆Sl.qrwsKik
09/12/07 19:48:22 0
>「その…双見家の方々にもお話を聞きたいんだけど、今伺って問題無いかな?」
「双見の人たちは二つの峰の仲裁役ですから狸と狐のどっちとも仲は悪くないはずですけど、
当主を無くして混乱してるでしょうから、力になってくれるかなあ…。
でも何か手掛かりが掴めるかもしれないし、とりあえず行ってみましょう。」
双神山は両峰の頂きが約1500m、中腹の狸大岩が750m、双見家は400m程度の位置にある。
岩屋を出て、やってきた山道を逆向きに東峰を下ると、前方には目にも鮮やかな紅葉。
下方に眼を移せば、木々の間から伝統的な造りの日本家屋が建っているのが見える。
紅葉の中に佇む広い屋敷の周りには茶色や黄色の朽ち葉が絨毯の様に重なり、どこか寂れた印象だ。
「あのー…東の峰の化け狸で惣介と申しますけど、どなたかいらっしゃいますか…?」
時代劇に出てくる奉行所の門や寺の山門を思わせる立派な門の前に立って、呼び鈴を押す惣介。
ギィと音を軋ませて重々しく門が開くと、出てきたのは藍染めの着物に身を包む黒髪の少女。
『始めまして…本来ならこのシナリオのゲストキャラだったはずの双見響子と申します…。』
しかし、出てくるなり小声で何やら意味不明な事を呟く。
『いえ…冗談です…。』
真顔だが冗談だったようだ。
「あのー…最近この辺りの山で起きてる怪異について聞きたいんですけれど…。」
『そうですか…では、立ち話も何ですのでどうぞ中へお入りください…。
家は昔から狐狗狸(こっくり)関係のトラブルを扱ってきましたから…その手の資料には事欠きません。』
双見家の息女は、道すがら家の歴史について話してくれた。
昔むかーし、双見家の開祖様は仲の悪い狐どんと狸どんの争いを仲裁して双見の家を起こしたーそうなー。
開祖は霊山管理の窓口になると、双峰の主の力を借りて動物霊全般のトラブルを解決しておったーそうじゃー。
双見の家はゴーストスイーパーという言葉の無かった時代から続く、退魔や除霊を行ってきた家系であったとさ。
――ナレーションが日本昔話風なのは気にしてはいけない。
『今、義母が参りますので…少々お待ち下さい…。』
GSたちを何畳もある広い座敷へと通すと案内の少女は下がり、
代わって歳の頃は30半ばぐらいの喪服を纏った女性が現れた。
髪を結い上げた和風の美人で、やや吊りあがった目と口の端が、どこか猫を思わせる。
女は"現当主"の双見玉緒と名乗り、突然の訪問者たちに愛想良く微笑んだ。
とりあえず玉緒に赤目山と双神山の異変について、かくかくしかじかと事情を語る惣介。
『山でそのような事が…本来なら私たちが解決しなければならないというのにお恥ずかしい限りです。
ですが、御当主様が亡くなられて子供たちの中にも家を継ぐだけの霊力に秀でた者はおらず…。
このような苦難の時に牧街様のような逞しい殿方が我が家を訪れて下さったのは、天の思し召しかもしれません…。』
玉緒は、そっと牧街の手に己の手を重ねると黒い瞳を潤ませて、じっと牧街の瞳を見つめる。
『書庫には、何百年分もの記録を収めておりますので手掛かりとなる事もあるかとは存じますが、
何分にも膨大な量ですので、探すには半日は掛かると思います。
牧街様さえ宜しければ、今日はこちらに泊ってお調べになられては如何でしょうか?』
138:カフェ ◆YNbEhcUF/I
09/12/08 23:02:26 0
>135
>「なる程…でも、何故双神山を狙う歩通ノ山の化け猫が赤目山で暴れたりするんですか?勝手に狐と狸が戦って消耗したとこ襲えばいいんだし…」
「ううむ、なんでであろうなあ。
捜査を錯乱させて真相に気付きにくくさせるため……とか」
>136
歩通ノ山偵察に我も我もと名乗りを上げる狸たち。
「道端にマトリョーシカがおっては不自然であろう。
路上工事員もこの辺にあまりいそうにない。今まで無かった場所に地蔵ができても怪しまれる……。
では太郎丸、お主にたのもうぞ!」
無難かつ面白みのない狸選に落ち着いた。
ちなみにカフェは部下を何人も従えた一流GSではないので、人選はおろか狸選などしたことがない。
>137
やってきました双神家。
いかにもな少女に続いていかにもは美人当主が登場し、事情説明をしていると……
(中略)
なんとも妖しげな雰囲気になってきたではないか!
これはいかん! と思い対抗して魅了の術を発動しようとするカフェ。
が、その気配を敏感に察知した秋葉原師範が制する。
「ここはお言葉に甘えて情報をつかむにゃ!」
表向きは泊めてもらって記録を調べさせてもらおうという意味だが
裏の意味はもちろん、あえて誘いに乗って双見家の正体をつかもうという事である。
139:惣介 ◆Sl.qrwsKik
09/12/10 19:29:31 0
>138
>カフェ「では太郎丸、お主にたのもうぞ!」
『あいよ、任せな。 明け方に東峰の入り口辺りで待ってるぜぃ。』
カフェの指示に威勢良く声を返す太郎丸。
煙を上げて雉に化けると、狸岩屋の上を一度大きく旋回してビュンと歩通ノ山へと飛んで行く。
「やっぱりGSの人は頼もしいなあ。」
論理的な即断即決に惣介も感心することしきり。
――所変わって双見家。
最初の挨拶の後は、当主の案内で書庫に通される。
赴く途中の庭には、侵入者の足音を捉えるためなのか玉砂利が敷かれている。
庭の土蔵に造られた書庫の中には、壁一面を埋める本棚とそれに収められた膨大な書物。
ちょっとした公民館の図書室ぐらいの蔵書数はあろうか。
書物の保護のためか中は薄暗くて暖房設備も無く、冷え冷えとして肌寒い。
本の内容は郷土の歴史から双神の家系図や結界の張り方、動物霊の使役法に狸の調理法、小学校の算数まで様々。
特に貴重で無い本も一緒くたに仕舞っているようで、雑然とした感は否めない。
『こちらが書庫になります。私はお食事とお風呂の支度をしてまいりますので、後はごゆっくり…。』
含みを持った声で囁き、しずしずと足音を立てずに母屋へと戻る玉緒。
「済みません…僕はまだ漢字がよく読めないのであんまりお役には立てません…。
そうだ!少し寒いですし、ストーブにでも化けていましょうか?」
――そんなこんなで日暮れまで時は進む。
母屋では、すでに夕餉と風呂の支度が始まっている。
改めて家の造りを見ると、複雑に組み合わされたの梁が呪術的な結界を形作っていると分かる。
一見普通の家屋ではあるが、さすがに霊的拠点に造られるだけあって霊的な攻撃にも堅牢な造りのようだ。
これでは妖怪が襲撃して来ても侵入は容易ではなかろう。
「あ…牧街さん、師範さん、双見の人たちがお風呂を用意してくれたようですよ。
僕、温泉以外のお風呂なんて初めてだなあ。 人間用のお風呂って狸が入るのはまずいのかな…?」
惣介は初めての場所に来ると、どうにもそわそわとして落ち着きが無くなる。
人間の姿のまま脱衣所で服を脱ぎ、勢いよく檜の湯船に飛び込もうとするところを師範が制止する。
『ダメにゃ。 湯船はちゃんと体を洗ってから入るにゃ。
洗い方がよく分からないなら、ぼくちんが洗ってあげるにゃ。』
「はい……え、そんなところも洗うの…? 何だかくすぐったい。」
『もちろんしっかり洗うにゃ。惣介は随分柔らかいにゃ~』
「ひゃあっ…。」
『むむむ……そんな端っこで何してるにゃ? 牧街殿も洗いっこに交ざるにゃ~!』
「うわぁ…牧街さんの体は立派ですね。 僕もGSの修業をすればこうなれるのかなあ…。」
広い浴室の中は、まるで少年誌のお風呂シーンのように湯気が立ち込め、色々なものが見えにくい。
140:惣介 ◆Sl.qrwsKik
09/12/10 19:30:34 0
――食事と入浴が済むと来客のGSたちには離れ一棟を丸々あてがわれる。
「部屋の数は1、2、3……いっぱいありますね。」
何百年も続く田舎の名家だけあって、間取りは3LDKだの4LDKだのどころでは無い。
『皆様それぞれにお部屋を用意いたしました。
衾を隔てただけですので、そちらのお嬢様は少し離れた部屋の方が安心かしら?
いえ、腕の立つGSの方と伺いましたもの。 心配はいりませんね。』
カフェの方を見て、クスクス笑うと母屋のほうへ帰って行く玉緒。
陽が落ちると人里からいささか離れた場所にある双神山は真っ暗。
山の夜道など夜目でも利かなければ、到底まともに歩けるものではない。
「何だか双見の人たちは、あまり怪異について詳しく知らないようでしたね。
ところで書庫では、何か成果はありましたか?
実は、じっとしてたら寝ちゃってて…済みません。」
141:牧街 ◆GwyfLokZWa7/
09/12/11 23:08:13 0
>>137
惣介に連れられやってきた双見家は、牧街の想像を絶するとてつもない豪勢なお屋敷だった
「こ…こんなすさまじい御殿に住んでらっさるんれすか?」
恋愛シュミレーションゲームで出てくる程度のレベルの神社を想像していた牧街は、双見家のあまりの大きさに、うろたえまくってろれつが回っていない
小心者の牧街には、双見家はスケールが大きすぎたようだ
入る前から既にがっちんがっちんである
(や…やっぱここはカフェさんに任せて俺は別の…)
やがてヘタレな考えが湧き出し、逃げ出そうかななどと考え始めるが、時既に遅く、惣介が呼び鈴を押してしまった
>『始めまして…本来ならこのシナリオのゲストキャラだったはずの双見響子と申します…。』
「ひゃ…ひゃじめましで、恐山流除霊道じょー三段、牧街モリオともーします!え、えぇ、メ、メメメメインキャラをやらせていただきます、はい!えぇ!///」
高級な雰囲気と清楚な美人の登場に、尋常じゃ無いほど緊張している牧街は、響子氏の冗談に本人も何言っているかわからない感じで返答する
普段むさくるしい中(恐山流除霊道場)にいる健全な魔法使い候補の男子である牧街には、山奥で和服の美人と会話するなど、それだけで真っ赤になってガチガチに緊張するレベルなのだ
ちなみに、カフェは牧街には子供に映っているため、誘惑でもしてくれば赤くなるやもしれないが、普通に会話してる分には別に何てことは無い
しかし、流石にそこはプロである
話が双見家の創設等に切り替わると、そこそこ真面目な顔へと切り替わった
(山の主に力を借りれるほどの霊能力者だった…って事かぁ~、どーりで家が素晴らしいわけだ)
しかし、御伽話になる程の偉大な先人に、昔の人は偉大だったんだな~っと素直に感心する程度で、別段そこから何かを読み取ったりは出来ない
この辺り、3流である
やがて通された牧街のアパートの部屋が二つほど入りそうな和室で待っていると、何だかキレ物な雰囲気を漂わせる”現当主”の美人が入ってきた
美人、玉緒さんは牧街等に愛想よく微笑むが、微笑み返す牧街の顔は、少し引きつっている
(び…美人だ…住む世界が違いすぎる……)
気高い人間に遭遇する事が希有な彼にとって、玉緒さんはまさしく雲の上の存在に見え
彼は今とんでもなくうろたえていた
惣介の玉緒さんへの説明が、右から左へと飛んでいく
(こげなとこで俺に何しろってんだぁ~…双見家行こう何て言うんじゃねかったよ。もっとこう、小さな神社みたいな奴だと…)
ぐるぐる思考が渦巻き、うろたえるばかりで何も情報収集できていない牧街
とそんな牧街の手に、何か冷たい感触が触れた
>苦難の時に牧街様のような逞しい殿方が我が家を訪れて下さったのは、天の思し召しかもしれません…。』
(!!???)
ソレが玉緒の手だと認識した瞬間、牧街の顔は赤くなり、思考はとにかく大パニックになる
彼は女性に手を触れられ、んでもって頼りにされるなどと言うシュチュエーションに、今だかつて遭遇した事は一度も無かった
しかも相手が高貴で美人なご婦人とくれば、テンパってしまうのも無理は無い
>牧街様さえ宜しければ、今日はこちらに泊ってお調べになられては如何でしょうか?』
「へ!?あ、じゃあ…」
>「ここはお言葉に甘えて情報をつかむにゃ!」
そして、あんまりテンぱっていたため、大事な台詞を後ろのロリ爺にとられてしまった
142:牧街 ◆GwyfLokZWa7/
09/12/12 00:42:37 0
そして、一向は玉緒直々の案内でだだっ広い書庫へと案内された
(こ…この書庫…俺のアパート何部屋分位あんだろう…)
書庫の広さと、そこに貯蔵される莫大な量の書物に、牧街は素直に感心し、同時にそれから必要な情報を調べねばならないという事に、多少気が遠のいてしまう
(…でもなぁ…調べるって言っちまったし…)
ぽりぽりと頬をかきつつ、どうしたもんかと棚を見れば、そこには小学校の算数やら理科やらといったこの場に不釣合いな物が納められている
(…………あぁ、誰かが子供の頃のをここで保管してんだな)
またここで、物を大切にしてるんだなぁと感心してしまう
そして始まった情報収集
しかし、どの書物をめくっても、狐と狸に関する書物はあるが、猫や老婆に関係する物は発見できない
更に、書かれている書物は古い物が主なため、古文など全くやっていない牧街には何書いてあるかもわからない物も少なくなかった
かくして残念ながら、牧街は書物から何ら有用な情報を得ることは出来ず
あっという間に日は暮れてしまうのだった
「え!?ふ…風呂、用意してくれるんですか!?」
ここ数年、旅館等に一切縁が無かった牧街は、他人が用意してくれた風呂と言う物にもまたうろたえる
大して役に立たない事は明白なのに、風呂など借りて、全てが終わった後何か色々言われるのではないかとびくびくしていた牧街だったが
せっかく用意してくれた物に入らないというのは悪い気がしたので、おずおずと風呂へと入って行った
>『もちろんしっかり洗うにゃ。惣介は随分柔らかいにゃ~』
>「ひゃあっ…。」
そんな牧街の苦悩など露知らず、子供達は騒ぎまくっている
(うう…責任を受けない立場の連中はいいなぁ…)
カフェの師匠が牧街よりはるかに年上だなどと全く知らない牧街は、はしゃぐ二人に何だか大人気ない事を考えてしまった
流石小心者
>『むむむ……そんな端っこで何してるにゃ? 牧街殿も洗いっこに交ざるにゃ~!』
「へ?あぁ、はいはいはい」
そんな事を考えていたところ、カフェの師匠からお呼びがかかったたため、牧街は師匠の後ろに来て座り、背中をスポンジで洗ってあげる
>「うわぁ…牧街さんの体は立派ですね。 僕もGSの修業をすればこうなれるのかなあ…。」
カフェの師匠の背中を流していると、惣介が牧街の体を見ながら感心しながら褒めてきて
褒められなれてない牧街は何だか照れてしまう
「えぇ?あー……いや、俺の同期ってもっと凄いのい……」
照れながら謙遜し、視線を全裸の惣介に向けて…
牧街は硬直する
「…………大変、立派な物をお持ちですね」
「何がです?」
「…いや…なんで…」
「それよりもっと洗うにゃ」
「あ、はいはい……」
べらぼうなサイズの立派な物に対する一瞬の硬直の後、再びカフェの師匠の背中を洗いだした牧街は、ふと
ずっと気になっていた事がある事を思い出し、師匠へと打ち明けてみる事にした
「そう言えば師匠さんってカフェさんの師匠さんなんですよね?お二人はどんな風に知り合ったんですか?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
その後、食事の席で牧街が何日かぶりのまともなごはんに感動した後、再び牧街のアパートの一室数部屋分の部屋へ通され、そこで就寝と言う事となった
(しっかし…べらぼうだなぁ…。やっぱいつの時代でも儲けられるGSは儲けるんだなぁ…)
その部屋の広さに、またしても大きく感心する牧街
本日はこんなのばっかりだ
>いえ、腕の立つGSの方と伺いましたもの。 心配はいりませんね。』
そう言ってクスクス笑い去っていく玉緒に、牧街は少しびくっとなると、近くにいた師匠に耳打ちし始める
「ここ、GSが固まっていると襲っている妖怪とかでるんすかね?」
そういう知識に関しては、牧街はほぼ初心者だ
>ところで書庫では、何か成果はありましたか?
惣介の質問に、牧街の表情が渋くなる
「いや…何と言うかその…古文とかやった事無くって…」
あてにされているだけに、恥ずかしいのか、牧街はぽりぽりと頭をかきながらそう言った
143:カフェ ◆YNbEhcUF/I
09/12/13 23:06:58 0
>139 142
>『こちらが書庫になります。私はお食事とお風呂の支度をしてまいりますので、後はごゆっくり…。』
足音を立てずに去っていく当主。カフェは小声で師範に話しかける。
「師匠、ほんの少しも足音をたててないぞ」
「やはり気付いたにゃか。油断大敵にゃ」
>「あ…牧街さん、師範さん、双見の人たちがお風呂を用意してくれたようですよ。
僕、温泉以外のお風呂なんて初めてだなあ。 人間用のお風呂って狸が入るのはまずいのかな…?」
>「え!?ふ…風呂、用意してくれるんですか!?」
「そうか。では皆は先に行って参れ。妾はもう少し調べておくぞ」
一人で文献調査中に重要文献にヒットした……かもしれなかった。
「むむ!? 猫の挿絵が書かれておる」
が、カフェはババア口調をしているといっても特に古文に詳しい訳ではない。
化け物並みに昔から生きているとかいう噂の師範なら解読できたかもしれないが運悪くお風呂中。
「良く分からんのう……まあ良いわ」
他に猫が出てくる文献もないしどうせあまり大したことは書いてないだろうと、まあ良いわで流されてしまった。
―――
一方お風呂タイムの師範
>「そう言えば師匠さんってカフェさんの師匠さんなんですよね?お二人はどんな風に知り合ったんですか?」
「そんなドラマチックな出会いを期待してはいけにゃいぞ。
秋葉原でちょっとした除霊をしていると通りすがりの一般人が加勢してきてくれたにゃ。
ぼくちんはその人に凄まじい素質を感じた。そう、彼女こそがカフェだったにゃ。
聞けば今流行りの家業手伝いという名の“大卒”ニートだというんで早速入門。
後に昔悪霊を壺に封印した偉大な霊能力者の子孫だという事が分かり
そのせいか上達が早くメキメキ力を付け……どうしたにゃ?」
―――
144:カフェ ◆YNbEhcUF/I
09/12/13 23:20:01 0
牧街達が出てきた後、風呂に入って出てくるカフェ。
もちろんいつも通り見た目は中学生である。
様々な仮説がある中で、特殊メイクで化けているという説はここに抹消された。
残る説は天然童顔か、はたまたキャラ演出のための若づくりという無駄な方向に霊力を使っているのか!?
「牧街殿、そんなにジロジロ見てどうしたのじゃ?」
その後豪華な夕食でもてなされる。
「御馳走様であった!」
最初の警戒はもはやどこかへ吹き飛んでしまい、ご満悦だ。
>140 >142
>『いえ、腕の立つGSの方と伺いましたもの。 心配はいりませんね。』
「うむ、牧街殿なら心配ない!」
どっちの意味かは謎である。
>「ここ、GSが固まっていると襲っている妖怪とかでるんすかね?」
「フフフ、出るかもしれんにゃ~!」
牧街をおどして遊び始める師範であった。
>「ところで書庫では、何か成果はありましたか?」
>「いや…何と言うかその…古文とかやった事無くって…」
「特にないのう……」
猫の挿絵の事はもうすっかり忘れていた。
「ぼくちんはもう少しだけ文献調査をしてから寝るにゃ」
師範は一人で書庫に向かう。
一方、カフェは不思議なほどすぐに寝ついてしまった。
再び一方文献調査中の師範。
「ふあ~。眠いにゃ……。まさか夕飯の中に睡眠薬が!?
見た目の豪華さにつられてつい食べてしまったのがいけなかったにゃ!
ん? 猫の文献が一つだけある!
……一つだけという事は情報を隠すために猫関係の文献を撤去して一つ隠し忘れたにょでは!?
まさか……あの美人当主は化け猫で本物の当主はどこかに閉じ込められてりゅのでは!?」
ヲタ思考で妄想が際限なく広がっていく。
「みんなが危ないにゃー!!」
皆が寝ている場所へと駆けだす師範。
ふざけて牧街をおどしていた言葉が現実となってしまうのか!? 真相やいかに!?
145:惣介 ◆Sl.qrwsKik
09/12/14 21:25:33 0
>牧街「いや…何と言うかその…古文とかやった事無くって…」
>カフェ「特にないのう……」
「そうですか…特に手がかりも無いようですし、明日に備えてもう寝ましょう…。
太郎丸も朝一番に連絡するって言ってたし…ええと、僕の部屋はこっちですね。」
ぺこりと一礼する惣介。
「じゃあ皆さんおやすみなさい…。」
眠そうに目をこすりながら、よたよた歩いて衾を開けると隣の部屋の布団に転がるように倒れる。
布団はふかふか――もちろん高級品で京都の老舗が扱う羽毛布団である。
惣介はそのまま柔らかい布団にずりずり潜り込むと、すぐさま寝息を立て始めた。
――深更。
牧街が、ふと目を覚ますと目の前には玉緒の顔。
玉緒が閉めたのか、部屋の衾は閉まっている。
『お疲れのところを起こしてしまい、申し訳ありません…。
ですが、私は牧街様を一目見た時から双見の家を任せられる方ではないかとお見受けしていました。
この双見の家には跡取りが必要なのです…家督を継ぐに足る牧街様のような優秀な霊能力者の殿方が…。』
玉緒の顔が近づき、良い香りが鼻孔をくすぐる。
蘭麝のような甘い吐息は、思考を痺れさせるかのよう。
『どうか私に牧街様の事をもっと教えてください…。』
玉緒は下ろした髪を掻き上げ、あるかなしかの微笑を浮かべて牧街の耳元で囁く。
吸い込まれそうな黒い瞳が、窓から入りこむ月の光に揺れる。
ひんやりした部屋の中は、静かで虫の音すらも聞こえない。
ただ、己の微かな心臓の鼓動が聞こえるのみ。
――はたして、このまま18禁な展開になってしまうのか!?
「う~ん…もう食べられないよ…。」
衾一枚先のやりとりは、一切の音を遮断されているかの如く外側には聞こえてこない。
もっとも、さっきの豪勢な食事の夢を見ている惣介には大きな音を立てても気付くまい。
口の端によだれを垂らしながら、大の字になって寝ているのであった。
146:カフェ ◆YNbEhcUF/I
09/12/16 23:52:45 0
>145
我らの牧街が大変な事に!
残念な事に、この事態を打開できる能力持ちのカフェは
隣の部屋で起こっている事等露知らずのんきに寝ている。
(大丈夫にゃ!?)
カフェの部屋に駆け込む師範。が、この部屋では何も起こっていない。
「ふぅ、気のせいみたいにゃ」
が。
(りゅ?)
師範は隣の部屋の異質な気配に気づいた。
衾にほんの少し開いていた隙間から隣の部屋を窺う。
「!?」
助けに入る……と思いきや。
(面白いからもう少し様子を見るにゃ~)
147:惣介 ◆Sl.qrwsKik
09/12/17 21:06:35 0
「へくしゅっ!」
静かな部屋にくしゃみが響く。
惣介の部屋の隅では、くしゃくしゃに丸まった高級羽毛掛け布団が畳の上で冷たくなっている。
おそらく寝ている内に惣介が蹴り飛ばしてしまったのだろう。
「何だか、したくなってきちゃった……。」
寒さで目を覚ましてしまった惣介が片手で目をこすり、
もう片方の手ですっかり冷えてしまったお腹をさする。
今は人間の子どもに変化しているので当然膀胱も小さい………お腹の中は、かなり切迫した状況である。
それを解消するべく起き上がると、衾を開けて半分寝ぼけ眼のまま部屋の外へと出た。
「厠、厠……厠はどこだろう……庭にしちゃダメなのかなあ…?」
夜風が冷たい。廊下も長い。早く寝床に戻りたい。眠い。
惣介の頭に一瞬で様々な考えがよぎる。
「ここでいいや……。」
惣介は庭の茂みに近づくと、手早く用事を済ませてしまう。
「え~と…どこの部屋だったっけ……ここだったかな?」
さて、すっきりした所で元の部屋に戻ろうとするのだが、少々寝ぼけている上にたくさんの似たような部屋。
どこが誰の部屋だったのやら分ない……どうしよう?
が、まあ別に部屋を間違えても寝てる人を起こさなければ良いかとすぐに思い直して適当に衾の一つを開ける。
すると、そこには暗い部屋の中で衾に顔を当てて隣の部屋を覗き見している師範の姿。
「何をしてるんですか………わあっ。」
こんな夜中にこっそり何を見ているんだろう? むくむくと湧き上がる持ち前の好奇心。
師範が覗いてる衾に近づくべく暗い部屋を横断すると、
うっかり途中で熟睡しているカフェを踏んづけてしまった!
148:カフェ ◆YNbEhcUF/I
09/12/18 00:01:03 0
>147
「ぎゃん!」
踏まれてさすがに飛び起きる。
「惣介どのか、さては妾に添い寝してほしくて来たな……ん?
師匠、何をやっておるのじゃ?」
師範と同じように衾の隙間からのぞく。
「何をぼーっと見ておるのだ! 大変ではないか!」
「面白いからつい……」
もうとっくに会話が向こうの部屋に聞こえてそうである。
ばーんと衾を開ける。
「おにいちゃん! そんな事をしたらチハル許さない!」
十八番の魅了の術だ!
ちなみにチハルというのは牧街の実在の妹の名前だが、カフェはいまだに二次元の妹だと思っているかもしれない。
149:牧街 ◆GwyfLokZWa7/
09/12/18 21:58:59 0
>>144
>「そんなドラマチックな出会いを期待してはいけにゃいぞ。~
「……」
師範の応答に、牧街の動きが止まった
>……どうしたにゃ?」
「あ、すんません」
しかし、背中を洗う感触が消えた事に反応した師範の声に、すぐに正気に戻り、腕を動かしだす
その表情は……
…さして変化無い
しばらくして
>「牧街殿、そんなにジロジロ見てどうしたのじゃ?」
「いや…、すんませんでした」
風呂から出てきたカフェに、牧街は唐突に謝った
頭の上にハテナマークが出ているカフェを、不憫な少女を見る目で見つめた後、もう一度頭を下げ、歩み去る牧街
(今まで…身長とか童顔とかそういう事で散々子ども扱いされて苦しんできてたんだろうな…)
そして心の中でこれまでの彼女への態度を反省し始める
どうも牧街にはカフェの童顔や背の低さが彼女のコンプレックスになっているものだと勝手に考えたらしい
(女性の年齢を聞くまいと配慮してたのが裏目に出たな…。これからは同期のGSとして、変に子供扱いして気を配ったりしないようにしなければ)
そう言って、何か納得する馬鹿一名。
これも又なんかひと悶着ありそうである。
150:牧街 ◆GwyfLokZWa7/
09/12/18 22:39:10 0
>>144
さて夜中
>「フフフ、出るかもしれんにゃ~!」
「そー言う時は出ないっていいませうよぉ~~、えぇ」
ちゃかす師範に、本気でビビり、眠れぬ夜を過ごすかと思いきや
昼間の老婆との交戦の時の疲れからか、思ったよりも簡単に寝付いてしまう
元々、眠るのは大の得意だ。
しかし、その夜、牧街にとって妖怪の襲撃どころでは無い程の大事件が起こる。
深夜
牧街がふと、目が覚めると、そこに女性の、しかも美人の顔があった。
……………
…… 思考停止中 ……
……
…
(!あ、そ、そうだ!玉緒さんだ!玉緒さん!)
状況に頭が追いつくのに暫くかかったが、やがて目の前の人間が誰か思い出し、現状を認識する牧街
途端焼肉が焼けるのではと言う程、顔が真っ赤になる
昼間何だか気のあるそぶり的な何かを見せた人が夜中に寝室に入ってきているのだ
今まで汗臭いところに(以下略 とにかく牧街に勘違いさせるんい十分すぎる威力を持つ行為である
(い…いや、待て!これは罠だ!罠に違いない!)
しかし、そこはヘタレだ、怪獣出現と同時に出動する防衛軍が如くすぐさま警戒心が働き、煩悩の暴走を食い止め、物事をネガティブな方向へと導いていく
だが、事が事だけに、今回はいつもよりヘタレさにキレが無い
何故なら今回は心から罠であって欲しくないからだ!
====牧街脳内世界====
理性司令部『緊急事態!緊急事態!かつて無い強大な欲求が出現しました!全理性は総動員体制で欲求の殲滅に当たってください!繰り返します!全理性は戦闘態勢に以降!』
理性隊長「今回はいつものワカサやメイヨヨクだけでなく、ボンノウまで出現しているという情報だ!各員全力で目標の殲滅に当たれ!」
理性達「了解!!」
……
…
理性A「おい…果たして今回の戦い、俺達は本当に正しいのかな?」
理性B「ふっ、何言ってやがる、やらなきゃ俺達の世界が滅び去るんだ」
理性C「そうだぞ理性A!この世界は牧街だ!こんな事、まず起こりえないんだよ」
理性B「そうさ、大体、まだソウイウ展開になると決まったわけじゃない。何か怒られるだけだって可能性もあるんだ」
理性A「そうか…そう…だよな…」
==============
151:牧街 ◆GwyfLokZWa7/
09/12/18 23:20:20 0
湧き上がる興奮が、総動員された理性で一応の鎮圧をされるのに、0,1秒
とりあえず衝動に駆られていきなり飛びつくのを理性が抑えたところで、玉緒が語りだす
>『お疲れのところを起こしてしまい、申し訳ありません…。
>ですが、私は牧街様を一目見た時から双見の家を任せられる方ではないかとお見受けしていました。
>この双見の家には跡取りが必要なのです…家督を継ぐに足る牧街様のような優秀な霊能力者の殿方が…。』
そう言って、玉緒が牧街へと近づいてくる
====牧街脳内世界====
ドガーーーン!ドガーーン!!
理性A「鼻腔からの攻撃がセイヨクに直撃しました!!各ブロックからジョウドウがあふれ出しています!」
理性B「顔面、更に炎上!!」
理性C「各ブロックにヤリタイショウドウが発生しはじめました!このままでは下半身に影響が!」
理性隊長「オチツケを連射後、こちらの切り札であるワナダとゲンジツヲフリカエルを発動させろ!早く!!」
=========
(お…落ち着け!落ち着くんだ!俺、オチツケ!モチツケ!そうだ!俺の様な三流がこんな風に素晴らしい評価を受けるわけが無いじ)
>『どうか私に牧街様の事をもっと教えてください…。』
======脳内======
ズガーーーン!チュドーン!チュドーーーン!
理性C「ギャアアアアアアアア」
理性B「み……耳から至近距離で攻撃を喰らいました!下半身、完全に反応!硬化を開始しています!理性α、γ、Δ、ε隊交信途絶!」
理性隊長「く…駄目だ!世界が…世界が崩壊していく」
ボンノウ「愚かなるドウテーの僕、理性の諸君。諸君には我々が築く新世界のためにここで滅び去ってもらう。」
理性隊長「よ…よせ!お前のしようとしている事は、ただ世界を滅ぼすだけだ!」
ボンノウ「フン、五月蝿いわぁ!」
理性隊長「ギャアアアアアアアアアアアアアア」
ボンノウ「フハハハハハハ、遂に私が求めていた新世界がやってくるのだ!さあ!セイヨクよ!このボンノウの導きに従い、この薄汚い世界を浄化していくがいい!」
=======================
「 は i「おにいちゃん! そんな事をしたらチハル許さない!」 」
強大なるセイヨク使い、ボンノウの前に理性が全滅し、牧街が後先考えずとりあえずやってしまいそうになった、その時
衾をバーーンと開き、小さな救世主が現れた!
「チ…チハル!?何故ここに」
唐突で突然の妹の登場に、心底驚く牧街
===脳内===
ボンノウ「ぐう!コンランの嵐が起こりおって上手くセイヨクがコントロールできん!…こ…こんなはずでは…」
=======
「へ!?何?どっきり?どゆう事?」
これから新たな世界へ旅立とうとしていた牧街は、チハルの奇襲に完全に大混乱し、ただただ泡を食うばかりとなる
そらそうだ、浮気しようとしたり、思い人を乗り換えようとしていた時ならともかく
既に彼氏ができ、間違っても禁断の愛へと発展するような事がないはずの妹が過ちを犯そうとしてる場に現れたのだ
弁解するだとか、自分を試そうというテストだったとか思う以前に、ただただ分けがわからないだけである
152:惣介 ◆Sl.qrwsKik
09/12/19 21:52:09 0
今しも玉緒が牧街の服を脱がしに掛かろうという、その瞬間。
>カフェ 「おにいちゃん! そんな事をしたらチハル許さない!」
突然勢い良く開いた衾とカフェの声に、牧街の隣に居た玉緒も耳と尻尾が飛び出すぐらいに驚いた。
いや…本当に頭から、ふさふさとした黄色い耳が飛び出してしまっている。
「あ、あれは………妖孤です!」
『くっ…あと少しで陽の気を吸えた物を………とんだ邪魔が入りましたか…。
久々の男に私ともあろうものが、つい目が眩んでしまうとは…。
やはり、大狸を出し抜くために八年も化けっぱなしでいたのが仇になったようですね…。』
玉緒の黒い着物が翻り、瞬く間にその姿を八つに分かれた尾を持つ大狐へと変える。
ちなみに狐は陰性の生き物であり、自分では変身するための気を作り出せない。
そのために陽の気を持つ人間の男性から精気を吸い取らねばならないのだ。
『私が大狸めを出し抜いて双神山両峰の主となり、山の全ての霊力を自在に扱えるようになれば、
禍津醜女(まがつしこめ)共も楽に封じる事が出来ようものを……。』
頭が天井にも届こうかという巨大な体躯の化け狐は、一同を見下ろすと口の端を引き攣らせて苦々しく呟く。
「カフェさん、やはり妖孤が黒幕だったんです!早く退治しましょう!」
すかさずボンと煙を上げて、惣介が明治や幕末の時代に使われていたような古めかしい大砲に変化する。
惣介は近代兵器の知識には疎く、武器も他の古狸が変化した物しか見た事がないので武器の古めかしさも致仕方ない。
「牧街さんが危ない!さあ、早く!火打石で僕の後ろに付いてる火縄に点火してください!」
牧街は怪狐の足元、このままでは食べられてしまうかも知れないと思った惣介がカフェに攻撃を促す。
153:カフェ ◆YNbEhcUF/I
09/12/20 23:13:03 0
>151-152
>「へ!?何?どっきり?どゆう事?」
術が功を奏し牧街は正気に戻ったようだ。
>「あ、あれは………妖孤です!」
>『私が大狸めを出し抜いて双神山両峰の主となり、山の全ての霊力を自在に扱えるようになれば、
禍津醜女(まがつしこめ)共も楽に封じる事が出来ようものを……。』
「禍津醜女……まさか!」
>「カフェさん、やはり妖孤が黒幕だったんです!早く退治しましょう!」
カフェは何かに気づいたようで、妖狐に語りかける。
「お主、老婆妖怪を封じるために狐と狸を統一させようとしておったのであるな……!」
>「牧街さんが危ない!さあ、早く!火打石で僕の後ろに付いてる火縄に点火してください!」
「ほいっ、ライターにゃ」
カフェは師範が渡してきたライターを見つめながら迷う……
……と見せかけて案外サクッと火縄に火をつけた!
「いくら山を守るためとはいえ暴力で屈服させようなんぞ愚の骨頂!
少少お仕置きせねばならぬ! 惣介殿、いくのじゃあ!」
154:惣介 ◆Sl.qrwsKik
09/12/22 21:54:33 0
>カフェ「お主、老婆妖怪を封じるために狐と狸を統一させようとしておったのであるな……!」
ビシッと指摘するカフェに妖狐が鷹揚に頷く。
『その通り………まずは聞きなさい。
歩通ノ山には、黄泉に繋がる通路の一つが有るのです。
そもそもは三百年前、時の大名が霊果を盗まんと黄泉の封じ岩を動かしたのが事の始まり。
黄泉にしか生らぬこの果実、非時香菓(トキジクノカグノコノミ)は、
一つ食せば永遠の若さと溢れる霊力が得られるとか……。
権力を得た者が次に求めるのは若さ。
秦の始皇帝然り、エジプトのファラオ然り、古代ローマの歴代皇帝然り。
しかし、結局大名の手勢たちは黄泉の霊や悪鬼たちに追い返されて、霊果を得るは叶わず。
そして――命からがら地上に逃れた者達が封じ岩を戻す際、岩に一筋の亀裂が入ってしまったのです。
双見の開祖はそれを案じ、霊力によって双神山と赤目山の霊脈を繋げて、
その中途にある歩通ノ山に山全体を封じるような巨大な霊的結界を――。」
>カフェ「――惣介殿、いくのじゃあ!」
「はい!」
時代劇などでは悪事が露見した悪役は、ぺらぺら自分の悪行を喋り、
善玉はそれを聞き終わってから、口上を述べて刀を抜くというのが定番である。
だが……かつて双見の開祖という一流の退魔師と共に一流の妖魔、悪鬼の退治に明け暮れていた妖孤は、
3流GSのやり方――余りその辺りの様式美を重んじないというのを計算に入れていなかった。
『ぎゃあぁぁぁっ!!』
轟音と共に大砲から発射された砲弾が、妖孤の頭に直撃!
一声、大きく悲鳴を上げると妖孤はドサッと畳みの上に伸びてしまった。
妖孤とて霊山の主である以上、まともに戦えばかなり危険な相手。
その実力において遥かに上回る妖孤が敗れたのは、形式を重んじたのが原因であった。
「悪辣な妖孤も懲らしめて、これで全て解決ですね!皆さん有難うございます!
僕、何だかエンディングテーマまで聞こえてきちゃいましたよ。」
『こ~ろせ、殺せ、こ~ろせ、殺せ、み~なご~ろ~し~♪』
風に乗って聞こえてくるのは、地獄の底から響くような低い呻き声。
「さあ、一緒に歌いましょう!コ~ロセ、コロセ、ミ~ナゴ~ロ~シ~♪」
155:カフェ ◆YNbEhcUF/I
09/12/25 00:07:18 0
「待て待て! ちと気が早いぞ。まだ老婆妖怪が解決しておらぬ」
カフェは師範と共に、急いで妖狐を縛りながら言った。
また暴れ出したら大変なので念入りにぐるぐる巻きにする。
「今の話から推測するに歩通ノ山の黄泉への通路が開いてしまって老婆妖怪が出てきたのであるな」
先程妖狐は8年も化けっぱなしだったと言っていたので本物がどこかに閉じ込められているなんてこともないだろう。
おそらく妻として潜入して当主が死ぬのを待っていたのだ。
双見家は有力な跡取りがいないため、これから狐と狸は双見家無しでやっていかなければならない事になる。
カフェは老婆妖怪問題を狐と狸が力を合わせて解決するという一石二鳥の作戦を思いついた。
「惣介殿、皆殺しにしたいのも分かるが老婆妖怪は狐以上に強大な敵とみえる。
封じるには双神山の両峰の霊力を使う必要があるらしいぞ。
そのためには狐の協力が必要じゃ!
狐どもを皆殺しにしたとて老婆妖怪に滅ぼされては本末転倒であろう。
大狸様と共に結界再形成にあたってもらおうではないか!」
156:牧街 ◆GwyfLokZWa7/
09/12/26 01:21:46 0
玉緒に迫られたと思ったら突然チハルが現れ、そうかと思ったら玉緒が妖狐に変身し
呆気にとられる間もなくチハルがどこからか現れた大砲の一撃で事件の概要を語ろうとしていた妖狐を倒してしまい
仕舞いには老婆の物と思われる不気味な声が歩通の山の方から(いや双神山の狐側か?)聞こえてき始め、惣介がそれに合わせて楽しく歌いだし、チハルが見知らぬ子供と妖狐をぐるぐる巻きにしてしまった
「よし!夢だ」
それらの光景を呆然と見ていた牧街は、一つコクンと頷くと、すぐに布団に戻り、目をつぶって眠り出してしまう
あいかわらずの現実逃避スキルの高さを発揮し、牧街が騒がしい中で普通に深い眠りにつこうとした
その時
彼の精神を現実に引き戻す正義の雄叫びが無線の向こうから轟いてきた
『牧街!応答しろ!一大事だ!!』
そのたった一声で、今まさに深い眠りにつこうとしていた牧街は陸に上がった魚の様にびくんと布団から跳ね起きて傍にあった無線を素早く手に取る
「こちら牧街!何があったんすか?師範!」
『単刀直入に言う、歩通の山に突如黄泉とのゲートが出現した!例の婆や雑霊がそこから次々と現れ、双神山及び赤目山…いや、その向こうの月見ヶ原市街地目指して進行中だ!』
「え!?黄泉の入口が完全に開いて老婆の軍団が歩通の山から現れ、双神山と赤目山に向かってる!?」
突然の緊急通信に、牧街の顔が青ざめる
青ざめながらも師範の言葉を何だか説明っぽく反芻しているのに突っ込んでいる場合ではない
もし老婆が雑霊の群れを引き連れて月見ヶ原市街地に侵入すれば、多くの犠牲者が出てしまうだろう
いや、その前に双神山にいる牧街は間違いなく老婆に…
「な!ななな…何で突然そんな大それた事になるんですか!今聞きましたけど歩通の山の穴は封印されてるはずだし、第一例の老婆が出てきてるって言われてる穴だって亀裂程度の大きさだって…」
自らの死に直面した牧街は、めちゃくちゃうろたえながら師範にそれが何かの間違いである事を願いながら尋ねるが
『確かに、今日の夜、発見された時までは亀裂は微々たる物だった…。しかし、今さっき突如「内側から」更なる負荷がかかり、封印が崩壊した。』
その返答は揺るがない
「け…結界の内側から封印に負荷がかかったって…何ですかそれ!そんな事が起こるなら、何で今まで…」
『第一に、亀裂のために完全な状態の封印で無かったので負荷に耐えられなかった事が一つ、第二に……これが双神山だけの問題でない事が一つ』
「へ?何すか、それ…双神山だけの問題じゃないって…」
『今現在、日本各地で貧弱な封印や、不完全な封印、開きかかっていた冥界の入口等が次々に開いていっている、それも「内側からの力によって」だ…。昼にも話しただろう、家の討伐隊が別所に行かねばならなくなったと』
「日本各地で…同じ様な事……えぇ~……ぇぇ…」
『原因についてはまだわかっていないが、とにかく日本全国でそう言った事が起きてるからそこも例外ではないって事だ
以前のGS免許更新の際に出現したセイレーンやお前の遭遇した霊道に詰まった正体不明の悪霊、大ナマズの出現とこの所とんでもない事件が続いている、裏で何か?がりがあるのかも知れんが、今はそんな事どうでもいい!』
今までも十分厳しさを帯びていた師範の声が、そこで更に一団と厳しさを増す
『他所は他所のGSやオカルトGメンが何とかする、我々は眼前の月見が丘市を守らねばならない』
「しかし…何とかしようにもこっちにはまともに戦えるGSがほんのわずかしかいませんよ!普通の山の封印を再度しようとしても、封印作業には時間がかかるだろうからその間に老婆に攻撃されれば…」
『今、県に連絡を取って、歩通ノ山一帯を焼き払う許可を申請している』
「えぇぇ!?焼き払う!?歩通ノ山一帯って…双神山もですか?」
『当然だ!』
157:牧街 ◆GwyfLokZWa7/
09/12/26 02:14:29 0
師範のとったとんでもない手段に、牧街の表情がうろたえから、徐々に真剣な物へと変わっていく
「そ…そんな事、したら、双神山や歩通ノ山、赤目山の自然はめちゃくちゃになってしまうじゃないですか!」
『だが今老婆を葬り、封印を確実な物にしなければその山一帯は異界と化す。やらねば月見ヶ丘市数1000世帯が心霊現象の犠牲になる。故に、焼却作戦を行い、悪霊の数を減らした後に封印作業を行う』
「ですけどやっぱし…」
『なら』
真剣な表情で焼却作戦を止めようとする牧街を、先ほどよりも低い声で師範の声がさえぎる
『他に、手があるのか?』
普段の素っ頓狂でぶっ飛んだ態度から恐山師範はよく誤解されるが、決して血も涙も無い人間ではない
物を壊す事に躊躇は無いが、助けられる命は助けようと努力をするし、その人にとって大事な物は守ろうとする
今回の作戦とて、オカルトGメンや、他のGS事務所の援軍を期待できない現状で、師範なりに犠牲を最小限で抑え、なおかつ、老婆軍団を確実に殲滅できると考えて立てた最善の作戦なのだ
綺麗事だけで待ったや変更を考慮する事は出来ない
そしてその事は、牧街もわかっていた
わかっていたのだが、余りにも唐突で、そして失うものの多い作戦に、何かにすがらずにはいられなかったのである
牧街が返答に困り、その手が震え始めた、その時
>「惣介殿、皆殺しにしたいのも分かるが老婆妖怪は狐以上に強大な敵とみえる。
「それだ!!それしかないっすよ!えぇ!」
牧街が師範と通信している間、妖狐の件で惣介と話していたカフェが放ったその一言に、牧街は思わず叫んでしまう
牧街の通信の内容とは別に会話していたために通信の内容がわからない二人が何のこっちゃとなる前に牧街の横で通信を聞いていたカフェの師匠が二人に通信の内容を説明する
日本各地を襲ったこの怪現象の正体は、ラストに置いておくとして
牧街的にぐっすり眠れそうだった夜は急変し
長く厳しい戦いの一日が幕を開けようとしていた
158:惣介 ◆Sl.qrwsKik
09/12/26 20:55:00 0
>カフェ「待て待て! ちと気が早いぞ。まだ老婆妖怪が解決しておらぬ」
妖孤を縛りつつも老婆妖怪の脅威を説くカフェ。
「コ~ロセ、コロセ、ミ~ナ………はっ! 皆殺し!?」
事ここに至って、ようやく惣介も外から響いてくる歌が老婆妖怪の呪詛である事に気付くのであった。
「黄泉の入口だなんて…歩通ノ山にそんな物があったなんて初耳です。
そうですね。とりあえず妖狐の件は置いておくとして、
大狸様に相談して、黄泉の通路を封印する方法が無いかを聞いてみましょう。」
などと、やりとりをしていると不意に牧街が飛び起きて緊張した面持ちで誰かと話し始めて…。
>牧街「それだ!!それしかないっすよ!えぇ!」
突然訳の分からない事を叫び、なんのこっちゃとなりそうになるものの、
カフェの師匠が適切に牧街の通信内容を説明する。
それは、この山一帯を焼き払うというあまりにも衝撃的な内容。
「双神山を焼き払っちゃうって………そ、そんなの絶対ダメです!」
山を焼き払われては、当然ながら山の生き物は困る。大困りだ。
動揺のあまり、思わず惣介の変化も解けて元の子狸に戻ってしまう。
「は、早く東峰頂上の狸祠まで急ぎましょう!
え~と、こういった緊急の場合は空を行った方が…確かこうだったかなあ………えいっ!」
庭に飛び出た惣介が、うろ覚えの知識でヘリコプターに変化する。
たまにこの辺りの空を飛ぶヘリコプターを見よう見まねで変化したので、
冷静になって良く見れば、何となく飛ぶのかどうかが不安になるフォルムかもしれない。
「さあ…みなさん、乗って下さい!」
『とりあえず、妖孤も連れて行くにゃ。』
カフェの師匠がロープを使って、ローターが回り始めたヘリに妖孤を吊り下げる。
全員が乗り込むと、ヘリはあっという間に離陸した。
空の上から眼下の山々に目を凝らすと、そこかしこに仄白く光る霊の塊。
「あれも、みんな黄泉の悪霊なんでしょうか…?急がなきゃ!」
そして山の頂上――皆を乗せたヘリが東峰山頂に築かれた大きな祠の前に無事に着陸する。
「うわぁ~変化に失敗したぁ~!」
いや残念、至極残念ながら無事に着陸はしなかった。
うろ覚えのヘリコプター変化は、数百メートル飛んだだけで限界が来てしまったのだ。
突如、凄まじい遠心力によって乗員の体がシートに押し付けられ、目眩で視界がぶれ、胃液も込み上げてくる。
独楽のように勢い良く回転を始めたヘリが、地上目がけて急降下してゆく!
――いわゆる一つの墜落である。
159:カフェ ◆YNbEhcUF/I
09/12/28 23:57:23 0
>156-158
「な……老婆軍団が進軍してるから焼き払うじゃとお!?」
>「さあ…みなさん、乗って下さい!」
>『とりあえず、妖孤も連れて行くにゃ。』
なんとなく不安なフォルムながら、場の雰囲気に乗って乗ることにする。
きっとどうにかなるよ、うん!
>「うわぁ~変化に失敗したぁ~!」
残念! ヘリは ついらく した!
「ぎゃあああああ!!」
地面にたたきつけられる、と思いきや。ぼよんぼよん、とやわらかく弾んで着地する。
そこはあの猫バスならぬ猫タクシーの上だった!
そう、あの最初に乗ってきた猫タクシーだ!
「いやはや、君達、大変な事になったね!」
あまり大変じゃなさそうにあっけらかんという運転手。
「来てくれてありがとうにゃ~!」
ついでに、猫タクシーにはきつねだか猫だか分からない妖怪も乗っていた。
「3日前にも封印しようとがんばってみたんだけど無理だったにゃこ~ん」
妖怪きつねこはぐるぐる巻きになった妖狐を見て言った。
「……は! 妖狐を屈服させたの!? これで双峰の霊力が仕えるにゃこん!」
「そうにゃ! あとは大狸様にも協力を頼むにゃ!」
そして猫タクシーの運転手はおろかきつねことも知り合いらしい師範は一体何者なのか!?
念のために確認だが秋葉原道場師範の頭には猫耳がついている。猫耳は実は本物なのか!?
「のう、師匠って……」
その疑問が尋ねられようとした時、大急ぎで雉が飛んできた。
偵察に行っていた太郎丸だ。太郎丸は狸の姿に戻って言った。
「大変だあ! 老婆妖怪が迫ってくる!」
猫タクシーの運転手が言った。
「心配ご無用。私のタクシーは悪い奴には見えません! その上超速い!」
「にゃらば……妖狐と大狸様、彼らを守るための精鋭が猫タクシーで歩通の山に行って黄泉の入り口の封印にあたりゅ!
他の者は迫りくる老婆軍団ここで食い止めりゅ! それしかにゃい!」
最初は見物を決め込んでいた師範も、積極的に指揮をとり始めた。
もはや弟子の鍛錬とか言っていられる状況ではなくなったようだ!
160:惣介 ◆Sl.qrwsKik
09/12/29 20:58:07 0
猫バスの救助によって何とか皆の墜落死は免れたようだ。
そこで祠の扉がバーンと開き、中からのっしのっしと大狸が現れる。
『話は全て聞かせてもらった。』
「あ…大狸様!すぐに歩通ノ山の黄泉の入口の封印をお願いします!」
『もはや無理じゃ………残念ながらあと一歩と言うところで………全てが手遅れであった!』
「そんなあ…。」
『………と、言うのはウソじゃ。』
ひとまず場の雰囲気を和ませた大狸が、視線を縛られた妖孤に移して声を掛ける。
『妖孤よ…我らは長く相争ってきた。
それも、当初はどちらが変化の術が上かを競っていただけの些細な事。
それがいつしか、馬糞饅頭を送ったり、風呂に見せかけた肥え溜めを作ったりと、
だんだん悪乗りに歯止めが効かなくなっていった………悲しい過去じゃ。』
『異議あり!私たち狐は、馬糞だの肥え溜めを用いるような下品な事はしません!
それは全部そちらがやった事でしょう!』
雰囲気に呑まれず、正当な抗議をする妖孤。
『ふむ………しかし、かつて封じられた黄泉の封印が解けようという危急存亡の時まで、
我らがいがみ合っていては両峰の狸と狐とで共倒れになるは必定。
惣介が人間の退魔師を連れてきたのも、化け猫の一族が訪れたのも時世時節というものじゃ。
我らも手を取り合って黄泉の封印に当たるべきではないか………そう思わぬかの?』
話を逸らしつつ、都合の良い方に話を持ってゆく大狸。
――白熱する舌戦の結果、ついに妖孤も不承不承ながら黄泉の封印を承知した。
東の空が微かに白み始めるものの、まだ頭上には星の瞬きが残る蒼の時間。
正面の歩通ノ山は、目の覚めるような鮮やかな深紅に染まっていた。
薄明に浮かぶ一面の赤は、咲き誇る彼岸花。
それは冥界が地上に浸食している事を示す。
麓には、大挙して山を取り囲む鬼女の群れ。
「妖狐と大狸様を守る精鋭の人が歩通ノ山に行って、残りの人は双神山を守るんですね?」
精鋭って言うと、師範と牧街さんとカフェさんの三人かなあ?
行くのと残るのとでは、どっちが危険なんだろうかと思いつつも惣介は精鋭グループに入った。
山の仲間を守るために敢えて危険と思われる道を選んだのである。
決して猫バスにもう一度乗りたかっただけという軽薄な動機ではない。
『では発進じゃな…何!いかん!猫バスがエンストしておるぞ………と、言うのはウソじゃ。』
七福神の布袋様そっくりの赤ら顔の親父に変化した大狸の号令で猫バス発進。
妖孤も巨大な狐のままでは、バスに乗れないので玉緒の姿に変化する。
一瞬で歩通ノ山まで到着した一同に妖孤が黄泉の入口の場所を伝えた。
『急いで此岸の滝に向かいましょう………そこに黄泉に通ずる禍津穴があります。』
161:カフェ ◆YNbEhcUF/I
09/12/31 23:26:03 0
>160
猫バスの中で師範は何やら電話をかけていた。
「黄泉の門はぼくちん達で封印からどうか焼き払うのはやめてほしいにゃ!」
「修行の成果を見せる時が来た! 月見が丘団地の人々を救って今こそヒーローになるのにゃ!」
「森を守るためにみんなの力を貸して欲しいにゃ!」
おそらく最初のは恐山道場の師範相手、次のは秋葉原道場の門下生たちへの応援要請だろう。
最後のはいったい誰に向かって言ったのだろうか。
>『急いで此岸の滝に向かいましょう………そこに黄泉に通ずる禍津穴があります。』
「よし、急ぐぞ!」
が、さっそく拠点守備要員らしい老婆妖怪が現れて行く手を遮る!
『ゲーゲゲゲー!』
「ひぃいいい!! 破邪札フードバトラーシリーズ芋の煮っ転がし!」
老婆が食いつきそうなエサを投げて気をそらした隙に先を急ぐ。
「もうすぐ援軍が来るからそれまで頑張るにゃー!」
―――
その頃、夜の道路、いや空を一際大型の猫バスが双見山方面へ向かって疾走していた!
載っているのは、一見猫の一団とヲタの一団だ。
正体は化け猫と、様々な分野のヲタク的特殊能力を持ったGS達である。
ヲタ「ええっ?貴方達も師匠に頼まれて!?」
化け猫「そりゃあ君達の師匠は化け猫の長だからにゃ。
僕達化け猫はもうかなり昔から人間社会に混ざって生活してるんだよ。
ここだけの話だから誰にも言ったらいけにゃいぞ。」
ヲタ「な、なんだってー!?」
162:惣介 ◆Sl.qrwsKik
10/01/01 00:46:08 0
>カフェ「ひぃいいい!! 破邪札フードバトラーシリーズ芋の煮っ転がし!」
カフェの破邪札によって、老婆妖怪の気が逸れた隙に脇を駆け抜けて此岸の滝に近づく。
水飛沫を浴びながら滝裏の洞窟に足を踏み入れると、妖気がチリチリと肌を刺す。
「静かですね………洞窟の中には誰も居ないみたいですよ。
誰も居ないですよね………誰も居ないと良いなあ………ひあっ!」
気味の悪い洞窟をひたひたと歩いて行くと、
奥からこの世の物とも思えない墓穴の臭気を伴った風が吹き込む。
そこには、真っ二つに割れた大岩が断面を見せて転がっていた。
黄泉界への入口を塞いでいた封じ石の残骸である。
今は遮る物の無い禍津穴は口を開け、地の底まで続く暗闇を見せていた。
「これが、黄泉への入口ですね。」
『うむ………では早速封印を始めるぞ!』
仁王立ちになった大狸が呪文を唱え始める。
『チチンプイプイ………。』
「その呪文効果あるですか?」
『うむ………皆の心を優しく解きほぐす効果がある!』
「封印には効果あるんですか?」
『無い!』
「こんな時ぐらいちゃんとしてくださいよ大狸様。」
『若いもんは心に余裕が無くてイカンな……まあ良い。妖孤よ、封印を始めるぞ。』
『『臨兵闘者皆陣列在前………。』』
大狸と妖孤が呪句を唱え始めると、真っ二つになった封じ石が微かに震え始める。
誰も手を触れないのに人の背丈より大きな二つの岩がズルズルと動き、
互いに求め合うかのように近づくとピタリとくっ付いた。
『これより地脈から霊力を注ぎ、封じ石にカチカチに硬い結界を施すぞ。
若いもんは周囲に気を配り、結界が完成するまで守るのじゃ。』
「封じ石もくっついて、これで全て解決ですね!皆さん有難うございます!
僕、何だかエンディングテーマまで聞こえてきちゃいましたよ。」
『黄泉ヨリ戻リタマエ、一二三四五六七八九、振ルユラユラ………。』
背後から聞こえてくるのは、地獄から響くような呪いの文言。
振り向けば老婆妖怪の顔、顔、顔。
子供が見たら確実に泣く光景である。
呪句を唱える彼女たちからは漆黒の邪気が立ち昇り、封じ石に向かって伸びてきた。
「た、大変だ………とりあえず何とかしないと!」
惣介は邪気を押し返すべく、扇風機に化けて回り始める!
163:牧街 ◆GwyfLokZWa7/
10/01/02 00:00:43 0
赤目山に面して走る長い道路
そこに大型ダンプが荷台を上に上げた状態で数十メートルに一両づつ停車していた
何十量と言うそれらのダンプの荷台には、破邪札に似た巨大な模様が一杯に書かれ、周囲に霊的エネルギーを飛ばして強力な結界を構築し
無数の老婆の進撃を完全に防いでいる。
『ゲーーー!!』『ギーーーーガーーーーーーーー』
市街地を目の前にしながら、侵入できない老婆共が必死に包丁や爪で車両を攻撃しようとするが
三千マイトの力を誇る重結界の前に、近寄る事さえ出来ていない
赤目山から十分離れた3階建ての月見ヶ丘総合病院屋上
最初に赤目山で戦っていた牧街を除く恐山流の門下生達が、望遠鏡で結界の様子を観察している
「こちら黒田、結界は大丈夫です、赤目山方向から、黄泉の妖怪が突破する事は、絶対にありません」
やがて、結界が正常に作動している事を確認した一人が、通信機で師範へと連絡を送った
「了解した、引き続き、監視を続けろ。」
『了解』
けたたましいプロペラ音のする中、弟子に応え、無線機を置いた師範の懐で、今度は携帯電話が鳴り響く
『あ、恐山師範かにゃ?』
「ああ、私だ」
『僕にゃけど、牧街君から聞かせてもらったにゃ、黄泉の門はぼくちん達で封印からどうか焼き払うのはやめてほしいにゃ! 』
カフェの師範の懇願に、恐山師範の口の端が微妙に上に上がる
「わかりました。ではお気をつけて」
そう言って携帯電話を切った師範は、軽くため息をつくと、操縦桿を握りなおした
場面変わって双神山
無数の老婆と狐、狸、猫、そしてオタクの連合軍の必死の戦いの最中にどこからとも無く一機のヘリが飛来して来る
「カサッカだ!」
「ロシア軍か!?」
「いや…カラーが違う、シルバー何か無いはずだ」
オタ達の声の中、低空で双神山に飛来してきたシルバーのカサッカのハッチが開き、ガトリング砲を構えた恐山師範が姿を現した
「恐山流道場師範、恐山断弦、加勢するぞぉおおおおおおおおおおお!!」
師範は叫びと共にガトリング砲を地上の老婆目掛け乱射し、群がる老婆共に対霊特殊コーティング弾を叩き込んでいく
相変わらず、銃刀法をガン無視した男である
164:牧街 ◆GwyfLokZWa7/
10/01/02 00:59:03 0
さて一方その頃双見家を出発して以来大した活躍の場も無くその他大勢の一人になっていた牧街はと言うと
「ぬぅあんじゃありゃあああああああああああああああああああああああああああ」
洞窟の中で、接近する老婆共の邪気の余りの邪悪さに、生まれてきた事を後悔する位本気でビビリまくっていた
ちなみに彼はヘリの墜落の際一人だけ木に頭ぶつけており
それが原因で今に至るまで思考能力がほとんど麻痺していて、何となく近くにいたカフェの師範に着いていっていただけだったのだが
たった今、眼前のおぞましいすぎるものを直視し、自分が普段なら絶対嫌じゃ嫌じゃと泣いて嫌がる決死隊なんぞに入り、あろう事か敵陣のど真ん中にいる事をはっきりと認識し、ついでに意識まですっきりしたのである
「帰る帰る帰る帰る!…ってそうだ帰り道何ざねぇんだ……ぁあああああああああああどげんしよう!どげんしましょう!」
小さい惣介が必死にがんばる中帰るだとかどうしようだとかプロにあるまじき言動を連発しながら頭抱えながら膝立ちで悶え苦しむ牧街
三流云々以前に本当にGSなのか怪しい光景だったが、やがてほんの少し静かになったかと思うと、懐からありったけの破邪札を取り出し次々と霊力を篭めて老婆共目掛け投げつけ始めた
「このド畜生こんなとこでムザムザ死んでたまるかぁあああああああああああああああああああ!畜生こんなろ!おうりゃあああああああ!!」
どうやらヤケクソになったようで、散財だとかそういう事は考えずズガーンドガーンと老婆共目掛け次々に破邪札を炸裂させていく
その窮鼠猫を噛む攻撃に老婆間からも悲鳴が上がり、やがて彼女等の呪文も聞こえなくなり、邪気も消滅してしまう
「よっしとどめじゃあああああああああ!!」
何だか良展開に調子に乗った牧街は、残った破邪札を一気に4~5枚投げつけた
『ギャアアアアアアアアアアアアアアア』
すさまじい爆発と老婆共の悲鳴が起こり、煙がもうもうと立ち込める
「はぁ……はぁ……」
その光景を、息を切らし、汗をたらしながら見つめる牧街
最早、彼の手元に残る武器は神通杖だけだ
「………へ?」
と、牧街は煙の中に何かが動いた様に見え…
次の瞬間、彼は洞窟の壁に高速で叩きつけられ、口から血を吐き、白目をむいて動かなくなった
いつの間にか煙の中に大きな影が浮かび、それから伸びた棍棒の一撃が、牧街を粉砕し、壁に叩きつけたのだ
『グルルル……』
そして、怪物は煙の中からのしのしとその姿をあらわす
身の丈は3mはあるだろう、人の様に2足歩行で立ち、濃い青色の体皮膚をしており、手には大きなバット型トゲ棍棒を持っていて、頭にはキッと釣り上がった真っ白く光る目と、耳まで裂けた大きな口、そして禿げ上がった頭には角が生えている
怪物は封印作業を行う大狸と妖狐を強い敵意の篭った瞳で見つめながらのしのしと二匹へ向かっていく
165:牧街 ◆GwyfLokZWa7/
10/01/02 01:14:06 0
【モンスターデータ】
鬼モドキ
知能 棍棒を使える程度
特徴 封印が「何者かによって内側から破壊された」際、その何者かが現世に送り込んだ妖魔
封印を復活させようとする物を攻撃する様にプログラムされている。
車に轢かれても倒れない、異形の化け物の触手に吹き飛ばされてもすぐ立ち上がる男、牧街を一撃で昏倒させる程の怪力を持ち
防御力も並の悪霊以上にある。
166:カフェ ◆YNbEhcUF/I
10/01/03 00:50:12 0
>162
「いかあああああん!!来るな!」
とりあえず傘を振りまわして邪気をはらう。
>164
影が薄くなっていた牧街がここに来て本領発揮。散財をかえりみずに老婆軍団を一掃する。
>「………へ?」
「どうした? ……あああああああああ!」
いきなり牧街がすっとんだ。
『グルルル……』
「な、なななななんじゃありゃああああ!!」
動かなくなった牧街に、破邪札“ポーション”(トレカの回復カード風デザイン)を貼りながら叫ぶ。
>165
「鬼っぽいから鬼モドキとするにゃ!
車にひかれても平気な牧街くんが一撃で昏倒するほどの怪力にゃ……!」
「見れば分かるわ! 攻略法は!?」
「まともにぶつかっては勝ち目がにゃい。
ぼくちんがこの前渡したアレは持っているかにゃ!?」
アニメの殿堂編で霊力のこもったフィギュアとポスターを師範から貰ったが、フィギュアのほうはまだ使っていない!
アレとはつまりそれのことだ!
「あれでもない、これでもない……あった!」
鬼モドキがのっしのっしと二匹に近づいて行く中、わしゃわしゃとフィギュアの包み紙を開ける。
出てきたのは、どう見ても呪い用アイテムにしか見えない藁人形だった。
「呪いの藁人形ではないか!」
「こうするにゃ!」
師範はカフェから藁人形を取って、鬼モドキの前に投げた!
すると藁人形は鬼モドキと同じぐらいの身長に巨大化し、鬼モドキの前に立ちはだかる!
「あのフィギュアの名前は“人を呪わば穴二つ!
攻撃を加えると自らも同じダメージをうける恐ろしいフィギュアにゃ!」
167:惣介 ◆rdfEGE/BGM
10/01/03 17:41:29 0
惣介は扇風機の変身を解いて、吹き飛ばされた牧街に駆け寄る。
勢い良く壁に叩きつけられた牧街は、具体的に描写出来ないほど凄い事になっていた。
「うわぁ!牧街さんが潰れたトマトみたいに!」
牧街をのした鬼モドキは、結界構築を感知して大狸と妖孤にのっしのっしと近づてくる。
『ナウマク・サマンダボダナン・キリカ・ソワカ!』
妖孤は、狐の元締めとも言える茶吉尼天の真言を唱えて結界強化の最中。
結界構築を中途で止めては、術の逆流で封じ石が割れかねないため、大狸も動けない。
動けぬ大狸の背後に立った鬼モドキは、持ち上げた棍棒を勢い良く振り下ろした!
>師範「こうするにゃ!」
そこに師範によって巨大藁人形が投げられ、間一髪で大狸と棍棒の間に割り込む。
鬼モドキの一撃を受け止めた藁人形の肩口から藁がバサバサッと散ると、
損壊によって発動した呪いで、藁人形がダメージを鬼モドキに移す。
『グムムッ!』
鬼モドキは肩から黒い粘液を流し、低く呻いて地面にうずくまった。
「そんな物を用意していたなんて流石です………よおし今だあ!」
惣介が、すかさず鬼モドキの取り落とした棍棒に手を掛け、
今度は鬼モドキに化けて棍棒を一気に持ち上げると、本物の鬼モドキの脳天目がけて振り下ろす。
その瞬間、うずくまっていた鬼モドキが顔を上げた。
牙を剥いて不気味に笑む鬼モドキの顔に、棍棒を振り下ろす惣介の心臓が恐怖に凍る。
鬼モドキは、藁人形を掴んでサッと盾のように向けていた!
う………うあぁぁぁぁぁぁ!!
当然ながら勢いの付いた棍棒は簡単に止められるものではない。
このまま棍棒が振り下ろされれて、棍棒のダメージが惣介の頭に移されれば、
数秒後にはスペインのトマト祭りのような惨状が開催されるに違いない。
「うわぁぁぁぁ! 誰か止めて止めてー! いや、変化変化!ええとええと!あれだ!あっ!」
べしゃっ!
ざんねん そうすけは つぶれてしまった!
【規制報告です。今度はクッキーの設定なのか、他の接続の問題なのか、悪霊の呪いなのか、
何故かラウンジ板にも書き込めず、書き込めるのはシベリアのみという逆境。
でもシベリアからは…ちょっと気が進みません…。
現在は某所から書き込んでいますが、頻繁に来るのは難しくペースはかなり遅くなってしまうかも知れません。】
168:牧街 ◆GwyfLokZWa7/
10/01/03 19:48:15 0
牧街を無残な姿に変え、惣介を返り討ちにした鬼モドキはゆっくりと立ち上がると、藁人形を横に投げ捨て、再び大狸と妖狐へと向かっていく
最早、鬼モドキの進撃を防ぐ物は何も無い
勝利を確信した鬼モドキが拳を振り上げ、妖狐の背に拳を叩き込もうとした
その時
「ま”きぃ”がい・D・クラァあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ッシュ!!」
渾身の力を篭めた神通杖の一撃が、鬼モドキの頭に炸裂した
「い…行かせ…ねぇぞ!」
牧街だ
牧街が口と頭部から血を滴らせながらも必死に鬼モドキに攻撃を仕掛けたのだ
どうやらカフェのポーションが効を成したようである
『グルルルル…』
しかし、元気な時でも親父幽霊を消滅させる事ができないその一撃は、鬼モドキにとってはさしたるダメージではない
鬼モドキは心底不快気な表情でゆっくりと牧街の方を振り返ると、牧街がビビる間もなく右ストレートを叩き込んだ
拳は牧街が持っていた神通杖を圧し折り、そのまま牧街の胸にもろに炸裂する
「ごば!?」
再び口から吐血し、跳ね上げられる牧街
そのまま背中から地面にノックアウトさせられてしまう
『グオーゥン!!』
しかし攻撃の手をやめない鬼モドキは、更に勢いよく牧街の腹を踏みつけた
「げばらっ」
既に白目をむいていた牧街が再度吐血し、べきべきと嫌な音が響く
『フー…』
今度こそ完全に牧街が動かなくなった事を確認した鬼モドキは、牧街の頭を持って掴み上げると、勢いよく片手で牧街をカフェ達へ投げつけた