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>>219>>226
黒髪の少年は多少戸惑いながらも、屡霞と戦場ヶ原の宿泊を承諾してくれた。
彼の様子から察するに、おそらく戦場ヶ原と何かあったのだろう。
昂ぶった戦場ヶ原に理不尽な理由で闘いを挑まれた少年の画が容易に想像できた。
「ありがとう。」
また丁寧に頭を下げると、屡霞は戦場ヶ原を次の間の座敷に寝かせた。
「やあやあ、梓川が入室いたしました~」
突如、空気に見合わぬ陽気な声が部屋に響いた。
振り向けばそこには先ほどまで泣き狂っていた混じり色の髪の少年がにこにこと座敷へ上がってきていた。
その表情はどう見ても作り笑いだ。狂いそうになる自分を必死に抑え込もうとして無理に表情を作っているのがよくわかった。
(哀れな…。しかし、強い少年だ。)
普通の人間ならば、先ほどの状況に我を失い逃げ出していただろう。
しかし、彼は逃げなかった。狂気を抑え込むだけの心の力を、彼は持っていたのだ。
彼は明るい調子で梓川と名乗った。そして黒髪の少年を廻間と呼んだ。
梓川と廻間が軽口を叩き合っている間に、屡霞は二人とちゃぶ台をはさんで正坐し、ゆっくりとその口を開いた。
「…では、話の本題に入ろう。
まずキミたちが異能者ならば、3日前、キミたちのもとへ不可解なメールが届いただろう。」
二人が黙ってうなずくのを確認して、屡霞は続けた。
「生き残るために戦え――、このバカげた催しの黒幕が…我々が『機関』と呼んでいる組織だ。
私もこの3日間この街で情報を集め、そこに寝ている男…戦場ヶ原と出会って確信を得たのだが、
そこで得た情報をまとめて、キミ達に話そう。」
屡霞はそこで切ると、出された緑茶に口をつけた。
そしてゆっくりと時間をかけて話し出す。
機関という組織の強大さ…、
城栄金剛という男の存在とその所業…、
街に放たれた機関の刺客や虐殺部隊…、
戦場ヶ原の過去…、
そして機関の今の目的とその本拠地――…
自分たちが知り得るすべての情報を洗いざらい話した。
いつしか二人は、食い入るように話を聞き、それぞれが思う表情をしていた。
そんな二人を見て屡霞は、茶で口をうるおしてから真剣な表情で付け足した。
「…なぜ私が、初対面のキミたちにここまで話すか、分かるか?」
そう言う屡霞の眼は、だんだんと見る者を威圧する眼に変わっていった。
「キミたちを我々の仲間たり得る異能者と見込んだからこそだ。
私は先ほどこう言った。知れば二度と日常には戻れなくなるだろう、と…。
キミたちはもう知ってしまった。もう後戻りは出来ない。
この情報を知った上で私の協力要請を拒むというのなら、私はキミたちをここで斬らねばならない。…あそこにころがっている骸のようにな。」
二人が当惑するのを見て、屡霞は申し訳なさそうに苦笑した。
「脅すような形になってすまない。だが、機関という強大な敵に立ち向かうには、力が必要なんだ。
キミたちの力を、貸してほしい。」
【屡霞:現在位置:国崎薬局。現在時刻:長話をしたため9:00くらい】