【らき☆すた】木冬かがみが大学でぼっちになっているようです 26at CCHARA
【らき☆すた】木冬かがみが大学でぼっちになっているようです 26 - 暇つぶし2ch208:名無しかわいいよ名無し
09/10/02 08:56:19 nYMqQLd7i
>>206
漫画って読んだ事ないんだよなぁ。
アニメしか知らないんだけど漫画も萌えられるかな!?
アニメと話違うの?だいたい同じ?

209:名無しかわいいよ名無し
09/10/02 10:18:51 gWUO2TEe0
オレはそもそも美水の絵がダメだ
堀口始め、京アニ作画陣だから楽しめた。
話も漫画はイマイチだな・・・。

210:208
09/10/02 11:05:43 nYMqQLd7i
>>209
わかるわぁ。俺も絵がダメだから読んでない。スレでうpされる絵は例え下手でも可愛く見える不思議。


211:名無しかわいいよ名無し
09/10/02 14:43:52 kD+jAXVV0
原作つまらないもん
まったく笑えないし
まだこのスレであげらてる漫画のほうが面白い

212:名無しかわいいよ名無し
09/10/02 21:36:55 rFrY3z1XP
>>208
小さな違いがそれなりにあるという印象

URLリンク(image.i-bbs.sijex.net)

213:名無しかわいいよ名無し
09/10/02 22:16:10 s3R3plO+0
わお、久々のぼっち漫画ktkr

214:名無しかわいいよ名無し
09/10/02 22:19:07 kWIj0+pai
>>212
可愛いなぁー
頭悪いというか変な維持張ってるというか、こういう変な子って萌えるわぁ。

215:名無しかわいいよ名無し
09/10/02 22:55:22 tZIb0Da9P
>>212

若干絵柄が変わった

216:名無しかわいいよ名無し
09/10/02 23:46:52 4zpJGndaO
かがみんのFigma(冬服ver.)買いました。
これでいつでも死ねる(´ー`)

217:名無しかわいいよ名無し
09/10/03 00:53:53 rU4PUZq80
かがみ「東京オリンピック落選か。東京で開催すれば競技に『ぼっち』が加わると思ったのに。そうなれば私が出れば金メダルよ」


218:名無しかわいいよ名無し
09/10/03 07:40:59 Ud4KmgyHi
私も絵挑戦してみるか
4コマなら描けそうだ。

219:名無しかわいいよ名無し
09/10/03 08:48:33 ljKZSPFG0
>>216
イ㌔!!!!!

220:名無しかわいいよ名無し
09/10/03 08:49:48 vCuFOBJ00
>>218
テラ期待

221:名無しかわいいよ名無し
09/10/03 19:12:52 qC27eYC10
終わらせてやれよ

222:名無しかわいいよ名無し
09/10/03 21:56:39 nTpG8meL0
終わらないよ。
始まってすらいないんだもの。

223:名無しかわいいよ名無し
09/10/04 01:14:55 MmFuZJTMO
道理だ

224:名無しかわいいよ名無し
09/10/04 12:21:45 6P4b5oMh0
かがみんの暗黒時代

教養時代が青春時代の象徴であり、専門課程に移っても教養時代の話題で幾度となく盛り上がる

しかし教養でボッチという名の暗黒時代を送ると、専門でも暗黒時代の延長戦を強いられる

ボッチであるがゆえに過去問が入手できず、定期試験が始まると脳内でリア充どもに向けてライフル乱射

しかもノートのコピーを強請られて貴重な時間を失う

もちろんそんな暗黒時代だから恋愛や就活はうまくいかず、将来に光を見いだせない

就職をあきらめて最後に残された大学院へと進むしか道が残されない

大学院には他大学から入ってくる学生や留学生が多くおり、全体の人数もさほど多くないので、暗黒時代のリベンジを果たす

話し相手も出来たし、博士課程へ進学予定なのでみんなが一目置いてくれる

そんな心地よい環境に麻痺してしまい本当の暗黒時代の到来を見過ごしてしまう

博士課程進学により人生のすべてを失うことを……

225:名無しかわいいよ名無し
09/10/04 16:40:58 g2eZJZJT0
続き希望

226:名無しかわいいよ名無し
09/10/04 21:19:31 BI04INT50
kagamin!!

227:名無しかわいいよ名無し
09/10/05 03:34:43 0tmeLFqUi
今4コマ書いてるんだが、漫画の絵って難しんだな・・・


228:名無しかわいいよ名無し
09/10/05 06:40:17 PU7fYkdc0
>>216
夏服がそろそろ発売するとかなんとか
冬服verかがみんください

URLリンク(i-bbs.sijex.net)
夏休み終わって学校始まったけど
すること無さすぎて夕方徘徊するかがみん

229:名無しかわいいよ名無し
09/10/05 20:10:24 tQffd2Ey0
>>228
ホラー系の絵だな

230:名無しかわいいよ名無し
09/10/06 19:44:18 /HFRev0a0
新型で休講になったかがみ

231:名無しかわいいよ名無し
09/10/07 00:15:04 LLoreZVg0
かがみぼっちスレにぼっち漫画投稿するのに夢中になりすぎて就職出来なかったかがみ

232:名無しかわいいよ名無し
09/10/07 00:18:59 c0JwKE6F0
ホントは高校時代もぼっちだけど充実した高校時代の四コマ漫画書いて第二のさくらももこを目指すかがみん

233:名無しかわいいよ名無し
09/10/07 01:56:47 7ILGGKV60
かがみ「台風で休校にならないかしら」

234:名無しかわいいよ名無し
09/10/07 22:29:07 Kmmcu89G0
>>201を勝手にマンガにしたらアップローダーで許可されないドメインとか言われた
URLリンク(imepita.jp)

235:名無しかわいいよ名無し
09/10/07 22:30:43 ncnMsAvy0
やっぱかわええ

236:名無しかわいいよ名無し
09/10/08 00:10:45 ewqFR4/00
>>227
まだかの

237:名無しかわいいよ名無し
09/10/08 05:10:37 oqEYDC+a0
>>234
絵うまいな
前にも描いたことある人?

238:名無しかわいいよ名無し
09/10/08 10:03:14 OH2dK4g90
>>234
初投稿?乙

239:名無しかわいいよ名無し
09/10/08 18:10:34 AcSkY5lP0
かがみ「台風凄いわね。ちょっと用水路の様子見てくるわ」

240:名無しかわいいよ名無し
09/10/08 18:11:33 Tj7HP/y5i
>>234
すげえ!かわいいわぁ
4コマ書こうかなって言った者だけど2コマ目で挫折。
絵かけるっていいな

241:名無しかわいいよ名無し
09/10/08 18:27:48 ewqFR4/00
なんだ、ちょっと描いてくる

242:名無しかわいいよ名無し
09/10/08 20:46:34 qQ/viPEv0
かがみ「おっと、危ない流される所だったわ」

243:名無しかわいいよ名無し
09/10/08 20:56:09 QMBlzVBv0
用水路にウンコなんかしちゃダメだよかがみん

244:名無しかわいいよ名無し
09/10/09 12:58:46 Sw0Py8GV0
 以前、SSの構想があると言っていた者です。
8割がた書き終わったので今夜投下いたします。
文量があるので数日に分けますがよろしくお願いします。

245:名無しかわいいよ名無し
09/10/09 14:13:13 uyfhAL9Ki
おお ご苦労様です
楽しみにしてます

246:名無しかわいいよ名無し
09/10/09 19:27:57 JoLap2kn0
夜が近づく

247:名無しかわいいよ名無し
09/10/09 20:51:04 rNUZ4w4M0
さてそろそろ・・

248:名無しかわいいよ名無し
09/10/09 21:04:20 Sw0Py8GV0
 皆さん、こんばんは。
ただいまより投下いたします。

249:空谷の跫音1
09/10/09 21:05:11 Sw0Py8GV0
 昼休み。
「柊は冷たいよな~」
本気なのか冗談なのか、みさおが口を尖らせて言った。
「まあまあ……」
どっちつかずの相槌を打つのはあやのの役どころである。
彼女自身は穏健派で摩擦を好まない性格なのだが、みさおの陽気な性格からくる言動と、
それに比して現実的なかがみの冷静な突っ込みというやりとりに関してはまんざらでもないようである。
ひたすら仲裁役を買って出るあやのは両者の掛け合いを楽しんでいるようらしかった。
「でもみさちゃん、それならナンバーズとかミニのほうがまだ当たる確率は高いと思うけど」
「おいおい、あやのまで夢のないこと言うなよ。どうせなら2億狙ってみたいじゃん」
「それはそうだけど……」
「何とかの誤謬がどうとか言ってたけど、なんか説得力あったぜ」
ギャンブルにはさして興味のないあやのは、夢を買う宝籤ひとつとっても堅実な道を選びたがる。
話はみさおがロト6を買ったという発言から始まった。
ロト6とは1~43までの数字から6個を選び、当籤数字と一致した数字の個数で配当が決まる籤である。
みさおは小遣いに余裕があるとつい何口かを申し込むのだが予想は悉くはずれ、投下資本すら回収できない。
その話を聞いたみゆきは申し込む度に数字を変えるのではなく、これまでに出た回数が最も少ない順に
6個選び、継続して同じ数字で挑戦した方が長期的に見れば得だと助言した。
全ての数字が等しい確率で抽籤されるなら、そのバラつきもいずれは平均化するだろうという見方だ。
「だからさ、今回は”この売り場から当たりが出ました”って書いてないところで申し込んだんだぜ」
これもみゆきの言によっている。
「長い目で見たらそうかもしれないけど結局、一回一回の確率は同じでしょ?」
みゆきの弁とそれに同調するみさおに対し、水を差したのがこのかがみの一言である。
(みゆきだって確率論の根本くらい分かってるだろうに)
半分呆れ顔でずばりと指摘するかがみ。
「それに普通の籤と違って自分で番号選ぶんだから売り場はどこでも関係ないんじゃない?」
よせばいいのに、彼女はなおも現実的で辛辣な言葉をぶつけた。
さすがにここまでくると、
「なあ、あやの。柊って私のこと嫌いとかじゃないよな?」
みさおもこう泣きつきたくもなってくる。
「大丈夫よ」
あやのも宥めはするが、今のは身も蓋もないのではないかと思った。
かがみはしっかりしていて勉強もでき、常識的なものの考えをする点では頼りになる。
だが反面、四角四面で融通が利かず、歯に衣着せない口調は人によっては受け容れがたい。
みさおは物事を大雑把に捉える性格でうまく受け流すが、傍でそれを聞いているあやのは
取り繕うように仲裁こそするがその実、この口調の冷たさだけは苦手だと思っている。
(柊ちゃんもそこまで言うことないのに……)
と言いたいところを苦笑いで表現するが、あまりに婉曲すぎてかがみには到底伝わらない。
「まあでも買ってみたくなる気持ちも分からないでもないけどね」
やはり呆れた様子のかがみがこの話題を締めにかかる。
歳の割に現実的な彼女は籤の類を厭う。
望む成果や結果は己の努力でのみ掴み取るべきだという考えが根底にあるらしい。
実際、定期テストの点数も試験勉強の度合いに応じて上下している。
「さて、と……」
わざと聞こえるように息を吐き、かがみが立ち上がった。
「ちょっと出てくるわね」
「なんだよ~また隣のクラスか~?」
すかさずみさおが問う。
「まあ、ね―」
このやりとりも今では当たり前になっている。
授業が終わると同時にB組に向かうこともあれば、今のようにみさおたちと二、三言葉を交わしてからの場合もある。
共通しているのは休み時間の少なくとも半分はB組で過ごしているという事実だ。
「やっぱ柊冷たい……」
「まあまあ、みさちゃん」
去りゆくかがみの背中に聞こえよがしにみさおが呟く。
この瞬間こそがみさおに”背景”と言わしめたのである。
「………………」
幼馴染に倣ってかがみを見送るあやのは寂しいとは思わない。
(私は背景だなんて思ったことないよ、みさちゃん)
そもそも背景が存在するためには前景が必要である。

250:空谷の跫音2
09/10/09 21:06:33 Sw0Py8GV0
みさおは勝手にかがみを前景に置き、相対的に自分たちを背景と位置付けたがそもそもその前提が間違っている、とあやのは思っている。
(私たちから見れば私たちが主役なのに)
何故わざわざかがみを中心に据えなければならないのか。
永い付き合いであるあやのも、このみさおの考え方だけはいまだに理解できないでいた。
「むぅ~~あやの~~」
「…………?」
またか、とあやのは思った。
かがみの、自分たちに対する扱いに彼女はたびたび愚痴をこぼす。
(もう、なんでそう柊ちゃん柊ちゃんって……)
と考えるが、間違ってもそんなことは口にはできない。
まるでかがみに嫉妬しているみたいでスッキリしないのだ。
「歴史のここ教えてくれよ。次、当てられそうなんだ」
机に突っ伏した状態でみさおが教科書を突き出した。
「あ……そっちだったの……」



 昼休みも20分を過ぎると、廊下には男女問わず生徒の姿が多くなる。
大半は食事を終えて談話に花を咲かせているが、それに紛れて異性の交遊に戯れている組もある。
「ふう…………」
仲良さそうに話をしている生徒たちを見ると、かがみは無意識にため息をついてしまう。
人混みが嫌いなわけではない。
休み時間の廊下が嫌いというわけでもない。
ただ―。
この賑やかで不愉快な雰囲気にあっては気分が落ち着かない、というのが実際のところだった。
「おーっす、遊びに来たわよ」
どちらかと言えば行動的なかがみは、よそのクラスの戸を開けるのに抵抗感は持たない。
もともと休み時間の教室は人の出入りが頻繁だから、これといって気兼ねする必要もない。
「あ、お姉ちゃん」
つかさが手を振った。
「お待ちしておりました」
みゆきがにこりと笑う。
この反応からかがみがB組に来るのが恒例となっている事が窺える。
「こなたは?」
入るなり小学生と見紛うオタク少女がいないことに気付く。
「こなちゃんならさっきジュース買いに行ったよ」
「そうなの?」
「今日のはクリームが濃かったって言ってた」
「ああ……」
コロネの事かと思い当たる。
(あれ…………?)
その時、ふとかがみは自分が何かに対して安堵している自分に気付く。
何に、かは分からない。
目の前にはつかさとみゆきがいる。
そしてこなたがいない。
この状況にかがみは何故か心安らぐものがあった。
「かがみさん、どうなさいました?」
変化を悟ったみゆきがおずおずと声をかけた。
「ん? あ、いや、別になんでもないわよ」
かがみ自身、心の変化の理由に気付いていないためにこう返すしかない。
「ふぃ~、なんか今日は混んでてさ~。あれ、かがみ来てたんだ」
ブリックパックのミックスジュースを飲みながらこなたが戻ってきた。
かがみを見て特徴のある丸っこい唇をややつり上げる。
(………………ッッ!!)
この時だった。
かがみは急に胸がざわつくのを覚え、食後の満腹感が膨満感に変わったような息苦しさを味わった。
「かがみ……?」
眠そうな顔が近づいてくる。
反射的にかがみは目をそらした。

251:空谷の跫音3
09/10/09 21:08:47 Sw0Py8GV0
頬が赤くなった彼女に、
「ツンデレだね、やっぱり。そんなに私に会いたかったのかな~?」
よく分からない指摘をするこなた。
しかしこの常態化した雰囲気が、今だけはかがみを不快にさせる。
「うりうり~~」
その反応を楽しむようにこなたがツインテールをぐいぐいと引っ張る。
「さわんなっ!!」
かがみは乱暴に振り払った。
「…………?」
「………………?」
つかさもみゆきも呆気にとられて、顔を真っ赤にしているかがみを見つめた。
「かがみ……?」
平素、こなたはよく彼女を怒らせる。
悪戯好きなキツネは嫌がるのもお構いなしに寂しがり屋のウサギを揶揄(からか)ってはその反応を楽しんでいた。
人に構われることを内心では求めているウサギは時に疎ましいキツネにきつく当たることもある。
それがいつものやりとりだった。
「…………ごめん。なんか調子悪いみたい。私、教室戻るわ」
最後はこなたの顔を見ることもなく、かがみは逃げるように教室を出て行った。
「お姉ちゃん、どうしちゃったんだろう……」
「心配ですね……」
つかさはすぐにその後を追おうとしたが、足が竦んだようにその場から動けなかった。
「………………」
一方、直接の原因となってしまったこなたも困ったように俯くばかりだった。
(私……気に障ること言っちゃったのかな…………?)
いつも通りのやりとりだったハズで、特にかがみの神経を逆撫でする発言はなかった。
が、このあたり見た目に反して真剣に考えるこなたは、どのタイミングでどう謝ろうかと思案した。



「あれ、もう戻ってきたのか?」
あやのに歴史のレクチャーを受けていたみさおは、大きく伸びをした際にかがみを認めた。
そのまま自分たちの方に来ると思いきや、かがみは少し離れた自分の席につくと長大息した。
2人は無言のまま視線を交わす。
「さ、あともうちょっとだから」
みさおがまたかがみに気をとられないように、あやのは教科書を差し出して先を促した。
「うえ~年号かよ~。ここが一番苦手なんだよな」
「苦手だからこの際克服しちゃいましょ」
「また今度ってことで……」
「だ~め」
「うぅ…………」
次の授業で当てられそうな範囲だけ聞くつもりだったみさおは、いつの間にかちょっとした家庭教師役となっているあやのの
静かな熱意に押されて渋々ながら教科書を覗き込む。
ただでさえ苦手な科目で、しかもやる気のない今では全く頭に入らない。
結局、あやのが上手い語呂合わせを考えついて年号を2つほど覚えたところで昼休みは終わってしまった。
この後、予想通り担当教師は抜き打ち気味にみさおを指名した。
予習のおかげで難なく回答できたものの、再び突っ込んだ質問をされると答えることができなかった。
「分かりません」
と言ってから着席したみさおに、あやのは両手を合わせた。
(ごめんね、みさちゃん)
なにも彼女が謝る必要などないというのに、ヘンなところで律儀なあやのはみさおが答えられなかったのは、
自分が至らなかったからだと思っているようである。
「………………」
そのちょっとしたやりとりを眺めていたかがみは、ぎゅっと胸が締めつけられる想いがした。
申し訳無さそうな困り顔のあやのと、意にも介していないみさおの恬淡さ。
それらが彼女から平静を奪っていく。




252:空谷の跫音4
09/10/09 21:12:36 Sw0Py8GV0
 かがみが最近になってしばしば感じるようになった苦しみは、放課後になっても容赦なく襲ってくる。
それを齎(もたら)したのはみさおの、
「柊、たまにはうちらとカラオケ行こうぜ」
というごく自然な誘いだった。
年頃の女子なら気の置けない仲間と連れだって遊びに繰り出すのは普通だ。
生真面目なかがみも、放課後に寄り道なんて……という考えはない。
しかし彼女にとってありがたい誘いは精神の不安定さもあって、素直に喜べるものではなかった。
その原因はおそらく、”うちら”というキーワードがみさおの口から放たれたからではないか、とかがみは気付き始める。
(なんだろう……この感じ…………)
かがみは自問したが、その答えを殆ど得ていることを分かっていて彼女は敢えてそれに気付いていない振りをした。
「あやの、けっこう歌上手いんだぜ?」
このちょっとしたみさおの台詞がかがみの心を抉剔(けってき)した。
体がかあっと熱くなる。
マラソンを走り終えた時のような激しい動悸。
天地がぐるりと急転したかのような感覚。
続いて嘔吐感。
それらが順番に―先を争うように襲いかかり、彼女が必死に保ってきた意識を悉く食い荒らしていく。
「おーい柊~聞いてるか~?」
みさおがチャームポイントの八重歯を覗かせた。
この仕草ひとつでも男の心を大いに擽るだろう。
もちろん彼女にそうした意図はない。
「あ、あのさ…………」
「ん?」
「私、今日はやめとくわ。こなたたちと先約があるから」
胸を締めつけられるような痛みを縫うようにかがみが言った。
「………………」
いつものみさおならここですぐに口を尖らせていただろう。
ぶーぶーと不満を垂れてはあやのに泣きついていただろう。
しかし彼女はそうはしなかった。
マンネリ化した反応に飽きたわけではない。
先約がある、というかがみの断り方が不自然だったからだ。
そこに気付けないほど蒙昧なみさおではない。
「なあ、柊」
お気楽少女は一転して真面目な顔つきに戻り、
「なんか隠してんじゃね?」
「…………ッ!!」
こういう時、かがみはウソを吐くのが下手だ。
この質問が予想できるものであったなら彼女にも心構えができたハズだが、ずばりと核心を衝く問いかけをしたのはあのみさおだ。
「なんかヘンなんだよな」
「な、なにがよ!?」
自分に都合の悪い追及があった時、その躱し方に慣れていない者は平素に比べて饒舌になるか声調が不自然に上がる。
或いは視線を落ち着きなく彷徨わせる、頬が紅潮する、発汗するなどの反応をする。
かがみはその全てをやってしまった。
ギャグマンガのキャラのような滑稽な狼狽ぶりを披露したかがみは、その所作だけで既に十分すぎるほどに
真意を吐露してしまっている。
「なんていうかさ、心ここにあらずって感じだし」
みさおにしては妙に鋭かった。
万事にお気楽に構える彼女は自身のことには鈍感でも、他人のことには鋭敏になる瞬間があるらしい。
例えば今のようにさらにかがみにボロを出させようと、ぐいっと顔を近づけるという動作も面白半分ではなく、
相手を慮ってのことである。
「な、何にもないわよ」
友人の顔が間近に迫り、照れているのか焦っているのか、かがみは耳まで真っ赤にして俯いた。
こうなっては言葉による否定は何の意味も持たない。
いかに上手い切り返しを思いついたとしても、それを放つのは所詮はウソの吐けないかがみである。
形にもならない誤魔化しが、みさおの疑念をさらに強くするだけだ。
「ごめんね、先生に用事頼まれちゃって……」
その時、苦笑混じりにあやのがやって来た。
授業が終わって早々、ひかるが資料整理をあやのに頼んでいたのである。
「お、やっと終わったか~」
みさおがひらひらと手を振る。

253:空谷の跫音5
09/10/09 21:13:56 Sw0Py8GV0
その動作にかがみが向き直った。
「…………!!」
その途端だ。
一時は治まっていた激しい動悸が再び襲ってきた。
あやのの顔を見た瞬間に―。
それがどれほど失礼な行為であるかをきちんと認識した上で、
「ああ、時間だからゴメンっ!!」
その顔を見るなりかがみは逃げるようにして教室を飛び出して行った。
残されたあやのは困ったようにみさおを見た。
「柊ちゃん、どうしたの?」
「ん~~」
よく分からない、と言いかけて口を噤む。
(柊って意地張るところがあるからなあ……)
何やら悩みを抱えているのは間違いなさそうなのだが、その内容までは誰にも分からない。
「柊ちゃん、最近ちょっとヘンじゃない?」
「あやのもそう思う?」
「うん、なんとなく―」
あやのがこう答えたのは、かがみと居る時間が少ないからだ。
様子がおかしいと気付く前に彼女は早々とB組に出かけてしまう。
「ま、なんか相談したいことがあるんなら向こうから言ってくるだろ」
「そうかな……柊ちゃんってそういうところ意固地だから、自分から言うとは思えないけど」
「………………」
「どうしたの?」
「いや、私と同じこと考えるなあと思ってさ」
「そうなの?」
みさおは少し嬉しくなった。
見た目も中身も自分とは全然違う幼馴染みと意識を共有できていると実感できた喜びだ。
その後、予定していたカラオケはキャンセルし、あやのが買い物に行きたいと言うのでみさおも付き合う事になった。
日頃いろいろと支えてくれる彼氏に何かお礼がしたいから、というのがその理由だ。
「兄貴の好みねえ……そういうのはあやのの方がよく知ってるんじゃねえの?」
どうせなら喜ばれる物をと考えながら教室を出る。
「あれ……?」
廊下に出て何気なく視線を横に向けたみさおは思わず声をあげた。
視界に入るのはB組の教室。
室内にはこなたとつかさの姿があった。
かがみは―いない。
「みさちゃん?」
会話を断ち切り、みさおはそのまま教室に入っていく。
「あ、日下部さん」
気付いたつかさがパッと顔を上げた。
「珍しいね、みさきちがこっち来るのって」
「え、あ、ああ……」
生返事でみさおは教室内を見渡す。
「どしたの?」
「なあ、柊こっち来なかったのか?」
「うん? 来てないよ?」
「そっか……」
「あ、お姉ちゃんならさっきメールあって、用事があるから先に帰るって」
ほらほら、とつかさが携帯のディスプレイを向けた。
「………………」
つかさの言うように、先に帰るという旨の文面がある。
用件を伝えるだけの素っ気ない文章だ。
「柊の奴、私がカラオケに誘ったらチビッ子たちと先約があるって断ったんだよな」
「先約? 今日は別に何も予定ないけど……」
こなたが眠そうな目を少しだけ開いた。
「ほんとか?」
「ほんとだって」
「ふうん……」
みさおはこなたを疑うような目で見た。
当の本人は自分は本当に何も知らないと頻りにかぶりを振っている。

254:空谷の跫音6
09/10/09 21:15:25 Sw0Py8GV0
「そういや昼間もヘンな感じだったよ。私が怒らせちゃったんだと思うけど」
「ああ、そっちでもか」
「心配だね、かがみは私の嫁だから」
「そうだな。なんからしくないよな。柊はうちのだけどな」
「いやいや、私のだから」
「いやいやいや、うちのクラスだし」
「いやいやいやいや、いっつも一緒にいるの私たちだし」
「いやいやい―」
「もう2人とも、つまらないケンカしないの」
見かねてあやのが割り込んできた。
”つまらないケンカ”と一蹴されたみさおたちはその一言で一気に熱を冷ました。
あやのはこの話題を切り上げたがっているようだ。
それを空気を通して感じ取ったみさおはここで思案を巡らせることはせず、
「チビッ子からも聞いといてくれよ」
と、先ほど自分がしようとした事をこなたに託す。
だが言われた方はキョトンとした顔で、
「それならみさきちの方が適任じゃないの? クラス一緒なんだしキッカケも多いでしょ?」
さりげなく辞退する。
「あ~ダメだダメだ。私らだと柊、身構えちゃってさ」
「こっちでも一緒だよ。意地っ張りだからね、かがみんは」
と、今度はかがみの性格がどうだという話になる。
互いに違和感を持っていることを知った2人は、先にかがみに心情を吐露させた方が勝ち、
という子供っぽさ全開の勝負を約束した。
勝つのは私だ。
いや自分が勝つ。
と相変わらずくだらない張り合いを再開しかけるも、あやのが半ば強引に割って入って有耶無耶にする。
かがみは心配だがあやのの買い物にも付き合ってあげたいみさおは、いまだ所有権を主張し続けるこなたに折れる恰好で教室を後にした。





255:名無しかわいいよ名無し
09/10/09 21:18:16 Sw0Py8GV0
 今夜はここまでです。
日を置いてじっくりと投下していきたいと思います。
ではまた。

256:名無しかわいいよ名無し
09/10/09 21:20:24 rNUZ4w4M0
たのしみだ

257:名無しかわいいよ名無し
09/10/09 23:37:08 nUGEP/F60
>>255
JEDI氏?

258:名無しかわいいよ名無し
09/10/09 23:48:54 o0TkXSxN0
ここも荒らし来やがったJ

259:名無しかわいいよ名無し
09/10/10 00:46:33 zBIVZwdUO
J  (´Д` )

260:名無しかわいいよ名無し
09/10/10 10:15:56 1BFcXEog0
>>255
難しい漢字が多くて若者(23歳)の私には読めない漢字がいくつかあったけど、面白かったです。
中高の頃、まさに女子の間でこういうのありましたね・・・
私は傍観者だったけど、凄く辛かった。

261:名無しかわいいよ名無し
09/10/10 12:05:04 amjRhKTY0
 ( ´Д`)   J   (´Д` )  

262:名無しかわいいよ名無し
09/10/10 12:16:54 VzFQWkvx0

        |   
        |   
        |   
( ´Д`)   J   (´Д` )  

263:名無しかわいいよ名無し
09/10/10 13:07:59 IW4pJCFZP
なにこの流れ?

264:名無しかわいいよ名無し
09/10/10 15:26:46 B1T8ZsYB0
>260
投下の後いつも同じような感想付けていると
自画自賛弁当持参がばれますよJさん
面白くないんですよ愚痴吐き捨て私小説は

265:名無しかわいいよ名無し
09/10/10 16:33:43 X67m38fD0
スレ違いっぽかったから読んでないけれど
あっちとこっちじゃ需要が全然違うもんなw

266:名無しかわいいよ名無し
09/10/10 22:48:34 IO8B83Ysi
>>264
なにこいつ荒らし?
俺このスレ最近きたからよくわからんけどJって人?のSS面白いと思うし、別に趣旨外れてる訳じゃ無いじゃん。
そういう心無い書き込みやめようよ。

盛り上がってるならともかく、この過疎スレにJさんの投稿は貴重だよ。

267:名無しかわいいよ名無し
09/10/10 23:07:45 B1T8ZsYB0
>>266
ネカフェの店変えてまで自己弁護お疲れ様です
多くの人間を不愉快にさせた荒らしのJさん乙です

268:名無しかわいいよ名無し
09/10/10 23:42:17 IO8B83Ysi
>>267
ちょっとまってくれw
IDのケツにiがついてるからiPhoneだろうが^^;
俺はこのスレの実情について知らないし、本当にJさんが荒らしの人でみんなが迷惑しているのならば申し訳ない。だから特別必死になって擁護するつもりはない。
だが、新参者の意見としては純粋に面白いし大変ありがたいと思ってるよ。

269:名無しかわいいよ名無し
09/10/10 23:45:49 IhzMDsRo0
続きまだかなあ

270:名無しかわいいよ名無し
09/10/10 23:56:37 X67m38fD0
このスレには原理主義者が居るってこった。
俺もだけどね。

271:名無しかわいいよ名無し
09/10/11 05:35:46 Rhe5Z5yCi
そうかぁ?まとめサイト全部読んだ限りそうは思えないけどな。

272:名無しかわいいよ名無し
09/10/11 07:15:29 80mTrSL20
まとめサイト落ちた?
メンテ中かな

273:名無しかわいいよ名無し
09/10/11 08:43:17 Rhe5Z5yCi
メンテ中だったみたいだね。
現在は問題なく見れるよ。

274:名無しかわいいよ名無し
09/10/11 21:18:39 ucg0gPip0
 みなさん、こんばんは。
本日分の投下参ります。

275:空谷の跫音7
09/10/11 21:20:07 ucg0gPip0
「………………」
もう数えきれないくらいのため息をついたかがみは、足早に学校を出た。
先に帰る旨のメールは既につかさに送ってある。
追い越す生徒たちが楽しげに談笑しているのに苛立ちを覚えながら、彼女は駅近くの寂れた喫茶店に入った。
すぐにウェイターがやって来る。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
そちらこそ決まりきった質問をするな、と悪態を衝きたいところを堪えてアイスコーヒーを頼む。
何でもよかった。
とにかく人の出入りの少ない所で喉の渇きを潤し、落ち着くための時間が欲しかったのだ。
「わたし…………」
目を閉じると心配そうに顔を覗き込むみさおが映った。
その後、申し訳なさそうに教室に戻ってくるあやの。
2人の残像が瞼の裏で重なる。
それを引き金に起こる動悸。
彼女は自覚してしまったのだ。
ここ最近の胸のざわめきの正体を。
(……いや、そうじゃない。私はずっと前から分かってたんだ。分かってて気付かない振りをしてただけ…………?)
柊かがみは誰に対しても―自分も含めて―素直になれない。
「分かってたのに……」
もの悲しげな店内のBGMが、彼女に中学時代を想起させた。







中学時代。
それまでの6年間とは違い、中学では学業成績を意識させられる。
小学校にもテストというものはあったが定期的なものではなく、しかも問題用紙は担任教師の手書きによる柔らかさがあったため、
受ける側は全く身構える必要はなかった。
いちおう点数がつけられ、良くも悪くも通知簿や家庭訪問で話題に上るもそれが即、重要な意味を持つ事柄にはなり得なかった。
勉強しようが怠けようが自動的に中学には進学できるから。
だからその6年間に関しては何も考えずに学生生活を送っていればよかった。
だが中学ではそうはいかない。
早熟者はこのあたりから進路を意識し出すし、そうなると俄かに教室は張りつめた雰囲気になる。
これまでの狭いコミュニティから一転、各学区から上がってきた他人たち共々に同じ教室に詰め込まれる圧迫感。
期待よりも不安の方が大きかった。
中学校は厳しいところだ。先生は恐い人ばかりだ。規律にうるさいところだ。
こうしたイメージが先行してしまい、入学当初は誰の顔も緊張に彩られていた。
案の定、かがみはつかさと別のクラスに分けられた。
右を見ても左を見ても知らない生徒ばかり。
不安が募る。
そんな境遇にもめげず持ち前の気丈さで乗り切っていたかがみは、2年生こそつかさと同じクラスになれるようにと強く願っていた。
だがその願いは叶わず、彼女はまたしても妹と切り離されてしまった。
社交性のあったハズのかがみは1年の早い段階でそうするべきだったのに、積極的に友人を作ろうとはしなかった。
つかさの保護者としての立場を優先するあまり、自身の付き合いに関してはなおざりにしてしまったのだ。
それが仇となったのが、この2年生の時からである。
特に女子は仲良しのグループを作りたがり、一度できたそれを改めることを厭う。
気がつくとかがみの周りには大小いくつものグループができていた。
特定のそれに属していなかった彼女が孤立するのは自明の理である。
ここにつかさがいれば少しはマシだったかもしれないが、柊の末双子は揃い揃って孤独の憂き目を味わう羽目になる。
そんな時、声をかけてきたのがみさおとあやのだった。
幼馴染みだという2人は緊張感とは無縁のみさお、その陰に隠れて淑やかな佇まいのあやのという見た目も中身も対照的な組み合わせだった。
話しかけられたことで弛緩したかがみは、彼女には似つかわしくないほど饒舌になりすぐに2人と打ち解けることができた。
みさおもあやのも、未知の人に対して垣根を作らない性格だったのだ。
この時、かがみはまだ、”打ち解けた”と認識していた。

276:空谷の跫音8
09/10/11 21:21:19 ucg0gPip0
友だちの輪は自然に広がっていくものだから。
今回はこれがキッカケで新しい友人ができたのだ、と。
その程度にしか思っていなかった。
しかし間もなく、その認識が誤りだったことに気付く。


同年、夏休み。
当時は個人情報取扱いについて五月蠅くなく、同級の者たちは配布された連絡網によって互いの家の電話番号を知り得た。
携帯電話も普及していたが今ほど浸透はしておらず、中学生に持たせるのは早いと考える親が大半だった。
みさおから柊家に電話がかかってきたのはそういう背景があってのことである。
「うちに遊びに来ねえ?」
前置きを嫌う彼女はこの頃から既に男の子っぽい口調だった。
この頃、学校生活に慣れてきたかがみにはクラスに友だちが数人いたが、
最も親しかったのはみさおとあやのだった。
「じゃあ今から行くわ」
予定のなかったかがみは即諾。
人見知りの激しいつかさはこういう時はたいてい姉と同行するのだが、
この日はたまたまみきと買い物に出かけていて不在だった。
「あ、そだ。柊、アルバム持って来てくれよ、アルバム」
「アルバム? 小学校の?」
「そうそう」
みさおには深い考えはなかった。
ただ新しくできた友だちがどんな小学校に通っていて、どんな事をしていたのかに興味があったに過ぎない。
「分かったわ。もうちょっとしたら出るから」
「オッケー。お菓子用意して待ってるぜ」
突然の申し出ではあったが、かがみがアルバムを物置から探し出すには時間がかからなかった。
卒業して半年も経っていないのだ。
どこに片付けたかくらいはすぐに思い出せる。
みさおに聞いた道順を辿る。
通りに面した小さな庭のある戸建。
それが日下部家である。
(そういえば遊びに来たのはこれが初めてね)
3人で遊ぶ時も決まって外で待ち合わせていた。
普段、学校でおしゃべりに耽っていてもどちらかの家に行くという話はなかなか出てこなかった。
行かなくとも次の日にはまた学校で会えるからだ。
「お、待ってたぜ。こっちこっち」
初めて来るということもあって、みさおは通りの中ほどでかがみを待っていた。
「けっこうオシャレなところに住んでるのね」
「まあな。でもちょっと前まではこんなに綺麗じゃなかったんだぜ」
「そうなの?」
彼女によれば数年前、近くで大型ショッピングモールの工事が始まった途端、それに合わせるように
道路から何から整備が施されるようになったらしい。
歩道が無機質なアスファルトから不規則な模様のレンガに置き換わると、がらりと印象が変わったという。
「お邪魔します」
律儀なかがみはこうした挨拶を決して忘れない。
「はーい、いらっしゃーい」
みさおが母親の真似をしておどけた。
彼女の部屋は2階の突き当たり。
薄茶色のドアを開けるとそこには―。
「あ、柊ちゃん」
あやのがいた。
彼女はテーブル上の臙脂色の表紙の本をまじまじと眺めていた。
「適当にくつろいでいてくれよ。ジュース淹れてくるから」
みさおはドアを開け放ったまま階下に降りていった。
(………………)
かがみが胸のざわめきを初めて感じたのがこの時だった。
臙脂色の表紙の本とは、あやのたちの小学校の卒業アルバムだったのだ。

277:空谷の跫音9
09/10/11 21:22:43 ucg0gPip0
「へえ、それが峰岸たちの学校のアルバムなんだ?」
「うん」
かがみはあやののすぐ横に座り、彼女に倣ってページを追っていく。
大小さまざまに紙面を覆う写真。
まず校長と校歌が紹介され、その次に教職員たちの集合写真。
その後はクラス単位での活動が記録されている。
遠足、運動会、音楽発表会、修学旅行―。
「ああ、それはイチゴ狩りに行ったやつだな。2年の時だっけ」
という声にかがみが顔をあげると、お盆にジュースとビスケットを乗せたみさおが立っていた。
「こん時はあやのがさぁ―」
「もう! その話はやめてよ」
したり顔のみさおに、あやのは些か狼狽した風を晒した。
「柊、アルバム見せてくれよ」
「え? ええ、いいわよ」
かがみは鞄の中からアルバムを取り出す。
こちらは藍色の表紙だ。
が、装丁や構成はどこの学校も似たり寄ったりである。
3人は両方のアルバムを比べるように並べ、順番に1ページずつめくっていく。
「へえ~柊んとこは組体操が無かったんだ?」
「うん、危ないからってPTAが反対したらしくてね。昔はあったみたいだけど」
「校外学習っていう言い方は共通なのね。遠足でいいと思うけど」
「そのほうが締まりがあるからじゃない? そういえば峰岸たちって修学旅行はどこに行ったの?」
「九州よ。地獄巡りとかハウステンボスとか」
「同じね。こういうのってどこの学校も行き先は同じなのかな」
「兄貴は長野にスキーに行ったらしいぜ。年によって違うんじゃね?」
という具合に彼女たちは互いに記憶を辿りながら、あるいは重なりあるいは相違する6年間を振り返った。
その中でつかさの話は殆んど出てこない。
時たまに忘れ物をしたつかさがかがみに借りに来るというお決まりのパターンができていたため、
その場に居合わせるみさおたちは一応は双子の妹がいることを知っている。
だがつかさ自身、用を済ませるとそそくさと教室を出て行ってしまうため接点が持てなかったのである。
アルバムを繰りながらつかさについて触れられたのは、
「妹ちゃんって昔は髪長かったのね」
というあやのの一言のみだった。
―女は3人寄れば姦しい。
この俚諺は条件に合致する全ての場合に当てはまるものではない。
場を取り巻く空気はアルバムの中ほどまで進んだ頃に変わり始めた。

”○○年卒業生 ~~6年間の歩み~~”

というタイトルが躍るページには、全校生徒が関わる行事の中で卒業生だけをピックアップした写真が並んでいる。
校外学習と称した演劇鑑賞会や春秋の運動会、ボランティア活動などの種々の軌跡が収められている。
「あ、これこれ。自然教室の2日目。写生大会の時」
みさおが中段の写真を指差した。
旅館を出、森林に向かうみさおとあやのを後ろから捉えたものだ。
「この後、急にヘビが飛び出してきてさ。あやのってば私にしがみついてきたんだよな」
「み、みさちゃん!」
「”助けて~”って、あん時のあやのには笑ったよなー」
「へえ、そうなんだ」
「でさ、旅館に戻ったら部屋に荷物まとめるための紐を置きっぱなしにしてたんだよ。
そしたらあやのがそれ見て、”また出た~!”って走っていくんだぜ」
「みさちゃん……恥ずかしい話はやめてよぅ……」
「峰岸ってヘビ苦手なんだ?」
「得意な人なんていないよ、ヘビなんて……」
「だからってあれは怖がりすぎだろ。ただの白い紐なのにさ」
「あの時は気が動転してたの!」
八重歯を見せて笑うみさおに、あやのは耳まで真っ赤にして反駁した。

278:空谷の跫音10
09/10/11 21:23:49 ucg0gPip0
「秋の遠足の時もそうだったよな。コオロギが頭の上に止まってさ」
「うう……早く忘れてよ……」
「でも絵がむちゃくちゃ上手いんだぜ。この写生大会の時のだって入賞してるしな」
「そうなんだ……」
「私なんかじゃ絶対ムリ。絵なんて全然描けねーもん」
「でもみさちゃんだって体育大会で2位になったじゃない」
「いやいや、ああいうのは1位じゃないと意味がないんだよ」
相槌を打っていたかがみは疎外感を感じている自分に気がついた。
思えばアルバムを……という話になった時点でこうなる事に気付くべきだったのかもしれない。
この2人との間にある途轍もなく大きな隔たりを感じ取るべきだったのだ。
臙脂色のアルバムを通して、みさおとあやのは思い出話に花を咲かせている。
そこにかがみが入り込む余地はない。
自分と彼女たちとは違う小学校だったから。
行事の中身は同じでも共に過ごした時間はゼロなのだ。
時折、主にみさおがかがみの学校ではどうだったかと話を振ってくる。
その時には話題に加わることができる。
が、今となってはそれすらも彼女にとっては苦痛だった。

『柊んトコは?』
『そっちは……』
『うちらの学校じゃ……』

こうした言葉を投げかけられる度、かがみはいちいち隔たりを感じさせられる。
敵対的なものではない。
だが区別をつけられているようで、どうしても”1対2”という構図から抜けられなくなってしまう。
「あやの」
「みさちゃん」
部屋に上がってから、この呼称を何度聞いただろうか。
かがみは思った。
自分にとってこの2人は、出会った時から”日下部”と”峰岸”だった。
親しくはなった。
しかし打ち解けたのではない。
柊かがみ、日下部みさお、峰岸あやのという3人グループを形成したわけではなかった。
柊かがみという少女が、既に完成されているコンビの中に入り込む恰好となっているのだ。
だからこそ互いに名前で呼び合う2人に対し、彼女は名ではなく苗字で呼んだ。
最初からある垣根がそうさせていたのだ。
(………………)
いつしか2人はかがみそっちのけで思い出話に沸いていた。
和気藹々と盛り上がる彼女たちを見ているうち、かがみは急に恐れを抱くようになった。
決して対等の立場に立てないという恐怖。
3人組ではなく、永遠に”2人の中に加わった部外者”という立場から逃れられない恐怖だ。
たとえばこの先、みさおかあやのと揉めるような事があれば―。
きっと彼女たちは互いに庇い合うだろう。
たとえかがみが正しかったとしても…………。
彼女に左袒することはないだろう。
幼馴染みという間柄が生む絆は強い。
一見仲良しを演じていてもそこに亀裂が生じれば、結びつきの強い者同士はよそ者を容易く切り捨てる。
(なんか居場所がないみたい…………)
そう彼女が思うのは、今もアルバムを繙(ひもと)き自分には分からない話題で盛り上がっている
2人が否応なしに視界に飛び込んでくるからだ。
「―柊ちゃんってば」
「え…………?」
いつの間にか相槌を打つのも忘れて自失していたかがみは、目の前にあやのの顔があることに気付いた。
「大丈夫?」
体調が優れないものと思ったらしい。
あやのは心配そうにかがみの顔を覗きこんだ。
「あ、うん。なんでもないわ」
心中を悟られまいと彼女は大仰に手を振って笑んだ。

279:空谷の跫音11
09/10/11 21:26:23 ucg0gPip0







「思えばあれが最初だったのよね」
考え事をしていても体は自分が欲するものを無意識に求めるらしい。
既にグラスのコーヒーは半分ほどがかがみの胃の中に消えている。
しかしほろ苦い液体が空腹を満たすのとは対照的に、彼女の心の中は時間を追って空虚になっていく。
「同じクラスでじゃれ合ってても、日下部たちとはどこか違うのよね……」
その原因は繋がりの強弱にある、とかがみは分かっている。
付き合いの長さが絆の深さを育むのあれば、彼女は決して2人には及ばない。
永遠にその距離は縮まらないのだ。
(………………)
これはただ成り行きによるものだけではない。
かがみ自身、積極的にその差を埋めようとはしなかった。
みさおと居ることが苦痛なのではない。
あやのと話すことが辛いわけではない。
この2人と共に過ごす時間が耐え難いのだ。
ところが現実は孤独感を味わう者に対して常に辛辣なシチュエーションを用意してくれる。
みさおとあやの。
彼女たちはいつも一緒にいた。
姉妹のように。
かがみが見る限りでは片時も離れずに行動していた。
それが距離を縮められない理由だった。
(だってそうじゃない……いつも私は一歩退いたところにいるんだから……)
この柊かがみという才媛は本音と建前の持つ意味をよく心得ている。
心得ているからこそ自ら本音を曝け出すような真似はしない。
(ホントはもっと仲良くなりたいなんて言えるわけないじゃない……!!)
彼女は幼い頃に強くなることを覚えた。
そのキッカケを作ってくれたのはつかさだ。
二卵性のため双子の妹といっても、性質はずいぶんと違う。
自分と違い引っ込み思案で勉強も運動も苦手な妹。
両親は逆に何でもそつなくこなすかがみに何度となく、
『かがみはしっかり者だ』
と言っては褒めそやした。
利発な彼女はその褒め言葉の裏に、”だからお前がつかさの面倒を見てやってくれ”という意味を読み取った。
この勘繰りは強(あなが)ち間違いではなかった。
柊つかさはいのりでもまつりでもなく、かがみにべったりだったからだ。
”妹を守ってやれるのは自分しかいない”
という使命感に近いものを彼女が抱くようになったのは小学校に上がった頃である。
誰かを守るためには自分が強くなくてはならない。
甘えや依存に溺れているようでは妹はおろか、自分すら守れなくなる。
子供ながらにそう達観したかがみは強さを求めた。
勉強もスポーツだけではない。
規則正しい生活を送り、朝は早くから自分で起きて勉強を怠らず、夜は更かさずに寝る。
実に模範的な生活スタイルを確立した彼女は、完璧主義とは行かないまでも、
万能の姉として誇れる存在でありたい、そう思われたいと強く願うようになった。
完璧になれなかったのは彼女に料理の才がなかったからだ。
こればかりはつかさの足下にも及ばなかった。
たったひとつでも妹に劣る分野があるということは、かがみにとってはストレスである。
彼女はその苛立ちを努力によって克服するのではなく、間食という逃避に奔って解消した。
その結果、体重が増えるという副作用を起こす。
そうしたジレンマに苛まれながらも、かがみは理想の姉として振る舞うことに腐心した。
挙句に得たのは強さを隠れ蓑にした狷介不羈。
強さを求めた彼女は、その源は意固地であることだと読み違えてしまっていた。
弱さの露呈を殊更に恐れるようになったかがみは、本音を晒すことを禁忌だと決めつけた。

280:空谷の跫音12
09/10/11 21:28:16 ucg0gPip0
本当はもっとみさおと話したい、あやのと遊びたいと思っていてもそれは決して表には出てこない。
弱みを曝け出すことになるから。
それではまるで自分が彼女たちより格下で、親しくしてくれと頼み込む恰好になるではないか。
(今さらできないわよ……)
かがみは拳を握り締めた。
そんな彼女の性質を”ツンデレ”という言葉で片付ける少女がいた。
(そうか……だから…………)
昂ぶった感情を抑えようと、かがみは静かに目を閉じた。
途端、記憶に新しい光景が暗闇の中に広がった。







陵桜に入ってしばらく経った頃。
やはりと言うべきかつかさと離れ離れになったかがみは、幸か不幸かみさおたちと同じクラスになった。
中学時代と変わらない3年間を送ることになるのか。
かがみはつい悲観的な予想をしてしまう。
後に”背景コンビ”と自蔑する2人とのこれまでの付き合い方によって、彼女は進んで他人に話しかける勇気を持てなくなった。
初めて見る顔ぶれの中にも、きっと以前から繋がりのある友人がいるに違いない。
かがみがいくら新しい出会いを求めても、みさおにとってのあやののような存在が必ずちらついた。
(私にも幼馴染みがいて陵桜の生徒だったら良かったのに……)
残念ながらそんな人間はいない。
このクラスの中で最も古い付き合いなのは、やはりみさおたちなのだ。
諦観しかけていたかがみだったが転機は突然に訪れた。
最近、つかさが妙に明るいのだ。
その理由を問うと、泉こなたというクラスメートと親しくなったかららしい。
つかさが外国人に声をかけられて困っているところをこなたが助けてくれたのがキッカケで仲良くなったという。
その話を聞いたかがみは些かショックを受けた。
自分よりもずっと内向的な妹でさえちょっとした理由で友人ができているのである。
「そうなんだ。じゃあ姉としてお礼を言わなくちゃね」
と余裕の振る舞いを見せたかがみだったが本心はそこではない。
礼を述べる旁、あわよくばその泉こなたに近づきたいというのが本音だ。
つかさを介しての友だちならば自然に付き合える。
何よりそうすることで窮屈な現状から抜け出せるのだ。
つまり背景コンビと自分、という構図からの脱却。
即ち次は自分がみさおとなり、つかさがあやのとなり、泉こなたが柊かがみの立場になる。
2対1という疎外感を味わわずに済む。
(別にその泉さんって人に疎外感を感じさせたいわけじゃないわよ)
本人にその意図はなくても、結果的にこなたを犠牲にして自分が3人の中で優位に立ってしまう構図は変わらない。
「今度紹介してよ。その泉さんって人」
こうしてかがみはごく自然な流れでつかさの教室に入り込み、こなたとの接点を得た。
以来、彼女は学校での大半をつかさたちと過ごすようになった。
幸い学級委員長つながりで話すようになったみゆきも同じクラスにおり、彼女も含めて4人の仲良しグループを形成するに至った。
オタクのこなた、博識のみゆきという濃いキャラクターではあったが、そこにつかさが介在しているお陰で違和感なく溶け込める。
しかも運の良いことに2人とも過去の付き合いというものを持ち出してこない。
(もしかしたらこなたとみゆきも陵桜で一から人付き合いを始めたいって思ってるのかも?)
かがみは思った。
この2人からは中学時代や小学時代の話を全く聞かない。
(あからさまなオタクとかみゆきみたいなお嬢様っぽい人はみんな敬遠するのかもしれないわね)
そうなると彼女は安心できる。
自分と同じく交友関係が狭い者同士、傷を舐め合うよう―ただし互いに相手に悟られないよう―に生きていける。
常識人でしっかり者という立ち位置をキープしながら、かがみはこの関係が崩れないように努めた。
別段難しいことはない。
勉強嫌いのこなたに対しては呆れながらも宿題を写させてやったり、分からないところを教えてやったりするだけでいい。
これはつかさへの扱いと同じなので簡単だ。
またこなたがオタクである事から、多少その方面の知識も身につけておく。
こうすれば彼女のボケにも的確なツッコミができるし、必要なら話を合わせることもできる。

281:空谷の跫音13
09/10/11 21:29:38 ucg0gPip0
一方で才女みゆきとの付き合い方はこれまで通りとはいかない。
彼女は自分よりも博学で瑶林瓊樹の淑女だ。
こなたたちのように優等生というキャラを貫いていては見劣りしてしまう。
都合の良いことにみゆきは秀才で間違いはないのだが、天然という別の面もある。
おまけに歯医者に対する極度の恐怖心が彼女自身の欠点として露呈してしまっている。
かがみはそこを巧みに衝き、みゆきが時たまに見せる弱さを慰撫する役目に回った。
普段は逆立ちしても敵わない相手だがこの時だけは自分が上にいることを実感できる。
グループを形成するにあたり、彼女は2人を名で呼ぶことにした。
よそよそしくならないように親しみを込めて。
垣根を作らないために。
みさおたちの区別という意味もあった。
自分のことを苗字で呼ばせないためでもあった。
彼女はそれなりに幸せだった。
みさおたちと居ては決して得られなかった居心地の良さがあった。
かがみはつかさに感謝した。
彼女がいなければこの小さなコミュニティは成立し得なかっただろう。
ある日のことだった。
その幸せをあっさりと瓦解させ得る一言が、意外な人物から発せられたのだ。
何の脈絡もなく、突然に―。
昼休み、お弁当を持ってかがみがつかさたちの教室を訪れた時だ。
「かがみってよくここに遊びに来るけど、クラスに友だちいないの?」
恐らくこなたは何の気なしに放ったのだろう。
しかしその言葉は恐ろしいほど鋭利で冷たい牙となって、かがみの心を容赦なく抉剔した。
かがみは辛うじて吐き気を堪えた。
こなたがこれを言うと予想できたなら、彼女もここまで心身の苦痛を味わわずに済んだかもしれない。
ショックには変わりないが覚悟を決めることくらいはできたハズだ。
「あんたと一緒にするな」
カラカラに渇いた喉はたったそれだけの言葉さえ容易には発声させない。
だがこう言うしかなかった。
今のかがみにはこれ以外の答えはない。
”いる”とも”いない”とも言っていないことに、こなたは気付いただろうか?
かがみは敢えて真正面からこなたを見た。
そうしなければ激しい動悸に打ち負かされ、今に気を失いそうだったからだ。
「なんだ、てっきりハブられてるのかと―」
彼女がどういう意図でそう言ったのか、かがみには分からない。
単なる掛け合いの延長だろうか。
泉こなたという少女はしばしば毒を吐いては周囲の空気を変える。
これはただの毒舌の為せる業なのだろうか。
あるいは彼女はバーチャルの世界に身を置く振りをしながら、その実は現実の人間の機微には極めて敏感で、
孤独感に苛まれていた自分に本心を吐露させるために敢えて核心を衝く一言を叩きつけたのだろうか。
かがみには分からなかった。
彼女にできる精一杯の抵抗は、
「あんた、私らと知り合う前って友だちいたの?」
自らを棚に上げて反駁することだけだった。
これがどれほどの効果を持ったかは明らかではない。
物事に対して斜に構えるこなたなら、この程度の切り返しは意にも介さないだろう。
だがかがみの立場からすれば、それが虚しい仕返しだったとしても言わずにはいられなかった。
クラスに友だちがいたら何だというのか?
いなかったとして、それがどうなるのか?
そういう意味の言葉をぶつけてこなたを詰りたくなったかがみだが、仮にそうしたところで得られるものは何もなく、
むしろ漸く完成させた居心地の良いグループを解消させてしまう恐れがある。
そこまで瞬時に思考を巡らせたかがみはそれ以上の追及はしなかった。
否、その話題に触れないようにした。
自ら傷口を押し広げる必要はない。
安定した関係性をぶち壊すことに意味はない。
友だち―。
これは密かにかがみが欲しがっていたものだ。
1人より2人、2人より3人……。
多ければ多いほど彼女は安心できる。
ただし誰でもいいというわけではない。

282:空谷の跫音14
09/10/11 21:30:47 ucg0gPip0
友だちという存在は諸刃の剣であることを英邁な彼女はよく心得ている。
数を増せば増すごとに分裂する傾向があるのだ。
多数となった時、何を条件にかそれらは別個のグループを形成してしまう。
これを防ぐ手立てはひとつ。
スタートラインを同一にすることである。
つまるところ集った全員が互いに初対面である状況から始めなければならない。
こうすればグループに偏りができなくなる。
ただしこれで慢心してはいけない。
友だちを蝕む病は先天的なものだけとは限らない。
次に注意を払わなければならないのは後発的な事象―付き合い方である。
常に友だちと過ごす密度を等しく保たなければ均衡が崩れてしまう。
それをよく知っているかがみは、休み時間になるとすぐにつかさのクラスに駆けて行った。
少しでも3人と一緒にいられるように。
もしこれを怠れば自分を除く3人の結束が強くなり、いつしか柊かがみはその輪から閉め出されてしまうだろう。

―付き合いの深さによって生じた差はいかなる方法を用いても埋めることはできない。

中学時代、達観したかがみが既に学んでいることである。
そんな彼女だからこそ許せない言葉があった。
陵桜最後のクラス替え。
クラス割を見る前から殆ど諦めていたかがみは、一縷の望みを抱いて貼りだされた表を目で追った。
真っ先にこなたの名を見つけ、次いでみゆき、つかさの名を同欄に認めたかがみは、
そのすぐ上にあるハズの自分の名前がないことに気付く。
今年も駄目だった。
覚悟していたハズなのに、かがみは強い力で全身を締めあげられているような苦痛を味わった。
そんな時に声をかけてきた少女―。
「おーっす、柊。クラス割どぉ?」
聞いてくれるな、と彼女は思った。
たったいま受け容れた事実を、陽気な声で蒸し返されたくない。
「おっ、また同じクラスじゃーん。中学時代も合わせるとこれで5年連続か~?」
そう言われて漸く気付く。
”5年”という言葉にではない。
自分の名前がC組にあるという事実にだ。
「えっ―?」
思考の海に溺れていた彼女は、気の利いた返事ができず無意識的に息を吐いていた。
その時だ。
「いるよなー自分の第一目標以外目に入らない薄情くんてさー」
明らかに当てつけと思われるみさおの一言。
「私らはさながら背景ですぜ」
あやのも横におり、拗ねる幼馴染みを相変わらずの困り顔で慰めるという役を演じていた。

『ちがう!』

そのたった一言がどうしても出てこない。
かがみは知っていた。
みさお、あやのとは中学2年の頃からずっと同じクラスだった。
気がつかないハズがない。
この2人は中学の時、孤独感に押しつぶされそうになっていた自分に手を差し伸べてくれた無二の友だち。
優しく、自然に接してくれる稀有な存在。
自分を孤独から救い出しては新たな孤独に陥れる、自称”背景コンビ”。
もちろん2人にそんな意図など微塵もないことをかがみは分かっている。
悪意がないだけに彼女はこの2人といる時間が苦痛だったのだ。
裏表なしに付き合ってくれるみさおたちに比し、勝手に人間の黒い部分を妄想しては避けている自分が短矮に思えてくる。
―惨めだ。
一方通行の友情は決して交わることはない。
みさおといればあやのの、あやのといればみさおの影が必ずそこにある。
孤独を超えた疎外感を否応なく味わわされる。
(背景なのは……私のほうよ…………!!)
授業が終われば足繁く隣のクラスに通う1年をまた繰り返すのか…………。
かがみは憂鬱になった。

283:名無しかわいいよ名無し
09/10/11 21:33:19 ucg0gPip0
 今日はここまでです。
これで半分ほど終わりましたので次々回くらいに完結します。
ではまた。

284:名無しかわいいよ名無し
09/10/11 23:27:58 txjK1Q3+0
かがみ「今、私のほう見て笑った?」

285:名無しかわいいよ名無し
09/10/12 04:20:25 Sj3dHUbH0
こなた自殺スレのキチガイは死ね

286:名無しかわいいよ名無し
09/10/12 07:55:18 HsPqPYXAO
自殺スレの基地外を追い出した実績のある紳士の復活をキボン

287:名無しかわいいよ名無し
09/10/12 09:47:42 FAanQlP00
柊かがみの憂鬱

288:名無しかわいいよ名無し
09/10/12 12:51:46 zvoxdHjv0
面白かった~
次回が楽しみだ。
しっかしよくこんな文章かけますよね
この手の話は、自分が経験するか、深く物事を考えるかしないとできませんよ
すごい!

289:名無しかわいいよ名無し
09/10/12 17:32:06 gyi2jrl10
あれ?
ここぼっちスレであってんですよね?

290:名無しかわいいよ名無し
09/10/12 21:12:22 QUBH+ytb0
ぼっちみんは絶対テレビの朝の占いを信じちゃうタイプ
URLリンク(imepita.jp)

291:名無しかわいいよ名無し
09/10/12 21:26:34 gyi2jrl10
>>290


URLリンク(image.i-bbs.sijex.net)

292:名無しかわいいよ名無し
09/10/12 23:35:14 DSTTTe9l0
>>290
髪伸ばしたつかさ可愛いがかがみはロングの方がいいなw

>>291
ぼっちになって何もやることないと妄想ばかりになるの

293:名無しかわいいよ名無し
09/10/12 23:37:31 DSTTTe9l0
ageてしまってたスマン

でも乙

294:名無しかわいいよ名無し
09/10/12 23:45:29 FAanQlP00
次は13日の9時に投下?
続き

295:名無しかわいいよ名無し
09/10/13 00:17:52 +7KECw/i0
可愛い絵と殺伐とした絵が同居するのがぼっちスレの醍醐味か
つか過疎ってても絵師に恵まれてるのな

296:名無しかわいいよ名無し
09/10/13 00:32:23 4IdIyfBA0
オナニー小説うぜえな

297:名無しかわいいよ名無し
09/10/13 00:48:47 7v7MjC2a0
>>296
じゃあ読まなきゃいいだろ
それとも君がSSを投下してくれるのか?


298:名無しかわいいよ名無し
09/10/13 01:14:48 4IdIyfBA0
ははは小学生かおまえ
死んでいいぞ

299:名無しかわいいよ名無し
09/10/13 01:36:56 lTKXTTsY0
私のことで喧嘩はやめてよね
              ,
           , ィ//____
       /´ ̄: : :!: : : : : :.`ヽ
   ┌‐ァ´/:/: :.l: ∧: :.!: : :`ヽ: \
   Y´:{:/: : /__:イ:/  !__!、:.!: : :ヾー ゝ
   {:::::/:{: /´/l/  l/ `}:|: : l: :}
    `Y: イ  ''''''   ''''''::::::  :|: :|
     |∧!:/ (●),   (●)、.:|
    |l: 込.  ,,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|
    |:!:. ート、''`^-=ニ=- ノ ' :::::::| 
    |:.ヽ: :| ` ァ-ャ<.  |: :l:.|
    |: :.}: :| /l ></ ト、 |: :l.:|
    |: :.|: :|/ |/}::::{ヽ!l V: :イ.:|
    |: :.|: :| /| { .》::《 | |∧/ !:.|
    |: :.|: :|〉 l l .{:::::} l l | |:.:|

300:名無しかわいいよ名無し
09/10/13 07:12:47 7v7MjC2a0
>>299
ぶさキモ・・・
荒らしと一緒だよ、それ

301:名無しかわいいよ名無し
09/10/13 14:18:38 7v7MjC2a0
長編大作の人、今夜も楽しみにしてますぜ~!


302:名無しかわいいよ名無し
09/10/13 15:56:38 r+1jUZ+k0
 申し訳ないのですが今夜は投下できないので、明日か明後日になってしまいます。


303:名無しかわいいよ名無し
09/10/13 16:34:35 dxezVKQmO
今QMAやってたらまたきふゆかがみが出て来た

304:名無しかわいいよ名無し
09/10/13 17:44:46 7v7MjC2a0
>>302
わ、、わかちました!
まったり待つことにします(*'-'*)

305:名無しかわいいよ名無し
09/10/14 18:30:19 3qFhIvHW0
腹話術はしなくていいです

306:名無しかわいいよ名無し
09/10/14 21:13:13 7SbDl/CK0
 みなさん、こんばんは。
本日分の投下参ります。

307:空谷の跫音15
09/10/14 21:14:47 7SbDl/CK0







ストローが空気とともに液体を吸い上げる時特有の下品な音を立てた。
「…………」
汗を掻いたグラスは2杯目のコーヒーを歪になった氷を使って催促した。
が、かがみはそれを無視して頬杖をつく。
彼女は頭痛に悩まされていた。
喉の渇きは癒えたが、空腹にこれは刺激が強かったらしい。
或いは陰鬱な過去ばかりを立て続けに思い出し、脳が訴える苦痛の種類を間違えたのかもしれない。
(急に冷たいものを飲んだからに決まってる)
彼女はそう思い込むことにした。
辛辣な現実の積み重ねはもううんざりだ。
自ら人気のない喫茶店にやって来たのだ。
惨めな想いなどするものか。
ひとり強がるかがみは涙を流している自分に気付かない。
記憶というものは実に厄介だ。
憶えておきたい事柄ほど容易く抜け落ち、忘却してしまいたいものほど強く鮮明に残ってしまう。
さらに手に負えないのは、それらがある関連性を以って強固に結びついている点だ。
この関連性を断ち切るのは極めて難しい。
そうしようと意識した途端、それらは本人の意思とは無関係に記憶の底に膠着(こびりつ)く。
「はぁ…………」
こうしてため息をつくと幸せが逃げていく、とみさおが言っていた。
「はあ…………」
だから連続で出るのだとも。
ネガティヴとはおよそ無縁で勉強を嫌い、体を動かすことを好む日下部みさおは、
面倒見の良いあやのが居なくては単なる自堕落の怠け者になっていたかもしれない。
みさおがポジティヴを体現できるのは、あやののお陰なのではないか。
かがみは思った。
能天気と嘲ることもできたが、彼女のそれは単にその言葉だけでは片付けられない。
ただ明るいだけならどこにでもいる。
五月蝿いだけの人間ならどこにでもいる。
日下部みさおはそう単純ではない。
彼女は周囲を巻き込むのが上手いのだ。
底抜けの明るさで無神経に自分のペースに引き込み、陰鬱な気持ちを吹き飛ばしてくれる。
しばしば子供じみた言動に対してかがみは呆れ顔で返していたが彼女自身、
そうした掛け合いを楽しんでいた節もある。
思い返せば声をかけるのは決まってみさおからだった。
物怖じしない性格によるものなのか。
静より動を好む性分だからなのか。
実はかがみの心に気付いており、孤独感を紛らすためのアプローチだったのか。
それは本人にしか分からない。
しかし彼女のそうした性質が時にかがみを救い、時に傷つけたのは間違いない。
そのみさおでさえ、ため息をつくと幸せが逃げると知っていた。
(でも私……思いっきり叩いちゃったのよね…………)
あの瞬間、終わったとかがみは思った。
どんな理由があろうとも手を上げるのは許されない行為だ。
かがみはそれをした。
「わたし…………」
みさおに触られたのはあれが初めてだった。
かがみの現実的なツッコミに、泣きついたみさおの頭を撫でるあやのを何度も見てきた彼女は、
自分もあんな関係になりたいと冀(こいねが)った。
たとえ叶わぬ夢であろうとも。
単なる友だちではなく昵懇の間柄として。
だからみさおに脇腹をつままれた時、かがみの頭の中はぐちゃぐちゃになった。
気がつくと―みさおの頬を張っていた。

308:空谷の跫音16
09/10/14 21:16:27 7SbDl/CK0
「いろいろショックでかくて……」
あの取り繕いは虚しかった。
こんな時にさえ素直になれない自分が、かがみは大嫌いだった。
(そうよ、ショックだったのよ……日下部があんな……)
スキンシップと表現すると些かの語弊が生じるが、紛れもなく彼女の望む関係性だったハズだ。
それを自らの手で台無しにする。
たとえ無意識だったとしても……行動が引き起こす結果に差異はない。
偏りながらも何とか成立していた仲はこれで破綻した―かがみはそう思っていた。
だが柊かがみはみさおという人物を正しく見てはいなかった。
彼女はその後も、何事も無かったかのようにかがみと接した。
叩かれた事を怒るでもなく恨むでもなく。
謝罪の言葉すら求めずに同じ関係を保とうとしてくれたのだ。
「私は……もしかしたら態と嫌われようとしたのかも知れないわね……」
いくらか冷静になるとこうした思考もできるようになってくる。
彼女の本心と真っ向から対立する仮説だ。
が、理由には頷けるところがある。
敢えてみさおに嫌われる行動をとることで激怒させる。
みさおを第一に考えるあやのなら、必ず彼女に味方して一緒になってかがみを批難しただろう。
会話するどころか、視線すら交わすこともなくなるかもしれない。
そうして”背景コンビ”と疎遠になる。
そうすればつかさたちと戯れる事に正当性を持たせられるし、何者にも気兼ねする必要もなくなる。
(そうかも知れない…………)
休み時間ごとに教室を出ていたかがみだが、そこに罪悪感がなかったわけではない。
自分を友だちと慕ってくれるみさおたちに対する背信感だ。
これがあるから彼女はどっちのグループでも定着できないでいた。
「でもいくら居心地が良くないからってあんなコト―」
生真面目なかがみはそういう強硬手段を厭う。
フェアなやり方ではないと認識している。
悧巧だが籌(はかりごと)を用いて相手の出方によって身の振り方を決めるのは卑怯だ。
(………………)
記憶と記憶とを繋ぐ強い関連性は、かがみにそのすぐ後の出来事を思い出させた。
悪いことばかりではない。
かがみとしては避けたかった事態だが、自分を含めこなたとみさおが顔を合わせてしまったのだ。
互いに顔を知っている者同士、どちらか一方を無視する訳にもいかない。
迷った末、かがみはつかさグループとみさおグループを紹介することにした。
どうせ逃れられないのなら開き直って自分には両方と交友があると明らかにしてしまったほうがいい。
「こんな時期だけどよろしくな」
「こちらこそ」
彼女の危惧に反して険悪なムードにはならなかった。
3年も中頃の今になって共通の友人を介するグループが顔を合わせるなど、傍目には滑稽な一場面である。
「かがみはうちのだから」
「いいや、うちんだ!」
極めて意外な出来事が起こる。
柊かがみを巡って2人が所有権を争い始めたのだ。
片方はずっと同じクラスであることを強みに、片方は日頃の付き合いの長さを武器に。
その時の嬉しさをかがみは生涯忘れないだろう。
自分が必要とされていると強く実感できる瞬間だったのだ。
同時にみさおたちを蔑ろにしていた自分を憎む。
「柊ちゃん、人気者だね」
そう言って笑うあやのは少し寂しげだった。
「所有権主張されても嬉しくないわよ……」
かがみはそう誤魔化したが、内心ではそんな言い方しかできないことが牴牾(もどか)しかった。
本当は体いっぱいを使って喜びを表現したかった。
嬉しい、ありがとうという言葉を叫びたかった。
だが時は既に遅く、強さを求め本心を隠すことに慣れた彼女は、心情を吐露する方法を忘れてしまっていた。
(あの時、素直に喜んでいればよかった…………)
後悔ばかりだ。
「んー? 柊、照れてんの? 嬉しーの?」
「かがみはカワユイねぇ~」
にやけた顔で髪を触ってきた2人には感謝してもし足りない。

309:空谷の跫音17
09/10/14 21:18:04 7SbDl/CK0
(垣根を作ってたのは……私だったの……?)
かがみは考えた。
そもそもみさおにしてもこなたにしても、敬遠する素振りは一切なかった。
同級生なのだからそれは当然だ。
特別な間柄ではないし、気を遣う理由もない。
(日下部と峰岸の間柄には敵わなくて……だから避けてたのは間違いないけど……)
思い至る。
(といって、つかさたちと一緒にいて心から満足してたってワケじゃない……。
日下部たちに対する申し訳なさもあったし何より…………)
何より、彼女はつかさたちのグループであぶれないようにと、そこにばかり気を揉んできた。
その意味では安堵よりもむしろ常に緊張感を持っていたハズだ。
心安らげるところはどちらにもないのかもしれない。
(でも……少なくともあいつらは私のコト―友だちだって思ってくれてるのよね……)
ここは揺らぎようのない事実である。
彼女たちが裏表のある性格で表面上は仲良しを演じていて、後ろでは罵詈讒謗の限りを口走っているというのであれば、
もはやかがみには救いはない。
しかしあの時、そういう演技をする事にメリットのない状況で2人は所有権を争っていたのだ。
差別意識も何も持たない、単純明快なみさおとこなたには心から感謝しなければなるまい。
(なのに私ったらすぐに隣のクラスに出かけていたから…………)
彼女が習慣的に行っていた逃避はある日、意外にも担任の口から発せられた言葉によって改めて自覚させられることになる。
「あー、柊…………」
なぜかその担任は言いにくそうに、唇を殆ど動かさずに彼女に言った。
「学級委員長だがな。他に立候補している生徒がいるんだが……彼女に任せてもいいか?」
休み時間になり、担任はかがみを廊下に呼び出してこう切り出した。
「え、どうしてですか?」
直前のレクリエーションでは学級の係や委員決めが行われていた。
大多数の生徒はこういう役を引き受けたがらない。
したくもない用事の増える厄介な仕事だからだ。
かがみは多くがそう思っているのを知った上で立候補していた。
が、その他の委員が押し付け合いの末に決まっていく中、学級委員長だけは保留扱いにされた。
「いや、その子も意欲的なんだよ。いろいろ考えたが、彼女の方が適任だと思ってな」
「そんな……」
かがみは進んで泥を被ろうとしているのではない。
体の良い雑用係を担うのは彼女が聖人君子だからではない。
ひとつには将来のためという理由がある。
学級委員長を歴任しているとなればウケがよく、多少なりとも進学に有利に働くと思っているからだ。
打算を嫌うかがみもこの魅力には抗いがたい。
しかしそれはあくまで副次的な効果であって、本意はそこにはない。
かがみは学級委員長という役柄そのものが欲しいだけなのだ。
文字どおりクラスの長となるその冠は、みゆきと出逢わせてくれた特別なものだからだ。
たとえ離れ離れになっていても学級委員長という仕事を通して彼女と関わることができる。
そのキッカケに利用しているに過ぎないのだ。
「どうして私じゃ駄目なんですか?」
感情的にならないように気をつけながら、しかしかがみは明らかに不服そうな目を向ける。
口調こそ穏やかだが言葉尻は憤りをさえ感じさせる。
「うむ…………」
生徒の信頼を失うことを恐れる担任は、どう説明すべきか思案した。
しかし日頃の成績を見ているだけに、彼はかがみが優秀であることを知っている。
「まあ、なんだ。柊、しょっちゅう別のクラスに出向いてるだろ。いや、それが悪いというわけじゃないんだ。
ただな、委員長というのはクラスのまとめ役だから、な。柊には向いてないと思うんだよ。
クラスの中には柊と打ち解けてない者も多い。仕切るのは難しいんじゃないかな」
下手な誤魔化しは通用しないと悟ったこの担任は素直に打ち明け、彼女の良心に訴える方法を選んだ。
「………………」
「それに部活もやってないだろ? 体裁というか何というか……示しが、な……」
理解こそするが納得はできないかがみ。
しかし言い返すこともできない。
自分のクラスを蔑ろにする者がリーダーシップを発揮できるハズがない。
この点を衝かれると反論の余地はない。
何度かのやりとりの末、かがみは立候補を取り下げた。

310:空谷の跫音18
09/10/14 21:21:38 7SbDl/CK0
つまらない役柄のためにクラスに縛られるくらいなら、自由に隣の教室に出入りできる立場のほうがいい。
彼女はそう判断したのである。
(別にいいわ。みゆきとはいつでも会えるんだし)
心中で負け惜しみを散々にぶちまけ、かがみは軛(くびき)から脱した。
「はぁ…………」
もう何度目とも知れないため息をつく。
既に逃げる幸せなど残っていないのではないかと思わせるほど、深く陰鬱な。
「でもため息が出るってことはまだ幸せが残ってる証拠なのかもね」
妙に理屈っぽいかがみは屁理屈に近い論理で自己弁護した。
みさおも同じ事を言ったかもしれないと想像し、かがみはここに来て初めて笑みを見せた。
「あの、お客様……」
ウェイターがおずおずと声をかけてきた。
「恐れ入りますが長時間のお座席は他のお客様のご迷惑となりまして……」
という言葉にかがみはかれこれ1時間近く座っていることに気付く。
見回すと閑散としていた店内は一転、多くの利用客の憩いの場と化していた。
「あ、す、すみません……!!」
慌てて立ち上がる。
羞恥心から顔を真っ赤にしたかがみは、勘定を済ませると逃げるように喫茶店を後にした。





 時間は普遍の概念でひとつの例外もなく等しく流れるものだが、その感じ方はそれぞれだ。
矢のように過ぎると表現することもあれば、千度の秋を巡るようと喩えることもある。
かがみの場合はどちらかといえば前者の方で、
「もう8月なのね……」
2ヶ月ごとに世界の名画が表れるカレンダーを見ながら呟くのである。
春、彼女は見事に志望校への入学を果たした。
敢えて実家から通えない距離の大学を選び、独り暮らしを始めたのは過去との決別の意味が強い。
家族に甘えず自らの力で生きていくなど、強さを求めてきた自分にはピッタリではないか。
それに独りでの生活なら自然と料理の腕も上がるに違いない。
そして何より……。
「………………」
疲労感があったのは間違いない。
表面上、強い人間を装ってはいてもその実は孤独を恐れているハズのかがみは、その本心と矛盾する選択をした。
誰といても疎外感からは逃れられない。
こなたのあの一言でそれに気付かされたかがみは自ら距離を置いた。
関係が崩れるのを恐れて言いたいことも言えず、心中ビクビクしながら対等の立場を維持するためだけに
半ば監視まがいの行動をとり続けることに疲れ果てたのだ。
もはやそれは友だち付き合いとは呼べない。
馴れ合いですらない。
疎外される苦痛に比べれば、孤独による痛みなどは遥かに優しい。
これは孤独ではなく孤高なのだと言い訳もできる。
集団の中に独りで居続けるくらいなら、いっそ初めから誰もいない場所に身を置くほうがいい。
だから彼女はそうしたのだ。
家族にだけ所在を教え、知人が到底見当もつけられないような安アパートを借りた。
これが柊かがみの新たなスタートとなるハズだった。
「どおりで暑いわけだわ」
高校時代にはたとえ休日でも規則正しい生活を心がけていたかがみは、自堕落とはいかないまでも
当時に比べれば怠惰な過ごし方にスタイルを変えていた。
自ずと上達するだろうと思われていた料理の腕もその兆しが見えていたのは最初だけで、
いつしかカップ麺やスーパーの惣菜が卓の大部分を占めるようになっている。
ゴミ出しに関しても当初は律儀に選り分けていたが、最近では指定袋に何もかも綯い交ぜに放り込み、
指導を受けそうなゴミは袋の中ほどに配置する、見えないように紙で包むといった狡猾な手段を用いるようになった。
「あ~~…………」
やる気のない長大息はそれを吐き出した本人に不快感しか齎さない。
もし近くにつかさがいれば、彼女はこんな声すら漏らすことを憚っただろう。
妹の視線がない今、かがみが緊張感を持つ理由はない。

311:空谷の跫音19
09/10/14 21:23:34 7SbDl/CK0
(それにしても……)
講義のない日は無聊だ。
時間があれば予習復習に邁進していたが、今日はそんな気分にはなれないらしい。
脱力感に襲われたかがみは、ぼんやりと窓の方を眺めた。
遠くで子供の戯れる声が聞こえる。
サッカーボールの跳ねる音が断続的に響く。
(楽しそうね……)
寂しがり屋のかがみが自ら親元を離れるに至った経緯は、過去との決別だけが理由ではない。
心のどこかではやはり自分のよく知っている人物の近くにいたかったのだ。
だが―。
背伸びをしてまで興味のない医学への道を進む気にはなれなかった。
この歳になって包丁も満足に扱えないのに料理学校で続くとも思えない。
上位の成績をキープしていた自分が、こなたやみさおのレベルに落とすのも勿体無い。
あやのには……彼氏がいる。
大学生活に慣れれば異性との付き合いも積極的になろう。
そうなれば今度こそ自分の居場所はなくなる。
女とは同性との友だち付き合いと異性との交遊を両立させられない生き物なのだ。
結局、もともと視野に入れていた法学部ということに落ち着く。
みゆきやつかさほどの熱意はない。
ただ学んでおけば他日、それが実を結ぶだろうという楽観的な思考によるものだ。
この選択は間違いではない。
が、彼女の場合は正しかったともいえない。
18年間、極めて特殊で狭い世界の中で、必死に極少数との人間関係の安定に腐心してきたかがみは、
地方地方から集まる大勢とうまくコミュニケーションがとれなくなっていた。
初めて見る顔、顔、顔。
陽気な者、陰気な者、インテリ気取り、外向的、内向的、孤独を愛する者。
陵桜とは比にならないほどの多種類の人間を前に、かがみは射竦められてしまう。
新たな出会いに対する免疫ができていなかった彼女は誰と話すにも臆病になり、それが相手に伝播してはやがて敬遠される。
あまりにも早すぎる出会いと別れのサイクルを繰り返し、気がつくとかがみは独りになっていた。
見た目勝ち気なツリ目の少女が怯懦な面を晒す様は、傍から見れば何とも疎ましい存在に映るらしい。
大学にも行かず、かといって遊びに繰り出さない理由がそれだ。
「はぁ…………」
暇つぶしにテレビを点けるが、適当にチャンネルを変えたところで消す。
芸ノー人が群れて遊びに興じているところを観て何が楽しいのか。
「ああ、無駄な時間を過ごしてるわね……」
漸くそれに気付いたかがみは鞄からテキストを取り出す。
どうせ同じ時間を過ごすなら勉強していたほうが遥かに有意義だ。
そう思い、ノートを開いたところで携帯が鳴った。
(この着信…………!!)
手に取り、相手の名前も確認せずに通話ボタンを押す。
『おーっす、柊。出るの早えなー』
みさおだった。
舌足らずの喋り方は相変わらずだ。
屈託のなさ、と言い換えてもいい。
誰に対してもフレンドリーに接してくれる彼女は、特定の個人に繋がる携帯とはいえ”もしもし”の一言もない。
「久しぶりね。元気?」
『おう、私はいつだって元気だぜ。柊はどうだ?』
即答するみさおの明るさが電話を通して伝わってくる。
「うーん、まあボチボチね……」
かがみは少し声を大きくして言った。
日中、誰かと会話する機会の殆どない彼女にはちょうどよいリハビリとなる。
『そうかあ? 柊のことだからてっきり夏バテしてるのかと思ったぜ』
「わ、私はそんなことないわよ」
『兇暴なくせにけっこう夏風邪ひいてたじゃん?』
「兇暴はよけいだっ!」
久しぶりに話をするというのに、みさおはわざわざかがみを怒らせるような事を言う。
「あんたこそどうなのよ? ちゃんと講義出てるんでしょうね?」
『出てるってヴぁ。あーでも、あやのもいないから自分でレポート提出しなくちゃなんないんだよなー」
「当たり前だ」
不思議だった。

312:空谷の跫音20
09/10/14 21:25:24 7SbDl/CK0
みさおとあやのという組み合わせにアレルギーに近い感覚を持っていたハズなのに、今のかがみは何故か
”あやの”という言葉を出されたことで心が温かくなるのを感じた。
以前ほどの胸の苦しさはない。
「でもホント久しぶりよね。なんかずいぶん永いこと日下部の声聞いてないよう―!!」
そこまで言って口を噤むが既に遅い。
『ん~? なんだ、柊? もしかして寂しかったのか~?』
もともと高い声をさらに半オクターブ上げてみさおが言う。
中途半端なところで言葉を切ったために、彼女に付け入る隙を与えてしまったようだ。
「ち、ちがっ! そんなんじゃないわよっ!」
『あははは。相変わらず誤魔化し方がヘタだよな』
「違うって言ってるでしょ!?」
『んなに怒るなって。可愛い顔が台無しだぜ?』
「なっ――!?」
みさおはまるでどこかから自分を見ているような口ぶりで弄ぶ。
かがみは慌てて窓の外を見た。
(そんなワケないか……)
一瞬、本当に見られているのではないかという気がしたのだ。
『あ、そだ。大事なこと忘れるところだった』
急に声のトーンを変える。
「あんたも相変わらずだな……」
自分から電話を掛けておきながら肝心の用件を忘れるのは、みさおによくある事だった。
『今度の週末、海に行かねえ?』
「また急な話ね」
『えー? まだ10日もあんじゃん。十分余裕見てるって』
このあたりの感覚はみさおとかがみでは大きく違う。
何事も前もって準備しておきたいかがみにとって、10日後の予定は急な話だ。
対してみさおの場合は、たとえ翌日でも都合をつけて段取りをする行動力がある。
こういう行き当たりばったりな展開は、中学、高校と彼女に振り回されてきたかがみにとっては序の口である。
「ん~まあ特に予定はないけど……」
『そっか。じゃあ柊もOKだな!』
明確な返事を待たずにみさおは勝手に決めてしまった。
まだ大丈夫とは言ってない、とかがみは即座に切り返そうとしたが、
(………………)
何かひっかかるものを感じ、開いた口を閉じた。
(柊”も”……?)
鋭敏な彼女は違和感の正体にすぐに気付く。
臆病なかがみはその実体を掴むことに逡巡したが、有耶無耶にしたくないという想いに勝てず、
「ねえ、日下部」
妙に改まった静かな声でその名を呼んだ。
『ん? どした?』
間延びした返し方からして相手はかがみの変化には気付いていないようだ。
「……他には誰が行くの?」
彼女にとっては恐ろしい、しかししておかなくてはならない質問だった。
この直後の返答によっては心中穏やかではなくなる。
「あやのとチビッ子は行けるって言ってる。妹も何とか都合つけるらしい。
眼鏡ちゃんは論文とかが忙しいから今回はムリだってさ」
「そ、そうなんだ…………」
わざわざ改まってまでした質問に淀みなく答えられたかがみは、暫く呆然となった。
覚悟はしていたが予想通りの答えである。
『……い、柊~~。聞いてるか~~?』
受話器の向こうの声がずいぶん小さく聞こえる。
「あ、あ、うん……ゴメン。ボーっとしてたわ」
『大丈夫かよ? 今日は早めに寝ろよ』
「そうするわ」
その後、何を話したか彼女は憶えていない。
気がつくと電話を切ってベッドに突っ伏していた。
空虚だった。
容易に想像のつく回答は、心の準備をしていたハズのかがみに冷たい刃をあてがっていた。
一時的に忘れ去っていた孤独感が襲いかかる。

313:空谷の跫音21
09/10/14 21:27:13 7SbDl/CK0
「………………」
あやのの名前が出てきたのが理由ではない。
彼女は常にみさおとセットだから、今さらいちいちショックを受けるような事ではない。
問題はもっと別の―もっと深くて些細なところにある。
(なんでよ……なんでみんな知ってて私だけ知らないのよ…………?)
中学時代、痛感させられた友だち付き合いにおける順序。
みさお、あやのを上位に、自分を下位に置いていたあの頃。
どうやら同じ大学ということでみさおはこなたとずいぶん親しくなったらしい。
もはや自分はあやのどころか、こなたにもつかさにもみゆきにも及ばないのだと思い知らされる。
(なんで私が最後なのよ…………)
誰かが遊びの計画を立てた時、交友関係の中でどういう順序で企画を伝えるかは思いのほか重要だ。
一番に連絡を受けた者は発案者にとって昵懇の間柄だ。
次に受けた者は一番手には及ばなくても深い友情を育んでいる。
その後に受けた者はそろそろ発案者からどういう位置づけをされているかを考えなくてはならない。
4番、5番手あたりになるともはや順位云々ではなく、単なる”友だち”か”知人”のレベルにまで落ちる。
(………………)
海に行く、という計画は誰が立てたものだろう。
遊びに関して積極的なのはみさおとこなただから、このどちらかと思われる。
しかしこなたは活動的なオタクであるが、そういった風光明媚には興味も示さず、
都心あたりで開かれるコアなイベントにしか目を向けない。
……そうなるとやはり発案者はみさおだ。
誘いの電話を掛けてきたこともそれで説明がつく。
「海、か…………」
さらにこなたがあっさりと了承している事が、かがみの心を深く抉っていた。
彼女の知る泉こなたはこの手の誘いを面倒がって断るハズだ。
海で戯れるくらいなら徹夜でネトゲに没頭する。
それがこなただと思っていたかがみにとって、先ほどの答えはショック以外の何物でもない。
インドア派のオタクが底抜けに元気なみさおの提案に肯(がえ)んじる。
冗談とはいえ自分の所有権を巡り争った事もあるあの2人が、同じ大学に進んだというだけでそこまで親しくなったのか。
そう思うとかがみは途端、世界から取り残されたような気持ちになる。
こなたの性格ならすぐ傍にあやのがいても、いちいち居心地の悪さを感じたりはしないだろう。
付き合いの長さから来る空気の違いにも動じないに違いない。
もしそれがこなたの強さだというなら、かがみは彼女に遠く及ばないことになる。
「最悪だ……」
何と比べて最悪なのか、かがみはベッドに突っ伏したまま呟いた。
(どうやって断ろう……)
開きかけた教材も何もかも放ったらかしにしたまま、彼女は時間が経つのを許した。







314:名無しかわいいよ名無し
09/10/14 21:28:56 7SbDl/CK0
 今日は以上です。
次の投下で完結します。
ではまた。

315:名無しかわいいよ名無し
09/10/14 21:34:57 HwFNTVk/0


316:名無しかわいいよ名無し
09/10/14 22:12:49 bu8QTrRE0
URLリンク(image.i-bbs.sijex.net)

317:名無しかわいいよ名無し
09/10/14 22:53:51 zRu5HcrV0

        ∧∧  ♪
       ('(゚∀('ヽ
   ♪  ('ヾ,  ` )
       ` 、,, /~ぐっどじょぶ!いいぞいいぞ!!!
         (_,/

318:名無しかわいいよ名無し
09/10/14 23:48:41 zF490CiKO
>>316

最近は絵師さんこなくなった。

ジャンボ氏ならやってくれるかも知れない

319:名無しかわいいよ名無し
09/10/14 23:58:17 w2y7FWEM0
>>316
絵が安定してていいね

320:名無しかわいいよ名無し
09/10/15 00:18:07 sqPcLUhe0
絵師が三峰徹だったら泣きます

321:名無しかわいいよ名無し
09/10/15 00:27:25 ndQR+xvEO
>>320
画風どころかアングルまで安定
泣けるね

322:名無しかわいいよ名無し
09/10/15 08:20:23 PNvB6nUX0
やけくそは絶対居る。

323:名無しかわいいよ名無し
09/10/15 09:42:18 Et3Z3wzg0
>>314
あなたのファンです。
高校編から読ませて頂いておりますが、ついに大学編にきたか!と思った次第です。
続編が楽しみです。

324:名無しかわいいよ名無し
09/10/15 11:42:49 Et3Z3wzg0
関係ないけどさ、うぃんどうずについてるオンラインリバーシってあるじゃん?
あれって世界中の見知らぬユーザーと対戦ってことになってるけど本当は自分のPCの中で完結してるって本当?
あれだけが外の世界とのつながりだと思ってただけにもしそうならホントに辛い。。。。

325:名無しかわいいよ名無し
09/10/15 13:59:49 mAlSKOml0
チラ裏文士さんはいいご身分だじぇい
スレの保守にも保管庫にも協力しないじぇい
自分のストレス発散のための公開オナニーだじぇい
スレを汚してオレカコイイじぇ、びゅびゅっびゅ
死んだらいいんだじぇい

326:名無しかわいいよ名無し
09/10/15 14:30:30 ndQR+xvEO
チラ裏絵師さんはいいご身分(ry

327:名無しかわいいよ名無し
09/10/15 15:38:56 nEF4lJt8O
かがみは可愛いなあ

328:名無しかわいいよ名無し
09/10/15 17:08:37 1GaJZURVi
あーあどうしてこういうグズが湧くんだろ
まじで絵師さんにも文書師さんにも頑張ってほしい!

329:名無しかわいいよ名無し
09/10/15 17:09:42 1GaJZURVi
まとめサイトだってチラウラオナニーばっかじゃねーか
所詮読者は他人のオナニー鑑賞やろ

330:名無しかわいいよ名無し
09/10/15 23:27:34 1GaJZURVi
URLリンク(enjoykorea.web.fc2.com)
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331:名無しかわいいよ名無し
09/10/15 23:28:21 bH7SkTAn0
>>322
やけくそは新都社で漫画描いてるよ
らきすたとは関係ないけど

332:名無しかわいいよ名無し
09/10/15 23:54:13 bH7SkTAn0
あと、つかさビッチwikiの管理人の人も漫画描いてる(顔芸2の人)
この人はらきすたの漫画描いてる。他にもいるかも・・・

333:名無しかわいいよ名無し
09/10/16 00:24:44 57sHWsrG0
つかさビッチとかまだあったのかw

334:名無しかわいいよ名無し
09/10/16 01:28:43 OdE2WxAeO
>>332
やけくその漫画は見つけたけど途中からしか読めなかった

顔芸2ってどこにあるの?

335:名無しかわいいよ名無し
09/10/16 02:00:56 UkgsGn7q0
枕元の携帯がお知らせランプを誇らしげにてんめつさせている
久しぶりに仕事をして嬉しそうだ。

だけど私はただ携帯を眺めているだけ
だって見なくてもどんなメールかわかっているから

世の中にはyahooメールという便利なものがある
そう、メールの送り主は私

お知らせランプも「新着メールが届いています。」の表示も
メールを開けば消えてしまう。

もうちょっと点滅し続けてもらおう
電池が切れるまで。

336:名無しかわいいよ名無し
09/10/16 05:26:27 1fkBCS6I0
>>314
読んでるぜ!

337:名無しかわいいよ名無し
09/10/16 13:21:30 CJT123It0
直後に自分でGJつけたらばれることくらいは学習したんだジェイ
しかし文士気取りがオナニーしてる単語の羅列のチラ裏でしかないんだジェイ
自殺スレ派生のリアルキチガイはさっさと死んでいいんだジェイ

338:名無しかわいいよ名無し
09/10/16 18:55:29 nvYdEMYG0
冬コミ ぼっちかがみん合同誌企画

しかしもう遅すぎた

339:名無しかわいいよ名無し
09/10/16 22:02:15 57sHWsrG0
そりゃぼっちに合同誌なんて作れるわけないもんな

340:名無しかわいいよ名無し
09/10/16 22:12:39 Vs4tkzSb0
>>334
顔芸2に関して
直リンは避けたいので、少年vipで神無月という作者名で
探してみて。今はパチスロの漫画描いてる

341:名無しかわいいよ名無し
09/10/17 02:42:03 5hitdl2U0
絵師もSS職人もROM専もみんなぼっち
マウンテンプクイチは神

342:名無しかわいいよ名無し
09/10/17 11:59:26 udEeIgi70
プクイチが居なくなるなら自分がプクイチ並に
なればいいじゃないかと思ったけれど…なかなか難しいな。

343:名無しかわいいよ名無し
09/10/17 13:19:25 pJArwpsOO
>>340
さんくす

344:名無しかわいいよ名無し
09/10/17 16:13:59 V8EGW/r3i
前回の投稿から3日が経つ。
早く完結読みたいよー!!!

345:名無しかわいいよ名無し
09/10/17 17:33:31 V8EGW/r3i
JR西船橋駅で中間改札で財布を落としたらしく、後ろから女性が走ってきて財布を渡してくれたな。
俺 「ありがとうございます。お礼を・・・」
女性「いえ、そんなつもりで拾った訳では無いので...中身大丈夫ですか?確認してください。」
俺 「全部揃ってます。 あ...」
女性「どうかしましたか?」
俺 「僕の心があなたに奪われています。(ニコッ」
女性「...」

あの時の女性の顔が忘れられない。
あれが本当の「うわっキモッ」って思った女性の顔なんだろうな。
その後俺は総武線車内でずっと泣いてたw

346:名無しかわいいよ名無し
09/10/17 18:01:02 2lC8AmU+0
>>341-342
上達の早さが神なのは真似られない

347:名無しかわいいよ名無し
09/10/17 18:03:46 5y+RXfE+0
>345
イイハナシダナァ(⊃Д`)

348:名無しかわいいよ名無し
09/10/17 18:40:47 p7NE660B0
>>345がイケメンだったら

349:名無しかわいいよ名無し
09/10/17 21:17:55 V3E+LmdC0
 みなさん、こんばんは。
最後の投下となりますがよろしくお願いします。

350:空谷の跫音22
09/10/17 21:19:06 V3E+LmdC0
 悶々としたまま一日が過ぎ、二日が過ぎた。
学生の本分は学ぶことにあると言い聞かせながらどうにか講義こそ受けるものの、
ざわめく心は本来優秀な少女から容易く集中力を奪い、自己嫌悪の種を蒔く。
コンビニで買ったパンと牛乳で空腹を満たし、午後からまた勉強。
かがみは食堂が嫌いだった。
あそこはいつも人が群れている。
大小無数のグループが我が物顔で蔓延っているのだ。
(ふん、集まらなきゃ何もできないなんて弱い人間よ)
心中でそう吐き捨て、人気のない木陰で昼食をとる。
みさおとの電話以来、彼女は日本語を発していない。
(寂しくなんかないわよ)
そう思いながら、彼女はチョココロネを乱暴に齧った。
(寂しくなんか……)
手は震えていた。
風に乗ってどこかから人の話し声が聞こえる。
鳥の囀りと車の行き交う音がそれに混じる。
「駄目だ…………」
わざわざ人の姿のない場所を選んだことが裏目に出た。
牛乳を一気に飲み干してゴミ箱に叩きつけると、かがみは校舎に背を向けて歩き出した。
平常心を掻き乱された今では受講するだけ無駄だ。
明日からまた頑張ればいい。
彼女は自分にそう言い聞かせてアパートに戻った。
自分が強くありたいと思えたのは、傍につかさがいたからだった。
守りたい妹。
それが近くにいるだけで姉は強くなれた。
強くなろうとすることができた。
その反動が彼女を脆弱にさせた。
姉の庇護を受けてきた可愛い妹は、実家から料理の専門学校に通っている。
勉強嫌いの彼女にしては順調なようで、料理の腕を日々上達させているらしい。
その成長の過程は本人からのメールの他、家族からの報告で知ることができた。
「ただいま……」
誰もいない部屋に向かっての呟きほど虚しいものはない。
鞄を投げ出したかがみは洗面台で顔を洗う。
(ひどい顔……)
鏡に映る自分は一気に歳をとってしまったようだ。
大学生活で得られたものは遅鈍ながら増えていく法曹の知識だけで、
その代償として実に多くを失ってしまったのではないか。
かがみは思った。
無理をせず実家から通える大学を選んでいれば、少なくとも家にいる間は家族に囲まれて過ごせる。
四六時中、中にいても外にいても孤独感に苛まれる憂き目には遭わずに済んだハズだ。
「………………」
もはやため息すら出てこない。
少なくとも3年はこの生活が続くのだ。
まだ半分も来ていない今から挫折してどうする。
かがみはそう思うのだが、思うだけで行動には移せない。
勉強しなければ学費を出してくれた親に申し訳ない。
自分のしている事は明らかに間違っていると分かっているのだが、
逆境を撥ね退けるだけの気力は湧いてこない。
力の泉はとっくに空になっている。
インターフォンが鳴った。
安いクイズ番組で正解時に鳴らすような甲高い効果音。
低賃料のアパートはその値段に相応の入り口を提供してくれている。
どうせ何かの勧誘だろうと踏んだ彼女は聞こえないふりをした。
最近多いのだ。
毎日の健康のために牛乳をと迫る営業に、どこよりも世界情勢を縷述していると謳う新聞の勧誘。
何の宗教か、3分だけ祈らせてくれといきなり合掌する者もいる。
孤独に免疫のできていないかがみだが、こういう人間関係は望まない。
「しつこいわね」
インターフォンは鳴り止まない。
一度目と二度目の間は数秒あったが、それ以降は間隔に緩急をつけて断続的に鳴らされている。

351:空谷の跫音23
09/10/17 21:20:27 V3E+LmdC0
「もう!」
下手な勧誘なら怒鳴りつけてやろうと、かがみは勢いよくドアを開けた。
「うおっ!? あぶねーなー!」
瞬間、ドアの前に立っていた女性が頓狂な声をあげた。
「え…………?」
「何度鳴らしても出てこないから留守なのかと思ったぜ」
みさおだった。
半袖のカジュアルシャツにホットパンツという夏らしい恰好である。
久しく見る彼女はやはり元気を体いっぱいに表現したような快活さを漲らせていた。
運動系のサークルに所属しているのか、もともと小麦色だった肌はさらに健康美を際立たせている。
「え、え……? なんで……?」
よく知っているが、あり得ない状況にかがみは目を白黒させた。
「なんでってことはないだろ。もしかして私の顔忘れたか?」
悪戯好きの子供のように笑うみさお。
八重歯をちらっと覗かせる笑い方も変わらない。
急とはいえこの来客に玄関先で立ち話させるのは非礼だ。
散らかってるけど、と前置きしてかがみは彼女を部屋に通す。
入室するなり、その様相にみさおは訝しげな視線をかがみに向ける。
背を向けている彼女はそれに気付かない。
「適当に座っててよ。お茶淹れてくるから」
「あ、ああ、悪いな急に押しかけて」
「あんたはいっつもそうなんだから……」
言葉ほどの悪意を感じさせず、かがみはコップに麦茶を注いで戻ってきた。
出されたのはそれだけだった。
小さな卓に向かい合わせに座る。
(前の柊だったら絶対お菓子も出してくれるところだよな……)
麦茶を一気に半分まで飲んだみさおは、ふとそう思った。
(それに…………)
失礼にならない程度に室内を見回す。
平積みにされた雑誌。散乱するレポート。脱ぎ捨てられた私服。
いくら人の目がないからとはいえ、これは整理したほうがいいのではないかと彼女は思う。
(―つっても私の部屋も似たようなもんだけど。でもあの柊がな……)
高校時代、たまにかがみの家に遊びに行っていたみさおは、彼女の部屋が綺麗に整頓されていることに
いつもいつも感心していた。
どうして同じ女で同い年でここまで違ってしまうのだろうという疑問があった。
その想いはあやのに対しても抱く。
全てが兄の影響とは思えないが、自分が粗野で男っぽい言動しかできないことにコンプレックスを抱いていた。
だからこそ自分とは正反対のかがみが、ここまで堕ちる様が信じられなかったのだ。
「でも、どうしたのよ? 私がここに住んでるって日下部に話したっけ?」
疑問調だがもちろん彼女は家族以外に住居を知らせていない。
中途半端な人との繋がりを恐れてのことだった。
高校時代、あれほど関係を崩さないようにと気を遣ってきたこなたやみゆきにさえ教えなかった。
携帯電話の番号とアドレスまで変えようと考えていたかがみだったが、そこは辛うじて踏み止まっている。
「妹に聞いたんだ。あやのもだけど、妹の料理も旨かったぜ」
「そ、そうなんだ……」
「卵って思い通りに料理できるようになるのに5年かかるらしいな。あんな簡単な食材なのにな」
直接、柊家を訪ねた彼女はつかさに姉の住居を聞いたらしい。
その際に味見をしてほしいとオムレツを振る舞われたという。
かがみの胸中は複雑だった。
自分の住んでいる場所を知りたいのなら、わざわざ遠回りせずに自分に聞けばいいのに、という想い。
みさおに知られた事で口の軽そうな彼女からあやのやこなたにまで住所を伝えられるのではないかという不安。
それらが連鎖し絡み合う。
かがみがアパートの場所を知らせなかったのは高校当時の人を遠ざけたいという理由もあったが、
場所を知らせておきながら誰も訪ねてこないという最悪の事態を避ける意味もあった。
もしそうなったら―その時の孤独感は計り知れないものとなる。
(柊に訊いても答えてくれなさそうだったし)
かがみの思考を読んだみさおは内心でそう呟いた。
みさおが住所を知っている理由は分かった。
では次にかがみが訊ねたいのは、なぜ突然やって来たかということである。
が、これを問うのは難しい。

352:空谷の跫音24
09/10/17 21:21:32 V3E+LmdC0
どんな訊き方をしても、来客であるみさおに対して迷惑がっていると思われてしまう。
「それで…………」
どう切り出そうかとかがみが視線を下に向けた。
(――ッッ!!)
目の前には足を崩したみさお。
ホットパンツから覗く小麦色の脚線美が、かがみの視線を釘付けにした。
引き締まった足は筋肉の歪さを感じさせない。
むしろ健康的でシャープな流線型は、たとえ同性であっても見る者に憧憬の想いを抱かせる。
子供っぽい体育会系の面はそのままに、今は大人の女性としての魅力も十分に溢れている。
「急に来てごめんな」
妙なかがみの視線に気付いたみさおはひとまず詫びを入れた。
「ちゃんと連絡してからの方が良かったんだろうけど、気を遣わせちゃ悪いと思ってさ」
つまりもてなしの準備をさせたくないという意味だ。
「いや、別に……私はヒマだったから構わないけど」
気が乗らなかったから午後の講義はサボった、という事実を隠す。
「でもどうしたのよ? いたからいいけど留守だったら―」
「それならそれで帰って来るまで待ってたさ」
「………………?」
あまりにも無計画すぎる、とかがみは思った。
「なんで……?」
「気になってさ」
「は…………?」
「心配だったんだよ、柊が」
拗ねるようにみさおが言う。
頬は少しだけ赤い。
「この前電話した時、なんか元気なさそうだったから」
「そ―」
それだけの理由で来たのか、と言いかけたかがみは慌てて口を噤んだ。
「―そんなこと……ないわよ」
語尾が弱い。
本来言うつもりだった台詞を無理やりに軌道修正したが、そのチグハグな返しがみさおにちょっとした疑念を抱かせる。
彼女はわざと数秒の間を置くと、しっかりとかがみを見つめながら、
「それに来週末の返事もちゃんと聞いてなかったしな」
敢えてこの話題をぶつける。
誘いの電話ではかがみが明確な返事をしないまま、みさおが勝手に了承したと結論付けてしまっていた。
その際の彼女の不自然さは顔を見なくても分かった。
(ああ、やっぱりそうか……)
かがみの表情に翳りが見えたところでみさおは確信する。
”海に行く”ことには反対していないようだ。
(どうやって断ろうか考えてるってところか)
かがみは沈黙を貫いている。
「なあ、柊―」
「その話なんだけど……」
「分かってるって」
既に多くを知っておきながら、友人に全てを言わせるほどみさおは無神経ではない。
気を遣わせまいと彼女は大袈裟な素振りで残りの麦茶を流し込んだ。
「私だって無理強いするつもりないし」
「…………」
「…………」
「…………」
「近いうちにどっか遊びに行かないか?」
「…………」
かがみは聞こえないふりをした。
過去、彼女からのこの提案になんど苦しめられてきたか。
悪意がないと分かっているが、だからこそみさおを責められずその所為で重ねて苦痛を味わわされる。
それにこの流れでまた遊びに誘うとはどういうつもりなのだろうか。
いい加減、断ることにも疲れてきた彼女はやはり黙り込むしかなかった。

353:空谷の跫音25
09/10/17 21:23:35 V3E+LmdC0
「私とだぜ?」
「えっ…………?」
何か言ってきても反応するまいと決めていたかがみは、思わぬつけ足しに顔を上げた。
「あやのもチビッ子も誰も誘わないで、うちら2人だけでさ」
「え、ど、どういう……?」
「温泉巡りとか面白そうじゃん。どっか旅館探してさ。ああ、でも今だったら涼しいところのほうがいいか。北海道とかは?」
「ちょ、ちょっと待って! ちょっと待ってよ」
勝手に話を進めるみさおを慌てて制止する。
言が飛躍し過ぎていて、賢しいかかみにもついて行けない。
「なんで急にそんな話になるのよ?」
困惑するかがみにみさおは太陽のような笑顔を見せて、
「悪りぃ、喋ったら喉渇いちゃった。お茶淹れてくんねえ?」
空になったコップを突き出す。
「………………」
拍子抜けしたかがみはコップを受け取らずに無言のままに立ち上がり、冷蔵庫からピッチャーを持って来た。
「はい、2杯目からはセルフサービスなのよ」
「へーへー」
みさおは口を尖らせながらも麦茶をなみなみと注ぐ。
が、喉が渇いたというのはウソだったようだ。
お茶を欲しがったのは単なる口実。
自然に話の流れを断つ彼女のお得意の方法だった。
「―ごめんな」
何の前触れもなくみさおが謝った。
言葉どおり彼女はすまなそうに目を伏せる。
「な、なにがよ……?」
はじめて見るみさおの真剣な表情にかがみは動揺した。
「知らないうちにずっと柊に辛い想いさせてたんだな」
「何の話……?」
かがみは空気の変化を感じ取る。
3人で受験勉強に取り組んだ時でさえ、彼女はこんな顔はしなかった。
いま目の前にいるのは日下部みさおの姿をした別人なのではないかとさえ思えてくる。
「柊さあ、うちらといてもあんま楽しそうじゃなかったじゃん? 冷めてるってのとはちょっと違うけど。
最初は、”ああ、そういう感じの奴”なのかなくらいにしか思ってなかったんだ」
「………………」
「もしかしたら馴れ合いとか好きじゃないのかも知れない。クールな奴なんだって。
でもよく見てるとなんか違うなって分かってきたんだ」
「ち、違うって……? 何がちがうっていうのよ?」
かがみは怖くなってきた。
たったこれだけのやりとりの中、みさおの言葉には彼女の意識に鋭く突き刺さる何かがあった。
これからみさおはとんでもない事を言い出すのではないか。
突然に家を訪ねてきた不自然さも相俟ってかがみの頭は混乱していた。
「私といる時はわりと普通なのに、あやのもいると歯切れが悪くなるっていうかさ。
逆でもそうなんじゃないかと思って訊いてみたら、やっぱりそうだった。なあ……柊―」
「………………」
「私やあやのが嫌なんじゃなくて、3人でいる時が嫌なんだろ?」
「…………ッッ!!」
呼吸が止まる。
凄まじい速さで心臓が脈を打つ。
体の震えを抑えようと拳を握り締める。
このみさおという少女はかがみに似て、言いたいことをストレートに叩きつけてくる。
下手な小細工や駆け引きを抜きに。
「……だよな。今のでハッキリしたぜ」
動揺を悟られまいと抑えてきたかがみの努力は無駄に終わった。
どんなに鈍い者でも彼女が本心を隠しているか否かくらいはすぐに読み取れる。
「柊も幼馴染みだったらよかったのにな―」
その呟きをかがみは聞き逃さなかった。
もはや惚ける必要も問い返す必要もない。
みさおはかがみの本音に気付いているのだ。

354:空谷の跫音26
09/10/17 21:25:39 V3E+LmdC0
(私とあやのは小さい頃からの付き合いだけど柊は中学からだもんな……。
3人でいたって取り残されてる気になるのも当然か……)
今になって本当に喉が渇いたみさおは麦茶を口に含む。
何の味もしない。ただの水道水のように感じた。
「実はさ、なんとなく分かってたんだよ。柊が疎外感感じてるの」
「………………」
「できるだけそういう想いさせないようにって、柊にはよく声かけてきたつもりだったけど―。
結果的にかえって柊に嫌な想いさせちまったんだよな……」
「そ、そんなことないわよっ!」
叫んだ彼女の瞳は濡れていた。
「中学の時、私が独りだったところに話しかけてくれたのはあんたたちじゃない。
あの時……あの時はその…………嬉しかったわよ……」
5年以上隠し続けてきた本心を、それを最も看破する能力に乏しいと思っていたみさおにあっさり見透かされ、
かがみはもう少しで素直になれそうだった。
「日下部たちがいてくれなかったら、中学の3年間はずっとつかさだけだったかもしれない。
だから、だから……今まで一度も言ったことないけど、ほんとに感謝してる」
「ひいらぎ…………」
あの勝ち気で凛とした少女の姿はない。
偽りの強さで塗り固めた鍍金が剥がれ落ち、自身も忘れていた弱さを裸出させた可憐な少女だ。
「2人と一緒にいると楽しかった。でも正直……寂しいっていう気持ちはあった。
日下部と峰岸みたいな仲になりたいのに絶対になれないんだって……だって……!!」
「…………」
「全然時間が違うんだもん! 一緒に勉強したり遊んだりした時間が全然違う!!
小さい頃の思い出もない! 小学校だって違う! これじゃ……これじゃちっとも埋まらないじゃないッッ!!」
「柊……」
「私だけが違うのよ。いつも……わたしだけが―!!」
これまで気丈に振る舞うのが当然だったかがみが今、涙を流しながら声を上げている。
(だからいつもチビッ子たちと一緒にいたのか)
みさおは小さく頷いた。
「つかさとも同じクラスになれなかった。でもあの子がこなたやみゆきに会わせてくれた」
彼女の心を読んだように、かがみが訥々と話し始めた。
「陵桜入って最初にできた知り合いだったから……それなら大丈夫だろうって思ってた。
お互いに何も知らない状態だったら私にもチャンスがあると思うじゃない」
「あ、ああ……」
「でも甘かった。やっぱりクラスが違うっていうのはそれだけで不利だったのよ」
微妙な言い回しにみさおは眉を顰めた。
普通、友だち付き合いを語るのに”不利”という言葉は使わない。
「つかさは……こなたやみゆきとどんどん親しくなっていったわ。だってそうでしょ?
同じクラスなんだもん。私がいくら頑張って休み時間ごとに会いに行っても追いつけないのよ。
全然足りないのよ……時間が、時間が足りないのよ……!!」
かがみは殊更に”時間”という言葉を繰り返した。
彼女にとって友だちとの間で最も重要視すべきは、やはり”時間”でしかなかったのだ。
「私だけが取り残されてる気がした。ううん、実際そうだった。こなたに、こなたに訊かれたことがあるもの。
”自分のクラスに友だちいないのか?”って……。まともに答えられなかったわ。
だって私……私は日下部や峰岸と友だちでいたいって思ってたけど、2人の気持ちなんて分からないじゃない。
同情かもしれないじゃない。だったら私が友だちなんて思ったらバカみたいじゃない……!!」
「同情……?」
「そう、よ。中学の時、私が独りだったから……それで憐れみで声をかけてきたんじゃないかと思って……。
ごめん、日下部……こんなコト考えちゃいけないって分かってる! 分かってるけど……!!」
「…………」
「こなたにそう言われて―私、どうしたらいいか分からなくなった。
こっちだったら何も気を遣わなくていい、普通の付き合いができると思ってたから……。
また同じようなこと言われるんじゃないかって……そう思ったらどこにも居場所なくて……それで……!!」
「もういい。もういいんだって」
いつの間にかみさおはかがみのすぐ横に座っていた。
「柊がそんな想いしてたのは―してるのは私のせいなんだよ。私、バカだからさ。
あ、いや……んなの理由になんねえか。もっと早く気付いてれば良かったんだよ。
私たちはそんなつもりは無かったけど、考えてみりゃ柊に分からない話をしたこともいっぱいあったよな」


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