09/11/07 16:13:19 esAK74K6
となりのトトロ
この作品には代替品がない。まったくオリジナルであり、孤高な傑作である。
それは、全世界の全ての映画、全てのアニメと比較してもだ。
ハリウッド映画で、ラピュタのような作品を探すことは出来るだろう。
例えばハウル。どこかであのようなイタリア映画を見た覚えがあるような
気がしなくはないか。
ナウシカを初めて見て、「猿の惑星、第一章」と比較することは出来た。
いや、別に、それが悪だと主張しているわけではない。
人間の求める場所を真っ直ぐに見つめ作り上げれば、おのずとある種の共
通性が出てきてしかるはずなのだから。
しかし、「となりトトロ」の代わりになる映画など見たことがあるだろう
か?
あんなにも子供の目線を、それも極限のリアリティーを伴って捉えた作品
を・・・、果たして私はそんなもの見たことがあるのだろうか?
答えは NO と言わざるを得ない。
ただし、私は最初に、“この作品は完全に完全でない(直訳)”、
ということを主張したい。
この感動を味わうことが出来るのは、選ばれた人間だけだという事である。
“少年時代(あるいは少女時代)が短かった人”や、一時でも幸せに満ち足り
た記憶がない人には、恐らくば、この作品の真意に触れることは出来ないだ
ろう。永遠に。
これは、犯罪者を更生させる為のアニメーションではない。
生きる喜びを知っている人間にだけ許される、ひそかな楽しみなのだ。
<中略>
しかも、それが、映画ではなくアニメーションなのである。
観客はまずあのアニメーション離れしたリアリティーに驚愕するだろう。
小川に流れる水の透明度、澄み渡った空気、あらゆる物質の質感。
しかし、そんなことに魅了されるのは、ごく初めのうちだけである。
観客は録画スタジオの画力などは忘れて、次第に物語に引き込まれていく
だろう・・・。
はじめはジワジワと、そして、着実に、彼らは現実と向こう側の世界を交
差させ観客を麻痺させていく。
スピーディーで徹底的に無駄を削ぎ落としたスマートな展開、ゆったりと
した空気。
そして、短く早い。しかし、息が詰まるほど長く感じる緊迫した終盤、
突如テンポアップされ、速やかにエンディングに移るクライマックス、
素晴らしい音楽、歌声。