10/05/26 16:16:24 DRaBK6HI
「綺麗な顔してるな」
「…………」
奈緒はなつきの言葉の意図が飲み込めず、押し黙る。
「男どもを引っ掛けてシノギにしてきたんだ。さすが造物主の寵愛には恵まれている」
「何が言いたいてめえ?」
奈緒は苛立って吐き捨てた。
「殺すならとっとと殺せよ。それともあのレズ女カタワにした恨み言でも言いたいの?」
「殺す? バカ言え、お前にそんな楽な道を選ばせてたまるか……静留は、もう二度と歩く事も、自分の力では立つ事も……もう、芋虫みたく這いずりまわることしかできなくなった」
「ははは! ざまあないね、会長サマ芋虫!!」
なつきは懐から、何かラベルの付いた瓶を取り出した。
縛られ、床に転がされている奈緒の鼻先に突きつける。
「ほら」
「……?」
「脳味噌スポンジのお前でも分かるだろ、濃硫酸。こいつをお前の顔にかけたらどうなると思う?」
奈緒の冷笑が凍りついた。
「お前は殺すんじゃおさまりがつかない。お前から大事なものを全て奪ってやる。母親にはまた障害者になってもらう。その前に、まずはお前のその美少女面を台無しにしてやるよ」
「ひっ……」
急速に蒼白になりつつある奈緒の目の前で、硫酸の瓶を開ける。
奈緒は逃れようにも固く手足を拘束され、身動きすらできない。
「糞、畜生!」
「静留が受けた万倍の苦しみと絶望を、お前に与えてやるよ」
なつきはその顔に硫酸を注ぎかけた。
「さて、次はお前の母親だな……」
意識を失った「それ」に声をかけ、なつきは立ちあがり、部屋に施錠して去って行った。
(うう、あたしは……)
(あのレズ女……)
(ママを殺しやがった……ゆるさねえ)
(だから、痛めつけて……)
(ママ、そう言えば!!)
意識を取り戻した奈緒は、起き上ってすぐに顔面から突き上げる激痛に呻いた。
「ぐうう……なにこれ、あつい……火傷……?」
思わず顔で床に押し付け触れた肌からは何やらかさぶたのような感触がする。
視界には空の瓶が転がっている。
漸く思い出す。あの女は私の顔に劇薬を……。
「ちょっと、どうなってんの、私の顔、私の顔っ!? 鏡は!? ママは!? ママ、ママァ!!」
奈緒は混乱して泣き叫ぶが、がらんどうの部屋には自分の顔を確認する手段は存在しなかった。
痛みと触れる感触から自分の「顔面」の状態を確認しようとするが、はっきりとは分からない。
錯乱を続けて、疲れ果て、震え、唸り、昏睡し、うなされ、それが数日続いた。
飲まず食わずで意識を失った奈緒の耳をかすかに外界からの音響が揺さぶった。
目の前には、なつきが立っていた。