10/06/09 23:25:38 QaKldXC50
「こんにちは……って唯先輩?」
私が音楽準備室の扉を開けるとそこには普段ティータイムを楽しむ机に上半身を預けて眠りに落ちている唯先輩しかいなかった。
「他の先輩はまだ来てないのかな」
唯先輩を起こさないようにそっと扉を閉めると、私はお茶するときにいつも座る席へと腰を下ろす。
都合良く唯先輩は顔をこちら側に向けて寝ていたので、この位置からでも心地良さそうな寝顔を確認することができた。
昨日夜更かししたのか、それとも今日体育でもあったのか、事情は分からないけど部活前に寝ちゃうくらいだからかなり疲れていたのだろう。
「起こしちゃ、悪いよね」
私は他の先輩が来るまで静かに待つことに決め、改めて眠ったままの唯先輩に目をやった。
こうやってまじまじと唯先輩の顔を眺めるのはこれが初めてだった。
「可愛いなあ」
後輩の私がいうのは失礼かもしれないけど、気持ちよさそうに寝息をたてている唯先輩はいつもより幼く愛おしく見えた。
「あずにゃ……」
急に名前を呼ばれ、体が小さく反応する。
もしかして聞かれたかも。少し緊張して動向を注視するも唯先輩はそのまま目を覚ますことなくスヤスヤと眠り続けた。
「夢に私が出てきたんですか」
ホッとしたのと同時に夢の中でまで私と一緒にいてくれてると思うと何だか嬉しかった。
すると唯先輩の顔に笑みがふくまれた。きっと幻想世界の私とよっぽど楽しいことをしてるんですね。
「オーッス!」
突然開かれる扉。けたたましい挨拶とともに律先輩がやって来た。
さすがの唯先輩もこの大音量には意識を呼び戻されたようです。
「……ん? あ、あずにゃん?」
「おはようございます、唯先輩。よく眠れましたか?」
私の問いかけに意識が覚醒しきってないのか唯先輩は黙り込んでいたけど、しばらくして不意にボソッとつぶやいた。
「夢だったんだ。残念だなあ……」
……少し気になるセリフが私の耳に届きましたよ。
「残念だなあって唯先輩、夢の中で私と何してたんですか?」
「ほえ? あれ? 何してたんだっけ?」
モヤモヤしたままいたくなかったから訊いたのに、唯先輩の答えは全くの期待外れ。
夢というものは起きてすぐに忘却の彼方に葬り去られるとは聞いたことがあったけど、まさかここまでのものだとは。
「えーと……、ちょっと待っててね、思い出すから」
そう言うと唯先輩は夢の世界の記憶を取り戻そうと思いをめぐらせ、少しして口を開いた。
「えとね、あずにゃんと抱きしめあったり、チューしたり、それからねえ……」
「そ、それ以上言わなくていいです!」
「え、でもあずにゃんが何してたって訊くから……」
「もういいですってば!」
おわり!