10/06/08 01:13:00 HSB0gcm30
せめてもの抵抗、ではないですけど私だけでは割に合わない。
交換条件としてこれくらい主張させてもらってもバチは当たらないはずです。
「わかったよ、梓」
予期せぬまさかの即実行。私の心拍数は一気に跳ね上がった。
「えっ、ちょ、あの」
「ちょっと、梓が言ってって言ったのに、何慌ててるの?」
しどろもどろになる私に唯先輩はご不満な様子。
そうはいっても心の準備ができてなかったところへのこれは不意打ち過ぎた。
「す、すみません、唯先輩。いきなり過ぎたので……」
「もう、せっかく梓って呼んだんだから唯って呼んでくれなきゃ」
「あ、そ、そうですね。では……」
私の条件が呑まれた以上、唯先輩の提案を実行しないとそれこそ不公平。
そんな不義理なことはできないので、私は清水の舞台から飛び降りる気持ちで唯先輩に向かい合った。
「ゆ、ゆい……」
たった二文字なのに、その名前を呼んだ途端体中が熱くなる。顔はとっくに真っ赤な気がする。
普段言わない呼び方をするだけでこうも緊張するとは思いもしなかった。
唯先輩はこんなことをさも簡単にやってのけたのかと思うと少しばかり尊敬の念が生まれた。
「何、梓?」
唯先輩は微笑みながら私に返事をする。
その顔、その呼び方。私の熱を上げるには十分すぎた。
「えと、頑張って敬語を使わないようにします……じゃなかった、するよ、唯」
「そんなに肩肘張らないで気楽にいこうよ、梓。私から言っといてなんだけど、こういうのは自然と変わっていくと思うから」
「わかりま……わかった、唯」
高まる体温と闘いながら、たどたどしくも唯先輩に言われたように敬語を使わないように言葉を交わす。
まだまだ慣れないし少しむず痒いけど、いつか意識しないでフランクに話せるようになれるといいな。
「だけど唯、学校では唯先輩って呼ぶし敬語で話すよ」
「えー」
「えー、じゃないですよ。恋人である前に、私たちは同じ学校の先輩後輩なんですから、そこら辺はきちんとするべきです。
その分、というわけじゃないですけど二人きりのときは唯って呼びますし、敬語は使わないようにしますから」
「うーん、わかった。だけど梓」
「何ですか?」
「敬語を使わないって宣言がもう敬語になってるよ」
「あ……」
なかなか前途は多難なようですけど……。
おわり!