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「お茶持ってくるからちょっと待っててね」
「うん、ありがとう」
梓を部屋へと案内した憂はそう言うと部屋を出て行った。
休日の午後。梓は平沢家姉妹の一室である憂の部屋へと来ていた。
(ベッドに巨大亀のぬいぐるみが…この前のホームラン賞の)
憂が来るまでの間、手持ち無沙汰な梓が部屋をぐるりと見まわしたとき、目に飛び込んできたのはベッドの上に横たわる大きな亀のぬいぐるみ―以前お泊まり会をしたときに手に入れたものだった。
あれからもちゃんと大事にしてもらっていたらしい。
(憂はこの亀と寝てるのかな? 大きいから抱き枕に使えるよね……)
梓はベッドの上にのぼり、ぬいぐるみへと手を伸ばし、そっと引き寄せて腕の中に納めてみる。
(ちょっと試してみようかな)
そう思って抱きしめながら少し横になってみる。
(…フカフカして、あ…)
甘いような、なんとも言えない香りが鼻先をかすめる。
(これって…憂の匂い…)
彼女を抱いたらこんな感じなのだろうか、という考えが脳裏をかすめる。
それと同時に、
(唯先輩が憂を抱いてるときってこんな感じなのかな…)
そんな情景も思い浮かんでくる。
唯がぎゅっと憂のことを抱きしめている。
いつもの人のいい笑顔で。
でもその笑みは普段の部の仲間や梓などに向けられているものとは少し違っていて。
どう説明すればいいのだろう。そこには確かに強い絆が見て取れて、それはちょっとやそっとのことじゃ割って入ることができないもので。けれどそもそも中に入っていく必要もなく、遠くから眺めているだけでいいと思えてしまうもので。
この人は妹を本当に愛しているんだなぁと感じてしまうのだ。
そして抱かれているほうの憂の表情は、もっと印象的だ。
口では少し恥ずかしいとかダメとか言っているけれど、その頬は緩みっぱなしで、ほんのりと桜色に染まっていて。なによりその姉を見つめる瞳が、普段生活しているときにはけして見せないものを宿していて。
この子も姉のことが本当に好きで…それ以上に想っているのかもしれないと、見ていてそう思う。
二人のそんな姿を見ていると胸の中に妙な気持ちが湧いてくる。
二人が笑いあっているだけで、こっちも笑顔が浮かんでくる。
心の奥底が暖かくなってくるような幸せな気持ちになってくる。