【咲 -Saki-】 京太郎×咲スレ 3 【いい夫婦の日】at ANICHARA2
【咲 -Saki-】 京太郎×咲スレ 3 【いい夫婦の日】 - 暇つぶし2ch991:名無しさん@お腹いっぱい。
10/03/01 01:06:34 cVr6mA/Q0
「とはいえ……敵では無さそうだな」
京太郎は溜息と共に魂の一部をも口から吐く、全身の力の抜けた彼を、やさしく後ろから風が抱きしめた。
熱を持った体を心地よく吹き抜けるそれは、彼女の温もりとどこか似たものがあり、肩に入っていた力が散ずるのを彼は感じた。
それと共に、頭は少しずつさえてくる。
「……敵って何だよ?」
眼を閉じて考えても、間違いなく裏でこの糸を引いているのは龍紋渕の何某かだと結論付ける事ができる。
――しかし、今龍紋渕がこのようにして何か得でもあるだろうか? せいぜい咲の心を乱して自分たちを早々に敗退させるしか、こちらにとって不利益なものは考えられない。
しかしそれでは、龍紋渕の格も落ちる。ただでさえ無名の学校に負けたと大々的に言われているのに、その無名が早々に敗退すれば龍紋渕部長のあの目立ちたがりの負けず嫌いが我慢できるはずがない。
さらに考えを深くしてみるものの、それ以外は皆自らにとって益あって害はない。しかし、敵は益をもたらすものではない。
極論で言えば、敵など今は存在しない。あの口の軽い部長でさえ、味方という側面が必ずどこかにある。
ただ――今は何とか黙っていてくれているが、爆弾を懐にしまっているようなものだ。火力さえ間違わなければ大丈夫だが……。
「――ふむ」
京太郎は、文面をさらに下に移動させる。そこにはいくつかの添付ファイルが置かれていた。その下にさらにひっそりと一文が書かれている。
――これを差し上げます、ですからどうかこの文面の通りに清澄の部長に進言をお願いいたします。
文面には人の性が少なからず出るという話を、いつかどこかで聞いたことはあるが、そんなものは眉唾物だと思っていた京太郎にとって、その閃きはまさしく符合が弾けるといった言葉がこの上なく似合うものだった。
「――あの、メガネの女か!」
京太郎の知る龍紋渕は五人、長身は女性としての恥じらいよりは漢と言う言葉が似合う気概気質であるし、金髪二人は片や高飛車、片や絶滅危惧的な言葉を多用する。
ともかくどちらも己がベクトルを突き進んでいるためこんな文は書きそうにない、残りは二人。
勿論、龍紋渕メンバー以外の人物が書いたという可能性もないわけではないが、逆に他校の情勢にここまで詳しく入り込んでいる執事やメイドと言うのも現実的では無さそうだ。
この文には少し物腰のかたい、感情をあまり表に出さないような一種の無機質さが漂っている。二人のうちどちらがそうだったかと県予選を思い出すと、明らかに沢村智紀のほうを彼自身の頭が推していた。
「まさかハギヨシさん…………じゃねえなこりゃ」
京太郎がそういったのには、勿論理由がある。添付ファイルには写真――その一枚は咲のメイド姿、そしてもう一つの写真は、咲の口に出すのもはばかれるような恥ずかしい写真だったのである。
とはいえ実際には咲が入浴前にバスタオルをはだけさせて巻いている写真だったのだが、彼が言うのもはばかられると言う点ではあっているだろう。
ともかくそんな写真が男の手でとられたはずはない。それなりに安心できる女性が周りにいたのだろう。
そこで、龍紋渕の待遇についても少しだけ安心ができる。
「でもこんな写真を取られたって事は、逆に安心しすぎもちょっと怖いんだけどな」
さて、京太郎が最後の文面を見てみると。――大きな謎が一つ解けた。
「なるほど、これほどまでに俺たちの協力してくれる理由がこれか。確かに咲を介すればこれはそれなりに力を持つようになる、しかし咲は今向こうにいる。
……だから、パイプ役に俺が選ばれたのか」
ここで、文面の通りにしなければ一体どうなるのか? わざわざ危険を呼び込む事もないだろうと、京太郎は考えるまでもなく再び部室の中へと入る。
いつの間にか打ち終わっていた面子は、仮眠を取ったり、腐っていたり、飲み物を買いに行っていたりしていた。
――そこで、はっきり意識のあるものは、彼を除けば部長しかいない。ちょうどいいと、京太郎は話を切り出した。


992:名無しさん@お腹いっぱい。
10/03/01 01:09:35 cVr6mA/Q0
「……ごめんなさい」
「――へっ?」
七月六日、京太郎とのデートはもはや明日に迫っている。その時にこんな言葉を沢村智紀より聞かされるなど、咲には意想外のことだった。
「え……っと?」
「本当は二日も拘束する気はなかったのだけれど……」
「――ああ」
どうやら、あなたの須賀君も清澄の部長に首尾よく手を回したようだし、これで私の役目も終わりと彼女はその後に続けた。
咲としては部長云々よりも、「あなたの須賀君」という部分に反応してしまう。
「貴方たちのおかげで――清澄、風越、鶴賀、龍紋渕の四校合同合宿は、これでまず間違いなく実現されるでしょう」
「うん、でもそしたら京ちゃんはさすがにいけないよね」
そこが、今回のもっとも大切な部分であったといわざるを得ない。京太郎がもしも自らを優先させて部長に話さねば、そこですべてが水泡に帰していた。
京太郎個人的には、言わずとも特に損はない、むしろ言えばそれだけ咲といられる時間が短くなる。
京太郎が話した理由、それは自らよりも咲を優先させた事と、それでも四校合同合宿は実り多いものになるだろうと考えたため。
現在清澄は全員が全霊をかけて強化に徹しているだろうから、余裕のない今このような計画を立てられるものではない、もし立てても破綻が多いものになるであろうし、それに導かれた後には眼も当てられない結果となるのは必然である。
それならば、こちらが計画を立てて他校に手を回しておけば、清澄は何も考えなくても良い。
しかしその意をこちらが残る二校に伝えても、あちらにしてみれば一回しか戦っていない上に、繋がりなどほとんど皆無な他校が作った何の目的かもしれないものに乗るわけがない。
だが逆に清澄から誘われれば行く所もあるだろうと考えられる。何しろ清澄には今県大会を制した代表と言う肩書きがあり、敦賀は引退をしているとしても、部員の多い風越は二軍でも行きたいと望む者が多いはず。
質は数で何とか埋められるはずと考えたのだ。
それ故に、信用できる人間のアプローチが必要だったのだ。
ようは、咲と京太郎は手形代わりである。その事も併せて智紀は頭を下げたい気になったが、咲が手を振ったのでそのままでいるしかない。
「でも、どうして私に? 清澄にはほかに部員がいるのに……」
「貴方が一番……衣に大きな影響を与えてくれた。衣も、一番貴方と居ることを望んでいたの。
四校合宿も、龍紋渕を鍛えるという目的のほか、衣が楽しく麻雀を打てる場を一つでも多く作るために立ち上げるもの。
彼女の心の模様が冬から春になった今、衣は大きな変革を迎えている。さなぎが蝶になるように、衣の外も内も徐々に進化を遂げている。私は……私も衣の友達だから、何かをしてあげたくて」
その熱意は、咲自身感じている。本当の友情という物があるのならば、その一端を間違いなく彼女は宿している。
それを悟ると同時に、この女性に対する見方が大きく変わった。無機質な性格だと思われがちだが、実はとても情に厚い人なのだ。
「咲ー! どこにいるー?」
そんなことを考えているうちに、衣が咲を呼びにきた。どうやら、明日の舞台に来て行く晴れ着を合わせたいとの事だ。既に、いろいろと取り寄せたらしい。
これ以上待たせると透華が怒るというので、衣は走ってやってきたらしい。
「――じゃあ、行ってくるね」
「ええ、行ってらっしゃい」
智紀は、とても安らかさを秘めた笑顔で見送った。それは彼女が、初めて他校の者に見せた顔でもあった。
衣も、その光景に驚きを隠せないでいる。自らが最初にあの顔を見たのは何時だったかとも思いをはせた。
しかしやがて、自らのすべきことを思い出したのだろう。咲の手を引いて別室へと連れて行った。残された智紀はパソコンを開いて、溜息をつく。
――ただキーをたたく音が、暖色の壁に吸い込まれていった。


993:名無しさん@お腹いっぱい。
10/03/01 01:16:36 cVr6mA/Q0
七月七日――そう、七夕である。
祭りの開催所の近くにある目立つ場所、しかし人のあまり集まらない場所はどこかという問いに、かの沢村智紀の答えは満点に近いものであった。
事実、咲がついたころには、人が数えるほどしか居なかったのである。邂逅を果たすには、十分すぎる環境だった。
「うーん……」
咲は、口を尖がらせて細く伸びた影を見た。着付け等の準備で遅くなるかとすら思ったが、逆に早く来過ぎてしまったのだ。
具体的にはまだ、待ち合わせの時間まで30分は残っている。
夕日の沈むさまをゆっくりと眺めながら、胸に手を置いて自らの心臓からだんだんと強く、そして徐々に早くそして何よりも心地よく放たれる命の音をゆっくりと聞いていた。安らかなる気持ちではあったが、それは同量の不安に裏打ちされて起きるものでもあった。
咲は腕時計をしない、特に時間を気にした事などないからだ。携帯も同じ、話す相手もいないから。
京太郎とは、学校でいつでも話せるしそれはほかの友達も同じだ。
そもそも他の女子たちが携帯を持ち始め化粧をして男子の話をする年代になっても、咲は本に没頭をし、京太郎と良く話していた。
つまり満たされていた故に、それらを必要としなかったのだ。――少なくとも、今までは。
咲は、時計を探した。自分が時計をしない事を沢村智紀は知っているはずだ。それでここを選んだという事はどこかに時計があるという可能性が非常に高い。
果たしてすぐに時計台を見つけ、咲はその周辺を歩きながら待っていた。
太陽は沈みやがて短針が咲を、長針が天を指し示す。――だが、彼の姿はまだ見えない。
首を振りながら、自分の知っている彼の背格好を探すが、その実像も影もなくただ目に映るのは自分の肌と温度の違う空気だけ。
空から赤色の残滓が去っていくと共に、不安がその色を影と共に大きくそして濃くしていく。
「おーい? ……咲ー?」
遠くから、風に乗せられて声が耳に届く。そのそよ風が――むしろそよ風だからこそか、黒い不安を霧が晴れるように簡単に消していく。
「京ちゃん」
後ろを、期待と共に振り向く。京太郎と眼が合った瞬間に、ドサっと何かが落ちるような音がした。彼の右腕にぶら下がっていたビニール袋が地に落ちたのだ。
「さ……咲……――だよな?」
「う、うん。……変か……な?」
京太郎は首を横に振る、綺麗だよと咲の顔をまっすぐに見つめながら何度も何度も繰り返した。
咲の顔にうっすらと紅がさす。パタパタと咲は京太郎のそばへとかけていき、彼はそれを抱きとめる。
「行こうか」
「……はい、京太郎」
いつもとは違って、「うん」とは言わない。日ごろとは違った面を彼に見てほしいからこその返事だが、そこに何らかの意図があるなど京太郎はおそらく考えないだろう。
並んで歩き始めた咲の目に、ふと悪戯心が生まれた。


994:名無しさん@お腹いっぱい。
10/03/01 01:19:31 cVr6mA/Q0
「ねえ、京……ちゃん」
「んー?」
「今私って、どういう格好をしているの?」
「え……えー……そりゃあ……」
こういえば、彼は自分を形容するためにまじまじと見ざるをえなくなる。
自らの持つ生来の気質は目立ちたいという感情からは無縁のものだと考えていたが、なるほど見られるという行為にも理解が深まった気がする。
見られるとは、自らの存在を相手に認めさせる事なのだと、龍紋渕のあの目立ちたがりの行動の裏には、きっと今の自分と似た様な感情があるに違いない。
「あー、……そうだな。まず――」
あまり深い答えを期待してはいなかったのだが、意外にも彼はそれなりに深い答えを残してくれた。
「深い藍の地に白い花がちりばめられた着物に、夕日のような様相を持つ朱色の帯。
顔には白粉と、紅を少々。………ふむ、この匂いは柑橘系だな。香水も使っているんだろ? 髪型は……エクステでもつけたのか、簪できれいにまとめられていて
……そうだな、俺はそっちも好みかもしれない。……ああ、着物の美しさに着られてない。お前のほうが……うん、ああ……」
――できる限り冷静を装っているが、彼自身の心はこれ以上ないほどに高まっていた。
幼馴染ではなく、一人の女として彼女を見たのは、もしかしたらこれが最初だったかもしれない。
――正直、女という生き物をなめていた。そんなことを考えるまでにだ。
「…………」
彼は、自身の格好を見た。自分は咲につりあっているのだろうか? そう、自問せずにはいられない。
自らも持っていた浴衣をよく着こなしていると思うが、色は質素なものでしかも彼女のそれと比べると値段だの何だので確実に見劣りをしているだろうと、そう考える。
しかし自らにその差を埋める価値はない――というよりも、自らのほうが咲より価値が高いなどとはどうしても考えられない。
釣り合っているか釣り合っていないかなど彼女が気にしないのはわかってはいるが、男にはプライドという長きに渡って共に生きていかねばならぬものもある。
「うおおおおおおおおお!」
「きょ、京ちゃん?」
咆哮のあと、力強く彼女の手を握って、ゆっくりと京太郎が咲を先導した。
草履が地をこする音が一定に響く中、それをかき消すかのようにいろいろな色の声が、祭りの会場に近づくたびに強く二人を引き寄せる。
心臓の鼓動が彼らの足音と重なり始めた所で、二人は祭りの会場に着いた。既に人が己自身を使って熱気を混ぜていた。
喧騒の中に、ぼんやりと灯る提灯が、それらを見守るかのようにゆらゆらとゆれている。
提灯の上、空を見やれば葉の影に覆われて星が瞬いているのかどうかが分からないが、そもそも周りのほうに眼が行くものばかりで空を見るものは少ない。
空が見えなくても別に困りはしない、それでも天の川が見られるかと二人は心の底で願い続けた。
しかしながら木がどいてくれないので、二人は再び視線を互いの顔に移動させる。


995:名無しさん@お腹いっぱい。
10/03/01 01:25:52 cVr6mA/Q0
――二人の空気と、周りの空気の温度が違う。
言葉は発さずとも、互いにほとんど同時にそれを考えた。
例えるならば、この熱気をかもしだしている祭りの風景画の中に、自分たち二人だけが意思を持って入り込んだような。
外から見ている感覚と、中に入って一部になっているような感覚が混在している。
名状しがたきその感覚に、二人は心を強く結んで、離れないようにした。
迷子という意味ではなく、離れれば二度と戻れないような気がしたのだ。
「咲……」
「なあに?」
「いや……なんでもない」
話したいことはたくさんあった、だがその一つすら、なぜか今は思い出せない。
魂魄が薄く剥離しているような、違和感。自らの体の中で、自らが自らと争っている。
咲が、むずむずと体をよじってポツリと言い放つ。
「京ちゃん」
「何だ?」
「……チョコバナナでも食べない?」
「――は? あ……あははははは!」
そうか、違うんだ。この空気に威圧や圧倒をされるんじゃない、この空気と一つになって楽しむべきなんだ。
そうだ、忘れたのか。――敵なんていない事を。
「俺……」
「?」
「アンズあめを食いたい」
「――りんごじゃなく?」
「りんごは邪道だ」
「なにそれ」
ふと、京太郎の左手に重みが戻ってくる。彼自らが咲と共に楽しむために買ってきたそれが、遠慮しがちにだが自己主張をしていた。
だが、それを使うのはまだ早い。もっと、この逢瀬を楽しんでからでもよいではないか。
一通り、彼らは音と光を潜り抜けて境内が見えるところに来る。
「京ちゃん、ちょっとお参りしていかない?」
「ああ」
「ここは、……ここは、縁結びの神様が祭られているんだって」
――沢村智紀がそういっていたと、おそらく後に続いて来るとおもっていたが、意外にも出てこない。
それ即ち咲が自分で調べた事なのだろうという考えに、京太郎は繋げる。
「じゃあ、行ってくるか」
「うん」
「俺たちの出会いというすばらしい過去を、感謝しに」
「私たちのこれからが。未来が、よりよい物になるように――」


996:名無しさん@お腹いっぱい。
10/03/01 01:35:18 cVr6mA/Q0
バケツに、水の入る音がする。
周りに木こそないが、草と石を村にしている虫が高い声で鳴くその中で、二つの影がゆっくりと呼吸していた。
かたや背の高いほうのそばには、ビニール袋とその中身が、自ら最も美しく輝けるその時を待っている。
今、柔らかな手がその一つをとる。黒の中ではあまり意味が無いといえばそうだが、その棒は握り手が鮮やかな七色に染められており、虹を閉じ込めたかのようだ。
「京ちゃん」
「ああ、ちょっと待っていな……ライター……どこに落とした?」
地を手探りで探す彼とは対照的に、咲の目は天へと向いていた。真珠を砕いて流したようなやさしい輝きを空は放ち、雲は一つもない。それは、咲の心を反映しているかのようであり、地を照らす唯一の光でもあった。
「――あった」
火をともすと同時に、咲の口からあっという声が出た。
棒の先から白みがかった淡い緑色の光が迸ったからだ。
咲はそれを斜め上に向け、京太郎に見せるようにしてゆっくりと振り回す。
「花火を持つと、どうしてそう振り回したくなるんだろうな」
京太郎も、自らの持つそれに火をつけた。彼の持つそれを地に下ろすと、螺旋を描いて走り回っていく。
京太郎も咲も、明るい笑いを空に飛ばしていった。
しばらくそこは優しげな炎に包まれて、夜のしじまに切なくその光を溶かしていく。
やがて一本、また一本と燃え尽きていく中、最後に咲が手に取ったのは線香花火。
京太郎にそれを渡すと、先ほどまでの雰囲気が嘘のように、しん、とした世界を作り始める。
「……つけるぞ」
「……ええ」
暖かな火が、微かにパチパチと音を立てる。二人の呼吸と同じように小さいそれを愛しげに見て、咲が漏らした。
「私……空に咲く大輪のような花火も好きだけど、線香花火みたいにひっそりするのも好き……」
「――そうだ、な。こっちはこっちで趣深いよ」
「ねえ、京ちゃん。さっきから気になっているんだけど、いつからそんな趣深いとか言葉を話すようになったの?」
「これでも、お前やお前の見ている世界に少しでも近づきたいとおもって、本は読んでいるんだ。その影響だろうな」
「えっ……」
――初耳であった、そしてとてもうれしい事であった。同時に線香花火の光に照らされて、咲の頬に体温を持った水が流れていくのを京太郎はしっかりと確認した。
京太郎はその光景に驚愕こそすれ、涙を拭いてやるという考えは出なかった。


997:名無しさん@お腹いっぱい。
10/03/01 01:48:33 cVr6mA/Q0
「咲……」
「あ、あははは……煙が眼に入っちゃった」
「そうか……俺もだ」
確かに考えは出なかったが、幾ら盆暗と言えどもさすがにその意を汲み損ねる彼ではない。
すぐに苦い顔をして、そのままそらした。咲も京太郎の顔が赤くなっている事を気がつくのに少しかかったが、やがて愛おしさがこみ上げてきて、彼の近くに腰を下ろし、頭を彼に寄りかからせる。
「線香花火って、彼岸花のようだけど縁起が悪いものには思えないんだ……」
「――確かにな、縁起の悪いものを逆さにしたような形だから、むしろいいものではないかとも思うときがある」
花火は名の通り華に似ている、しかし同時にそれは人生にも似ていると咲は言う。打ち上げ花火のような、大きくはじける人生よりもこうして仄かに輝いていく人生が自分にはあっていると言った。
口調に、どことなく悲しさが見える。
「自分を卑下するなよ」
「うん、でもね――地味だ地味だといわれ続けても、それを変えられない自分も嫌だったんだ」
「でも、俺は好きだ。お前の全てが……」
「嫌だった、嫌だったけれども私、だんだんと自分を好きになっていったんだよ。――京ちゃんのおかげで!」
京太郎の言葉をさえぎり、満面に朱を注ぎながら咲は言う。
京太郎が麻雀部に連れてきてくれなかったら、今自分はどうなっているだろうか。この線香花火も、嫌いなままだったかもしれない。
「線香花火もさ、こうやってくっ付ければそれなりに……あれ」
何かを思いついた京太郎が線香花火の先同士をくっつけた瞬間に、咲が体をよじり花火の先は落ちてしまう。
それでも京太郎は諦めずに新しい花火に火をつけて、今度は動かないように彼女の肩を抱いてゆっくりと近づける。
すると二つの珠は大きな一つの珠となり、先ほどよりもまばゆい光を放ちはじめる。
「動くなよ?」
――動けないよ!
と口には出せないが、京太郎の体温、肉質、力、それらを全てを全身で感じている彼女に他の事を考えるという余裕は無い。
風が止み、虫の声も消えた。時がそこから去ったような感覚の中で、それでも現実なのだと知らせる花火の音が、光が消えた。
――しばらくの間、二人すらも動かなかった。
「見てみろ、咲」
京太郎が指し示す先には、一つの珠で繋がった二股の棒があった。
こんなことはめったに無い、京太郎の執念がなした業だといわざるを得ない。
「線香花火が落ちるさまは、まるで彼岸花の種が地に落ちて時代を超え、次代へと繋がるような、そんな気がしないか?」
「京ちゃん……彼岸花は球根だよ?」
「――マジで?」
「うん」
「……かっこわりーな! 畜生、せっかくいいこと考え付いたのに!」
頭を抱えた京太郎を、朗らかに笑う。だが、確かにそれでもいいかもしれない。
潔く何も残さず散るよりも、時代へ脈々と続くものを残すのもいいかもしれない。
「なあ……咲――一緒に住まないか」
二股の片方を握りながら、ポツリと京太郎がいいはなつ。
「え?」
「一緒に、………住まないか?」
それは、同棲という事でいいのだろうか。それを聞く前に、京太郎は続ける。
「あと二年すれば、俺も十八になる。――結婚できる年になる、俺はお前以外と添い遂げるつもりは……なんだ……その……」
ぷらぷらとゆれる二股の片方が、咲に握ってほしそうな表情を向けていた。
それを、躊躇無く掴んだ咲は、面食らった京太郎に一度口付けをし、深呼吸を一度する。
「私も、貴方以外には考えられない。京ちゃん……いいえ京太郎、私は……」
「ありがとう、でも……何も……今は言わなくて良い。――そうだろ?」
「うん、そうだね……」
言葉は交わさずとも、二人の間に何か暖かいものが流れ始める。
それを二人は絆ともいい、また愛とも言うのだろうと確信していた。
天の川が、二人を祝福しているようであった。
今夜、綺麗に二つの支流が一本の本流へと合流をし、やがて一つの海へと流れ着いた。
海は名の通り次の時代を生み出し、連綿と命を続けていく――。


998:名無しさん@お腹いっぱい。
10/03/01 01:49:17 cVr6mA/Q0
そんなわけで、途中から何やってるかわかんなくなったけどこれで終わり。
いろいろすまんかったorz

999:名無しさん@お腹いっぱい。
10/03/01 02:10:22 WJciXlF10
>>998 
gj

1000:名無しさん@お腹いっぱい。
10/03/01 02:12:32 WJciXlF10
1000なら原作、アニメ2期ともに咲京か京咲エンディング

1001:1001
Over 1000 Thread
このスレッドは1000を超えました。
もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。


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