09/10/13 21:22:07 zyXgezHW
それきり電話は切れてしまって、私はじっと窓から外を眺めていた
ふとヘッドライトが暗闇を切り裂いて、マンションの前に停まったタクシーから見知った人影が降り立ったのが見える
幽霊でもタクシー使うのかな?・・・唯先輩ならやりかねないな
そんな事を思って涙が零れそうになるのを必死にこらえた
別れの時の前に余計な事を考えてしまうのを必死に制して、ただ唯先輩の事だけを思った
ぴんぽーん
インターホンの音
怖くなかったと言ったら嘘になってしまう
でも躊躇いは一瞬だけで、私は確認もせずにドアを開けた
そうしなくてはいけないと思った
そこには暖かな笑顔を浮かべた唯先輩が、靴でとんとんリズムを取りながら立っていた
・・・え?・・・足がある・・・・・・?・・・幽霊じゃない?
「やっぱり夜は・・・こんばんゎ、だよね」
「唯先輩!!」
駆け寄ってがっちりと抱きつくと、確かな感触と体温
夢じゃない・・・生身の唯先輩だ!
「おっとと。こんな熱烈な歓迎されるなんて愛されてるなあ。芸能人って得だね!」
「茶化さないでください!私・・・私は・・・・・・」
「ま、ま。とりあえず中はいろうよ。目立っちゃう」
かちゃり
ドアを閉める時も唯先輩の温もりを確かめるように、私はその体から離れなかった
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
「やめてってば。キミの知ってる唯先輩はこんな時どうする人だっけ?怒る?泣く?違うよね」
「私・・・私、唯先輩に笑ってもらう資格なんて無い」
「資格とか関係ないよ。私がこうしたいからこうするの。平沢唯は、ちっともまったく1ミリも中野梓を恨んでませーん。だって・・・」
「だって・・・?」
「・・・好きなんだもん。殺してしまいたいほど自分を好きでいてくれたってわかって・・・嬉しいんだもん」
「先輩・・・私」
「私もきっとこうするよ!とか言ったら怖い?えへへ。唯は梓を許します。だって心の底から愛してるから。それでいいじゃん!」
「・・・・・・はい」
ぎゅっと先輩の温もりに甘えている
ずっとこうしていたい
もう二度と間違わないように
「でも・・・生きていてくれてよかった。私、もう絶対、こんな事しませんから」
「ううん。だから死んだんだってば」
「・・・・・・え?」
「ああ、それとね」
「お姉ちゃんは許しても、私は許さないから・・・・・・」
Fin