09/10/05 21:54:32 KvjT96UG
「あずにゃん、かえろ~」
「はいはい、少し待ってくださいね」
チャイムが鳴るなり教室に入ってきた唯先輩に一言そう言って、帰るために荷物をまとめる。
いつも思うのだけれど、唯先輩はいつから教室の前にいるんだろう?
「それじゃ、帰りましょうか」
「うんっ」
頷いて私の腕に自分のそれを絡めてくる唯先輩。子供みたいな笑顔でにへらと笑っている。
別に腕を組むことには抵抗が無いのだけど、人前でこういうスキンシップはあまり取らないほうがいいと思う。さすがに恥ずかしい。
いくら私たちの仲が周知だといってもある程度の距離を保たないと、そのうち人前でキスとかもされそうで困る。
「どんとこいです」
「うん? なにか言った?」
「いえ、ただの独り言です」
危ない危ない、気付かないうちに口に出てたみたいだ。
さすがにあのセリフだけで考えが見透かされるということは無いだろうけど少し心配。何せ私は考えていることが口に出ていることが多いから。
「そ、それで、今日はどこに行くんですか?」
取り繕うように質問を投げかける。
「あ、うん、実は私の家の向こう側にいいお店を見つけたんだ~」
「向こう側、ですか」
両腕を使って場所を教えてくれてるけど正直よく解らない。
「え、っと、それは私の家からどれぐらいかかりますか?」
「んー、多分10分くらいで着くんじゃないかなぁ、自転車で」
「んー」
「あ、でも直接行くから時間は気にしないでいいよ」
「それもそうですね」
そんなことを話しながら下駄箱を通過して校門を通り抜けて唯先輩の見つけたというお店に向かう。
「―着いたよ」
他愛も無い話をしながら歩いていると、唯先輩が足を止めたのでつられて私も止まった。
視線の先には小さな喫茶店。
「喫茶店、ですか」
「うん、ここのアイスが美味しいんだぁ~」
「そうですか」
そんな会話をしながらお店に入り「何名さまですか?」「お二人様です」という恒例のやり取りを済ませて手近な席に座って注文を済ませる。
「お待たせしました」
早っ!
注文して1分も経ってないですよそれとも今はこれがデフォなんですかいやそんなことはないでしょう。
動揺している間に唯先輩が「どうも」とお礼をして店員さんが「いえいえ、ごゆっくり」と言って去って行った。
「どうしたの?」
「……いえ、何でもありません」
「? へんなあずにゃん」
不思議そうにしながらも唯先輩は持ってこられたパフェを食べ始める。
「おいしいですか?」
「うん、あずにゃんも食べなよ」
「そうですね、では」
当然唯先輩とは違うものに手をつける。あわよくば交換しようと言われることを期待したのではなくてたまたま違うのを選んだだけなので誤解しないように。
しばらく黙々とスプーンを口に運び続けていると、不意に唯先輩が「あ」と声を上げた。
「どうしたんですか?」
その問いには答えずに唯先輩は顔をこっちに近づけてきて、ぺろりと紅い舌で私の頬を舐めた。
「……なにするんですか」
「ん? んーとね、あずにゃんのほっぺにクリームがついてたから」
悪びれた様子も無くあっけらかんと答える唯先輩に怒る気が失せてしまった。
「クリームを取ってくれたのはいいんですけどそれなら布巾で拭けばよかったじゃないですか」
「だめだよそんなの。もったいないじゃん」
「そういうものなんですか」
「そういうものなんです」
上手く言いくるめられた気がするけどまあいいか。
「あ、唯先輩」
「うん?」
―やり返してやった。
Fin
お目汚しからそれではまで