09/09/26 17:40:11 mygKLqkA
「唯先輩は、私のことが好きなんですか?」
二人っきりの音楽室。お互いにギターの手入れをしているときに、なんとなくそんな疑問が零れた。
その疑問に、唯先輩は手入れする手を止めて、くりくりした瞳を私に向けてくる。
「やぶからぼうにどうしたの?」
「いえ、別に。ただ、少し気になったので」
「そっか」
唯先輩はそう呟いて、またギターの手入れを再開させた。そして、手を動かしながらさっきの疑問に答えてくれる。
「私は、あずにゃんのことは好きだよ」
「そうですか」
対する私の返答は冷めたもの。そう言われるのは解っていたし、今までだって何度も言われ続けた言葉だから、今更照れることもない。
私の反応が予想通りだったのか、唯先輩がくすりと笑った。
「あずにゃん、照れないんだね」
「もう慣れましたから」
「そっか。照れるあずにゃんも可愛かったんだけどなぁ」
「もう昔とは違いますから、それぐらいじゃ照れませんよ」
そう言ってやると、唯先輩はむむむと顔を顰めて考え込んでしまった。大方、どうやったら私を照れさせられるのか考えているのだろう。
考え込んでいる唯先輩を見ているのも楽しいけれど、やっぱり喋っていた方が楽しい。という訳で更に質問を投げかける。
「ちなみに、どれぐらい好きなんですか?」
「なにが?」
「私のことですよ」
これぐらい話の流れで察して欲しかったけれど、このズレ具合もまた唯先輩らしさ、か……。
ふふ、と唯先輩に気付かれないように小さく笑みを零した。別に気付かれたってどうもしないとは思うけれど、自分のことを笑われたとか思って膨れてしまうかもしれない。
ぷくぅと膨れる顔も見てみたかったけど、今は会話を先に進めたいからそれはまた別の機会にしよう。
「あずにゃんのことは世界で一番大好きだよ」
「随分簡単に言っちゃうんですね」
世界で一番なんてそんな簡単に言う言葉じゃないと思う。そんなんだからみんなから信用されないんですよ?
でも、そう言ってもらえるとやっぱり嬉しい。この人は嘘を吐くような人じゃないから、きっとその言葉は本心なんだろう。
それが解るから、嬉しい。言葉通り、世界で一番愛されているということだから。
「それじゃ逆に質問するけど」
「なんですか?」
「あずにゃんは私のこと、好きなの?」
決まってるじゃないですか、そんなの。もうずっと前に言ったはずですよ。
「好きですよ、唯先輩のことは」
「そっか」
唯先輩の反応は私と同じように冷めていた。やっぱり、何度も何度も繰り返したやり取りだから、新鮮さが無いから、か……。
でも、それでも一応反応はしていた。目が嬉しそうに笑っている。これが、私と唯先輩の違い。この人は何度好きと言われてもその度に嬉しそうに笑う。
昔みたいに抱きついてきたりはしなくなったけど、その代わりに静かに喜ぶようになった。いつもでも子供のままではいられない。高校を卒業してから、この人は大人になっていった。
「それじゃ、どれぐらい好き?」
「なにがですか」
「私のことだよ」
もちろん私も変わった。唯先輩を追いかけるようにして同じ大学に入学して、そして大人になった。
昔のように赤面することも少なくなったし、何より好きという気持ちを落ち着いて考えられるようになった。
初めて唯先輩への想いに気付いたとき、私は泣いて泣いて泣きまくった。
女同士で好きになるなんてあっちゃいけない。そんな考えから一時期軽音部を止めようかと思ったりもしたけど、今は恋愛は人それぞれだと柔軟に考えられるようになった。
それもこれも、全てはムギ先輩が私の背中を押してくれたから。心の中でお礼を言って、私は口を開く。
「私は、唯先輩のことを世界で一番愛しています」
あぁ、私まで世界で一番なんて言ってしまった。これで私の胡散臭度が0から5%に上がってしまう。
だけど、本心なんだから仕方無い。
唯先輩は、私の言葉ににっこりと笑って、扉の方を指差す。ざわざわとした談笑と足音。どうやら他の先輩たちが来たみたいだ。
「解ったよ、あずにゃんを照れさせる方法」
「なんですか?」
その質問に答えないで、唯先輩は無言で私の唇を奪ってきた。
「ちょ……ッ!」
何するんですか他の先輩たちに見られちゃうじゃないですか。そう目で訴えても、返ってくるのは妖しい笑みだけ。
……あぁ、なるほど。つまりこれが私を照れさせる方法、ですか。
―1本取られましたよ。
Fin
お目汚し失礼した
それでは