09/09/16 18:16:13 yywIL2WI
「うぃ~」
「ほぇ?」
ある日の放課後。いつもどおり一人で通学路を歩いていると、後ろから大好きな声が聞こえてきた。
振り返ると、ギターを背負いながら両手を振り回して私のほうに走ってくるお姉ちゃん。
私は歩く足を止めて、お姉ちゃんが追いつくのを待つ。そして数秒後、私の隣には少し疲れた様子のお姉ちゃん。
「どうしたの?」
お姉ちゃんの息が整うのを待って、尋ねる。この時間はまだ部活中のはずだけど……。
そう言うと、お姉ちゃんはなぜか得意げにピースサインをして一言。
「今日は練習が早く終わったんだ~」
「そうなんだ」
珍しい。普段は遅くまで練習をしてるかお茶を飲んでるかしてるはずなのに……、何かあったのかな?
さすがにそこまで訊くのは気が引けるから、止めていた足を再び動かして帰路を辿る。
突然歩き出した私に、後ろでわわっという声が聞こえた。
「うぃ~、待ってよ~」
「ごめんごめん」
「いいよ~」
何だかんだ言っても、お姉ちゃんはやっぱり優しい。この優しさを独り占めしたくなっちゃうほどに。
でも、それは私の我侭。そんなことをすればお姉ちゃんや周りの人が悲しむと解っているから、独り占めはしない。
それでも、今日ぐらいは。
隣を見てみると、にこにことした笑顔で前を見ているお姉ちゃん。
今だけは、この笑顔は私だけのものだ。
「お姉ちゃん」
「うん?」
大好き、とは言えなかった。だから、代わりに―
「帰ろっか」
「うんっ」
いつか、きっと……。
Fin