「泉こなたを自殺させる方法」を考える32at ANICHARA2
「泉こなたを自殺させる方法」を考える32 - 暇つぶし2ch100:JEDI_tkms1984
09/09/01 21:26:43 Sn1nC9Kk
 みなさん、こんばんは。
本日分の投下参ります。

101:麾く煉獄36
09/09/01 21:27:49 Sn1nC9Kk
 その後、こなたは気がつくと家の前にいた。
ここに至るまでの記憶はない。
思考が働かなくても3年の間、通い続けた道は体が勝手に記憶しているものらしい。
「ただいま……」
この決まり文句も口が勝手に言ったことだ。
ほとんど機能していない脳に、
「おかえり」
聞き慣れた父親の声が届く。
”帰ってきた”という感覚はない。
ここは自分の家ではない、と。
こなたはそう思い始めていた。
そうじろうはいつもと何ひとつ変わらない様子で玄関まで出迎えにくる。
「うん、ただいま……」
無視するのも気が引け、とりあえずその挨拶をもう一度発すると、こなたはそうじろうの脇をすり抜け部屋に向かう。
その途中、彼女はゆっくりと振り返り、
「ゆーちゃんは?」
愛想にもならない声をかけた。
「ああ、えっと、みなみちゃんだったかな? その子の家にお泊りだって言ってたぞ。もうひとりいたんだがな……。
名前が出てこないな。た……た……何とかって子だ」
「ひよりん……田村さんだね」
「ああ、そうそう! その子だ」
溜飲が下がった様子のそうじろうに一瞥をくれ、こなたは今度こそ部屋に向かう。
後ろ手にドアを閉めてため息ひとつ。
(ウソだよ……)
かがみを疑っているわけではない。
彼女をウソつき呼ばわりするつもりもない。
だがこの事実を受け入れてしまえば、こなたは唯一の肉親までも失うことになる。
こなたはそれをただ恐れた。
父は父であればいい。
言動に問題があっても、世間に恥じることのない最低限の体を保っていればそれだけでいい。
小説家という響きのいい肩書きなどなくても構わない。
ただ悪事に手を染めてほしくない。
そんな父親はいらない。
(……………………)
彼女は何事かを決心したように部屋を出た。





ゆたかがいない夕餉はこんなにも寂しいものなのだろうか。
テレビの音と咀嚼音だけが響く食間で、こなたは段々と陰鬱になっていく自分に気付く。
味噌汁にサラダ、豚肉の生姜焼き。
どれもそこそこに味付けの濃い品書きなのに、今のこなたにはどれもが砂のように感じられる。
「ねえ、お父さん」
食後のお茶を堪能していたそうじろうは、妙に艶っぽい娘の声に、
「ん、どした?」
湯呑みを置いて向きなおった。
「明後日さ、友だちが来るんだけどいいかな?」
その時の父そうじろうの表情を、こなたは生涯忘れないだろう。
今までどこかつまらなさそうだった彼の顔は俄かに明るくなり、
「もしかしてつかさちゃんか?」
身を乗り出してそう訊ねた。
「うん…………」
小さく頷く。
これはそうじろうの問いに対する答えではなく、彼女が何かしらの確信を得たという合図。
またそれを自分自身に言い聞かせる意味も含んでいる。
「嬉しい?」
「そりゃ嬉しいさ。こなた、ここのところ元気なかったしな。つかさちゃんが来てくれるなら大歓迎だ」
そうじろうが破顔する。

102:麾く煉獄37
09/09/01 21:29:50 Sn1nC9Kk
満面の笑みを湛える父が今は煩わしい。
「かがみも来るんだよ」
こなたはそう付け足したが、
「あ、そうなのか」
今度はほとんど興味を示さない。
この態度の違いでようやくこなたは確信を持つ。
受け容れたくない真実に近づいた彼女は、しかしそうしなければならないと言い聞かせ、
「ねえ、お父さん。ヘンなこと訊いていい?」
震える声でそう問いかける。
「どした?」
気分が浮ついているのか彼は上機嫌で娘を見た。
こなたはわざと視線を逸らす。
「お父さん、昔さ……その……痴漢とかしたこと……ある……?」
「うっ…………」
瞬間、そうじろうの顔は驚愕に彩られた。
逸らした視線を再び父に向けたこなたは、危うく泣きそうになった。
明らかに動揺している。
全く身に覚えのない事柄であれば呆気にとられることはあっても、今のように体を小刻みに動かしたりはしない。
「きゅ、急に何を言い出すんだ!」
彼は不自然にならないように言葉少なく言い返したが、額に浮かぶ汗がこなたの懐疑をさらに強くした。
「したんでしょ…………?」
(してないって言ってよ!!)
想いと全く逆の言葉を投げかける。
そうじろうは―否定しなかった。
何事かを考え込むように彼は俯いたまま、視線だけを落ち着きなく彷徨わせている。
(お父さん…………?)
こなたの頭の中は真っ白になった。
何秒か経った時、そうじろうは娘の期待を裏切るように、
「なんで知ってるんだ?」
小さな小さな声で問い返した。
「誰かに聞いたのか?」
畳みかけるように質問。
「したんだね…………」
今のこなたにはもうこれしか言えない。
彼女が知っている人間の中で最も信頼していたのは父と母。
信頼の度合いは次いでゆたか、ゆい……と続き、順列においては他人であるかがみたちはずいぶん後に回っている。
だからこなたの中では父そうじろうがまず正しい、という前提があった。
証拠があろうとなかろうと、彼が一笑に付して取り合わなければそれで良かったのだ。
だがそれは叶わなかった。
「落ち着いて聞いてくれよ、こなた。痴漢って言っても、電車の中で手が当たったくらいなんだ。
それがまあ……そういう風に見えてしまったってだけなんだ。なあ、こなた?」
だったらなんでもっと強く否定しないんだ、とこなたは思った。
「言いがかりをつけられただけなんだ」
一応認めたものの、そうじろうは正当化しようと詭弁を弄する。
だがまだ肝心な事実を打ち明けていない。
彼の保身の術は事の詳細を知らない者には通用するが、すでに多くの情報を手に入れたこなたには効き目はない。
「その相手ってつかさなんだよね?」
いつまで経ってもそうじろうがその点に触れないので、こなたは自分から名前を出した。
「なっ…………!?」
この度の動揺は先ほどのものとは違う。
額にも頬にも首筋にも。
びっしょりと汗をかいているそうじろうは気分を落ち着けようと湯呑みを手にする。
が、まるで力が入らない。
地震が起こった時のように彼の手の中で湯呑みが微細動を繰り返す。
もはやそうじろうは何も答えなくてよい。
言葉で伝えることも、彼が得意な文章に書き表す必要もない。
まるでギャグマンガのキャラのように滑稽な狼狽ぶりを見せる彼は、その所作だけで十分すぎるほどに事実を語る。
「こなた…………」
獣のような双眸がこなたを捉えた。

103:麾く煉獄38
09/09/01 21:35:26 Sn1nC9Kk
「当て推量じゃないんだろ? 知ってるんだな……そのこと……」
「………………」
これでようやくこなたの中で一連の悲劇が完結した。
みさおの話に間違いはなかった。
かがみの独白にウソはなかった。
結局、何もかもが真実。
自分ひとりだけが今日まで知らずにいた真実だ。
「初めてあの2人が家に来た時はビックリしたよ。まさか、あの時の子が来るなんて夢にも思わなかった。
おまけにこなたと同じクラスだなんてな……偶然なのか奇跡なのか…………」
遠い目をして語るそうじろうの口調や表情からは、痴漢をした事に対する悔恨懺悔の情は読み取れない。
どちらかと言えば、たった一度電車の中で出逢った可愛らしい少女に邂逅できたことへの悦び。
喜悦甚だしく、彼はだらしなく顔の筋肉を弛緩させている。
「まあ、向こうは俺の顔なんて覚えてなかったみたいだけどな。それだけが幸いだったよ。
こなたの友だちなら頻繁に家に呼べるし、もっと間近にあの子の顔を見られるもんな」
そうじろうは顎に手を当てた。
「憶えてるよッッ!!」
こなたは声を限りに叫んだ。
「お父さん、かがみに取り押さえられたんでしょっ!? つかさもかがみも憶えてるよっ!!」
「こ、こなた…………」
「私だけ…………! 私だけが何も知らなかったなんてバカみたいだよ…………ッッ!!
みんなそんな大事なこと隠してて……なんで……なんでなの…………!!」
悲しみと怒りの混じった涙がこなたから全てを奪った。
ぼやける視界の中にそうじろうの姿はない。
「こなた…………」
困ったように娘を見下ろすそうじろうの顔は、泣きじゃくる赤ん坊をあやす父親のそれと変わらない。
「すまなかった。いや、隠してたわけじゃないんだ。でもそんな事、わざわざ言うものじゃない。
分かるだろ? 俺の中だけで留めておけばよかったんだ。そうすりゃこなただって何も悩む必要はな―」
「勝手なこと言わないでよ!」
「………………」
「お父さんは……!! お父さんは私の自慢のお父さんだったよ。片親で今日まで育ててくれて……。
すごく感謝してる。感謝してるし尊敬もしてるよ。でも陰でそんなことしてるなんて思わなかった…………!!
恥ずかしいし……ううん、情けないよ…………」
「………………」
父親にロリコンの気があることをこなたは知っていた。
もちろん二次元での話であって、その嗜好はあくまで”オタク”を隠れ蓑にできる程度の軽いものであるとも。
だから彼女はそうじろうの趣味に妙に安心しているところがあった。
ヘタにそういう好みを隠されるより、自嘲も混ぜてカミングアウトしてくれるほうが潔い。
娘に対して裏表のない父親、という意味でも安心できる。
そうじろうに対しては概ねこのように思っていただけに、痴漢という卑劣な行為に及んでいた事実は衝撃が大きすぎる。
冗談などではない。
彼は本当にそれをやってしまっているのだ。
「そうだな……俺ってバカだよな…………」
居たたまれなくなって彼はふいっと余所を向く。
「でもな、こなた……」
淫靡を知られたからには、もうこの父親は愛娘の顔を真正面から見ることはできない。
「俺とつかさちゃんは――」
彼が言いかけた時、こなたはすでに自分の部屋に駆け込んでいた。





その夜、こなたは一晩中泣き続けた。
涙が涸れるまで彼女は泣き続けた。
悲しかったのか、悔しかったのか、それとも腹立たしかったのか。
もはやこなたには分からない。
分からないのにこなたは泣いた。
溢れる涙を止めることはできなかった。

104:麾く煉獄39
09/09/01 21:38:48 Sn1nC9Kk
ゆたかが留守だったのがせめてもの救いである。
こんな惨めな姿を従姉妹に晒すわけにはいかない。
「お父さん…………」
暗く閉め切った部屋に、たったいま自分が発したばかりの言葉が木霊する。
「なんで……なんでよ…………」
こなたは自分の声を聞いた。
「なんであんなことしたのさ…………!!」
この呟きに答えたのは、風に乗って幽(かす)かに響く踏切の音だけだった。




「こなちゃん…………」
数日で劇的に変わったこなたに、つかさはビクビクしながら声をかけた。
彼女はかろうじて高校生として登校してきているが、18歳とは思えないほどに窶れてしまっている。
「…………」
こなたは無視した。
疲れているのだ。
疲れているし、恥ずかしくもある。
柊つかさはこうして自分を案じて声をかけてくれるが、彼女は自分に淫らに迫った男の正体を知っている。
相手がその男の娘であることも知っている。
知っていて知らない振りをして”友だち”として接してくる。
こなたにはつかさが神々しく見えた。

”私だったら絶対に厭よ。気持ち悪い痴漢の娘なんて”

昨日、かがみに言われた言葉が思い出しもしないのに記憶の抽斗から飛び出してくる。
(つかさは……本当は厭じゃないのかな……)
そうそう簡単にできることではない。
バカがつくほどのお人好しでなければ、つかさのように振る舞うことは不可能だろう。
「ねえ、こなちゃん……」
つかさがそっと肩に手をかける。
「もう放っといてよ!」
「あっ―」
恥ずかしさが自分への怒りに変わり、それが頂点に達した時、こなたはつかさの手を強引に振り払ってしまった。
その時のつかさの顔は、こなたとは対照的に悲しみに染まっていたようだった。
「…………ごめん」
ほとんど舌先で発音するように詫びを入れ、こなたは教室を飛び出した。
「泉さん!!」
その様子を見ていたみゆきが呼びとめるが、彼女はそれも無視して走り去る。
心配しながらも、といって追いかけもしないみゆきは代わりにつかさに向きなおった。
「かがみさんは……まだお怒りに?」
おずおずと問いかけるみゆきに、つかさは忘我した様子で頷いた。
(おかしいですね。私が知る限り、かがみさんはそこまで怒りを引きずるような方ではないと思うのですが……)
いろいろとみゆきなりに考えてみる。
が、他人と争った経験に乏しい彼女はそもそも思考に用いる材料が少なすぎるために、易々と結論にたどり着いてしまう。
(怒りっぽい性格なのでしょうね、かがみさんは。それになかなか素直になれないようですし……)
結局、柊かがみを表面で見ただけの安直な結論である。
たかだか数年、友人を続けたくらいではこの程度の考え方しかできない。
しかし無理もない話ではある。
こなたの父親が昔、つかさに痴漢を働いた事実などどうして想像できようか。
つかさがその屈辱を隠してこなたと付き合っているなど、何をヒントに関連付けられようか。
ましてや高良みゆきは彼女を取り巻く女子には不釣り合いなお嬢様である。

105:麾く煉獄40
09/09/01 21:43:32 Sn1nC9Kk
濁世の汚らわしい淫乱話など、瑶林瓊樹の彼女には甚だ遠い世界での出来事なのだ。





こなたはひとり、食堂で昼休みを過ごした。
これまではつかさとみゆき、3人で昼食をとっていたが、もはやそんな厚かましいことはできない。
何かと留めようとする2人に適当に理由をつけて教室を出、隅で小さくチョココロネを齧る。
惨めだった。
元を辿ればそうじろうの淫行が原因なのだが、こなたに全く非がないわけではない。
痴漢話がなかったとしても、彼女が幾度となくかがみを嘲弄していた事実は変わらない。
「………………」
味の濃いチョコレートクリームに吐き気を覚え、食べかけのコロネを袋に包む。
こなたはポケットから携帯を取り出した。
(連絡はしないと思ってたけど……)
いま一番頼りになるのはこの人物しかいない。
最も新しく登録されたアドレスを呼び出し、慣れた手つきでメッセージを打ち込む。



 宛先:日下部 みさきち
 件名:

 本文:この前はありがとう。
    話したいことがあるんだけど放課後あいてるかな?



言葉に敏感になっているこなたは、この種の呼びかけの文章を何度も打ち直した。
驕慢になってはならないし、といって必要以上に卑屈になってもいけない。
”話したいこと”と”相談したいこと”。
2行目の頭をどちらかにしようかと悩み、迷った末に前者を選ぶ。
相談というワードを挿れてしまうと身構えられるかもしれないからだ。
だから敢えて平易で一般的な言葉に置き換える。
送信完了、のメッセージを確認してディスプレイを閉じる。
(五月蠅いな…………)
食堂は生徒たちでごった返している。
それら一人ひとりが無遠慮に出している声が煩わしい。
つかさたちから離れる分には適した場所だが、気分を落ち着けるには極めて不向きだ。
こなたはそっと立ち上がり、食堂を出た。
行くあては―ない。
昼休みが終わるまで時間を潰す場所を探すだけだ。



 別れの挨拶もロクにせずに、こなたは乱暴に鞄を引っ掴むと急いで教室を出た。
モタモタしていればまたつかさたちが声をかけてくるに違いない。
その気遣いはありがたいが今の彼女には苦痛でしかない。
そのような厚意を受ける資格すら、自分にはないのだ。
と考えればつかさは聖母にも劣らぬ慈愛の持ち主である。
(ごめん、つかさ……)
後ろで何か叫んでいる彼女を捨て置くように、こなたは廊下を急いだ。

106:麾く煉獄41
09/09/01 21:45:21 Sn1nC9Kk



 発信者:日下部 みさきち
 件名:Re:

 本文:いいぜ。じゃああの店の前で



という素っ気ない返信が5時間目の終わりに来た。
あの店とは言うまでもなくファミレスのことだ。
良かった、とこなたは安堵する。
返事がなければどうしようかと思っていたところだ。
蟠る生徒たちを避けて足早に校門を出る。
自分から誘っておいて遅れるわけにはいかない。
彼女は持ち前の脚力を活かして通学路をひた走る。
会ってどうするかと特別に何かを考えていたわけではない。
慰めてほしかったのかもしれないし、激励してほしかったのかもしれない。
頼りになるハズの身内があれでは、こなたの心休まるところは家にはない。
「み……みさきち…………!!」
呼び方は元に戻っていた。
みさおはすでにファミレスの前にいた。
会話の中でころころと表情を変えるこの少女は、なぜか物憂げな様子だ。
「お、来たか」
チャームポイントの八重歯を覗かせ、みさおが笑う。
「ごめん、こっちから誘っておいて遅れちゃって……」
今のこなたにはすっかり謝り癖がついてしまっている。
無意識に会話の始まりに詫びを持って来ることで免罪を図ってしまう。
「気にすんなって。それじゃ行こうぜ」
さらりと躱してみさおが歩き出す。
が、その方向を訝しんだこなたはすかさず、
「えっ? どこ行くの?」
率直に訊ねた。
みさおの足は店ではなく、それを横切るように南に向いている。
「ああ、今日はあっちの公園で話そうぜ」
こなたの問いに立ち止まることも振り返ることもせず、歩みをそのままに彼女は答える。
「お金なら私が出すよ。この前はみさきちに御馳走になったし―」
「いや、そうじゃねーんだ。まあいいから公園行こうぜ」
「…………?」
こなたはみさおが金欠なのかと思ったが、どうもそうではないらしい。
他にファミレスに踏み込めない理由があるのだろうか。
考えてはみるのだがもちろん答えは出ない。
(………………?)
結局、こなたはみさおの後を付いていく格好となった。
通りから少し外れたところに小さな公園がある。
今となっては砂場や遊具で戯れる子供などほとんどいない。
そこそこの年配がベンチに腰掛けて憩っているくらいである。
先導するようにみさおが近くにあったベンチに腰をおろした。
それに倣うようにこなたもその横に座る。
傍から見れば2歳ほど離れた姉妹のように見える。
「で、話って?」
みさおが空を見て問うた。
なぜファミレスでなく公園なのか、こなたは逆に訊き返したかったが、
「うん…………」
考えがまとまらずに生返事で答えるしかなかった。
どこかからサッカーボールが転がってきた。
その元をたどると数人の男の子がこちらに向かって手を振っている。
立ちあがったみさおがボールを蹴った。

107:麾く煉獄42
09/09/01 21:46:32 Sn1nC9Kk
黒白の球は美しい放物線を描いて空高く昇り、やがて重力に従って落下する。
着地したところはちょうど男の子たちの目の前。
絶妙なコントロールを見せたみさおは大きく手を振った。
ボールを手にした男の子たちは慇懃にお辞儀をすると向こうの広場に走り去った。
「あのさ…………」
その様子を見ていたこなたは意を決したように声をかけた。
「ああ」
みさおも再び腰をおろす。
「私、昨日かがみに謝ったんだ」
「………………」
「今まで本当に悪かったって。もう揶揄ったりしないって……かがみに迷惑かけないようにするって」
「ふーん」
青空の下、独白するこなたに対してみさおの相槌は素っ気ない。
「で、どうだったんだ? 柊の奴」
「うん、許してくれたよ。かがみ、テストのことでイライラしてたからって。自分も悪かったからって…………」
「なるほどな」
「かがみは……許してくれたよ……でも、でもまた怒らせちゃった…………」
そこで言葉を切る。
先を続けるのが憚られる。
一気にまくし立ててもよかったが、喉奥に何かが閊えたようにこなたは言葉を紡げなかった。
「………………」
「………………」
暫時、無言。
生暖かい風が足元を撫でるように過ぎる。
「…………で?」
どこか拗ねた様子でみさおが問う。
「…………?」
「犯罪者の子が私に何の話があるんだよ?」
「………………ッッ!?」
こなたは驚愕の瞳でみさおを見た。
「はん……ざいしゃ……って…………?」
うまく発声できない。
顎骨が小刻みに震え、位置を定められない舌はこなたの意思を空気の振動として放つに至らなかった。
「だから痴漢の子って意味だよ」
今度は少し怒った口調でみさおが言う。
瞬間、こなたは虚空に投げ出されたような感覚を味わった。
途轍もなく高い所から、この世界の最も低い所に突き落とされたような妙な感覚。
青空に黒雲が迫った。
その先端が太陽に差しかかり、地上を遍く照らしていた光の一部が無惨に切り取られる。
「聞いてたの…………?」
こなたはかろうじてそれだけ訊く。
みさおはバツ悪そうに余所を向き、
「まあな―」
口先だけで答えた。
「最初から……? 最初からずっと聞いてたの……?」
震える声は2人の僅かな距離を蛇行しながら届く。
この問いに特に意味はない。
こなたが本当に知りたい事はつい先ほど、曖昧ではあるが答えを得ている。
「ん~、まあ聞いてたかって言われたら聞いてたんだよな」
みさおがどこかのファンドのオーナーみたいな言い方をした。
「いやさ、柊連れてカラオケにでも行こうと思ってたんだけどさ、断られたんだよな。
あやのも事情があったし……。でさ、そのまま帰ろうとしたら、なんか柊の様子がおかしかったからな」
不審に思って後を尾けたという。
「………………」
つまりかがみとのやりとりも一部始終を見聞きしていたことになる。
「ビックリしたぜ。体育館裏に行くんだもんな。何があったのかって普通、気になるだろ?
柊ってそういうところは慎重だからさ。まさかチビッ子がいるなんて思わなかったけどな」
今のみさおは口調に緩急も付けなければ、表情に変化も見せない。
喜怒哀楽を感じさせない語りは、こなたに不安といくらかの期待をもたらしてくれる。
しかし期待を抱くのは誤りである。

108:麾く煉獄43
09/09/01 21:50:18 Sn1nC9Kk
みさおは先ほど、こなたに対して”犯罪者の子”と呼ばわった。
この言葉を彼女が取り消さない限り、こなたを待ち受けるのは闇しかない。
「で……まあ聞いちゃったんだよな。チビッ子の親父さんが妹に痴漢したって話…………」
そこでもみさおは顔色ひとつ変えない。
妙に淡々と語る口調が不気味だった。
「順番がおかしくなったけど―」
みさおは目を細めた。
「本当なのか? 親父さんが妹に……したのって」
こなたはすぐには答えられなかった。
「柊の勘違いってこともあるだろ。まだチビッ子の言い分を聞いてないから私も勝手なこと言えないしな」
例えばここでウソを吐き、同情を求める方法もあった。
かがみの言いがかりだ、父親は無実だと開き直ることもできた。
「うん……本当なんだ。私も信じたくないけど。でも、でも昨日お父さんに聞いたらそうだって―」
だが彼女はそれをしなかった。
これ以上、罪を重ねたくはなかったのだ。
ここで虚偽を述べたところで、表面上はみさおの援けを得られても根本の解決にはならない。
「そっか…………」
みさおは天を仰いだ。
「それじゃ柊が怒るのも無理ないよな。妹のこと考えたらなおさら大変だったと思うぜ」
「………………!!」
こなたはグッと拳を握った。
ここにきてみさおはかがみを擁護する発言をした。
ということはつまり―。
「柊に同情するぜ」
こうなる。
「そ、そう……そうだよね…………」
こなたには苦笑いを浮かべるしかできない。
同時にファミレスではなく公園を選んだ理由も漠然とだが見えてくる。
「事情知るまでは柊がいつまでも怒ってるって思ってたけど。分かっちまったらもうそうは見れないんだよな」
「………………」
「それにチビッ子―」
「…………?」
「柊に内緒だって話、喋っただろ?」
「………………!?」
そうか、とこなたは思い当たる。
みさおが最初から話を聞いていたのなら、自分が口を辷(すべ)らせた事ももちろん知っている。
そもそもそれがキッカケでかがみの怒りを再燃させてしまったのだ。
「そういうところが周りを不愉快にさせてんじゃねーのか?」
「うっ…………」
反論の余地はない。
”周り”とはもちろんかがみのことであるが、今はそれにみさおも含まれているのだ。
「チビッ子のせいで柊に口が軽い奴だって思われたかもしんねーな」
みさおは憮(がっかり)したように俯く。
「―まあ喋ったのは事実だけどさ」
どうも当てこすりにも聞こえる彼女の言葉に、こなたはキュッと縮こまった。
「………………」
みさおが徐に立ち上がった。
どこ行くの? の一言がこなたの口から出てこない。
「悪りぃけど、そろそろ帰るぜ。誰かに見られるかも知れないし」
「えっ…………」
みさおの放った言葉はこなたの心を鋭く抉った。
すっかり小さくなっている彼女に、ひと欠片の憐憫もかけてはくれない。
単純明快な日下部みさおは、何物をも差し置いて直截的にこなたを援けようとしたのと同じように、
ひとたび愛想を尽かせばその翻しもまたバッサリと斬り捨てるように行う。
「あんまりチビッ子と一緒にいるの、他人に見られたくないんだよな。柊にも悪いし」
「――ッッ!!」
あの時に近い。
みさおはかがみと同じように泉こなたを見限った。
こちらの場合は一度は彼女を救おうとしたから、見捨てたというほうが適切だ。
が、それが意味するところにさしたる違いはない。

109:麾く煉獄44
09/09/01 21:53:16 Sn1nC9Kk
「じゃあな、チビッ子」
最後の最後までその渾名(あだな)で呼ぶみさおに、こなたは心を折られた。
どうせならかがみのように冷たく切り離してくれたほうがよほど救われたかもしれない。
中途半端に情けをかけられたようで、こなたは悔しさのあまりに涙を流した。
これが日下部みさおの、こなたに対する精一杯の優しさであることに追い詰められた彼女は気付かない。
みさおは当事者ではないから。
いくら痴漢の娘だからといって口汚く罵ることはできないし、その資格を持っているわけでもない。
親の犯した罪を娘にすり替えて責めるなどという卑怯な手段は、快活な彼女は決して用いない。
みさおはその部分を責めることはしなかった。
しかし柊かがみの存在を考えた時、こなたを庇護する理由もなくなった。
妹の件でどれほど深い傷を負ったか。
それを知ってしまったのだ。
だからみさおはこなたを責めずにかがみを庇う方法を取った。
つまり決別である。


”チビッ子”


親しみを込めていたハズのこれはもう愛称ではない。
痴漢の娘に成り下がった穢れし少女に対する蔑称。
言いかえればこの言葉は”矮小”だ。
つまり丈が低く小さいことであるが、これはあくまで見かけのこと。
今、こなたはこの”チビッ子”という言葉を、”人間として小さい者”として受け止めている。
「みさきち…………」
この呟きももはや彼女には届かない。
みさおは逃げるように公園を出て行く。
悔いしかなかった。
自分の軽率さを呪うだけだ。
あの時、みさおは執拗に責め立てるかがみを殴ってまで自分を庇ってくれた。
見知ってからさほど時間も経っていなければ、交誼を結ぶこともしなかった自分に対して。
2人の仲を考えればあの場合、みさおはかがみの肩を持っても不思議ではない。
むしろそのほうが当然とも思える。
それを敢えて自分を庇ってくれたというのに。
「バカだよ……わたし……ほんとにバカだ…………」
口は災いの元だとつい最近、痛いほど思い知らされたハズなのに。
喉元を過ぎ去らないうちにこなたはその熱さを忘れてしまっていた。
ほんの僅か、事態が良い方向に向かいかけただけで彼女の緊張は一気に弛緩し、結果―。
無用の口舌を動かして同じ過ちを犯す。
「…………かがみ…………」
こなたの心は襤褸布のように無惨に引き裂かれている。
その殆どが自分の播いた種だという自覚を、彼女はちゃんと持っている。
持っているからこそこなたはどうしようもない憤りと悔恨の念に囚われ続けるのだ。
「ふふ…………」
日が沈み、冷たい風が嬲る。
サッカーをしていた子供も休憩していた年配の姿ももうない。
こなたは嘲笑した。
「なんだ……簡単じゃん……」
だが直後、その笑いは欣喜に変わる。
この苦痛から解放される方法を見つけたのだ。
気が変わらないうちにその方法を実行しなければならない。
薄暗くなった公園をぐるりと見廻してから、こなたはそっと立ち上がる。
視界の隅に黒猫がいた。
黒猫は翡翠色の瞳を一瞬だけこなたに向けたが、すぐに興味なさそうに茂みに消えた。
(はは……猫にも嫌われてるんだ…………)
もはや無感動のままに、こなたは公園隅にあるトイレに入る。
(汚い私にはここがお似合いだよね…………)
誰も管理していないのか電球は切れており、あちこちに埃が溜まっている。
一歩踏み出すごとに塵埃が舞い上がり、カビ臭さが鼻腔を貫かんと迫ってくる。

110:麾く煉獄45
09/09/01 22:08:34 Sn1nC9Kk
「恨むよ、お父さん―」
一番奥の個室に入る。
錆だらけの鍵をかけ、その場に蹲る。
ひんやりと冷たい。
不愉快な臭いがまとわりつく。
しかしこなたはそれに妙な心地よさを覚えた。


痴漢に奔った父親を持ち、何の因果かその被害者と級友になった。
その級友を何かにつけて揶揄い、さらに双子の姉までも嘲弄した。
そのくせ自分は義務のほとんどをその姉に押し付け、勝手気儘に振る舞ってきた。
やがて姉は絶縁を申し出、再三の謝罪にも耳を貸さない。
姉を奪い合った好敵手のとりなしで何とか関係の修復に漕ぎ着けるも、不用意な発言から怒りを再燃させてしまう。
挙句に妹が痴漢に遭ったこと、その犯人が自分の父であったことを告げられる。
最後まで自分を庇ってくれた好敵手ですらその事実を知り、己の軽率さも加わって自分の元を離れた。


「はは……ははは…………」
無意識に笑っていた。
この現状があまりにも可笑しく、彼女は嗤うことで自分がまだ生きていることを確かめる。
過失とはいえ、外には自分を支えてくれる者はいなくなった。
みゆきやゆたかなら慰撫してくれるかもしれないが、それも真実を知るまでの間だ。
汚らわしい男の血を継いだ娘など、まともな精神の持ち主なら敬遠したくなる。
つかさだけは表向きそうではなかったが、今となってはこなたに近づくことすらかがみが許さないだろう。
そして―。
家に帰れば堕ちた男がいる。
自由人という立場の彼は、自由の意味を超越して不埒な行為に及んだ。
一時の感情に負け、生涯愛を貫き通すハズだったかなたを忘れ、陋劣な男に成り下がった。
(お父さん…………)
自分がそんな男の血を引いていることが呪わしい。
が、今こうしていることの原因全てをそうじろうに押し付けるつもりはなかった。
こなたにも幾つもの落ち度があったからだ。
結局、父娘そろって軽率で蔑まれるべき人間だったと考え至る。
「なあんだ…………」
そう思えば不思議と納得できる。
自分の浅学、迂闊なところ、浅はかさや趣味嗜好。
全てはそうじろうのもの。
しっかりと父親譲りの自慢の娘に育っているではないか。
彼女が彼から受け継いだ特質はそのどれもが”愚”という一文字に置き換えられる。
「ちゃんとつかさに謝っておくべきだったな……かがみとみさきちにも…………」
そうは思いながらも、今さらどんな顔で会えるだろう。
きっと直接顔を見ずに済む方法で謝罪の意を伝えたところで、もはや誰の心にも届かないに違いない。
「みさきちにも…………」
ほとんど麻痺した神経を繋ぎ合わせるように、こなたは思考を巡らせる。
何故みさおにメールをしたのだろうか?
今後のことについて相談するためだろうか?
彼女ならかがみとの付き合いも長いから、名案を思いつくだろうという期待があったからだろうか。
(違う、違うんだ……私は結局、慰めて欲しかっただけなんだ…………)
自分の矮ささをまた自覚する。
(何度も私を助けてくれたから……甘え癖がついちゃってたんだ……)
どこまで自分は愚かなのだろう。
考えるまでもなく、みさおが自分を助ける義理はない。
(優しい言葉をかけて欲しかったから……)
彼女が本当に味方をするべきは立場からしてもかがみのハズだ。
それを自分にはない寛容さでもって支えてくれただけだというのに、それに甘えるなど傲慢極まりない。

”そういうところが周りを不愉快にさせてんじゃねーのか?

「はは……”そういうところ”だらけだよ……私は……」
心に生まれた闇はまずその心を食い荒らし、残酷な牙を宿主にあてがう。

111:麾く煉獄46
09/09/01 22:09:23 Sn1nC9Kk
(あ~あ…………)
何度目かのため息をつき、こなたは目を閉じた。
最後の最後まで自分だけが何も知らなかったことに、彼女は今になって憤りを感じた。
もちろんその対象は自分とそうじろうである。
(お父さんのせいで―!!)
元凶はそうじろう。
しかしその罪の重さを倍加させたのは自分自身だ。
(でも……お母さんにも悪いんだよね、これって。せっかく産んでくれたのに……)
こなたはふと写真でしか見たことのない母を想い起こす。
彼女が自分の命を賭してまで産み落とした新たな命。
それが今、自らの意思で終わりを迎えようとしている。
(だけどさ、もう生きていたくないんだよ、お母さん。私たち、周りに迷惑かけてばかりなんだよ……?
ずっとずっと……私たちのせいでさ……ねえ、お母さん…………)
そろそろこなたから五感が奪われ始めた。
彼女は疲れているのだ。
辛辣な現実の連続が精神を容赦なく蝕んでいく。
その責任の所在がどこにあるかに関係なく。
心を蝕み、悉く食い荒らしていく。
「ごめん……なさい…………」
こなたの意識は途切れた。







112:JEDI_tkms1984
09/09/01 22:16:53 Sn1nC9Kk
 今夜はここまでです。
何の関係もありませんが、ハイマスカットという菓子を見つけました。
ヨーグレットに劣らないほど美味でした。
それではまた。

113:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/02 00:34:47 UODJnkLL
当て馬になることの多いみさおをまともに動かしてくれてる&持ち上げてくれてるので
みさお好きな自分にとってはありがたい小説です

114:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/02 00:49:40 a4aeXYdS
だよね。二次創作だとみさお、弄られキャラになる事多いよね。

115:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/02 01:21:01 LgH1IM4y
そうじろうの最後の言葉が気になる。
実はつかさと出来ていたなんて裏話があるのでは、とひそかに予想

116:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/02 14:38:03 0EB10ffm
喜びとしてのイエロー
憂いを帯びたブルー

どうでもいいけど、パンジーの匂いってキツイよね。
なんか頭くらくらする。

117:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/02 16:44:40 UDalzUnP
>>112
話は面白いけど難しい漢字を使い過ぎで凄く読み難いです。
みんながみんな貴方みたいに漢字力がある訳じゃないんだからもう少し簡単な漢字を使って欲しい。
それとも馬鹿は読むなって事ですかね?

118:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/02 18:15:55 LgH1IM4y
>>117

普通に読めるものばかりだと思うが。読み方知らなかった物があっても推測で読めるし
どんだけ勉強嫌いなんですか

119:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/02 18:45:44 UDalzUnP
>>118
あんたに言ってないし読めないとも言ってない。。
俺は読み難いと感じたの。勉強嫌いとか勝手に決め付けないで。
漢字力は人それぞれでしょ。

120:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/02 18:51:29 YbYCrJYI
>>117 読めないなら辞書で調べればいいだろうが
    いちいち言う事か?   


121:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/02 19:06:04 UODJnkLL
読みにくい(笑)漢字力(笑)

122:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/02 19:17:14 UDalzUnP
だからあんたに言ってない、作者に希望を述べただけ。
それが何か悪いのかよ?
作品は読んでもこんな気分悪いとこにもう二度とレスしない。

123:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/02 20:21:54 /hz8KHaG
表記の仕方って文章の上じゃかなり重要なことだから
読めないから簡単にして とかはあんまり言わないほうがいいっていうか
言いたきゃいってもいいけど自分の思い通りになると思わんほうがいいあるよ

124:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/02 20:23:46 LgH1IM4y
夏休みはもう終わったのに

125:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/02 20:34:19 7uXy4v9N
>みんながみんな貴方みたいに漢字力がある訳じゃないんだからもう少し簡単な漢字を使って欲しい。
>それとも馬鹿は読むなって事ですかね?

こういう気持ち悪い言い方が悪い

126:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/02 21:47:11 bud2FkAc
確かに。
正直自分も「アレ?今回やけにムズイ字多いな」
と感じたクチだけど、わざわざあんな卑屈な言い方をする必要は無いと思う。卑屈が映えるのは困り眉毛の美少女だけ。

127:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/02 21:47:21 o7b+4Zmc
こういう奴が荒らしに変貌するから性質が悪い

128:JEDI_tkms1984
09/09/02 21:58:36 TsCy06BR
>>113
>>114

 こちらのスレで何度かSSを投稿しているうちに、みさおが好きになりました。
公式にはそういう設定でしょうが、彼女は体育会系ではないですよ。
そう思う理由はいくつかあります。みさおは運動が得意なだけなのです。
背景にするにはあまりに勿体無い。

 漢字の話。
そもそもタイトルからして難読なものばかり選ってますからね……。
難しい問題ですね。
一応、特に難しそうなものにはルビを振ってます。
平成も21年を過ぎたのだから時代に合わせて平易な文章にしたほうが、
あるいは読みやすいのかもしれません。
>>117の方には申し上げたい事もあるのですが、読み手側にそういった意見があるという点については
真摯に受け止めたいと思います。


129:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/02 22:02:16 OMVvezby
過ぎてない。平成21年真っ只中だよ。

130:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/02 22:06:11 OMVvezby
おおっと揚足取りみたいになってしまった。スマートじゃないな、我ながら。
まぁ難読熟語くらい、いーんじゃないの?
正直、難読であるのは問題ない。鬱陶しく思うのは、學とかソレ系。
固有名詞に使われる分には問題ないけど。
あとアレだ、横文字乱発されるよりマシじゃん?

131:JEDI_tkms1984
09/09/02 22:18:41 TsCy06BR
 旧字体ですね。
さすがに変換するのが手間ですし、字体が違うだけで意味は同じなのでそれはしません。
たとえば「わざわい」という言葉ひとつとってもそれを表すには、
「災い」「禍」「厄」「殃い」といろいろあって、どれも意味が違います。
そういう違いを出すために読みの難しい漢字が出てきてしまうのです。
横文字の乱発は……場合にもよりますが多用すると目で追うのが大変ですね。

132:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/02 22:58:05 NQv/So3P
読みづらいと思ったことないよ

133:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/03 00:38:12 lxWfVxT0
や、だからさ
難読漢字使うのとかって行ってみれば漫画家でいう絵が濃い人みたいなもんで
ある意味その作者の作風そのものなんだからさ
難読つかうなってやつは、ジョジョの作者に絵がややこしいから簡略化しろっていってるようなもんなわけよ
つまり無視していい

134:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/03 01:13:30 q+lC2MPj
>>117
発想を逆転させるんだ。
知らない漢字とその意味を勉強する切っ掛けが出来て知識を増やせてラッキーだった、と。
それが出来ないならお前さんにはまだ読むには早いと言わざるを得ない。

>>125>>127その他煽ったら荒れる事に気付かない奴の方が遥かに性質が悪い。

135:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/03 02:56:40 yXShW+kM
このスレに来る人間に、性質の良し悪しなんて求めやしないさ。
事情はそれぞれ違えど、自殺に惹かれてんならそれでいーや。

てーかJEDIのSSは凄いなぁ。
迫力がダンチ。漢字含有率の多さも関係してんだろーな。

>>133
ジョジョ読めない理由がそれです^^

136:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/03 05:38:08 lxWfVxT0
>>135
スレチだが今やってる7部のSBRは大分綺麗な絵になってるぞ
つーかなんつーか外人の顔を見事に漫画で描いてる
そっから降りてけばいつの間にか一部とか違和感なく読めるぜ

137:JEDI_tkms1984
09/09/03 12:29:27 bhDlrifc
>>134

 ここに投下されるSSを読む際、僕もその姿勢で文章を追っています。
特に中尉さんの作品には表現技法から語彙まで学ぶことが多いです。


>>135

 そう言って戴くと恐縮至極です。
その評価に能うだけの結末にしたいと思います。

138:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/03 18:06:26 lWQr115A
JEDIのSS楽しみすぎて眠れず何度も来てしまう
早く読みたいよJEDI
あなたの才能が羨ましい


かがみに何かしらのしっぺ返し期待しているが、無理かな
事情はどうあれかがみもむかつく

139:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/03 20:20:20 lPam2i96
>>135
>自殺に惹かれてんならそれでいーや。
俺はまるっきり惹かれてない。
俺はこなたを虐めたり自殺させたりするこのスレ(と言うより住人)自体が大嫌いだった。
今でもこなたを虐めたいとか言ってる奴は自分がされたらどう思うか考えた事あんのか?と嫌悪してる。
もしこなた本スレでAA貼って荒らしてる奴もこのスレの住人かと思うと吐き気がする。
じゃ何でこのスレ見てんだ?と言われそうだが、中には面白い作品もあるんでそれを読みに。
特にJEDI氏の作品は好きな作品が多い。(生理的に嫌いな作品もあるが)
叩かれる事を覚悟で書いてるが、俺みたいな奴も居るのだよ。

140:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/03 20:49:50 q+lC2MPj
>>139
俺も似たようなもんだよ。
ここはキチガイの集まりかと思ったがどうしてどうして面白い作品も沢山ある。
受け売りだが難しい漢字も学べるし。

俺の一番好きな作品は「トモダチって時間じゃない」
wikiに上げてくれと何度もお願いしたの俺。
上げてくれた人ありがとうございました。

141:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/04 01:17:22 xULXILq8
>>139
こなたが実在の人物だったら、このスレは名誉毀損とかじゃ済まないだろうけどねw
AA荒らしとか一部を除いて、基本的にみんなこなたが好きなんだよ。
このスレからこなかがスレに移った人もいるみたいだし。
まぁ確かに人が死にたがるネタで盛り上がるのは良い趣味とは言えないが、それは2次という事で割り切ってるんだよ。
笑ってるこなただけじゃなく鬱なこなたも見てみたい人もいるんだよ。

142:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/04 01:36:18 4NDExwiz
ってか、実在の人物じゃないからこそ、リミット外して騒げるってのもあるかな。
自分がされたらどう思うか、という他者への共感を行動の制動装置として機能させるのは、
あくまで相手が三次元の相手の場合のみに発揮させてる。
見も蓋もないけど…二次元キャラに対してそーゆーのって、無意味だと思うから。
二次キャラに感情はない。救いだって、こちらの都合に合わせて、機械仕掛けの神にお任せできちゃうから。

143:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/04 01:37:15 4NDExwiz
>あくまで相手が三次元の相手の場合のみに発揮させてる
あくまで三次元の相手の場合のみに発揮させてる

144:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/04 02:08:53 pmLBIPt3
>>140

その作品読んでみた

面白かったけど、やっぱり酷い話しだね(笑)

三次じゃ無理だけど二次だとOKというのは、程度の差はあれど、
人間の嗜虐的な性質が、ちょうど満たされる範囲内だからかも

だからといって、こういうのがめちゃめちゃ大好きってはっきり言う人は、リアルでもいけそうな危ない人だと思うけど

逆に、こういうのを書く筆者の場合、やっぱりどこか病んでる部分があるのかな?

145:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/04 02:12:46 xULXILq8
>>142
これが例えばスクイズの伊藤誠とかだったら、幾ら自殺ネタで盛り上がっても逆にマンセーだったりするんだろうけどねw
好きなキャラだと、どうしても2次だと頭では分かっていても感覚的に、こんな非人道的なネタを思い付くなんて許せない!って思う人もいると思う。
>>139はこういうタイプなんだろうね。
只、俺の今までこのスレで色々な作品を読んだ感想だけど、こなたなんて所詮2次のキャラなんだから殺したって何したって構わない、としか思ってない人が書いてる作品はやっぱり作風に現れてて読んでいて面白くない。
逆にこなたってキャラその物を好きな人が書く作品は、こなたが鬱になっていく描写が丁寧に書かれていて読んでいて面白い。

146:JEDI_tkms1984
09/09/04 12:41:18 n+pqs/p/
 今晩、完結させます。
レス数が多くなるので間に規制かかると思いますが宜しくお願いします。

147:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/04 18:07:50 pmLBIPt3
今やってるのって、世界狂えや法破れやって作品にあった話し?

148:JEDI_tkms1984
09/09/04 21:28:47 vuGyr2zl
 みなさん、こんばんは。
本日分の投下参ります。


149:麾く煉獄47
09/09/04 21:30:07 vuGyr2zl
「みさちゃん…………」
今にも泣き出しそうな顔であやのが呼ぶ。
「なんて言ったらいいか……」
「あやの…………」
臨時のホームルームが終わり、生徒がまばらになった教室で。
2人はほとんど言葉を交わすことなく見つめ合っていた。
が、何となく気まずくなってあやのが視線を逸らす。
「信じられないわ。泉ちゃんがこんな……」
「ああ…………」
一方でみさおもまともにあやのの顔を見られなくなった。





朝の臨時のホームルームでひかるが告げたのは、B組の泉こなたの死だった。
昨日の夜、彼女がいつまで経っても帰宅しなかったため、そうじろうはまず学校に連絡した。
連絡を受けたななこはすぐにつかさたちに確認したが、心当たりはないという。
こなたの交友関係から当たったななこはいつもの3人には連絡していたが、みさおとも繋がりがあった事に気付かず、
そちらには何のアプローチもしていなかった。
ひとまず教員たちが近隣を探したがいっこう見つからない。
ついに手に負えなくなり警察にも捜索願を出した。
こなたが公園のトイレで発見されたのは未明のことである。
調べでは衰弱死ということで片づけられているが、不審な点がいくつかあった。
ひとつは殆ど餓死に近いこと。
体内からはその日に食べたと思われるパン類が検出されている。
栄養状態にも問題はなく、たった一晩でここまで衰弱するなどあり得ないことだ。
さらに奇妙なのは彼女が自殺を試みた痕跡がある点だ。
首にうっすらと絞めた跡がある。
指紋照合等の鑑識の結果、こなた自身が首を絞めた際にできたものだと判定された。
自分の首を絞めて自殺を図ったが、その前に衰弱が進み窒息死は免れた。
不可解ではあるが、警察の判断は概ねこうである。





「公園……こうえん…………」
ひかるから事情を聞かされたみさおは、囈言(うわごと)のようにそれを繰り返した。
「ねえ、みさちゃん……」
あやのが袖を引っ張る。
同校の生徒が死亡したということで陵桜は3日間の臨時休校を決めた。
生徒らの動揺を落ち着けるためでもあり、警察・マスコミへの対応等処理するための時間である。
ホームルームではひかるが近々、カウンセリングルームを設けることを告げた。
こなたの死の状況がまだ判然としておらず、もし彼女が何らかの悩みを抱えての結果あのような行動をとったのであれば、
学園としてはとるべき妥当な措置ではある。
今回の件で生徒たちにも衝撃が伝播し、精神的に苦痛を受ける者も現れるだろう。
そのためにカウンセラーを当面の間、常駐させるというものである。
みさおの定まらない視線が一度だけあやのを捉えた。
続いてかがみはと教室を見渡してみるが、彼女の姿はどこにもない。
(妹のところに行ったのか…………)
かがみは今、どんな気持ちなのだろうとみさおは考えてみた。
嬉しいのだろうか?
それとも少しくらいは悲しいと思っているのだろうか?
あるいはすでに何の情もなく、赤の他人の死として受け流してしまうのだろうか?
「みさちゃん、大丈夫? なんだか顔色が……」
「あ、ああ……? うん、大丈夫だって」
血の気の引いたみさおが繕うように笑ってみせたところで、却ってあやのを心配させるだけだ。

150:麾く煉獄48
09/09/04 21:31:24 vuGyr2zl
「で、でも…………」
「悪りぃけどさ、先に帰っててくんねえかな?」
「えっ――?」
あやのは返答に窮した。
みさおに遠ざけられるのはこれが初めてだ。
何もかも正反対なのにこれまで仲良くやってこられたのは、互いに無いものを補い合えるからだ。
だからみさおにこうして離れられると、自分の持っているものに価値がなくなったからではないかと心配してしまう。
「え、ちょっと、ねえ……!!」
あやのの呼びかけを無視して、みさおはふらりふらりと教室を出て行った。




 すれ違う生徒たちの笑い声に苛立ちを覚えながら、みさおは体育館裏に来た。
なぜここなのか、彼女にも分からない。
ただほとんど勝手に足が自分をここまで運んで来たような感覚だ。
しかしみさおがここにやって来たのは偶然でもなければ奇跡でもない。
「柊…………」
我に返ったようにみさおが目の前の少女を呼んだ。
「日下部、なんで……?」
振り向いたかがみの瞳は潤んでいた。
それを慌てて拭うが少し遅すぎたようだ。
「泣いてたのか?」
「バ、バカ! 泣いてなんかないわよ!」
「ウソつくなって。泣いてたんだろ?」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………ッ!?」
ドン! と軽い衝撃の後、みさおは胸に飛び込んできたかがみにバランスを崩しそうになる。
「どうしよう……どうしよう…………!!」
かがみの目からまた涙が零れた。
醜態を晒すことも厭わないで、かがみは叱られた子供のようにわんわんと泣いた。
「私が……私があんなこと言ったから……! こなた……こなたがぁ…………ッッ!!」
「ひいらぎ…………」
「私のせいだ……私のせいで…………」
嗚咽まじりの悔恨を聞きながら、みさおは安堵した。
この少女は決して残忍でもなければ、冷酷非情でもない。
自分がよく知っている柊かがみと同じように、真面目で情に厚く、そして優しかった。
だから彼女はこんなに泣いているのだ。
こなたを死なせてしまったのは自分だと。
彼女はたしかにこなたにきつく当たった。
が、それは愛しい妹を想ってのこと。
これまでずっと抱えていたものを抱えきれなくなり、一気に外に出てきてしまったのだ。
(柊…………)
かがみの、こなたへの接し方は確かに冷たかったかもしれない。
しかしだからといって、死んでほしいとまでは思ってはいなかった。
こなたにそこまでの罪はない。
その点は誰よりもこのかがみが一番よく分かっていたハズなのだ。
「私……取り返しのつかないこと…………」
かがみは泣きやまない。
泣いても悔やんでも死んだ者は戻ってこない。
「あんなこと言わなきゃよかった! あの時許してればよかったのに!」
「柊、気持ちは分かるぜ。分かるけど―」
「だって私が突き放したのよ!? 一度は許してた! こなたがメールしてきたからそこに行ったのよ!!
それで……それであいつが謝ってきて、私も”もういい”って言ったわ! 私も悪かったって。
だからもう終わってたのよ! それなのにあいつが……だから私が…………!!」

151:麾く煉獄49
09/09/04 21:32:25 vuGyr2zl
「落ち着けって!!」
「それでまた私が怒って……!! 言わなきゃよかったッ!! ずっと黙ってたのに、なんで!? なんでよ!?
なんであの日に限って喋っちゃうのよッッ!!」
「柊っっ!!」
みさおはかがみの両肩を強く掴んだ。
「………………」
「…………ごめん」
謝ったのはみさおだった。
「私がチビッ子に喋っちまったから……妹のこと……」
こなたの死が発覚するまで、みさおはたったひとつのことに怯えていた。
かがみだ。
不用意に広げるべきではないつかさの話。
それを最悪のタイミングでこなたに漏らし、またそのこなたからかがみに伝わってしまった。
”日下部は口の軽い女だから信用できない”
かがみにそう思われたのではないかと、彼女はただこれだけに怯えた。
実際、今まで2人はほとんど言葉を交わさなかったのだ。
「柊にしても妹にしても、本当なら知られたくない話……だよな。それを喋っちまったんだ……。
……言い訳はしないから。まあ、チビッ子を慰めるつもりだったってのは間違いないけど」
「うん…………」
「柊がさ、そういう理由で勉強してんだからあんまり邪魔するなって、そう言いたかったんだよ。
あいつがどう受け止めたかは分からないけど、私はそういう意味で……その……」
歯切れが悪い。
理由はどうあれ彼女は本来なら隠しておくべき事柄を吐露してしまっている。
そのことについては素直に詫びなければならない。
「だから……ごめん……」
「いいわよ…………」
暗く沈んだかがみの声からは、本当にみさおを許しているのかどうかは分からない。
「日下部が言ったとかどうとか関係ない。私があの時、もっと冷静になればよかっただけ。
あそこまで言うつもりはなかったのに……自分が抑えられなくなったから…………」
「………………」
「こなたがあんなに何度も謝ってくれたのに、なんで許せなかったんだろう……」
肩を震わせ、かがみがしがみつく。
それを受け止めてやれるのは自分しかないと、みさおはそっとその体を抱いた。
「もうひとつ謝ることがあるんだ」
ヘンに勢い込んでみさおが言う。
「実はさ、ここでの話、聞いてたんだ」
「そう、なんだ…………」
「ああ。チビッ子もやるじゃん、なんて思って見てたんだ。あのまま元に戻るんじゃねーかって」
「でも私が! 私が突き放したから!」
「そうじゃないんだ!」
「そうなのよ! あいつがつかさに悪戯したってだけで、こなたは何の関係もなかったのに!
その娘だからってだけであんな酷いこと…………!! 最低よ……わたし……最低だわ…………」
「………………」
「だから私のせいなのよ。私のせいでこなたが…………!!」
「柊、それは違うんだって」
「違わないわよ!」
「私のせいなんだ!」
そう叫んだみさおは、不意にかがみを抱擁する資格さえないと思いなおし、乱暴に彼女を突き放した。
「……日下部……どうしたのよ…………?」
拳を握り、みさおは何かに耐えるように唇を噛んだ。
かがみが何事かと歩み寄るが、みさおは顔を合わせようとしない。
自責の念に駆られているのは柊かがみだけではない。
この日下部みさおもまた、彼女と同様に自身の言動を悔いている。
「私のせいなんだ……」
という前置きの後、長すぎる沈黙を挟んでみさおが告白したのは公園でのやりとりだ。
かがみが責任を感じる必要はない、と言わんばかりに彼女は自分の発言の冷たさを殊更に強調した。
こなたを犯罪者の娘だと断じたことも。
一緒にいるところを見られたくないと突き放したことも。
明言こそしなかったものの絶縁を言い渡したことも。
そのどれもがこなたの精神を容赦なく蹂躙し、彼女自身の死を招いたのだとみさおは言った。

152:麾く煉獄50
09/09/04 21:33:42 vuGyr2zl
「………………」
だがそれを聞いても、だからといってかがみの気持ちが軽くなることはない。
止めを刺したのがみさおだとしても、自分が犯した罪までは消えない。
こなたが亡くなった責任を彼女ひとりに押し付けることなどできない。
「あの公園なんだ……」
いつの間にかみさおも落涙していた。
(柊……柊は何も悪くないんだぜ? 全部私のせいなんだからさ)
ぼやけた視界の中、ハッキリとはしないがかがみもまた再び涙を流しているのだとみさおは悟った。
(私がさ、チビッ子に喋らなかったらそれで済んだんだよ……。なあ、そうだろ…………?
そうしてたらさ、もしかしたら仲直りできねーまんまだったかもしれないな。
でも少なくともチビッ子は死なずに済んだハズだろ? そのほうが良かったよな……柊……)
今度はかがみがみさおを抱いた。
互いに傷を舐め合うように。
悲しみを分かち合うように。


(ケンカなんて些細な……柊にとってはそうじゃないか……妹想いだもんな、柊は……)

「柊…………」

(でもさ、死んじまったらもうケンカもできないじゃんか。チビッ子には何の罪もないんだぜ?)

「ごめんな…………」

(罪を犯したのはあいつの親父さんのほうだもんな……それを勝手に結びつけちまったんだよな……)

「ほんとにごめん……」

(それに比べりゃチビッ子なんて可愛いもんだよな。ちょっとくらいムカつくところがあったってさ…………)

「柊…………」

今となっては、こうして生きていることさえ後ろめたい。
罪のない人間が生きることを許されるとするならば、罪人は死して然るべきなのだろうか。
そもそも自分たちだって罪を犯したのではないか。
みさおは溢れる涙を止めることができなかった。
(ごめん……ごめんな、チビッ子……私がうまく仲を取り持てばよかったんだ。お前は悪くないもんな。
なのに……なんであんなこと言っちまったんだよ…………)
一度は救おうとした相手を投げ落とす行為は、事の初めから突き落とすよりも残酷だ。
絶望の淵に立つ者に一条の光明を見せつけた後、途方もなく深い闇を見せる。
それだけですでに大罪だ。
「…………ちくしょう」
後悔はいくらしてもし足りない。
(私がチビッ子を追い詰めたんだ……! だからあの公園で…………)
2人は強く強く、互いを抱いた。
体温を通じて深い悲しみと後悔の念が流れ込んでくる。
自分の愚かさ、冷徹さ、非情さが。
抱擁しているからこそ強く感じさせられる。
こんなことをしていてももはや慰め合いにもならない。
「こなた―」
「チビッ子―」
2人は同時に呟いた。
呼称に違いはあっても今、彼女たちが想っていることは同じだ。
罪を犯した男の、罪のない娘。
それをこの2人が勝手に―主に感情によって―裁いてしまったのだ。
巻き戻すことのできない時間が後悔の種を播く。
黒く荒んだかがみの心が軽蔑の雫を滴らせる。
一時の思考に踊らされたみさおの迂闊さが絶望の波を沸き立たせる。
全てが手遅れになり、彼女たちは深い深い悔恨の念の虜となった。

153:麾く煉獄51
09/09/04 21:34:26 vuGyr2zl




 絶望に囚われた者がもうひとり。
彼は仏間に正座し、亡き妻と娘の遺影の前に頭を垂れた。
「すまん……すまなかった、こなた……」
ほとんど言葉にならない。
わなわなと震える口唇が謝罪すらさせないように、愚かなこの男から言葉を奪っていくのだ。
「俺が……俺がバカだった……! 俺があんなことさえしなければ……申し訳ない……本当に…………」
男、そうじろうは久しぶりに泣いた気がした。
最後に涙を流したのはかなたの死を看取ったあの日かもしれない。
「かなた、俺はお前との約束を守れなかった……夫として父として……失格だ……なあ、かなた。
お前を生涯愛するって決めたのにな……俺は……俺は…………!!」
遺影のかなたは微笑んでいるが、今のそうじろうにはそれが侮蔑の嗤いに見えた。
実際、彼女が生きていたら蔑んでいるに違いない。
逝去した妻を忘れて娘と変わらない歳の女子に手を出し、訴えられないことを幸いに生きてきたのだ。
「すまん、全て俺のせいだ。俺のせいでこなたを苦しめた。俺があんなことしなければこなたは…………。
こなたは死なずに済んだんだ。すまん、かなた。お前の大事な子を俺が……」
この声が届いているのかいないのか。
彼は顔だけは遺影に向け、しかし写真の2人は見ずに謝罪した。
だがその最中に、彼の心の奥底に潜む悪辣さがわずかに顔を覗かせた。
(でもな、たったそれだけのことで死にたくなるのかとも思うんだよ。だってそうだろ……?
別に前科ができたわけでもないし、世間に知られてるわけでもない。当事者だけで片付く話なんだ。
そこまで思いつめるようなことじゃない。まして死のうとまで思うとは…………)
精神のどこかが腐っているそうじろうは、こういう部分だけは声に出さなかった。
もしかしたら2人の霊魂か何かが仏間にいて、自分の言葉を聞いているかもしれない。
確かめる術はないがその可能性がないとは言えない。
だから彼は詫びだけは声に出し、本音は心の奥に隠した。
どこまでも罪から逃れ、表向きは善人を演じ、裏では徳に悖る行為に奔る。
このような身勝手さが彼にはあった。
しかし彼に良心がないわけではない。
(結局俺はどっちつかずの蝙蝠だったか。家族をとることも愛人をとることもできないなんて……情けないよ)
無言で抽斗から真新しい原稿用紙を取り出す。
その1枚を丁寧に破り、部屋の隅に置いてあった小卓を引き寄せた。


『 妻に先立たれ、娘も去った今、私には生きていく気力がありません 』


たったそれだけの短い遺書。
罫線に沿って丁寧に書かれたそれはこの世に別れを告げる手紙。
かなたに宛てた物でもこなたへのメッセージでもない。
彼はとうとう自分の罪を明らかにしなかった。
こんな安っぽい遺書にさえ、自分がかつて痴漢という卑劣な行為に及んだことを明かさなかった。
(ごめんな、つかさちゃん…………)
そうじろうは静かに目を閉じた。
(約束を破ってしまったな……2人だけの秘密だとあれほど固く誓っていたのに)
死を前にして、彼は様々な想いを抱く。
間もなくあらゆる苦悩と苦痛から解放される。
こうなっては何かを考え、あるいは想うことにはもはや何の意味もない。
「こなたに追及された時、何が何でも隠し通すべきだった。
そうすればあいつも死を選ばずに済んだだろうに……。
身内がいなくなった今、誰の目も気にすることなくきみと付き合えるかもしれん。
だけど情けない話だ……家族のいなくなった俺にはもうきみ以外に拠(よりどころ)がないんだ」
彼はほとんど唇を動かさずに呟いた。

154:麾く煉獄52
09/09/04 21:37:36 vuGyr2zl
「俺は弱い男だ。きみに甘え、負担をかけてしまうに違いない。それでは俺たちにとって苦痛しかない。
ああ、そうだ。妻に先立たれ、娘にも死なれた俺は……俺はもしかしたら死神なのかもしれない。
このままじゃ俺は―きみにまで不幸をもたらしてしまうんじゃないか……俺は……」
と、自分を追い詰めれば娘と同じ様に自ら死ぬ事に正当性を与えられる。
「俺との付き合いを深くすることで、もしきみの身に危険が及ぶのなら……きみに死なれるくらいなら……」
決断の時だ。
「きみを愛する資格は俺にはないんだ…………!!」
彼は拳を握り締め―。
(俺の望みはきみの幸せだけだ。俺はきみのために敢えて死ぬ)
懐から万年筆を取り出し、ペン先を喉元に向ける。
(ごめんな、つかさちゃん…………!!)
死に様はさすがに小説家と言えなくもないが、彼は父としても夫としても失格だ。
最期の最期にこの男が謝った相手は妻でも娘でもなく―。
―柊つかさだった。




 泉こなたのための葬儀は、彼女の父そうじろうと合同という形で執り行われることとなった。
参列する者の数は多くない。
親類縁者ではゆたかとゆい、訃報を受けて駆け付けたゆき。
そうじろうが世話になっていた出版社筋の担当若干名。
こなたの友人としてかがみ、つかさ、みゆき、みさお、あやのが揃った。
葬儀にはみなみも参列する予定だったが、所用で来られないという。
尤も彼女の場合は追悼というより、ゆたかの傍にいたかっただけかもしれない。
「なんでこんな事に…………」
呟き悲しむゆいはそうじろうの死にはそれほど悲嘆してはいないようだ。
彼女はむしろこなたの死を嘆いているようである。
もちろんゆたかに対してこなたが姉同然に接してくれたからに他ならない。
「ゆたかちゃんも大変だったね」
慰撫するように声をかけたのはつかさだ。
「え、いえ、大丈夫です……」
それに対し無理に笑顔を作って答えるゆたかは、今にも倒れそうなほど青白い顔をしている。
そうじろうの遺体を発見したのはもちろんゆたかだ。
外出先から戻ってきた彼女は、玄関扉を開けた瞬間に血の臭いを嗅ぎとった。
重い空気の中、居間に倒れるそうじろうを見たゆたかは衝撃で気を失いそうになった、と言っている。
「私たちもできるだけ協力するから」
そう言うかがみの口調には覇気がない。
居候先の家主が亡くなったことでゆたかは一旦、両親の元へ戻ることになった。
通学等についてはこれからじっくり考えなければならない。
柊姉妹が代わる代わるにゆたかを慰めている間、みさおはずっと中空の一点を見つめていた。
何かひどく悔恨するように彼女は唇を噛んでいる。
その様をあやのとみゆきは不安げに見ていた。
「まさかこんな事になるとは思いもしませんでした……」
不意にみゆきが呟く。
誰に対して言ったわけではない。
が、最も近くにいたあやのが、
「そう……ね……」
無視するのも気が引けたか、当たり障りのない相槌を打つ。
「やっぱりショックよね」
「ええ、泉さんとは親しくお付き合いさせていただいてましたから―」
涙を拭って眼鏡をかけなおすみゆきを横目に、あやのはふと疑問に思う。
本当に仲が良かったのだろうか?
友人だというのなら、なぜここまで余所余所しい言葉遣いをするのだろうか。
高良みゆきというキャラクターが持つ慇懃さなら分からなくはない。
が、それを差し引いてもこの淑女の言動からは、どうも親しい付き合いをしていたようには思えない。

155:麾く煉獄53
09/09/04 21:38:36 vuGyr2zl
「私も……って言ったら烏滸(おこ)がましいかな。泉ちゃんとは知り合って日が浅かったし」
「そんなことありませんよ」
「ありがとう。でも残念だわ」
「何がですか?」
「ケンカしたままだから―」
「…………? 峰岸さん、お2人が仲違いしていたのをご存じでしたか」
「もちろんよ。見ていて辛かったわ。ケンカしてるところなんて誰も見たくないものね」
「そう……ですね……」
「………………」
「かがみさんもお辛いでしょうね。このような別れ方では―」
(………………)
みゆきの言い方に苛立ちを覚えたあやのは、ふっと目を逸らした。
視線を向けた先にはみさおがいて、今も呆けたように一点を凝視している。
(みさちゃん…………)
あやのはこなたやその親類よりも、みさおが可哀想になった。
さして親しくなかったハズのこなたを、かがみを殴ってまで救おうとしたのは彼女だけだ。
公園での一部始終を知らないあやのの目には、この日下部みさおが神々しく映っている。
(なんでみさちゃんが苦しまなくちゃならないの…………?)
こなたの死に平然として臨めとは決して思わない。
だが見ようによっては身内以上に悲嘆に暮れているようで、それがあやのには心苦しかった。
欷歔の声があちこちから聞こえる。
「こなたぁ…………!!」
座布団の縁を掴むかがみが流す涙は本物だ、とあやのは思った。
演技でここまで慟哭できるハズがない。
その横で真っ赤な目をして遺影を見つめるつかさ。
こちらはもう流す涙も涸れてしまったのか、薄桃色の頬には何度も濡れた跡がある。
「………………」
(妹ちゃんも可哀想に……)
と思いながら、あやのは自分はここに居ていいのだろうかと考えた。
周りを見れば死者に向けて啜り泣く者ばかりだ。
かがみ、つかさ、みゆきにみさお。
勿論ゆたかやゆいだってそうだ。
だが自分は違う。
確かに見知った者の死に深い悲しみの念は抱くのだが、涙が出ないのだ。
付き合いが短すぎるのだ。
幼馴染でもなければ同じクラスでもない。
おまけにかがみを通して知り合っただけで、その後もこなたと直接言葉を交わした記憶は殆んどない。
(でもそれはみさちゃんも同じハズ―)
あやのは自分が厭になった。
似た立場にいながら、みさおのようになれない自分が堪らなく厭になった。
途端、自分は自分が思っている以上に冷たい人間なのではないかとも思う。
(そう、よね……私、別に2人のケンカを止めに入ったわけじゃないし……ううん、違う。
盗み聞きしてたのよ。本当ならあの時すぐに割って入るべきだったのに…………)
結局、何ひとつアクションを起こさず最後まで傍観者の位置を貫き通したあやのは、
泉こなたが死んでもなおその立場を変えることはできなかった。
今さらになって慟哭するのも白々しい話かもしれない。

156:麾く煉獄54
09/09/04 21:39:35 vuGyr2zl
「くそッ…………!!」
みさおが床を殴った。
悲しさのためか悔しさのためか、大粒の涙を流して。
「日下部のせいじゃない」
かがみがそっと耳打ちした。
しかしその言葉はみさおには届いていない。
自責の念に駆られ、2人はどちらからともなく視線を逸らしてしまう。
「………………」
あやのもみゆきも、そんな彼女たちに声をかけてやることはできない。
どんな台詞も2人の前には陳腐で安っぽく、心のこもっていない下手な慰めに成り果てる。
(柊ちゃん…………)
かがみは泣き続けている。
(みさちゃん…………)
みさおは悔しそうに拳を握りしめている。
複雑な感情が入り乱れる葬儀場で。
「そうじろうさん――」
つかさがたった一度だけ、遺影に向かってそう呟いた。





157:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/04 21:45:42 26ugGiZP
そろそろ支援しとくか

158:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/04 21:47:13 26ugGiZP
つかあれだ、繋ぎ変えてアクセスして、IDを別物にしてしまえば、
連投規制は回避できる。
面倒だから薦めないけど。

159:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/04 21:51:03 26ugGiZP
まぁ、多分これで解除される…と思う。

160:麾く煉獄55
09/09/04 21:59:41 vuGyr2zl
「それでは私はここで…………」
「おう、寒いから気をつけろよ」
「ありがとうございます。ではお休みなさい」
「お休み、高良ちゃん」
「ここでお別れね」
「うん……」
「柊ちゃんも妹ちゃんも、そんなに落ち込まないで」
「………………」
「………………」
「また……明日な」
「うん、お休み」
「バイバイ」
「またね」





寒空の下を歩く幼馴染。
あらゆる面で対極的な2人の少女は、灰色の地面を目で追っていた。
上を向きたい気分ではない。
今にも降り出しそうな曇天を見るよりは、まだ俯いていたほうが幾分マシだ。
「なあ、あやの……」
視線はそのままにみさおが呟く。
「死んじまったらさ」
「え?」
「死んじまったら何もかも無くなるんだよな」
あやのは重い頭を無理やり持ち上げて幼馴染の顔を見た。
……憔悴しきっている。
まるでこの世の罪を自分ひとりが被ったような今のみさおからは、全く精気が感じられなかった。
「どういう……こと?」
日下部みさおというキャラクターからはおよそ想像もつかない言葉に、あやのは戸惑いを隠せない。
「殴ったら謝りゃすむけどさ……こういう時はどうしたらいい?」
「………………」
「どうしたらいいんだよッ!!」
「――!?」
いつもと明らかに様子が違うみさおを前にして、あやのは反射的に身を退いた。
「みさちゃん……」
長い付き合いの中、みさおのこんな姿は初めてだ、と彼女は思った。
(きっと自分の所為だと思ってるのね。柊ちゃんとのケンカを止められなかったから……?)
あやのは疑問に思った。
(でも泉ちゃんが自殺してしまった理由は何? おじさんが後を追ったのは分かるとしても。
そうよ。柊ちゃんとは仲直りはしてないけれど、でもそれが自殺の原因になるの?)
ここばかりは納得できない。
たかが諍いで死にたくなるだろうか。
死にたくなったとしても、実際に死ぬことがあるだろうか。
かがみは慟哭していた。
もしあの涙が偽りだったとして、実は彼女が恐ろしいくらい辛辣な責めを続け、
こなたの精神を無茶苦茶に蹂躙したというのならまだ理解はできる。
(でも少なくとも泉ちゃんには高良ちゃんや妹ちゃんがいたし、みさちゃんも助け舟を出してた)
こなたには多くの味方がいたハズなのだ。
少なくとも敵となる人物はいなかったハズなのだ。
「私の……せいだ。私がチビッ子を―」
気がつくとみさおはそれを何度も何度も繰り返していた。
「みさちゃんの所為じゃない。ううん、誰の所為でもないわ」
あやのはそっと彼女の肩に手を回した。
(じゃあいったい何が原因なの?)
もちろん分からない。

161:麾く煉獄56
09/09/04 22:01:18 vuGyr2zl
「誰の所為でも……」
不意に彼女は背中に冷たいものを感じた。
まさか、という想いが過ぎる。
あやのはたった今、みさおの肩に回した手を離した。
(どうしてみさちゃんは自分の所為だって言うの……?)
そこに思い至ると恐ろしい推測が立ってしまう。
本当にみさおは自殺に関与していたのではないか。
直接的か間接的か、彼女がこなたに自殺のキッカケを与えたのではないだろうか。
(ううん、そんな事ない。みさちゃんはそんな事、絶対にしない!)
そうとも。
それどころかみさおは仲裁役を買って出たではないか。
彼女がこなたの自殺に関ったとは思えない。
(だったらどうして? 仲直りさせられなかったのは仕方がなかったとしても、
泉ちゃんの死まで自分の責任だと思う必要なんてないのに…………?)
あやのは泣いていた。
こなたに対してではない。
背負う必要のない責任感に押し潰されているみさおに対してだ。
これはあやのの知っているみさおではない。
ミートボールが好きで、言動が子供っぽい無邪気な彼女とは違う。
「ごめんな、あやの……」
何の脈絡もなくみさおが謝る。
「な、に……?」
結論を得られない推測に溺れていたあやのは、不意に投げられた不釣合いな台詞に顔を上げた。
「ねえ、みさちゃん……どうしてみさちゃんの所為なの……? なんで? ねえ……」
「―私が死なせたんだ」
「なん―!?」
「私のせいなんだ、あやの。あいつを追い詰めたりしたから……ッ!!」
「どういうことなの!?」
あやのはみさおの様子がずっと前からおかしかった事に気付く。
告別式よりも前、ひかるが彼女の死を伝えたあの時からだ。
「中学の時、柊の妹にあったこと……憶えてるだろ?」
「うん……」
日下部みさおという少女は時や場合に関係なく潔い。
勉強が苦手な彼女は提出課題などがあると、すぐにあやのやかがみに泣きつく。
その時には率直に助けてくれと言う。
滅多にないがもし協力が得られない時は渋々ながらも自力で解決しようと試みる。
大抵は学力不足か、あるいは根気が足らずに挫折する。
そういう場合には素直に担当教師に頭を下げる。
彼女は決して誤魔化したり隠し事をしたりはしない。
裏表がなく、極端な性格の持ち主だった。
だから彼女はあやのに全てを話した。
かがみには悪いと思いながらも、無二の親友に秘密事を作るに比べれば罪の意識は軽い。
「そんな…………」
あやのは激しい動悸に襲われた。
彼女はみさおの言葉を全て信じた。
(泉ちゃんのお父さんが……?)
そうじろうが立件されない罪を犯した事実を信じたくないあやのだったが、
みさおの告白を信じないわけにはいかなかった。
(それじゃあ、みさちゃんが―)
こなたが死ぬ直前に言葉を交わしたのは、父でもかがみでもなく日下部みさおだ。
その部分はどうしても拭い去れない。
「柊と妹のこと考えたら可哀想で……あの時はそればっかり考えてたんだ……。
だからチビッ子の気持ちなんか全然頭になかった……! 最低だよ……!!
あいつには何の罪も無かった! 無かったんだッッ!!」
みさおは拳を握り締めた。
爪が掌に食い込んだがその痛みは今の彼女には優しすぎた。
「なのに私、あいつのこと犯罪者の子なんて言っちまった……。
本当はあいつだって辛かったハズなのに、私が……突き放したんだ。
一緒にいるところを見られたくないって……そう言っちまったんだ―」
後悔とは遅すぎる懺悔の言い換えだ。

162:麾く煉獄57
09/09/04 22:02:41 vuGyr2zl
それをしてしまった時点で取り返しのつかない段階に立っている。
これの厄介なところは殆んどの人間にそれを自覚させない点である。
「そんな、みさちゃんが……」
あやのは無条件にみさおを庇う気にはなれなかった。
贔屓目に見ても彼女がこなたに向けて放った言葉の数々はどれも辛辣で、
自殺に追い込むに十分なだけの冷たさが宿っている。
「あいつには……あの時のあいつにはもう誰も味方がいなかったんだ」
家族は最後の砦だが、こなたの場合はその肉親が蔑むべき対象である。
加えて今回の問題を引き起こした張本人だ。
「バカだ……わたし……何も、なにも気付けなかった……ッ!!
なんでメールが来たのか……もっとちゃんと考えればよかったんだ。
あの時にはもう―あの時には私しかいなかった!! なあ、そうだろ!? あやの!!」
「み、みさちゃん、落ち着いて……」
「もしかしたら……ちがう、私はあいつを助けられたかもしれないんだ。
なのに私を頼ってきたあいつを……あいつを…………」
もはや今の彼女はあやのとは目を合わせない。合わせられない。
自分が罪深い行動をとってしまったことを、こなたの死によって厭というほど感じさせられたからだ。
「落ち着いてよ、みさちゃん。それが泉ちゃんの自殺のキッカケになったとは限らないじゃない」
「………………」
「い、泉ちゃんは、たとえば……うん、公園で話をする前から死ぬつもりだったのかもしれないでしょ?
おじさんがあんな事したんだから、そのショックでっていう可能性も―」
そう言うあやのは先ほどとは反対に闇雲にみさおを庇おうとした。
気付いたのだ。
自分にはみさおを責める資格などないことに。
遡ればこなたとかがみの諍いを止めようともしなかったし、その後もフォローらしいことは何ひとつしなかった。
みさおが密かに仲直りの機会を探って、度々こなたと連絡を取り合っているのを彼女は知っている。
それを横目で見ながらなお、彼女はその手伝いをしようともしなかった。
時間が解決してくれる。かがみもいずれは心を開く。今は見守っていたほうがいい。
そんな日和見主義とも思える持論を盾に、なんら行動を起こさなかったのは確かだ。
(私……何も知らなかった……妹ちゃんのことも、なにも……)
途端にみさおの幼馴染であることがひどく恥ずかしく思えてくる。
かがみが真実を告げた時、自分は何をしていたか?
みさおが真実を知った時、自分はどこにいたか?
「………………」
あやのは愛しい彼と2人だけの時間を満喫していた。
買い物にも行ったし、カフェで楽しく会話もした。
自分だけが何も知らなかったのだ。
デートを愉しんでいる間に局面がここまで動いていたこと。
こなたにも、かがみにも、みさおにもそれぞれの苦悩があったこと。
(私だけが何も知らなかったんだ!!)
今の今まで関与しなかった自分に、どうしてみさおを責められる。
できるとすれば―自責の念に駆られる親友を慰撫すること。
そうしている間だけ、自分も多少なりとも関っていると思い込むことができる。
こなたの自殺は防げなかったが、代わりにみさおを慰めることで罪の意識から逃れることができる。
「そんなこと……ねえよ」
みさおは今まで見せた事のない鋭い眼であやのを見た。
「…………ッッ!?」
射竦められたあやのは反射的に身を退いた。
「死ぬ気だったらメールなんてしないさ。話があるからって呼んだりしない。
でもあいつはそうじゃなかった。だから望みがあったんだ。
柊を怒らせたのは間違いないけど、別にチビッ子が全部悪いわけじゃない……」
「う、うん…………」
「悪いのはあいつの親父さんだよ。ちょっと考えりゃ分かることなのによ……。
私がうまく取り持てたら―せめてあいつが苦しまずに済む一言でもかけてやればよかった。
そうしたらさ、柊との仲は駄目でも死ぬことはなかった……そうだろ?」

163:麾く煉獄58
09/09/04 22:03:52 vuGyr2zl
「………………」
あやのは何も言えなかった。
どう答えても彼女の言葉は軽い。
こなたの生にも死にも関わらなかった彼女には、みさおを慰める資格すらない。
「おこがましいけど、あいつはきっと私に助けを求めてたんだ。
私なら何とかしてくれるって、助けになってくれるって……だから、あの日もメール―」
そこで言葉が詰まる。
こなたからの最後のメールを、みさおは公園を出たすぐ後に消去した。
あの時はかがみ同様、冷静にものを考えられなかった。
そうじろうとこなたを切り離して考えることができなかったのだ。
(そうだ……柊のため柊のためって……チビッ子のことなんてこれっぽっちも考えなかった!!)
あやのは視線を彷徨わせた。
みさおはこなたを追い詰めたかもしれないが、では自分はどうなのか。
自殺を止められなかった点では同じではないのか。
一度は彼女を支えたみさおに比べて、自分は最後まで傍観者ではなかったか。
かがみの側にも、こなたの側にも、みさおの側にも付かなかったではないか。
そこを考えると彼女は出口のない思考の迷宮の虜になる。
「お願い、みさちゃん……」
震える声であやのが言う。
「そんなに自分を責めないで」
これはみさおを想ってではない。
「みさちゃんは何も悪くないから」
これは―彼女自身に対しての慰めだ。
みさおが自分を責めれば責めるほど、何もしなかった自分は強い罪悪感に囚われてしまう。
その罪の意識から逃れたいがために、幼馴染というポジションで最も違和感のない慰めの言葉を投げかける。
(最低なのは私のほうよ……)
みさおを慰めることで自分を慰めようとする。
それをはっきりと自覚しているあやのは自らを嘲笑った。
不意にみさおが空を仰いだ。
相変わらずの曇天だ。
だがよく見ると空を覆い尽くす灰色の雲の一部分が欠け、一条の光が降り注いでいる。
時刻は午後7時。
月は出ていなかった。
(償いはしねーとな……)
やはり日下部みさおは潔かった。
すぐ横を歩く親友の顔をじっと見つめる。
ひどく悲しそうだった。
ただ同級生が亡くなったのであれば悲しくはあっても、ここまで沈痛な面持ちにはならない。
(チビッ子とは知らない仲じゃないもんな。ましてや私が追い詰めたんだから……)
知人の死と、幼馴染がその死を後押しした事実。
その二重の事実があやのを苦しめているのだろう、とみさおは思った。
彼女にはこの程度の推測しかできない。
もっと深いところであやのが苛まれているというのに、みさおには彼女の苦悩の深潭は見えない。
「………………」
みさおが何度目か分からないため息をつく。
そして、
「あやの」
呼び慣れたその名を噛み締めるように呼び、
「――ごめんな」
短く、簡潔に、彼女は謝った。






164:麾く煉獄59
09/09/04 22:05:57 vuGyr2zl
葬儀場を後にし、みゆきと別れ、あやの、みさおと別れ―。
柊姉妹は家までの道をゆっくりと歩いた。
今夜はずいぶんと風が冷たい。
つかさはまだしも、薄着をしてきたかがみは風邪をひいてしまうかもしれない。
「寒くない?」
なのにこうやって気遣う役はいつもかがみだ。
「うん」
お姉ちゃんこそ、という言葉がつかさの口から出てこない。
親しい者とその親を同時に喪って、すっかり気落ちしているようである。
もちろんその想いはかがみも同じだ。
痴漢の娘だというだけでこなた自身はその罪とは関係ないし、どんな形であれ共に過ごしてきた仲なのだ。
おまけに自分が冷たく突き放してしまったから、という負い目もある。
こなたなど死んでもいい、などという冷酷無慈悲な考え方はかがみには絶対にできない。
(………………)
だが、そうじろうに関しては違う。
彼はやはりつかさに手を出した痴漢であって、その罪は消えない。
だからかがみはこなたの死は悲しんだが、そうじろうの死には何も感じなかった。
こちらも死んで然るべきとは思わない。
が、かといって生きていて欲しかったと願うような相手でもない。
「つかさ…………」
「なに?」
「こなたの事……本当に残念だったわね……」
「…………うん」
こういう時に”残念”という言葉を用いるのが適切かどうか、かがみは些か逡巡してから言った。
残念なのは自分の所作だ。
結果としてこなたを責め立てたかがみの悪辣さをつかさは知らない。
ファミレスでの一件以来、つかさはさほど深く諍いに関わらなかったからだ。
では彼女が何をしていたかというと、関係の修復よりもむしろかがみの気を落ち着けることに腐心していた。
珍しく怒りの収まらない姉の前で、下手に双方の仲を取り持とうするのは却って逆効果ではないか。
かがみは自尊心が強いから、こなたと同格に扱えば気を悪くするに違いない。
つかさだからこそそれに気付けたのかもしれない。
「こなちゃんだけじゃなくて、そうじろうさんまで……」
というつかさの呟きが空気を通して横を歩くかがみに届く。
「そう……ね…………」
適当に相槌を打つ。
そうじろうの死などどうでもいいのだが、つかさの手前それを表に出すわけにもいかず、
かがみとしてはこうやって無難な受け答えをするしかない。
(こなた…………)
全て打ち明けるべきだろうか、とかがみは考えた。
妹の知らないところで何が起き、誰が何を言い、こんな結果になってしまったのか。
わざわざ言うような事ではないかもしれない。
隠すということはつまり罪の意識から逃れることになるのだが、といってつかさに何もかも話していいものか。
かがみは悩んだ。
告白すればつかさに嫌われるかもしれない。
彼女はこなたが痴漢の娘と知っていながら付き合っていたのだから、かがみの言動はそれを邪魔するものだ。
乱暴で冷たい人間だと罵られるかもしれない。
(どうしたらいいのよ……)
妹に隠し事をしたくないかがみは、しかしその内容とそこから予想される結果に苦しむ。
(だって……つかさは…………つかさッ!?)
思考の海でもがいていたかがみは、不意に数分前のやりとりを思い起こした。

”こなちゃんだけじゃなくて、そうじろうさんまで……”

つかさの台詞だ。
どこかがおかしい。
死者を悼む気持ちが表れた、心優しい妹の呟きだ。
彼女がこなただけでなく、そうじろうの死にまで悲しみを覚えるのは単なるお人好しだからか。
それとも同情からくるものなのか。

165:麾く煉獄60
09/09/04 22:07:22 vuGyr2zl
(”そうじろう”さん……!?)
憔悴したつかさの横顔を見ながら、かがみは違和感の正体に気付いた。
「つかさ、なんで……」
「えっ……?」
「なんであいつのおじさんのこと、”そうじろうさん”って呼んだの?」
「………………」
「なんで?」
「………………」
かがみは別につかさを責め立てようとしたのではない。
釈然としない単語が妹の口から出てきたから、その理由を確かめようとしただけだ。
が、この姉はいつになく強い口調で、追い詰めるように問うてしまっていた。
「わ、私そんなこと言った!?」
たっぷり間を置いたつかさの答えはこれだった。
彼女はウソをつくのが下手だ。
誤魔化すのも得意ではない。
18年も一緒にいるかがみにはよく分かっているのだ。
「言ったわよ」
「………………」
「つかさ、何か隠してない?」
自分こそ重大な事実を隠しておきながら、かがみはつかさに詰め寄っていた。
反射的につかさが身を退く。
その反応がまだ疑いの段階だったかがみの思考に確信を持たせる結果となった。
つかさの優しさを考えれば、そうじろうの死を嘆くところまでは分かる。
だが彼を名で呼ぶのは、友人の父親の呼称としては些か馴れ馴れしすぎる。
見開かれた眼が姉を正視できない。
「あの、あのね…………」
もはやこの場を乗り切れないと悟ったつかさは、叱られた子供のように俯いた。
「私…………」
「…………? 怒らないから言ってみなって」
「わたし…………」
「うん…………」
凝視するかがみの目を一瞬だけ見、つかさは、
「―そうじろうさんと付き合ってたの」
そう言ってから再び目を逸らした。
「なっ……に…………!?」
今度はかがみがつかさから逃れるように身を退いた。
直後、地面がぐらりと揺れる感覚に襲われ、かがみは慌てて近くの壁に手をついた。
「あんた、あんた……なんて…………?」
「私ね、ほんとはそうじろうさんと付き合ってたの」
一度吐きだしたことで吹っ切れたか、つかさは狼狽する姉に追い討ちをかけるようにハッキリと答えた。
こちらはもうかがみの気迫に怯える必要はない。
「なに、よ……どういうこと……? あいつと付き合ってたって……なに…………?」
歯の根が合わない。
「っていうかいつからなの? いつからよ……?」
この双子は今日までの多くを一緒に過ごしてきた。
朝起きてから夜寝るまで、甘えたがりのつかさがべったりとかがみに寄り添う恰好で。
学校にいる間も休み時間はたいてい顔を合わせていたし、休みの日もそれは同じだ。
たまにそれぞれの友人と外で過ごすことはあっても、柊家の中で最も長く時間を共有していたのはこの2人だ。
だからかがみにとって、”自分の知らないつかさの行動”はあり得ないのだ。
朝起きるのが苦手なのも、勉強が不得手なのも、料理が上手なのも、運動音痴なのも。
かがみはつさかの殆ど全てを知っているハズなのだ。
「初めてこなちゃん家に行った後だよ……」
うろたえる姉の姿が気の毒になったらしいつかさは、その顔を見ないようにして言った。
「あ、あんた……分かってんの? あいつは痴漢魔よ? あんたはあいつの―」
「分かってる。分かってるよ!」
「………………」
「会った時はビックリしたよ。私もあの時の事はよく覚えてたから、ほんとはすごく怖かった。
だってそうじろうさん、ずっと私を見てたから……また何かされるんじゃないかって―」
「だったらなんで…………!」
かがみの体は不自然なくらいに震えていたが、怒りによるものではない。

166:麾く煉獄61
09/09/04 22:08:36 vuGyr2zl
怒ることもできたが、そうしたところでその感情をぶつけるべき相手がいない。
「あの日ね、お姉ちゃんもこなちゃんも寝た後……そうじろうさんと話したんだ。
すごく反省してた。あの時は警察が出てくる騒ぎになったから咄嗟に開き直ったけど、本当に申し訳なかったって。
私、最初は許せなかったけど、いろいろ聞いてるうちになんだか可哀想になっちゃって……」
「何が可哀想なのよ? あいつはスケベな痴漢じゃない」
「違うよ! 違うの……そうじゃないの……」
つかさには似つかわしくない叫び声が、かがみの追及をほんの僅か退けた。
「そうじろうさんね、早くにお嫁さんを亡くしたから寂しかったんだって。
こなちゃん、お母さんにそっくりでしょ? それが辛かったって言ってた」
「………………」
「青春とはちょっと違うけど、女の人ともっとお付き合いがしたかったみたいなんだ。
それ聞いてたら私、涙出ちゃって。あの時はいやらしい人だと思ってたけど、すごく優しい人なんだって。
よく見たら背も高くてカッコいいし。それでお付き合いすることになったの―」
かがみは気を失いそうになった。
いくら可愛い妹の行動だとしても、これだけは赦せるものではない。
彼女の説明が下手なのか、それともかがみが頭からそうじろうを否定しているからなのか。
付き合うに至った動機もいまひとつハッキリしない。
もし本当にそれだけが理由なら、お人好しにも程がある。
「つかさ……おかしいって思わないの? あんた、痴漢と付き合ってたのよ?」
今はこれだけ詰るのが精一杯だ。
常識と良識の中に生きるかがみには、つかさの考え方は到底理解できない。
身内だからとどれだけ贔屓目に見ても。
「普通の人じゃないのよ? 犯罪者なのよ、あいつは!?」
「そんな言い方しないでよ!」
つかさは初めてかがみに食ってかかった。
妹に逆らわれた経験のない彼女は、気が動転したか反射的につかさの頬を張った。
「………………ッ!?」
「いい加減にしなさいよ! なんであんな奴かばうのよ! 自分が何されたか分かってんの!?」
「分かってるよ! 分かってるもん!!」
「だったら…………!!」
怒りに震えるかがみは言葉を紡ぐことができない。
感情だけが空回りし、冷静につかさの間違いを正すことができない。
「なんで……なんでよ……! なんでこんなこと…………!」
彼女の怒りの矛先はつかさから、手近にあった壁に向けられた。
「何の為に……私が弁護士を目指してると思ってんのよ…………!!」
まだ具体的な勉強を始めたわけではない。
希望する進路は法学部への進学、というだけであってその分野の参考書にすら触れていない段階だ。
取り敢えずは日頃から勉強の手を抜かず定期考査で点数を稼ぎ、担任から合格ライン突破のお墨付きをもらう。
そこでようやく夢への第一歩を踏み出せるのだ。
「………………」
かがみが弁護士になろうと決めた理由が自分にあると知っているつかさは、さすがに何も答える事ができない。
つかさがそうじろうに痴漢され、その彼が何の咎も受けないことが真っ直ぐなかがみには今もって許せない。
彼女が弁護士になり、そしてその時に今と同じ志を持っていれば、多くの女性が救われるだろう。
無垢な妹と同じような目に遭っている女性の多くが。
卑劣で狡猾で女性を性欲を満たす道具としてしか見ない、愚かな男たちの犠牲となっている女性の多くを。
同じく女性のかがみが救うだろう。
だがそれはあくまで付随された効果。
かがみの将来の夢は、究極的にはつかさの為なのだ。
当時、つかさを救えなかった無力な己と決別する為の。
公然たる手段である。
かがみは未来の被害者を弁護することで、過去のつかさを救おうとしているのだ。
美しい姉妹愛のひとつの形である。
だがそれを―。
(つかさに……裏切られた…………)
かがみは目の前が真っ暗になった。
ずっと見てきた妹が、知らないところで自分に背いていた事実が信じられない。
これは許しがたい背信行為だ。
激しく叱りつけ、罵りたくなったがしかし、いま一度冷静になろうとかがみは深呼吸した。
「どうして言わなかったのよ? なんで……ずっと黙ってたの?」
答えによっては彼女はさらに怒りを爆発させてしまうかもしれない。

167:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/04 22:09:28 L3873VQp
支援

168:麾く煉獄62
09/09/04 22:09:45 vuGyr2zl
今度こそ歯止めをかけられずに妹を誹るかもしれない。
「言えるわけないよッ!」
悲痛な声でつかさが叫ぶ。
「お姉ちゃんが弁護士になりたいって思ってるの知ってるもん! その理由だってッ!!」
「つかさ…………」
「嬉しかったよ。私、お姉ちゃんにすごく愛されてるって思ったもん。だって普通できないよ。
私のために弁護士になって私みたいな人の手助けしたい、なんて……簡単にできることじゃないもん」
「…………」
「だから言えなかった! 付き合ってる相手がそうじろうさんだなんて言えるわけないよ……。
お姉ちゃんの将来の夢、台無しにするのと同じだから……」
「それで、なの?」
「うん……お姉ちゃんに気付かれないようにこっそりお付き合いしてた。胸が痛んだけど。
でもそれを知ったらきっとショックを受けると思ったから。だから…………」
つかさが真実を隠し通したかった理由が痛いほどに分かるかがみは、悔しさに唇を噛んだ。
振り上げた拳を降ろす場所が見つからない。
誰に怒ればいいのか、誰を憎めばいいのか―。
もう彼女には分からなかった。
「だから私、そうじろうさんと約束してたの」
「なに、を……?」
「”お互いに気付いていない振りをしよう”って。お姉ちゃんは仕方がないけど、
他の誰にも分からないから黙っていようって話をしてたんだ」
「付き合ってるってことを?」
「ううん、電車の中であったこと。だからこなちゃんも知らなかったハズなんだ。
知ったらきっとショック受けるだろうから。その……お父さんが痴漢した……なんて嫌だもんね」
かがみは漸く知った。
なぜ妹がこなたと普通の友人以上に親しく付き合っていられたのか。
簡単な話だ。
彼女がそうじろうを愛していたから。
その娘と昵懇の間柄になることで、間接的にそうじろうに近づくことができるのだ。
「出会いが駄目だったんだよね、きっと。普通に出会ってたら、こんな想いしなくてすんだのに」
つかさは掠れた声で呟いた。
悖徳(はいとく)感に苛まれたまま、この少女はずるずると許されざる関係を続けてきたのだ。
それが真っ当な出会いであったらどれほど良かっただろう、とつかさは思った。
少なくともかがみに対しては罪の意識を抱かずに済んだハズである。
同級生との父との交際……。
といえば後ろ暗い響きはあるが罪悪でも何でもない。
彼の妻かなたは既にこの世の人ではないから、これを妨げる者もいない。
「だけどこなちゃんが死んじゃって―そうじろうさんもいなくなった……。
こなちゃん、どうして自殺なんかしたんだろ……? お姉ちゃんとケンカしたから?
ううん、そんな理由で死ぬなんておかしいよ。受験かな……受験がつらかったからかな」
つかさは意味のないことをした。
ハッキリしない頭で懸命にこなたの死の原因を推測する。
(違うのよ、つかさ……)
だが彼女は決して真相には辿り着けない。
その原因がかがみに、そしてみさおにあるなど彼女は知る由もない。
そもそも死の理由の候補から彼女たちは真っ先に除外されている。
「………………」
かがみは天を仰いでため息をついた。
(はは……結局、私は何も知らなかったわけか…………)
虚無に放り出されたような感覚を味わったかがみは、急に自分がバカバカしくなった。
(つかさの為、つかさの為とか言いながらさ……カッコつけて弁護士になりたいだなんて……。
そのくせこんな隠し事してるのも見抜けないなんて、ほんと情けないわ……バカみたい…………)
自分が憎み続けてきたそうじろうを汚らわしいとはもはや思わない。
そう思ってしまえば彼女は、それと交際していた自分の妹をも汚らわしい存在と認識してしまうことになる。
「ごめんなさい…………」
俯き、そう呟くつかさの目から涙が零れた。
「ずっと隠してて……ずっと騙してて……ごめん…ごめんなさい……」
かがみはそっと愛しい妹を抱きしめた。

169:麾く煉獄63
09/09/04 22:10:56 vuGyr2zl
(つかさ…………)
葛藤だ。
彼女は大いなる病と闘っていたのだ。
こんなに健気で愛い妹をどうして罵れるだろう。


(お姉ちゃん…………)
つかさもまた後悔していた。
今日まで隠してきたことを、なぜ今になって吐露してしまったのだろう。
かがみが傷つくと分かっているのだから、これまでのようにひた隠しにするべきだったのではないだろうか。
そうじろう亡き今、その真実を知っているのは自分だけなのだから。
生涯誰にも漏らさず、彼との思い出を自分の胸の内にだけ潜めておけばよかったのではないだろうか。
「本当に……ごめんなさい…………」
つかさの謝罪の言葉はかがみへのものなのか、それともそうじろうへのものなのか。
吐いた本人にすらそれは分からない。
ただ謝らずにはいられなかった。
かがみを裏切り、そうじろうを裏切った自分の罪。
2人に意識が向き、こなたの死を素直に悼むことができない軽薄さ。
それらがつかさを容赦なく甚振るのである。


かがみは―。
柊かがみはとうとう妹に真実を明かさなかった。
つかさの知らないところでこなたを執拗に責め立てたことも。
みさおが一度は彼女を庇い、事実を知って蔑ろにし、いま悔恨の念に囚われていることも。
怖かったのだ。
全てを吐き出すのが堪らなく怖ろしかったのだ。
そうじろうが痴漢魔であることに、つかさ共々気付かない振りをしていたが、かがみはその姿勢を貫けなかった。
真実を全て知れば、つかさはきっとかがみを怒るだろう。
憎むかもしれないし、そうじろうへの愛の深さによっては殺意すら抱く可能性もある。
かがみがこなたを追い詰めさえしなければ彼女は死を選ばず、そうじろうだって生きていたハズだ。
となればそうじろう自殺の発端はかがみ、ということになる。
つかさがこの結論に至るかは分からないが、少なからずかがみを恨むだろう。
かがみのとってきた行動は、そのどれもがつかさにとっては余計な事だ。
結果的に2人の仲を引き裂いた姉を、彼女が許すだろうか。
(私……取り返しのつかないことを…………!!)
こなたの死の直後にも思った事であるが、今は少し事情が異なる。


『お姉ちゃんのせいだ!! 全部、お姉ちゃんのせいだよっ!!』


そんな声が頭に響き、かがみは無意識につかさに背を向けた。
自分はとてつもなく重い罪を犯した。
罪無きこなたに迫り、彼女を殺した。
続いてそうじろうに命を絶たせた。
彼を愛する妹の気持ちを蹂躙した。
これだけの罪を認識しながら、かがみは虚無の中を漂った。
(なんてことを…………)
自分には勇気がない。
つかさに怨まれる覚悟で全てを告白する勇気も。
こなたのように罪の意識に耐えかねて自ら命を絶つ勇気も。
できるのはこの期に及んでなお自分の軽率さをひた隠し、つかさに知られないよう怯えながら時の過ぎるのを待つだけ。
最愛の妹に恨まれるくらいなら、ウソをつき通したほうがいい。
かがみは自分を最低の人間だと嘲った。
そうじろうやこなたとは比べものにならないくらいに小さく、愚かで、厚顔な存在だと罵った。
「もうひとつだけ訊いてもいい?」
精神が崩壊しかけているかがみは、定まらない視線を空中に漂わせて問うた。

170:麾く煉獄64
09/09/04 22:18:34 vuGyr2zl
「あいつのこと、そんなに好きだったの?」
「”あいつ”なんて呼び方しないでよ」
「……ごめん。その……こなたのおじさんのこと―」
「好きだよ。大好きだよ。優しいし、カッコイイし、私のこともすごく大切にしてくれたから―」
落涙しながら亡き人を語るつかさの口調は、間違いなく恋する少女のものだ。
それも強烈に。
いまや隠す必要のなくなった想い人に向け、つかさはストレートに愛を語っている。
「一緒に遊園地に行こうって約束してたのに。それもできなくなっちゃった……。
ねえ、お姉ちゃん……なんでこなちゃんは死んじゃったの? ねえ、なんでよ……なんでよ、お姉ちゃん。
こなちゃんが生きていたら、そうじろうさんだって生きてたのに…………ッッ!!」
つかさは声を限りに叫んだ。
彼女の慟哭はそのまま鋭い槍となってかがみを容赦なく貫いていく。




 ねえ、つかさ…………。
あんたがあいつの事を好きだってのはよく分かったわ。
もうこの世にいないのを嘆いて、もし後を追うっていうんなら。
私も……あんたの後を追いかけるわ。
だってそうでしょ。
つかさにまで死なれたら、私は3人も殺したことになるのよ?
そんな人間が生きていて良いハズないもん。
あの世でこなたとあいつに謝るわ。
もちろんつかさにも。
そうならない方がいいけど……。
今のあんた見てたら、ほんとにやり兼ねないからさ。
ごめんね、こんな情けない姉で。
弱虫で卑怯で。
全然、つかさの尊敬する姉になれなかったね。
つかさの事、守りたいだなんて思ったけどさ。
結局、何もできなかったね。
何もしないどころか、つかさの恋を駄目にしちゃった。
ごめんね、つかさ。
本当にごめんなさい―。




大罪を犯しながら、しかしやはり妹を第一に想うかがみは罪を償うことよりも恋人を喪ったつかさに、
惜しみない愛を注ぐことを誓った。
死者に対しては悼むしかできないが、いま生きている者にしてあげられる事は無数にある。
自分の所為で不幸の底に転落してしまったつかさを救えるのはもはや自分しかいない。
かがみは何度も自分にそう言い聞かせ。
愛しい妹をそっと抱く。
何があってもつかさを守ってみせる。
今度こそ過ちを犯さないように。
常に正しい道を選び抜き、つかさを救ってみせる。
芯の強い姉は空虚となった妹の殻を愛撫する。





171:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/04 22:18:42 L3873VQp
もう一度支援

172:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/04 22:20:46 26ugGiZP
支援なら手伝うぜ!!!!!

173:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/04 22:22:28 26ugGiZP
これで
解除
できるだろうか

174:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/04 22:56:07 dyyOBvGV


175:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/04 22:59:21 HubxQ50r
支援

176:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/04 22:59:55 P6DDp+kh
もういっちょ

177:麾く煉獄65
09/09/04 23:11:45 vuGyr2zl











しかし決意を新たにしたかがみも数日後に日下部みさおが自ら命を絶ったという報せを受けると、
愈々自責の念に耐え切れなくなり、つかさを残してこの世を去った。


間もなくみさおが命を絶った公園とかがみが自殺した体育館裏に真っ赤な花が咲いたが、
誰の目にも触れることなく僅か18日間で儚くも散ってしまったという。












   終





178:JEDI_tkms1984
09/09/04 23:19:08 vuGyr2zl
 以上で終わりです。
お目汚し失礼しました。
いつもスレを跨いで完結するので今回は収まった点はよかったのですが……。
1人で容量の半分近くを消費してしまった愚挙、ご海容ください。
そうじろうとつかさの間柄を予想したレスを見た時はドキリとしました。
ともかくも無事に完結。
お読みくださり、ありがとうございました。

179:JEDI_tkms1984
09/09/04 23:20:39 vuGyr2zl
 最中、数多度支援下さった方にも重ねて御礼申し上げます。


180:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/04 23:29:59 udFVSwuK
>>178

お疲れ様でした…
ちなみに自分はそうじろうとつかさが付き合ってる予想を書いた者です。
やっぱりそうだったか、と思いながら読みましたが、
まさかのラストに「えっ!?」と目が点になりました…


文句を付けるわけではありませんが、
あまりに唐突にすぐ2人が死んで終わっちゃったので、
残されたつかさの心情とか、色々見たいとは思いました。

でも、全体的にあなたの作品は大好きです。ありがとうございました。
次を楽しみにしています。

181:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/04 23:41:54 HubxQ50r
みさおとかがみは傷を舐め合って生きていくんだと思ったんだけどあっさり死んでしまったか・・・
あとみゆきとあやのの会話はなんかの伏線だと思ってたらそれも違ったw

182:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/05 00:05:35 nphiFjbW
乙です
ああ、みんな死んでしまったか

183:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/05 00:54:36 A6uxvrgk
とても面白かったです、でも最後の部分はない方がよかったかな、と個人的には思います

あっさりし過ぎたので
(笑)

184:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/05 08:08:21 nGLxYyCm
>>178
乙。
…かがみは泣く程こなたを友人として見てたか?と凄く疑問。

痴漢の娘だから私が見てないところで何しでかすか分からないからね」
鋭い刃のようなあてこすりはこなたの心を容赦なく剔(えぐ)る。
「表向き友だちを装ってきたけど……あんたは私たちの気も知らないでずいぶん好き勝手やってきたわよね?」
「………………」
「つかさをバカにして、私を揶揄って、みゆきにセクハラまがいの発言して―いったい何様のつもりよ?」
「………………」
「自分ひとりじゃ何もしない……何もできない癖してエラそうな態度ばっかり……ムカつくのよ」

幾らムカつくからってこんな言葉を例え勢いでも言い切り、言った後に「言い過ぎた、ごめん」の一言も無し…。
やっぱかがみは最低だと思った。
こんな奴生きてる資格ねえよ。死んでくれてすっきりした。

185:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/05 08:36:30 HXY6hLQ2
おもしろかったです。
かがみは最後まで悪かがみんなのかな?と思っていたのですが、
こなたが死んで後悔しているかがみを見て泣きそうになりました。
ちなみにそうじろうとつかさのプレイを想像して勃起しそうになりました。

186:JEDI_tkms1984
09/09/05 13:37:04 vyhOvSaq
 改めてお読み戴きありがとうございました。

>>180

 予想された時、さすがに最後の台詞はあざとすぎたかと思いました。
振り返ってみると僕のSSは全て、最も肝心な部分を暈かしています。
残された者の心情、死を選んだ者の心理などは読み手に委ねています。

>全体的にあなたの作品は大好きです。
 感涙の極みであります。

>>181

 伏線にならないとも限らない可能性はあります。

>>182

 早死にする人は実はいい人が多いのかもしれません。

>>183

 2人の死は初めから決めていた結末なのではずせませんでした。
このシーンはくどくどやらずさらりと流すことによる効果を狙ってみたのですが、
あまりにあっさりし過ぎていたかもしれません。

>>184

 大嫌いで憎くて鬱陶しくて……。
だからといって相手に死んで欲しいとまでは思わない、微妙な距離感。
……僕はかがみのようにはなれません。

>>185

 最後の最後まで悪辣なキャラを描くには僕の腕が足りません。
スッキリしない終わり方なら得意ですが。


187:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/05 14:47:51 yIX7nKwj
このかがみんは痴漢の娘のこなたを憎みながらうわべだけとして接しも
深層心理では単純に泉こなたがかなり好きんなってたんだろうなー
こなたっつーか、いつもの四人のやりとりの感じを

スケールは大分落ちるけどちょうど一昨日のハルヒでのキョンのキレデレに近い何かを感じる

188:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/05 16:04:09 7TUXciQ1
ほんとかがみはぐうの音も出ないほどの畜書だな(にっこり)

189:JEDI_tkms1984
09/09/06 16:00:16 tekM65hu
 僕のSSはどれもこなたが死んでからが長いので、
こなたの死をもって終わるSSを書いてみました。
万が一スレが空疎になった時、延命も兼ねて投下します。
勿論、投下予定の方がいらっしゃいましたら差し控えますゆえ。

190:名無しさん@お腹いっぱい。
09/09/06 16:50:45 T8dTcI35
今まで、どれくらい、こなたSS作りましたか?

また、作品名も教えてくれませんか?

191:JEDI_tkms1984
09/09/06 22:06:52 6Vit9EHv
 列記しますと過去のものは、

虚像と実像
罪咎深き賤しい女
惨劇館
惨劇の後に……
憎悪、堆く
死にいたる隘路
閻しき貴女よ
世界狂えや法破れや
死へ続く静かな雨音
胡蝶之夢

以上ですね。

192:お漏らし中尉
09/09/06 22:39:08 k7O2cKla
こんばんわ~
避難所に投下したSS『寝取られた女』の続きを投下します



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