09/08/05 21:01:52 hh7/4vuN
最近なかった「さとみお」に挑戦。
窓の曇りを手で拭くと、ひんやりとした感覚が伝わって来た。外は相当寒いんだろう。
辺りは田んぼが広がっている。10cmほどに刈られた稲の跡が規則正しく並んでいて、子供の頃に踏みつけて遊んだ事を、聡は思い出した。
終点まではあと5駅。しばらくは自分の他に、2歳くらいの子供とその母親が乗っていたが、親子は2つ前の駅で降りていったので乗客は一人になった。この先は家もあまりなさそうだし、乗ってくる客は多分いない。
揺れが眠りを誘う。列車が止まるたびに目を覚ましたが、終点ではなかった。
駅の間隔がどんどん長くなるように感じたが、眠りを挟んだせいかもしれない。
もうすぐ終点というアナウンスで目を覚ました。暖房が弱かったので寒気がした。
外を見ていると集落に入ってすぐに列車は止まった。荷物を持って出口へ向かう時、ついにここに来てしまったな、と思った。
列車を降りると湿気を多く含んだ空気の匂いがした。駅員に切符を渡すときに海はどっちかと訊いた。
ここに来たのは澪姉さんが見た冬の海を見たくなったからだ。
駅を出ると道が線路と平行に走っている。
駅員に言われた通りにその道を線路がない方向へ歩き出した。
近くにベニア板に手書きで書かれた地図があったが住民の名前ばかりで海は書いてなかった。
あたりは古い家ばかり、店らしいものはなかった。
澪姉さんもこの道を通ったんだ。
何を思いながら歩いたんだろう?
去年の冬のこと
「今日は夕飯いらない。さっきハンバーガーを食べたばかりだから。」
姉と一緒に映画を見に行った日曜日。日が暮れた後に帰宅してきた姉がそう言った。
そして、母が何か言うのも聞かず2階の僕の部屋にやって来てその日の出来事を話し始めた。その時に冬の海に一人で行く澪姉さんの話をした。
「詩を書くために海に行って来たんだとさ。」
昔からよく知っている人だったが、冬の海に一人で行くのは意外な気がした。
他にも猫がどうとか髪型がどうのこうのとも言っていたが、海の話だけがずっと頭に残っていた。僕の知らない澪姉さんがいる気がして。