09/08/29 15:32:40 CS4v7SDV
「えええ!?」
慌てて自分の上半身を確認する。とはいえ、ぎゅうっと覆いかぶさる先輩に体のほとんどは隠れているから、見えるのは少しだけだけど。
いつの間にか私が着てたのは、さっき手にしていた「アイラブユー」Tシャツ。
「えへへ、着せてあげたよ~」
「な、な…?」
得意げに笑う唯先輩。つまり私はいつの間にか先輩にシャツを脱がされ、そしていつの間にかさっきのTシャツを着せられていた―
つまり、ええと、見られた―っていうか、本当にいつのまに!!??
真っ赤になればいいのか、驚けばいいのか―もう、私はどうすればいいんですか!
「ねえ、あずにゃん」
混乱する私に、唯先輩の声が降ってくる。気付けばちょこっとだけ腕を立てて、少しだけ距離が開いた先輩の顔が私を見下ろしている。
「そういうことで、いいんだよね?」
そういう先輩の笑顔は―瞳は、いつものふんわりしたものじゃなくて、確かな熱のようなものが篭ったもの。
それは、それを見せた瞬間私が返して欲しかった表情。つまりは、スタート直後の私を、一気にゴール寸前までワープさせてくれるすごろくのコマ。
それが不意に目の前に差し出されたものだから、私の思考は全然それに追いついてくれない。混乱は加速するばかり。
ただわかるのは、私の返事も待たずに近付いてくる先輩の顔だけ。だけどそれは、更に私の思考を溶かしてくれて―もうどうしようもなくなる。
―そこでふと、先輩のTシャツ、その胸の言葉が浮かんだ。今なら、その意味がわかる。だって私は、こうして狩られてしまったのだから。
出来ればそれは私限定にして欲しいけど。うん、今度上に「あずにゃん専用」と書いておかないといけない。
ひょっとしたら、最初からそのつもりだったのかな?なんてそんな疑問が浮かぶ。だとしたら鈍かったのは私ということになるけど。
―でももう、そんなことはどうでもいいです。
今の私は、そういう意味でちゃんと先輩に抱かれているから。そしてもうすぐ、そのゴールへとたどり着けそう。
それを待ちきれず、私はきゅっと先輩を抱き返した。その弾みで、もう少しかかるはずだったその距離が、一気にゼロになる。
先輩は少しびっくりしていたけど―最後まで先輩におんぶに抱っこで楽したままじゃ、なんか嫌だから。その距離くらいは、踏み出させて欲しいと思う。
その瞬間から、そんなことを考える余裕なんてなくなってしまったけど。
―次は「ハネムーン」ですね。ああ、「ウェディング」の方が先ですか。なかったら、買ってこなきゃですね。
そんなことを思いながら、私はぼうっと私を溶かそうとするその想いのまま、意識から―理性と名の付く何かからぱっと手を離した。
(終わり)
途中で分母が増えたのは配分ミスです、すみません…