09/07/20 00:02:44 O84SzrfF
私が奪ってきたもの。
私が壊してきたもの。
知らなかった。
こんなにも。こんなにも。
暖かくて、素敵なものだったなんて。
Happiness Alive
「さぁさぁ、ここがあたしのお部屋だよ!!」
背中を押されて、せつなは部屋に押し込まれる。
窓には観葉植物とコンポ、カーテンは家の屋根に合わせたのかピンク。
机とベッドだけのシンプルな室内。
「これからは、せつなの部屋でもあるからね」
「私・・・・・・の?」
困惑を隠せないまま、せつなは振り向いてラブに問いかける。
「いやぁ、ホントは別の部屋もあるんだけどさ。まだちょっち、片付いてなくってさぁ。
だからそれまでは、狭いけどここで我慢してね」
にはは、と苦笑いしながら、彼女はせつなの手を取ってベッドに腰掛ける。つられる
ように隣に座って、せつなはラブを見つめる。
「出来るだけ早く片づけるから、ね」
「ううん、それはいいの。でも、ラブ」
「ん?」
問いかけようとして、ラブを見たせつなは。
そこに浮かぶ、純真な笑顔に息を飲む。
あの時・・・・・・スタジアムで見たあの、優しさと慈愛に満ちた笑み。
それはまるで澄んだ青空のように、一片の曇りもなく、ただ自分を包み込もうとする。
あの時・・・・・・は、拒絶した。自分の中の何かが変わっていくように思えて。
今、は。
こんなにも、暖かい気持ちになる。
変わったのは・・・・・・私?
324:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/20 00:02:50 62TlP5zg
ラビリンス国家の中でイースだけが制服ではなくボンデージ風ファッションだったのですね
325:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/20 00:03:32 O84SzrfF
「どうかした? あ、もしかして、服のこととか? だったら明日、一緒に買い物行こ!
美希タンもブッキーも誘ってさ」
「え? あ、うん。ありがとう・・・・・・」
じゃあじゃあ早速メールしてぇ~、と鼻歌を歌いながらリンクルンを取るラブに、
「あ、待って、ラブ」
せつなは声をかける。
ん? と首を傾げながらこちらを見る彼女から視線をそらし、胸のあたりを手で押さえ、
せつなは言う。
「ね、本当に、いいの? その・・・・・・私が、ここにいて」
それは彼女の本当の気持ち。
さっきは、あまりの嬉しさに感情が抑えきれず、流されるがままに頷いてしまった。だが、
時を置いて冷静になってみると、本当にこれでいいのか、と思ってしまう。
自分のような者が、優しさに甘えてしまっていいのだろうか、と。
「せつな、ここにいるの、嫌? あたしと一緒にいたくない? あたしのハンバーグ、
食べたくないの?」
「そ、そんなことない。ラブとは一緒にいたいし、ハンバーグも食べたいわ」
泣きそうな目のラブの姿に、慌てて彼女は首を振る。それを見た途端に
幸せそうな顔になる少女。想いが素直に表に出るのだろう。
「だったら・・・・・・」
「で、でも」
俯かせていた顔を上げて、せつなはラブを一瞬、真正面から見る。
が、すぐにまた目を伏せて。
「でも、ラブのお母様やお父様に、迷惑をかけてしまう・・・・・・」
一緒にいらっしゃい。そう言ってくれた二人の気持ちは、優しさはとても嬉しかった。
だからこそ、心苦しい。そして不思議に思う。
どうしてそこまで、優しくしてくれるのだろう。
「大丈夫、大丈夫。お父さんもお母さんも、せつなのことが気に入ったんだと思うよ」
「だ、だからって・・・・・・!!」
「ラブの言う通りよー」
能天気にも思えるラブの言葉に追随したのは、彼女の母親だった。両手に布団を
抱えながら、ドアを開けて部屋に入ってくる。
326:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/20 00:04:31 CktJThtX
せっちゃん…
327:NGワードならO84SzrfF
09/07/20 00:04:59 O84SzrfF
「よいしょっと。お客さん用の布団だけど、今日はこれで我慢してね。もう、ホント、
早くあの部屋片付けないとだわ。ラブ、明日はお手伝いしなさいね」
「もっちのろん!!」
「せつなちゃんも、お手伝い、お願いね」
「あ、はい」
思わぬところで呼びかけられて、反射的に頷くせつな。えー、と声を上げたのは
ラブの方。
「なんでせつなにもお手伝いさせるのよー」
「当たり前でしょ。お客様じゃなくて、家族なんだから」
何気ない、一言。だがそれが、せつなの胸に響いた。
家族・・・・・・私が?
今日、会ったばかりだというのに・・・・・・私が、家族・・・・・・
「そ、家族」
せつなの心を見抜いた、わけではないのだろう。が、あゆみはニッコリと笑って言う。
「だから迷惑だなんて考えなくていいのよ。もちろん、お手伝いはいーっぱいして
もらいますからね」
「も、もちろん。精一杯、頑張ります」
「おー、いいお返事ね」
姿勢を正し、深く頷くせつなを微笑ましく見て、彼女も首を縦に振る。そして、きょとんと
二人のやり取りを眺めていたラブに、
「ラブ、下に枕とタオルケットがあるから、持ってきてくれる?」
「はーい」
とてとてと音を立てて階段を下りていくラブを見送ってから、彼女はせつなの隣に腰を
下ろし、せつなを見つめる。
「本当に、迷惑だなんて考えなくていいのよ?」
「・・・・・・はい」
重ねるように言われて、だがせつなはまた俯いてしまう。どうしても、逡巡の心が消えて
くれない。
それは恐らく、三人の幸せな姿を見たからだろう。あのレストランでの食事。彼女達は
家族として、とても幸せそうだった。そこに自分という異物が入ることで、何かが変わって
しまうのではないか・・・・・・
イースならば、それを望んだだろう。だがキュアパッションは、東せつなは、それを
望まない。
「ね、せつなちゃん。親バカだと思って聞いてね?」
「え?」
不意に発せられた言葉に意表を突かれ、せつなは思わずあゆみの顔を見る。そして、
また、息を飲んだ。
そこにあったのは、彼女の娘であるラブの笑顔と、そっくりのものだったから。
「ラブはね、とってもいい子に育ってくれたわ。元気で、明るくて、優しくて。こんな娘が
欲しいなぁ、って思ってた理想通りに育ってくれたわ。まぁ、もうちょっとお勉強にも
頑張ってくれたら、って思うこともあるけれど」
茶目っ気たっぷりに言う彼女に、せつなの頬も知らずほころぶ。同時に去来する、
暖かな感情。そんなあゆみに対してせつなは、憧憬を覚える。その理由は、彼女には
わからなかったけれど。
328:NGワードならO84SzrfF
09/07/20 00:05:52 O84SzrfF
「そのラブがね、とっても真剣な表情で、助けたい友達がいる、って言ってきたの。
住む家もなくて、家族もなくて困ってるから、一緒に暮らさせてあげて欲しい、ってね」
「それが・・・・・・私」
膝の上で、せつなは手を強く握り締める。そうしていないと、また、涙が出てしまいそうだ。
「その顔を見た時にね。ああ、本当にその子を大事に思ってるんだな、って思ったのよ。
だって今までラブにはたくさんお願いされてきたけれど、あんなに真剣なの、初めて
だったんですもの」
「でも・・・・・・だからって、見ず知らずの私を」
「あら、見ず知らずじゃないわ」
瞬間、せつなの脳裏を過ぎる、あの丘での出会い。
「あれは、偶然で・・・・・・」
「違う、違う。そうじゃなくて。まぁ確かに何かの縁だったんだろうけれど」
クスクスと口元を隠しながら笑うあゆみ。
あの出会いでなければ、何だと言うのだろう。困惑するせつなに、笑顔のまま彼女は、
「ラブを通して、知っていたつもりよ、わたしは」
「え?」
「ラブがそこまで助けたいって想う子ですもの。とってもいい子なんだろうな、って
思ってたわ。予想通り、せつなちゃんはいい子だったし」
はっと目を見開くせつなの頭に、あゆみはそっと手を乗せて頭を撫でた。
「わたしもお父さんもね、ラブのことを信じてるの。ラブのことを信じてるから、ラブが
いい子だと思った子は、いい子に違いないと思っているのね」
「それは・・・・・・家族だから、ですか」
「そ。家族だから。そして、ラブだから」
言って笑うあゆみの顔に、ラブの笑顔が重なったようにせつなには思えた。
ああ。なんて。
あったかい。
「わたしがこんなこと言ってたなんて、ラブには内緒よ。恥ずかしいから」
しぃ、と人差し指を口の前で当ててから、あゆみは立ち上がって部屋を出て行く。
入れ違いに戻ってきたラブに、せつなは、
「ねぇ、ラブ」
「ん? なぁに、せつな」
「ラブのお母さん。とっても素敵な人ね」
彼女の台詞に、一瞬、きょとんとした後、ラブは満面の笑みを浮かべて、
「うん。あたし、だぁい好きなんだ。あたしもいつか、お母さんみたいな人になりたいなぁ、
って思ってるんだよ」
「なれるわ、ラブなら」
だって。
今でもこんなに、似てるんですもの。
その言葉を、せつなは胸に秘める。今は。
いつか、彼女に伝える、その日までは。
内緒のこと。
329:名無しさん@お腹いっぱい。
09/07/20 00:06:27 3CYDnk6i
せつなはラビリンスで幹部になるくらい優秀だから、学校の勉強も飲み込み早いだろうな。
せつながラブに宿題教えてあげるところとか、想像しただけでテンションあがる。