09/07/02 02:47:06 RSD/qOLT
>>467
「返してもらう!」
マコはそう言って奥に進んでいく。その奥にいる少女は、マコが幼いころの記憶と寸分たがわずそこに
存在していた。本来ならそこにいるべきはマコ自身。身代わりとなって十数年そこに幽閉されていた、
齋王そのひとだった。
精進潔斎のための白い着物。黒い髪。あの頃のままずっとそこに立っていた。
「待ちなさい! その子はもう─」
バチリ。
空間が歪み、暗がりに立つ少女の肖像がひび割れる。
「な─」
絶句するマコの目の前で少女の白い白い皮膚はひび割れていった。
「寂寞に見るは午睡の夢なり─人間の巫女なんてそうそう長くはもちません」
それは既に少女の声ではなかった。禍々しい老人の声。ひび割れた声帯から発する、油の切れた機械
のような声だった。
「お待ちしておりました。私の新しい齋王」
少女の体が崩壊し霧散する直後、マコはその声を聞いた。
「マコ!」
駆け寄る部長だったが、すでに遅い。
崩れ落ちる少女の体から流れ出した黒い煙の塊のようなものは、まっすぐにマコを目指して地面を這い、
そのままからめとるように足をつたってマコの中へ侵入する。
「ぐ─―」
短いうめきとともにくずおれたマコは、次の瞬間にはもう別人になっていた。
「何を・・・」
部長のつぶやきはもうマコには届かない。
「まだうまく馴染みません」
立ち上がる、先ほどまでマコだった者はしわがれた声でそう言った。
「こんな・・・ことが」
京太郎は目の前で起こった事実を飲み込めないでいた。ついさっきまで立っていた先輩が、いまはもう老人
の姿になっていたのである。髪型こそマコに近いものの、服装はどこか古代の人間のようにかわり、皮膚は
ひび割れ、手はふしくれだって枯れ木のようだった。
「返しなさい! マコを戻して!」
部長が叫ぶ。
「憤せずんば啓せず。非せずんば発せず。一隅を挙げて三偶を以て返さざれば則ち復たせざるなり。
ならば勝負となるか─命をかけて。また昔日のごとく」
それは不吉な宣戦布告だった。