09/07/02 00:08:21 uKRy1Vpo
>>462
ギイ―
扉がゆっくりと開き、その向こう側の暗い世界を京太郎たちに見せた。
「マコ・・・」
「来んでください」
近寄ろうとする部長をマコは静かに制した。
「そんなお願いは聞けないわ」「部長!」
部長は京太郎たちを背後に控えさせて悠然と歩をすすめた。
「齋院とは神に仕える巫女のこと。神迎えの機織り、巫女たる齋王は二年の潔斎ののち
神に奉仕する。史実と同じく齋王が未婚の女子と定められ、この開かずの間で潔斎を強要
されていたならば、使えているものは神に他ならない─マコ、その向うにはどのような形で
あれ神と呼ばれるものが居るのよ」
「知っています。だからこそ、見られたくはなかった」
「マコ!」
「私はこれから蠱術の儀式に入りますけん、どうか戻ってください」
その蠱術とは、自らを生贄にする。
「できないわ」
「部長─」
聞き分けのない子を諭すようにマコは言う。
「ここぞという時に引いてきた牌は手放さない。あなたも知ってるでしょ。私は悪待ちの女なの」
「それとこれとは・・・」
「変わらないわ。何も変わらない。あなた、ひょっとして忘れているかもしれないけれど」
─麻雀はひとりではできないのよ。
マコが振り返ると、部長の背後にはすでに見知った後輩たちがいた。
「やることはいつもと変わらないじょ」
「染谷先輩。神様とだって、卓を囲めば同じです」
「そんなオカルトありえませんよ」
呆れた口調の和の声を聞いて、マコは不意に吹きだしそうになる。それはいつもと変わらない、
遠く過ぎ去った過去の記憶だと思っていたものだった。
しかし今は違う。
麻雀は賭け事ではない。
まして命など賭ける必要はない。
そんなことのために来たのではないと自分に言い聞かせた。
「駄目じゃ。巻き込むつもりはないけん」
「それでも、先輩は行こうとしてるんですよね」
京太郎が言う。
「負けるつもりなんですか?」
「勝って財産といっしょに海に沈める。それ以外に方法はないけん」
「入られよ」
そのとき、奥から声が響いた。
それは、マコの良く知った少女の声だった。