09/06/29 21:42:33 K5wJ6sbl
>>448
「京ちゃん起きて!」
そう言って咲が京太郎の部屋に入ってきたのは、かなり深夜になってからだった。京太郎は眠い目
を擦りながら「何だ?夜這いか」と場違いなことを言ってみぞおちにキツイ一撃をくらった。
「ててて・・・なんだよ一体」「ひとが死んでるの!」
その一言はあまりに切羽詰った語調で、京太郎の頭から眠気を綺麗サッパリ引き剥がした。
取るものもとりあえず京太郎たちは死体があるという中庭に走る。そこには既に部長、タコス、和の三人
と屋敷の竹緒婦人がいた。
「これは一体・・・」
唖然とする京太郎の目の前には、男の死体が無残にも木に吊るされていた。廊下の明かりに照らされ
わずかに風に揺れる様子は、それがもう既に生命のともし火を持っていないということを如実に物語っていた。
「ひとまず、遺体を降ろしていただけますか・・・今他のものは出払っていて」
京太郎たちは、駆けつけた近所の大人がぶら下がる遺体を降ろすのを、ただ黙って見つめていた。
「誰がこんなことを・・・」
部長が呟く。
「私たちがお風呂に行ったときにはありませんでした。だからこの遺体はそれ以降に吊るされたことになり
ますね・・・下に血溜まりができてることを考えると、他の場所で殺されたということはなさそうです」
「咲・・・」
こんなときによくそんなことが言える。という言葉を、京太郎は我慢した。
「じゃあ、咲ちゃんはあたしたちが寝たあとに誰かがここで殺したって言いたいのか?」
タコスは泣き出しそうな声でそう問うた。
「そうだね優希ちゃん。血液だけあとでまいた可能性もあるから、正確にここが殺害現場と断定することは
できないかもしれないけど、遺体を吊るし上げたのは私たちが寝たあと。竹緒さんは何をされていましたか?」
「私を疑っていらっしゃるんですか・・・」
やや乱れた髪を額口にはりつかせて、竹緒婦人はそう言った。
「私は母と一緒におりましたから、母が証人になると思います」
「ちょ・・・ちょっと待てよ」
慌てて京太郎は間に入る。
「今ここで質問してもどうにもならないだろ。警察を呼ぶのが先なんじゃないのか?」
「駄目なのよ」
今度は部長が間に入った。
「殺された方が私たちを連れてきてくれた船頭さん。この人が定期便で港まで送る役目のひとだったのよ。
昔は沢山いたそうだけど、今はこの人しか船を動かせない」
「電話は!?」「マコが確認してるわ。母屋の電話は使えなかった。近所の人も通じないって言ってるから、
たぶん島の集合線が切られてる可能性がある」
部長の声は鋭い。慌てて京太郎はポケットをまさぐるが、そこに携帯電話はなかった。島に入った時点で電波
が届いていないことを確認済みだったからだ。
「そ、それじゃあ・・・」
「漁業組合の連絡線がくるのが明後日です。それまでは誰もここから出られなくなりました」
竹緒婦人の言葉は、まるで死刑宣告のようにあたりにこだまする。
「ひっ!」
短く悲鳴をあげてタコスが意識を失う。慌てて体をささえた京太郎は今日もっともおぞましい物を見ることになる。
間近で見るその遺体は、肩から上の頭部がまるごと切り取られていた。