09/05/21 19:48:43 bqVPWRs5
その日、風越女子高等学校の一室では県予選にむけて交流戦が行われていた。
他校の面子とただ一人戦う池田華菜の背中を、福路美穂子はじっと見つめている。それは次代を担う
池田にキャプテンの福路自身が課した試練だった。
─あなたはメンタル面で弱い部分があるの。実践の経験がたくさん必要ね。
池田はキャプテンの言葉を思い出す。
(これで上がればトップで終了だし)
オーラスの親。トップの池田と二位との点差はわずかに2000点。
「リーチ!」
上家のリーチが池田を射すくめる。
(このリーチに振り込めば終わり。現物のトイツを落とせばまだいける。いや、でも・・・)
池田の手が止まる。
テンパイを崩して打ちまわすか、あるいは勝負にいくか。攻める捨て牌は危険牌だった。
去年の大会の悪夢が脳裏をよぎる。大将戦で振り込んだ倍満はチームの敗北を決定付けた。
(勝つための撤退だし)
勝負をおりる手が動く。
「駄目よ」
そのとき池田の背後から声が響いた。
「キャプテン・・・」
「あなたの守るべきものは点数じゃないわ」
その真意は池田には理解できない。
「私はいずれいなくなるの。卒業するのよ。あなたはそのきチームを守らなくてはならない」
その声はかつて池田が聞いたことのないほど厳しい声だった。
「リスクを背負いなさい。キャプテンはね、後輩を守るの。その重圧から、不安から、恐怖から、
全てのプレッシャーから守るのよ。そのためにはいつも立っていなくては駄目」
福路の声にそれまでの思い出がよみがえる。久保コーチのしごきに自分が耐えられたのは、
ひとえにキャプテンの存在が大きかったのではなかったか。いや、自分に限らず他の部員も
きっとそうだろう、と。このひとはそうやって風越を守ってきたのだと。