09/01/23 20:35:25 kKAM4txq
目に見えるものが全てではない、だとかいう小難しい論を唱えるつもりは毛頭ないのだが、幻とか蜃気楼の類のように、そこにありもしないものが見えるのならまだしも、そこにあって然るべきものが見えないのであれば、そこには何も存在しないのだろう。
ああ、のっけから申し訳ないが、ただの独り言なので大した意味はない。あまり気にしないでくれ。
しかし、普段はその場にいるというだけで強烈な存在感を放っている人物がいないってのは、こうまでも違和感を覚えるということなのだとはね。
というわけで、もうみなさんもお気付きのことと思うのだが―ハルヒがいない。
本日の教室の俺の後ろは空席、とはいっても、いつぞやのようにハルヒの存在そのものが消えてしまったということではなさそうだ。
ホームルームでも岡部教師が「涼宮は欠席か? おかしいな」なんてことを言っていたのだが、どうもハルヒは学校に何も連絡してこなかったらしい。ってことは単にサボりってことなのだろうか?
全く、一体どこで何してやがるんだよ?
「おいキョン、どーしたんだ、そんなに不景気そうな面して? そういえば涼宮が休みなのって何か関係あるのか? まあ、夫婦喧嘩もほどほどにしておけ」
おい谷口、何でハルヒの欠席に俺が関係あるんだ? つーか、何だよそのフウフゲンカってのは? 意味が解らん。
「まあ、谷口もそのぐらいにしておきなよ。涼宮さんがお休みでしょんぼりしてるキョンをからかうのもなんだか可哀想じゃないか」
いや、だから、誰がしょんぼりしてて可哀想なんだって?
「いやいや、悪かったキョン。国木田の言う通りだ。最愛の嫁が傍にいなくてがっかりしているお前をからかったりしたら罰が当たるに違えねーな」
なんつーか、どいつもこいつもバカばっかりだ。相手しているだけで憂鬱の度合いが増して疲れるばかりだし、放っておくに限るな。ふう、やれやれ。
「これまた盛大な溜息だな」
「ほんと、かなり重症だよね」
知らん、無視だ無視!
その日の放課後、どうせハルヒはいないんだし、部室に行かなくても文句言われないだろうが、さてどうしたものか、と鞄を担いで廊下に出たところ、
「おや、丁度よいタイミングでしたね」
ああ、妙にタイミングだけはバッチリだな、古泉。ハルヒなら今日は来てないぞ。
「ええ、そのことに関して、少々お話があるものでして」
相変わらず顔面に貼り付けているニコニコ笑顔は普段と変わりなさそうなのだが、その態度に俺は何か引っかかりを覚えた。
「ここで立ち話というのもなんですから、とりあえず部室まで、よろしいでしょうか?」
とか言いながら、俺の返事も聞かずに歩き始めた。正直、この場で俺が異を唱えて帰るとか言ってみたら、果たしてコイツはどんな反応を見せるであろうか?
なんてことをほんの一瞬だけ考えてみたりもしたのだが、結局俺はそのまま古泉の後に続いた。まあ退屈しのぎにすらなりゃしないだろう下らんことにわざわざエネルギーを使うこともないだろう。
「既に機関からも報告が届いているのですが、本日に入ってから涼宮さんの所在が確認できなくなっているのですよ」
な、何だって?
「行方不明―いえ、そもそも存在しなくなってている、と言った方が正確なのでしょうか。実際、僕自身、自分の感覚で涼宮さんのことが捉えられなくなっているのです」
いや、でも、担任もクラスの連中もみんなハルヒの存在自体は認識してるみたいだったぞ。どういうことだ?
「失礼。彼女の存在の痕跡が消失しているというわけではありません。そうですね……涼宮さんの『実体』そのものがこの世界から切り離されている状態、と言ってもいいかもしれません」
何だかますます解らんぞ。俺も自分の頭のバカさ加減には我ながら呆れているところだが、もう少し理解可能な言い方はできないのか?
「申し訳ありません。僕も事態の全容を把握していると言うわけでもありませんですので……」
丁度その時点で俺たち二人は文芸部室に辿り着き、ドアを開けたその向こうには、