08/12/29 18:49:08 +h73/40g
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昼休みになると同時に、こなたは教室を出て食堂へと向かった。
ここまでの半日は、散々だった。
針の筵なのは相変わらずだが、昨日よりも確実に今日の方が辛い。
どんな最悪な環境でも、慣れてしまえばどうという事はないらしいが、
慣れる前に病んでしまうような気さえした。
また、慣れというものはその環境が持続するからこそ生ずるのであって、
日に日に環境が悪化していくのなら慣れる余地なく壊されるしかない。
実際、あれ程苦痛を感じていた昨日に比べてさえ、
今日のこなたを取り巻く状況は悪化している。
こなたがそう感じた大きな要因は、二つある。
一つは勿論、朝の出来事である。新見や平井との間で交わされた口論は、
こなたの心に元からあった猜疑心をより一層大きなものへと育て上げていた。
即ち、『私は本当に許されない事をしたのかもしれない』という疑念である。
こなたは、授業中もその事について考えを巡らせていた。
いや、考えを巡らせていた、という表現は正確ではない。
実際、無自覚に発せられてくる心の声に抗っていただけなのだ。
心はこの問いを発し続けていた。
『私は本当に許されない事をしたのかもしれない』という、問いを。
それに対し、こなたは必死になって否定し続けた。
しかし、否定すれば否定するほど、別の声がこなたを刺したのも事実だった。
『反省していないね』という、かがみからも今朝の二人からも言われた、
その言葉が、彼女達の声で心に響き渡った。
朝のやり取りは、確実にこなたの心に包囲網を形成し、
徐々に、だが確実にこなたの精神を追い詰めていたのだ。
そしてもう一つが、昨夜つかさに向けて送ったメールである。
そのメールに対する返信が未だないだけならまだしも、
当のつかさは、そのようなメールを受け取った覚えがないかのような風体で今日を過ごしている。
(何らかのリアクションがあってもいいはずなのに。
もしかして、虐めだと思っていないのは世界中で私ただ一人だけで、
当のつかさもイジメを受けたものだと思っているのかもしれない。
だから、私を許す気になれずにメールに対して何の反応も示してこないのかな)
こなたは不安に駆られながら、重い足を引きずるようにして歩いた。
その二つの要因は、確実に昨日よりも今日を辛いものへと変貌させていた。
(でも、今日さえ乗り切れば明日は土曜日。休みを二日程度挟んだからといって、
クラスメイトの態度が軟化するとは思えないけど、学校から逃れてはいられる、か)
「おー、ちびっ子ー。暗い顔して歩いてんなー」
明るい声で、こなたは我に返った。
「みさきち…」
振り向けばそこには、場違いな程の明るい笑みを顔に浮かべたみさおの姿があった。
(いや、この場所では、学校ではそれが正しいんだろう。
場違いなのはむしろ、私のほうか)
あやのもみさおの近くに居たが、
携帯電話を操作していて、話に加わってこようという態度は感じられなかった。
(どうせ、かがみから何か良からぬ事聞かされてるんだろうな。
私と話すのは嫌だから、携帯電話を操作するフリしてるだけなんだろうな)
気まずい雰囲気の元では、よくある光景である。