08/12/23 21:59:24 2Iv6rsms
>>298
良く見たらザーメン、結構リアルだしw
>>296
そうじろうによる父子相姦&カニバル希望。
301:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/24 00:57:26 DuU681NN
>>296
いいぞ、もっとやれ
302:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/24 02:30:35 L7m1mu8p
おまえらメリクリ
303:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/24 02:39:08 nRoYMh73
あぁ?
304:お漏らし中尉
08/12/24 02:57:48 /jWtIiEm
>>297
大分さんの有難うございます!大分さんの描くらきキャラは大好きです。
昨日の続き(グロ、性描写注意)
ひとしきり走ったこなた
見慣れた帰路をまるで逃げ惑うかのようにして駆けていく
いつもの角を曲がり、真っ直ぐ走って三番目
左脇に見えるのは17年間過ごした思い出の我が家
日は既に沈みかけており、普段では感じなかったおどろおどろしい空気に息を呑んだ
こなたは緊張しながら外門をまたぎ
家のドアに手をかける
人の気配は感じるが、物音はしない・・・・
「・・・・お願い・・・・」
少女は何かを天に祈るようにして扉を開ける
隙間から漏れる廊下の照明
そっとドアを開いていくと、そこにはいつもの我が家が目に映る
「・・・・はは・・・なんだ・・・」
一気に緊張が解けた
そうだ、そんな筈は無い
あれはきっと何かの間違いか、大人たちの軽い冗談か何かだったのだろう
そういえばあのトラックも普通の工事現場になるような外装だったし
宣言車だって、選挙か何かの人間がたまたま止めていたに違いない
こなたはそう思い、一度大きく深呼吸をした後帰宅の挨拶をした
「お父さん、ただいま~」
ガタン!!
「え!?」
突然、奥の方から大きな音が聞こえる
それとほぼ同時に「ぎゃうう!!」という悲鳴が聞こえた
女の子の声だ・・・この家にいる自分以外の女の子といえば・・・
「ゆーちゃん!?」
こなたは急いで台所へ駆け込んだがそこには誰もいない
台所に入ってすぐ、こなたは硬いものが足に刺さる感じがした
気になって足を上げてみると、そこには血のついた白いものがばら撒かれている
それを手にとった瞬間、少女の鼓動は途端に早くなった
305:お漏らし中尉
08/12/24 02:58:22 /jWtIiEm
それは『歯』である
良く見てみると、台所のいたる所が何かで壊された後があり
椅子は倒れ、整頓されていた食器も調理道具も床に散乱していた
そして、テーブルには血液の様なものが付着している
こなたが割れた食器を踏まないように隣の部屋へと行こうとした時
あるものが目に飛び込んできた
「なんなの・・・・これ」
摘み上げたソレは、血と何か粘液の様なものが付着した女の子物の下着だ・・・・
ソレは無残に破られており
周囲には自分が着ている制服と同じものであろう残骸が散らばっている
こなたはゆかりが言っていた事を思い出す
『愛娘を私がこの手でしとめるのよ・・・・17年の愛の結晶を私がこの手で・・・』
まさか・・・・・
良く無い光景が思い浮かぶ、それと同時に強烈な眩暈がする
少女の小さな胸は今にも引き裂かれてしまいそうだ
しかし、コレは現実に起こっていることだ
「いひゃあ!もう・・やべ!んああああ!!・・・ごふ・・・」
立ち尽くしていると、ゆたかの物であろう声が再び聞こえた
どうやらそうじろうの書斎から聞こえるようだ
こなたは万が一に備えてフライパンを手にとって書斎へと進んだ
書斎に近づくにつれて、そうじろうのものであろう荒々しい息と少女の苦しそうな声が
臨場感を増して、こなたの鼓膜を振動させる
それを感じるたびに、ここが現実の世界であることを認識させられるのだ
書斎にたどり着いたこなたはそっと扉の隙間から中の様子をうかがった
薄っすらと明かりのついたその部屋の中、こなたの目に飛び込んできたのは
半裸のゆたかを羽交い絞めにし、快楽をむさぼる実の父・・・・
そうじろうの姿だった
ゆたかの可愛かった顔は見る影も無いほどに赤く染まり
まともに喋れるかどうかも危ういほどに、口から鼻から血と涎を流している
細い首筋や発育しきらないその体はそうじろうから受けたであろう暴行の後が
はっきりと見て取れる
「おじざん・・・やべ・・てえぇぇ・・ふっぐう!?・・・」
「ああ、もう少しで・・はあ・・・はあ・・終わるよ・・はあ・・・・はあ」
両手を大人の力で掴まれたひ弱な少女は、逆らうことも許されず
ただただ、その体を弄ばれている
306:お漏らし中尉
08/12/24 03:01:23 /jWtIiEm
「うううう・・・・ぎっふう・・・・あええ・・・!んん!」
「はあ・・・・しかし・・・ゆたかちゃんも運が無いよね・・・はあ・・はあ・・・」
バシ!
そうじろうはそういってゆたかの顔面を思い切り弾いた
「ぎゃぶうう!?」
「もっと、大きな声で・・・」
ガス!!
今度はゆたかの顔面に向かって拳を振り下ろす
ゆたかは「ぎいいい!?」と言う声を上げて両足をバタつかせるがまったく身動きが取れない
床の上にはゆたかの鼻血が舞い、抜けた歯が散らばる
「おひしゃん・・・・ひゃべ・・てえ・・・いたひいよお・・・ひゃべて・・・」
「そう、その顔・・・その声・・・あ・・・沸くんだよアイデアが!いい!!いい!!」
そうじろうはそういうと、今まで律動的だったその腰の動きを野生じみたものへと変化させる
ぱちゅぱちゅという液体音と床の軋む音が木霊する部屋の中
ゆたかは更に苦しそうな声をあげ、顔を歪ませる
「おじひゃ!たふけてへ!!たふけへえええ!!?」
「きたきたきた・・・あああああああああ!!!」
そうじろうの絶叫が最高潮に達した後
実の父親は幾度かの痙攣と「あ・・ああ・・・」という情け無い声を絞り出している
それでも尚、そうじろうは ぱちゃ・・ぱちゃと体を揺らしゆたかの中に欲望を垂れ流す
その姿は普段の父親からは想像もできない程の猟奇的なもの
こなたは従姉妹が酷い目にあっている事を知りながらも動くことすら叶わない
まるで、何者かに手足をもぎ取られてしまったかの様に体が重い
ひとしきり行為を終えた、けだものは穏やかな顔つきでゆたかの根の前に顔を持っていく
「どうだいゆたかちゃん?気持ちよかった?それとも痛かった?」
「・・・・たしゅけへえ・・・」
「・・・ふー・・」
307:お漏らし中尉
08/12/24 03:05:21 /jWtIiEm
そうじろうは小さくため息を付くとゆたかをユックリとおこし
肩を担ぎ上げた
ゆたかは何処となく安堵したのだろう、恐らく自分の願いがそうじろうに伝わったのだと
そう、錯覚した
ガツ!!
「いぎゃ!?」
書斎のテーブルが顔面を捉える
そうじろうはゆたかの体を部屋の中の物にぶつけ始めたのだ
「気持ち良いか?って聞いてるだろ!?痛いかって聞いてるだろ!?ええ!?」
「ひぎゃあ!」
そうじろうはゆたかを打ち付けた、壁に、柱に、ガラス戸に、机に・・・・
小早川家から預かった大切な大切な子供、ゆたかをあらん限りの非道を繰り返した末に
それ以上の暴力を加えようとしている
「いぎゃああああ!?があ!!」
「どうなんだい!?ゆたかちゃん!泣いてちゃ解らないだろ!?」
「いひや!!?」
ゆたかの体が宙を舞う、その小さな華奢な体はこなたのいる方向に飛んできた
ドゴン!!というもの凄い音と共にドアの金具は外れ、従姉妹は木の床に倒れこんだ
「・・・・おで・・・ちゃ・・・」
「ゆーちゃん!」
こなたはゆたかに駆け寄ろうとしたが、体が動かない
「なんだ、こなた帰ってたのか・・・どうだった?学校は?」
308:お漏らし中尉
08/12/24 03:06:23 /jWtIiEm
そうじろうはいつもの様に優しい目でこなたに話しかけてくる
しかし、目の前のゆたかはどうだろうか?
弱りきって、傷付いて・・・・この娘が何か悪いことをしたのだろうか?
「ゆー・・・・」
ゴチャ!!
再び従姉妹の名前を呼ぼうとしたこなたは、目を疑った
今までゆたかの頭があった場所には大きな四角い鉄の箱がある・・・・
ああ・・コレはお父さんが印鑑やカードを入れるのに使っている金庫だ
近所のナホコで買ったんだっけ、鉈買ってって言ったけど却下されたんだよね・・・
金庫の下からは赤黒い液体が滲み出る
髪の間からは原型をとどめていないゆたかの顔が半分見え
そのはみ出た眼球は顔とは違う方向を眺めて泣いていた
「・・・・ゆーちゃんが・・・・」
あれほど可愛かったゆたかが目の前で動かなくなったのだ
逸し纏わぬ幼い体には痣や痛々しい傷痕・・・純潔まで奪われてしまった
きっと想像を絶するほどの恐怖だっただろう
そして、それの恥辱と凶行を行った人間が今、こなたの目に前に佇む
「お父さん・・・・」
そうじろうは餌を見つけた獣の様に、穏やかな瞳で愛娘を見下ろしていた
「・・・こなた・・・お前はどんな味がするんだい?」
つづく
309:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/24 16:18:49 hLcIraaJ
>>308
中尉にとってのゆたかは弄ばれ役ですねw
310:グレゴリー
08/12/25 20:07:50 6WsH1ts7
>>308
やべえー血が沸いてきたwさすが俺のパイオニア!
目も当てられないほどの惨劇を望むぅ心から望むぅ
311:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/25 21:56:38 WCKXMZYo
SS、落 とします。
中二病入ってる上に長いので、嫌いな方はNGお願いします。
312:審判
08/12/25 21:57:36 WCKXMZYo
いつもと変わらない風景だった。
「でね、渚っていう触覚キャラがメインキャラなんだけど…」
いつもと同じように、こなたがつかさ達の前でアニメの話をする風景。
「他のサブキャラの方が、キャラ立ってるんだよね~」
けれども、破綻は唐突に訪れる。
「光の玉を集める目的で、女の子を使い捨てるやり口は疑問だな~」
日常なんて、誰かの匙加減一つで簡単に覆るものだから。
「あはは、確かに話だけ聞いてると酷い気もするね」
つかさは困惑気味に笑った。
女の子を使い捨てる、そのやり口の酷さに共感したが故の表情だとこなたは解釈し、
話を続けようとした。
しかし、喉元まで出かかった話の続きは、冷ややかなかがみの声によって止められた。
「つかさ、無理して話合わせる必要はないわ」
「お、お姉ちゃん…」
「かがみさん?」
かがみがこなたに食ってかかるのは日常の光景の一コマだが、
今回はいつもと様子が違う。
いつもなら、かがみは吠えるような勢いでこなたに食ってかかっていくのだが、
それは漫才のような一種の遊びめいたやり取りでしかなかった。
だが今回は、冷たく突き放すような色が声に漂っていた。
それを敏感に感じ取ったのか、みゆきは訝しげにかがみを見つめた。
こなたとて、鈍感ではない。
いつものようにからかう事はせず、珍しく真剣な声音でかがみに問いかける。
「かがみ、いきなりどうしたの?」
「どうしたもこうしたもない。つかさ、嫌なら嫌とはっきり言ったほうがいいわ。
こいつは鈍感な人間だから、はっきりと指摘されるまで相手の痛みに気付けない」
こいつ、それがこなたを指している事は、かがみの視線を辿れば一目瞭然だった。
「お姉ちゃん、ちょっと言いすぎ…」
つかさはかがみとこなたを交互に見ながら、気弱な声でかがみを嗜めた。
しかし、かがみの口は止まらなかった。
「つかさ、アンタがはっきりと言えないなら、私が代弁してあげる。
こなた、つかさはね、迷惑してるのよ、アンタの下らない秋葉系の話に付き合わされて」
こなたはつかさを見つめた。かがみの発言に反論しない所を見ると、
どうやらかがみの言っている事は真実らしい。
それでも、確認の意味を込めて一応訊いた。
「そうなの?つかさ」
つかさは気弱にこなたを見返すと、小さく頷いた。
肯定の仕草を見てもなお、こなたには納得がいかなかった。
今までもアニメやゲームの話題をつかさに対して振ってきたが、
拒絶のサインをつかさが示した事はなかった。
何より、つかさはそういった話題を嫌悪する人間だろうか。
ひよりに対して、同人誌のネタを提供した事さえあるのだ。
313:審判
08/12/25 21:58:14 WCKXMZYo
けれども、確かにつかさは首を縦に振った。
こなたはつかさを見つめたまま、信じられない思いに囚われていた。
「こなた、つかさを脅かすの止めろよ」
守るようにつかさの前に立ちはだかりながら、
厳しい口調でかがみが言った。
「脅かす…って?」
こなたの口から、意図せず素っ頓狂な声が飛び出していた。
脅かした覚えなどない。かがみの発言の意図が掴めず目を白黒させるこなたに向かって、
かがみは怒気を露にしながら迫った。
「今、つかさを睨みつけてたじゃない。
脅かして、つかさの意見を翻らせようとしてたんでしょ?」
「ちがっ」
こなたは慌てて否定した。脅かす意図があったわけではない。
つかさが首肯した事が信じられず、思わず見つめてしまっただけなのだ。
「何が違うって言うのよ。怖い顔して睨みつけちゃって。
アンタ、反省なんてしてないでしょ。つかさを今まで散々困らせてきた自覚もないでしょ」
「つかさがそこまで嫌がってたなんて、気付けなかったし」
かがみの剣幕に押され、こなたの声は自然弱弱しくなり、
また発言の内容も言い訳めいたものとなった。
「ここまでつかさを苦しめておきながら、気付けなかった、じゃないわ。
本当に、鈍感ね。そのくせ人を嫌がらせる行為はナイフのように鋭いんだから」
「お姉ちゃん、流石にちょっと言いすぎだよ」
「つかさ、この際だから全て言い切ってしまった方がいいわ。
つかさもみゆきも聞いたでしょ?こいつ、全く反省なんてしてないのよ。
それも、気付けませんでしたー、なんて言い訳しだす始末」
「言い訳じゃなくて、本当に気付けなかったんだよ」
こなたは蚊の鳴くような声で反論したが、火に油を注ぐ結果となった。
「本当に気付けなかったのなら、尚の事はっきりと言わなきゃ駄目ね。
そこまで人の痛みに鈍感なら、はっきりと言い切って自覚させないと」
かがみは憤怒の形相でこなたを睨みつけると、声を大きくして続けた。
「アンタのやってる事はね、れっきとした虐めなのよ」
クラスの視線が、自分達のグループに集中したのをこなたは敏感に感じ取った。
「いじめって…。かがみ、何を言っているの?」
「実際、いじめでしょ?つかさが嫌だ、って事を態度で今まで示してきても、
アンタは構わず下らないオタク系の話題を振り続けたんだから。
つかさはね、つかさはね…」
かがみは声を詰まらせると、瞳に涙を浮かべながら嗚咽交じりに言葉を紡いだ。
314:審判
08/12/25 21:59:04 WCKXMZYo
「本当は、嫌がってたのよ。アンタの下らない話題に巻き込まれて、
自分まで腐女子に見られる事が。その苦痛のせいで、
アンタがつかさに味あわせた苦痛のせいで、学校行きたくないって言いだした事まであるのに」
「お、お姉ちゃん。いいよ、そこまで言わなくても」
つかさが慌てたように割り込んだ。
「学校行きたくないって確かに言ったけど、それは喩えみたいなものだし。
そこまで苦痛ってわけでもないよ」
「それよりかがみ。私は腐女子じゃないよ、おたくだよ。
腐女子っていうのは、男同士の」
「それよりだってっ?」
ヒステリックにかがみが叫んだ。
その叫び声により、クラスの注目がより一層こなた達に集中する。
「それより、ってどういう意味よ。
つかさの苦痛よりも、そんなどうでもいい言葉の定義の方が重要だって言うの?
全然反省してないじゃない。つかさ、こんな奴庇う必要ないわ」
こんな奴、かがみはその言葉と共にこなたに人差し指を突きつけた。
「いや、ちょっと気になっただけで…。反省はしてるよ。
ただ、ちょっと気になったから、指摘しただけだよ」
こなたとしては、勿論おたく界の用語が誤った意味で用いられている事も耐えがたかったが、
もう一つ、話題を逸らそうという意図もあっての指摘だった。
だが、後者の狙いは見事に裏目に出てしまった。
苦境に立たされながらもかがみに言葉を返したが、その言葉は弱弱しく震えていた。
「ちょっと気になった程度の事が、つかさよりも大事なのか。
本当に、反省の気ゼロね。アンタ、人を虐めておきながら…
反省の欠片も見せないなんて、本当に許せないわ」
逐一言葉尻を捉えて攻撃してくるかがみに、こなたは次第に腹が立ってきた。
「許せないって、なんでかがみが許す、許さないの権利を持ってるのさ。
かがみの論理で言えば、虐めにあったのはつかさでしょ?
だったら、許す許さないを決めるのはつかさのはずじゃないの?」
「直接アンタにそういう事言えないつかさの優しい性格、分かって言ってるの?
分かってないのか。だってアンタ、鈍感だものね。
いや、そもそも被害者じゃなくてもこう言うわ。
虐めは許せない、ってね。まぁ加害者のアンタから見れば、
傍観者で居てくれた方が有利って訳か」
「そりゃ、虐めは許せないけど…」
その部分には、同意せざるを得ない。
「どの口が言ってんだ、加害者」
「だから、そんな自覚無かったんだってば」
「自覚がないから、反省もしないと。なら、また同じこと繰り返す可能性があるわね。
また、つかさを苦しめる可能性が」
「いや、もう、マニアックな話はしないよ。
それで、つかさが苦しむ事もなくなる」
315:審判
08/12/25 22:00:07 WCKXMZYo
「本当に、アンタって鈍感なのね。それで終わりだと思ってる。
マニアックな話をしている事だけが、つかさを苦しめる要因だと思ってる」
かがみは肩を竦めながら、大仰に溜息をついた。
「つかさを今まで散々馬鹿にしておきながら、マニアックな話さえしなければいいと思ってる。
マニアックな話をしなくなった所で、つかさをこれからも馬鹿にし続けるんでしょ?
馬鹿繋がりとか何とか言って」
「それは…友達同士の軽い冗談のつもりだったんだよ」
「アンタにとっては軽い冗談のつもりでも、つかさはどれだけ苦しんだか…」
かがみは目元を拭うと、そこで言葉を切った。
教室は水を打ったように静まり返り、二人のやりとりに注目していた。
「確かに、泉さんに反省すべき点は多いと思います。
何気ない一言が他人を傷つけてしまう事が多々ありますし」
静寂に耐えられなくなったのか、みゆきがおずおずと言葉を挟んだ。
「そんなの分かってる、分かってるよ…」
どうやらみゆきも、かがみの側らしい。
状況が悪くなるのを肌で感じ取りながら、
こなたは何とかこの状況を脱しようと必死で考えを巡らせた。
「だから、これからは気をつけるよ」
必死で頭を働かせたのにも関わらず、口から出てきた言葉は結局月並みの謝罪文句だった。
「そんな言葉、信用できると思うか?」
暫く黙っていたかがみだったが、突き刺すようにこなたを睨んだ。
「そもそもアンタ、つかさに一言も謝罪してないじゃない。
そんな人間の言葉、信用されるとでも思ってんの?」
かがみは表情をますます険しくしながら、こなたに詰め寄った。
(謝る?だって私、わざとつかさを苦しめ…もとい、困らせたわけじゃないよ?
ああ、そうか。それでもつかさが苦痛を感じたというのなら、
わざとじゃなくても謝った方がいいか)
「あー、つかさ、色々と気付かないで迷惑かけちゃってたみたいで…その、ごめんね」
いざ謝るとなると、中々照れ臭い。
はにかんだように笑いながら、こなたはつかさに謝った。
「何なのよ、その態度はっ」
つかさが何かいいかけたが、かがみが口を開く方が早かった。
「笑いながら…しかも、かけちゃったみたいで、って何?
みたい、じゃない。アンタはつかさに迷惑をかけたんだ。
それを、よくもまぁ笑いながら、みたいで、なんて言葉吐けたもんだ」
かがみの呆れたような怒ったような声が、再びこなたを襲った。
(いざ面と向かって親友に謝るのって、照れ臭いものなんだよ。
それにしても、かがみ突っかかり過ぎだよ。
いや、それ以前に、そこまで深刻な話なの?これ。そもそも、つかさはどう思ってるの?
確かにつかさは迷惑に感じてるかもしれないけど、虐められてるとまで思ってるの?)
「悪かったよ、かがみ。でも、本当に反省はしてるんだよ。
かがみにはそう見えないだけで」
かがみに対する苛立ちからか、こなたのかがみに対する返答は刺々しいものとなった。
316:審判
08/12/25 22:01:06 WCKXMZYo
「謝ってるようにさえ見えない謝罪なんて、何の意味がある?
大体、その不貞腐れたような態度は何よ?」
「それだよ」
こなたはここぞとばかりに、言葉に力を込めた。
「謝ってるように見えない、ってそれかがみの主観でしょ?
大切なのは、つかさの認識じゃん。つかさがどう思ってるか、それが問題でしょ?
そもそもの前提として、つかさは虐められてるっていう認識あるのかな?」
こなたはつかさに視線を移すと、語勢を強めて言葉を放つ。
「ねぇ、つかさ。私の今までの行為、虐めだと思う?」
こなたはつかさの目を覗き込むと、固唾を呑んでつかさの返答を待った。
(実際のところ、どうなんだろう。私がやった事は、つかさは虐めだと思っているんだろうか。
それが全てなんだよ。どっちに、秤は傾くのかな)
こなたの表情は、自然と強張る。
つかさの返答次第では、土下座すら辞さない覚悟だった。
つかさは、こなたから視線を逸らすと、小ぶりの唇から小さな声を途切れ途切れに吐き出した。
「そりゃ…オタク話されたり、馬鹿にされたりするのは、嫌だったけど…」
(けど?けどって事は…)
「けど?何?」
こなたは身を乗り出しながら、続きを急かした。
「けど…虐めとまでは…」
「うん、うん」
(いい流れだ)
こなたは内心ほっとしていた。
この話の流れでは、虐めとまでは思っていないと続くだろう。
「思ってないかな」
「やっぱりっ」
こなたは喝采をあげた。その小さな身体に、喜びが駆け抜ける。
「何がやっぱり、よ」
しかし、こなたが喜んでいられたのも束の間だった。
冷ややかなかがみの声が、こなたの心に冷たい針を放っていた。
「やっぱりってアンタね…。仮に、仮によ、つかさが虐めとまでは思ってなかったとしても、
嫌だと思っていた事は事実じゃない。それなのに、何喜んでるんだ?
虐めじゃなかったら、嫌がらせしていいとでも思ってるの?
まぁ、その虐めじゃない、っていう前提自体怪しいけどな」
「いや、そんな風に思ってるわけじゃないよ。
ただ、ニュアンス的に虐めって酷すぎるじゃん。
それと、虐めじゃないっていう前提が怪しいってどういう事?
実際つかさは虐めとまでは思ってないって言ってたよ」
「アンタが脅して言わせたんじゃない、今」
「えっ?」
こなたは素っ頓狂な声を上げると、まじまじとかがみを見つめた。
317:審判
08/12/25 22:02:22 WCKXMZYo
「まさかアンタ…、つかさ睨みつけながら、
つかさが発言する度に一々言葉を挟んでおきながら、
脅してないなんて白々しい事言うわけ?」
「脅かしたわけじゃなくて、興奮しちゃってたから自然と…」
「下手な言い訳ね。それでなくても、アンタはつかさが嫌だ、
という事を言ったのに喜んでた。最低じゃない」
「いや、だから虐めじゃない、っていうのを喜んだだけで、
つかさが嫌がる事をやってしまったという点については反省してるよ」
「ふん、所詮アンタにとって虐めなんて、ニュアンスの問題でしかないのね。
虐めという言葉が持つニュアンスは残酷だけど、
嫌がらせならまだ可愛げがある、と。
被害者の苦痛こそ問題にされるべきなのに、アンタにとってはニュアンスの問題、と」
蔑むようなかがみの視線が、こなたを射抜いた。
「一々言葉尻捉えて、屁理屈言ってこないでよ。
そうじゃない、って言ってるでしょ」
売り言葉に買い言葉、こなたの語勢も強くなる。
「屁理屈?虐めを止めるようにアンタを説得してるのに、屁理屈扱いか」
「そもそもこれが虐めと言えるの?」
「つかさが嫌がってるじゃない。それでもアンタはまだその自覚が無いの?」
「あの、泉さん」
ヒートアップする二人の舌戦に、みゆきが割り込んできた。
「かがみさんの言葉は厳しいようですが、やはり泉さんは少し反省されるべきだと思いますよ。
つかささんも可哀想ですし。
先ほどのつかささんに対する態度が脅しかどうかはともかく、
泉さんの行為を虐めと捉えるかどうかはともかく、
泉さんの言動を見る限り、反省している素振りは見受けられません。
曲がりなりにもつかささんに苦痛を与えてしまったのですから、
誠心誠意謝罪して、反省するのが筋だと思います」
「みゆきさん…」
諦めたように、こなたはみゆきを見やった。
みゆきが鮮明にかがみ支持を示した以上、孤立無援状態のこなたに勝ち目は無い。
(二人相手じゃ、勝ち目ないよ。二対一、か。続けても不利になるだけ…。
って、二対一?)
こなたは、その時初めて気付いた。二対一、などという生易しい状況ではない事に。
その事を気付かせたのは、周囲から届く囁き声だった。
こなたは驚愕の眼差しで、クラス中を見回した。
クラスメイト達は親しいもの同士で肩を寄せ合い、囁くようにひそひそと話し込んでいた。
そして彼等彼女等の蔑みの色を持った視線は、こなたに向けられていた。
318:審判
08/12/25 22:03:43 WCKXMZYo
(まるで私を責めるような視線、囁き声…。
まさか…皆、私が虐めたと思ってるの?
私の行為を、虐めだと思ってるの?かがみの論理を正しいと思ってるの?)
こなたの背筋に、冷たい汗が伝った。
(何これ…。何この空気。まるで私が悪者みたいじゃん)
四面楚歌の様相を呈してきた教室の中で、こなたは木偶のように立ち尽くした。
背筋が酷く冷たい。その冷気が、心からさえ熱を奪っているように感じられる。
「って、そろそろ次の授業ね。みゆき、つかさの事お願いできる?
私C組に戻らなきゃならないんだけど、こなたから守ってあげてくれる?」
みゆきは力強く頷いた。
「任せて下さい」
「ありがと。ホント、ごめんね。面倒な事頼んじゃって」
「いえ。友達じゃないですか」
(友達、友達か。その言葉の中に、私はもう含まれていないんだろうな。
だって、もう、みゆきさんの中でも、私は悪者みたいだから)
こなたはおぼつかない足取りで自分の席に向かった。
その間の時間さえ、クラス中の蔑みの眼差しを一身に浴びていた。
こなたは席に着くと、脱力したように腰を下ろした。
実際、立っているのもやっとだったほどに、こなたの体から力は抜けてしまっていた。
こなたはB組の教室を出て行くかがみの背中を力なく見送ると、
机に顔を突っ伏した。
涙を誰にも見られたくなかったのだ。
319:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/25 22:04:34 WCKXMZYo
>>312-318
今日はキリいい所まで。
また。
320:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/25 22:06:12 zfuQjnqG
>>319
こ、ここで止めるのかー!
読んでて続きが非常に気になる
期待してます
321:グレゴリー
08/12/25 22:53:14 6WsH1ts7
>>319
頼りない糸でつながった危うい人間関係が
らき☆すたの魅力のひとつでありますが、その魅力を再発見させてくれる
ようなワクワクする作品です。続きが楽しみですよ。
322:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/25 23:06:34 /2akVDLX
>>319
ちょwwここでストップかww
続きはいつだー!w
323:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/26 07:23:21 Z9Ejcgxk
かがみうぜぇ
もっとやれw
324:JEDI_tkms1984
08/12/26 12:12:50 mu3QtpeP
>>319
執拗に食い下がるかがみの悪辣さと、窮地に立たされたこなたの心情の機微が丁寧に描かれていると思います。
実に続きが気になるSSです。
325:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/26 16:26:35 qtUdDv5S
>>319
最後はかがみにも鉄槌を!
326:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/26 16:52:56 EhEea4MM
いつも人を馬鹿にした態度を取る奴は嫌われて仕方ない
というか空気読めないのは原作アニメも同じなのによく友達やってると思うよ
327:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/26 19:21:53 AfwbF3dK
そろそろ投下します。
>>312-318の続きです。
328:審判
08/12/26 19:22:58 AfwbF3dK
*
こなたはオンラインゲームにログインすると、黒井にコンタクトを取ろうとした。
「まだログインしてないのか」
こなたはがっかりしたように独り言を漏らした。
パーティーメンバーリストの黒井の欄には、オフラインと表示されていた。
「オンライン状態のまま、放置しとくか」
他のメンバーとも話す気にはなれず、こなたはPCから離れるとベッドに身を投げた。
天井の木目を数えながら、こなたは再び溜息を吐いた。
散々な一日だった。今日、かがみ達と仲違いしてからの教室は、
こなたにとって針の筵と化してしまった。
周囲のクラスメイトの、冷え切った瞳が痛かった。
そしてまた、クラスメイトのつかさに対する態度もまた、
こなたに強烈な疎外感を与えていた。
『柊さん、負けないでね』
『私達、柊さんの味方だから』
『なぁ、柊さん。先生に相談した方がいいんじゃね?』
『虐めなんて、本当に許せないよね』
『貴方は一人じゃないよ。あまり思いつめないでね』
(何あれ。いつの間にか私が虐めっ子みたいになってるよ)
こなたは憤懣やるかたない表情で心中呟いたが、
すぐに別の考えが頭をもたげた。
(いや、実際虐めなのかな。虐めになっちゃうのかな。
私、本当は凄く悪いことしたのかな。
てか、気付かなかったとはいえつかさを傷つけちゃったのは確かだし。
いずれにせよ、明日改めて謝ろう。それで皆、許してくれるよ)
こなたは自嘲めいた笑みを浮かべ、自らのその思考を嘲った。
(皆許してくれる、か。つかさを傷つけたからじゃなくて、
皆に許してもらいたいから謝るってのが私の本心か。
かがみの言うとおり、反省してないのかもね。嫌な女だ)
こなたの表情が徐々に暗くなる。
こういう時は、誰かに話を聞いてもらいたい。
誰かと、現実逃避できるような話に興じていたい。
それが、こなたにとってはアニメやゲームの話だった。
(でも、黒井先生はまだオフラインか)
ひよりとは携帯電話の番号を交換していない。
そうじろうは執筆中だ。そうじろうは普段はいい父親で、こなたの良き理解者だが、
執筆作業中に話しかけると露骨に嫌な顔をされる。
集中力やその時の気分こそ執筆に一番大切な要素であり、
それを害されると執筆のテンポが狂うという信念をそうじろうは持っているらしい。
こうなると、黒井しか居ないのだが、生憎オフラインだ。
「ついてないな」
こなたはパソコンのディスプレイに目を走らせながら呟いた。
と、その目の色が変わった。
「あ、インしてる」
黒井の欄は、オフラインからオンラインへと表示が変わっていた。
こなたはパソコンまで走りよると、すぐに黒井に話しかけた。
329:審判
08/12/26 19:23:40 AfwbF3dK
『せんせ、こんっす』
『おーう、こんー』
『今日は遅かったんですね』
『人身事故があって電車遅れてなー』
『災難でしたね』
『全くや』
社交辞令の挨拶を終えると、こなたは訥々とアニメやゲームの話を話しだした。
黒井も乗ってきてくれた。
もはやゲームというより、チャットルームである。
しかし、話が白熱するにつれて、徐々にこなたは不安になってきた。
(もしかしたら、先生も本当は嫌なんじゃないのかな。
こんなオタク話に付き合わされるの。つかさの時みたいに、
先生も不愉快にさせてるんじゃないのかな。
そりゃ先生はネトゲなんてやってるし、オタク話にも付いて来れるくらいだから
オタク趣味はあるんだろうけど、だからと言って話すのが好きって限らないし)
そろそろ別の話をするべきだろうか。
こなたは話の切れ目を見計らって、別の話題に切り替える事にした。
この上黒井さえアニメ等の話で不快にさせては、
かがみのこなたに対する不名誉な評価『鈍感』『人の痛みに気付けない』『反省してない』等を
自ら証明付けてしまう。
『先生、そういえば先生って関西出身じゃないのに関西弁なんですね。
どうしてですか?』
いつか、かがみが黒井に向かって質問した事だ。
あの時黒井は一拍置いた後、結局かがみの質問をはぐらかしていた。
この時もまた、黒井からのレスポンスがかなり遅れた。
(これ、本当は聞いちゃいけない事なのかな?)
こなたは少し不安になる。
『臥薪嘗胆、や』
暫く経ってから返ってきた答えは、おおよそ答えとは呼べないものだった。
(臥薪嘗胆…。意味は確か、復讐或いは成功の為に耐え忍ぶ事か。
それで確か語源は…中国の戦争で、敗れた方が敗戦の悔しさを忘れない為に薪の上で寝続けた。
その後、もう一度戦い、今度は勝つ。するとその戦いで敗れた方は今度、
やっぱり敗れた悔しさを忘れないために、苦味を堪えて胆を舐め続けた。
そして更にもう一度戦い、今度はこちらが勝った。
っていうんだったけな)
小学校の時に呼んだ熟語の漫画を思い出しながら、こなたは黒井の発言の真意を考えた。
330:審判
08/12/26 19:24:24 AfwbF3dK
(語源こそ復讐の為、なんだけど…。
復讐は先生にとって縁のないものだろうから、成功の方の意味、かな。
昔お笑い芸人目指してた時期があったのかもしれない。
その時の初心を忘れない為に、今も関西弁使い続けてるのかな)
ただ結局こなたは、その推理を黒井に披露する事はしなかった。
もし、黒井にとって触れられたくない話であるのならば、
適当にお茶を濁してこの話題は早々終わらせた方がいいだろう。
そう判断して、こなたはすぐに次の話題を探そうとした。
『そや、泉。レアアイテム、ゼウスの杖の取り方なんやけど…』
しかし、次の話題など探す必要は無かった。
黒井から既に、次の話が振られていた。
こなたは安心して、黒井の話に乗った。
(ナイスタイミング。ていうか、このタイミングで話を切り替えてくるって事は、
やっぱり触れられたくないんだろうな…)
こなたは地雷を踏まずに済んだ事にほっとすると、
黒井との話に興じた。
*
次の日、教室の扉を潜ったこなたはクラスメイト達の冷えた視線に迎えられた。
クラス一丸となって、こなたに対する敵意を露にしている。
それでもこなたは、快活に朝の挨拶を口にした。
「おはよう」
誰一人として、挨拶を返してこなかった。
こなたは視線をみゆきに向けるが、みゆきは気まずそうに顔を伏せた。
つかさの席を見ると、つかさはまだ登校してきていない。
(朝一で、改めて謝ろうと思ったのに)
こなたは落胆した。つかさに謝って仲を回復するまで、この針の筵状態は続くだろう。
(でもまぁ、私にはいい薬か。つかさを傷つけちゃったんだし、
少しくらい私にも頭を冷やす薬が必要だよね)
こなたは椅子に座ると、ホームルームが始まるまでの時間を睡眠に充てる事にした。
どうせ誰かと話せるような雰囲気ではない上に、
クラスメイト達の間接的な圧力を受け続けるのも辛かったのだ。
だが、結局眠れなかった。クラスメイト達の囁き声が気になって、
眠りに落ちる事ができない。
(何を話してるんだろう。やっぱり、私の悪口かな。
いや、悪口というより、私に対する怒りといった方がいいか)
こなたは耳を澄まして彼女達の言葉を聞き取ろうとするが、
相当小さい声で話しているのか、意味のある言葉は聞き取れなかった。
331:審判
08/12/26 19:25:19 AfwbF3dK
(早くつかさ来ないかな…)
こなたはそれを強く祈った。早くつかさに謝って、この気まずい雰囲気から開放されたい。
勿論つかさに対する贖罪の念もあったが、
謝罪という行為に、クラスメイトとの和解という効果も期待している点は否定できない。
しかし、結局つかさが来ないままホームルームの時間を迎えてしまった。
そしてそのホームルームの中で、つかさは体調不良により休むという話が
黒井の口からなされた。
次の休み時間、かがみがB組を訪ねてきた。
とはいっても勿論、こなたを訪ねてきたのではない。
みゆきの机を目指して、かがみは迷いを感じさせない堂々とした足取りで歩いた。
(分かってたけどさ…)
こなたは内心強がったが、本当は期待していた。
かがみが自分に謝りに来たのではないだろうか、と。
昨日は言い過ぎた、悪かった、と。
だがかがみがすぐにみゆきの席を目指したのを見た途端、
その期待は音も無く砕け散った。
「かがみさん、どうされたのですか?」
つかさが居ないのにも関わらず、かがみがB組に来た事を訝る様な反応だった。
C組にも友達が居るにも関わらず、かがみが頻繁にB組を訪れるのはつかさが心配だからだろう、
というのがみゆきやこなたの認識だった。
「ちょっと、みゆきに話があって来ただけよ。
つかさの事なんだけど、相談に乗ってもらえる?」
「ええ、いいですけど」
こなたは耳をそばだてる。
クラスの視線も二人に向かったのを、こなたは敏感に感じ取った。
どうもクラスメイトにとっても、つかさの件は注目に値する重要な話題らしかった。
「実はね、つかさが今日休んだのって、具合が悪いからじゃないの」
「え?」
「ほら、昨日あんな事があったじゃない?だから今日は大事をとって休ませたの。
母さんには具合が悪い、って言わせてね。
翌日だと、ほら、復讐とか怖いじゃない」
「少し、警戒しすぎでは?」
「いや、しすぎ、って事はないわ。何しろ、虐めをやるような奴の事だし。
何をするか分からない」
(まるで化け物扱いだ)
こなたは溜息を吐きたい気分に駆られた。それも、大きな大きな溜息を。
皮肉の意味を込めて、かがみに聞こえるくらいの溜息を吐いてやりたかった。
それでもこなたは踏みとどまった。クラスメイト達が一瞬、
こなたに鋭い視線を送ったのが分かったからだ。
こなたへの敵意溢れる教室の中でそのような態度を取れば、
尚一層こなたに対する風当たりが強くなるだろう。
332:審判
08/12/26 19:26:12 AfwbF3dK
「それでね、つかさ、先生に相談するのは嫌みたい。
表向きは事を荒立てなくない、って事だけど、
本心はアレを庇ってるんでしょうね。つかさ、本当に優しいから。
自分に危害加えた人間相手であっても、情けが湧いちゃうみたいで。
何であんな優しい子が、そこまで追い詰められなきゃならないのかしら」
(アレって…。化け物扱いの次は、物扱いか)
怒りよりも、悲しみが心を支配する。
かつての友人が遠くに行ってしまったような感覚に、こなたは危うく涙を零しそうにさえなった。
「先生に相談しない、というのは賛成ですね。現状、特段危害は無いわけですから。
この後も同じ事が繰り返されるとは思えませんし」
「どうかしら。ただ、先生に相談しないというのは私も賛成よ。
だって、アレとつかさを近づけなければいいだけなんだから」
「確かに、つかささんとの接点が無くなれば問題はなくなりますが」
「それで、相談っていうのはその事なんだけど」
かがみはそこで言葉を切ると、みゆきに頭を下げた。
「かがみさん?」
「明日から、つかさを登校させようと思うの。でも、私はクラスが別だから、
何時も側に居て守ってやる事はできない。だから、みゆき。
つかさの事、守ってあげて…下さい。アレが近づかないよう、協力して下さい」
最後のほうの言葉は濁っていた。
泣いているのだろうか。
「かがみさん、安心して下さい。昨日も言ったじゃないですか、
つかささんの事、守りますって」
みゆきの語調は力強さを感じさせるものだった。
かがみにとっては頼もしい語勢なのだろうが、
翻ってこなたにとっては自分を貫く弾丸だ。
かがみは顔を上げると、お礼の言葉を述べた。
「ありがとう、みゆき」
やはり泣いていたのか、かがみの瞳は赤く染まっている。
かがみの、妹を守りたいという健気な姿勢に打たれたのか、
一人の生徒が感極まったような声を上げながら二人に割り込んだ。
「私も、協力するよ」
「いいの?」
「うん。だって、やっぱり、虐めが行われているのに傍観者のままでいたくないし」
「ありがとう」
かがみはその生徒に向かっても、頭を下げた。
「私も」
「俺も」
次々と立ち上がっていく生徒達。
気勢を上げ、かがみ協力の姿勢を表明していく。
こなたはその様子を、恐怖を持って眺めていた。
かがみにとっては、見も知らない生徒がつかさの為に立ち上がってくれたという感激すべき光景だろうが、
こなたから見ればただの包囲網でしかない。
「ありがとう、皆」
かがみは恭しく頭を下げた。
こなたは力なく頭を垂れた。
(虐めっ子の烙印が、押されてしまったんだ。
ああ、それと…)
こなたは自分の計画が霧散していくのが手に取るように分かった。
333:審判
08/12/26 19:27:22 AfwbF3dK
(つかさに謝る事は無理っぽいな。だって私、もうつかさに近づく事さえ許されない)
諦念に囚われながら、この教室で繰り広げられている感動的な劇を見つめた。
クラス一丸となって、虐めに立ち向かっていくという感動的で啓蒙的な劇を。
しかしこなたにとっては、感動どころではない。
事実上の死刑宣告のようなものだ。クラスのほぼ全てが敵に回ったのだから。
(本当に私が悪者だ。虐めっ子みたいだ。
いや、もしかしたら本当に私は悪で、虐めっ子なのかもしれない)
こなたは”もしかしたら””かもしれない”という考えに、苛まれた。
彼女達の認識を間違っていると切って捨てる事もできなければ、
自分を責める事もできない。
”もしかしたら””かもしれない”という未確定な状態を表す言葉さえ付かなければ、
こなたは自分を責める事ができた。
それで、かがみ達の認識や行為を正当化し自分を納得させる事ができた。
また、そもそも『もしかしたら自分は虐めっ子かもしれない』という考えさえ浮かんでこなければ、
こなたはかがみ達の認識を誤りだと切って捨て、自分を正当化する事ができた。
どちらつかずの心理状態の中で、そして四面楚歌の包囲網の中で、
こなたは思考の闇に沈んでいった。
*
次の日、学校に向かって歩くこなたの足取りは重い。
まるで靴の中に鉛でも入っているかのようだ。
状況は昨日一日で相当悪化した。
つかさに謝る事はおろか、近づく事さえできなくなったのだから。
逃げ道のない包囲網が完成してしまった。
実は昨日、こなたはつかさの携帯電話に電話をかけて、それで謝ろうかと考えた。
しかし、ディスプレイを見つめるばかりで時が過ぎ、
結局電話をかける事ができないままに昨日を終えてしまった。
こなたには恐怖があった。拒絶されたらどうしよう、という恐怖が。
(電話も出来ないんじゃ、近づけた所で謝れるかどうか怪しいよ。
やっぱり私、謝る気なんてなかったんじゃないのかな。
いや、電話で謝らなかった判断は正しいよ、きっと。
直に会って頭を下げた方が誠意が伝わるし、
何よりクラスメイトの前で仲直りを演出しないと意味がない)
こなたの口元が、自嘲気味に歪んだ。
(仲直りを演出しないと意味がない、か。
ああ、結局私は自分が置かれた状況を改善したいだけで、
つかさに対する罪悪感なんてないのかもしれない。
その点では、かがみが正しいのかもしれない)
こなたは結局、いつもの所に思考が戻ってくるのを感じた。
何遍も何遍も考え続けた一つの疑問。
─果たして私は、悪いのか?
いや、こなた自身、つかさに不快な思いをさせた事に関しては、悪いとは思っている。
ただ、クラスメイトやかがみの反応は、過剰反応なのではないか、
という疑問も胸に抱えてはいた。
334:審判
08/12/26 19:29:35 AfwbF3dK
(いや、少しでも悪いと思っているのなら、謝るべきだ。
直に会えないのなら、やっぱり電話か何かで。
仲直りを演出しないと意味がない、なんて考えるべきじゃない。
電話が気まずければ、メールでもいいんだから。
とにかく、謝ろう。私の状況はさておき、悪いことは悪いことだ。
クラスメイトやかがみの過剰反応は、つかさに対する罪悪とはまた別の問題だ)
こなたがつかさに謝る決心を固めた時、既に昇降口まで着いていた。
考え事に没頭していたせいで、校門を潜った記憶さえ無かった。
(取りあえず、家に帰るまでに謝る方法を考えよう。
電話か、メールか。電話だと、そもそもとってもらえないかもしれない。
かといってメールだと、誠意に欠けるかもしれない。一長一短だ。
どちらにせよ、内容も吟味しなくちゃいけない)
学校が終わってから謝る、それが実は致命的な時間のロスを意味していた。
一日に満たない時間であっても、それは時として致命的なロスとなりうる。
特に、下り坂は転がれば転がるほど、転落物の加速度は増していくのだ。
間違いなく、こなたは奈落へと向かって加速しながら転がっていた。
こなたは下駄箱へと靴を収めようとして、はたと気付いた。
便箋が一通、下駄箱の中に入れられていた。
(何だろう…)
こなたは便箋を取り出すと、広げて文面に目を走らせた。
『悪魔。恥知らず。稜桜の恥。人の心がない。虐めをすぐに止めろ。T・Hさんが可哀想』
びっしりと、こなたに対する非難の文句で埋め尽くされていた。
こなたは暫く固まっていたが、苦笑混じりに便箋をポケットに押し込んだ。
(どっちが虐めっ子だか)
ここまで非難されると、逆に自分が虐められているような気分にさえなる。
筆跡が二種類、つまりこれを書いた人間は二人いるらしい。
(ワードで打ち込んでプリントアウトするとかさ、新聞の切り抜き文字使うとか、
もうちょっと誰かやったか分からないように気を使いなよ)
こなたはこれを下駄箱の中に入れた人間の浅知恵を心中笑ったが、
一つ気になる事があった。
この手紙は、こなたに対する非難の言葉で埋め尽くされているとはいえ、
ただの中傷文句が一つとして書かれていないのだ。
例えば、『死ね』『消えろ』と言ったお決まりの文句や、
こなたの身体的特徴をあげつらった『ちび』『貧乳』と言った文句が一つとして書かれていない。
こなたに対する害意よりも、書いた人間の怒りが伝わってくるような文面だった。
(これ書いた人、悪いことやったっていう自覚あるのかな)
沸々と怒りが込み上げてきたが、つかさを害意無くして不快にさせた自分が怒れる義理ではない、
そうこなたは思い当たった。
(これ書いた奴等と私は同レベルって事か)
やるせなさに囚われながら、こなたは教室へと向かった。
教室に入る時、もう挨拶はしなかった。
どうせ挨拶など返って来ないのだ。
無理に明るく振舞っても痛々しいだけだ。
クラスメイトも、こなたの姿を認めても挨拶はしてこなかった。
代わりに、冷ややかな視線を送ってきた。
クラスメイトの他にもう一人。
かがみもまた、冷ややかな視線でこなたを迎えた。
(かがみ、またB組来てるんだ。そして、つかさ…)
かがみの宣言どおり、つかさは登校してきていた。
こなたの視線からさえつかさを守るように、かがみが立ちはだかっているので
つかさがどのような表情をしているのかは分からない。
335:審判
08/12/26 19:31:20 AfwbF3dK
こなたは席に着くと、机に突っ伏した。
寝ているよう装うか、携帯電話を操作するかしかやる事はない。
(明日からは、もっと遅刻ギリギリに来た方がいいのかな)
気まずい時間を多少なりとも短縮する事ができる。
そうこなたは考えた。
「柊さん、負けないでね」
「私達が協力するから」
「酷いよね」
「あまり話したことないけどさ、困った事あったらいつでも相談してよ」
つかさの席の方から、聞きたくもない声がこなたの耳に届いてくる。
つかさに対する励ましの言葉は、こなたにとっては攻撃の矢となって心に突き刺さる。
(早くホームルーム始まってよ。早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く
早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く
早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く
はやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやく
はやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやく
はやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやく)
壊れたように狂ったようにひたすらひたすらホームルームの開始をこなたは望んだ。
ホームルームさえ始まれば、彼女達の口は止まる。
ようやくホームルームが始まったのは、こなたが机に突っ伏してから10分後の事だった。
こなたにはこの10分が、ひどく長く感じられた。
その後の休み時間も、こなたは寝て過ごすか、教室から逃れる事で過ごした。
つかさの机の周りには人だかりが出来ており、そこで交わされている会話は容赦なくこなたを貫いた。
単にこなたに対する非難の声やつかさに対する励ましの声だけが痛かったのではない。
何気ない雑談ですら、苦痛を与える毒となってこなたに襲い掛かった。
(ちょっと前まで、つかさの席でああいう無邪気な話題で笑っていたのは私だったのに)
昼休みなどは、仕方なく食堂を利用したほどだ。
一人で利用する食堂が、ここまで心細いものだという事をこなたはその時に初めて知った。
(戻れるかな。皆で笑いあってた日に)
あの関係が瓦解したのは僅か二日前の事のはずなのに、
遠い昔のようにさえこなたには感じられた。
学校が終わると、こなたは足早に昇降口に向かった。
教室に居場所がないのなら、早く帰ってしまうに限る。そして、つかさにメールを送るのだ。
電話よりもメールで謝る事にこなたは決めていた。
電話では出てくれない恐れがある上に、
かがみがつかさの側に居た場合横槍を入れられかねない。
メールの文面も、授業中に考えを巡らせたお陰で既に固まっていた。
逸る心を抑えながら、こなたは下駄箱を開いた。
と、また便箋が入っていた。
こなたは溜息を吐きたい衝動に駆られながら、便箋を手に取った。
やはり手書きで、朝入っていた便箋と同じ筆跡でこなたへの非難やつかさへの同情が書き連ねてある。
内容こそ朝と多少変わっていたが、単なる中傷の言葉が入っていない点は同じだった。
(一々書いてるのか。律儀だね、その努力、別の方面に向けなよ)
こなたは内心呆れながらも、これからも毎日こんな事が続くかもしれないと思うと胃が重くなった。
(やっぱり明日は遅刻ギリギリで来るんじゃなくて、朝早くに来て下駄箱に張り込んでいようかな)
現場を押さえて、直接対決してもいいかもしれない。
少し好戦的な気分になりながら、こなたは考えた。
(いや、朝入れられるとは限らないか。放課後に手紙入れてから、下校するつもりかもしれない。
部活組以外が居なくなるまで、張り込んでから帰ろうか)
そう決めたはいいが、何処に張り込むべきか迷った。
この時間帯は人通りが多い。校舎内から下駄箱が見える位置に居ては、
犯人に姿を見られ、現場を押さえる事ができない。
かといって、外からでは見辛い。
(放課後に入れる可能性が高いよね。だって、筆跡見る限り犯人は二人だ)
336:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/26 19:39:31 oBHI7Ubl
解除
337:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/26 20:05:34 kvxgnggt
支援
338:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/26 20:09:11 kvxgnggt
そういえば今はもう避難所おちてるのか
339:審判
08/12/26 20:34:02 AfwbF3dK
二人という事は、学内で手紙を書いている可能性が高いという事。
まさか下校後、この手紙を書く為に友人の部屋を訪れるとは考えにくい。
(でも…)
こなたは少し、その事に考えを巡らせた。
(今日、手紙は朝と今で計二通入っていた。一通は昨日の放課後に書いて下駄箱に投函して、
もう一通は今日書いて昼休みにでも投函したのか。それとも二通とも昨日の内に書いていたのか。
何れにせよ、これ以上こんな手紙をストックしてるって事はないよね)
昨日の内に三通以上書いた、とは考えにくい。
また、今日この手紙を含めて二通も書くような時間的余裕があっただろうか。
誰にも見られずに書いた、とすれば、一通が限界ではないだろうか。
(今教室に戻れば、手紙を書いてる現場を押さえられるかな)
その考えが一瞬頭をもたげた。
しかし、すぐに思いなおす。
(いや、この時間はまだ人が居る。そもそも、自分のクラスで書いたと決まったわけじゃない。
他の空き教室利用したのかもしれない。書いてる現場を押さえるのは、非現実的か)
こなたは少し迷った末、書いている現場も投函の現場も押さえるのは諦めて、
防止策に努める事にした。即ち、下駄箱の前で張り込み続ける、という手である。
犯人を突き止める事はできないが、便箋の投函を阻止する事はできる。
今日防いだら、改めて明日の早朝張り込んでいればいい。
そう決めたこなたは、下駄箱の近くで携帯電話を操作しながら人待ちを装って過ごした。
途中つかさとかがみが目の前を横切ったが、こなたは見ないふりをした。
視線を合わせるのが、恐ろしかった。もしつかさが蔑みの眼差しでもってこなたを見つめてきたら、
謝罪のメールを送るという決意が粉々に砕け散ってしまいそうだったから。
結局こなたは、18時まで待ってから下校した。
この後下校するのであれば、どうせ部活組だ。もし明日の朝来て手紙が入っていれば、
犯人を絞り込む事ができる。
(さあ、早く家に帰って、つかさにメールを送ろう)
こなたは家路を急いだ。
別に今からメールを送ってもいいが、なるべくなら落ち着ける部屋でメールを送りたかった。
家に着いたこなたは、そうじろうやゆたかへの挨拶も程々にして、
すぐに部屋に篭った。
制服すら脱がずに、すぐに携帯電話を開く。
柊つかさのメールアドレスを呼び出し、文字を入力していった。
『突然メールしちゃってごめんね。
この前の件なんだけど、私が悪かったよ。
私、鈍感だから気付かないうちにつかさを傷つけちゃってた。
本当にごめん。これからは気をつけるよ。
もし、何か気に障る事があったら遠慮なく言ってね。』
考えていた文面を入力した後、少し考えてからこなたは一文節最後に付け加えた。
それは、こなたの素直な気持ちだった。
『本当にごめんなさい』
こなたは満足したように、送信ボタンを押した。
(返事、返って来るかな。つかさ、許してくれるかな)
その日の間中、入浴の時間を除いてこなたは片時も携帯電話を肌身離さなかった。
340:審判
08/12/26 20:34:41 AfwbF3dK
>>328-339
漸く投稿できた。支援感謝。
今日はここまでです。
341:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/26 20:35:26 AfwbF3dK
>>337
どうもです。
342:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/26 21:26:51 Z9Ejcgxk
つかさ不在のまま、いじめとの闘いは更に続いていく…
343:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/26 23:03:10 atbnJH0q
>>338
避難所1が残ってるよ
344:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/27 00:34:31 PEYG9BgC
/| |\| ヽ
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\ 丿 __ '"ゞ'-' | |
| | '"-ゞ'-'____| | __//
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\_________/
345:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/27 01:21:06 +QtRsHKK
もうすぐコミケか。
自殺扱った本そろそろ出るかなー。
346:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/27 09:23:49 BF4gVQft
URLリンク(photo-media.hanmail.net)
URLリンク(photoimg.enjoyjapan.naver.com)
URLリンク(japanese.joins.com)
URLリンク(www.osaka-minkoku.info)
347:ヤク中大分
08/12/27 10:33:08 V4Mrlv4K
URLリンク(www.uploda.org)
旬ネタ?
続かない
348:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/27 11:05:37 E4DUC2Lu
かわええ
349:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/27 11:37:22 7O0TE1/T
かわええ
350:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/27 14:45:40 /h9Kgz04
期待
351:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/27 16:22:33 8oHaMkDs
URLリンク(sukima.vip2ch.com)
URLリンク(sukima.vip2ch.com)
352:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/27 16:59:03 rAk2fTiO
>>351
凄く上手いんだがこれじゃ殺人だ
353:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/27 21:44:17 /e/UPxN8
昨日の続き投下します。
>>328-339の続きです。
354:審判
08/12/27 21:45:10 /e/UPxN8
*
つかさは着信音でメール受信に気付き、携帯電話を開いた。
(こなちゃん?)
急いで内容を確認した。そこに書かれていた文面を読んだ途端、
発作的に今すぐこなたに電話したい衝動に駆られた。
本当は大して気にしていないという事、こなたに伝えたかった。
こなたは今まで通りでいいという事、伝えたかった。
けれども、その手は止まる。
(許されるのかな、そんな事)
事の発端は、つかさがかがみにこなたへの不満を漏らした事だった。
こなたの事は友人だと思っていたが、所構わずアニメ等の話をするのは止めてもらいたかった。
人目も気になったが、それ以上にひよりやパトリシアと居る時には決まって疎外感を味わう為、
寂しかったのだ。尤も、寂しいという話をするのは恥ずかしかったので、
かがみには人目が気になるとだけ話した。
その事を話した時、かがみは猛然と怒り出した。
許せない、と。また、前々からこなたがつかさの事を悪し様に言うのも気になっていたらしかった。
つかさも少々癇に障る事があったので、自分もそれは気になっていたとかがみに伝えた。
この時のつかさは、友人への不満を姉に漏らすというただそれだけの軽い気持ちでしかなかった。
ただ、かがみは軽くは受け止めなかった。
『つかさが傷つくのは許せない』そう怒り出し、次の日にはこなたに食ってかかっていった。
つかさはこなたに虐められたとは思っていない上に、
こなたの態度をそこまで気にしているわけでもなかった。
しかし、かがみとこなたの仲違いの原因は自分にあるのだ。
なのに、こうも易々とこなたと仲直りしてしまっていいのだろうか。
かがみやみゆき、そしてクラスの優しい面々は梯子を降ろされた格好になるのではないだろうか。
(クラスの人たち、優しかったからな)
思い出すだけで、胸が熱くなった。
つかさを守るように励ますように話しかけてきてくれたクラスメイトの顔が、
心の中に浮かんでいく。色々な人に想ってもらえるという事、
その暖かさがつかさを包んでくれた。
だからこそ、裏切れない。
クラスメイトはつかさを守りつつも、こなたに対する敵愾心を剥きだしにしていた。
この状況下で勝手に仲直りなどしては、彼女達に対する裏切りになるのではないだろうか。
クラスメイトは優しい。だからこそ、つかさを苦しめる。
本心は虐められてなどいない、こなたと仲直りしたい。
でも、クラスメイトの優しさを無碍にもできない。
そのダブルバインドにも似た心理状態が、こなたに対する電話や返信を躊躇わせていた。
一日休んでいた内に、状況は思いも寄らなかった方向へと変化していた。
つかさ一人の判断で事を進めるのが躊躇われる程に、
かがみとこなたの諍いは大きな問題へと発展していた。
355:審判
08/12/27 21:46:10 /e/UPxN8
もし、関わっているのがかがみ一人であるならば、何とか言いくるめる事もできたかもしれない。
自分から火種を蒔いておきながら勝手な話かもしれないが、
そこは腐っても血の繋がった姉妹だ。
何とかなったかもしれない。
しかし、クラス全体が関わっているとなると話は変わってくる。
つかさ一人の判断で、あれだけの人数を振り回すわけにもいかない。
ましてや、自分を慮ってくれている優しい人達なのだ。
(もうちょっと、様子を見てからのほうがいいよね。
こんなすぐに仲直りしたら…って喧嘩してるわけじゃないんだけど、
仲を回復したら、クラスの人達はいい迷惑だよね)
つかさはもう少し時間が経ってから、こちらからこなたに謝る事に決めた。
つかさは携帯電話を名残惜しそうに閉じた。
結局、電話も返信もしなかった。
もし、つかさがクラスメイトの優しさに触れる前、或いはつかさが問題の大きさを認識する前に、
例えば朝の段階でこなたがメールを送信していれば、つかさは返信していたかもしれない。
それも、相当の蓋然性を持って。
それで、こなたはクラスでの地位を回復していただろう。
だが、こなたは朝の段階では何もしなかった。夜にメールしようと決めてしまった。
その僅か十数時間の内に、事態は悲劇的な方向へと突き進んでしまったのだ。
*
眠っている時に見る夢には、幾つかのパターンがある。
理想の自分になりきっている夢や、現在の不満や楽しみを反映した夢。
或いは、未来の不安や希望が表現された夢。
そして、過去の記憶を再現する夢がある。
黒井が毎晩のようにうなされる悪夢は、そのうち、過去の記憶が見せるものだった。
「この丸付けてある化粧品、パクって来てよ」
身なりこそ真面目だが気の強そうな少女が、気弱そうな少女にチラシを差し出しながら言った。
そのチラシの中の化粧品に、赤いペンで丸印が付けられている。
「え…?」
「え?じゃないよ。聞こえなかった?あの店って、ガード固いらしいじゃん?
そのガード破って、ななこのかっこいいトコ見せてよ?」
ななこ、と呼ばれた少女は卑屈な笑いを浮かべた。
「高道さん、冗談キツイよ」
「冗談じゃないって」
「私、捕まる方に2000かけるわ」
「じゃ、私親やるわ。下は1000から上は5000までトトカルチョ。
高道は幾らいくらかける?」
「私も捕まるに2000。てゆーか、5000かけれんなら化粧品パクらせたりしねーよ」
「金欠なら化粧品パクってもらうより、漫画持ってきてもらう方がよくね?
古本屋持ってって金に換えようよ」
「小島頭いいー。でも別に金欲しいわけじゃないしー。
ななこのかっこいいトコ見たいだけなんだよねー」
「あ、あの」
自分を抜きに話が進む中、ななこはおっかなびっくりといった風に口を挟んだ。
「きょ、今日は下見だけで勘弁してもらえないかな?
ほら、この格好だと仮に逃げ切れても学校に連絡いっちゃうし。
防犯カメラはついてるんだし」
356:審判
08/12/27 21:47:09 /e/UPxN8
自らの制服を指し示しながら、ななこは言った。
彼女達の通う高校は、その店からさほど遠くない所にある。
「それに明日は祝日だし。ほら、祝日の方が混むだろうから、
他の客がカモフラージュになるし」
「ふーん、じゃ、明日はちゃんとやってくれるんだー」
「分かってると思うけど、人数分、3つ持って来んだよ?」
「ななこも欲しけりゃ、4つになるけどね」
3人の少女はけたたましく笑った。
ななこは恐怖に凍りついた笑みを返すと、店の中へと足を踏み入れた。
目当ての商品はすぐに見つかった。
(4980円もするんだ、コレ。てゆーか、こんな目立つ所においてある商品、盗れるわけないよ)
ななこはその後軽く店内を見回った後、3人の下へと引き返した。
「もういいの?まぁ、明日よろしくねー」
「明日は昼の13時にここ集合ね」
「どうせ明日うちら暇だしね」
「うん、頑張るよ…」
力なく3人を見送ると、力の抜けた足取りでななこは家路についた。
「3つで15000円か」
ななこは呆けたように呟いた。盗める訳がないのに、停学を覚悟してまで万引きするつもりはなかった。
また、万引きという行為そのものに罪悪感を覚えてもいた。
だから、直接商品を買ってそれを渡そうと彼女は考えた。
そうすれば、彼女達は満足するかもしれない。
しかし、その15000円が捻出できない。
(どうしよう…)
約束の時間は、刻一刻と近づいている。
(もし、約束をすっぽかしたりしたら…)
考えただけでも恐ろしい。隣のクラスのとある女子が、
誰からも口を聞いてくれなくなって既に1年が経つ。
きっかけは、クラス内で強い影響力を持った女子に嫌われた事にあるらしい。
何故嫌われたのかまではななこの知るところではないが、
嫌われた方の女子が孤立してしまうのは早かった。
まずはクラスの主流派に属する女子達から無視され、
比較的地味な女子や真面目な女子まで次第に彼女を無視するようになった。
彼女と仲が良さそうに振舞っていた人々でさえ、彼女を遠ざけるようになった。
また、男子もその空気を敏感に感じ取ったのか、彼女に声をかける事は一切無くなった。
体育の授業は隣のクラスと合同で行われていたが、
『組を作れ』という体育教師の指示がある度に孤立している彼女を見ているのは辛かった。
誰からも組んでもらえず、途方に暮れたように周囲を見回していた少女。
その姿が脳裏に蘇り、自分と重なった。
高道達はななこのクラスでは、強い影響力を持っている。
もし、高道達から嫌われれば、ななこもまた隣のクラスの無視されている女子と
同じ道を歩みかねない。
今までも散々からかわれたり、道化を演じることを強要されてきたが、
それでもクラス全体から無視される事態は避けたい。
(と、なると…)
ななこは耳を済ませた。浴室の方から、母の鼻歌が聞こえた。
浴槽の掃除をしている時、鼻歌を歌うのが母の癖だった。
ななこは足音を殺して、母のバッグに近づいた。
心臓が破裂しそうな程の勢いで、高鳴り出す。
(ごめんね、お母さん)
357:審判
08/12/27 21:48:12 /e/UPxN8
バッグに向けて指し伸ばされた手は、バッグの口直前で止まった。
(本当に、私はやるの?)
母の財布から金を抜き取るという事、その行為の重さが、ななこの手を止めていた。
(でも、でも、やらないと私は…)
商品を買って高道達に引き渡さねば、
万引きという罪を犯さずに彼女達を満足させる事はできないだろう。
そして手持ちの金が足りない以上、母の財布からお金を抜き取る以外に買う術はない。
(いや、私が持ってる漫画とかCDとか売れば…。駄目だ、二束三文だ…)
必要な金の額は、万単位だ。とてもではないが、私物を売って手に入れられる額ではない。
(大丈夫、大人になったら出世払いで返す…)
自分を無理矢理鼓舞して、震える手でバッグの口を広げた。
茶色い柄の、シンプルな母の財布が目に入った。
お守りが一つチャックに結わえ付けられただけの、シンプルな安物の財布。
ななこの動きは、そのお守りを見つめてまた止まる。
(本当に、やるの?お母さんを裏切るの?)
そのお守りは、小学校の修学旅行でななこが買ってきたものだった。
もうあれからかなり経つのに、未だに財布に付けられている。
クリアケースに入れて、大切に大事そうに取り付けられている。
(お母さん…)
涙が溢れてきそうだった。
その時、浴室の方から水しぶきの音が響いてきた。
浴槽についた洗剤を、シャワーで洗い流しているのだろう。
もう、時間的な猶予はほとんどない。
(やるしかないよ。万引きして捕まれば、どうせお母さんを悲しませるんだし)
高道達の前で堂々と断れよ。心の底から響いてくるその声は、
彼女達に対する恐怖によって掻き消された。
ななこは、母の財布から1万円札を1枚と5000円札を1枚抜き取った。
盗むという行為を終えても、まだ心臓の高鳴りは止まらなかった。
むしろその脈動は勢いを増し、ななこを責めるように太鼓の如く胸を内部から叩いた。
ななこは汗の浮き出た額を拭うと、ゆっくりと立ち上がった。
荒々しい呼吸を沈めるように数度深呼吸すると、玄関に向かう。
靴を履いて玄関の扉を開けたとき、母に呼び止められた。
どうやら、風呂掃除が終わったらしい。
「ななこ、何処か行くの?」
「うん、ちょっと友達と遊んでくる」
母の方を見ずに、ななこは答えた。
母の顔なんて、見れやしない。
母の顔を見たが最後、何もかも吐き出してしまいそうだった。
「そう。あ、そうだ。ついでに買い物頼もうかしら」
母がバッグの置いてあるキッチンに向かおうとしたのを見て、
ななこは慌てて声をかける。
358:審判
08/12/27 21:49:03 /e/UPxN8
「無理無理。友達と一緒に居るのに、買い物なんてやったら友達に迷惑だよ」
「遊び終わって別れてからでいいのに」
今、財布を取り出されたら全てが終わる。
握り締めた拳に汗が滲んだ。
「それが何時になるか分からないから。悪いけど無理」
「そう?残念」
ななこは胸を撫で下ろした。
(本当は…何もかも露見した方が良かったのかも)
「じゃ、今度こそ行ってくるね」
「あ、そうだ、ななこ」
「なに?」
「気をつけてね。最近、物騒な事件多いから」
優しく気遣うような母の言葉が、ななこの胸を撃ちぬいた。
(何で…優しくするかな。私、お母さんのお金盗ったんだよ?)
母の優しさが痛い。
涙が零れそうになる涙腺を堪えながら、全てを話してしまいそうになる衝動を抑えながら、
胸を締め付ける良心の痛みに耐えながら、
ななこは言葉を放った。
「分かってるよ」
扉を潜った後、ななこは泣いた。
高道達にからかわれたり、尊厳を傷つけられたりした時も泣かなかった。
けれど、この時ななこは泣いた。
指定された集合場所には、既に高道達3人が待っていた。
まだ、指定された時間の30分前だというのに、だ。
「随分早く着たんだね」
「そりゃ」
小島が笑いながら答えた。
「楽しみだもん。逸る気持ち抑えきれずに、早く来ちゃったよ」
(楽しみ、かよ。私を苦しめるのがそんなに楽しいのかよ)
胸に芽生えた殺意を隠すように、ななこは媚びるような苦笑いを浮かべて返答する。
「期待されちゃってるよ、私」
「そーそ。期待してんの。ちょっと早いけど、早速持ってきてもらいましょーか」
「持ってくる商品、憶えてるよね?」
「うん、憶えてるよ。ちょっとここで待っててね」
ななこは毅然とした態度で、店に向かった。
店に入ると、脇目も振らずにお目当ての商品を手に取り、レジに持っていく。
会計が済んだ後、店員が袋に入れようとしたがそれをななこは慌てて制した。
「あ、いや、そのままで」
「恐れ入ります。では、シールをお貼りしてもよろしいでしょうか?」
「いや、シールもちょっと…。レシートだけもらえれば、いいです」
盗んできたように装うという、ななこなりの考えだった。
購入した化粧品をバッグの中に納めると、ななこは店を出て3人の下へと向かった。
「はい、持って来たよ」
359:審判
08/12/27 21:49:56 /e/UPxN8
ななこはバッグから化粧品を取り出すと、高道に差し出した。
高道達は面白くなさそうにななこを見据えると、言った。
「はい、じゃねーよ」
「何やってんの、ななこ」
「うちら見てたんだけどさー、アンタ普通に買ってんじゃん」
見られていたらしい。けれど、買おうが盗もうが彼女達にはお目当ての物が手に入るのだ。
だから、高道達も口では不満を言いつつも、満足するだろうとななこは思っていた。
「いや、警戒厳しくて」
しかし、それは甘い見通しだった。
「言い訳してんじゃねーよ」
「化粧品が欲しいんじゃなくて、ななこがかっこよく脱走決めるトコ見たかったんだっての」
「そーそ。或いは、ななこが捕まって抵抗するトコでも良かったんだけど。
でも普通に買ったら意味無いじゃん」
少女達は、口々にななこを責めた。
「でも…」
「でも、何?」
「化粧品は手に入ったでしょ?それ、高かったんだから、それで許してよ」
「は?たかが5000円で恩売った気になってんの?」
「たかが5000円って…。3つだから、15000円だよ」
「大して変わりねーよ」
(たかが、か。果たしてお母さんにとって15000円は、たかが、なんだろうか。
しかもその”たかが”のお金を盗る為に、私がどれだけ苦しんだか…)
「それ以前にななこって、私達はお金貰えれば満足するような即物的な人間だと思ってたんだ。
ふーん。そーなんだー。じゃ、私達もその認識通りに行動させてもらっちゃおうかな」
3人のうちの一人、瀬尾が卑しい笑いを浮かべながら言った。
その笑みに、ななこは底知れぬ恐怖を覚えた。
「何すんの?」
小島が瀬尾に向かって尋ねた。
(聞きたくない…)
ななこは耳を塞ぎたくなった。瀬尾が何を企んでいるかは分からない。
何を企んでいるかは分からないのに、本能が警鐘を鳴らし始める。
「まぁ、こっち来なよ」
瀬尾に導かれるままに、ななこ・高道・小島の3人は歩いた。
嬉々として歩く高道や小島と違い、ななこの足は重かった。
やがて4人は、繁華街へと辿り着いた。
「で、ここで何すんの?」
今度は高道が尋ねた。
「こうすんの」
瀬尾は意地悪く笑うと、近くを歩いていた男に声をかけた。
「ねーねー、この娘8万でどう?」
ななこを指差しながら、瀬尾は軽い口ぶりで言葉を放った。
その男性は一瞬驚いたように瀬尾とななこを交互に見つめた後、急ぎ足で立ち去っていった。
ななこは茫然とした。
(う、嘘でしょ?)
茫然と瀬尾を見つめるななことは対照的に、高道と小島は下品な高笑いを炸裂させていた。
「8万はないべー。ななこなんて、精々1万5千円くらいの価値しかないって」
「でもいい考えだよねー。面白いよ、それ」
「こうやってさ」
瀬尾は満足そうに二人を眺めながら、ななこにとっては身も凍る提案を口にした。
「少しづつ値段下げてって、幾らでななこが買われるか勝負しない?」
「最高だよ、それ」
「うちらの小遣い稼ぎにもなるしねー」
「ちょっ、冗談でしょ?」
慌ててななこは割り込む。
「冗談なわけないじゃん。第一、これを望んだのってななこだよ?
ななこってさー、私達の事、お金さえ貰えればそれで満足しちゃうような
即物的な人間だと思ってるんでしょ?だからその認識通りに、
お金の為なら性も売る、っていうキャラ演じてあげてるんだよ?」
至って真剣な表情で瀬尾は語ると、
悪戯っぽい笑みを浮かべて続けた。
360:審判
08/12/27 21:51:12 /e/UPxN8
「まぁ、性を売るのはななこなんだけどね」
「そんな、やだよ、私…」
ななこの声など聞こえないかのように、高道は目の前を通った男に声をかけていた。
「あ、すいませーん。この娘、7万5千でどうですかー?
女子高生ですよー?どうですー?」
その男性は、汚いものを見るような瞳でななこを一瞥すると、
怒ったように立ち去っていった。
(違うんです、私は売りたくなんてない、売りたくなんてないんです)
ななこは酷く惨めな思いで、心中呟いた。
「あ、そこの人ー?どうです?この娘。7万でやらせてくれるそうですよー」
小島が声をかけた男も、舌打ちをすると立ち去っていった。
「やっぱまだまだ高いよねー」
笑いながら高道が言う。
「でもさ、このまま5千円単位で値段下げてけば、5万から3万くらいで客は付くんじゃん?」
「うんうん、付くよね、そのくらいの値段なら」
彼女達の無邪気さが、ななこにとっては恐ろしかった。
「嫌だよ、私、売りたくないよ」
ほとんど涙声になりながら、ななこは高道達に縋りついた。
「許してよ、別にお金さえあれば、なんて思ってあんな事言ったんじゃないよ」
「だってさ、どうする?」
高道は小島と瀬尾に視線を送った。
「ねぇ、私達が本当はななこに面白いことやって貰いたかっただけだって事、理解してくれた?
お金が欲しかったんじゃないって事、分かってくれた?」
瀬尾の言葉に、ななこは激しく頷いた。
「うん、分かる分かる。理解してるよ」
「分かってくれたみたいだし、援交ごっこはここらで止めにしておくかー。
その代わりななこには、私達を笑わせてもらおうかな?」
「笑わせるって、どうやって?」
ななこは再び不安に顔を曇らせながら、瀬尾に問いかける。
「自分で考えなよ」
瀬尾は冷たく答えた。
「え…?」
いきなり「笑わせろ」と言われても、ななこにはどうすればいいのか分からなかった。
助けを求めるように、小島と高道にななこは視線を送る。
「何?考えつかないの?なんならウチらが考えてあげようか?」
小島が底意地の悪そうな笑顔でななこに告げた。
(冗談じゃない。こいつらに任せたら、何をやらされるか分かったもんじゃない)
恐怖に駆られたななこは、大して考えもしないままに言葉を放っていた。
「一人漫才っ。一人漫才やるよ」
途端に、高道達は弾けたように嬌声を上げながら笑いだした。
「最高、それ。見てみたーい」
「でもこんな人通り多いところじゃ、可哀想だからねー。
裏通りの人通り少ない所行こうか。人目を大して気にしないで済むから、
思う様に自分を解き放ってね」
「言っとくけどウチら、笑いに関してはうるさいからね。
半端な漫才じゃキマれないしイケないんで、そこんトコよろしくぅ」
ななこは引き攣った笑みを無理矢理頬に浮かべた。
「任せてよ」
高道に導かれるように、裏路地へとななこは歩みを進めたが、その足取りは重く、そして鈍い。
これから尚もピエロを演じる気の重さだけが、ななこの歩みを遅らせているのではない。
漫才のネタを考える為の、時間稼ぎの意図もあった。
(笑わせる宣言をしてから人を笑わせるのって、本当に難しい…)
牛歩戦術を取りながら、必死に漫才のネタを考える自分が酷く惨めに思えた。
(駄目だ、何も思いつかない…)
思いつかないままに、高道の指示した場所へと到達してしまった。
ななこは恐怖を隠しながら、もったいぶった態度で高道達を見据える。
「ほら、早く始めてよ」
「うん」
361:審判
08/12/27 21:55:30 /e/UPxN8
ななこは、3人を笑わせようと必死になって冗談を飛ばし、身体をくねらせた。
3人は、そんなななこの態度を何処か冷めた面持ちで見やっていた。
ななこは鼻を持ち上げたり、唇の両端に指を入れて引き伸ばしたりと、
見栄も外聞もかなぐり捨てて躍起になるが、それらの行為全てが徒労に終わった。
「つまんなくね?」
「私達に期待もたせたんだからさ、責任とって笑わせてよ」
いよいよ野次が飛んできたが、
ななこは焦るばかりで、思いつく行動や言動の一つ一つが空回りしてゆく。
「つーかマジつまんないんですけど。何なら、もう一回援交ごっこに戻ろうか?」
小島の言葉は、ななこを心胆寒からしめた。
(冗談じゃない、どうしたら、どうすれば…)
ななこは、殆ど思いつくままに言葉を放っていた。
特段、計算しての言動ではない。
だが、放たれた言葉は意外な効果を持って3人に笑いを提供する事になる。
「ウチ、人笑わせる自信あってんのに、笑ってくれへんのはショックやわー」
途端、3人は弾かれたように笑い始めた。
「ちょっ。そこで関西弁すか、ななこさん。ベタ過ぎて逆にツボったわ」
「やっぱりななこは面白いね。才能あるよ、笑いの。
嘲笑誘う技量なら、世界目指せんじゃん?」
「関西弁って、ウケルー」
息も絶え絶えに笑う3人を見たななこは、一筋の光明を見た気がした。
「自分ら笑いどこ間違えてまっせ。言葉やのーて、顔や。
ウチのブサイクな顔見て笑ったってや」
3人の笑い声は一層高まった。
愉快そうに笑う高道達の姿に、一瞬でも満足感を得てしまった自分をななこは心底軽蔑した。
「ななこー、それマジ面白いからさー、明日からそのキャラでいきなよ」
「素晴らしい提案だね、高道。ななこ、明日から関西弁以外使用禁止ね」
「さんせー」
ななこは屈辱を覚えながらも、それを顔に出す事無く朗らかに答えた。
「承知しとりまんがな」
この日から、ななこの関西弁は始まる事になる。
「あ、そうだー。いい事思いついた」
高道はバッグからヘアスプレーを取り出すと、小島に尋ねた。
「確か小島って、煙草吸う人だったよね。ライターある?」
「えー、高道マジー?」
苦笑しながらも、小島は高道にライターを手渡した。
ななこは凍りつく思いに囚われた。
3人の中では最も思慮深い瀬尾がとりなす様に口にした。
(瀬尾さん…)
ななこは期待に満ちた眼差しで、瀬尾を見つめた。
この3人に対しては、悪魔のように思ってきたななこだったが、
瀬尾はまだまともな倫理意識を持ち合わせているらしい。
(今まで死ぬほど嫌いだったけど、少しだけ見直したよ)
瀬尾の言動に、優しさの欠片をななこは見たような気がした。
そして、矯正の可能性も。
しかし、ななこのその評価は残酷にも裏切られることになる。
「外傷残るような事しちゃうと、後々不味いよ?」
(結局、自己保身の為か…。外傷残らなければいいとでも思ってるのか…。
心になら幾らでも傷を付けてもいいと思っているのか…)
ななこはがっくりと視線を落とした。
この女に優しさを期待した自分が馬鹿だった。
少しでも目の前の女を見直した自分を、罵倒してやりたい衝動に駆られる。
「大丈夫。パーマかけるだけだから、外傷は残んないよ。
多分ね」
高道は笑いながらななこの後ろに回ると、告げた。
「やっぱりお笑い芸人にインパクトは基本だよねー。
髪にパーマかけてあげるよ。あ、顔に火傷負いたくなかったら、動かないでね」
(嘘だ。冗談で言っているんだ、本当に、やるわけがない)
心ではそう思うものの、身体は恐怖に竦む。
362:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/27 22:04:48 /e/UPxN8
>>354-361
キリはよくないけど、連投規制入りそうなんで撤退します。
また。
363:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/28 00:41:18 Te4K16MJ
>>347
乙gj
初オリジナルか?
364:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/28 20:16:20 PehOT5XF
こんばんは、投下します。
>>354-361の続きです。
365:審判
08/12/28 20:17:02 PehOT5XF
「ファイヤー」
その掛け声とともに、ライターを鳴らす音が聞こえた。
直後、スプレーの噴射音。
(狂ってるっ)
ななこは咄嗟に炎から逃れようと、前方に向かって跳躍した。
(加減を…知らないの?)
たんぱく質を焦がしたような嫌な匂いが、ななこの鼻腔を刺激した。
逃れきれずに、髪を少々焼かれてしまったらしい。
憎悪の面持ちで振り返ったななこが見たのは、笑い転げる高道と小島の姿だった。
「あーあー。本当に怖いね、高道は。面白いけどさ、こういう目立つのは止めなよ」
瀬尾は幾分呆れた顔で高道を見やると、ななこの髪の毛を観察し始めた。
「あー、焦げちゃいるけど、髪の先端の方か。切ればそんなに目立たないね。
ななこー、悪いんだけど、髪、ショートにしてくれる?」
(なんであんた達の為にそんな事しなくちゃいけないの?)
ななこは3人を殴りつけたい衝動に駆られたが、ぐっと堪える。
(いや、焦げた髪を見せたら、お母さんもお父さんも心配しちゃうし、
切ってから帰った方がいいかもしんない。百均で手鏡と鋏でも買おう。
床屋は恥ずかしいし、美容院行くお金ないし予約してないし)
トイレの個室に篭って髪を切る自分の姿を想像すると、涙が溢れそうになった。
「おー、流石に瀬尾は気が利くねー」
「ウチらも見習うべきだねー。なんなら、私が切ってあげようか?」
「小島なんかに任せたら、本当に芸人街道一直線な髪型になっちゃうじゃんよ」
「なんか、て、ひどっ」
惨めな思いに心囚われたななことは対照的に、
高道達は無邪気に笑いあっていた。
(こいつらみたいな連中でも、そんな人間らしい笑い方するんだ…)
蹲ったななこは、笑い続ける3人に対する殺意をどうにか押さえ込んでいた。
家に着いたななこを迎えたのは、母の悲しそうな顔だった。
「ななこ…ちょっとお話があるんだけど。って、どうしたの、その髪」
「ウザったくなってきたから切った。話って、何?」
白々しい、と我ながら思った。
ななこが盗んだ金の話に決まっている。
「ちょっとこっちに来て」
導かれるままにキッチンに向かい、母と向かい合うように食卓の椅子に腰を下ろす。
母の顔をまともに見れず、ななこは自然俯き加減になった。
「ねぇ、正直に話して欲しいんだけど…」
母はそこで言葉を切ると、告げる言葉を捜すように押し黙った。
どう切り出せばいいのか、迷っている様子だった。
「私のお財布から1万5千円無くなっているんだけど、ななこ知らない?」
母の震えた声と曖昧な表現に、自分を必死に信じようとしている心の葛藤を感じ取り、
ななこは思わず泣きそうになる。
「知ってる」
嘘なんてつくつもりはなかった。
正直に盗った事を話すつもりだった。ただ、盗んだ理由まで告げるつもりはない。
万引きを強要されたことまで話せば、母を余計に心配させる事になる。
「知ってるって、どういう事?」
母の声は、いっそう震えをました。泣きたいのを堪えているのは自分だけではないという事を、
ななこは今更ながら自覚する。
「私が、盗ったから」
「っ」
ななこの母は絶句すると、押し黙った。
予想していた答えだろうが、改めて告げられるとやはり衝撃は大きいらしい。
366:審判
08/12/28 20:17:51 PehOT5XF
「どうして…そんな事…。ねぇ、お小遣い足りない?
あんなにいい子だったななこが1万5千円も盗…勝手に借りるなんて、
お母さん信じられないわ」
盗む、という表現を避けたのは、まだ娘が金を盗んだ事が信じられないからだろうか。
娘を信じようという母の愛情故に、心が軋む。痛みに、軋む。
「別に…」
ぶっきらぼうに、ななこは答えた。
「別に、じゃないでしょうっ。答えにもなってないっ」
母の怒声に、ななこの身体はびくりと跳ねた。
「ねぇ、ななこ。貴方分かってるの?自分が何をしたのか。
貴方はね、お金を…盗んだのよ?」
今度は、盗んだという表現を避けなかった。
その言葉を使うときに一瞬躊躇いを見せこそしたものの、避けはしなかった。
「もしこれが…私のお財布ではなくて、他人の財布からだったら…。
それは窃盗なのよ?いや、例え親の財布であっても勿論許される行為じゃないんだけど。
これがエスカレートしていったら、本当に赤の他人の物を盗る行為さえ罪悪を感じずに
行ってしまうかもしれない。私は…それが怖い」
事実、母のななこを見る瞳には、恐怖の色がうっすらと浮かんでいた。
(でもね、お母さん。もし、私がお母さんの財布からお金を盗らなかったならば、
私は”本当の意味で”窃盗犯になっていたよ。それこそ、お母さんの恐れる。
だからといって、自分の行為を正当化するつもりまではないけど)
「それとね、ななこ。私は…」
母はそう継げた後、暫く黙っていた。
その沈黙があまりに長く続いたので、ななこはそれまで伏せていた顔を上げた程である。
顔を上げたななこは、母の顔を真正面から見る事となった。
その時ななこの瞳に映った母は、泣いていた。
「悲しい。あんなに信じていたのに、裏切られて…」
消え入るように口にすると、席を立った。
その手には、財布が握られていた。財布をバッグに放置せずに手で持ったのは、
もう信頼しないという証なのだろうか。
そして、ななこは見た。その財布から、かつてななこがプレゼントしたお守りが外されていた事に。
(本当に、裏切ってしまったんだ…)
ななこは部屋に戻ると、その事で酷く苦しめられた。
悲嘆に暮れながら、頭を抱え込んだ。
(ああ、でも、どうすれば良かったの?
あいつ等の言うとおり、万引きしてくれば良かったの?
いや、成功するわけない。見つかれば、母を苦しめる事になる。
仮に成功したとして、やっぱり気が引けるよ。
というか、何で私があいつ等の為に犯罪に手を染めなきゃいけないの。
…我慢して私がいじめられれば、良かったのかな。
クラス全体から無視される事を恐れずに、あいつ等に立ち向かえば良かったのかな。
それを実行できなかった、私がやっぱりいけないのかな)
沸々と、その思考を否定する心の声が沸きあがってきた。
やがてその声は、ななこの抱いている感情を悲しみから怒りへと、急速にシフトさせた。
(違うっ。そうじゃない。私が悪いんじゃない。あいつ等が、あの3人が悪いに決まってる。
私に母を裏切らせたのも、私を苦しめてるのもあいつ等だ。
どうしてあんなのがのさばる?ああ、だからこの国には無神論が蔓延っているんだ。
あんな連中でさえ罰を受けないなら、神の存在を否定したくもなる)
367:審判
08/12/28 20:18:27 PehOT5XF
怒りに任せて、拳を強く握りこんだ。
もし爪を短く切り揃えていなかったのならば、
皮膚を切り裂き鮮血を滴らせたであろう程に、強く強く握り締めた。
(あいつ等が、あいつ等が、あいつ等が全部悪い。あいつ等が悪い。
いじめた連中が悪いに決まってる)
酷く蒸し暑い。ねっとりとした汗が、背中を伝っていくのが分かった。
(あいつ等が悪い。許せない)
「そうや!あいつ等が悪いんや!許せへん!」
黒井はそう叫びながら飛び起きた。
呼吸音は荒く、身体は酷く汗をかいていた。
「今、何時や?」
日の出の時間にさえなっていないのか、部屋はまだ暗闇が支配していた。
「4時か。お陰さまで、目覚しいらずの身体になったもんや」
二度寝する気を無くし、今日はこのまま出勤しようと決めた。
あの事はもう10年以上も前になるのに、唐突に夢に見ることが度々あった。
そして、決まってうなされて飛び起きる。
どれだけ時を経ても、風化しない怒りの炎と共に、彼女の安眠を奪ってきた。
あの日以来、学校でななこは関西弁を使う事を強要された。
しかし、高校卒業後もななこは関西弁を使用し続けてここまで来た。
それは、あの日の屈辱や怒りを忘れない為である。
いや、夢に出てきたあの日に限った事ではない。
それまでの高校生活、そしてその後の高校生活で受け続けた苦痛と恥辱も忘れない為である。
勿論、それはあの日々にいつまでも付き纏われ続けるという事も意味していたが、
どうせ忘れる事はできないのだ。だからこそ、薪に寝て胆を舐めるような決意で以って、
関西弁を使用し続けてきた。臥薪嘗胆、である。
大学で彼女が教職課程を取ったのも、全てはいじめへの怒りからだった。
いじめを絶対許さない、その情熱…いや恨みとも言える執念が、彼女を教職の道へと進ませた。
そのいじめを許さないという決意には、
自分と同じ思いをする人を減らしたいという意味が殆ど込められていない事に、
彼女は気付いていただろうか。実際には、過去のトラウマへの強烈な怒りが、
原動力となっていた事に、彼女は気付いていただろうか。
「さて、汗でべっとりしとるし、シャワーでも浴びるか」
恐らく、気付いてはいないだろう。
もし、気付いていたのなら、彼女は教師にならずに早々とあの決断を下していたかもしれない。
*
二人組みの女子が、下駄箱の中に手紙を投函するのを視認すると同時に、
こなたは足早に近づいていった。
こなたの予想通り、手紙を使って嫌がらせしてきた生徒はかなり早い時間帯に登校してきた。
まだ、この二人の他に登校してくる生徒はほとんど居ないような時間帯である。
たまに通りかかるのは、朝練のある運動部くらいだろうか。
(こんなに朝早く、ご苦労かつ迷惑な事だね)
この現場を押さえる為に、今日は普段では考えられないような早い時間に起きてきた。
そのくせ、昨夜はつかさからのメールが気になって中々寝付けなかったので、
こなたの睡眠不足は相当深刻なものへとなっていた。
実際、身を隠していた柱に寄りかかったまま、危うく眠りそうになった事も何度かある。
だが、その苦労がたった今報われた。
368:審判
08/12/28 20:19:45 PehOT5XF
「ねぇ、今何を入れたの?」
その二人は、突如現れたこなたを驚愕の表情で迎えると、顔を見合わせた。
気まずそうに視線を交し合う二人を尻目に、こなたは自分の名前が書かれた下駄箱から
一通の便箋を取り出し、広げて見せた。
「昨日入れたのも、君達だよね?筆跡、同じだし」
刺々しい口調で、こなたは二人を詰問した。
「そうだよ、悪い?」
往生際がいいのか、開き直っただけなのか、二人組みの内一人がふてぶてしく応じた。
(確か、この女子は平井。もう一人が新見だっけか)
今まで言葉さえほとんど交わした事のない生徒だ。
こなただけではなく、つかさともほとんど言葉を交わした事はないだろう。
「悪いに決まってるよ。私、不快だったんだから」
不遜な態度に幾分腹を立てながら、こなたは吐き捨てた。
「へぇ。イジメやるような奴でも、不快なんて人間じみた感情抱けるんだ」
新見が蔑むような眼差しでそう口にした。
「まるで反省してないね」
こなたは怒りを通り越して呆れてきた。
「反省?反省するべきはアンタでしょ?」
せせら笑いながら平井が言った。
「反省はしてるよっ。ただ、いじめたとは思ってない」
「そうやって開き直って認めないところが、反省してないって言ってんだよ」
平井の口調には、明らかに怒気が含まれていた。
(怒りたいのは私の方だよ)
怒鳴りつけたい衝動を抑えながら、努めて冷静を装ってこなたは返答する。
「確かに私は、気付かないうちにつかさを不快にさせてた。
それは、イジメだと表現されても仕方ないかもしれない。
でも、君達は何の関係もないじゃん。私とつかさの問題なんだから、放っといてよ」
これは、かがみに対しても言いたい事だった。
「関係ない?クラス内でいじめが行われてるのに、気付かないふりはできないよ。
傍観することだって、ある意味、いじめに加担しているようなものだし。
クラス全体でいじめには立ち向かっていくべきだと思ってるし。
それとも、泉さんはいじめなんて個人間の問題でしかないと思っているの?
ああ、個人間の問題であった方が、都合がいいのか。
だって、いじめる側だもんね、泉さん」
新見の発言は、仮に正論でなかったとしても、理想的とも言える論理だった。
『気付かないふりはできない』『傍観もいじめに加担しているようなもの』
『クラス全体でいじめに立ち向かっていくべき』
これらの言葉を、覆す事は難しい。
「そりゃ、実際いじめが起こったら、そういう風に対応していくのが一番いいんだろうけど…」
手紙を投函した現場を押さえて、有利な立場に立っているはずなのに、
こなたの語勢はどんどん弱弱しいものへとなっていった。
「実際いじめが起こったんじゃん」
平井が呆れたように口にした。
こなたが何を言おうとも、『お前はいじめを行った』という言葉でもって、
あっさりと反論も返答も無効化される。
ならば、『こなたがいじめを行った』という前提を突き崩せばいい。
そうこなたは考えた。
369:審判
08/12/28 20:20:59 PehOT5XF
「いじめって言うけど、私はいじめてるつもりなんてなかったし。
そりゃ、不快な思いはさせたけど…」
「相手が嫌だと思えば、それはもう立派なイジメだよ。
ああ、イジメが立派って意味じゃないからね。
言い訳ができない、っていう意味」
─相手が嫌だと思えば、その行為はいじめ
どうやらそれが世間で罷り通っているいじめの定義という事らしい。
「随分と乱暴な認識だね。相手の心が弱いかどうかで、
イジメかイジメじゃないかが別れるんだ。
幾らなんでも、イジメの範囲が広すぎるよ」
こなたは食ってかかった。
その定義では、友達同士のじゃれ合いですらいじめとして認定されかねない。
そもそも、一切相手に不快な思いを抱かせずに生きていく事など不可能に違いないのだ。
「はは、出たよ。イジメッ子お得意の言い訳が。虐められるほうが悪い、って言いたいわけだ。
虐められる人の、心の弱さが問題だと言いたい訳だ。
本当に、クズなんだね」
そう発言した新見の瞳には、怒りの炎が宿って見えた。
(だから、何で君が怒るの?怒りたいのは私だよ。
大体、今回の件では私が被害者じゃん。ふざけた手紙投函しときながらよくもそんな事…)
その時、こなたは気付いた。もし、新見や平井の言うとおり、
『相手が嫌だと思えば、それはもう立派ないじめ』だとするのならば──
「ねぇ、っていうかさ、二人とも気付いてないの?」
こなたは低い声で囁いた。
「何に?」
平井が訝しげに訊き返してきた。
その怪訝な表情に向かって、こなたは言葉を突きつけた。
静かに、けれども力強く。
「二人とも、既にイジメを行っているって事にさ」
平井と新見は顔を見合わせた。
大きく見開かれた二人の瞳は、こなたの言葉が想定外だった事を彷彿とさせていた。
「何、言ってんの?」
「言ったとおりだよ。二人は立派にイジメを行っている、って事さ。
それとも何?こんな手紙投函しておきながら、これはイジメじゃないって開き直るの?
私が不快に感じてるのに?」
人に問い詰められた時の切り返しの一つに、鸚鵡返しというものがある。
『私を悪だと責めたけど、お前達だって似たような事やってるだろ』というものである。
時と場合によっては屁理屈にしかならないが、
この場面においては有効な切り返しだろうとこなたは確信していた。
気まずそうに口を噤む二人の表情を想像し、こなたは少しだけ愉快な気分になった。
しかし、こなたの確信に満ちた表情は、そう長くは続かなかった。
「あのさ、注意や制裁と、イジメは違うものだと思うけど」
こなたが想像していたような気まずさなど微塵も表情に浮かべずに、平井がそう言い放った。
むしろ何処か呆れたような色が、表情と声に表れている。
(制裁だって?)
こなたは面食らった。
しかし、こなたの困惑など全く気にも留めずに、新見が平井の後を継いで発言した。
「例えば泉さんはさ、悪い事をして先生や親から注意されて嫌な気分になった時、
それをイジメだと認識するの?イジメとは全く違う種類のものだよね?
混同するのは、幼稚な屁理屈でしかないって」
(どっちが屁理屈を言ってんの)
こなたは心の中で吐き捨てた。
370:審判
08/12/28 20:21:54 PehOT5XF
(確かに、注意とイジメは違う。でも、これの何処が注意なんだ?
こっそりと、文句を書き連ねた手紙を投函しておきながら、
嫌がらせではなく注意だと言い張るつもりなの?
そういうのこそ、屁理屈だって言うんだよ)
心の中に浮かんだ言葉を、声にして伝えようとこなたは口を開きかけた。
しかし、新見を見た途端、こなたが声にしようとした言葉は喉に詰まってしまった。
こなたが見た新見は、至って真面目な表情をしていた。
屁理屈を言ったのではなく、自分はあくまでも正論を言ったのだという自信が、
その真面目な表情に漲っていた。
(この人、苦し紛れの屁理屈じゃなく、本気であれが注意だと思いこんでるんだ。
ああ、そういえば…)
こなたは、手紙の文面に対して覚えた違和感を思い出していた。
そう、手紙にはこなたに対する非難の言葉こそ所狭しと並んでいたが、
単純な中傷文句は一つとして書かれていなかった。
(本当に、あれは、注意や批判、非難のつもりだったんだ。
嫌がらせという意図なんて、心底無かったんだ…)
この二人に、悪意はない。
その事に思い至ったとき、こなたは背筋が凍りつきそうな程の恐怖に襲われた。
自分は今、悪の立場に立っているという事を、心底痛感させられてしまったのだ。
そして、もう一つ。平井の放った制裁という言葉もまた、
こなたのその悲観的な思考に拍車をかけていた。
(私が糾弾される悪の側で、この二人は悪を糾弾する正義の側なんだ…。
悪だとか正義だとかいう言葉は大げさかもしれないけど、
少なくともこの二人は自分達の行為に、
非難の言葉を書き連ねた手紙を投函した行為に一切の罪悪を感じていないんだ。
それどころか、正当な行為であるとすら信じ込んでいるんだ…)
こなたは、とあるテレビ番組を思い出していた。
殺人加害者の実家が映されたニュースだったが、塀には落書きがなされ、
また、時折投石を受け窓ガラスも割れるという事だった。
そのニュースはこなたに一つの衝撃を与えていた。
世の中には、悪というレッテルを貼られた者に対しては
何をしてもいいと思いこんでいる輩が居るという事。
それが、こなたには薄ら寒かった。けれども、その時は遠い世界の話のように思えてもいた。
しかし、そういう思考をする輩は、案外と身近な所に居た。
それがこの二人、平井と新見だ。
「虐めっ子」というレッテルを貼られたこなたに対し、
正当性を確信した嫌がらせ─二人に言わせれば、注意或いは”制裁”─を行ってきた。
(あの時のニュースの、加害者家族の立場に、私は今立たされているんだ。
レッテルを貼られた者、という意味で)
こなたはこれ以上ものを考えるのも億劫になったが、すぐに別の思考が頭をもたげた。
(いや、でも、この二人、本当に自分達の行為を正当なものだと思っているんだろうか。
もし、正当なものだと思っているのなら、隠れてこそこそと手紙投函なんて真似するだろうか。
もし、心底正しいと確信していたのなら、
こそこそせずに堂々と私に絡んでくれば良かったんだ)
一条の光明を見たような希望と、一筋の蜘蛛の糸でしかない頼りなさの同居を感じながらも、
その思考にこなたは状況好転を委ねた。
「ねぇ、本当に、自分達の行った事は注意だと思っているの?
注意だと言うのなら、どうして匿名の手紙を投函するなんて陰険なやり方をしたの?
自分達が正しいと思っているのなら、正々堂々と正面切って言えなかったの?
後ろめたいところがあったから、嫌がらせ、つまりはイジメだという認識があったからこそ、
こんな陰険な事したんじゃないの?」
371:審判
08/12/28 20:22:43 PehOT5XF
それに対し、新見は怯む事無く返答してきた。
こなたを睨みつけている平井の表情にも、一切の翳りは感じられない。
「怖かったんだ。泉さんってさ、格闘技やってるって話聞いたから。
だから、こそこそと隠れてやる必要があった」
新見はそこで言葉を切ると、瞳と声に力を込めて続けた。
「でも、もう安全な場所から、なんていうのは終わり。恐れていたら、柊さんが救われないから。
泉さんの暴力なんて、もう恐れない。私は」
「私達、だろ」
平井が口を挟んだ。その言葉に勇気付けられたのか、
なお一層新見の言葉に力が篭った。
「私達は、正々堂々と泉さんを糾弾する。
イジメを、B組から根絶させる。貴方なんかに、負けはしない」
そう言い切った新見の表情も、また力添えをした平井の表情にも、
威風堂々としたある種の清々しさがあった。
また、二人の瞳には、同じ種類の炎が燃えていた。
自らの正当性を確信し、敵と認めたものに対する一切の配慮を無くさせるあの炎。
そう、こなたは二人の瞳に、揺らぐ事のない正義の炎を感じ取った。
(私は…そこまで悪いの?
そこまで私は、悪いことをしたの?
もしかして私は、到底許されないような事をしてしまったの?
現に、つかさからのメールは返ってこないし。実際に私は、
途方もない悪行を働いてしまったのかな。
許されるの事のない、イジメをしてしまったのかな…)
こなたは呆けたように考えた。
止む事のない疑問が、こなたを苦しめていた。
気が付けば、既に新見の姿も平井の姿も眼前にはなかった。
代わりに、昇降口は登校してくる生徒でごった返していた。
こなたはあまりにも長い時間放心してしまった事に気付くと、
足早に教室へと向かった。
(早く授業始まってよ…)
考えを紛らわす事のできるタスクを渇望しながら、こなたは階段を駆け上がった。
372:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/28 20:25:23 PehOT5XF
>>365-371
今日はこれで終わりです。
また。
373:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/28 20:56:49 xOA1j3J7
とんだ友情ごっこだ
374:グレゴリー
08/12/28 21:04:17 KE473srj
お前ら、なんで今まで友人やってたのかとw
こなたの怒りの暴走を期待!
375:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/28 22:25:26 tvkbdCAy
平井&新見ひでぇwww
376:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/28 23:54:46 QymI0sIG
GJ。楽しみにしてるよww
377:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/29 03:42:46 2lEUd6+f
\ 黙れ! カス共! 鼻ぴーでも付けてやる! /
\ ゝ‐<::./::./ .::.::.::.::\/ | .::.::.::.::.::.:: /::.::.:|::.::.::.::.::.::.::.:::
\ 〃 / _ ヽ:/::.::.::.::.::.:/\ |::.::.::.::.::.:: /::.::.:: |::.::.::.::.::.ヽ::.::
{{ / / __ ヽ ',.::/::./ `ー |::.::.::.::.:: / |::.::.:/|_::.::.::.::.:l::.::
. ─ | ! /●) } |イ斤テ左≡ォz /::.::.::.::/ 斗七 !::.::.::.::.::.::.|::.::
. ∧ ヽヽ _/ /::! レヘ :::::::::/ /::.::. / j / | .::.::.::.::.:: |::.::
. , -―ヘ `ー /.::.| rー'゚:::::::/ /::.:/ テ左≠=ヵ::.::.::.::.::. |::.::
____/ { /.::.::.| ゞ辷zン // う。::::::7 /イ .::. |::.::.::.|::.::
彡_/ ヽ イ ::.::. | /ヘ:::::::/ |.::.::.:|::.::.:∧::.
〃 V ヽ ヽ.::.: | ヾ辷:ン /:l::.::./!::.:/
l { ∨ }__.::.|\ <! ・ /::.l::|::./│/
ヽ ヽ {  ̄ ̄ ̄`ヽ _ イ::.: l::|:/ j/
、 \ \ } ) / ̄ ̄ ̄l7::.:|::.::.j::l′ /
378:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/29 09:20:05 0v64Wcmc
後2日しかねーぞ!
早く自殺させるんだ!
379:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/29 11:08:35 BKBMGAzn
こなたが自殺した後つかさを含めた他の奴らに過ちに気づいて欲しいな
380:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/29 18:36:21 IRDaWaFL
>>379
どうかね
この人のSSには、
『自殺に追い込んだ側はクラッカーの歯クソたりとも反省しない』が共通してるから
381:名無しさん@お腹いっぱい。
08/12/29 18:48:23 +h73/40g
こんばんは。
>>365-371の続きを投下します。
382:審判
08/12/29 18:49:08 +h73/40g
*
昼休みになると同時に、こなたは教室を出て食堂へと向かった。
ここまでの半日は、散々だった。
針の筵なのは相変わらずだが、昨日よりも確実に今日の方が辛い。
どんな最悪な環境でも、慣れてしまえばどうという事はないらしいが、
慣れる前に病んでしまうような気さえした。
また、慣れというものはその環境が持続するからこそ生ずるのであって、
日に日に環境が悪化していくのなら慣れる余地なく壊されるしかない。
実際、あれ程苦痛を感じていた昨日に比べてさえ、
今日のこなたを取り巻く状況は悪化している。
こなたがそう感じた大きな要因は、二つある。
一つは勿論、朝の出来事である。新見や平井との間で交わされた口論は、
こなたの心に元からあった猜疑心をより一層大きなものへと育て上げていた。
即ち、『私は本当に許されない事をしたのかもしれない』という疑念である。
こなたは、授業中もその事について考えを巡らせていた。
いや、考えを巡らせていた、という表現は正確ではない。
実際、無自覚に発せられてくる心の声に抗っていただけなのだ。
心はこの問いを発し続けていた。
『私は本当に許されない事をしたのかもしれない』という、問いを。
それに対し、こなたは必死になって否定し続けた。
しかし、否定すれば否定するほど、別の声がこなたを刺したのも事実だった。
『反省していないね』という、かがみからも今朝の二人からも言われた、
その言葉が、彼女達の声で心に響き渡った。
朝のやり取りは、確実にこなたの心に包囲網を形成し、
徐々に、だが確実にこなたの精神を追い詰めていたのだ。
そしてもう一つが、昨夜つかさに向けて送ったメールである。
そのメールに対する返信が未だないだけならまだしも、
当のつかさは、そのようなメールを受け取った覚えがないかのような風体で今日を過ごしている。
(何らかのリアクションがあってもいいはずなのに。
もしかして、虐めだと思っていないのは世界中で私ただ一人だけで、
当のつかさもイジメを受けたものだと思っているのかもしれない。
だから、私を許す気になれずにメールに対して何の反応も示してこないのかな)
こなたは不安に駆られながら、重い足を引きずるようにして歩いた。
その二つの要因は、確実に昨日よりも今日を辛いものへと変貌させていた。
(でも、今日さえ乗り切れば明日は土曜日。休みを二日程度挟んだからといって、
クラスメイトの態度が軟化するとは思えないけど、学校から逃れてはいられる、か)
「おー、ちびっ子ー。暗い顔して歩いてんなー」
明るい声で、こなたは我に返った。
「みさきち…」
振り向けばそこには、場違いな程の明るい笑みを顔に浮かべたみさおの姿があった。
(いや、この場所では、学校ではそれが正しいんだろう。
場違いなのはむしろ、私のほうか)
あやのもみさおの近くに居たが、
携帯電話を操作していて、話に加わってこようという態度は感じられなかった。
(どうせ、かがみから何か良からぬ事聞かされてるんだろうな。
私と話すのは嫌だから、携帯電話を操作するフリしてるだけなんだろうな)
気まずい雰囲気の元では、よくある光景である。
383:審判
08/12/29 18:49:56 +h73/40g
「なー、ちびっ子ー。柊と喧嘩したんだって?」
無遠慮に、みさおは尋ねてきた。
「関係、ないじゃん」
こなたは吐き捨てるように言った。
「関係ないって言えば関係ないけどな。
でもなー、どうせお前が悪いんだろうから、早いトコ謝っとけよ」
こなたは無言でみさおの顔を睨みつけた。
みさおはこなたの剣幕に驚いたのか、二、三歩後ずさった。
「いや、柊から聞いたところだと、お前に原因があるみたいな言い方だったからな。
まぁ双方共に言い分はあるだろうさ。
でもさ、柊ってプライド高いじゃん?自分から謝るなんて事、しないと思うんだよ。
だからまぁ、ここはお前が折れといた方がいいと思うぜ」
「かがみからは…何を聞いてるの?」
探るように、こなたは尋ねた。
みさおは困惑気味に視線を逸らして沈黙した。
「ねぇ、何を聞いてるの?本当にかがみは、私と喧嘩してるなんて言ってたの?」
こなたは重ねて問いかけた。
観念したように、みさおは重々しく口を開いた。
「いや、柊が言っていた事、丸々信じてるって訳じゃねーんだけど、
柊は、お前が柊の妹を虐めてるって言ってたな。
それが原因で、交戦状態にあるみたいな事も、言ってたな」
「そう」
こなたは言葉短く呟くと、背中を向けた。
「どうせみさきちも、私が悪いと思ってるんでしょ。
って、さっき言ってたね。どうせお前が悪い、って。
はいはい、どうせ私は虐めっ子だよ。
好きなだけ後ろ指刺してればいい」
こなたは自棄気味に吐き捨てると、そのまま歩いていこうとした。
しかし、みさおがその肩を強く掴んでこなたを引き止めた。
「ちょっと待てって。さっきのは軽い冗談だよ。
私は、別にちびっ子だけが悪いとは思ってないって。
ほら、柊って妹溺愛してんじゃん?
だからさ、少なからず妹を贔屓目に見ちゃってると思うんだよ。
それで、上手く言えないけど、お前だけが悪いわけじゃないと思うというか…。
柊や妹の方にも、反省すべき点があるんじゃないかというか」
(軽い冗談か。それで済めば、私は何も苦しまなかったよ。
軽い冗談のノリでつかさに向けて発言していた事が、
イジメっ子として糾弾される原因の一つになったんだから)
「軽い冗談?そうは聞こえなかったけど」
苛立ちを隠そうともせず、こなたは怒気を露にして言い返した。
みさおの言った事を軽い冗談と受け止めて水に流せば、
水に流してもらえなかったこなたとの間に不公平が生じる、そうこなたは考えた。
自分が言った時は許されなかったのに、自分が言われたら許すのか、と。
(そんなに聖人君子じゃないよ、私は)
「いや、謝るって。な。だからさ、ちびっ子も柊に謝れよ。
また皆で仲良くやろうぜ。こんな刺々しい空気に巻き込まれてんの、ごめんなんだよ。
私が仲介役買って出るか」
「うるさいっ」
こなたは振り向き様にみさおを突き飛ばした。
不意を衝かれたみさおは勢い余って、廊下に尻餅を着く格好になった。