08/08/26 21:21:16 VnDDf/bN
「泉さん……!!」
肩で息をしながら、みゆきは陽光に照らされ佇むこなたを呼んだ。
こなたの立ち位置、屋上からの風景を合わせれば綺麗な絵になりそうだ。
しかしそれを見つめるみゆきには鬼気迫るものがあり、状況を楽しむ気にはなれない。
「何ですか、これは? ……こんなものを置いて……」
呼吸を整えながら、聞きたかったことを訊く。
”さよなら でも気になるなら屋上に来て”
乱雑な字体で書いてある。
「気になるなら……なんて…来てほしいならそう書けばいいじゃないですか」
珍しくイラついていた。
こなたに振り回されているようで腹立たしかった。
「別に……みゆきさんが気にならないならそれでいいと思ってたよ。どうせやる事は同じだしね」
ほとんど唇を動かさずにこなたは答えた。
目は笑っているのか怒っているのか、泣いた後なのかどうかすらも分からない。
「やる事? 同じ? 何の話です?」
博学のみゆきは探究心が強いというわけではなく、知識として蓄えたいという欲望があるだけだ。
なまじ頭がいいだけに自分が知らないこと、分からないことに対しては人並み以上の恐怖を抱いてしまう。
今がまさにそれだ。
こなたのやろうとする事も、言っている意味も、何も理解できない。
「みゆきさんでも分からないんだね」
一番言われたくない言葉を、一番言われたくない相手から浴びせられてみゆきは拳を握り締めた。
「何のつもりか分かりませんが、そんなに――!?」
言い終わらないうちに彼女は見た。
こなたの真後ろ。転落防止のフェンスにぽっかりと穴が空いている。
切り取られたような空間は、人ひとりが通り抜けるには十分な大きさだ。
「私さ、みゆきさんとはいい友だちになれると思ったんだ。最初、話しかける時は緊張したよ。
すっごく綺麗な人だから、声かけにくいなって。でも頑張ってお昼ごはんに誘ったんだ。
だってそうしないと何も始まらないもんね」
「い、泉さん…………?」
なぜこのタイミングで思い出話なんだ、と。
みゆきは状況を把握しようとしたが。
熱くなった体が思考までも止めてしまう。
「綺麗なだけじゃなくて頭もいいんだってすぐに分かったよ。同じクラスで良かったと思った。
嬉しかったな。だってこんなに人と親しくなったのって初めてだもん」
「泉さんッ!!」
「だからみゆきさんが私と同じようにいじめられてるって分かった時、どうしようと思ったよ。
本当はすぐに助けたかった。でもやっぱり怖かったんだよね。迷ったよ、すごく」
「いずみさんッッ!!」
「だけどこのままじゃ駄目だと思って……かばうなんて偉そうなこと言うつもりはないけど。
でも助けたかった。それで私が目の敵にされてもしかたないかなって―それで」
「やめてくださいッ!!」
みゆきは怒鳴った。
「みゆきさんが目をつけられたのって、あの3人組のせいでしょ? 吉田さんだっけ?
あの人たちが仕向けたんだよね? 私、分かってたよ」
「………………」
「違うクラスなのになんでって思ったけど。いじめにクラスなんて関係ないもんね。
やっぱり”いじめられやすい人”ってあるんだよ。私もみゆきさんも同じだったんだ。
そういう雰囲気ってすぐに伝わるからね……分かるでしょ?」
淡々と語るこなたの口調が怖かった。
みゆきはすぐにでも飛びつき、その口を封じたかった。
だが、できない。
足を何か、もの凄い力で掴まれているようにその場から動けなかった。
「私もみゆきさんと同じだから……だから助けたんだよ? それなのに…………!!
ひどいよ! ひどいよ、みゆきさん!! 裏切り者ッ!!」
声を限りにこなたが叫ぶ。
(裏切り者……)
その一言が刃となって突き刺さる。
576:罪咎深き賤しい女39
08/08/26 21:22:29 VnDDf/bN
「チビッ子!!」
真っ先にやって来たのはみさおだ。
「こなた!!」
やや遅れてかがみ、そのすぐ後ろにあやのがいる。
光景を目の当たりにしたあやのは眩暈を覚えた。
(泉ちゃん……やっぱり……)
「お前! 何やってんだ!!」
みさおがみゆきを睨みつけた。
彼女の位置からは、みゆきがこなたを追い詰めているように見える。
「…………ッ!!」
―振り向いた。
怯えきった顔で。
レンズの奥に様々な感情を混じらせて、じっとみさおを。
見るのではなく、視界に捉えた。
「みさきち……」
みゆきの後ろに立つ3人を、こなたは愛でるように見つめた。
「こいつに何か言われたのか!?」
みゆきから目を離さないようにして、みさおが問うた。
冷たい風が吹いた。
「はぁ……はぁ……お姉ちゃん…こな…ちゃん…………」
青白い顔をしてつかさがやって来た。
顔を上げた瞬間、飛び込んできた光景にさらに顔が青くなる。
「なに…なに……どうなってるの!?」
状況が把握できない。
ここにいるのは誰もが見知った顔だが、漂う異様な雰囲気が全くの別人に思わせた。
「こいつがチビッ子に―」
「違います! 違います!」
みゆきが慌てて否定した。
しかし虚しい叫びだった。
誰がどう見てもみゆきがこなたを追い詰めているようにしか見えない。
「違うんです! 違うんです、私は何も……!!」
「もういいよ」
取り乱すみゆきを、こなたの凍りつくような声が押さえつけた。
「今さら”何もしてない”なんて言わないよね? みゆきさん」
艶美な微笑を浮かべて―。
身も心もボロボロに傷ついた少女は、この空間に流れる空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
「賭けだったんだ」
こなたは背を向けた。
小さな体が今はよけいに小さく見える。
(こなた?)
かがみが目を細めて背中を見つめた。
「何日か休んでみて……それで急に学校に来たらどうなってるかなって」
「…………」
「ほとぼり冷めてるかなって。みんながほんの少しでいいから悪いと思ってくれてたら―。
でもやっぱり駄目だったね。甘かったよ」
細く吐き出す声は全てを諦めているようだった。
「私なんていないほうがいいんだよね、きっと」
相変わらずの眠そうな目で。
文字通り永遠に眠ってしまいそうな目で。
「なにバカなこと言ってんだ!!」
その眠気を吹き飛ばすようにみさおが怒鳴った。
「いないほうがいいなんて言うなよ! そんな奴、世の中に1人だっていないんだぜ!?
自分の値打ちを自分で勝手に決めるな!」
(日下部…………)
かがみはみさおの意外な一面に触れて感銘を受けた。
「そそ、そうですよ泉さん! 考え直してください!」
不細工な作り笑顔でみゆきが同調した。
このままでは、こなたは想定する最悪の行動をとりかねない。
何としてでも食い止めなければ。
この場にいる誰もがそう思った。
577:罪咎深き賤しい女40
08/08/26 21:24:20 VnDDf/bN
「みさきち、ありがとね。でも、もういいんだ。クラスには居場所はないし……それに皆にも迷惑かけたくないし」
「バカ! 誰も迷惑だなんて思ってないわよ!」
かがみが叫んだ。
「思ってなくても、私がいたらそうなんだよ。かがみたちにこれ以上、気を遣わせたくないんだ」
「なんでよ……なんでそうなるのよ……」
「こなちゃん、駄目だよ! 私たちが何とかするから! だからお願い―!!」
「泉ちゃんは何も悪くないのよ? そんな考え方するのは間違ってるわ!」
もう何も見ていない様子のこなたに向かって、彼女たちは口々に呼びかけた。
「みゆきさん」
虚空を見つめながらこなたが吐いた。
「このほうがいいんでしょ? こうなったほうがいいんでしょ? そうだよね……みゆきさん」
「やめて! やめてください、泉さん!」
こなたが一歩、足を踏み出した。
「私がこうするのを待ってたんだよね? 私に隠れて陰で私を嗤(わら)って―。
おかしいよね。助けてあげたのに、みゆきさんにいじめられるなんてね…………」
さらに一歩。
「ち、違うんですッ! 泉さん、あれは―!!」
もう一歩。
「よかったね、みゆきさん―」
フェンスをくぐりかけたその瞬間、みゆきの横を影がかすめた。
巻き込まれた風がそのすぐ後を追い、勇ましい少女の背中を押した。
「チビッ子!!」
地を蹴り、前のめりになりながらみさおは走った。
今までよりもずっと速く。
わずかな距離、わずかな時間である。
心臓が破裂しそうなほどの動悸が襲った。
だが構わず走った。
手を伸ばせば―。
まだ間に合うと。
「………………」
最後の一瞬、こなたは肩越しに振り向いた。
そしてそのまま―。
こなたは落ちた。
「チビッ子オオオォォォォッッ!!」
指先にわずかに触れた袖の感触を残して。
こなたは落ちた。
2秒後に鈍い音が響き―。
―全てが終わった。
「こなた……!!」
かがみも、つかさも、あやのも。
フェンスの穴の向こうを見つめたまま動けなかった。
「今だれか落ちたぞ!」
「ちょ、こっち来てみろよ!」
「スゲェ……」
遠くで声が聞こえる。
「どうして…どうして……」
あやのがうわ言のように呟いた。
「なにやってんだよ……」
フェンスのへりを掴んでみさおが恨めしげにこぼした。
ふらり、とかがみが校舎の中へ入ろうとする。
「お姉ちゃん、どこ行くの?」
「決まってるでしょ。こなたのとこ」
「わ、私も……」
その言葉に呪縛が解かれたように、あやのも慌ててその後を追う。
残されたみゆきは呆然として立ち尽くした。
現実離れした出来事に思考が追い付いていない。
何が起こったのか。それすら理解できずにいた。
578:罪咎深き賤しい女41
08/08/26 21:25:29 VnDDf/bN
「………………」
下の喧騒と上の沈黙が完全に世界をふたつに隔てた。
ゆっくりと、ゆっくりと。
みさおは立ち上がり―。
自分とほとんど同じ表情をしているみゆきの顔を―。
思いっきり殴りつけた。
「…………ッッ!?」
一瞬の激しい衝撃にみゆきが倒れ伏す。
左頬に痛みが走ったが、それが殴られたことによるものだと判るのに数秒がかかった。
顔色ひとつ変えず俯いたままのみゆきを、みさおは憎悪の目で見下ろした。
右手がジンジンと痛む。
同性を、しかも拳で殴るなど後にも先にもこれ一度きりかもしれない。
(………………)
なにか言いたげなみさおは、しかし何ひとつ言葉が浮かばず、歯痒い想いで屋上を後にした。
579:JEDI_tkms1984
08/08/26 21:26:53 VnDDf/bN
今夜分はここまでです。
明日か明後日には完結に運べると思います。
それでは、また。
580:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/26 22:01:30 dZLSxKCO
空気読まないですみません、PSPから。>>569のことですが明後日になります。
581:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/26 22:03:39 dZLSxKCO
あわててsage
582:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/26 22:16:14 5IdY65Nv
>>579
乙です。
さて、これからみゆきさんはどうなることやら・・
何故か虚像と実像のみゆきさんほど憎めないのは何でだろう
>>580
短期間に慌てて急いで書かなくて大丈夫です。
じっくり時間をかけて納得のいくものを作るのもいいかと。
583:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/26 22:39:10 tARJCMIJ
>>579乙。
さてこなたが身を投げた事でみwikiはいじめられっ子に逆戻りか?
しかも・・・・・っておっとこれ以上は思考回路がシンクロしてそうだから止めとこう・・・・・
どうケリつけるかに今からwktk。
584:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/26 23:03:45 YB5TlWxl
>>579
乙
後追いで終わりか・・と思ったら違ったな
まあwktkしながら待ってますー
>>583
それはないと思うけどなぁ
585:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/26 23:25:40 oj06o84D
>>579
乙。
文章力凄いなー。思わず引き込まれたよ。
台詞とか凄い迫力。
586:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/27 00:54:13 TEwLd0EI
>いじめられっ子に逆戻りか?
そうなった場合、かがみ達がみゆきを助けるか否かによってみゆきの考えが正しいか否かが決まるな
587:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/27 01:02:28 eSYCkg6T
みゆきって今回自分の考え披露してなくね?
みゆきがかがみ達に向かって演説したくだりは、
みゆき自信が切り抜ける為の詭弁だと認めているし。
それはそうと、次スレの時期だな。
588:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/27 04:14:37 0xdImswR
>>579
乙です。みwikiはどうなるやら・・・。
>>531
乙です。ビッチに乾杯。
>>533
飲んだくれてます。最近筆が進まず。
『アルバイトV』は9月以降に投下したいと思ってます。
てか勢いでペンタブなんぞ買ってしまいました。
美術2だったのに、どうしてくれよう。
URLリンク(up2.viploader.net)
589:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/27 04:37:11 ITUzQZSl
>>588
>てか勢いでペンタブなんぞ買ってしまいました。
なんという俺
筆が進まなくなると蛇行してしまう気持ちが痛いほどにわかるw
590:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/27 10:23:15 ofFZ1LrS
>>588なんか俺がいる
591:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/27 10:36:24 ofFZ1LrS
金曜日にこなたの恐怖投下
592:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/27 11:05:52 SB9txKYc
やあ (´・ω・`)突然だが、君に【呪い】をかけたよ
今年は「人生最悪の年」になる呪いだ。
ああ、君が怒るのも無理はない。 落ち着いて欲しい。
この呪いを解くには方法はただ一つ、↓のスレに
スレリンク(anichara2板)
どうしておじちゃんたちロリコンなの?
と書くだけなんだ。しかも書けば書くほど今度は幸運度がグングン上がるんだ。
それじゃ健闘を祈るよ。
593:JEDI_tkms1984
08/08/27 12:20:07 wKbdAJ5E
少し前に完成しました。
予定通り、今夜9時過ぎを目途に投下しますのでよろしくお願いします。
594:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/27 12:58:45 R6Rez1t6
>>593
今から楽しみです
wktkしながら待ってます
595:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/27 14:51:40 gYJgITak
>>594
楽しみでしょうがない