「泉こなたを自殺させる方法」を考える24at ANICHARA2
「泉こなたを自殺させる方法」を考える24 - 暇つぶし2ch2:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/30 23:06:01 CIqN8lBP
        /二二ヽ
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3:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/30 23:06:28 /VeI2Wia
>>1続き

こっそりと、つかさビッチも兼ねてたりします。
目指せ独立。

4:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/30 23:07:57 /VeI2Wia
ああ、言い忘れた。SS投下とかは、なるべく前スレ使いきっちゃってください。
それまでは、このスレの保守も必要だろうけど。

5:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/30 23:22:50 NhnnPRI8
         / /         |    ヽ   /      , ´
 気 方 こ 弋´  /     ___| \  〉-/_,. -‐     /
 持  が な   .> /   /―-ヽ__Y^y      /
 ち  も ち  (_ /   /-―- ./ /   爪     /
 悪  っ ゃ  (/   /´ // /`/  /://:::|`―< ヽ
 い  と  ん   \ /  //_∠__/  /://::::,' |l \〉 .ハ
 よ    の /⌒ 7 /ィ≠''''ニミヽ/:://::::/ /l l:| |∥ |
!!      |   //_イ/ /  ', }}::::::〃::::/./:/ヽl:| | l| |
         弋 //::::  /  / / ::::/::::::/厶〈 ハ | | ∥
         /⌒,/:::::::  l   /.::::::::::::::::/,イΞミ〈// 人_人||人_ノ
ヽ/⌒ヽ(⌒Y  /:::::::::::ヽ _ー::::::::::::::::::::::::: / } |l<
   | .|| | |l  |       ::::::::::::::::::::: / / / jj::::::} は は あ
   ヽ|| | |l ∧   ト⌒\   ::::::::: し _〃:<  は は っ
     ヽ从ハ | ヽ   |  \ ` 、 ′ ヽ..::::::::::/  ) ぁ. は は
   _ /ヘ| \ ヽ   `ヽ、__フ   :::::::/<   l   は は
         |   \   _)/      / / ヽ !! は は
            l:::>  __,   -‐ ´ /_ノ     は は
            l:/ =ニ二三≠イ //  `ヽ

6:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/31 03:59:33 tIxkmMRY
コミュニケィションブレイクダンサーッ

7:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/31 10:23:06 Hbn5tU51


8:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/31 18:37:54 FCa3Vet3
さて、前スレが埋まったわけだが。

9:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/31 21:15:24 5c91otJP
>>1 乙こな

10:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/31 21:39:19 kIJsU8qA
そこそこの評価を得ているようで安心しています。
少し早いですが今夜も投稿してよいでしょうか。

11:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/31 21:40:41 hZfqy8/C
わざわざ訊く必要は無い
投下宣言だけしてくれれば良いよ

12:虚像と実像8
08/07/31 22:02:40 kIJsU8qA
了解。
では今回もキリよく止めます。



 つかさやみゆきが放った言葉よりも遥かに残酷だった。
聞かなければ良かったと思う反面、聞けて良かったとも思えた。
『前の学校でいじめに遭ってたんじゃないの?』
はぐらかされるのを恐れ、かがみは単刀直入に訊ねた。
言ってからもっとマシな表現はなかったかと後悔したが遅い。





思ったとおり、こなたはいじめられていた。
小学校の低学年から中学卒業までずっとだと言うから、10年近くいじめられていたのだろう。
小さい頃からマイペースだったこなたは、よく大人から協調性に欠ける子だと言われていた。
我が強いほうで、クラスやチーム単位で行う行事でもおかしいと思うことには毅然と主張した。
といって狷介不羈(けんかいふき)な性格ではなく、周囲に合わせるところは合わせていた。
前述の協調性云々という評はつまるところ、
『他の子に比べて事物に異を唱える回数が多いのが目立つ』
という程度で人格的にはさほど問題ではなかったハズだった。
しかし大人もそうだが、子供は特に和を尊び異を忌み嫌う。
こなたは良い意味でも悪い意味でも目立ちすぎた。
たとえば体格をとっても、彼女は平均を遥かに下回るほど背が低く華奢だ。
身体的特徴も子供にとっては格好の標的となる。
いじめは突然に始まった。
物を隠される、机の中にゴミを入れられる、黒板にあらぬ噂を書き並べられる。
そういうところから始まり、殴ったり蹴られたりとエスカレートしていく。
おそらく小さな体躯がいじめられやすい要因のひとつとなったのだろう。
小学5年生頃になると完全に無視されるようになり、こなたの居場所はなくなった。
先生にも何度も助けを求めた。
しかし、他の子も見ないといけないからという理由でまともに取り合ってはくれなかった。
担任にとって、こなたいじめは無くてはならない存在だった。
すでにクラスメートはこなたという共通の敵を作ることで強く団結している。
勉強にも身が入り成績も上がったし、運動会ではクラス対抗の種目で必ず勝利を得た。
ケンカもなくなった。学級会の話し合いもすぐに終わる。
クラスメート全員が強い絆で結ばれていたからだ。
こなたをいじめることでストレス発散になり、その行為自体がクラスの価値をあげた。
教師たちはそろって、
「あんなにまとまりのあるクラスは初めてだ。自分も見習いたい」
と言っていた。
皮肉にもこなたはそれを聞いてしまった。
自分のことなど誰も助けてくれない。
大人は大多数がまとまっていればそれでよく、まとまりを切り崩してまでたった一人を助けようとはしない。
毎日、新しい傷を作って帰ってくるこなたに、そうじろうは幾度となく訊ねた。
その度にこなたは転んだとか、ぶつけたとかと言ってごまかした。
父親に心配をかけたくなかった。
言えば騒ぎになる。
そうなればまたいじめられる。
中学校に進学してもそれは続いた。
違う小学校からやって来た生徒と友だちになる。
お互い入ったばかりで緊張しているから、こういう時は見知らぬ相手でもすぐに打ち解けられる。
だがそれも長くは続かない。
こなたをいじめていた連中が陰で手を回していたからだ。

13:虚像と実像9
08/07/31 22:04:15 kIJsU8qA
あっという間にこなたは孤立。
小学生当時よりもさらに酷いいじめを受けた。
部活もやらず、学校に行く以外はずっと自宅にこもっていたこなた。
本を読んだりテレビを観たりしていたが、入ってくる情報はどれも虚しいものばかり。
ある時、そうじろうが隠し持っていたゲームを見つけたこなたは、こっそり自室に持ち込み遊んでみた。
典型的なギャルゲーだった。
恋愛重視で過激な描写は抑えられている、全年齢対象のソフトだ。
主人公の男の子は転入したばかりの学校の文化祭の準備を手伝わされる。
転校初日から文化祭当日までにフラグを立て、登場する女の子と結ばれればクリアだ。
ストーリー自体はつまらなかった。
誰でも書けそうなプロットだった。
が、こなたは何年ぶりかに誰かに声をかけてもらった気がした。
小学校高学年から続いた無視といういじめは、舞台が変わってもそのまま受け継がれている。
彼女が話す相手は今やそうじろうだけになった。
だからキャラクターがこっちを向いて喋ってくれるゲームは、こなたにとってはオアシスも同然だった。
『ありがとう』とか『大好き』という何度も聞きたい言葉はロードを繰り返せばいい。
気に入らないキャラや嫌なセリフがでるところはスキップすればいい。
こなたはそうじろうに頼んでこの手のソフトを何本も買ってもらった。
そうじろうはゲームに没頭する娘を不憫に思ったが、それが娘のためだと分かると彼女の望むとおりにした。





「でも3年の時は一生懸命勉強したんだ。陵桜は成績のいい子が集まるって聞いてたから。
そしたら私をいじめる子もいないんじゃないかなって……それに家から遠かったし」
淡々と語る口調がかがみには怖かった。
「知らなかった……あんたがそんな……」
かがみは言いよどむ。
先ほど異常なくらい取り乱していた理由はこれだったのか。
『話しかけないでほしい』
2人のこのセリフは、つまりこなたを無視したいというのと同義だ。
もちろんあの2人が今後、こなたを陥れたりすることはないだろう。
あくまで距離を置きたいというだけでそれ以上の意味はないハズだ。
しかしこなたにとってはそうではない。
毎日が地獄だったあの頃の記憶が甦り、何とか食い止めようとした。
その結果がこれなのだ。
「ゲームばっかりやってて、人付き合いができなくなった、なんて言わないよ」
こなたは自嘲気味に言った。
「みんなのこと、ちゃんと考えてなかったのは私だから―」
あんな風に拒絶されても仕方がない、とこなたは言った。
「…………っ!?」
かがみは無意識のうちにこなたを抱きしめていた。
少しでも彼女の苦痛が和らげばそれでいい。
ツンデレと揶揄われてもかまわない。
辛辣な過去を持つ友人を放っておけるほど、かがみは薄情ではない。
「…かが……み……?」
強く抱擁されて息苦しい。
なのに心地よかった。

14:虚像と実像10
08/07/31 22:05:36 kIJsU8qA
「こなた」
かがみが呼ぶ。
こうしておけばその間だけ、こなたと苦痛を共有できる気がした。
2人がこなたに絶縁を言い渡した一因は彼女にもある。
しかし過去、彼女がいじめられる理由はない。
だから先ほどの彼女の反応は本来ならあってはならないことだ。
「あんたがどれだけつらかったか、私には想像しかできないけど。
でも、なんであんたがそんな風になったのかは分かった」
陵桜に入ってもこなたはオタクであることを辞めなかった。
今までと違っていじめられることもなく、彼女が望んでいた交友関係も広げられた。
しかしもはや生活の大部分を占めるゲームやアニメからは離れられない。
楽しいからだ。
かがみやつかさ、みゆきといるのも楽しい。
だが不安は常につきまとった。
プログラムと違い、生身の人間は先の行動が予想できない。
響きのいいことばかり言ってくれるとは限らない。
いつも笑顔でいてくれるとは限らない。
そのために死神のようにまとわりつく恐怖がある。
今回はその死神がいよいよ手にした鎌をこなたの首筋にあてがっている。
そこから救い出せるのは今のところかがみしかいない。
「寂しかったんだろ? ずっと……心を許せる友だちがいなくて……」
こなたは頷いた。
「嬉しかったんだ。みんなと知り合えたこと」
「…………」
「つかさは料理が得意な優しい子だし。みゆきさんは何でも知ってる優しいお嬢様で。
かがみは怒りっぽい感じだけど、でも一番優しいんだって思った」
こなたはみんなに”優しい”という単語をつけて評した。
優しい人間が絶縁状を叩きつけたりするだろうか。
冷静な状態ではそうも考えるが、こなたもかがみもそこまで思考が及ばない。
たとえうわべだけでも付き合ってきたのも、あるいはその優しさの為せる業かもしれないのだ。
「だから、つい甘えちゃったんだよね。私の話、みんな笑って聞いてくれるから。
本当はどう思われてるのかなんて考えたこともなかった……」
こなたが望んでいたハズの友だち。
だがそれを得るのが少し遅かった。
ゲームにどっぷりと浸かっていた彼女にとって―。
現実の友人は、画面の向こうのキャラクターの延長だった。
「迷惑な話だよね。ずっと私に付き合わされてたんだもんね」
ここに来て、つかさの言っていた”ずっと”の意味を考えてみる。
”ずっと”とはいつからだったのだろう。
みゆきも同じ時期から我慢していたのだろうか。
先に痺れを切らせたのはどちらなのだろう。
「こなたがそこまで思いつめる必要ない」
気がつくとかがみも落涙していた。
今までそんな素振りをまったく見せずに気丈に振舞っていたこなたに。
過去を押し殺して明るいキャラクターを演じていたこなたに。
かがみは底知れない強さを感じた。
同時にそれに気付けなかった自分が牴牾(もどか)しくもなる。
ディープな話題を振りまく彼女に、かがみは呆れ顔であしらったことがある。
もっと健全な趣味を見つけろとか、社交性がないとか。
仮想も現実もひきこもりか、と突き放したことがある。
―何より。

15:虚像と実像11
08/07/31 22:06:52 kIJsU8qA

『あんた、私たち以外にリアルな友だち作ったことあるのか?』

こう言い放ったことを、かがみは今でもハッキリと憶えている。
あの時は話の流れで出た言葉だったが。
それを言われたこなたがどれだけ心に傷を負ったか。
かがみは今まで考えもしなかった。
今にして思えばあの時、妙な沈黙があったような気がする。
(私……なんてひどいことを言ってしまったんだろう……)
かがみは悔いた。
今さらそれを蒸し返して謝るのもおかしい気がした。
せっかく陵桜に入学し、陰惨な過去と決別して新たな道を進もうとしていたこなたに。
わざわざ昔の傷を突く発言をしてしまったこと。
知らなかったとはいえ、それも立派ないじめだとかがみは思い悩んだ。
こなたが今のこなたである理由は分かったのだ。
その事実を知っている数少ない人物として―。
かがみにはやるべきことがある。
「こなた」
もう一度呼ぶ。今度はやんわりと包み込むように。
「つらいだろうけど、このこと、つかさとみゆきに話すわ」
こなたの体がビクンと震えた。
「やめて」
「こなたの気持ちは分かる。ううん、分かってるつもりだけど……分かってあげたい」
「だったら言わないで。かがみにしか言ってないんだよ? 他の誰にも知られたくないよ」
「どうして?」
「だってまたいじめられる……」
こなたは小動物のように震えていた。
それが恐怖によるものであることは明白だ。
「あの2人がそんなことすると思うか?」
かがみは問うた。
みゆきは他人だが、つかさは双子の妹だ。
彼女が馬鹿がつくほど正直で優しいことは、姉であるかがみが一番よく分かっている。
「でも……」
と、こなたは逡巡する。
するとは思えないといっても、実際に2人は付き合いをやめたいと言ってきている。
話したところで元の関係に戻るとはどうしても思えなかった。
「ただの空気の読めないオタク、なんて普通誰も思われたくないわよ」
つかさは優しいし、みゆきは良識がある。
こなたの過去を知れば、きっと分かってくれるに違いない。
かがみは確信していた。
だが、当の本人にはまだ迷いがあるようだ。
昔いじめられていた人間と付き合いたいと思うだろうか?
同情しながら接することを面倒だとは思わないだろうか?
こなたは思った。
新しい環境で楽しい学園生活を送ろうと思っていたのだ。
本来なら誰にも知られたくない封印したい過去だったハズだ。
なのに、なぜかかがみにだけは打ち明けてしまった。
その理由が今もって解らない。
もしかしたら彼女なら何とかしてくれる、という期待があったのかもしれない。
絶交を言い渡されて傷ついていたために、つい口をすべらせてしまったのかもしれない。
「ちゃんと話そうよ? このままじゃこなた、ずっと誤解されたままだよ?」
ついさっきまで自分も誤解していたかがみは、何とかして関係を修復したいと思った。
「2人ならきっと分かってくれるわ。隠し事しないのが友だちだろ?」
「…………」
こなたは何も言わない。
しかし彼女は数秒の後、こくんと頷いた。

16:虚像と実像12
08/07/31 22:09:19 kIJsU8qA
 その日は寄り道もせずに帰った。
心配したかがみが家まで送ろうかと言ったが、こなたは大丈夫だと断った。
その後ろ姿に不安を覚えながらも、かがみは自信に満ちた顔で帰路につく。
明日になれば、ひとまず片がつく。
こなたの傷はそう簡単には癒えないが、少なくともいつもの4人でいられるハズだ。
そう確信するかがみの表情は凛々しく、這い寄る闇をはねのける強さがあった。




今夜はここまでにします。
それではまた明日。

17:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/31 22:38:02 MnCoR867
イイヨイイヨ~
つか、出来が良すぎて脳内で公式設定化しそう

18:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/31 22:38:39 dpwZlnHB
投下乙。昔のパターンに似ているけど、違いがあって面白いな。

19:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/31 22:47:15 pCgXrC7U
立体化しても自殺。>1乙
URLリンク(jun.2chan.net)

20:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/31 22:52:25 tIxkmMRY
過去スレのログってdatからhtmlに変える方法ってどうやるの?

21:名無しさん@お腹いっぱい。
08/07/31 23:22:50 FCa3Vet3
>>16
乙。これは期待。
構成自体ハイクオリティだけど、
キャラのメイキングが特にいいね。

>前スレ筋肉氏
またまた笑いました。つかさの飛びぬけたギャグセンスに。
相変わらず個性突き抜けてるなぁ。

22:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/01 00:15:41 NybKbzon
>>16
乙。
これはまたハイクオリティな文章。期待。

23:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/01 01:59:25 ijwqjY/4
>>19
ワロタw
こなたぶらーん

24:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/01 03:17:11 z7c2rriv
大学でスレ保持40なのに最後まで保守してる時を思い出した
懐かしいな…

25:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/01 08:32:21 A+D8+S9r
結局あの時のdatって上がってないよね

26:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/01 08:39:09 32mE84V5
持てるよー

27:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/01 11:20:28 prOrY5vC
足に重りをつけてですね

28:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/01 13:16:12 i62g1rsn
>>10
評判悪かったら続き載せないのかい?
上でも言われてるけど過去の作品のネタ被りがあるから、そこまで面白くないよ。今は。
ラストまで読まなきゃ評判なんて分からないよ。
書き溜めてるならさっさと載せればいいのに。

29:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/01 17:29:50 2EvT2FQw
そんないじめてやるなよ

30:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/01 18:01:06 rkKz7Qtd
てか実際、スルーされたり批判されたりしたら、
途中でも撤退しちゃう人が居るからな。
SS書きに必要なのは、スルー耐性だと思う今日この頃。

31:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/01 18:49:36 nvN0CsNa
スルーというか
自分が投下したレス後直ぐに上手い絵師が来ると正直落ち込む時があるよ

32:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/01 21:12:50 h/XyMKtp
みなさん、こんばんは。
少し早いですが今夜も投下させていただきます。

33:虚像と実像13
08/08/01 21:14:08 h/XyMKtp

「つかさ、ちょっといい?」
夕食を終え、一息ついたところに部屋を訪ねる。
「うん、いいよ」
マンガを読んでいたつかさはポンと置くと入室を促した。
「ごめんね、勉強してた?」
していないと分かっていて訊く。
つかさは苦笑いを浮かべて、うん、とだけ答えた。
「あ、今日はごめんね。ちょっと用事があったから先に帰っちゃって」
つかさは罪悪感を顔いっぱいに出して謝った。
彼女の嘘はすぐにバレる。
そんな妹を可愛いと思いながら、
「隠さなくていいよ。こなたのことでしょ?」
と前半は笑顔で、後半は真顔で問う。
数秒の間があり、つかさは言い逃れできないと悟ったか、
「うん、知ってたんだ……」
観念したように認めた。
「つかさがあんなこと言うとは思わなかったな」
怒っているというより残念そうなかがみの声。
その口調から子細に知っているのだと確信する。
「私も言い過ぎたかも知れないって思うけど……」
つかさはもう姉の顔は見られない。
かがみがこなたを大切に思っているのは分かっているから。
それと同じくらい自分を大切に思ってくれているのも分かっている。
だから揺れた。
「でも本当なんだもん……その、私たちがそんな風に見られてるって……」
そんな風とはもちろんオタクとして見られているということだ。
国際的に高い評価を得ているのはアニメやゲームなどの作品であって、それを愛するオタクは違う。
依然として差別的な目で見られていることをつかさは知っている。
自分とは関係のない事柄で世間から笑われるのは我慢ならない、とつかさは言う。
その気持ちも分かるかがみは一瞬迷ったが、このままでは誰のためにもならないと思い真実を告げることにした。
「あのさ、つかさ―」
かがみはこなたから聞いたとおりに話した。
一切の主観は排してある。
それをしてしまったら不公平だ。
事実だけを告げ、それをつかさがどう受け止め、どう思うか。
そこに関係を修復する鍵があるとかがみは踏んだ。
「本当なの……それ?」
現実離れした話につかさは驚く。
普段のこなたからは到底想像もつかない辛辣な事実だ。
「本当よ」
そう答えるかがみに、それが本当だと証明する術はない。
しかしあの状況でこなたがいじめられていたと嘘をつく動機がない。
こなた自身が証拠だ。
「知らなかった……」
つかさは言う。
当然だ。
知っていたらあそこまで酷いことは言わなかった。
「だからさ、あいつがああなのはそういう理由があるのよ」
「…………」
「何もかも許してやれってことじゃないよ。ただ、そういう事があったってのは知っておくべきだと思う」
判断はあくまでつかさに委ねることにした。
ここから先はかがみがわざわざ言わなくても分かっているハズだ。
「お姉ちゃん、わたし……明日こなちゃんと話すよ」
つかさがそう言ってくれたことが、かがみには何より嬉しかった。


34:虚像と実像14
08/08/01 21:15:22 h/XyMKtp
 翌日、昼休み。
屋上に4人が揃った。
朝一番からつかさはこなたに声をかけようとしたが昨晩、かがみが止めた。
みゆきにも真実を明かしてからのほうがよいと判断したからだ。
午前の4時間はどこかぎこちなさを漂わせながらも、険悪な雰囲気になることはなかった。
やつれたようなこなたに、つかさはごく普通を装って挨拶した。
その時の彼女の表情はとても幸せそうで、この当たり前の笑顔の裏に陰惨な過去があるのかと思うと、
つかさはいてもたってもいられなかった。
「お話とはなんでしょう?」
着くなり言ったのはみゆきだ。
このメンバーでここにいるのは不愉快極まりない。
突き放すような口調がそう語っていた。
視界にこなたが映るのが厭なのか、みゆきはわざとそちらを向かないようにした。
「つかさには昨日話したんだけどね」
かがみはちらっとこなたを見やる。
今にも泣き出しそうな顔で俯いたままだ。
かがみはどうか知らないが、こなたにとっては分の悪い賭けのようなものだ。
自分の惨めな―思い出したくもない―過去を無様に曝け出すには大きな勇気がいる。
かがみが代行してくれるからいいが、望まない結果になった場合に傷つくのはこなたなのだ。
(…………?)
みゆきは3人の顔を順番に見回した。
昨日の件でつかさのこなたに対する感情は分かったが、かがみはどうなのだろうか?
”昼休みは屋上で”
そう言ったのはかがみだった。
わざわざこのメンバーを引っ張り出してきた点からして、こなたには嫌悪していないように見える。
「こなた、いいわよね?」
こなたは頷く。
かがみに打ち明け、そこからつかさにも伝わっているのだ。
今さら隠す理由はない。
一応の了解を得たところで、かがみはこなたの過去をみゆきに述べた。
こんな重い話、昼休みの1時間で収めるべきではない。
しかし放課後ではバラバラになる可能性が高く、チャンスといえば昼休みくらいしかない。
かがみの語りの途中、つかさが落涙した。
(つかさ…………)
その様子を見るとはなしに見ていたこなたは、もうこれで十分だと思った。
こうして涙してくれるだけで十分だ。もう何も要らない。
陵桜に入ってよかった、とこなたは思った。

35:虚像と実像15
08/08/01 21:17:03 h/XyMKtp





「それがどうかしましたか?」
しんみりとした空気の中、それを苛立たしげに破ったみゆきの一言に。
全員が目を見開いて彼女を見た。
「どうかしたってあんた…………」
それ以上言葉が出ない。
予想もしないセリフが、予想もしない人物から出てきたのだ。
同情を求めているわけではないこなたでさえ、みゆきの発言が信じられないでいる。
「みゆき……何か感じなかったの? っていうか、何も思わなかったの?」
かがみは怒っていいのか驚いていいのか分からないままになじった。
「とても感動的なお話でした。映画公開でもすれば多くの人が泪(なみだ)するでしょうね」
みゆきはにこりともせずに言った。
冗談で言っているわけではなさそうだが、この小馬鹿にした口調に。
「ゆきちゃん、ひどいよっ!」
噛み付いたのは以外にもつかさだった。
「こなちゃん、ずっといじめられてたんだよ!? ずっと酷い目に遭わされてたんだよ?
私……悲しいよ…ゆきちゃん、なんでそんなこと言うの……?」
「つかささん、心外です。あなただって、泉さんとは距離を置きたいと仰っていたではありませんか」
「そうだよ、そう言ったよ。でも、こなちゃんがこんなつらい想いしてるなんて知らなかった!
分かってたら……あんなこと言わなかったよ!!」
「……つかさ」
心の優しい妹を持ったことをかがみは誇りに思った。
こなたはと思い視線を移すと、彼女は唇を噛んで様子を見ていた。
「仰る意味がよく分かりません。百歩譲って泉さんがいじめられていたというお話が事実だとしましょう。
ですが、そのお話が私たちにどう影響するというのですか?」
眼鏡の奥の瞳に黒い光を宿したまま、みゆきは一歩踏み出してきた。
「私はお付き合いをやめさせていただきたいと申し上げたハズですよ。それがなんですか。
つかささんまでそんなありふれたお話に感化されて―」
「……ありふれた話だって?」
かがみが肩を震わせた。
「みゆき、あんたいい加減にしなさいよっ!」
「お、お姉ちゃん!?」
「こなたがどれだけ苦しんだか分かってるの? 誰ひとり味方がいなかった生活を想像できる?
この娘がどれだけ追い詰められてたか……あんただって分かるでしょ!?」
「まるで見たように仰いますね。かがみさんこそ泉さんの気持ちがお分かりになるのですか?」
「私はこなたじゃないもの、完全には分からないわ。でもね、分かりたいとは思うわよ。
ゲームやアニメに没頭しなくちゃならないほど傷ついたこなたの気持ちをね」
力強い訴えだったが、斜に構えるみゆきにはまるで通じていない。
それどころか彼女は不敵に笑んで、
「かがみさん、感情的になりすぎです。泉さんとのお付き合いに関してこのお話は関係ありませんよ?」
静かに圧倒してくる。
「関係あるじゃない!」
感情的と言われて、かがみはいよいよ穏やかではなくなった。
「周りに誰もいなかったのよ? それで自分の居場所を見つけるために趣味を見つけたんじゃないの。
確かに度を越してるとは思うけど、でもこなたがされてきたことを考えたら―」
「説得力に欠けますね。いじめられていたから……その、オタク……でしたっけ?
そういうものに興味を持ったというのは分からなくはありませんよ?」
ですが、とみゆきはやはり低い声で、
「周囲を省みず、辟易している私たちに押しつけてよい理由にはなりません」
言い放った。
「味方がいなかったからゲームやアニメに走った。そう仰いましたよね?
でしたら今もそれを引きずっているのは何故なのです? 泉さんが今も没頭される理由は何なのです?」
「そ、それは…………」
「泉さんはいじめられていないのですから、そんなものはもう必要ありませんよね。
それとも……私たちがいじめているとでもいうのでしょうか?」

36:虚像と実像16
08/08/01 21:18:06 h/XyMKtp
みゆきはくすりと笑った。
笑顔のまま、ちらりとこなたを見ると、彼女はまだ震えていた。
が、今の震えはこれまでとは少し理由が違うのだろう。
「そうじゃないよ、ゆきちゃん。それがこなちゃんの好きなものだったっていうだけだよ。
確かに今はもういじめられてはないけど、だからってせっかく見つけた趣味を捨てることなんてないの」
「分かっています。私が申し上げているのは、なぜそれを押し付けるのかということです。
話題なら他にもあるでしょうに、泉さんはその類のお話ばかり……うんざりです」
慇懃すぎる口調がかえってこなたの傷口を開いていく。
これ以上傷つくまえに―。
「みゆきさん……」
こなたはここに来て初めて口を開いた。
「ごめん、本当にごめんなさい。私が馬鹿だったよ」
「…………」
「謝ればすむことじゃないけど、でも本当にごめん。そうだよね、みんな迷惑だったよね」
耳を澄まさなければならないほど弱々しい声だ。
「もっとみんなのこと、ちゃんと考えるべきだったよ。みんなの話、ちゃんと聞くべきだった……!」
「ちょっと待って、こなた。みゆき、私が説明するわ」
こなたの言葉を制し、かがみは再度説得をはじめた。
「話、聞いてたでしょ。こなたはずっと独りだったのよ。話し相手はお父さんとゲームくらいだった。
ずっとそうやって生きてきたから、こなたは友だちとの接し方が分からないだけなのよ」
「どういうこと?」
訊いたのはつかさだ。
「こう言えば相手が喜ぶとか、こうしたら相手が怒るとか。こなたは友だちと付き合った経験がない。
だからその……結果的にちょっと鬱陶しいと思うことがあったかもしれないけど……。
でもそれはそれでこなたなのよ。”うんざりだ”なんて言うのは間違ってるわ」
「―ですから私たちに我慢せよと? 泉さんは可哀そうな人だから少々のことは大目に見ろと?
かがみさん、あなたはそう仰るのですね」
「まぁ、言い方は気に入らないけど、私が言いたいのはそういうことよ」
我ながら巧い説得だった、とかがみは思った。
つかさも子供のように目を輝かせてかがみを見た。
「かがみさん……」
みゆきは何かを考えるように俯いた。
その様子をこなたは心配そうに見つめる。
静謐が場を支配した。
屋上には彼女たち以外に誰もいない。
3人は待った。
みゆきは俯いたまま顔を上げようとしない。
かがみの言葉を受けて考えているのだろう。
数秒が経った時、みゆきはおもむろに顔を上げ、
「―論外です」
と、少し怒ったように言い捨てた。
これまでは理解に苦しむ発言があったとはいえ、見かけ上は柔和な顔つきを保っていた。
しかしここで見せた表情はこなたやかがみに対する敵愾心をまざまざと叩きつけている。
「仮に泉さんがそうなった原因が私たちにあるのなら、一考の余地はあると思います。
ですが彼女がいじめられていた事と、私たちに対する付き合い方に関しては話が別です。
少なくとも私は泉さんに不快な思いをさせたつもりはありません。
なのにどうして私が彼女の勝手な趣味に振り回されなければならないのですか?」
みゆきは早口でまくし立てた。
納得のいかない事柄に関してはみゆきも強く出るが、言葉尻にはこなたへの悪意が感じられた。

37:虚像と実像17
08/08/01 21:19:10 h/XyMKtp
「泉さんによって迷惑を被るべきなのは彼女をいじめた人たちであって、私は関係ありません」
ハッキリと突っぱねるみゆきに、つかさは涙目に訴える。
「ゆきちゃん、おかしいよ! 関係ないとかそんなのどうだっていいじゃない!
こなちゃんがかわいそうだよ。お願いだからそんなこと言わないでよ」
ほとんど弾みでモノを言うつかさが、みゆきには滑稽だった。
自分が理路整然と噛み砕いて説明しているのに、柊姉妹は相変わらず勢いで迫ってくる。
「私は可哀そうではないのですか?」
「えっ―?」
「同情から泉さんに付き合ってさしあげることはできます。私もそこまで冷徹ではありませんから」
ニッコリと笑い、すぐに真顔に戻って、
「ですがその分だけ私は我慢を強いられますよね? その対価はどこに求めればいいのですか?」
一歩、にじりよる。
反射的につかさは退いた。
みゆきは冷静に、理論で詰めてきたがつかさには理解できなかった。
友だち付き合いに対価など必要ない。
時にはケンカすることはあっても、損得勘定を抜きにして交わるのが友だちじゃないか。
みゆきのようにいちいち価値を見出して付き合いを求める考えが理解できないつかさは、
「分からないよ、ゆきちゃんの言ってること……」
いやいやをするようにかぶりを振った。
「つかさ、もういいよ……」
見かねたこなたがつかさの袖を引っ張った。
「ありがとう、もういいから。2人が味方してくれただけで嬉しいんだ。
それに……みゆきさんの言うことも正しいと思うから……」
口調はいまだ暗いままだが、絶望しているという感じではない。
かがみ、つかさが後押ししてくれる心強さがあるからだ。
「みゆき、あんた本当にそれでいいわけ? こなたの話聞いて何も思わなかった?」
こなたはもういいと言ったが、かがみはまだ納得してはいない。
「ですから感動的なお話でしたと申し上げたではないですか」
やはりみゆきは罪悪感の欠片も抱いていないらしい。
今もこなたを見る彼女の目つきからは、低劣なものを蔑(なみ)していることが窺い知れる。
「周りがどう思っているかは知りませんが、私は自分を秀才だとは決して思っていません。
とはいえ私にもプライドがあります。泉さんの過去には憐憫の情を催しますが、それだけのことです。
自分の評価を落としてまで泉さんを助けて差し上げようとは到底思えませんね」
とんだ女だ、とかがみは思った。
才色兼備で物腰優雅だったみゆきは、心の奥底はここまで腐りきっていたのだ。
先ほど自分を秀才とは思わないと言っていたが、とんでもない。
評価を落としたくないというセリフから、やはり彼女は周囲から羨望の的として見られたいのだ。
だからこなたの相手などできない。
こなたとは対照的に、かがみの中で怒りがふつふつと湧いた。
「みゆきさん、ごめんなさい―」
不意にこなたがその場に崩れ落ちた。
「嫌々私に付き合ってくれてるって分かってたら……わたし、みゆきさんには近づかなかったよ。
ううん、今からそうする。だから……ごめんなさい」
「あんたが謝ることないわ」
「私がずっと我慢させてたから。みゆきさんにつらい思いさせてたか……だから……」
こなたの足もとが涙で濡れる。
粗造りのコンクリートに染み込んだ涙は、音もなく吸い込まれて消えた。
「泉さん、泣かないでください。これではまるで私がいじめているみたいではありませんか」
1対3でもいじめは成立するのだろうか、とみゆきは考えてみた。
数の問題ではない。
1対1でもいじめにはなるし、複数対複数でもそれは同じことだ。
が、みゆきは口ではそう言ったものの、これがいじめであるとは考えていない。
自分はこなたと付き合えない理由を滾々と言い聞かせているだけで攻撃ではないと思っている。
外野がうるさいのが癪に障るものの、主張そのものは間違っていないという絶対の自信がある。
「あんた、よくそんなことが言えるわね……!」
そのうるさいのがまた噛みついてくる。
(もう少し分かりやすくお話したほうがいいかもしれませんね)
みゆきは内心で優越感を味わいながら、かがみに向きなおった。

38:虚像と実像18
08/08/01 21:21:10 h/XyMKtp
「お話を少し戻しましょう。泉さんはいじめられて友だちがいないからゲームに没頭した……でしたね?
それに対して、なぜ今も没頭しているのかと私は問いかけましたが、その答えがいま分かりました」
「なっ、なんなのよ?」
射すくめるような視線に、不覚にもかがみは気圧された。
「実に簡単です。泉さんにとって私たちは友人でもなんでもなかった、というだけのことです」
「はあっ!?」
何を言ってくるのかと身構えていたかがみだったが、あまりにも荒唐無稽な発言に呆れた。
ネチネチといたぶるような物言いから一転、みゆきはストレートに述べてきた。
「そんなわけないよ。私たち友だちでしょ? だからこなちゃんと寄り道したり、コンサート行ったりしたんだよ?」
さすがにこれにはつかさも呆れたように返した。
そうでしょうか、とみゆきは身じろぎひとつせずに言う。
「友人なら相手が嫌がることを押し付けてきたりするでしょうか? いえ、少し違いますね。
かがみさんはどうか知りませんが、私もつかささんも表面では取り繕ってきたのですから。
最初から迷惑だと言っておけば、ここまで引きずることはなかったかもしれません。それは私のミスでもあります」
ですが、と間髪入れずに付け加える。
「私たちが迷惑がっていることすら察しようとしない泉さんと、これ以上お付き合いするメリットがありませんから」
真顔で言う怖さがあった。
完全な拒絶だ。
みゆきは自分の中から、泉こなたという存在を完全に抹消しようとしている。
そんな気がしてくる。
「泉さん、私になにか仰りたいことはありますか?」
質問の形にしたものの、みゆきにはこの後こなたが何を言うかは分かっていた。
「みゆきさん、今までごめんなさい……」
ほら、これだ。
思ったとおり、一字一句予想していた言葉が聞こえてきた。
いじめられて傷ついたのはこなただが、そのこなたにこっちも傷つけられたのだ。
せめて、
「謝るというのは反省しているからではなく、自分が楽になりたいからしているのですよね?」
これくらい言ってやらなければ気がすまない。
「謝りさえすれば丸く収まるという考えの人が多くて困りますね。
そんな安い言葉ひとつで私が受けた苦痛がどうにかなるとでもお思いですか?」
打ち明けることで楽になった思っていたこなたの精神は、もはや崩壊寸前だった。
かろうじて2人が支えてくれるから耐えられるものの、みゆきの一言一言が重くのしかかってくる。
「昔いじめられていたというのも、もしかしたら泉さんに原因があったのかもしれませんね」
「…………ッ!!」
突然、こなたは激しい眩暈に襲われてその場に蹲(つくば)った。
傍にいたつかさが慌てて支える。
「……許して……もう、許してよ……お願い……だから許して……」
こなたはうわ言のように何度も何度も呟いた。
「こなちゃん、どうしたの!? 大丈―」
顔を覗き込もうとしたつかさの表情が凍りつく。
こなたの顔は真っ青になり、視線も定まっていない。
特徴的な唇だけは動き続けていたが、その動きは同じ言葉を繰り返しているように見えた。
「許して……ごめんなさい……許して……」
もう誰に向かっていっているのかも分からない。
ほとんど聞き取れないほどか細い声で、こなたは延々と許しを乞うた。
「いい加減にしてよっ!!」
つかさが見たこともないような憎悪まじりの目でみゆきを睨みつけた。
「こなちゃんが何したっていうの? ゆきちゃんだってそんなこと言われたら嫌でしょ?」
責めるというより嘆願に近かった。
一度はこなたを突き放してしまったが、悲しい過去を知った今、元の関係に戻りたいと願っている。
そこに多分の同情が入ることになるが、仲良くさえいられればそれで良い。
「……泉さんはなぜ急にそんなお話をする気になったのでしょうね」
つかさの言葉が聞こえないみたいに、みゆきは遠い目をして言った。
なぜか錯乱しているこなたの耳に届いていないことは百も承知で、
「普通、そういう過去があったら何としてでも隠し通したいと思うのではないでしょうか?」
かがみとつかさを交互に見ながら言う。

39:虚像と実像19
08/08/01 21:23:44 h/XyMKtp
「私たちがあんなこと言ったからだよ。だから、こなちゃん……」
「理由としては不十分ですね。あの程度のことで簡単に過去を曝け出したりするとは思えませんが?」
「ゆきちゃんにとっては”その程度”でも、こなちゃんは違うんだよ。一緒にしないで」
「そうですか? 私には―」
何らかの効果を狙ってか、クイズの司会者が正解を告げる時のように間をおいてから、
「かわいそうな自分をアピールすることで同情を買おうとしているように見えますね」
厭らしい笑みを浮かべる。
「あんた…………最低だわ……!!」
いっそこの女を殴ってやろうか、とかがみは拳を握り締めた。
頭がいいだけで他人の気持ちなど全く察しようともしない醜女だ。
「ひどいよっ…………!」
つかさは涙を懸命に堪えながら、ぶつぶつと呟き続けるこなたの体を支えた。
「ひどいですって? つかささんは些か思慮に欠けているようですね」
みゆきは秀才らしく眼鏡の位置を戻しながら言った。
「本当にそれでいいのですか? あなたの今後を思えば今の―」
言いかけたところで昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。
「あら、仕方ありませんね。では私はこれで」
不気味な笑みを浮かべて、みゆきはすっと踵を返して校舎の中へと消えていく。
その間際、肩越しに振り返り、
「早くしないと皆さん、授業に遅れますよ?」
みゆきは言ったが、誰も動こうとはしなかった。
「つかさ、あんたは先に戻ってな」
「え、お姉ちゃんは?」
「こんな状態だから……こなたを保健室に連れて行くわ」
言いながらかがみはこなたの肩を掴んで引き寄せると、やや強引に立たせた。
「だったら私も―」
「1人で大丈夫。さ、つかさは教室に戻って」
「う、うん……」
みゆきの辛辣な投げかけによって、こなたもつかさも疲弊している。
嘘でも気丈に振舞えるのは自分だけだ、とかがみは自らを鼓舞した。
ほとんど全体重を預けてくる華奢な少女は軽かった。
うわ言のように何を呟き続けるこなたからは、まるで生気が感じられない。
少しでも支える手を緩めれば、そのまま崩れ落ちてしまいそうなほどだ。
「ごめんなさい…………」
かがみの耳元で少女は囁いた。
(こなた……)
これは誰に対しての言葉なのだろう?
一段一段、慎重に階段を降りながらかがみは考えた。
あそこまで言われれば罪悪感や悲しさを通り越して、普通は激怒するところだ。
少なくとも自分ならそうしている。
逆ギレだと罵られようとも黙ってはいられない。
こなたもどちらかと言えばそういう性格だと思っていた。
しかし彼女は何かに怯えるように許しを乞い続けるばかりだった。
もしかしたら、まだ知らない彼女の過去があるのかもしれない。
あるいはまだ語られていない”いじめ”があるのかもしれない。
複雑な想いから複雑な表情を浮かべながら、かがみは保健室のドアを叩いた。



以上、今夜はここまでです。
冗長になってますが、3分の2ほど終わりました。
それではまた。



40:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/01 21:27:56 nvN0CsNa
GJ
やっぱり黒幕はみゆきだったか

41:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/01 21:31:02 Vufc9exr
みゆきの黒幕率は異常
まあ仕方ないことなんだろうけど

42:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/01 22:14:20 fLcwDrIA
GJ
みゆきは概して黒くなるしそれが自殺スレの伝統だね。
このSSのみゆきは流石にかがみの首を切断したりはしないだろうけど、
その分、その黒さに現実味があって生々しいわwww

43:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/01 23:04:57 rkKz7Qtd
これまたレベル高いな。表現力だけじゃなく、
ロジックも心理描写もしっかりしてるわ。
キャラも活き活きと描写されてて素晴らしい。
あとはインパクトがあれば、完璧だ。それもラスト次第、か。

残り1/3で、こなたの死にどう結びつけるのか、非常に気になるわ。
どの要素がこなたのトリガーになるのかwktkして待ってるぜ。

44:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/02 00:08:43 ax5Ub9/V
ここの住人はまだ優しい方だと思う
オカルト板とかはちょっとおかしい奴らがいっぱいいるからきつい

45:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/02 00:26:09 U2R3UITZ
意識的にやっているか分からんが
かがみがこなたの味方をする動機みたいなものも
どことなく歪みを感じて俺によし

46:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/02 00:27:25 HMom0uHL
みゆきの言動が単なる黒さや悪意じゃなくて
精神的に強く成熟しているが故の冷たさと言うか
秀才のみゆきらしい思考に基づいてるのが良いね

47:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/02 01:27:38 IoGGyeKG
久しぶりにスレが沸いたな。

48:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/02 02:29:17 aBI3ZwNz

               ,. -‐ 、
            , '  ,ハ 、 ` 、
           /   .,'  `゙ヽ、、`ヽ
            !  ィ'._ニ .._ ,  `ヽノ
            l ,' ゙!| ``’`  {ェテ}
           |.! !}      i. !    
               },゙r1  , _`_′'     ……タラン、君は何年私の部下をやってるのかね?
           ´}!_ \.   -  ,'      ハイパーデスラー砲用意だぁぁぁぁぁーっ
           /: : :`: ‐= _ ...,./       目標、こなたをいじめる奴等全員だ!!
 ,......、_ ,, .. -‐ '"\: : : /:/: ハ:',
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:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:; -‐ '"       │⌒Y´ `マ




49:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/02 02:53:05 rJofDqn/
俺の嫁真っ黒だwwwwwwww

50:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/02 13:10:10 O3L+uXVh
とても久しぶりです
以前うつすたのテーマソングを作ったものですが
その後たぶんこれで完成版という状態になったんで
ニコニコ動画でうpしました。
URLリンク(www.nicovideo.jp)

51:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/02 21:19:52 HHnpjh7x
そろそろ降臨される時間帯かな。
全裸待機の態勢に入るか。

52:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/02 22:03:03 Mf8Gm879
皆さん、こんばんは。
今夜も投下いたします。

53:虚像と実像20
08/08/02 22:04:14 Mf8Gm879

 その後の2時間は気が気ではなかった。
憔悴しきったこなたは保健医のふゆきに任せてある。
顔を見るなり深刻そうに、
『少し休ませてあげましょう』
とふゆきがさっさとベッドまで連れて行ったため、かがみは話を切り出すタイミングを失った。
打ち明けたほうがいいだろうか。
本来なら担任のななこに相談するべきなのだろうが、あの人はこういうデリケートな問題を解決するのは不得手そうだ。
どちらかというメンタル面も診てくれるふゆきに持ちかけたほうがいいような気がする。
かがみはそう思っていたが、なぜか躊躇われた。
言うのはもう少し先でもいいかもしれない。
解決を急いでこなたの傷口を広げることにでもなったら、きっと後悔する。
今は保健室という生徒が学園内で最も安心できる場所にいる。
それだけで十分じゃないか、とかがみは自分に言い聞かせる。
「ではお願いします」
と、短く言い置いてかがみは保健室を後にした。
ふゆきが詮索してこなかったことがありがたかった。
教室に戻ると、みさおが興味津々といった様子で遅れてきた理由を訊いてきた。
ちょっとね、とかがみが答えると、言えないことかよ、となおも詰め寄ってくる。
結局、あやのがやんわりと止めに入ってくれたおかげでそれ以上の追及はなかった。



 みゆきは何事もなかったように授業を受けている。
黙々とノートをとり、黒板の見えづらい字を読もうと眼鏡のかけ位置を変えたりしている。
その様子をつかさは眉を顰めて見ていた。
悪いとは思わないのだろうか?
こなたが気の毒だとは思わないのだろうか?
平然と顔色ひとつ変えずに秀才・高良みゆきとして振る舞う姿に恐怖すら覚える。
(わっ―!?)
不意にスカートのポケットが振動し、つかさは危うく声をあげるところだった。
担当教諭の目を盗んで、そっとまさぐる。
かがみからのメールが届いていた。
ノートをとる振りをしながら、音を立てないようにケータイを開く。

”こなたは保健室に連れて行ったわ。放課後、もう一度3人で話しましょう”

当然、向こうも授業中だからメールも簡素なものになっている。
つかさはさらに慎重にバレないように返信した。

”お姉ちゃんはこなちゃんについててあげて。ゆきちゃんとは渡しが離すから”

急いでいて変換がおかしくなったが、つかさはかまわず送信した。
この程度なら文意は正しく伝わるだろう。
送信完了のメッセージと同時にケータイを閉じ、再び授業に集中する。
みゆきがクスッと笑ったような気がした。




54:虚像と実像21
08/08/02 22:05:09 Mf8Gm879
 チャイムが鳴るとほぼ同時にかがみは教室を飛び出した。
後ろであやのが何か言っていたが、今はかまっていられない。
まずはこなたの様子を見に。
落ち着いたところでもう一度、みゆきと話すつもりだ。
昼休みの態度からして、みゆきに悔悛の情を期待するのは無駄だろう。
ああいう冷徹な考え方を持っているなら、それはそれで仕方がない。
しかし一言。一言でいい。
彼女の口から直接、こなたに謝罪させたかった。
はやる気持ちを抑えて保健室のドアを開けた。
平素なら必ずノックするかがみだが、そこまでの余裕はなかった。
「こなた」
ベッドを見やると、ちょうど起きたところなのか背中を丸めて座っていた。
「よかった……」
何がよかったのか分からないが、かがみは安堵した。
「あら、柊さん、心配して来てくれたのね?」
みゆきとはまた違った意味でおっとりしているふゆきが、書類を手にしてこちらに向かってきた。
「ちょうど良かったわ。申し訳ないんだけど、少し職員室に用事があって―。
すぐに戻ってくるからちょっと待っててくれないかしら?」
もう少し早く喋ってほしいとかがみは思ったが、彼女は微笑んで、
「分かりました。先生、こなたのこと、ありがとうございました」
ペコリと頭を下げる。
ふゆきもそれに倣って会釈すると、そっと保健室を出て行った。
窓から差し込む陽光が部屋の半分ほどを照らしている。
わざわざ日陰のベッドにこなたがいたのは、ふゆきの気遣いなのだろうか。
「かがみ」
声をかけようとしたところに先に呼ばれ、かがみは一瞬たじろぐ。
「調子はどう?」
意味のない質問だ。
調子が良ければとっくにこの部屋を出て行っているだろうに。
「うん……」
しおらしく、こなたは俯き加減に答えた。
続いて、
「ごめんね」
という言葉が空気を伝ってかがみに届く。
その単語、もう何度繰り返しただろうか。
あんたが謝ることないのに、かがみは歯痒い想いをした。
彼女は無言のままベッド横の椅子に腰をおろす。
陽が当たっていないせいなのか、やはりこなたの顔色はすぐれない。
「さっきみゆきさんに言われたこと……」
おもむろにこなたが呟く。
(さっき……?)
すぐにはピンとこなかった。
そうか、こなたは保健室に来てすぐに眠ったのだ。
だから彼女にとって2時間前の出来事は、”さっき”なのだと思い当たる。
「おんなじこと先生に言われたんだ」
搾り出すようにこなたの独白。


55:虚像と実像22
08/08/02 22:06:06 Mf8Gm879
 小学生の頃、いじめが始まった当初はこなたもやり返していた。
当時の彼女にはまだ立ち向かう力があったから、毅然とした態度でいられた。
いじめなんてやる奴はバカだ、と自分に言い聞かせながらの反撃だ。
が、所詮は多勢に無勢。
次第にこなたの立場は悪くなり、ついには孤立し、心身ともにいじめに抗う力はなくなっていく。
いじめっ子にとっては、最初は威勢があった標的がだんだんと凋(しぼ)んでいく様が愉快でならない。
まともな人間ならそこで引き返すものだが、群集心理もあっていじめはエスカレートしていった。
もう駄目だ、とこなたが思った時、彼女は担任や他の先生に相談した。
助けて欲しかった。力になって欲しかった。せめて、味方が欲しかった。
だが、面倒事を嫌う者や、こなたが仕返ししていた頃から見ていた者は、
「あなたにだって原因があるんじゃないの?」
という残酷なワードだけを残して去って行った。
この時点ですでに共通の敵を突くことでクラスが団結していたから、担任はわざわざいじめを止めようとはしない。
こなたにとってさらに不幸だったのは、その場面を複数のいじめっ子が目撃していたことだ。
教師が熱意をもって問題に当たるようであれば、彼らは表面化しにくいもっと陰湿なものにやり方を変えなければな

らない。
しかし担任たちは、こなたにも原因があるとして問題解決に取り組まないことが明らかになったのだ。
これは見方を変えれば、教師陣がこなたいじめを容認しているということになる。
お墨付きを得た彼らは他のクラスとも共謀してこなたを責めた。
今まで見て見ぬ振りをしていた連中も加わった。
ついには下級生までもが手を出し始める。
こなたにとって学校は地獄そのものであったと表現しても差し支えない。


 気がつくとシーツが濡れていた。
涙を流したのはこなたではない。
新しい話を聞かされるたび、こなたの辛辣な過去が明るみになる。
いじめっ子にとっては単なる昔なのだろう。
今頃は自分たちがしたことも忘れて、のうのうと生きているに違いない。
そう思うと歯痒かった。
ここに、こんなにも傷ついた友だちがいるのに。
慰めの言葉ひとつ見つけられない自分が許せなかった。
「私もつかさもいるからな」
涙を拭いながらかがみが静かに言った。
「話してないけど日下部や峰岸だってきっと力になってくれる。あんたは独りじゃないから」
こう言うのが精いっぱいだった。
これ以上は気休めにもならない。
せめてみゆきが―と思ったが、今はあえて考えない。
大切なのはこなたに孤独を感じさせないことだ。
自分やつかさが傍にいると思わせれば、少しは痛みも軽くなるハズだ。




56:虚像と実像23
08/08/02 22:08:15 Mf8Gm879

 同時刻。校門前。
どう見ても仲が良さそうには見えない2人がいる。
「なんでしょうか?」
昼休み以後、みゆきの言葉には険があった。
早々と帰ろうとしたところをつかさに呼び止められ、ようやく会話にこぎつけたのがここだった。
「ゆきちゃん」
自分でも驚くほど低い声が出た。
他人を責めるなど今までしたことのないつかさにとって、この時間は人生で貴重なものだ。
「あの時、何を言いかけたの?」
「はい? あの時とは?」
みゆきはもちろん、つかさが何を知りたがっているのか分かっている。
昼休み、わざわざチャイムが鳴る瞬間を計って意味深な言葉を吐いたのだ。
つかさなら今日中にその続きを訊いてくると踏んでいた。
「ああ、あのことですね」
はにかみながら、みゆきは今のはさすがに演技が過ぎたかと思った。
「私の将来が何だって言うの?」
つかさは精いっぱい怖い顔をして言った。
そうでもしなければみゆきの言葉に呑み込まれそうだ。
「そうお怒りにならずに。私はつかささんを心配しているんですよ?」
言いながらつかさに向き直る。
「つかささんは可愛らしいですから、じきに異性の方とお付き合いすると思います。
今までいなかったのが不思議なくらいです。ええ、これは私の本心ですよ」
「…………?」
「そうですね……つかささんに相応しいのは……同じく家庭的で面倒見のいい方でしょうか。
良識があって優しくて、勇敢な方もお似合いですね」
「話をはぐらかさないで!」
「ですがその方はその……オタクというものに理解があるでしょうか?」
「え……?」
「つかささんとお付き合いするのですから、自然と交友関係は広がっていきますね。
そうなるとその方もつかささんを通して泉さんを知ることになります」
そこでみゆきは少し間を置き、
「さて、そうなったらその方はどう思うでしょうか?」
つかさの脳に直接叩き込むように語る。
「ご存じのとおり、泉さんのような人柄は忌み嫌われます。事実、つかささんがそうだったようにです。
その方はきっとガッカリなさるでしょうね。まさかつかささんがあんな人と友だちだったなんて、と。
そうなれば自然、あなたから離れていきます。これはかがみさんにも同じことが言えます。
かがみさんが異性とお付き合いすることになっても、やがてたどり着くのはやはり泉さんです。
白眼視され、陰で笑われるかもしれません。あらぬ噂を広められるかもしれません」
みゆきの言っている事はただの予想に過ぎない。
所詮は彼女の頭の中で広がる物語でしかない。
だが彼女の語り口調と、彼女が聡明であることからあたかも現実のようにつかさは受け止めてしまった。
予想ではあるものの荒唐無稽ではない。
十分にあり得る。実現する可能性のほうが高い物語なのだ。
「それだけではありません。泉さんと知り合いだったということで、他の方からも避けられるでしょう。
もしよければつかささんのご友人を数えてみて下さい。それができれば今度はかがみさんも」
言われるままにつかさはそうした。
記憶をたどって数えてみる。
数秒経たないうちに気付く。
つかさの表情から全てを悟ったみゆきは、
「お分かりのようですね」
勝ち誇ったように言った。
「泉さんと交誼があるとこうなるのです。つかささんが彼女と親しくすると、かがみさんもその煽りを受けます。
あなただけの問題ではないのですよ?」
つかさの思考はほぼ完全に支配した。
みゆきはさらに詰めにかかる。

57:虚像と実像24
08/08/02 22:09:31 Mf8Gm879
「泉さんがいじめられていた……それをあなたたちが助けた。これは尊いことだとは思います。
ですが世の中の摂理のひとつとして、”いじめから救った側が今度はいじめられる”というものがあります。
この場合はつかささんとかがみさんがそうですね。さて、そうなった後を考えてみます。
お2人は善意から泉さんを助けました。ところがどこからか泉さんの過去が広まってしまった―。
いじめられて然るべき人を助けたお2人は周囲から目の敵にされます。では…………」
「………………」
「そうなった時、泉さんはあなた方を助けてくれるでしょうか?」
形式上問いかける恰好となっているが、元よりつかさの回答など期待していない。
これはただの演出だから。
言葉のひとつひとつをつかさに植え付け、思考を意のままに操るための儀式のようなものだ。
「もちろん助けてはくれません。彼女はいじめられるつらさを知っているからです。
せっかく自分が苦痛から解放されたのに、わざわざまたそこに飛び込む人はいませんからね。
そうそう、言い忘れていましたが、”いじめられていた側は救った者をいじめる側に変わる”。
これがもうひとつの摂理です。この先については言うまでもありませんね」
みゆきの言葉は恐ろしい。
ここにかがみがいれば彼女の強さがこの薄汚い物語を打ち砕いてくれたかもしれない。
みゆきを薄情者と断じてくれたかもしれない。
(思ったとおり、かがみさんがいないとぬるいですね)
ここでみゆきが注意すべきは、今の感情を表に出さないことだ。
「そんなことないよ」
何の前触れもなくつかさが言った。
鼓舞するための虚勢ではない。
つかさはハッキリとそう言ったのだ。
「ゆきちゃん、”いじめから救った側がいじめられる”って言ったよね? でも、そんなことないよ。
こなちゃんがいじめられてたなんて誰も知らなかったんだから。だから当てはまらないよね?」
「…………?」
「だって陵桜じゃこなちゃんはいじめられてないんだよ。誰もこなちゃんの過去なんて知らない。
私たちがこなちゃんを助けても、その後どうかなるなんてありえないよ」
つかさにしてはよく頑張ったほうだ。
みゆきの論理の盲点を突いた、効果的な反撃ではあった。
「私が広めます」
が、一応こういう返し方を予測していたみゆきは顔色ひとつ変えない。
「泉さんの通っていた小学校、中学校から当時の生徒には簡単にたどりつけます。
その方たちから裏をとって泉さんの過去を広めるのは造作もありません。
ですから皆さんの関係は学園中の知るところとなるわけです。
人間の心理の面白いところは、ある情報を得るとそれまで無視していたものを無視できなくなることです」
「それ、なに……?」
「ある小説がドラマになり映画になり……と評判になると、それまで見向きもしなかった人がそれに群がります。
そんなに面白いのなら自分も読んでみよう。皆が観ているから自分も映画を観てみよう。実に単純な話です。
いわゆる社会現象というのは、思いの外こうした簡単な心理の作用が引き起こしているものなのです」
みゆきのもったいぶった言い方が、なぜか説得力を伴った重いものになってくる。
彼女は眼鏡をかけなおした。
「泉さんは昔いじめられていた。この話が学園中に広まるとどうなるでしょう?
それまで気にも留めていなかった泉さんのことが気になって仕方がなくなります。他学年からも見に来る人があるか

もしれません。さて、その注目の的をよく見てみると、世間から白い目で見られる…その……オタクだと分かりまし

た。ここまで来れば、泉さんは小中学校で受けた傷をまた受けることになります」
「そうとは限らないよ! みんな言い人だもんっ!」
「彼女は昔いじめられていた、という事実がいじめる側の心理を正当化させるんです。
”泉さんはいじめられて仕方がない”という具合に人間の心が勝手に解釈してくれるんですよ。
そこに群集心理が手伝いますから、これはもう誰にも止められません。
先ほども申し上げたように、泉さんを助けるならお2人もその犠牲になるのですよ?」
周到なみゆきの策は、つかさ程度では食い止められない。
「どうして……どうしてそんなことするの? ゆきちゃん、私たちのこと嫌いなの?」
「ご冗談を。泉さんと違ってつかささんもかがみさんも良識ある方だと思っています。
できれば末永く交誼を結びたい。だからこそ泉さんの肩を持つのが許せないだけです」
「なんでそうなるの?」
「泉さんを見ていると不愉快だからですよ」
悪びれもなく言い切る。

58:虚像と実像25
08/08/02 22:11:08 Mf8Gm879
「人目も憚らずにセクハラまがいの発言をされたこともありましたし、趣味を疑いたくなるような人形を見せつけら

れたこともあります。
そのくせ要領だけはよくて、提出物などもかがみさんや私に頼ってばかりでしたね」
「…………」
「ご自身だけに留めるならともかく、私まで巻き込まれることが業腹なんです。不愉快なんですよ。
人間、生きていれば誰しもつらいことや悲しいこと、苦しいことを経験します。私だってそれは同じです。
泉さんはそれを言い訳に傍若無人に振る舞っていました。無関係な人を巻き込んでまで、です。
世の中はそう甘くはありません。自分の受けた傷を盾に同情を買い、そうかと思えば義務や責任からは逃れて私たち

をあてにしようとする……あの要領の良さが私には堪らなく不愉快なんです」
その点はつかさにも反論できない。全く事実だ。
「不愉快なんです」
みゆきはもう一度言った。
「泉さんとお付き合いをすると災いを招くばかりです。先ほども申しあげたように、あなた方も同じなのですよ。
つかささんもかがみさんも彼女を救いたいとお思いのようですが、その後でどのような咎を受けるかお考えになるべ

きです。
災いはあなた方のみならず家族にも及ぶかもしれないのですよ?」
この一言はつかさに強烈な打撃を与えた。
こなたを助けたいという想いはもちろんある。
かがみも同様だろう。
しかしその結果、災いが身内にまで及ぶとなるとこれは一考しなければならない。
酷い目に遭うのが自分だけならまだいい。
一度はこなたを突き放した負い目もあるから、その程度の罰を受けるのは仕方がないとも思える。
だが家族は……家族は関係ない。
「嫌われ者を支持する者は同様に嫌われる。これも摂理ですよ」
この後、すっかり口を閉ざしてしまったつかさに、みゆきはさらなる追い討ちをかけた。
内容は前述の”摂理”と同じものだ。
いじめる者といじめられる者、それを助ける者と傍観していた者などを事例を挙げて教え諭す。
どの物語も結末は悲惨だ。
つかさやかがみの立場にいた者が、最終的にどうなるのか―。
みゆきの語り口は聞く者に、物語の登場人物と自分とを置き換えさせる。
「お話は終わりです。つかささん、よくお考えになってください」
最後はあくまでつかさの判断に委ねた。
つかさも子供ではないから、この先どうするかは自分で考えて答えを出す。
が、その答えはつかさが自ら導き出したものではなく、みゆきに吹き込まれているものだ。
それからもうひとつ、と歩き出した足を止め、
「いま私がお話したことはかがみさんには内密にお願いしますね。あの人は正義感が強いですから……」
彼女らしからない鋭い眼光をつかさに叩きつける。
”もし漏らしたらどうなるか……お分かりですね?”
無言の圧力につかさは何も言えなかった。
しばらく茫然と立ち尽くす。
ケータイが鳴っていたが彼女はそれにも気付かず、みゆきが去って行った方向をずっと見つめていた。



今夜はここまでです。
改行がうまくいかず見苦しい点もありますが平にご海容を。
それではおやすみなさい。

59:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/02 23:02:49 HHnpjh7x
乙&gj
つかさが意外と粘ってくれて何より。
みゆきが今までにない頭脳プレイを見せているな。
そういや原作はヘタレキャラじゃなくて、頭いいキャラだったな。

60:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/03 00:51:19 UcFdhps8
原作でも最終回がこなた自殺とかだったら、俺は美水先生に一生ついていく。
でも原作キャラって、こなたが自殺してもドライに受け止めそうだな。
変わらずゆるーい日常続けてそう。

61:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/03 01:25:15 I7amn+xN
URLリンク(blog-imgs-21.fc2.com)

62:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/03 11:45:36 U4P+JULP
ふぅ。皆コードギアスに流れたか。

63:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/03 11:46:54 RVKSRMHU
ギアス今日?

64:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/03 11:50:28 U4P+JULP
あーいや、流行の話ね。
何処行ってもギアスギアス…らき☆すたの話なんか見る機会減ったわ。

65:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/03 12:09:04 nglz971Z
今のギアスってそんなに流行ってんのか

てからきすたとギアスじゃ比較対象にならんだろ

66:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/03 12:18:47 BvjU0qHL
>>50
聴きながら漫画読んだらマジで泣いた……
誰か動画作ってくれ

67:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/03 13:42:38 RVKSRMHU
らきすたとかギアスに比べたらマイナーだろwwつか比べてやるなよwww

68:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/03 17:07:08 z6rl/cT6
ぶっちゃけ、DVD売り上げでいうと
ギアスがやや上だけど、似たようなもん

69:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/03 18:02:17 obSZ6XdY
夏休みの工作
題名「泉こなたを自殺させる方法を考える夏」
URLリンク(uproda.2ch-library.com)

70:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/03 18:24:46 AZDjEol3
>>69
これはワロタわw
こなたはリアルでも死ぬ

71:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/03 19:08:36 /3REn58m
>>69
風鈴か……風流だな

72:ガンガン
08/08/03 21:14:21 G9eE72k4
こないだの中尉じゃないが
唐突にパソが逝きやがった…
それだけならまだしも、何よりも大事なHDDまで
クラッシュしやがりました。
修理屋に見せると、パソ買ったほうがマシレベルの修理費かかる言われたし…
市ね詩ね氏ね


自分事ですまんす…
URLリンク(uproda11.2ch-library.com)

73:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/03 21:17:21 AZDjEol3
このスレのPCクラッシュ率は異常。

74:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/03 21:18:20 hkYzafv4
まあこんだけ殺してりゃ呪われもする罠

75:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/03 21:58:39 Oukyqb9w
皆さん、こんばんは。
本日も虚像と実像、投稿いたします。

76:虚像と実像26
08/08/03 21:59:49 Oukyqb9w
(おかしいわね…………)
こなたに不安を悟られまいと、かがみは背を向けた。
つかさとの連絡がとれない。
彼女はみゆきと話しているはずだから、もたついているのかもしれない。
そう思ってはみたものの、一向に電話に出る気配がないのが気になる。
(まあ、大丈夫だとは思うけど)
不安は拭えないが連絡がとれないのでは仕方がない。
かがみはケータイを閉じてこなたに向きなおる。
「帰れそうか?」
塞ぎ込んではいるが、昨日のように取り乱したりする様子はない。
その点だけはかがみも安心していた。
「……うん」
こなたは力なく返してくる。
よし、と手を打ってかがみが、
「先生呼んでくるからちょっと待ってな」
と勢いよく飛び出した。
なぜか走っている理由は分からない。
律儀な彼女は走ってはいけない廊下を早足で歩くことすら嫌う。
とにかくふゆきだ。
こなたの気が変わらないうちに学園を出よう。
今のこなたにとっては外のほうが落ち着くだろうという考えだ。
逆に落ち着かないのはかがみのほうだ。
つかさが気になる。
一緒にいるハズのみゆきは?
「失礼します!」
職員室のドアを開けると同時に短く挨拶し、視線をさまよわせてふゆきを探す。
いた。
他の教師と談笑している。
(こんな時に……)
と思ったが、これは仕方がない。
かがみはこなたを連れて下校することを告げた。
「あらあら、それじゃあ……」
ノートと鍵を手にし、ふゆきは足早に職員室を出た。
かがみも後に続く。
「ごめんなさいね、ついつい話が長引いちゃって」
ふゆきは恥ずかしそうに言ったが、その話が長引いたおかげでまたひとつ、こなたの過去を知ることができたのだ。
そういう意味では感謝したいくらいだった。
「…………あらぁ?」
やけに間延びしたふゆきの声。
何事かとかがみが身を乗り出した。
「えっ……?」
ベッドにこなたがいない。
横に置いてあったハズの鞄もなくなっている。
「なんで?」
かがみはふゆきに訊いた。
もちろん彼女には分からない。
ふゆきを呼びに行ったわずかの隙に帰ってしまったというのだろうか。
あれこれ考えていると、ベッドに何か落ちているのが目に留まった。
紙切れだ。
小さく丁寧に折りたたまれているそれを開くと、
”ごめんね”
と書かれていた。
クセのある、こなたの字に間違いなかった。

77:虚像と実像27
08/08/03 22:01:01 Oukyqb9w
胸騒ぎがした。
つかさの件もある。
まさかとは思うが、みゆきの言葉に思い悩んで―。
不吉な考えを必死に振り払う。
「先生、失礼します!」
かがみは言うや保健室を飛び出した。
追いつけるかもしれない。
もしはやまった真似をするようなら、引っぱたいてでも止めてやる。
かがみは走った。
校舎を駆け抜けて中庭へ。
運動部がランニングしている。
その中にあやのがいたが今は無視した。
歓談している生徒にぶつかりそうになった。
肩越しに謝った。
そろそろ校門が見えてくる。
そこに、
「つかさ!?」
妹がいた。
気が抜けたみたいにボーッと一点を向いたまま突っ立っている。
3度目の呼びかけにようやくつかさが振り返る。
「あ、お姉ちゃん……」
「あんた、ずっとここにいたの?」
「うん」
「こなたは!?」
「帰ったよ」
つかさは抑揚なく答えた。
「あいつ何か言ってなかった!?」
「ううん、べつに―」
……おかしい、とかがみは思った。
つかさから不気味なほど感情が抜け落ちている。
その理由はと考えてみたが、思い当たるのは、
「みゆきはどうしたの?」
こいつしかいない。
「みゆきと話してたんでしょ?」
「うん……」
困ったような表情を浮かべたまま、つかさは何も言おうとしない。
みゆきに何か言われたのか。そのせいでこなたが素通りしたのを見過ごしたのか。
いろいろと思考を巡らせたが、かがみも疲弊していたために答えは出てこない。
その時、2人のケータイが同時に鳴った。
(こなた!?)
(ゆきちゃんから?)
慌てて取り出す。
メールだ。
2人は急いで本文を確認する。

78:虚像と実像28
08/08/03 22:01:52 Oukyqb9w


”ごめんね、もう大丈夫だから”


送信元はこなただった。
「お姉ちゃん」
「つかさ」
互いのディスプレイを見せ合う。
こなたは2人のケータイに同時に送信したらしい。
文面こそ前向きだが、こなたの状況を考えれば不吉な予感がつきまとう。
つかさは不安げにかがみを見る。
”大丈夫”の意味はまだ分からないが、こうやって向こうからアプローチをしてくれるのだ。
かがみが想定した最悪の事態はひとまず避けられそうだ。
「とりあえず帰ろうよ」
珍しくつかさが提案してくる。
が、ここでは帰宅以外に道はないだろう。
かがみは返信しかけたが、つかさの誘いにそのままケータイを閉じた。
今のこなたは敏感だから、たとえメールでも言葉は慎重に選びたい。
すぐに思いついた文章ではなく、じっくり練ってから送信したほうがいいだろう。
それに……彼女も疲れているのだ。
こなたはもちろん、つかさも同じ。
状況をここまで悪化させたみゆきには憤りを覚えるが、その感情も今だけは封印しておく。
とにかく平穏が欲しい。
こなたに元気になって欲しい。
2人が共通して抱く願望だった。




しかし―。




79:虚像と実像29
08/08/03 22:02:34 Oukyqb9w

 この日を境に4人は変わった。
帰宅してまずかがみがつかさに訊ねたのは、放課後のみゆきとの会話だ。
校門で立ち尽くしていた妹の様子は明らかにおかしかった。
みゆきに何か吹き込まれたであろうことは間違いない。
だがかがみが何度問うても、つかさがそれに答えることはなかった。
語調を曖昧にしてはぐらかし、無難な受け答えに終始する。
はじめこそ食い下がったものの、やがてかがみも追及することをやめた。
問い質した時のつかさのつらそうな顔を見ていられなかった。
これがかがみの今の苦しみ。
一方でつかさも別の種類の苦痛を味わっている。
本音はかがみに全てを明かしたかった。
みゆきが何を言ったか。何を語ったか。
かがみとこなた、そして自分。
3人でみゆきに立ち向かいたいという気持ちは確かにあった。
しかしそれはできない。
直情的なかがみは、おそらくみゆきを激しく責め立てるだろう。
内密にと釘を刺された話を漏らしたこともその時にバレる。
怒ったみゆきは……宣言どおりの行動をとるに違いない。
賢しい彼女だから、噂の広め方もひねった方法をとるだろう。
そうなればこなたはまたいじめられる。
それだけでなく、当然彼女をかばった自分やかがみも巻き添えを食らう。
みゆきの物語が全て正しいなら、その害は家族にも及ぶ。
(でも…………)
換言すれば、みゆきさえ怒らせなければ彼女が噂を広めることはない。
こなたはいじめられずに済むし、自分たちも巻き込まれない。
(…………)
こなたを見捨てるつもりはなかった。
ただ自分が犠牲になってまで、家族を巻き添えにしてまで助けようという勇気が湧かなかった。
それに、と考える。
余計なことをしてみゆきの機嫌を損ねたら、何をしでかすか分からない。
これがいいのだ。
何もこなたを進んで陥れようというのではない。
むしろ彼女を守るために、みゆきの言いつけに従うのだ。
(こなちゃん……ごめん……)
これがこなたにとっても自分たちにとっても一番いいのだ。
つかさは無理やりにそう思い込むことにした。

80:虚像と実像30
08/08/03 22:03:38 Oukyqb9w
 次の日も、その次の日も。
こなたは真っ青な顔で登校してくる。
ほとんど集中できていないが、授業中はきちんと机に向かってノートもとっている。
しかし頭には入っていないのだろう、羅列された文章には脱字が多かった。
(なにが”大丈夫”よ)
かがみは休み時間ごとにこなたのクラスに顔を出した。
こなたにとって彼女だけが唯一話せる友だちだった。
あれから、みゆきとは会話していない。
顔すら合わせてくれなかった。
まるでこなたがいないように振る舞う。
そのくせ、つかさにはいつもの柔和な顔で話しかける。
つかさはそれにぎこちない笑みで答え、一応はこなたにも朝の挨拶くらいはする。
しかしその表情も口調も相当無理をしているとすぐに分かる。
つかさとのやりとりも、義務的な挨拶くらいで会話らしい会話はしていない。
みゆきはともかく、なぜつかさまで?
こなたは思い悩む。
あの時、つかさは泣いてくれた。
錯乱した自分を支えてくれた感触もまだ覚えている。
なのに、なぜ―?
時間が逆戻りしたみたいで嫌だった。
このクラスにいると孤独だ。
だから休み時間になってかがみが来てくれるのは嬉しい。ありがたくもある。
それと同じくらいつらいこともある。
かがみもまた、つかさやみゆきとは話をしないのだ。
みゆきに対しては敵意、つかさに対しては遠慮があるようだった。
同じ教室に、比較的近い位置にいるのに。
2対2に分かれているようで心苦しい。
孤独を感じているこなただが、かがみが来ている時は別の種類の孤独を感じた。
もう以前のようにはなれないのだろうか。
4人でくだらない話で盛り上がり、カラオケに行ったり、ゲーセンで遊んだりできないのだろうか。
自分がボケて、かがみが突っ込み、みゆきは博識を披露して、つかさはちょっとドジなところを見せる。
当たり前だと思っていた日々に戻れないのだろうか。
気を遣ってか、かがみが何かと声をかけてくれる。
こなたはほとんど聞いていなかった。
「…………」
つかさがちらりとこちらを向く。
申し訳なさそうにこなたを見る。
が、みゆきに呼ばれてすぐに視線をはずす。
その様を見てかがみはグッと拳を握り締めた。
『なんでちゃんとこなたと話さないの!?』
そうつかさに言ってやりたかった。
これではみゆきと同じじゃないか、となじりたかった。
が、そうできないのは、やはり時折みせるつかさの表情が悲痛だったからだ。
彼女も本意でそうしているのではない、という事実が双子の姉だからこそ分かる。
かがみの握られた拳を、こなたはぼんやりと眺めていた。
それから視線だけを上にあげてかがみを見た。
彼女の顔は疲れているようだった。


こなたは3人の間に何があったのかを知らない。

かがみはつかさとみゆきの間でどのような会話がなされたかを知らない。

つかさはこなたの辛辣な過去の半分しか知らない。

みゆきは見返りもないのに献身的にこなたを支えるかがみの行動が理解できない。


81:虚像と実像31
08/08/03 22:04:34 Oukyqb9w
 そうした関係のまま何日かが経った。
みゆきは委員会の仕事を意欲的にこなしていた。
つかさはそんな彼女に追従する振りをしながら、その陰でこなたの心配をした。
すっかり元気をなくしたこなただが、休み時間になればかがみが来てくれる。
それにつかさとて完全に無視するわけではないから、気概のいくらかはかろうじて保たれている。
しかし、ごく稀に。
背中にみゆきの刺すような視線を感じたとき、こなたは激しい動悸に襲われる。
「あんた、顔色悪いわよ?」
かがみが訝しげに訊く。
この質問はほとんど毎日しているものだ。
最近のこなたは特に様子がおかしい。
かがみが見る限り、彼女はいつも下を向いている。
話しかけても上の空だし、そもそも顔を見て会話した覚えもほとんどない。
「あ、うん、そんなことないよ! やだなあ、かがみん……」
とぼけて返そうとするが、もはや作り笑いのやり方すら忘れてしまった。
胸が苦しい。
無理をしていることは表情を見ればすぐに分かる。
「保健室に―」
連れて行こうか、とかがみが言いかけたところでチャイムが鳴った。
同時に担当教師が入ってくる。
それと入れ違いに出て行こうとしたかがみに、
「―今までありがとね」
こなたは小さく言った。
「え……? 今、なんて―」
「おい、授業始まるぞ。席につけ」
担当に追い出されるようにかがみは教室を出た。
その後ろ姿を、こなたは眠そうな目で見送った。




 次の日、こなたは学校を休んだ。
ホームルームでななこが風邪のためだと言ったが、つかさは嘘だと思った。
みゆきは平然とした顔で1時間目の準備をしていた。


 その次の日もこなたは休んだ。
風邪をこじらせたのだろうと、誰も特に気にしていない様子だった。
心配したつかさがこなたにメールをすると、すぐに、
”なかなか熱がさがらなくてね。でも明日は学校行くよ”
と返ってきた。
その文面をかがみに見せると、不安げだった彼女の表情が和らいだ。
みゆきは相変わらず何事もなかったように1日を過ごした。

 
 翌日もこなたは休んだ。
心配が不安に変わってくる。
気になったかがみはこなたの家に直接電話してみた。
3コール目に出たのは父そうじろうだった。
彼によれば、熱は下がったが大事をとって今日一日休むということらしい。
お大事に、とだけ言ってかがみは電話を切った。
またメールをしようとしたつかさは、かがみが電話したと知って送るのをやめた。
心配しているという気持ちは伝えたいが、あまりしつこくすると重荷になるかもしれない。
みゆきは難しい顔をして1日を過ごした。



82:虚像と実像32
08/08/03 22:06:27 Oukyqb9w

 明くる朝。
いつもより少し遅めにななこが入ってくる。
「お前ら、いつまでも騒いどらんと席につけ」
彼女の発するエセ関西弁はいつ聞いても倦怠感が伝わってくる。
やたら不機嫌そうに、ゆっくりと教壇に立つ。
あちこちに固まっていた生徒らが足早に席についた。
ななこは視線だけを動かして教室の端から端までを見て回る。
ある一点をしばらく凝視した後、ため息をついて、
「授業に入る前に先生からひとつ、大事な話がある」
柄にもなく真剣な口調で言った。
険しい表情から少なくとも良い話でないことは分かる。
いつもと違った雰囲気に、心なしか教室中が緊張しているような気がした。
「泉がな…………泉が……」
独特のイントネーションでこなたの名前を出す。
「泉が……亡くなった」
「…………ッ!!」
ざわめいた。
あちこちでひそひそと話し声がする。
「静かにせえ。信じられんかもしれんけど、今朝、泉の親御さんから電話があった」



今夜はここまでです。
明日は来られないので、次回投稿は火曜日になります。
それではまた。

83:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/03 22:27:10 bDAo6X3a
乙でしたー
王道をふまえつつしっかりと作りこまれていて読むのに苦労しなかった.

個人的にはみwikiに天誅が下って欲しいところw

84:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/03 23:13:24 /QsEleQF
乙です

85:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/03 23:18:33 MwqyBzNz
>>82
そう来ると思った

86:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/04 00:19:01 f5KNXPFN
さってと、投下させて頂きますか。
>>82
深くまで掘り下げられた心理描写に惚れました。
出番が少ない黒井先生のキャラ掴んでるのも凄い。
明日読めないのが残念。

87:if star
08/08/04 00:19:40 f5KNXPFN
 別れの季節である3月が終わり、出会いの季節である4月が始まった。
出会いへの期待と不安に包まれながら、稜桜の生徒達はクラス発表の掲示板を見つめていた。
「今年こそ4人同じクラスになれるといいね。
今まで、2年間ともお姉ちゃんだけ別のクラスだったから」
「そうね。でも、こなただけ別のクラスでもいいんじゃない?
教科の担当教師が違えば、宿題も自分の力でやるようになるだろうし」
「そういうフラグ立ててると、またかがみんだけ別のクラスになるよ」
「あ、でも」
つかさははたと思い出したような声をあげた。
「全員同じクラスだと、教科書忘れちゃった時に困るね」
「アンタは…」
「つかさはやっぱりつかさだね」
呆れたようなかがみの声と、何処か安心したようなこなたの声が桜並木の下に響く。
「仲いいですね」
少し離れて後ろを歩いていたみゆきは、微笑みながら声を発する。
「いつまでも、こんな関係が続くといいですね。
同じクラスになれれば、いつもこんな優しいやり取りが見られそうで」
振り返った3人の瞳に映ったみゆきの顔は、本当に穏やかだった。
仲がよい4人を誇るでもなく、ひけらかすでもなく、
その中に自分が入っている幸運を噛み締めるようなようなみゆきの表情を前に、
かがみは素直な自分を見せた。
「そうね…いつまでも、友達でいたいわね」
いつになく素直なかがみに、こなたも茶化す事を忘れて本音を呟く。
「うん、同じクラスになれるといいね」
「賛成。でも、違うクラスになっても今まで通り友達でいようね」

*

 掲示されている場所に到着した4人は、自分の名前と他の3人の名前を合わせて探し始めた。
初めに自分の名前を見つけたのは、こなただった。

88:if star
08/08/04 00:20:15 f5KNXPFN
「また、B組か。担任はまたもや黒井先生」
「私も見つけました」
少しがっかりしたようなみゆきの声がこなたの耳に届く。
「E組、ですか。残念です」
「私も見つけた。D組だって」
A組のクラス割りから初めに見始めたかがみ達と違って、
みゆきは逆から、つかさは真ん中辺りから見始めていた。
「やっぱりそう上手くはいかないものね。アンタ達3人とも二年間同じってのが
できすぎだったのよ。せめて私だけでも誰かと被ってるといいんだけど」
諦めたようにかがみは呟くと、自分の名前を探す作業に戻った。
「でも、いつまでも4人一緒に居られるよ。同じ学校の同学年なんだし」
「そうですね。そんなに悲観するほどの事でもないですね」
果たしてそうだろうか、とこなたは考えた。新しい出会いによって、
古い友人関係が疎遠になるという事はないのだろうか。
(いや、私達に限ってそれはないはず。大丈夫だよ)
こなたはその考えを振り払うと、未だ自分の名前を探し続けているかがみを
手伝おうとクラス割りに目を向けた。
その時、後ろから声が明るい声が聞こえた。
「C組だぞ」
八重歯をみせて明朗に笑うショートカットの少女と、
髪をかき上げてカチューシャで留めているロングヘアの少女がかがみに話しかけていた。
「え?確か日下部に峰岸…」
「ほら」
日下部と呼ばれた少女は、C組のクラス割表に書かれた柊かがみという文字を指し示した。
「よろしくね、柊ちゃん。中学時代含めると5年連続だね」
2年連続なんて出来すぎでもなんでもない、と思えるような数字だった。
「え?え?あれ?そうだっけ?」
困惑したようなかがみの声に、日下部は峰岸の肩に手を置くと
呆れたような声を出した。
「居るよなー。自分の第一志望しか目に入らない薄情君って」
「まぁまぁ、これから親交深めていけばいいよ」
峰岸のその言葉は、ずしりとこなたの心に響いた。
「そ、そうね。こんな時期だけど、改めてよろしくね」

89:if star
08/08/04 00:21:04 f5KNXPFN
かがみはその二人と連れ立つと、こなた達に会釈をしてC組の教室へと入っていった。
「流石お姉ちゃん。早くもクラスに溶け込めそうだね」
「羨ましい限りの社交性ですね」
みゆきとつかさも、自らの教室へと歩き出す。
「大丈夫…だよね?」
心の中に閉じ込めていた不安が、こなたの口を衝いていた。

 B組の教室に入ったこなたは、溜息をつきたい気持ちを押さえ込むと、
座席表を確認する。「い」で始まる彼女は、丁度真ん中の席が宛がわれていた。
どうせクラス担任が到着してから席替えは行われるのだろうから、
一時的な席順でしかないが。
(周りに話が合いそうな人居ないかな…)
こなたは辺りを見回すが、既にグループは形成されていた。
3年生という事を考えれば、誰しも交友範囲を広げていて当然だろう。
去年もB組だった面子はちらほら居たが、彼女達も既に親しそうに周囲と話していた。
 こなはいかに自分がつかさ達に依存していたか、それを痛感した。
他の人間はクラスの人間と浅くとも広く付き合うことで、
クラス替え時のリスクが分散されている。
しかしこなたは狭い交友範囲の中に引きこもる事で、つかさ達と離れてしまった時の
リスク管理を怠ってしまっていた。
(いや…まだ間に合う。これが最後のチャンスだ)
新しいクラスになった初日、誰かに話しかけても不自然ではない。
そう思って、近くに居たグループに話しかけようと思うのだが、
口が石化したように動かない。仲よさそうに談笑する彼女達に、
こなたが入り込む余地が見あたらなかった。隙間さえ、見えない。
 汗ばむ拳を握り締めたまま時が過ぎ、気がつけばホームルームが始まっていた。

*

 新学年が始まり一週間が過ぎた。春風が心地よく教室内を吹き抜け、
机に突っ伏しているこなたの長い髪を揺らした。心地よさは実感できるが、
居心地の悪さは拭えない。既に新しい友達を作るタイミングを完全に失ってしまったこなたは、
休み時間は寝てるように装うか、携帯電話を操作する事が多くなっていた。
 かがみは日下部や峰岸と一緒に居る事が多いが、つかさが心配なのか
時折つかさの教室へと遊びに行っているらしい。
みゆきもまた、学級委員長に推薦されたりとクラス内で早くも頼りにされているとの事だった。
 まるで自分だけが孤独であるかのような感覚に、こなたは苛まれた。
授業間の休み時間であればまだいい、寝たふりか携帯電話からのサイト閲覧で
手持ち無沙汰を解消できるのだから。
 しかし、昼休みはいつも苦痛だった。ご飯を食べ終わると、やる事がなくなる。
周りが机を寄せ合って昼食を採る中、一人でご飯を食べるのが惨めに思えたこなたは
いつも昼食は素早く食べてしまう。既にそれぞれのコミュニティを築いているであろう
かがみ達の昼食に割って入るのも気が引けたので、
こなたは余所のクラスに出かける事もできなかった。

90:if star
08/08/04 00:21:55 f5KNXPFN
 今日もこなたは、寝たふりで昼休みを乗り切ろうと思っていたが、
日増しに強くなる孤独感は彼女の精神を確実に蝕んでいた。
周囲の笑い声が、まるで自分を嘲笑しているようにすらこなたには感じられる。
(限界だ…)
こなたは音をさせないように席を立つと、C組の教室へと向かう。
別のクラスに入り浸ってでも、孤独を紛らわせたかった。
それに日下部からは気が合いそうな雰囲気が醸し出されていた。
かがみと雑談がてらに、彼女も巻き込んで友達を増やすのも悪くはなかった。
 そう思ってC組の教室を覗き込んだこなたであったが、
実際に談笑しているかがみ達3人を見ると、足が竦んでそれ以上動けなかった。
自分が居なくても楽しそうに笑っているかがみ、それを見ていると
自分の存在価値さえ根底から壊れていきそうだった。
 踵を返すと、こなたは校庭の片隅に向かう。どうせつかさやみゆきを訪ねても
同じ想いを抱くだけだろうから。
校庭の片隅にある木に背中を預けながら、こなたは天を仰いだ。
木漏れ日を見つめながら、独り言を呟く。
「もう、居場所ないのかな」
その独り言に、記憶が反応する。
『でも、いつまでも4人一緒に居られるよ』
つかさが、クラス割の掲示を見た直後に言った台詞が、独り言に答えるように
脳内でフラッシュバックされた。
「うそつき」
脳内で再現された記憶に、律儀にもこなたは返答していた。


*

「お早うございます、稜桜学園職員課です」
「あ、3年B組の泉こなたといいます。黒井ななこ先生お願いできますか?」
「はい、少々お待ちください」
クラシック調の保留音がこなたの耳に響いた。不思議と心が和らぐ音階だった。
それでも、こなたの心臓は相変わらず激しく動いている。
「なんや、泉か?」
「黒井先生ですか?ごめんなさい、今日は風邪で欠席します」
「ほうかー。まぁ季節の変わり目やさかいな。
ちゃんと治して明日は出てこいよ?」
「はい、ごめんなさい」
「ほな、お大事に~」

91:if star
08/08/04 00:22:19 f5KNXPFN
携帯電話を切ると、こなたは大きく溜息を付いた。
仮病がばれるのではないか、と内心冷や冷やしていたのだ。
重い足を引きずって家を出たはいいが、どうしても学校へ行くのが億劫になってしまった。
最早こなたにとって学校は、嘲笑されている、
という被害妄想と戦うだけの場所に変わり果てていた。
そして気付いた時には、稜桜から離れた場所にある公園のトイレの個室内から、
学校に電話をかけていた。

 公衆トイレを出たこなたは、当てもなく繁華街へと足を向けていた。
学校を休んだはいいが、本当に行く当てはなかった。
家にはそうじろうが居るから、普段通りの帰宅時間まで何処かで時間を潰してから
帰らなくてはならない。
 しかし、繁華街を歩くこなたはここでも居心地の悪さを感じていた。
既に授業が始まっている時間なのに制服姿の少女が一人で繁華街をうろついている、
というのはやはり衆目を引くらしい。
 ゲームセンターやカラオケボックスに行けば、即補導されるかもしれない。
けれど、街中をうろついていても稜桜に連絡が行く恐れがある。
こなたは途方にくれた。その時、こなたの名前を呼ぶ声が聞こえた。
「こなたさん?」
びくり、とこなたは声のするほうを振り向いた。
稜桜関係者に見つかったかと気が気ではなかったが、
そこに居たのは中学時代の親友だった。
「デン?デンだよね」
心臓は未だ早鐘を打ち続けていたが、ほっとした感覚がこなたを包み込む。
 かつて授業参観の時に、将来の夢が魔法使いであると公言した少女である。
それ以来こなたは、電波をもじってデンと彼女の事を呼んでいた。
「久しぶりだね。どうしたの?こんな時間に制服で」
「ちょっとね、サボっちゃった。今は帰宅時間をいつも通りにする為に
時間潰す場所探してるところ。デンこそどうしたの?」
デンはこなたと同い年であるにも関わらず、制服すら着ていなかった。
「うーん、私もサボリかな。バイトはやってるけどね。
こなたさんと違って、親公認だけどね」
どこか翳りのある表情を見せながら、デンは答えた。
「ねえ、時間潰したいならウチ来ない?
そのカッコじゃ、何処行っても怪しまれるよ?
最近は警察も厳しくなってるからね」
渡りに舟の提案だった。
「そうだね、じゃ、お邪魔させてもらうね」
逡巡せずにこなたは承諾する。どうせ行く当てはなかったし、
久しぶりに人と親しく話せる機会でもあるのだ。

92:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/04 00:24:10 f5KNXPFN
>>87-91
キリがいいので、今日はここまです。
デンの元ネタは、第一巻30ページの「お友達」。
ではまた。

93:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/04 00:30:07 U3uVxSfF
>>92
これは切ない。
かがみ以外の3人がクラスばらばらになっちゃったSSって今まであったかな?
しかし、早速雲行きが怪しいぞ。こなたがヤバそう。

94:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/04 10:30:23 uCntJ3eh
>>82
みゆきの言い分の方が正しいのが分かるからこそ辛いと言うか
色々と考えさせられる展開が本当に素晴らしいと思う

>>92
こなたの状況が俺の高校時代と丸被りすぎる(´;ω;`)

95:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/04 11:23:52 neSmKwS3
リミット

96:名無しさん@お腹いっぱい。
08/08/04 18:57:31 5PNeXWrU
さて、投下させて頂きます。
>>87-91の続きです。

97:if star
08/08/04 18:58:11 5PNeXWrU

*

 二階にあるデンの部屋は、昼前だというのに遮光カーテンが閉められていた。
部屋の明かりをデンは点すと、こなたに寛ぐように呼びかける。
「ベッドなり床なり、適当に座っちゃっててよ。
今飲み物持ってくるからさ」
 デンが部屋を出て行った後で、こなたは部屋を見回した。
デンがこなたの家に来た事はあったが、デンの家へとこなたが
訪れたのは初めてであった。
 部屋は片付いてはいるが、物が多い為にあまり綺麗な部屋という印象はない。
色々と物があるこの部屋で一際目を引くのは、本棚と灰皿である。
デンもまたこなたと同年齢、つまり未成年である。
にもかかわらず、灰皿にはタバコの吸殻が落ちていた。
本棚は比較的整頓されてはいるが、書籍だけではなく、
アルバムやファイルが所狭しと並べられている。
そのファイルの背表紙に貼られた、ラベルに書かれた文字を読み取ろうとした時、
階段を駆け上がる音が聞こえてきた。
「お待たせー」
程なくしてデンがドアを開けて部屋の中へと戻ってくる。
デンが手に持ったお盆には、グラス二つと氷、
そしてカクテルや各種の清涼飲料水が並べられていた。
「デン、それお酒でしょ?大丈夫なの?」
「いや、飲みたくないなら無理に薦めないよ。オレンジジュースとかもあるし」
デンはグラスを二つガラス張りのテーブルに置いて氷を入れると、
確認するようにこなたの顔を覗き込みながら尋ねてきた。
「何飲む?」
「オレンジジュース」
こなたは短く答える。正直、アルコールに手を出す事には抵抗があった。
 デンは指示通りにオレンジジュースをグラスに入れると、こなたに手渡した。
その後、もう一つのグラスにカシスとソーダ水を注ぎ込み、混ぜ合わせた。
「お酒なんて飲むようになったんだね。タバコもデンの?」
「まあね。薬に手を出すよりは、マシじゃない?
そっちにはタッチしてないんだ。興味はあるけど、怖いしね」
デンはゆっくりとグラスを傾ける。真っ赤な液体が、この部屋の中では妙に映える。
「ねぇ、さっき言ってたけど、デンもサボリなの?
親公認って羨ましいね」
「サボリっていうか…。休学してるんだ。ほら、私って昔から電波入ってたから、
クラスで浮いちゃって学校行きづらくなっちゃって」
「えっ。私と似てるね。実は私も、3年になってクラス替えがあってから、
クラスで浮いちゃって行きづらくなっちゃってんだよ。今までサボった事はあったけど、
こういう理由でサボったのは今日が初だね」

98:if star
08/08/04 18:59:09 5PNeXWrU
「あー、今ならまだ間に合うじゃん?明日からでも、学校行った方がいいよ?
去年オナクラだった人の中には、友達居たんでしょ?
たまたま他のクラスになっただけで。
それに、どうせ後一年我慢すりゃいいだけじゃん」
デンのその口調には、自分は一年我慢しても状況は変わらない、
というニュアンスが含まれていた。また、自分は学校内に一人も友達が
居ないというニュアンスも。こなたはそれを敏感に感じ取る。
「うん、他のクラスには居るんだけど、既にクラス内で話し相手見つけてるみたいでね。
入っていきづらいんだよ。ところでデンは、どれくらい休学してるの?」
不躾な質問ではあるが、中学時代は腹を割って話せる仲だったので
こなたは遠慮なく尋ねた。
「うーん、一年半以上かな。一年の時から休学してるからさ」
何でもないことのように、デンは答えていた。
「それは随分と長い間休学してるんだね…。
ずっと引きこもってるの?退屈じゃない?」
「んー、いちおバイトとかはしてるし。それにネットがあるから、
退屈とかはしてないや。そうだ、これ見てよ」
デンは立ち上がると、本棚からファイルを取り出してきた。
その中には、美麗なイラストや写真が多数収められていた。
「綺麗でしょ?ネットからこういう画像集めてきて、
プリントアウトして眺めるのが趣味なんだ」
こなたはファイルを捲りながら、その中に収めてある写真やイラストを眺めていく。
人の絵であったり、機械の絵であったり、あるいは洞窟の写真であったり…
様々なものが収められていたが、それらには共通している点があった。
「確かに綺麗だね。でも、暗いイメージの画像やファンタジックな画像が多いね」
「現実逃避…かな?何かこう、惹かれるんだよね、
こういう非現実的な美しさを持ったものって」
「確かに、下らないリアルの煩わしさを忘れさせてくれるよね」
カーテンを閉めているのも、そういった理由からかもしれない。
青空が見えていては、或いは街の明かりが部屋に入ってきてしまっては、
幻想の世界に埋没する事は困難となる。すぐ外にリアルがあるのだから。
「そうだ、こなたさんに取っておきの絵、見せてあげるね。
いや、私が見てほしいのかな。ちょっと思うところあるからさ」

99:if star
08/08/04 18:59:41 5PNeXWrU
デンは別のファイルを持ってくると、付箋が付けてあるページを開いた。
そこには、少女の絵を写した写真が収められていた。
額縁には、「願い」と絵の名前が記されているが、描いた人間の名前は見当たらない。
 真っ直ぐな長い髪を湛えたその少女は、絵の中で椅子に座りながら穏やかに微笑んでいた。
背景も詳細に描かれており、少女の後ろに聳え立つ木や、
足元の草もまるで生きているような躍動感があった。
けれどもその少女の身体は、今にも崩れてしまいそうな危うさがあった。
生を表現した背景と、死をイメージさせる身体、そしてその身体と対照的な笑顔。
それらが見事なまでに調和され、明るい色調にも関わらず幻想的な絵となっていた。
 けれどもデンがこの絵をこなたに見せたかったのは、
この絵がお気に入りだからという理由からだけではないだろう。
なぜならその少女は─
「ねぇ、似てると思わない?私、この人がこなたさんと瓜二つに見えてしょうがないんだ」
「確かに似てるよね。瓜二つではないけど」
(いや、違う。私に似てるんじゃない…)
「やっぱりこなたさんもそう思うんだ。でも、ちょっとだけ違うよね。
髪の毛跳ねてないし、泣き黒子もない。でもね、何処となく似ている気がしたんだ」
(これは…お母さんに似てるんだ。それだけじゃない、この背景…)
こなたは背景にも目を転じた。デジャヴ、それをこの背景に覚えていた。
(私の家の庭…。いや、ちょっと違うか。でも、昔はこんな感じだったのかもしれない)
「やっぱりこなたさんも気に入ってくれたんだ。私もね、この絵に出会った時、
こなたさんに似てるかどうかに関係なく惹かれていたよ。
色々と幻想的な絵を見てきたけど、この絵が一番好きだな」
気に入ったから見入っていた訳ではないが、
その事を指摘するよりも聞きたい事があったので、こなたは敢えて訂正しなかった。
「デンはどうやって、この絵を見つけたの?
この写真って、雑誌を切り抜いたものじゃなくて、
自分で撮って写真屋で現像したやつだよね?この近くに現物あるのかな?」
綺麗な切り口と、艶が切抜きではない事を示唆している。
「ん?市内の美術館。でも自分で撮ったわけじゃないよ。
展示してる絵画の写真が売ってるんだよ、あっこ。
あの美術館さ、別に高価な絵とか展示してるわけじゃないけど、
そういう所は律儀なんだよね。派遣で行ったときに偶然見つけちゃって、
それ以来虜だよ」

100:if star
08/08/04 19:00:21 5PNeXWrU
 市の美術館にこなたは訪れた事がなかった。そもそも目玉となるような絵画が
展示されている訳ではないので、利用者自体が少ない。
所謂第三セクターだからこそ、保っていられるのだろう。
 市がバックアップしているから、市民が描いた絵の展示が主な目的らしい。
かなたがこの絵のモデルだったとしても、驚くような事ではないのかもしれない。
「ふーん。そこに行けば、現物見れるんだ…」
「今度見に行く?その格好でこの時間帯じゃ、怪しまれるし。
夕方以降だと、先生に見つかった時に言い訳効かないしね」
こなたはグラスを傾けて、オレンジジュースを飲み干してからデンに返答した。
「いや、いいよ。写真で十分だよ」
「そっか」
デンは落胆の様子を見せずに、
空になったこなたのグラスに再びオレンジジュースを満たした。
「ありがと」
「ん、勝手に注いじゃってもいいよ」
デンは煙草を口にくわえると、ライターに手を伸ばしたが、
その手はライターを掴むことなく止まる。
「あー、ごめん。家帰ったときに煙草の匂いがしたらまずいか。
よく考えてみれば、お酒勧めるのもまずかったね。ごめんごめん」
「いや、いいよ。気にしなくて」
「ん、止めとくよ」
デンは煙草を口から外すと、ボックスの中に再び仕舞った。
中学では変わり者扱いされながらも、こういう所は、
気遣いの利く人間だった。
(思い出しても、いい人だったな。高校入ってから出来た友達に夢中になっちゃって、
デンの事、放置しちゃってたな)
もし、こなたが中学卒業後もデンとコンタクトを取り続けていれば、
デンは高校を休学するような事態にならなかったのだろうか。
こなたは自問した。
(いや、やっぱり休学してたんじゃないかな。私だって、デンと再び知り合ったけど、
明日学校に行こうって気にならないや。辛いのは、内部で孤立しちゃってる事だから)
 こなたは気持ちを切り替えると、デンとの会話に興じた。
昔話、今見ているアニメ、話題は尽きなかった。
久しぶりに気兼ねなく人と話した、という充実感がこなたにはあった。
教室では孤独を感じつつも、この部屋では孤独感は消え失せていた。

 気がつけば、夜の帳が部屋にも落ちていた。
「あ、もうこんな時間だね」
こなたはベッド脇にあった目覚まし時計を見やると、鞄を手繰り寄せた。
「そろそろ、帰るね。また、遊びに来てもいいかな?」

101:if star
08/08/04 19:01:23 5PNeXWrU
「いいよー。こなたさんと話せて、本当に楽しかったし。
あ、でもアルバイト行く時あるから、事前に一応電話かメールしてね」
「うん」
既に携帯電話の電話番号や、メールアドレスの交換は済ませていた。
「あ、でもね」
デンは少し陰のある表情を作ると、遠慮がちに発言した。
「本当は、学校行った方がいいと思うんだ。
今更周りに溶け込むのって勇気いると思うし、喧騒の中の孤独って辛いものだけど、
このままでいいわけないよ。それに、今の内にかがみさん?やつかささんとかって人と
話しておかないとさ、本当に付き合い途絶えちゃうよ?」
「ん、努力するよ。デンも、頑張って?」
「あー、うん。その内復学するよ。1年生からやり直しになるんだろうけど、
自業自得だしね。それに、このままだと人生詰んじゃうや」
自虐的にデンは笑ったが、こなたは笑わなかった。
笑えなかった。
 こなたは玄関でデンに別れを告げると、足早に帰路へとついた。
明日はきちんと学校へ行こう、そう己に誓いながら。

*

 その日以降も、こなたは学校を休みがちだった。
デンと出会った次の日は学校へと出席したものの、体調不良を理由に早退してしまっていた。
 その日の事は、思い出すだけでも身を焼かれる錯覚に囚われる。
勇気を出してクラスメイトに話しかけたはいいが、その後が問題だった。
仲良くなろうと焦って、まだ信頼関係を築けない内に携帯電話の番号や
プライベートに関わる事をしつこく聞いてしまったのだ。
今まで塞ぎ込んでいた人間がいきなり馴れ馴れしく接してきたのだから、
当然警戒もされるだろう。
結局、苦笑いで迎えられ、怪訝の目で見られる結果となってしまったのだ。
 その日以降も、学校へは行ったり行かなかったりを繰り返した。
そしてデンの部屋で、孤独を埋めるように話し込んでいた。

 そんな日々が続いたある日の事だった。
そうじろうがこなたに二人きりで話がしたいと言い出してきたのは。
「なぁ、こなた。お前最近学校休みがちらしいじゃないか」
こなたが食卓の椅子に座るなり、そうじろうは開口一番本題を切り出してきた。
普段温厚なそうじろうにしては珍しく、声音は尖っている。
(来るべき時が来たか…)
いい加減、学校から家に連絡が行くだろうと思っていた。
最近は、黒井や天原にカウンセリングルームに呼ばれた事があるくらいなのだから、
当然家にも連絡は行くだろうと覚悟はしていた。

102:if star
08/08/04 19:02:12 5PNeXWrU
「うん」
俯き加減に答える。せめて反省するフリだけでも装って、
嵐が過ぎるのを待とう。そういう思惑がこなたにはあった。
「なぁ、このままだと、出席日数も危ないらしいぞ」
「うん」
数泊の沈黙の後、そうじろうは優しげな声でこなたに問いかけてきた。
割れ物を扱うような腫れ物に触るような態度で。
「なにか悩みがあるなら、お父さんに相談しなさい。
進路の事で悩みでもあるのか?それとも、学校に行きたくない理由でもあるのか?
かなたの代わりにはなれないかもしれないけど、できる限り力になるから」
頼もしげに胸を叩いて見せたが、こなたがつられることは無かった。
「いや…。何となく、調子悪くなっちゃって」
「お前…それ本当か?明日にでも病院に行くか?」
そうじろうは穏やかな態度をかなぐり捨て、身を乗り出してきた。
一瞬、そうじろうの態度急変に驚いたこなただったが、
その顔に冷や汗を見て取ると、態度が急変した意味も理解できた。
(あー、私の場合コレはタブーか。お母さんが若くして死んじゃってるから。
じゃ、別の手でやり過ごすか)
 正直にクラスで孤立している事を話すつもりはなかった。
いや、クラスで孤立している事だけが不登校の原因ではなく、
実際には他の人間と仲良くしているかがみ・みゆき・つかさを見たくないというのもある。
何れにせよ、理解は得られまい。或いは、何とか友人を作るようにと、
安っぽい精神論を交えながら諭してくるだろう。
精神論のような具体的解決策を提示できないものは、こなたにとって嫌悪の対象でしかない。
「いや、大丈夫だよ。ちょっと気分悪くなっただけで行きたくなくなる、
っていう甘えみたいなものだから。明日から頑張るね」
「そうか…。まぁ、あまり無理はするなよ。
それと、何か悩みがある時は、本当に俺に相談するんだぞ?」
「うん、分かった。そうだ、ちょっと聞きたい事があるんだけど」
「なんだ?」
こなたは話題の転換を図る事にした。いや、話題転換だけが目的なのではなく、
前から確かめたかった事だ。
「お母さんってさ、絵のモデルになった事ある?」
「え?」
「市内の美術館にさ、お母さんそっくりな絵があるんだけど」
実際には自分の目で確かめてはいないが、友達から聞いた、
だと話がややこしくなりそうなのでその説明は端折ってこなたは訊いた。

103:if star
08/08/04 19:03:08 5PNeXWrU
「あー、あれか。お前が20歳を迎えたときに話そうと思ってたんだけどな、
あれは俺が描いたものだ。かなたが死ぬ前にな、自らの姿を残しておきたいと
俺に言ってきたんだ。それも写真ではなく、俺の目に映ったかなた、
それをお前の為に残しておきたい、とな」
「そうなんだ…」
「描きあげた直後に、かなたは死んでしまったけどな。あれ以来、
絵は描いてない。絵心なんてまるで無かった俺だが、あの時だけは
自然と筆が進んだのを覚えているよ」
「じゃあ、なんでそれが美術館にあるの?」
そうじろうは気まずそうな表情を一瞬見せたが、
意を決したように口を開いた。
「情け無い話なんだがな、近くにあの絵があると、どうも寂しくてな。
だから、当時できたばかりのあの美術館に、展示をお願いしたのさ。
市が運営していて、市民の絵を飾るというのがあの美術館の目的でもあったから
あっさりと受け入れてくれたよ。
それに、こなたにこの話をするのを躊躇っていた、というのもある。
家に置いておくと、覚悟が決まらないうちに見つかりそうだったからな。
お前の為にかなたが残した最後の姿、それがどういう風にお前の瞳に映るのか、
その答えを知るのが怖かったんだ。悪いな」
「いや、いいよ。あの絵のお母さん、幸せそうだったね」
そうじろうは一瞬言葉に詰まると、当時を思い出すように遠い目を浮かべた。
「そうだな。実際、言っていたよ。最後に、幸せだったよ、てな。
そういう風に思ってもらえたのなら、俺の模写も一応は成功なのかもな」
「一応、か」
「ああ。かなたも俺も、同じ思いを共有しながら、モデルと画家という
それぞれの役割を務めていた。まぁ、その思いがお前に伝われば
大成功なんだが、流石にそれは無理か。絵に込める思いにしては、
具体的過ぎるからな」
「伝える事はできるよ。絵じゃなくて、言葉で」
こなたは促した。一体どういう意味を込めていたのか。
それが気になった。
「それはな」
そうじろう真っ直ぐにこなたを見つめて、言葉を紡ぐ。
「こなたが幸せになりますように」
ゆっくりと─
けれども真摯に─
かなたの声すら代弁するように厳粛に─
真っ直ぐにこなたを見つめながら、その言葉は紡がれた。


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