09/06/12 04:07:36 bmss85F0
地獄の底に、吹き荒れる寒風のような、声。
掲げた両手の上には、太陽そのものの輝きが鎮座する。
切り札は最後まで取っておく。それはゲームの鉄則だ。ソレは逆説的に、札を切ったのならば勝って居なければならないという事でもある。
敗北(ゲームオーバー)を回避する為とは言っても、切り札は咄嗟の帳尻合わせに使っていいものではないのだ。
パールは健在。
そして、ベルが裏界の本体からのチカラの供給量を増やしたのなら、同じ切り札は、パールだって持ち合わせている。
つまり、状況は何も変わっていない。
「死になさい、あんた」
一瞬のことであり、そして不意討ちで在ったとしても、ベール・ゼファーに地に這わされた。
その事実が、パール・クールの矜持をいたく傷つけた。
怒りに撃ち震える声で、殺害宣言をなして、
陽光の光が開放される。
夜中の夜明けを引き起こす極光を前に、ベール・ゼファーは歯噛みする。
この程度ならば十分に対抗できる。しかし、その先は拮抗であって勝利ではない。打った手はまだ効果を顕していないし、ここで無駄に力を使えば逆転も覚束ない。
手が打てないまま、擬似太陽の輝きに飲み込まれるベル。その刹那であっても彼女の唇は笑みを刻んでいた。
視界を焼く光が、世界を純白に染め上げた。
耳も肌も、全ての感覚を置き去った破壊が駆け抜ける。
全力攻撃で少しは溜飲を下げたのか、パール・クールが息をつく。
しかし、パールはすぐに柳眉を逆立てる事になった。
「………ああ、そう言えば、あんたも居たんだっけ?」
影が薄いから、完全に忘れてたわ。と、不愉快だと全身で訴えかけるように、わだかまる光の奥から現れた少女を睨みつける。
「…………。パール・クール――」
掲げた右手に盾を生み出し、黒衣のベール・ゼファーを、背後に庇って――、
「アゼルっ! 遅いッ!!」
「ゴメンねベル。ちょっと手間取っちゃった。でも、ちゃんと了承してくれたよ。
ソレと――」
荒廃の魔王は、東方王国の長を、鋭く睨み付けた。
「なに――、その目。
気に入らないわね。ルー・サイファーの人形風情が、このパールちゃんと対等なつもり?」
「ええ。もし私が取るに足らない存在ならば。わざわざウィザードを利用してまで殺そうとはしない。 違う?」
「………ホント、ムカつくわね、アンタ。
いいわ、其処まで言うのなら、そこの飼い主(ベル)と一緒に――」
殺気が膨れあがる。
「蹴散らしてあげる!!」
灼熱の焔。
カタチを得た殺意は、アゼルとベルに襲い掛かった。