09/06/12 04:01:08 bmss85F0
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白い小袖がはためいた。
風を孕んで描かれた軌跡から、光刃が三発。両の腕から放たれた灼熱色の円環は計六発。
鋸刃の様に回転し、大気を引き裂く刃は弧を描き、回り込むように肉薄する。
刃を以って打ち払う。
両掌から伸びた光の刀身に触れ、パール・クールの射撃(ショット)はベール・ゼファーの切裂(スラッシュ)に打ち落とされる。
間髪入れずに、ベルの眼前に光球が生まれた。種が弾けるように、光球は散弾のような光となって紡錘状に飛散、弾幕の壁を作り上げる。
切り込むように。そして、パール・クールの切裂が、弾幕の壁を繰り抜く感覚で直撃するものだけを打ち払った。
音は遅れて。
パールが弾幕に繰り抜いた穴を突き抜けて、ベルが突貫する。
一拍で音速を超えた加速に、大気があげた悲鳴を背にして、手にした刃を振るう。
夜気に響くは、剣戟による硬質な音。
互いに両手に産んだ光の剣で、己の命脈を狙う刃を受け、返す刀で敵の命を狙う。
一合二合、三合四合五合と、力と力がぶつかり合って、無色の炸裂が空に咲いた。
十か百か、それともそれ以上か。剣戟の末、鍔迫り合い刀身を軋ませた果てに、二柱魔王は間合いを切った。
仕切りなおしは、これで幾度目だろう。
意識せず、パール・クールは唇を舐める。
流石は、裏界第二位の大公、『蝿の女王』ベール・ゼファー。その名は伊達ではないと言いたいのか、此処まで食いついてくるとは思わなかった。
(ま、それでもこのパールちゃんの優位には変わりないけど)
ベール・ゼファーは此方の隙をうかがっていた。内心どうかは知らないが、最早トレードマークともいえる妖艶な笑みが口元に張り付いている。
(あんたにしちゃ、よく頑張った方じゃない?)
しかし、いい加減飽きてきた。
飽きっぽさに定評のある身としては、よく付き合ったほうだ。と、自分でも思う。
「そろそろ終わりにしましょ? ベル」
両手を掲げる。その上に、渦を巻くように魔力が――、炎が集い、一秒とかからずに巨大な火の玉が形成された。
小型の恒星を思わせる圧倒的な熱量、そして質量。間合いを取っているベルですら、ひりつく痛みを肌に覚えるほどの、
「<エターナル・ブレイズ・ザ・ディストラクション>。
あははははっ! 受けてみなさい!!」
振り下ろす腕。投げるように、業火球がベルに迫る。
その、地獄を握り固めたような火球を、
「はぁ………」
しかし嘆息する余裕すら見せてベルは回避に移った。
どれだけの火力だろうが、星ほどもある質量だろうが、そんな布石の一つも無い素直な一撃を、まともに受けるバカが何処に居る。
(あたし、前に言ったわよね。そんな大技、相手の動きを止めずに撃っても当たらないって)