09/06/12 03:52:07 bmss85F0
慌てて身体を起こす。
侵魔は爪を振り切った状態で、硬直している。着地の衝撃で足が砕けたのか血と肉片を撒き散らして微動だにしない。
だが、上条の足首を、ガッチリと捕まえて放さないのは、鉈を連ねたような爪のある手。黒い剛毛に覆われた侵魔の手が、まるで虎バサミの様に右足を捉えていた。
「クソッ!!」
即座に、右手を伸ばす。
ソレは、上条の左手で折られた腕。
筋と神経だけで繋がった左腕は、持ち主の肩から離れて尚、獲物を捕らえるために蠢いていた。
狂った侵魔はそこいらに、共食いに狂乱するモノたちも、いつ上条にその矛先を向けるか解ったものではない。
それに、
(アゼルは――っ!?)
右手の異能が、拘束を破壊する。
立ち上がろうとした上条を、取り囲むように影が差した。
地を転げてから自由を取り戻すまで一秒弱。その間に侵魔たちは上条に狙いをつけていた。
(うあ、マズ………――。)
てんでバラバラに、だから逃げ道を塞ぐように、侵魔の爪が振り下ろされる。
立ち上がろうとしていた上条に避ける術は無く、それでも本能的に掲げた腕の隙間から、その光景を見ているしかなかった。
まるで西瓜の様に。
赤い飛沫を跳ばして頭が弾け飛んだ。
びしゃり、びしゃりと連続で、赤い色が視界を埋める。
「大丈夫!? 上条君!!」
駆け寄って来る、アゼル・イヴリス。
帯のはだけた右手を赤く濡らして、その赤が、まるで弾丸のように下級侵魔の頭を砕いていた。
「わ、悪い。助かった――って、お前、それ血じゃないのか!?」
「? ああ、これ? 気にしないで。人造人間(バイオオーガン)って、こういうものだから――」
アゼルは、上条に左手を差し伸べて立ち上がらせる。
その間にも、赤い弾丸(ブラッドブレッド)は容赦なく、躊躇無く狂った悪魔を葬り去る。
「な――。アゼル?」
「………ダメだよ、上条君――」
苦痛に歎く姿に騙されるな。
これは憐れんで良いものではない。
古来、亡霊は救いを求める声で生者を地獄に引きずり込む。
所詮は同類を求める亡者。逃げるなど以っての外。
ゴーストなど、見てしまった時点で、打ち払う以外に助かる術など在りはしない。
「………。自己修復の機能が暴走している。
一秒ごとに切り替わる破壊と再生に、体組織自体がついていけていない――」