09/05/09 21:41:40 dcN/+Gof
泥、泥、泥・・・・・・
僕は毎日、泥の塹壕の中に居ます。
塹壕は、思っていたのとはまったく違う所です。
最悪の敵は、雨です。何日も何週間も、濡れた粘土の上にうずくまり、
敵の砲弾の中で暮らすのは、どんなものか想像もつかないでしょう。
厚いブーツを履いていますが、冷たい泥で、足は氷の塊のようです。
何本かの指は動かなくなりました。
―イギリス兵士の手紙より
もう何も考えなかった。塹壕から飛び出し、走り、叫び、撃った。
自分が何処に居て、誰なのかも考えなかった。
僕は鉄条網を越え、塹壕を越え、まだ火薬の臭いのする砲弾の跡に沿って走っていた。
仲間の兵士たちが倒れている。悪夢の霧に包まれているようだ。
僕の任務は、あと何分かで終わる。
向こうに赤いものが見える。燃える炎だ。
足元にも赤いものが見える。人間の血だ。
―フランス兵士の手記より
僕たちの塹壕の前に、つい最近まで、指輪をはめた手が一本横たわっていました。
しまいにその手は、骨だけになりました。
ネズミには、人間の肉がとても口に合うのです。
身の毛がよだちます。
が、僕も時とともに慣れ、戦友と同じように冷淡になりました。
戦場では、ありふれた悲劇にいちいち心を動かしていては、気がおかしくなります。
そうでなければ、腕を振りまわしながら敵に向かっていくほかありません。
―ドイツ兵士の手記より