あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part187at ANICHARA
あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part187 - 暇つぶし2ch600:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 10:34:54 J02kMZDK
>>599
ということは、タルブ戦は零戦でなくシエスタに乗って空中戦を……

601:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 10:35:54 6FJm0rRb
DJ!も黒髪じゃなかったっけ…?
あとフェイロン。ケンは金髪だったような…染めてるんだっけ?

602:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 10:36:26 RfaqaM+S
>600
それ、リュウじゃない。桃白々だ。

603:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 10:37:27 6FJm0rRb
>>602
いや、キン肉マンゼブラかもしれんぞ?
マッスルリベンジャー的な意味で。

604:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 10:37:29 wVWGnsRD
アフガン航空相撲ですね、わかります。

605:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 10:43:05 wVWGnsRD
>>596
ベガ様も黒髪だったはずだ。
だからシエスタは秘密結社タルブーの総帥かもしれん。

606:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 10:48:05 JFx3kzqh
ここであえて春麗の可能性を提示……ごめん、なんか無理があるような気がする。

607:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 10:48:43 nkEBPs8+
タルブ名産の美味しいシャドルーワイン……
キャッチコピーは「舌先に光臨する神の世界」「心を天に解放する」「目を閉じれば広がる極楽浄土」
グラス一杯でもう病み付き、これ無しでは人生の意味が無いってか

608:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 10:50:24 YKQbThct
>>607
何か危ないクスリが入ってそうな気がするのは気のせいですか?

609:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 10:50:38 X2xkNVWr
>>581
ここは別にss投稿スレじゃないんだけど、なんか勘違いしてる?

610:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 10:52:02 JFx3kzqh
>>608
シャドルーは麻薬の密売もやってたみたいだからな。

611:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 10:54:30 SaRyUbmh
ストキャラならダルシム最強じゃね?
体伸びるわ、空飛ぶわ、火吹くわ、テレポするわでチートすぎる

612:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 10:58:03 J02kMZDK
ソドムは黒髪だっけ? 奴なら素晴らしい日本文化をハルケにもたらしてくれそうだ。

613:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 10:58:22 iPGql1d5
>>610
たしかナムカプでは「表向きは麻薬密売組織」とか言う言われようだったな
表向きの顔でさえ犯罪組織

614:ゲーッ!熊の爪の使い魔
08/11/23 10:58:51 XNanNl8k
短いですが11:15ごろから投下します。

615:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 11:00:24 JFx3kzqh
1200万パワー支援

616:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 11:02:43 BjmIolHY
シエスタのじいさんは武道やってたって言ってんのにベガとか無いしw
ごっついタイガ-バズ-カの人に決まってんじゃん。

617:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 11:02:52 AbyVlDCQ
正義超人はいいなぁ~支援

せめて、二次創作では活躍してもらいたい……

618:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 11:03:37 6FJm0rRb
ミハイルマンが見守っていますよ支援

619:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 11:04:09 YKQbThct
>>610
ですよねー、ベガ様居ついてたなら花畑くらいは

620:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 11:11:40 iPGql1d5
ファイティングコンピュー支援

621:ゲーッ!熊の爪の使い魔
08/11/23 11:16:07 XNanNl8k
では、次から投下します。

622:ゲーッ!熊の爪の使い魔1/4
08/11/23 11:18:10 XNanNl8k
第九話 ウォーズマンのいる日常

さて、ギーシュとの決闘やルイズたちとの話を経てウォーズマンには新たな日常がやってきていた。
ウォーズマンの朝は早い。
日も昇る前から起き出すと、学園の敷地の一角に用意してもらったスペース
(もともと使われておらず空いていたため使わせてもらっている)でトレーニングを始める。
いらなくなったぼろきれを巻きつけた棒に向かいタックルを繰り返し、
同じくいらなくなったボロ屑などをもらってきてそれをつめて作ったサンドバックに拳を打ち込み、
ダンベルを持ち上げ筋力トレーニングを繰り返す。
もちろん器具を用いないストレッチや腕立て伏せといった練習も欠かさない。
そして日が出てくると、ルイズのものに加えシエスタの洗濯物も持って行ってやり、一緒に洗濯をする。
ウォーズマンが正体を表して以来ルイズは彼に洗濯を頼んでもいいのか不安になっていたが、
シエスタの手伝いをするということもあり今でも洗濯は行ってくれている。
もちろん、今のウォーズマン相手にさすがに着替えまでは頼めなかったが。
それはさておき、オーバーボディを脱いだウォーズマンはもう普通に洗いものもできるようになり、
シエスタを二人で洗いものを洗濯して干していく。
そしてそれが終わるとシエスタと別れルイズを起こしに行く。
なお、ウォーズマンに起こされるとルイズはスパッと起きていた。
もちろん怖いからだ。
眠さよりも恐怖が上回る。

623:ゲーッ!熊の爪の使い魔2/4
08/11/23 11:19:41 XNanNl8k
だが、それでも数日続けると少しはこの起床リズムにも慣れてきていた。
そしてルイズを食堂へ送ると再びトレーニングを始める。
そして食後にはルイズとともに授業に出る。
この世界で戦っていくためには魔法についてより深く知る必要があると考えたからだ。
そしてそのあともルイズの昼食の間はトレーニングし、午後の授業を一緒に聞く。
その後はさらにトレーニングを始めるがそこにはもう一人が加わることになる。
ギーシュである。
ウォーズマンはトレーニングの傍ら、ギーシュに稽古をつけてやっていたのだ。
このことを知ると皆は一様に意外そうな顔をするのだが、
ウォーズマンはギーシュに自分と同じにおいを感じ取っていたのである。
さまざまな世界で、召喚された使い魔の実力を見せるていのいいやられ役、
そう、かませ犬のにおいである。
ステカセのかませにされ、牛のかませにされ、体内をリングにされ、真っ先にマスクを狩られ、象にはウギャアされ、
その後20年余り、作中時間では三十四年たった後、再び老害仮面とメシウママンモスにゴーヒューな目にあわされた自分と同じにおいを。
だからこそ、自分のふがいなさを自覚し向上しようとしているギーシュに声をかけ、技や戦法を教えている。
また、ウォーズマンもギーシュに錬金でダンベルなどの金属製の練習器具を準備してもらったり、
稽古の成果を試すことも兼ねてワルキューレを相手にスパーリングを行ったりしている。

624:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 11:19:54 iPGql1d5
植物メイジ支援

625:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 11:20:03 6FJm0rRb
今度は『実況』が何時出てくるかが凄く気になってしまう支援
たしか風メイジだっけ…?

626:ゲーッ!熊の爪の使い魔3/4
08/11/23 11:20:42 XNanNl8k
そしてルイズの夕食後は、ルイズやシエスタたちに何か用事や困ったことがないか聞いた後、
トレーニングをしてから与えられた自分の部屋で休む。
当初はルイズと一緒の部屋にいたのだが、ルイズに限界が来た。
さすがに一緒にベッドで寝る気にはなれなかったので、
もらってきた毛布を重ねて敷いて布団のようにしていたのだがその結果、、
夜中静かなところでコーホーコーホー、
おまけに壁には修繕の終わった中身のない着ぐるみがだらんと掛けられている。
怖すぎる。
結局ルイズがマルトー達に頼み込み、寝れさえすればどこでもいいということで
物置に使われていた小さい部屋を整理して空けて、ウォーズマンの寝床にしている。
これが平日の一日。
休日の虚無の曜日には、シエスタたちに手伝えることがあればそれを手伝い、
そのあとの時間は一日中トレーニングとギーシュへの指導。
何でもギーシュは今では前のように女生徒に声をかけて回ることはなくなり、
モンモランシーとだけ付き合っているらしい。
そして空いた時間でウォーズマンに指導を受けている。
なお、一度ルイズに休日に剣を買ってあげるといわれたが、ウォーズマンは断固拒否した。
「俺は正義超人レスラー、用いるのはこの鍛え抜かれた五体とリングのみ。
凶器など使わない」
「え、でもあんたこの前爪つけてたじゃない……」
「ベアークローはおれの一部だ」
「でも凶器になるんじゃ、」
「俺の一部だ」
というわけで結局この話は流れた。
「……あれ、このデルフリンガーさまの出番は?」
その時どこぞの武器屋ではそういう声が上がったという。

627:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 11:21:19 iPGql1d5
かませ犬吹いた
支援

628:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 11:22:32 iPGql1d5
取り外し可能なくせに体の一部支援
デルフばいちゃ

629:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 11:22:38 6FJm0rRb
待ってウォーズマン、アナタの主観時間では未来のはずの出来事が認識されてないか支援
まあ、ゆでキャラだし。

630:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 11:22:40 76Dx3woa
やっぱり気にしてたのね……支援

631:ゲーッ!熊の爪の使い魔4/4
08/11/23 11:23:46 XNanNl8k
そんな日常に変化がやってきた。
「大変、ウォーズマン!今度姫様が学園にこられてそのとき使い魔のお披露目をするんですって。
皆、何か特技とかを披露しないといけないそうなの」
「そうか、ならこのおれの鍛えた技を、」
「ごめんなさい、姫様の前だしあまり荒々しいことはやめてほしいの」
「そ、そうなのか……」
「うーん、攻めて笑顔とかできれば、でもその仮面じゃあ」
「それなら問題ない」
「え、できるの、どうやって?じゃあちょっとやって見せて」
そう言われるやいなや、
「ウォーズマンスマイル!」
なぜ笑うのにわざわざ叫ぶのか、一瞬そう思ったが、そんなルイズの前で黒いマスクの口がパカッと……
「ひぃいいやあああぁぁぁああああああああああぁーーーーー」

結局、笑顔は取り止めになったという。

632:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 11:25:12 iPGql1d5
スマイル支援
コサックダンスくらいしか芸無いものね

633:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 11:27:13 AbyVlDCQ
支援
友情の素晴しさについて語ればいいよ!

634:ゲーッ!熊の爪の使い魔
08/11/23 11:27:54 XNanNl8k
以上で投下を終了します。
ウォーズマンにデルフを使わせる展開がおもいつかなかったので彼には流れてもらいました。
デルフファンの方すいません。
ところでウォーズマン負けちゃいましたけど割といい負け方でしたよね。
ウギャアのときと違って。

635:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 11:30:05 iPGql1d5
乙ー

でもウォーズマンのやったことは結果的に強敵を増やしただけ・・・ゲフンゲフン
セイウチンを改心させたようにワルドだって完璧メイジから正義メイジに戻せるさきっと!

636:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 11:31:59 AbyVlDCQ
乙でした

いつかギーシュとウォーズマンのタッグフォーメーションAが見られるのだろうか

637:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 11:34:18 uRc0ZyNX
ネプチューンマンは老害やない


638:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 11:39:41 AbyVlDCQ
そういえば、2世でサタンが出てきたのを見て、
ルイズが金のマスクを召喚、それを被って謎のマスクマン、悪魔将軍に変身なんて馬鹿なことを考えた事もあったよ

639:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 11:41:49 iPGql1d5
イエッサー悪魔将軍!
そういえば超人にライトニングクラウドってどの程度効果が有るんだろう
ネプチューンマンクラスになれば雷を掴んで武器にすることも出来るけど
ウォーズマンやその他の超人にとってはちょっとはダメージになるのかな

640:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 11:44:43 Fp56GDMS
>>638

ジェネラルストーンでよくね?
そしてルイズはガチムチ超人に…ガクガクブルブル


641:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 11:49:30 AbyVlDCQ
>>639
ウォーズマンはロボット超人だから、電撃とかかなりまずいんじゃね?

642:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 11:52:26 o+g53ZPN
その場のノリによってはエネルギーを吸収する可能性も考えられる

643:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 11:55:16 Fp56GDMS
ストレンジ・プラスから美国探偵事務所一同召喚…
ルイズやシエスタやテファを見て欲望に火がつく正宗や巧美のストーカーと化すワルドを幻視したw


644:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 11:56:51 70GAsx3Z
バイクマンはすげーいい加減な接続方法でバッテリー補充してたよな

645:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 12:12:41 +Mh/6DSd
>>643

やべえw
それは超見たいw
正宗にとっては天国かもしれんな、トリステインはw
巧美の腹黒さはバンパイアセイバーのバレッタに勝るとも劣らないからいいSSになりそうw

しかし・・・

>>巧美のストーカーと化すワルドを幻視したw

これがリアルに想像できていやだw

646:零姫さまの使い魔
08/11/23 12:23:05 ft1WjCZG
投下予約無いようでしたら30分より投下します

647:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 12:27:56 1r9p2eY8
乙です
デルフはこの際デルフマンというオリジナル超人にでもして活躍を…
しない方がデルフは幸せですね

648:零姫さまの使い魔 第六話①
08/11/23 12:30:23 ft1WjCZG
「あっしは手の目だ
 先見や千里眼で酒の席を取り持つ芸人だ

 あっしの芸が当てにならないってのは 先刻述べた通りだが
 これがどういうわけか 占うまでも無い 分かりきった未来に限って
 妙にはっきり見えやがる事が 往々にしてある

 何でこんな事話すかってェと こうしてる今も見えてんのさ
 そう 丁度ここ…… ニューカッスルに来た時から ずっとこんな調子さ

 尤も この国の行く末なんぞ 本来なら手前の知った事じゃねぇ
 手紙さえ手に入れば こんな辛気臭い場所ともおさらばって寸法な筈だが……

 あ~ぁ 何でこういう 大事な先は見えないかねぇ?」





―ニューカッスル

レコン・キスタとの決戦の準備が進む中、城内の一室では
机の上に置かれた封筒を、三人の男女がそれぞれ見つめていた。

「―さあ これが姫からいただいた手紙だ アンリエッタに宜しく伝えてくれ」

「殿下……」

部屋の主、アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーの晴れ晴れとした笑顔に、ルイズの表情が曇る。
目の前に置かれた、アンリエッタの手紙。
これを無事に持ち帰れば、見事、王女からの依頼は果たされる事となる。

だが、王女がルイズに対して望んでいたのは、こんな小手先の使い走りでは無いだろう。
ニューカッスルの置かれた絶望的な状況を見るにつけ、ルイズは改めて感じずにはいられなかった。

アンリエッタは、想い人であるウェールズの亡命を望んでいたのだろう。
それは、政治的に見るならば、進んで災厄を招き入れる行動であり、指導者の立場にある者が下してよい命令ではない。
だからこそ、彼女はこの任務を、切れ者の宰相でも有能な魔法衛士隊隊長でもなく、
唯一無二の友であるルイズに頼んだのだ。

そんな、乙女の切なる願いも、ルイズの言を尽くした説得も、遂には王子の決意を崩すことは出来なかった。
任務を達成しつつある現状とは裏腹に、ルイズの胸中は重く沈んでいた。

「夕刻には宴が始まる
 しばし客間にて休息をとった後 是非 出席してもらいたい」

「…………」

649:零姫さまの使い魔 第六話②
08/11/23 12:31:54 ft1WjCZG
ルイズはもはや、王子の覚悟を揺るがすほどの言葉を持ち合わせてはいない。
小さくため息をつき、部屋を後にしようとした。

その動きを、傍らにいたワルドに、軽く抑えられる。

「ワルド……?」

「子爵殿 いかがなされた?」

「おそれながら 殿下に折り入ってお願いしたき儀がございます」

穏やかではあるが、やや緊張が感じられるワルドの口調に、ウェールズが先を促す。

「もし叶うならば 明日 城内の礼拝堂において ウェールズ殿下の媒酌の下
 私と 傍らにいる婚約者 ルイズ・フランソワーズとの結婚式を行うこと お許しください」

「!」
「ワ ワルドッ! あなた こんな時に何を……」

「勿論 式といっても あくまで儀礼的なものさ
 立会いはあくまで殿下ひとりにお願いするつもりだし
 これまでの生活が変わるわけでもない
 ただ…… どの道 遠からず永遠の愛を誓い合うことになるのなら
 面識の無い司祭の前より 誇り高き騎士である殿下にお願いしたいと思ったんだ」

「…………」

「殿下」 

ルイズの沈黙を肯定と捉えたか、ワルドが改めてウェールズに向き直る。

「ニューカッスルに留まる兵達の覚悟 このジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド
 武門に名を連ねる者として まこと 深い感銘を受けました
 残念ながら 私は重大な任務を帯びたる身 供をすることは叶いませぬが
 この上はせめて 殿下の媒酌を誉れに 今生の別れに致しとうございます」

ここまで、二人のやりとりを呆然と見ていたウェールズであったが
ワルドの最後の懇願に対し、穏やかな笑顔を見せた。

「素晴らしい話ではないか
 この無能たる我が身に残せる物があると言うなら
 喜んで お役目引き受けさせて頂こう」





650:零姫さまの使い魔 第六話③
08/11/23 12:33:53 ft1WjCZG
「ワルド…… 何で あんな大事なことを突然?」

「ああ
 あれは何も僕たちの為だけではない
 あの申し出は ウェールズ殿下の為でもあるんだ」

「ウェールズ様の……?」

客室へと続く渡り廊下を、二人が進む。
視線を向ける事無く、ワルドが言葉を続ける。

「お優しい殿下の事だ 愛する王女に何一つ残せぬ事も
 その使者として現れた 君の誠意を袖にした事も 
 内心では相当気に病んでおられる筈さ
 その彼が 僕達に対し残せるものがあると分かれば
 少しは心労を和らげる事が出来るんじゃないかと思ってね……」

「…………」

ルイズが視線を落とす。
もし、ワルドの予想通り、ルイズの態度が王子を苦しめているというのならば
その憂いを取り去る為のワルドの方便を、止められる道理は無かった。

「―それから この話は彼女…… 君の使い魔には秘密にしておいた方がいい」
「え?」

ようやく平静を取り戻しつつあったルイズの思考が、再び揺さぶられる。
形だけの使い魔とは言え、彼女とは公的には主従の間柄であり、私的には大事な友人である。
いかに内々の式とはいえ、これまで危険の多い任務に従ってきてくれた彼女を、参列させない道理は無い。

「ここ数日 供に旅をしてきて感じた事だ
 やはり 彼女は我々とは違う」

「それ…… どう言う事?」

「いや 決して悪い意味じゃない
 ただ 今は契約で繋がれてはいるが 
 彼女の価値観は あくまで漂泊の民のそれなのだろうと思う」

「漂泊の民?」

「何一つ権利を持たずに生まれ それ故に 何の義務も負わずに生きてきた人間と言う事さ
 様々な特権に守られ その分 貴族としての在り方に縛られている 僕等とは真逆の存在だ
 世間の荒波に揉まれながら 自らの芸に由って身を立てて来た事だけが彼女の誇りだ
 死に望もうとする貴族の矜持も 今生の誉れを抱きたいという心理も 
 彼女は理解しようとはしないだろう」

「それは…… でも」

「レコン・キスタの圧力が迫る城内に留まり
 任務そっちのけで結婚式ごっこに興じると知れば 彼女は決して良い顔はしない
 君と彼女の関係に 必要の無い亀裂を生む事は無いだろう?」

651:零姫さまの使い魔 第六話④
08/11/23 12:35:26 ft1WjCZG
どこかワルドに言いくるめられた感はあったものの、結局ルイズは押し黙るしかなかった。
手の目が危険を覚悟でついて来たのは、あくまでルイズの身を守るためである。
それを知りながら、結婚式に時間を費やすことは、彼女の献身に対する裏切りに感じられたからだ。

「終わったかい? おふたりさん」

部屋の入り口では、話題の中心人物である手の目が、二人を待ち侘びていた。

「手の目……」
「ああ 王女の手紙は 無事に返却されたよ」

咄嗟に言葉がでなかったルイズを遮り、自然な口調でワルドが言う。

「ついては今後の話だが……
 明朝 城内から避難民を乗せた船が出る
 君はそれに同乗し 一足先にトリステインに戻ってほしい
 我々は 後からグリフォンで追う
 長距離ではあるが 二人乗りならば何とかなるだろう」

「……言ってる意味がさっぱり分からねェ
 手紙が手に入ったんなら こんな所に長居する理由は無いだろうに
 一緒に船で帰ればいいじゃねぇか?」

「―君の立場から言えば 確かにその通りだろうが……
 今の我々は トリステインを代表する大使でもある
 アルビオン皇太子の厚意に甘えっぱなしで 挨拶の一つもせずに去るわけには行くまいよ」

「ふぅん……」

もっともらしいワルドの説明を、いかにも胡散臭げな態度で聞いていた手の目であったが
やがて詮索にも飽いたか、クルリと背を向けると、あてがわれた自室の扉を開けながら―、

「どうでもいいけどよォ 木乃伊取りがナントカってェのだけは勘弁だぜ」

「!」
「なッ……!」

―と、二人が反論する間もなく、バタンと扉を閉めた。





652:零姫さまの使い魔 第六話⑤
08/11/23 12:38:19 ft1WjCZG
―夕刻

ホールでは、アルビオン王国にとって久方振りの宴が開かれていた。
トリステインの有力貴族であるルイズでも、目を見張る程の贅を尽くしたパーティー
テーブルには豪勢な料理の数々が所狭しと並び、着飾った貴族や貴婦人達が会話に花を咲かせる。
時折、老王自ら、ここまで付き従ってきた忠臣たちを慰撫して回るが
宴の歓喜に当てられたは、王の真摯な憂いすらも冗談として笑い飛ばした。

一切の翳りが無い、明るく、華やかな宴
それが却って、事態の傍観者であるルイズにとって、印象的な光景に映る。

「やれやれ こんな七面倒臭い宴席は初めてだ」

ようやく周囲から開放された手の目が、辟易といった感じで近付いてくる。
その表情は、既に先の冷めたものへと戻っている。

「手の目」

「あ~ぁ あんな浴びるように煽りやがって
 滅多に無ェ上等な酒だぜ あんなの見たら蔵元が泣くよ」

複雑な表情のルイズに対し、手の目の態度は傍観者そのものである。
余りのデリカシーの無さに、ルイズの心中に先の怒りが込み上げて来る。

「アンタねぇ…… あの人達が無理して明るく振舞っているのが分からないの?
 もうちょっと とるべき態度ってものがあるでしょうが」

「そんな事ァ こちとら百も承知さ お嬢の方こそ あいつらに入れ込みすぎなのさ
 目の前の光景は 所詮 隣国で起こってる他人事の一部なんだからよォ」

「そんな言い方……」

尚も反論しかけたところで、ルイズが違和感に気付く。
普段から冷淡な手の目ではあるが、いくらなんでも、今日の彼女の突き放した態度は余りにおかしい。
余りにも冷め過ぎた、傍観者の目線。
その意味するところは……

「手の目 アンタまさか……」

「まさかもなにも こうしてる今もはっきり見えるよ
 これから【先】の映像が 握り締めた刺青の上から流れ込んできやがる
 こんなにも見通しが利くのは こっちも初めての事さ……」

ルイズが憂いを抱えているのは、これから先、ニューカッスルで起こる出来事を予想するが故である。
そして、今宵の手の目がどこまでも冷め切っていたのは、これから起こる出来事を確信するが故であった。

「―でも 先が見えると言うのなら あるいは……」

「どうしようもないね 
 今の彼らに何を言った所で 情熱に水を差すことしか出来ないし
 どう助言してみたところで 盤上では既に詰んでるんだ
 あっしが見たものを余す所なく伝えたとしても
 精々 道連れに出来る敵さんの数が増えるってェだけさ……」

653:零姫さまの使い魔 第六話⑥
08/11/23 12:40:17 ft1WjCZG
「そんな……」

「彼らは別にそれでいいのさ 
 今の彼らに残された問題は いかに誇り高く死ぬかってだけだからな
 だがよ お嬢はそうじゃねェだろ?
 だったら あんなモンに巻き込まれちゃいけねェや」

「…………」

「―他に まだ何か 抱え込んじゃいないか?」

ルイズが再び息を呑む。今宵の手の目の冴えは、まさに異常である。
もっとも、相手は年下とはいえ、長年酒の席を取り持つ事を生業としてきた手練である。
憂いを隠し切れない貴族の令嬢の心理など、裸同然なのかも知れない。

「察するに ワルドの旦那の事だろう?」
「……ええ」

と、ひとまず肯定はしたものの、それっきり、ルイズは言葉に詰まる。
明日起こる出来事を、手の目に話すわけにはいかないが、
その確信を避け、どのように悩みを打ち明ければ良いかが分からなかった。

「あの旦那は 何と言うか 少し近すぎるな」

「近い?」

「ああ あっしは勿論 初対面だし
 お嬢は小さい頃の馴染みとは言え 十年来会っていなかったんだろ?
 あの旦那は その辺の垣根を易々と乗り越えて近付いてくるのさ」

人と人の距離感。
それは、常に人と向き合う仕事で糊口を凌いできた手の目だからこそ、気になる部分であった。
人同士の付き合いには、それぞれに守っておきたい距離が存在し
人付き合いの旨い者であるほどに、踏み越えてはならない一線を把握して、
他人との間に、絶妙な距離感を保つものである。

これがワルドの場合、自分の本心は隠したままで
いつの間にか対手の内側に入り込んでこようとするきらいがあった。
彼がどこまで自覚的にやっているのかまでは分からないが
それこそが、ルイズが感じたある種の違和感、手の目が感じた本能的な嫌悪感の正体だった。

「―ともあれ ワルドの旦那は強引な流れを作り出す節はあるが
 後はお嬢が その流れに乗るか あるいは逆らうか 問題はそこだけなのさ
 だから 本当はあっしがちょっかい出す事でも無いんだが……」

言いながら、手の目がルイズの右手を取る。

「何?」

「なぁに ちょっとしたおまじないだ
 どうしても お嬢が自分で判断を下せなかった時は 
 こいつを試してみるのもいいだろうよ」





654:零姫さまの使い魔 第六話⑦
08/11/23 12:42:01 ft1WjCZG
「やれやれ やっぱり当分は乗り込めそうにないね」

明朝、港内に集まった人だかりに対し、手の目が絶句する。
脱出に使えるのは、城に残った戦艦一隻のみというのだから
いかに城内に人が少ないとはいえ、混雑を起こすのは当然であった。

出航まで時間がかかるであろう事を覚悟し、手の目が港内の片隅に腰を下ろす。
手の目がトリステインからの大使の一行と知れば、乗員達も率先して道を開けてはくれるのだろうが
不安な表情を浮かべる女子供を押し退けてまで乗り込む程、安っぽいプライドは持ち合わせていなかった。

―と、
後方から感じた気配に、ゆっくりと手の目が振り向く。

洞窟の影から現れたのは、昨夜のパーティで見知った顔。

「あんた…… 王子様 かい?」

手の目の記憶に間違いが無ければ、確かに目の前にいるのは
アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーであろう。
昨夜見たとおりの穏やかな笑みを浮かべ、ゆっくりと近付いてくる。

手の目としては、その光景を額面通りに受け取るわけにはいかない
アルビオンの皇太子は、本来なら今頃、ルイズ達の別れの挨拶を受けていなければいけない筈である。

「……わざわざ出向いて下さったのは有難いが
 こんな所で 油売ってていいのかい?」

疑惑の色が混じった手の目の軽口に、男は応じない。
相変わらずの笑顔で、ゆっくりと体を沈め……

次の瞬間、風を巻き、獣の如き跳躍で、手の目の鼻先へと迫った。

「!」

咄嗟にかざそうとした手の目の右手首が、閃光の一太刀で斬り飛ばされる。

「ぐッ……」

返す刀で打ち込まれた強烈な刺突が、手の目の右胸を深々と貫いた。

655:零姫さまの使い魔
08/11/23 12:45:22 ft1WjCZG
以上、投下終了です。
一話完結の葉介作品だとまず無い引きですが、区切りが良かったので。
ここ二話ほど、手の目が芸を見せていないので、次回は全開で行きたいと思います。


656:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 12:52:03 6FJm0rRb
乙っしたー
人の心理を推し測る手管にかけてはおそらくこのスレで呼ばれた全ての使い魔の中でも最上級
それゆえに腹に一物抱える御仁にとっては厄介極まりない危険な相手
とはいえ切ったはったは苦手な手の目
鉄火場に放り込まれた彼女の運命やいかに!ですなー

…なんか上手く纏まらんかったのう…

657:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 12:59:42 Vb0k5rAT
ゼロ魔の世界では、貴族は平民にこーゆー事をやるのが珍しくないと思うと
                 ↓
  URLリンク(nijinochocolate.homelinux.net)
産まれる世界を間違えたかな・・・と思ったりする

658:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 13:12:29 J02kMZDK
エロ注意

659:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 13:27:39 tkunmT1L
>>657
詳細希望

660:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 13:29:11 6FJm0rRb
おーけー、>>657がハルケギニアに生まれ変われるように祈ってあげよう。
平民の美少年として狒々親父にアッー!?されるのとおちこぼれ貧乏三下美少女メイジとして野郎どもからレイープされるの。
どっちが良い?

661:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 13:29:42 W2CWN4CH
別にゼロ魔の世界じゃなくても金と権力があればできるんじゃね?
>>657が見てるゼロ魔と
俺が見てるゼロ魔が違うものだというのが良くわかるな

662:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 13:43:40 VT1YdK9q
どうやら分かっていないようだが、『現代』こそは一番奴隷人口多い時代なのだよ。
そして世界に存在する銃の数は約12億丁、全人口の五人に一人が銃を所持している『現代』が一番戦争人口割合が多い時代でもある。

>>657は生まれる国を間違えただけだ。
アフリカに生まれれば良かったのにな……

663:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 14:05:35 8j9SBV9a
ウォーズマン乙

>>657も乙なんだぜ
貴族の血を引いた平民に魔法を教えて下克上したら面白そうですな

664:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 14:08:52 P+JjXzEO
>『現代』こそは一番奴隷人口多い
割合なら史上最も低いんだろうけど、母数となる総人口がな。
直近の50年で2倍に増えてるんだから、異常としか言いようがない。

665:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 14:12:47 m/7uFDD3
6000年たってあれっぽっちのハルケギニアの停滞も異常
いかに貴族が世界を腐らせていたかがわかる

666:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 14:22:42 76Dx3woa
ハルケギニアにもネット環境があったんだな

平民が貴族への恨み言をこんなとこに書き込むとは

667:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 14:27:42 QurZblcq
地球人は宇宙人と取引して蒸気機関などの超技術を手に入れただけに過ぎなかったんだよ!

668:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 14:37:18 yPOCYNjk
6000年あのレベルの文明維持できてたのならむしろすごいぞ持続可能な開発(笑)
とやらが実現してるに違いない


669:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 14:38:04 mxZuLYEG
>>665
メソポタミアに都市国家が建設された頃から数えて今ちょうど
6000年くらいたってる。地球も6000年前から1000年前くらいまでは
それほど大した進化は遂げてない。

産業革命以後がすさまじい。産業革命がなきゃ地球もハルキ
も同じようなもんだろう。6000年から見れば産業革命なんか
その最後の200年300年のときにおきてる。

ハルキの停滞なんかその時間スパンからしたら誤差だろう。
今、ハルキでも産業革命に相当するなにかが進行中かも知れない。

670:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 14:46:17 sZpNjtrN
コッパゲの空飛ぶ蛇くんですね、分かります。

671:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 15:07:27 tcfIjVpT
>>663
そいつが死ぬだけだろそれ

672:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 15:10:37 YKQbThct
ワンピの天竜人とゼロ魔の貴族の区別の付かない奴がまた出たのか

673:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 15:14:44 rz11mWmM
ゼロ魔の貴族はちゃんと魔法で社会に貢献してるしな
威張るにしても威張れるだけ役にはたってる

674:虚無と金の卵
08/11/23 15:18:42 x8+DrCud
予約無ければ、『虚無と金の卵』15:30より投下いたします。


675:ウルトラ5番目の使い魔 第23話
08/11/23 15:19:50 i/xJIunx
こんにちは、第23話投下開始したいのですが大丈夫でしょうか。
今回は前回までに比べれば短めなので、さるさんの心配はないと思います。
よろしければ15:30より開始いたします。

676:ウルトラ5番目の使い魔 第23話
08/11/23 15:21:42 i/xJIunx
あっ、申し訳ありません。では、先にどうぞ、私は16時すぎあたりから投下させていただきます。

677:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 15:28:54 xmKAMOhW
>虚無と金の卵 15:30から

>ウルトラ5番目の使い魔 16:00から

と言う事で支援

678:虚無と金の卵 1/8
08/11/23 15:28:54 x8+DrCud
>>676 すみません、お先に投下させて頂きますね。
***

 アンリエッタ姫殿下の行幸した日の夜。
 ルイズは歓迎式典を終えた後、大人しく自室に戻り、姫殿下の姿を思い起こしていた。
 魔法学院の生徒として、他の生徒や教師と共に姫殿下を出迎えた。
 アンリエッタ姫殿下が馬車から降り、緋毛氈の上を優雅に歩いていく姿―自分と同じように成長している。
 だが、瞼の裏のお転婆な姿とはそこにはなく、気品と威厳、そして優雅さを兼ね備えた一国の王女であった。
 実に立派になった。あの無邪気な頃の姫がいないと思うと少し寂しい。
 だが、その寂しさと同じだけの誇らしさを、ルイズは感じていた。

「なあ、ルイズ。アンリエッタ姫が来てから妙に嬉しそうだな。他の学生のように、うかれているという感じでもない」
「あら、そう見えるかしら?」
「親しみと喜びの匂いを感じる。あの一団の中に、誰か知り合いでもいたのか?」
「うん。そうよ……幼馴染が居たの。声はかけられなかったけど……でも、一目見られただけでも本当によかったわ」

 しみじみとルイズは語る。

「幼馴染か……。良いものだな」
「ウフコックは、そういう人いる?」
「馴染みの友達なら……ああ、俺の生まれた研究所に、イルカの友達と人間の友達が居る」
「い、イルカ? 貴方みたいに喋るの?」

 ルイズの驚いた声に、誇らしげにウフコックは答える。

「ああ。まあ少し荒っぽい性格だが……博識で頼りになる男だった」
「そ、そうなの……。貴方の生まれたっていう研究所をもし見たら、多分卒倒しちゃうかも」
「きっと君の認識の幅が広がることだろう。……ああ、だがチャールズは見ない方が良いだろうな。本気で卒倒しかねない」
「よくわからないけど……ウフコックがそう言うなら、そうなんでしょうね。
 ところで貴方、お仕事をしてたのよね。衛士隊みたいに、犯罪者を捕まえていたんだっけ?」
「ん? ……ああ。まあ正しくは、証人保護、生命保全が目的だったが」
「どうしてその研究所から出て、その仕事を選んだの? 他の友達はどうしたの?」

 ルイズの何気ない問いに、ウフコックは逡巡した。

 ウフコックは嘘を付くことを嫌う。また、同様に何かを秘密にすることも嫌う。
 ウフコックの生来の嗅覚の前には、嘘も秘密も意味を為さない。
 そのため人間の嘘や秘密と言った概念自体理解することに、意外なほどに時間を要した。
 またウフコック自身が誰かを騙す/隠す行為、それは一般人以上に罪悪感を伴う行為だった。
 あらゆる心理を嗅ぎ取る自分自身が、何かを隠すこと。それがどれほどの公平性を欠く行為であるのか、
 十分以上にウフコックは自覚している。
 そのウフコックが、珍しく押し黙った。

「……言い難いことなら、別に良いわよ?」

 優しくルイズは諭す。だがウフコックは、遠くを見るような目で語り始めた。
 

679:虚無と金の卵 2/8
08/11/23 15:30:49 x8+DrCud
「一緒に、研究所を出て、都市を目指した友……というより、仲間が居たんだ。
 皆……強かった。どんな窮地に立たされても、諦めることは無かった」

 言葉の響きとは裏腹に寂しげなウフコックの声。ルイズは驚きつつ、耳を傾ける。

「俺が研究所を出たのは……研究所の外の世界に、俺を必要とする人がいると願ったからだ。
 まあ、一緒に研究所を出た仲間達の理由は、それぞれ少し違っていただろう。だが俺達は、決して少なくない数の人達を救ってきた。
 ……彼らと共に仕事して、恐らく初めて、誇らしさというものを感じたと思う。今の俺があるのは、彼らのお陰だろう」
「その仲間の人達が、好きだったのね……」
「ああ。誰もが、かけがえの無い親友だった」
「……今は、その人達は?」

 ウフコックが言いよどむ程のことが起こったのだろう。聞くべきか、聞かずに済ませるべきか、迷う。
 だがルイズは、覚悟を決めて尋ねた。

「……何人かは、死に別れてしまった」
「……! そうなの……」
「俺達の仕事とは、証人を守ることだった。
 俺達のリーダーは、利益の名の下に踏み潰される人を、苦痛に塗れて生きる人を、救いたかったんだ。
 だが、証人が失われることで利益を得る連中は少なくなかった……闘いは避けられなかった」
「……辛かったでしょうね」

 ルイズは、ウフコックの背を撫でた。
 ルイズの手の平に、背を預けるウフコックの重みが伝わる。

「死に別れたときは……ひどく落ち込んだ。本当に自分の道が正しかったのか、迷いに迷った。
 だが今は、彼らの死を無駄にしたくないという気持ちが強いんだ。
 俺は、仲間達の意思を受け継いでいる。どんな状況であれ、俺はそれを貫きたい」
「……今度落ち着いて、貴方の仲間のこと、ゆっくりと聞かせてくれる? もちろん、貴方が良ければ、だけど」
「ああ、いいとも。是非聞いてほしい。皆、武勇伝と呼ぶに相応しい活躍だったんだ。しかし一つ不安があるな」
「どんな?」
「皆、本当に頼りになる人間ばかりだったから、俺への関心が薄れてしまいそうで心配だ」
「あら、嫉妬してくれるの?」
「さあて、どうだろうな」
「貴方の代わりなんていないわよ。……そうだ。仲間の話をしてくれたら、私の幼馴染のことも教えてあげるわ」
「それは楽しみだ」

 このとき、ウフコックは一つの嘘をつき、一つの事実を隠した。
 ウフコックの仲間、そのうちの一人は都市へ出る以前に死亡していた。
 そして更に、9人は都市で死亡した。
 13人中、生き残ったのは3人のみ―その中に09メンバーの指導者はいない。
 戦闘ならばどの軍隊でも全滅と判定するであろうケース。
 少なくとも「何人か」という言葉で表してよい数字では無かった。
 そして、生き残った3人の内の1人でウフコックの元相棒―その男がウフコック達と決別して
 敵の下へ降ったという事実を、ウフコックは口にすることができなかった。
 
 
 
 

680:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 15:30:57 Fp56GDMS
>>643

他にも美羽さんをオバサン呼ばわりしてしばかれた挙句Mに覚醒するマルコメとか、ラスティネイルポジションになるおマチさんとか、毎回デルフ共々弟バリアーにされるもギャグ補正で次の場面で復活する恒を幻視したw
ウフコック支援

681:虚無と金の卵 3/8
08/11/23 15:34:15 x8+DrCud
 話し込んでいる内に夜も更け、ウフコックもルイズも寝る支度を整えようとした頃。

「もうずいぶん遅くなったわね……。でも、なかなか寝られないわ」
「余韻に浸りながら床に着くのは悪いものではないさ。また明日に色々と話そうか……」

 ウフコックがだらしなく欠伸をして布団に潜り込もうとした。
 その瞬間、ノックが響く。
 始めに、長く2回。そして短く3回。
 ウフコックの嗅覚に、ルイズの驚き、戸惑い、そして大きな歓喜の匂いが届く。

「……まさか……!」

 ルイズは寝巻きに着替えようとしていたが、急いでブラウスを身に付けて扉を開く。
 扉から入ってきたのは、ローブを羽織り、頭をフードをすっぽりと被った女性。
 手早く後ろ手で扉を閉め、辺りをディティクトマジックで調べ始める。

「どこに耳が、目が光っているかわかりませんからね」
「……姫殿下!」

 女性はフードを下ろす。現れたのは、魔法学院総出で出迎えたはずのアンリエッタであった。
 ルイズの顔が輝く。アンリエッタの表情も、明るい笑顔に包まれる。

「ああ、ルイズ! 懐かしいルイズ!」

 アンリエッタはルイズを愛しそうに抱きしめる。だが、ルイズは嬉しさを堪えるように畏まる。

「姫殿下、こんな下賎な場所に来てはなりません……!」
「ルイズ、堅苦しい言葉は止めてちょうだい! ここには枢機卿も母上も、宮廷貴族も居ないのだから」

 総出で迎えたときとは打って変わり、アンリエッタには年相応の明るさが見て取れた。

「お願いよ、そんなよそよそしい言葉はよして、昔を思い出しましょう?」
「姫様……」
「クリーム菓子でつかみ合いの喧嘩をしたこともあったでしょう……本当に懐かしいわ」
「アミアンの包囲線もありましたわ。……ドレスを引っ張り合って、私、気絶してしまいましたわ」
「そうよそうよ! 覚えてるじゃないのルイズ!」
「二人で、泥だらけになってはしゃいでいたりしましたわ。懐かしい……」

 昔の話に花を咲かせて屈託無く笑う二人を、ウフコックは優しく見守る。

「ところで、可愛らしいネズミさんね。ルイズの使い魔さんかしら?」
「ええ。ウフコック、ご挨拶なさい」
「初めまして、アンリエッタ姫。俺はウフコック。ルイズの使い魔をさせて貰っている。
 特技はまあ、お喋りとお洒落といったところだろうか」
「あら、お喋りもできるのね。毛並みも艶やかで、とても綺麗だわ。お洒落さんには間違いないのね」
「ありがとう、アンリエッタ姫。ところでルイズ、先ほど、俺に幼馴染のことを話してくれるという約束をしたが……。
 その約束を果たして貰える、という理解で良いのかな?」
「こ、こらウフコックっ! 姫様の前なんだから、幼馴染なんて気安い言葉、使わないで頂戴!」
 

682:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 15:34:48 AB2tXXP9
支援させて頂きます

>>676
もう少し間隔開けた方が良いんじゃないかな?
と思わないでもなかったり。

683:虚無と金の卵 4/8
08/11/23 15:37:29 x8+DrCud
 だがウフコックは悪びれもせず、ありのままをアンリエッタに伝える。
 それを聞いてアンリエッタは嬉しそうに微笑んだ。

「いや、ルイズは貴女に対して、強い親しみと誇らしさを感じている。本当に幼馴染の成長を喜んでいる、という感じだった。
 現に先ほどまで、興奮してなかなか寝付けないでいたのだから」
「まあ……嬉しい……」

 感極まったように、アンリエッタは涙ぐむ。

「ここ来てよかったわ。貴方の元気そうな顔が見れたのだから」
「私も、姫様のお姿を見れて……とても幸せです。それに昔のことを覚えてくださっているなんて、感激でした」
「忘れるわけがないわ。……昔は、毎日がとても楽しかったもの」

 アンリエッタが成長し、ルイズがお相手役を止めて別れ、十年近く経つ。
 二人で遊んだ子供の頃の話。別れた後に起きた話。
 相変わらず魔法が使えないこと/宰相に愚痴られてばかりであること。
 魔法学院に入学したこと/父が死んだこと。
 ウフコックを召喚してから変わりつつある日々/政務に追われる日々。
 二人は互いを確かめるように、尽きることなく話し合った。

 だが、ふと、アンリエッタの顔に影が差す。

「……この先も、どうか、私と遊んだ日々、忘れないでいてくれる?」
「……姫様?」

 アンリエッタはまた、来たときのようにルイズを抱擁する。

「きっと貴女なら良いメイジになるわ。ルイズ」

 そして去ろうとしてルイズから離れ、扉に手をかける。だが、ウフコックが呼び止める。

「待つんだ。そのまま帰ってしまって、良いのか?」
「……ええ、私はただ、友達の顔が、見たかっただけですわ」
「そうか……まあ、心許せる友人は何より貴重だ。いつまた会えるかわからないとなれば、なおのことだろう。
 だがルイズにとっても貴女は友だ。友の身を案じる気持ちというのは、大事にしてあげるべきだと思う」

 アンリエッタの、ドアノブを回そうとする手が止まった。
 ルイズも何かの気配を悟る。

「……姫様。何かお話したいことがあるなら、仰ってください。私は誓って、他言など致しません」

 だが、アンリエッタは哀しそうに首を横に振る。

「……いいえ、言えませんわ。貴女を巻き込めはしない」
「ですが……!」
「迂闊に話したら、貴女も無関係では無くなります。まだ学生の貴女に危険を晒させたくありません……」

 王女の孤独―迂闊に触れてはならぬ権威そのもの。
 ルイズは、目の前の敬愛すべき姫に、何かしらの危機が迫っていることに気付いた。
 ルイズは思う。
 助けてあげたい。力になりたい。
 だが―今、自分が手を差し伸べることが出来るのか。果たして差し伸べて良いのか。
 もしアンリエッタ姫を助けるとして、何を命じられてもウフコックと一緒ならやり遂げることは出来る。
 だが―。

684:虚無と金の卵 5/8
08/11/23 15:39:46 x8+DrCud
 
 ルイズはウフコックを見つめた。
 やれやれ、と肩をすくめている―頼もしさを伴うふてぶてしさ。

「姫様。私はそれでも構いません。どうか、お話になってください」
「ルイズ……」

 アンリエッタは伏せていた瞳をあげ、ルイズと、ウフコックを交互に見た。

「ありがとう、ルイズ。それに使い魔さん。この話は、どうか他言無用に願います。良いですね?」
「はい、姫様」
「……この学院に来る前は、ゲルマニアに行幸してきました。表向きには……私がゲルマニアの皇帝に嫁ぐため、
 そしてトリステインとゲルマニア間の和平を結ぶためでした。それはご存知?」

 望まぬ結婚であろうことを悟り、ルイズの声は暗くなる。

「はい。……噂ですが、レコンキスタがアルビオンを牛耳ったときのための策と、聞いております……。
 ですが表向き、ということは……」
「本来ならそのはずでしたわ……そういう形式でゲルマニアに行幸しました。でも、実際は裏の目的があったの。
 実は、婚姻というのは周囲の目を誤魔化すための方便に過ぎないわ。正式な話は何も無くて、
 あくまでありそうな雰囲気を作り出しているだけなの」
「裏の目的……」

 アンリエッタは少し沈黙し、言いにくそうに切り出した。

「……アルビオンの外……ゲルマニアやトリステインの貴族の中に、レコンキスタの協力者が居ることがわかったのです」
「トリステインの貴族に!? なんて恥知らずな!」

 レコンキスタの影響で国策が決まったとしても、レコンキスタそのものは対岸の火事。
 大抵の貴族はその程度の認識であり、ルイズもその大抵の貴族に含まれる。ルイズは驚きを露わにした。

「ええ……とても衝撃でしたわ。それも、私やマザリーニの信頼していた貴族が裏切り、
 レコンキスタに協力していたのです……。しかも、私は彼の者に秘密を漏らしてしまいましたわ」
「秘密……」
「……私が、以前にウェールズ皇太子に宛てた手紙です。それを知られれば、トリステインとゲルマニア間の
 国交は悪化し、レコンキスタは勢い付くでしょう。それほどの内容の手紙が、あるのです……」
「姫様、その手紙とは……」

 ルイズの言葉に、アンリエッタは耐えるように唇を結び、首を横に振る。

「ごめんなさい、ルイズ。それは言えないの……」
「ですが、その、レコンキスタに通じている者がおわかりになるのでしたら……」
「彼らは、誰もが一騎当千の魔法衛士隊の隊員なのです。易々と捕まることはないでしょう。
 しかも一人は風の遍在の使い手。こちらが万全を期していても、抑えることは至難の技です」
「そんな人が……レコンキスタなのですね」
「もし捕縛から逃れたら、彼らはアルビオンに逃げることでしょう。そしてその内の一人は、
 手紙のことを知っています。レコンキスタが今や危機に陥っている以上、アルビオンや他国を牽制する材料ならば、
 手段を選ばずに手に入れようとするはずです」
「はい……」
「私がしたためた手紙のために、歴史あるアルビオン王家が倒れ、そして簒奪者がトリステインに牙を向くようなことがあれば……。
 私は、償いきれぬほどの罪を背負うことになります」

 その罪の重さに、ぶるりとアンリエッタは震える。

685:虚無と金の卵 6/8
08/11/23 15:42:37 x8+DrCud
 
「……今のうちに動けば、気取られる前に手紙を回収することができます。
 そしてトリステインも、アルビオンも、混乱させることなく事態は収束するでしょう。
 ……しかし魔法衛士隊から裏切りが出たとなれば王宮は浮き足立つことは必須。頼れる者が居ないのです……」
「姫様……ご安心してください。一命に代えましても、その手紙、取り戻して参ります」

 ルイズは、アンリエッタの信頼に応えるべく、目を見つめて頷く。
 だがそこで、黙って話を聞いていたウフコックが割り込んだ。

「……なあ。言葉を挟んでも良いだろうか」
「えっ、い、いきなり何よ?」

 話が纏まりつつ合った瞬間のウフコックの言葉に、ルイズは驚く。

「その手紙の内容については、どうしても言えないということか?」
「そう仰ってるじゃないの」
「まあ、ルイズがアンリエッタ姫の忠実な僕として行くのならば、何の問題も無い。
 号令を聞いて飛び出せばよいだけの話で、目的を遂行する以外の余計な知識は、むしろ邪魔だろう」

 ルイズは、ウフコックの口ぶりに不穏な空気を感じ取る。

「ウフコック……どういう話をするつもりなの?」
「……ルイズ、構いません。ウフコックさん、お話を続けて貰える?」
 
 アンリエッタに促されて、ウフコックは言い聞かせるように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「ルイズは貴女の忠実な僕として、立派な働きを見せると思う。
 首尾よく例の手紙を回収し、国としての危機は回避できるだろう。
 そして貴女が頼む限り、貴女に取り入ろうとする誰か、貴女を利用しようとする誰かには
 任せることのできない仕事を、ルイズは何も言わずに進んで請け負うだろう」

 ひどく客観的な物言いに、アンリエッタは固まる。ルイズは恐々としつつ見守った。

「だがもし、だがアンリエッタ姫、もしルイズとの間の友情を信じるのであれば……。
 目の前の友を、どうか信頼してあげてほしい。きっと何を言ったとしても、失望したり、裏切ったりすることはない。
 少なくともルイズは、王女としてだけではなく、等身大の人間として君を心配しているんだ。
 ルイズも、その手紙がどういうものなのか、薄々勘付いているのだろう?」
「うっ……」

 ウフコックの言葉は事実であった。ウェールズに宛てた手紙という話と、アンリエッタの狼狽ぶりを、
 ルイズは頭の何処かで冷静に見ていた。

「事情を聞かずに察して行動するのも、一つの絆の在り方だろうし、それでも問題を解決することはできる。
 だが、より深い話を、一人の人間としての本音を、聞いてあげるべきだ。それができるのは君だけなのだから。
 それとも君はアンリエッタ姫に、王女としての姿しか求めないのか?」
「それは……。でも……」

 逡巡を露にするルイズの肩に、アンリエッタの手が置かれる。

「いいのよ、ルイズ。……そうね、取り繕うとした私がいけなかったわ」

 アンリエッタの顔は、何処か吹っ切れたような表情をしていた。

686:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 15:43:45 xmKAMOhW
しえん

687:虚無と金の卵 7/8
08/11/23 15:45:19 x8+DrCud
 
「貴女にお願いがあります。命令じゃなくて、お願いよ……私の話を聞いて。そして絶対に、誰にも言わないでくれる?」
「……はい」
「私がウェールズ様に宛てた手紙は……恋文です。ウェールズ様に、恋焦がれていました。
 手紙をしたためたときの気持ちは、今も変わりありません」
「そうでしたか……」
「ですが、国を預かる身分の人間が一時の感情に身を任せるなど、あってはならないのです。
 それが露見したら、やがては王族への疑心に繋がります。そしてレコンキスタが勢力を盛り返せば
 アルビオンの戦乱はさらに拡大し、やがては国を挙げての戦争に繋がりかねません……。
 手紙を送った当時は、レコンキスタなんて影も形もありませんでした。でも、あんな手紙を送ってもウェールズ様を困らせ、
 厄介事を引き起こすだけだなんて、わかりきっていたのに……。私は、自分を御することができませんでした。
 私が至らなさのために……皆を、ウェールズ様を苦しめるなんて、耐えられない」

 ルイズは気付く。アンリエッタの感じる後ろめたさと、自分の心を。
 客観的に判断すれば、完全に姫が悪い。方便とはいえゲルマニア皇帝との婚約の話が持ち上がっている以上、
 教会には酷く対面が悪くなる。国内の貴族に関しては、言わずもがな。
 ゴシップ好きの野次馬や、王侯貴族にロマンを求める平民を喜ばせる程度だろう。
 だが敢えてルイズはそれを気付きつつも、心の片隅で、誉れ高い姫君というアンリエッタという偶像を
 守ろうとしていた自分に気付いた。
 無邪気に遊んでいた幼少の頃を瞼の裏に浮かべることはできたが、今、目の前にいるアンリエッタが、
 過去の延長上の当たり前の17歳の少女ということを無視しようとしていたのでないか―ルイズは自問自答する。
 王女であるアンリエッタを助けたいと思ったのは紛れもない真実だ。
 だがその裏、権威ある人間に恩を売りたいという気持ちが一点も無かったと言えるのか―否定は難しかった。
 恥部を視界の外に追いやり、笑顔だけを向け合う関係―アンリエッタの愚痴るような、宮廷貴族と同じではないか。
 ルイズは遠い過去/アンリエッタとの関係を思い出す。
 当然ながら未熟すぎる頃は遠慮など何も無かった。
 無かったが故に、当たり前のようにぶつかりあった。
 ときには互いに罵りあって、掴みあって―そして認めあったのに。
 
「言うなれば、貴女の友情と忠誠に付け込んで、私の愚かさ、私の泥を被るような仕事を、押し付けようとしていたんです」
「姫様、良いんです」
「……ルイズ」
「私が貴族で、王女に忠誠を誓う身分というのは、代えようがありません。ご命令とあらば、何であれ従います。
 でも、それとは無関係に、私は姫様を案じていますし、姫様が私と喧嘩して泥だらけになったり、
 男の人を好きになる当たり前の女の子だってことも、私だけは理解してます。
 ……だから、困っているのなら、人に言えない悩みがあるなら、私を遠慮なく言ってください。
 私は、いつでも正直に答えます」
「ルイズ……」
「ただし、姫様を怒らせることも言うと思いますので! ……だって私達、友達ですから」

 アンリエッタは、ただ涙を零すがままに任せた。
 ルイズは、アンリエッタをただ抱きしめた。アンリエッタの重圧を軽くしてあげることを祈って。

「ルイズ……手紙をしたため、送ってしまった私が馬鹿だったの。自分の心、自分の未熟さには、自分で決着を着けるわ。
 ……でも、どうか今だけ、貴女に頼りたいの。お願い、助けてルイズ」
「はい……姫様。貴女を助けます」

 アンリエッタはその言葉を聞いて、ルイズを抱き返した。

「……で、友達として質問があります」 アンリエッタが泣き止むのを待って、にやりとルイズが微笑む。
「ええ、ルイズ。何かしら?」 涙をぬぐいつつ、アンリエッタは言葉を返す。
「ウェールズ様の、どんなところが好きになったんですか?」
 

688:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 15:46:34 YKQbThct
支援

689:虚無と金の卵 8/8
08/11/23 15:46:35 x8+DrCud
 
 
 
 
 ひとしきりルイズはアンリエッタを質問攻めし/無理矢理答えさせ/散々弄りまくった。
 お互い年頃の娘らしく、言葉を潜めつつも話の盛り上がりは激しかった。

「ひ、ひどいわルイズ……やっぱり意地悪で厳しいところも変わってないのね」
「血筋ですもの」

 泣き止んだはずのアンリエッタが涙目で抗議する。

「私は、ウェールズ様との件は個人的に応援はしてますが、それはまた落ち着いて話をしましょう。
 まずは手紙が先決です」
「そうね……」

 その言葉でアンリエッタは気を取り直し、ある物を取り出してルイズに渡す。

「ルイズ、これを持っていって頂戴」
「……これは……」
「ウェールズ様宛てに書いた手紙です。ウェールズ様にお読みになって頂ければ、手紙の返却に
 すぐ応じてくれるでしょう。それと、もう一つ……」

 アンリエッタは、自分の指に嵌められた指輪を外し、ルイズの手を握るように手渡した。

「母君から頂いた、水のルビーです。路銀に困ったら、これを売り払ってください」
「……はい。ありがたく、頂戴致します」
「今日は、本当にここに来てよかった。ありがとう、ルイズ。ありがとう、ウフコックさん。
 おかげで、何だか心が軽くなったようだわ。……誰かとこんな風に話せたのは何年ぶりのことかしら」
「姫様……」
「気にしないで、ルイズ」

 アンリエッタは名残惜しそうにルイズの手を離し、表情を引き締める。

「……正直、アルビオンは危険です。内戦は小康状態ですが、火種が燻っていることには変わりありません。
 だからこそ、レコンキスタに身を落とした彼ら―ワルド子爵らに、あの手紙を奪われてはならないのです。
 ルイズ……どうかウェールズ様に宛てた手紙を取り戻して、無事に戻ってきて頂戴……」

 そして、その名を、ルイズは聞いてしまった。
 アンリエッタとは別の、もう一つ過去からの衝撃―あざなえる縄のような悪意に、ルイズの心は縛られる。

690:虚無と金の卵
08/11/23 15:48:59 x8+DrCud
以上、投下終了。ウルトラ5番目の人さん、お待たせしました。
そして皆さん支援感謝です。

と、それともう一つ。
まとめサイトの方で小ネタ拾ったりメンテしてくれたりする人、ありがとう。
小ネタは自分で拾おうと思いつつ放っておいたもんで、助かりました。


691:ウルトラ5番目の使い魔
08/11/23 15:51:16 i/xJIunx
虚無と金の卵の人、乙です。

では、>>682さんの言うとおり、ちょっと伸ばして16:20から投下開始したいと思いますので
よろしくお願いします。

692:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 15:53:03 AB2tXXP9
金の卵GJでした。

この段階でワルドが敵と断定されてるのは中々に斬新ですね。
続きが非常に気になります。

693:ウルトラ5番目の使い魔 第23話 (1/5)
08/11/23 16:22:15 i/xJIunx
 第23話
 無限と光の旅立ち!!
 
 ウルトラの父
 ゾフィー
 ウルトラマンタロウ
 ウルトラマンメビウス
 ウルトラマンヒカリ 登場!
 
 
 双月も山影に沈み、しんしんと、優しい闇が学院を包んでいた。
 フリッグの舞踏会は、魔法学院始まって以来例を見ない盛り上がりのうちに幕を下ろした。
 
 踊り疲れて、草原に人々が倒れ伏したとき、オルフィの歌も終わり、チンペもパンドラに迎えられて母親も元へと
戻っていった。
 そのとき、あのベアトリスがパンドラに向かって深く頭を下げていたのは、彼女を見る大勢の人の目を別のもの
に変えていた。
 
 そうして、パンドラとオルフィは、再び草原の土を掘り返すと、地底の怪獣の世界へと帰っていき、大勢の人々が
「またこいよー」と手を振って見送った。
 
 ガラキングとバンゴは、こっそり隠れて変身したエースによって、バンゴの体に大量の特殊ガスが吹き込まれて、
まるで本物の風船のようにまあるくなると、ガラキングは長年追い求めた恋人を見つけたかのように、大喜びで
飛びつこうとしたが、エースはバンゴのボールを、サッカー選手のようにタンタンとリフティングしてかわし、
そして大空のかなたへ向かって思いっきりシュート!! お星様になっていくバンゴを追って球形に変形したガラキングも
また、エースに蹴り飛ばされて、お騒がせな二大怪獣は宇宙のかなたへ飛んでいった。
「またこいよー」
「こいつらは来なくていい!!」
 散々追い回されて、疲労の極致に追い込まれたマリコルヌが怒鳴っていた。
 
 そして、すべてが収まり、草原に静けさが戻ると、エースも夜空を見上げ、満天の星空へと飛び立っていった。
 
「ショワッチ!!」
 
 エースも夜空に消えてゆくと、皆はそれぞれのいる場所へと帰っていった。
 多分、また明日からは貴族と平民、従える者と従えられる者の関係が始まるのだろう。
 しかし、この日この時、身分も人種も性別も、国籍も、人間と怪獣でさえ共に過ごした時間があったことは、
確かに彼らの胸に刻まれたに違いない。
 
 
 才人とルイズは、床に入る前に、星明りだけが部屋を照らすなか、互いにシルエットのみしか見えない
相手を見ながら語り合っていた。

694:ウルトラ5番目の使い魔 第23話 (2/5)
08/11/23 16:25:58 i/xJIunx
「楽しかったな」
「まあね、国のお父様やお母様が聞いたら怒るだろうけど、こんなに踊ったのは生まれてはじめてよ」
 社交のためのダンスではなく、相手と楽しむための踊りなど、子供のころ以来だったと、ルイズの声にも
自然と懐かしさがにじみ出ていた。
 まあ、口に出せば、どこが子供のころと成長したんだと言われそうだから、そこのところは言わなかったが、
同時に、またいっしょに踊りたいとも言い出せなかった。
「それに、今回は一匹も倒さないですんで良かった。あいつらも、無事に帰れてればいいな」
 才人は、パンドラとオルフィが、今度は誰にも邪魔されずに平和に過ごせることを祈った。
「あんたは、帰りたくないの?」
「え?」
 ルイズがぽつりと言った言葉を、才人はうまく聞き取れなかった。
「あんたは、元の世界に帰りたくないの? ここに来て、もうすぐ2ヶ月になるわ、元の世界に帰る方法を探そうとは
思ってないの」
 それはまったく、唐突で衝撃的な質問だった。
 そうか、ここに来てもう2ヶ月か……望郷の思いが才人の胸をよぎり、思わず部屋の隅に大切に保管してある、
この世界に召喚されたときにいっしょに持ってきたノートパソコンを取り出した。
「そりゃ、日本には母さんも父さんもいるし、学校もある。こいつでネットもしたかったし、照り焼きバーガーも
ずいぶん食ってない」
 ほこりを払って、黒々としたノートパソコンの画面を見ながら才人は言った。まだ使えるだろうが、バッテリーの
量がギリギリなので電源を落としたまま、長いこと起動させていない。
「じゃあ、やっぱり帰りたいんだ」
「ああ、帰りたい。ろくなもんじゃなかったかもしれないが、大事な俺の居場所だったからな」
 暗がりで、お互い表情のわからないままふたりの会話は続いた。
「じゃあ、なんで帰る方法を探そうとしないの?」
 ルイズは、思い切って才人にそう尋ねた。それほど故郷を思いながらも、帰る努力をまったくしていない
ことが、彼女には理解できなかったからだが、才人の答えはルイズの予想を超えていた。
「実は、あてがひとつあるんだ」
「えっ!?」
 思わず驚きの声がルイズからもれた。
 実は、才人には内緒にしていたが、ルイズは暇を見て学院の図書室にこもり、サモン・サーヴァントで
呼ばれた使い魔を帰還させる方法がないか、調べていたのだが、そうした手立ては何一つなかったのに、
いったいどうした手があるというのか。
「ウルトラマンダイナの話を聞いた後に思いついたんだが、この世界と違う世界が無数にあるなら、
この世界から直接地球に帰れなくても、地球につながっている世界に入れれば、そこから地球に
帰れるかもしれない」
「あなたの世界とつながっている世界って、まさか」
「そう、ヤプールの異次元世界さ。あいつは、ハルケギニアを征服した後、地球も攻めると言っていた。
だったら、あの異次元世界は地球とハルケギニアを結ぶことができるってことだ。これから、どうなるかは
わからないけど、ヤプールとの決戦は異次元空間に乗り込んでやることになるだろう。俺が帰るチャンスが
あるとしたら、そのときだ」
 それは、ルイズには想像もつかなかった方法であった。皮肉なことだが、今この世界を侵略しようとしている
敵の存在が、才人を元の世界に戻す唯一の希望となっているとは。

695:ウルトラ5番目の使い魔 第23話 (3/5)
08/11/23 16:27:38 i/xJIunx
「だから、当分はお前の使い魔をやりながら、ヤプールと戦っていくつもりさ。もうしばらくよろしく頼むぜ」
「……」
 ルイズは答えることができなかった。
 才人が元の世界に帰る方法が見つかったのはいい。そのために、ヤプールと戦ってくれるのもいいだろう。
しかし、いつの日か、ヤプールを倒すことができた日には、それが才人との別れということになる。
 当然才人もそれはわかっているだろう。しかし、そのとき才人は自分を捨てて、さっさと元の世界に帰って
いってしまうのだろうか。
 使い魔だからと引き止めることはできる。しかし、才人にも自分と同じように家族もいれば帰る家もある。
それから無理に引き離す権利が自分にあるのか、ルイズの心は散々に乱れた。
 
 
 
 しかし、才人の元いた世界では、ふたりの思いをも超えて、事態は大きく動き出そうとしていた。
 
 青く輝く美しい星、地球。
 そこからはるか300万光年離れた宇宙にウルトラ戦士達の故郷、M78星雲、ウルトラの星はある。
 ここは、通称光の国と呼ばれ、全宇宙の平和をつかさどる宇宙警備隊が、日夜星々の平和を守るために働いているのだ。
 美しく整えられた超近代都市には、人工太陽プラズマスパークから常に光が送られ、夜がやってくることはない。
 その中央、ウルトラタワーで、今宇宙警備隊大隊長ウルトラの父が、宇宙警備隊隊長ゾフィーからの報告を受けていた。
「それでは、エースの行方はまだわからんというのか」
「はい、四方手を尽くしているのですが、いまだ手がかりらしきものはなにも……」
「そうか、エースのことだ、無事でいるとは思うが」
 ウルトラの父は心配そうな声でそう言った。
 今から1ヶ月半ほど前に、地球近辺のパトロールについていたエースが突然消息を絶ち、ゾフィーは宇宙に
散っているウルトラ兄弟達の力も借りて、あちこちの星々を捜索していたが、エースの行方はいっこうに
掴めていなかった。
 また、ゾフィーにはもうひとつ気がかりなことがあった。
「それに、エースが消息を絶つ寸前に送ってきたウルトラサインも気になります。『ヤプールの復活のきざしを
見つけた』と、それが確かだとすれば、由々しき事態です」
「うむ、ヤプールの復活は全宇宙にとって極めて危険だ。しかし、それらしい兆候は発見できていない」
「ヤプールのことを一番知っているのはエースです。間違うとは思えません」
 ゾフィーはエースへの信頼を込めて、父にそう言った。
「そうだな。ヤプールのことだ、またどんな恐ろしい方法で襲ってくるかわからん、エースはその一端を
掴んだのだろう。ゾフィーよ、こうなってはもう猶予はない。一刻も早くエースを探し出し、ヤプールの
復活を阻止せねば、ようやくエンペラ星人の脅威から解放された宇宙がまた闇に閉ざされることになりかねんぞ」
「はい、ですが現状、我々に打つ手は……」
 苦しげに言うゾフィーに、しかしウルトラの父は力強く道を示した。

696:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 16:27:47 dTB1PmUg
支援

697:ウルトラ5番目の使い魔 第23話 (4/5)
08/11/23 16:29:18 i/xJIunx
「ゾフィーよ、希望は地球にある」
「地球に!?」
「そうだ、エースが消息を絶ったのは太陽系の近辺だ。ならば地球人達は何か掴んでいるかもしれん。
それに、異次元研究に関しては、彼らは我等の一歩先をいっている。地球人達の力を借りて、必ず
この事態を解決するのだ」
「はい、ウルトラの父!」
 胸を張って答えたゾフィーに、ウルトラの父は大きくうなづいた。
 
 そして、ゾフィーの召集指令を受けて、ウルトラタワーに若き戦士が呼び寄せられた。
「お呼びですか、ゾフィー兄さん」
「メビウス、よく来たな」
 彼こそは、若い身体に純粋な心と正義の意思を秘めたウルトラ兄弟10番目の戦士、ウルトラマンメビウスである。
「さっそくだが、エースのことはお前も承知しているな。地球近海で消息を絶ってから、もうすぐ2ヶ月になる。
しかも、その寸前にエースはヤプールの復活を知らせてきている」
「はい、ヤプールとは僕も戦いましたが、奴は本当に恐ろしい相手でした」
 メビウスの胸に、地球でヤプールと戦ったときの思い出が蘇ってきた。
 4人の宇宙人を操り、究極超獣Uキラーザウルス・ネオとなって兄弟達とともに神戸で戦ったときは、ゾフィーと
タロウ兄さんが駆けつけなくては4兄弟ごと全滅していたかもしれない。
 さらにその後も、赤い雨とともに復活し、バキシムを操ってGUYSの全滅を計ったり、ドラゴリー、ベロクロンと
次々に強力な超獣を送り込んできた。
 ようやくGUYSの新兵器、ディメンショナル・ディゾルバーで異次元ごと封印することに成功したのもつかの間、
エンペラ星人の率いる四天王の一人となって三度復活、卑劣な戦いを挑んできたが、仲間達との思いを
受けて立ち上がり、メビュームバーストで今度こそ葬ったはずなのだが。
「奴はマイナスエネルギーの集合体、完全に抹消することはできない。恐らくはまた力を蓄えて我らウルトラ兄弟、
そして地球への復讐を狙っているに違いない。メビウス、地球へゆけ、そして地球人達と力をあわせ、ヤプールの
復活を阻止するのだ」
「地球へ!? わかりました、必ずヤプールの企みを食い止めてみせます。そして、必ずエース兄さんを探し出してきます」
「うむ、頼むぞ」
 元気よく答えたメビウスを、ゾフィーは頼もしそうに見つめた。
 だがそのとき、旅立とうとしたメビウスをひとつの声が押しとどめた。
「待て、メビウス」
「! ウルトラマンヒカリ」
 そこに現れたのは、青き体を持つウルトラの若き勇者、ウルトラマンヒカリであった。
「ゾフィー、地球へは私も共に行こう」
「ヒカリ」
「あのエースまでが消息を絶つ事態だ。しかも相手はあのヤプールという、一人では危険だ、用心はしすぎることはない。
それに、調査であれば私の科学者としての知識が役に立てるかもしれん」
 ウルトラマンヒカリは、今は宇宙警備隊員であるが、元は高名な科学者としてウルトラの星でも知られた人物だった。
ゾフィーのものと同じく、大きな功績を残した者にのみ与えられる勲章、胸のスターマークがその証拠だ。
 ゾフィーは一度に二人もウルトラの星を離れることを危惧したが、ヒカリの言うとおり、一人で動いてはエースの
二の舞になる可能性がある。それに、ヒカリの能力も確かにこの任務にはうってつけだ。

698:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 16:29:47 dTB1PmUg
支援

699:ウルトラ5番目の使い魔 第23話 (5/5)
08/11/23 16:30:40 i/xJIunx
「わかった、ヒカリ、君にも頼もう。しかし、充分用心するのだ、何かあったらすぐにウルトラサインで知らせろ。
この任務は、正直何が起こるかはわからん」
「了解した。では、よろしく頼むぞメビウス」
「こちらこそ、お願いします。ウルトラマンヒカリ!」
 メビウスとヒカリは、固く握手をかわした。
「よし、それでは行くのだ!!」
「はいっ!!」
 二人の若き勇者は、M78星雲の空へと飛び立った。
 目指すは、かけがえのない星、地球。
 
(頼むぞ、ふたりとも)
 ゾフィーは二人を見えなくなるまで見送った。
 そして、二人が空のかなたに消えたとき、ゾフィーの背後から、聞きなれた声が聞こえた。
「行きましたね。弟達が」
 そこには、今ウルトラの国にいるひとりのウルトラ兄弟、今は宇宙警備隊の筆頭教官として働いている、
ウルトラ兄弟6番目の戦士、ウルトラマンタロウの姿があった。
「うむ、あの二人なら、きっと使命を果たしてくれるだろう」
「そうですね。彼らはもう立派なウルトラの戦士ですから」
 タロウは、いまやはるかな空にいるであろう、かつての教え子、メビウスに心の中でエールを送った。
 宇宙警備隊のルーキーであったメビウスが、地球に派遣されていったときのことは、まだ昨日のことのように
思い出せる。最初のころはウルトラの星から冷や冷やしながら見ていたものだが、戦う度に強くなる彼の成長の
速さには驚いたものだ。
 特に、エンペラ星人の尖兵、インペライザーが来襲したときには、命令に背いてまで地球に残り、遂には
自分のウルトラダイナマイトでさえ倒せなかったインペライザーを倒してしまった。しかも、その後はウルトラマンで
あることを知られながら、なおも仲間として地球人とともに戦い続けるという、兄弟達の誰一人としてできなかった
ことをやりとげてしまった。
「しかしタロウ、これは嵐の前の静けさかもしれん。お前も心しておけ、もしかしたら、エンペラ星人にも匹敵するかも
しれない脅威の前触れかもしれん」
「はい」
 タロウは、ゾフィーの言葉に黙ってうなづいた。
 ヤプールの恐ろしさは、タロウも身をもって知っている。かつてタロウが地球の守りについていた時代、エースに
倒されてわずか1年も経たないというのにヤプールは復活をとげ、改造ベムスターを始めとする怪獣軍団でタロウに
戦いを挑んできた。その威力はものすごく、タロウも一度は手も足も出ずに撤退を余儀なくされたが、勇敢な
地球の青年やZATの助けもあって、2度目は怪獣軍団ごとヤプールを再び撃破している。
 ゾフィーは、確信にも似た予感を感じていた。ヤプールは、復活の度に怨念を蓄えて強力になっていく、一度は
エンペラ星人配下の邪将に成り下がったが、エンペラ星人亡き今、独自に動き出すことは間違いない。
 
「宇宙に散ったウルトラの戦士達よ。新たなる戦いの日は近い、心せよ!」
 ゾフィーは全宇宙に散らばったウルトラの兄弟をはじめとする戦士達にウルトラサインを送った。
 それは宇宙の闇を裂き、ウルトラマン、セブン、ジャック、レオ、アストラ、80、さらなる戦士達の元へと飛んでいく。
 
「タロウ、我々もこうしてはおれんぞ」
「はい、ゾフィー兄さん」
 ゾフィーには宇宙警備隊隊長として、タロウにも次の世代を担う戦士達を育てる教官としての任務が残っている。
 旅立った弟達に未来を任せ、二人はそれぞれの戦いの場へと戻っていった。
 
 
 だが、ウルトラの父、そしてゾフィーの予感は、不幸にも的中していた。
 地球を目指すメビウスとヒカリの姿は、ヤプールの監視の目に掛かっていたのだ。
「動き出したかウルトラ兄弟、だが邪魔はさせぬぞ。今度こそ、貴様らと地球人どもに復讐を果たしてくれる」
 ようやく平穏を取り戻した地球にも、再び嵐が訪れようとしていた。
 
 続く

700:ウルトラ5番目の使い魔 あとがき
08/11/23 16:31:35 i/xJIunx
以上です。
行方不明になったエースを追ってM78星雲も遂に動き出しました。
成長したメビウスを見て、一番誇らしいのはやはりタロウでしょうね。
また、夏の映画も見ましたが、メビウス=ミライの純朴さはやはり微笑ましいですね。
しかし、いくら応援してもらったからってただの一般人(ダイゴ)に軽々しく正体ばらすなよミライ……
ティガ、ダイナ、ガイアとウルトラ兄弟が勢揃いしたシーンではマジ泣きしました。次の映画ではぜひ今回は漏れたタロウ達
他の兄弟やコスモスらも勢揃いの超大作を願いたいです。

やっぱりすんなり2巻の展開とはいきそうもありませんが、タバサの冒険なども織り交ぜつつ、進めていきたいと思います。

701:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 16:32:38 i9ATRL15
支援だ支援、ワクワク

702:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 16:43:39 i9ATRL15
支援しようと思ったら終わってしまった
相変わらず面白くて次に期待を持たせる展開なので期待しておりますです、はい

703:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 16:56:11 JFx3kzqh
ウルトラの人、乙。
ミスターファイヤーヘッドが派遣されてたら、それはそれで面白かった気がww

才人「なーんだ、ゾフィーか」
ルイズ「ゾフィー?」
才人「ああ、一番弱いウルトラマンなんだ」

704:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 17:10:31 QCR/101k
>>703
設定上では相当強い筈なんだけどな、ゾフィーは。
本気で必殺光線を打つを惑星を破壊してしまうから、滅多なことでは
全力を出せないらしいぞ。

705:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 17:13:07 GTeahFVs
ウルトラの人GJそして乙でした

メビウス達兄弟の登場にwktkが止まりません
メビウスといえば思い出の先生でマジ泣きしたことを思い出します

706:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 17:13:30 rz11mWmM
ウルトラ戦士は惑星破壊できる奴がゴロゴロいるしな

707:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 17:15:09 JFx3kzqh
>>704
タロウは設定上は最強に近いはずだけど、どうにも甘えん坊ってイメージが抜け切れないようなもんか。

708:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 17:18:18 YKQbThct
ウルトラの人GJでしたー
光の国や地球が関わってきてハルケギニアとどう折り合いをつけるのか気になる所
改めて見るとやっぱりヤプールのしつこさは異常、劇場版含めてもメビウスだけで3回も出てきてたとは

>>703
真面目なのと悪ノリとをごっちゃにされて楽しめる人間てのはあんまり居ないと思うぞ

709:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 18:23:08 lW8oJxy2
>>704
そこはオブラートに包んで、
兄弟のなかで最強だけど。一番安心できない
ぐらいにしておけよw

710:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 19:03:27 Oj67XxRv
>>707
ウルトラマン同士で誕生した超・超人だしな。年齢的にメビウスもそれっぽいけど。
真に最強は次元破壊とかできるノアか最高齢のキングだと思ってるけど。

711:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 19:14:56 JFx3kzqh
メビウスって、メビウスブレスも仲間からの応援もない状態だと、実はかなり弱くないか?

712:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 19:17:29 5qXnGcuY
キングはあのチートな腕輪をポンとあげちゃうことのできるお方。
これからどんな秘密道具を後だしで繰り出してくるのか戦々恐々。

713:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 19:18:25 78l3DK5J
ノアは何かエネルギー切れする印象があるから
レジェンドやメビウスインフィニティ、6重合体タロウほどじゃなさそう

714:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 19:19:19 YKQbThct
>>711
実はも何も新人だし比較対照が歴代の英雄なんだから弱くて当然だと思う

715:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 19:22:27 RtK2bejO
弱いと思う。
だからこそ仲間を得て応援を得て、あそこまで強くなれたのがメビウスだと思う。

ウルトラ5番目の使い魔も、メイジと平民の垣根を越えて力をあわせたり、エースの
正体を知りながらも協力を惜しまないオスマンがいる。メビウス後の世界からきた
サイトだからこそ言える台詞とかできる振る舞いとか描写されてるから、このシリーズ
大好きだ。どっちの作品も大事にしようって気持ちが伝わってくる。

716:ゼロな提督:特別編③
08/11/23 19:41:04 QXSsLmLE
予約無ければ、19:45より投下予定

717:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 19:42:12 dTB1PmUg
容量の方大丈夫?

718:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 19:44:49 J02kMZDK
残り54KBのようです。
次スレは450KB行ったらだっけ?

719:ゼロな提督:特別編③
08/11/23 19:45:53 QXSsLmLE
 三十分後、司令室に悠然と座るラインハルトの前にはド・ヴィリエの歪んだ笑みが映し
出されていた。その映像の横にはキラキラ輝く召喚門近くに停船した船の映像も並んでい
る。
 召喚門の周囲には次元の穴を固定する戦艦列が千隻近く、衝突寸前の状態まで円形に密
集している。この状態でゼッフル粒子を散布されれば、粒子それ自体の爆発だけでなく、
艦船の誘爆まで連鎖的に拡大してしまう。外周部の艦から順に距離を取るべく移動してい
るが、各艦が十分な距離を取れるまでには時間が足らない。

  《さて、それでは門を拡大させてもらいましょうか。皇帝陛下》
 大主教は口調だけは丁寧だった。大主教としての品位の残渣か、皇帝へ表面上は敬意を
表したのか。ともかく、その鋭角的な痩せた印象の男の表情には、明らかに軽蔑と嘲笑が
混じっている。
 彼の背後には狭いコクピットが映っている。既に船内に収納された小型機に乗り移り、
発進を待っている状態なのだろう。
「予に命令する気か?」
  《拒める立場でもないでしょう?》
「思い上がるな、痴れ者が!」
  《口論する気もありません。早くしないと、陛下も核爆発に巻き込まれるかもしれま
  せんよ》
「気にするな。お前ごときに斃されるなら、予はその程度の男だったというだけだ」
  《勇ましいものです。さすがは常勝の天才。だが、あなたの我が儘に付き合わされる
  人達にも死を強いる気ですか?》
「愚問だな。軍人になると言う事は、殺す覚悟も殺される覚悟もあるということだ」
  《軍人は、ね。だが、一般人にそんな覚悟はないでしょうな。そして、イゼルローン
  へ治療に来ているだけの患者達にも、ね》
 瞬間、皇帝の瞳が刺すように鋭くなる。
「貴様…まさか!」

  《その通りですよ。イゼルローン中央病院、かの呪われた牛男を飼育する邪悪な動物
  実験場があるブロックを浄化して差し上げます》

 ラインハルトの端正な顔が怒りに歪む。同じく大主教への怒りと呪詛の言葉が、司令室
で交渉の行方を見つめる人々からも漏れ出す。
「貴様等、それでも聖職者か!無辜の民を苦しめ殺す事が神の教えか!?」
 怒りに震える皇帝と司令室の軍人達、その有様を眺める大主教の顔が大きく愉悦で歪ん
だ。
  《盲目の罪深き羊たちも我等の聖なる炎により魂を清められることで天界へと旅立つ
  事ができるのです。これは救済です》
「狂人共め。それで己を正当化したつもりか」
  《何を言ってるのですか?ヴェスターラントと同じようにするだけじゃないですか。
  虐殺陛下》

 怒りに歪んだラインハルトの口から、耳障りな歯ぎしりが響いてくる。

  《さて、無駄話はこれくらいにしましょうか。
   そろそろ希望に満ちた別世界に行くとしましょう。扉を開けて下さい。ところで、
  爆弾のリミットですが…》
 ド・ヴィリエはわざとらしく腕時計を目の前に持ってくる。
  《あと27分ですね。爆弾処理班が急行して解除なり停止なりさせるにしても、そろ
  そろ難しいですよ。もちろん入院患者達の避難なんか間に合いません。急いだ方が良
  いのでは?
   ちなみに、別の場所でも順次、時限爆弾が爆発します。あと二つほど》

 ラインハルトは烈火のごとき視線でモニターの狂信者を睨み付けたまま、しばし黙り込
む。


720:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 19:47:07 RtK2bejO
容量に問題あるようであれば
場合によっては次スレが立つまで待つか、あるいは避難所などに
投下されてはいかがでしょうか?>提督の人

721:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 19:47:29 cwRznmu/
支援

722:ゼロな提督:特別編③
08/11/23 19:47:38 QXSsLmLE
「…爆弾の場所と解除コードを送信する件、偽りはないだろうな?」
 その言葉に大主教の口の端が釣り上がる。
  《もちろんですとも。設置場所については私の端末に入力してあります》
 そういって彼は胸ポケットから小さな携帯端末を取り出し、皇帝へ示す。
「設置場所は、だと?解除コードはどうした」
 大主教はモニター越しにニヤニヤとした笑いを見せつけつつ、左手で端末をポケットに
戻しながら右手人差し指で自分のこめかみをコツコツと突いた。
  《私の頭の中です。なので、早まった事を考えないように。門を通った後で送ってあ
  げますよ。
   あと24分、どうしますか?》

 ラインハルトの沈黙は一瞬だった。すぐ画面外の部下達へ向けて指示を飛ばす。同時に
地球教徒達の乗る船の前方で、光を放つ召喚門が急拡大する。
「貴様等の要求通り、20m程まで拡大させた。通過を許可する…だが、通過した後の事は
予の感知する所ではない。お前達は魔法世界に過剰な期待を抱いているようだが、あの星
は決して楽園ではないぞ。
 既にお前達の事はサハラのエルフに伝えてある。お前達は現地の亜人やメイジ達にも追
われるのだ」
 門の拡大を確認した大主教はラインハルトの忠告を聞き流しながら、コクピットにいる
部下達へ向けて次々に指示を飛ばす。
 一通り指示を終えた所で、改めて皇帝へ向き直った。勝利の余韻に浸りながら。
  《おかまいなく。陛下の保護政策のおかげで銀河帝国や召喚門はサハラとハルケギニ
  ア以外には知られていません。向こうへ行ったら、そうですね、南アメリカ辺りにで
  も行きましょう。
   かの星は我等地球教徒が追い求めた聖地。その聖地を心より信仰する我等を、必ず
  や暖かく迎え入れてくれるでしょう》
「地球違いだ。おまけに、銃で脅しながらか?」
  《世界の真実を伝えるのも使徒の務め。彼等に科学という、もう一つの真実を広める
  事は神の御心に沿う行いです》
 そんな毒と針で彩られた会話をかわす通信回線の中に、エンジン音や機械の駆動音が混
じってくる。周囲にいた部下から、貨物室のメインハッチが開きつつあるとの報告が映像
と共に送られてきた。大主教は横目で画像を、開きつつあるハッチの向こうから差し込む
召喚門の輝きをみつめる。
「最後に聞くが…降伏する気はないか?今なら生かしておいてやってもよいぞ」
 その言葉を聞いたとたん、ド・ヴィリエは笑い出した。腹の底から、悪意に満ちた哄笑
が司令室に響き渡る。そして表面だけの敬意も消え去り、聖職者の名を騙る俗物の本性を
現した。
  《そんなに負けるのが悔しいか?なぁ、悔しいだろう?常勝の天才にとっては初めて
  の敗北か?
   すぐにも追跡隊を送るつもりだろう?無駄だな。すぐファンタジー世界に身を隠す
  ぞ。そして発見した時には、とっくに手遅れだ。科学と魔法を融合した軍団を率い、
  玉座でふんぞり返る金髪の小僧を地獄に落としてやる。
   再会の時を、首を長くして待っていろ!》
 言い終えるが早いか大主教は通信回線を切断した。


723:ゼロな提督:特別編③
08/11/23 19:49:15 QXSsLmLE
 消えた画面から視線を動かさず、小さく呟く。
「だからお前等は時代遅れの化石だと言うんだ」
 皇帝は落ち着いて隣に立つワーレンに命じた。
「待つのは嫌いだ。すぐ奴等の首を皿に載せて持ってこい」
「しばしお待ちを。何しろ奴等は毒が多いので、料理に時間をかけておりますから」
 命じられたワーレンは微笑んだ。悪戯の成功を見てほくそ笑む少年の様に意地悪く。そ
してラインハルトも、ようやく我慢していた笑い声を口から漏らす。
 二人の目の前には別の映像がある。それは、ブリュンヒルト艦内の映像。空気を抜かれ
て真空になった貨物室、その中に小型の作業艇がある。作業艇コクピットの前には小さな
鏡のようなものがあった。
「急げ。爆弾処理と避難もだ」
「爆弾処理班には指示を飛ばしてあります。避難は目下キャゼルヌが」
 二人が視線をずらした先に、神業的手際の良さで的確な指示を飛ばし続けるイゼルロー
ン要塞副司令の姿があった。




 イゼルローン中央病院。玄関から最上階までを貫く吹き抜けが特徴的な正面ホールは、
病院から走り出す人々でごった返していた。
「急げ!待避しろぉ!」「走れる患者は自分で走るんだ!エレベーターへ向かえ!」「車イ
スを持ってきて!」「ストレッチャーは無いのか!?手押し式でいい!」「点滴輸血も引っ
こ抜け!生きてれば構わない!」「隔壁へ行ってえ!この区画ごと放棄よ!すぐに閉まって
しまうっ!!」「緊急用シューターは重症患者と子供優先だ!」
 病院内は既に阿鼻叫喚と化していた。
 避難誘導する軍人も、自爆した船があった港湾から運ばれてきた沢山の怪我人も、足下
の覚束無い患者達を支えて必死に進む看護師も、スタッフへの指示を陣頭指揮する医師達
も、そして先を行く人々を押しのけて我先に逃げようとする多くの人々も。誰も彼もが病
院から飛び出してくる。軍用民間医療用問わず、あらゆる車輌に飛び乗る。走り去ろうと
する車にしがみつく。一人でも多くの患者を、その病状や治療内容に構わずエレベーター
へ押し込めていく。
 そしてそれは病院だけではない。病院周辺のあらゆる施設から人が飛び出し、先を争っ
てエレベーターやシューターに飛び込む。あらゆる通路を埋め尽くす人と車輌の波が隔壁
へ向かって、死にものぐるいで走っていく。

『・・・ラルカス、どこだい、ラルカス!』
 イゼルローン病院四階、既に人の気配を無くした無機的な空間。様々なモニターと顕微
鏡付きマニピュレーターなど医療器具に埋め尽くされた部屋、手術室。多くの手術室の扉
が左右に並んだクリーンルームの廊下に、気の強そうな若い女の声が響く。ただしそれは
ハルケギニア語。
『・・・イザベラか!?何をしている、早く逃げろ!!』
 返事もハルケギニア語だった。ミノタウロスの喉を使った、少しぎこちない発音だ。薄
い青緑色の肌着、術衣を着たイザベラは杖を握りしめたまま声のする手術室の開け放たれ
た扉へ飛び込んだ。
 そこでは、ミノタウロスの巨体が大斧を握っていた。
 空調管理による陽圧、即ち雑菌やウィルスが飛散する外気を手術室内に入れないよう気
圧を高くするため閉じられているべき手術室の扉。それが自動で全て開け放たれる緊急事
態。あと数十分で核の炎に包まれるオペ室に、ミノタウロスと医師と看護師がいた。椅子
の形の手術台に座って眠る患者も。
 ラルカスは大斧の杖を患者の頭部に向け、医師は後頭部から頭蓋内部へ差し込まれたマ
ニピュレーターを操作し、看護師は二人を補助している。手術室のモニターには頭蓋内部、
左右の脳の間に差し込まれた極細の機械の指が映っている。先端に着けられた小型カメラ
からの映像だ。

 彼等はこの生死を分かたんとする時に、まだ手術を続けていた。


724:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 19:49:23 AhHK/UtX
泣きながら投下していると聞いて

725:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 19:49:43 HQm+T9B8
今度は科学が魔法に翻弄されるのかもしれない…そう思いながら支援

726:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 19:52:40 81Prvsqn
調子にのんなクズ作者。消えろ

727:ゼロな提督:特別編③
08/11/23 19:52:46 QXSsLmLE
『何してんだ!あんたら、死ぬ気かい?!早く逃げな!緊急搬送用シューターも、もうす
ぐ隔壁と一緒に閉じられちまうよ!』
 だが、彼等は動かない。医師はマニピュレーターの操作を続けている。ラルカスも治癒
魔法を使い続ける。
『ダメだ。あと少しで第三脳室に入り込んだ破片を取り出せる。脳内出血を止めれれば、
この患者を搬送出来るんだ』
『ん、んな事言ってる場合かー!自分が死んだら何にもならないだろ!死にたいってのか
い!?さっさと逃げな!』
『出来ない!私は、私は逃げるわけにはいかないんだ。自分の命を惜しむ事は出来ないん
だっ!』
 ラルカスは何の迷いもなく治癒魔法を放ち続ける。同じく逃げない医師がスコープに目
を当てたままイザベラへ怒声を上げる。
「な、何言ってるか、知らん、が…予想はつく。ほほ、他のヤツらは、避難した。お前も
ささっさと、逃げろ。この、この処置が、終わったら俺達も、いい行く」
「ア、アンタラ・・・」
 全身に脂汗を流している看護師も、たどたどしく口を開く。
「わ、私は、あたし、逃げれない。患者をのこして、逃げたら、なんか、負けたかなって
思っちゃう…あ、あはは、あたし、バカ」
 三人とも、死の恐怖に顔を引きつらせながらも動く気配は見せない。
「ウ、ウウウ、ウアーーーッモォーーーーッッ!!」
 叫ぶやイザベラは患者の頭部へ杖を向ける。その目はメインモニターへ、第三脳室の脳
脊髄液内に浮かび患者の脳を傷つけている破片へと向いている。
「破片、『念動』デ出ス!ヤマムラ、破片吸イ出セ!』
 言うが早いか、イザベラの杖に合わせて脳に刺さっていた破片がマニピュレーターの指
へ動き出す。ヤマムラと呼ばれた医師は機械の指で破片を吸引口で吸い取った。傷ついた
脳内血管からの出血は即座にラルカスの治癒魔法で塞がれた。
「抜く!」「っはい!」
 差し込まれていたマニピュレーターも医師と看護師により引き抜かれる。とたんに患者
の外傷が全て、みるみるうちに治っていく。

 治癒を終えたラルカスが、即座に別のルーンを唱える。そして大斧を手術室にいる全員
に向けて振り下ろした。患者含めて全員が宙に浮く。
『な!いきなり何すんだい?!』『この方が早い!』
 ラルカスは走り出した。
 病院の廊下を暴風のごとき速さで駆け出した。医師と看護師と患者とイザベラを背後に
浮かせたまま、廊下にあるワゴンもボンベも全て吹っ飛ばし、頭と角にぶつかる指示版も
構わず破壊し、扉は粉砕し、角を曲がりきれないなら壁を走り、四人を浮かしながら疾走
する。
 密閉されたクリーンルームのガラスに減速無しで突っ込む。ガラスを頭の角で突き破り
弾丸のごとラルカスは病棟の廊下に出た。彼の視界の先には廊下の先に、外の風景を映す
病院の窓が入った。
『飛ぶぞ!』
 人間達の返事も聞かず、ミノタウロスは窓に向かって駆け出した。玄関ホールに面した
四階の窓へ向けて。

  ガッシャーン!!
 うわひゃああああああああああああああ・・・
 イザベラの悲鳴が空を飛んだ。吹き抜けの空間を人と幻獣が落下する。


728:ゼロな提督:特別編③
08/11/23 19:55:38 QXSsLmLE
  ズドンッ!
 一瞬の自由落下の後、ラルカスは病院前の敷地に着地していた。魔法も使わず、己の足
だけで四階から落下した巨体を受け止めたのだ。そして遅れて落ちてきた四人を、今度は
魔法で受け止めた。
『大丈夫か!?すぐにこのまま避難を』
 目を回しかけていた医療スタッフに声をかけようとしたラルカスの言葉が止まった。そ
れは頭上に飛行する物体をみつけたから。それも、隔壁へ向けて全速力で避難するもので
はなく、病院入り口へ向けて正面ホールを降下してくる数機の機体を。




 地球教徒達の乗る船は貨物室の扉を開いていた。だが、未だに小型艇は射出されていな
かった。何故なら、その扉は中途半端に開いたままで止まってしまったからだ。僅かに開
いた扉の向こうには、光を放つ召喚門が覗いている。
「どうした!何故開けない?」
 コクピットで叫ぶ大主教の詰問に、右隣の席に座る男が大声で答えた。
「と、扉が動きません!」
 男は必死にコントロールパネルのボタンを操作し続ける。だが鋼鉄の扉は全く反応しな
い。途中までは問題なく開き続けていたのに。
「くそ、故障か。こんな所で…しょうがない。砲撃で破壊しろ。発進したら予定通りゼッ
フル粒子散布、召喚門を越えてから船を自爆だ」
 男は小型艇に搭載されたレールガンの照準を合わせようとレバーを握りしめる。そのと
き、左隣の席に座る女から絶望的な叫びが上がる。
「ぜ…ゼッフル粒子発生装置が反応しません!指示を何度入力しても、全く応答がありま
せん!」
「な…?!」
 呻いたド・ヴィリエは汗を流しながらパネルに飛びつき、船と小型艇の状態をチェック
する。モニターには船のメインコンピューターと小型艇のコンピューターから送られてく
る内容が表示されていく。
「ば…バカな!?」
 大主教は叫んだ。左右の男女も驚愕に目を見開いた。そして女から続けて甲高い悲鳴が
上がる。
「レーダーが、三次元レーダーが表示されません!船外モニターも映りません!」
 扉を開閉させるべきモーターが動かなくなっている。レーダーはアンテナが破壊されて
いる。カメラは消失している。ゼッフル粒子発生装置は小型艇からの指示を受け取る通信
機が無くなっている。
 彼等が小型艇に乗り移るまで全く問題無かったはずの船が、突然故障箇所で真っ赤に染
まって表示されていた。しかも、故障箇所は見る見るうちに増えていく。砲撃も何も受け
ていないのに。
 彼等は気付かなかった。開いた扉の向こう、20mまで拡大した召喚門の光の前に、もう
一つの光源があることを。彼等が乗り捨てるつもりだった貨物船の外壁、扉のすぐ近くに
は光を放つ鏡のようなものが浮いていた。それは『虚無』の魔法で作られた時空の穴―
『世界扉』。
 小さな時空の穴から船内を覗き見る美女達がいることに、狂信者達は気付いていなかっ
た。





729:ゼロな提督:特別編③
08/11/23 19:57:37 QXSsLmLE
「・・・オッケーよ。エンジンも壊したわ」
 ブリュンヒルトのエアロック、作業艇のコクピット内でルイズは杖を構えている。
「これでいいわ。もう彼等は完全に動く事が出来ないわね」
 操作卓を操作するフレデリカは地球教徒が乗る貨物船の立体図を様々な角度から表示、
内部構造をルイズに示していく。
「あと少し、2分くらいは『世界扉』を維持出来ます。次はどこを壊しますか?」
 コクピットの外へ向けて小さな杖を構えるティファニアは、どことなく楽しげだ。その
左手には古ぼけた本―始祖の祈祷書を開いている。そして杖を持つ右手の薬指には茶色
の指輪―ガリア王家に代々伝わり、ジョゼフが所有していたはずの土のルビーが輝いて
いた。
「んじゃ、そろそろバラバラにしてあげましょっかねー」
 楽しそうに語るルイズの右手にも杖と指輪―水のルビー。そしてルイズの目の前のコ
ンソールに無造作に置かれているのは、ガリア王家の秘宝である始祖の香炉。
 ルイズはルーンを唱えた。『エクスプロージョン』を、コクピットの向こうへ向けて。既
にティファニアの生み出した小さな『世界扉』から空気を吸い出された貨物室、そこに浮
かぶ小さな召喚門の向こうに見える、小型艇へ。
 貨物船内の小型艇は丸ごと光に包まれた。

 ラインハルトが「急いで届けさせる」と約束したもの。それはイゼルローン要塞に保管
してあった始祖の秘宝。そして『世界扉』、時空に穴を開ける魔法製ワームホールは、ティ
ファニアにはイゼルローンへ来た当初から使えていた。彼女がホームシックにかかり始め
た頃から。ウェストウッド村の子供達やマチルダに会いたいという想いに、始祖の秘宝は
以前から応えていた。
 現在のティファニアの魔力では次元の壁を越えてトリステインへワームホールを繋げる
には足りない。その魔力がいつになったら溜まるのかも分からない。開けたとしても、そ
の座標は召喚門からずれているため、再び膨大な座標計算を行わねばならない。このため
ティファニアの『世界扉』でハルケギニアへの道を、地球教徒達を追跡出来るほど短時間
で開く目処は立たない。
 だがイゼルローン要塞から召喚門まで小さな穴を造るくらいは問題なかった。

 光が消えた時、強襲降下艇のコンソールは火花と煙を吹き出していた。貨物船と連結さ
せていた固定装置兼射出装置もバラバラになった。降下艇のレールガンだけでなく、彼等
が降り立った世界を征服するために満載していた全兵器も役立たずにされていた。大主教
を含めコクピットにいた三人と、後部座席にいた他の地球教徒が所持していたブラスター
までも、引き金が折れていた。
 貨物船との連結が破壊された降下艇は、 無重力の貨物室内で虚しく漂い始める。

「いやー、やっぱり無重力は面白いですぞ。『フライ』で簡単に飛び回れるし、こんな大き
な船体が私だけで動かせるのですからな」

 漂う降下艇の横で人の声がした。だが、そこには誰もいるように見えなかった。それに
真空の中で声は伝わらないので、その声を聞けたのはヘルメット付属の通信機で彼の声を
聞いた人だけ。
 いきなり貨物室内の空間の一部がずれ、シワが寄る。何もないはずの真空からいきなり
現れたのは宇宙服に身を包んだコルベール。そして彼が左手に持っているのは、誰からも
姿が見えなくなる魔法のマント、科学風に言うなら光学迷彩布『不可視のマント』だ。そ
して右手には杖が握られていた。
 彼は宇宙服を着用して『ゲート』を出て、戦列艦の巨体と『不可視のマント』で身を隠
しながら『フライ』で接近。貨物室の扉の隙間から忍び込んでいた。
「さて、それでは出てきて頂きましょうぞ」
 コルベールが振る杖に合わせて降下艇も動き出す。同時に中途半端なままで止まってい
た貨物室の扉もルイズに爆破される。地球教徒は船ごと船外へ放り出された。駆逐艦の大
きなハッチが口を開けた宇宙空間へ。
 召喚門を捉えていた戦艦列、そのうちの一隻が列を離れ、ハッチを開いたまま貨物船へ
接近していたのだ。
  パクッ
 そんな擬音がピッタリなほど、降下艇とコルベールとティファニアが作る小さな召喚門
は駆逐艦の貨物室に飲み込まれた。ただの鉄屑になった貨物船を突き飛ばして。


730:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 19:58:00 4WrDltJC
乙っす、ノイズは気にせず支援しまっせ。

731:マロン名無しさん
08/11/23 19:59:32 g5bIHdN6
支援、しかし空気悪いな。

732:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 19:59:48 HQm+T9B8
魔法VS科学支援

733:ゼロな提督:特別編③
08/11/23 20:01:14 QXSsLmLE
 爆発的な勢いで大気がバルブから放出され、駆逐艦の貨物室内が気圧を上げていく。降
下艇のコクピット近くに光球が生じ、消えた瞬間にはコクピットを覆う天井が丸くえぐら
れ、内部が剥き出しになった。
「確保ぉーっ!」
 指揮官の絶叫が響き渡るまでもなく、貨物室内で待機していた装甲擲弾兵が即座に突撃
し、降下艇内の狂信者を次々と制圧していく。大主教ド・ヴィリエは特に念入りに取り押
さえられ、胸ポケットの端末を奪い取る。
「これだ!急げ!」「ロックを破るんだ!爆弾の場所をっ!」「解除コードも入ってないか
確認しろぉ!」
 端末はデータ解析のために急いで貨物室から運び出された。


「終わったわ。テファ、お疲れ様。もう大丈夫よ」
「ふぅ~。上手くいったのでしょうか?」
 フレデリカの言葉にティファニアは杖を降ろす。同時に召喚門は消失した。バルブが解
放され、貨物室内に空気が満ち始める。
 そしてコクピット内にラインハルトの声も満ちた。
  《もちろん上手くいったとも。テファもルイズも素晴らしい働きだった》
 モニターに投影されたラインハルトには満足げな笑みが浮かぶ。その様子にルイズは誇
らしげに胸を張る。
「まーこのくらいは、楽なものですわよ。お任せ下さいな!」
  《もちろんだ。それでは、ブリュンヒルト内で一時休息してくれ。爆弾の方はこちら
  で対処する》
 皇帝との通信が切れた直後、狭いコクピットに女性達の黄色い歓声が響いた。




  カチャッ
 装甲服に身を包んだ屈強な男達に全身を締め上げられ、床に貼り付けられる大主教の頭
にブラスターが押しつけられた。装甲敵弾兵の一人が憤怒に満ちた声を絞り出す。
「解除コードを言え」
 だが大主教は何も語らない。ただ陰湿な笑みを浮かべているだけだ。銃口がこめかみに
めり込むほどに押しつけられ、狂信者の頭は床になすりつけられる。
「これが最後だ、解除コードを言え。言えば命は助けてやる」
 くっくっく…と、くぐもった笑い声が歪んだ口から漏れる。
「言っておくが、あの端末に入っているのは本当に爆弾の場所だけだ。解除コードは俺し
か知らん。ちなみに、あの爆弾は液体窒素を吹きかけて止まるような安物じゃないぞ。温
度センサー付きだ」
 暗い目がコクピットの時計へ向く。
「あと、10分」
 装甲敵弾兵達の胸に湧いた怒りは、そのまま彼等の全身で表現された。大主教の全ての
関節と骨から軋む音が沸き、哀れむ価値のない犠牲者が上げる惨めなうめき声が貨物室に
漂う。
「このまま核が爆発すれば、お前をこの場で射殺する。もちろん楽には死なせん。
 さあ…言え!」
 銃の引き金が僅かずつ引き絞られていく
 ド・ヴィリエ大主教の口がゆっくりと開く。大きく息を吸う。
 そして、彼は叫んだ。
「金髪の小僧!地獄で待ってるぞ!!」
 言い終えると同時に彼は奥歯を噛み締めた。
 急ぎ自白させるため、兵士達は彼等の口の動きを止める事が出来ない状態だった。
 奥歯に仕込まれた爆弾は狂信者の頭を吹き飛ばし、血と頭蓋と脳髄を兵士達の装甲にな
すりつけた。





734:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 20:02:44 Fp56GDMS
支援

735:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 20:03:36 tDplJ0T2
支援!

736:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/23 20:03:38 Jd5xpbyR
投下したい、注目されたいが一番か…
ご自分でHPでも作って、そこでやってくれませんか?

737:ゼロな提督:特別編③
08/11/23 20:04:12 QXSsLmLE
 イゼルローン中央病院周辺へ飛来した小型機の一機は、病院玄関前に爆弾処理班を降ろ
し、代わりに目を回したイザベラ達医療スタッフと患者を収容していた。そして最後にラ
ルカスが巨体を機体の狭い入り口に押し込めようともがいている。他の機体はホール上空
に滞空したり、病院周囲の通路を周回し、病院以外の離れた場所に特定されたとしても対
応出来るように待機していた。
 着陸した機体のパイロットがマイクを握りしめ、イザベラ達を収容するため放り出した
荷物をかき集める爆弾処理班へ向けて通信内容を叫んだ。
「爆弾位置特定!病院下の倉庫!大型コンテナNo.21498DAT、酸素タンクに偽装!起爆ま
で…7分!解除コード不明!」
 同じ情報は爆弾処理班の耳に付いた通信機からも届いていた。彼等の視線が一瞬泳ぎ、
すぐに病院の横にある大きなシャッター、車両用入り口に気付く。重装備を担いだ彼等が
駆け出そうとした瞬間、何かが地響きを上げながら爆弾処理班を抜き去った。
  ゴオオオオアアアアアアアアアアッッ!!
 病院前で野獣が咆哮する。大地を揺るがす程の咆哮を。
 病院横の車両用入り口へ降下し始めた他の機体からは、車並みの速さで倉庫へ疾走する
ミノタウロスが見えていた。
  ズガッ!
 電子ロックされた鉄のシャッターは、ラルカスの大斧による一撃で切り裂かれた。数度
振り回すだけで彼の巨体が入れるほどの大穴が開く。シャッターの破片を撒き散らしなが
ら、彼は病院下の倉庫へ駆ける。背後から走ってくる隊員達の声は響き渡る耳障りな警報
音にかき消される。
 車両用通路を駆け抜け、倉庫内に飛び込んだラルカスの血走った目が、目的の大型コン
テナを探す。闇を共とするミノタウロスの肉体は、暗視スコープもかくやというくらい薄
暗い倉庫内をハッキリと見渡していた。
 牛の目がコンテナのナンバーを読み取る。他の隊員達が倉庫に飛び込んできた時、目的
のコンテナを発見していた。すぐ彼は駆け寄りコンテナの扉に取り付く。そのコンテナに
も電子ロックが付いていた。もちろんコードは分からない。
  ガゴンッ!
 彼は斧で扉を斬りつけた。激しい火花が散り、扉に穴が空く。だが少し歪んだだけで、
壊れる様子はない。

「扉を爆破する!離れろぉ!!」

 後方からようやく追いついてきた爆弾処理班が殺到してきた。ラルカスは瞬時にコンテ
ナから離れる。隊員達は扉の各所に爆薬を仕掛け、即座に離れて物陰に隠れた。
「3,2,1,ファイエルッ!」
 爆薬が炸裂する。閃光が倉庫内を照らし出す。
 煙の中で扉は大きく歪み、かろうじてコンテナにしがみつき、入り口を塞いでいる状態
だった。ラルカスは一瞬でコンテナへ飛び出し、未だ高熱を持つ鋼鉄の扉を、自分の皮膚
が焼けるのも構わず握りしめ、無造作に倉庫の奥へ放り投げた。
 コンテナ内には大人の体ほどもある巨大なボンベがズラリと並んでいる。
「あと4分!待避不能!隔壁閉鎖に間に合いません!」
 隊員の中から悲鳴の様な叫びが上がる。

 その時、隊員達の背後から、何者かが彼等の頭を飛び越えた。

 その人物はコンテナ内に飛び込み、左手に持つ光源を頼りに、ボンベを次々と触ってい
く。そしてそのうち一つに触れた時、その人物は叫んだ。
「これだ!解除する!」
 その声にはラルカス含めた全員が聞き覚えあった。だがそんな事を気にしている暇はな
い。隊員達と、何よりラルカスのパワーで邪魔なボンベは放り出される。そして特定され
たボンベと、それを操作する人物が露わになった。爆弾のモニターには隊員達のカウント
と同じ数字が表示され、刻々と減り続けている。

 薄暗い倉庫の中の、さらに薄暗いコンテナの中。何故かスーツ姿の人物がボンベに付属
する制御機器を操作していた。



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