あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part187at ANICHARA
あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part187 - 暇つぶし2ch2:約束は次元を超えて
08/11/21 06:32:39 9UIBpFil
すみません、前スレ容量確認してませんでしたorz

次から続き投稿します。

3:約束は次元を超えて1-1
08/11/21 06:34:39 9UIBpFil
「……言ってみなさい」
「まず、最初に礼を言っておく。俺はルイズに召喚されなければ間違いなく死ぬところだった。だから俺を召喚してくれたこと、生き長らえさせてくれたことには、本当に感謝してる。
 使い魔をやることだって引き受けるのも問題はない。俺のできる限りで、ルイズを守ろう」

 その言葉に、先ほどまでの不機嫌を吹き飛ばすような勢いで驚きの表情を浮かべるルイズ。
 だが、まだ続きがある。

「でもファルガイアには俺の帰りを信じて待っている家族がいるんだ。ファルガイアは自然が減少し荒野の広がる荒れた世界だが、そこに緑を取り戻す方法を探して今も旅を続けている、俺の大切な家族がいる。だから、いつかはファルガイアに帰りたい」

 その言葉に、複雑な表情を浮かべるルイズ。

「もちろん方法だって分からない。探したって見つかるかどうかも分からない。でも、彼女を嘘吐きにさせたくないんだ。だから、頼む」

 言葉とともに、頭を下げる。
 そのまま、一体どれだけ時間が過ぎただろう。
 沈黙は、ルイズのため息で破られた。

「はぁ、分かったわ、それでいい。わたしだって家族と死ぬまで離れ離れなんて嫌だもの。でも、使い魔の間はしっかりと仕事をこなしなさいよ?」
「あぁ、分かった」

 よかった、分かってくれたようだ。

「前例の無いことだし、帰る方法が見つかるかどうかも分からないわよ?」
「構わない。死なない限り、方法は探してみるつもりだ」

 その言葉に、俺の決意の固さを感じ取ったようだ。
 またため息を一つ。

「ほんとに、何でこんなやつがわたしの使い魔に召喚されちゃったのかしら。まぁ仕方ないわ。その代わり、しっかり働かないと承知しないんだから」

 そう言いながら、椅子から腰を上げ、俺の前まで歩いてくる。
 そして、立ち止まり、

「何だ?」
「ちょっと屈みなさい」

 屈む?まぁ、それくらいなら構わないが。

4:約束は次元を超えて1-1
08/11/21 06:39:22 9UIBpFil
「こ、光栄に思いなさいよね。普通は貴族が平民にこんなことするなんて、絶対にありえないんだから」

 そう前置きして、杖を取り出して呪文を唱える。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

 そのまま、屈んだ俺に口づけをした。
 突然のことに硬直する。
 しばらくの後、ルイズが離れる。
 と、その時、左手に熱と激痛を感じた。

「ぐッ……ああああッ!こ、これはッ!?」
「使い魔のルーンが刻まれてるんだわ。少し我慢して」

 あまりの痛みと熱に、左手のガントレットを外す。
 そうしてしばらく、と思ったがそれほど時間は経っていなかったかもしれない。その痛みに耐えていると、スッと痛みが引いていくのを感じるとともに、見たことも無い紋様が左手の甲に刻まれているのが見えた。

「成功、のようね。期待はしてなかったけど、感覚の共有はやっぱりでてきないみたいだわ」
「……あぁ、そのようだな」

 これで、俺はルイズの使い魔になった、というわけか。

「さて、コルベール先生に報告と、あとは夕食ね。話し込んじゃったから、報告に行ったら丁度いい時間になりそうだわ」

 その言葉に窓を見ると、日が傾いた空が茜色に染まっていた。

   ◇◆◇

「コントラクト・サーヴァントは無事に成功したようですね、ミス・ヴァリエール」

 研究室に着き、契約の成功を告げフィアースの左手を見せると、コルベール先生は満足そうな笑顔でそう言った。

「しかしこれは珍しいルーンですね。少しメモを取ってもよいですかな?」

 訊かれたフィアースはわたしに視線を向ける。
 頷き返すと、彼はどうぞ、と左手を差し出した。

「ふむ……あいや、どうも」

 フィアースの左手のルーンをスケッチしながら、コルベール先生がわたしに話しかける。

「よい使い魔に恵まれましたな、ミス・ヴァリエール」
「どういうことですか?」

 その言葉の意味が分からず、私は思わず先生に訊ねた。

「おや、分かっていて返事をしたのでは無いようですね。彼は」
「フィアースです。フィアース・アウィル」
「それが彼の名前ですか。ではミスタ・アウィルは、私のルーンをスケッチさせて欲しいという依頼に対して、主人であるあなたに確認を求めたのですよ。そのあたりの機微はさすが人間といったところですか。違いますかな?」

 話を振られたフィアースは、目を閉じて答えない。が、その沈黙が肯定を示しているようにも見えた。
 もし先生の話が間違いでないなら、彼はわたしをちゃんと主人として立ててくれている。
 それは主従としての信頼の証。
 使い魔と主の関係としては当然のことではあるが、彼は普通の使い魔ではなく意思を持った人間である。その彼が契約して間もないわたしをちゃんと主人として見てくれたことに、ひとりでに頬が熱くなった。

5:約束は次元を超えて1-1
08/11/21 06:43:00 9UIBpFil
「あ、ありがとうございます先生」
「なんのなんの。これから大変かもしれませんが頑張るのですよ、ミス・ヴァリエール」
「はい」

 思わず返事も少し元気なものになる。

「それでは、そろそろ夕食の時間ですね。食堂へ向かうといいでしょう」
「失礼します」

 そうして、わたしたちはコルベール先生の研究室を出た。


「そういえば、あんたの世界ではメイジが貴族ってわけじゃないのよね?」

 食堂へと向かう道すがら、ふと思いついた疑問をフィアースに投げかける。

「あぁ。だが貴族や王族が平民を統治しているのは同じだ」

 へぇ、そうなんだ。

「それってどうやって統治してるの?何か特別な力でもあるわけ?」
「そうだな。俺が召喚される前まで仲間と行動していた国では、代々の王女が姫巫女としての資質を持っていたらしい。守護獣……獣の形をした神様みたいなものか。それらと交感し、その能力を以って国を治めていたとか。
 他の国にはそういう話は無かったが、王家の血筋というもの自体が重要視されていたんだろうな」

「ふぅん。じゃぁ貴族は?」
「貴族も血筋によって受け継がれていた。ハルケギニアの様に魔法が使える、使えないと言った大きな違いがあるわけではないが、その代わりに権力によって自らを守り、あるいは民を統治していた」

「じゃぁ、叛乱なんて起こった時には大変ね。平民と大差がないんじゃ」
「そうだな。だがそのための権力ではあったのだろう。まぁ、俺も旅をする身だったし、もともとはファルガイアの人間でもないから詳しくは分からないが」

 ちょっと待って、今何か聞こえた。

「ファルガイアの人間じゃないって、それじゃあんたは何なのよ」
「俺はファルガイアではなくまた別の、エルゥボレアという世界で生まれたんだ。それからいろいろあってファルガイアに流れ着き、そこで家族を得た」
「ふぅん。まぁいいわ」

 あんまり聞いてるとこんがらがってきそうだわ。それに、今私の使い魔をやっていることとは関係の無い話でもあるし。
 と、話しながら歩いていると、アルヴィーズの食堂に着いてしまった。

「あ、忘れてた」

 フィアースの食事なんて、いきなり行っても準備されてないわよねぇ。

「どうした?」
「あんたの食事のこと。ここは貴族の食堂だから……そうね、メイドにでも言って準備してもらうわ」

 そう言ってから、手近にいたメイドに声をかける。

「はい、なんでしょうか」

 この辺りでは珍しい、黒髪と黒い瞳を持ったメイドだ。

「あなた、名前は?」
「はい、シエスタと申します」

6:約束は次元を超えて1-1
08/11/21 06:46:37 9UIBpFil
「じゃ、シエスタ。彼に食事を出してあげて。わたしの使い魔なの」
「あ、は、はい。分かりました」

 一瞬の戸惑いの後に、了解の返事が返ってきた。

「じゃ、食事が終わったらここで落ち合いましょ」
「分かった」
「そ、それではミスタ、こちらへどうぞ」

 そういうと、シエスタはフィアースを案内していった。
 彼と別れたわたしはいつもの席に着き、いつも通りにお祈りを済ませ、食事を摂る。
 と、近くにツェルプストーが居た。またヤなやつが……
 案の定ちょっかいを出してくる。

「あらルイズ、使い魔はどうしたの?」

 ヤな笑みだ。

「突然で食事の準備が間に合わなくてね、メイドに別で準備してもらってるの。残念ね」
「何がよ?」
「男と見れば見境無しのあなたが、誘惑するチャンスが無くて」
「あら酷いわね。ちゃんと相手は選んでるわ」

 あれだけとっかえひっかえしといて、どこが選んでるですって?

「それに今後チャンスが無いわけでもないし。でもまぁ、あたしたちの幻覚じゃなかったのね。あなたもちゃんと使い魔を召喚できたんだ?」
「ふ、ふん。当たり前じゃない。わたしだってメイジだもの」
「ゼロ、だけどね」

 むかッ。
 で、でも抑えろわたし。今日はちゃんと魔法が成功したんだ。それも、二回連続!快挙よ快挙!!
 ちょっと虚しくなった。

「もうゼロじゃないわよ。ちゃんとサモン・サーヴァントもコントラクト・サーヴァントも成功したもの」
「あら、じゃあもうゼロじゃないわね。おめでとう、ほぼゼロのルイズ」

 むかむかッ。

「ッ……い、いや、いいわ。そうやって吠えてなさい。今日は見逃してあげるわ」
「あら?」

 今日のわたしは機嫌がいいの。いつもは食って掛かるツェルプストーのちょっかいも華麗に回避よ。

「んもう、面白くないわね。いいわ、いつまで続くか見ててあげるわその意地っぱり」

 そう言うと、ツェルプストーは自分の食事に専念しだした。
 色々と思うところはあるけど、まぁいいわ。よくないけど。
 とりあえず、食事を済ませてしまおう。

   ◇◆◇

 シエスタと名乗った少女について行った先は、厨房だった。

「おう、どうしたシエスタ。ん、彼は?」

 恰幅のいい中年の男性が、シエスタに俺のことを尋ねている。

「彼はミス・ヴァリエールの使い魔だそうです。事前の準備を伝えていなかったので、彼に何か食事を、と」
「フィアースだ。すまないがよろしく頼む」

7:約束は次元を超えて1-1
08/11/21 06:50:19 9UIBpFil
「おぉ、あんたが。分かった、ちょっと待ってな」

 そう言うと、彼は手早く賄い食を作ってくれた。

「マルトーさんはここのコック長なんですよ。貴族の皆さんにお出ししてる料理も、全部コック長の監督の下で作られてるんですから!」
「ほらよ、簡単なもので悪いが、まぁ我慢してくれや。あとシエスタ、あんまりおだてるとこそばゆくなるからやめてくれ」

 がははと豪快に笑いながら、出来上がった食事を出してくれた。

「恩に着る」

 そうしていただいた食事は、驚いたことにかなりの美味だった。

「これは……美味い」
「そう言ってもらえりゃ作り甲斐があるってもんだ!どんどん食ってくれよ!」


「ご馳走様でした」
「あいよ、こんなんでよければまた来てくれや。なんのかんの言ってせっかく作った料理を残しやがる貴族たちと違って、こっちまで嬉しくなるような食べっぷりだったしな」

 そう、召喚される前から考えてかなりの時間食事を取っていなかった俺は、空腹に任せてお代わりまでしてしまった。
 せっかくの料理を残すのは勿体無いかと思ったのだが、どうもそれが逆に好印象だったらしい。

「すまない、また何かあったら世話になる」
「おう、遠慮なくきてくれ!」
「シエスタもありがとう。それでは、ルイズと待ち合わせしているので」
「はい、何かあったら声をかけてくださいね」

 ここの人々は、平民ということもあってか親切な人が多いようだ。
 それに、ルイズが平民を召喚したというニュースは、既にここにまで広まっていた。
 親切にされたのは、同じ平民のよしみというのもあるのかもしれないな。
 そんなことを考えながら、ルイズと分かれたアルヴィーズの食堂の入り口まで戻ると、どうやら先に食事を終えたらしいルイズが待っていた。

「遅いわ。主人を待たせるなんて一体どういうつもりかしら?」
「時間の指定が無かったからな。待たせて悪かった」
「ふ、ふん。部屋に戻るわよ」

 さて、この短時間に何があったのか、幾分かルイズの機嫌は傾いてしまったようだ。
 その場に居なかった俺としてはどうしようもないのではあるが、まぁ仕方無いことか。
 そんなことを考えながら何気なく夜空を見上げた俺は、心底驚いた。

「月が、二つある」
「そりゃあるわよ、月だもの。ファルガイアでは違うの?」
「あぁ。ファルガイアでもエルゥボレアでも、月は一つで色は白だった。光の関係で黄や赤に見えるときもあったが」

 こうして二つの月を見ていると、また違う世界に来たのだと実感する。

「ふぅん、白くて一つだけの月ねぇ。ぜんぜん想像もできないけど」

 やはりこちらでは、赤と青の二つの月が普通なのだろう。

8:約束は次元を超えて1-1
08/11/21 06:53:38 9UIBpFil
 部屋に戻ると、ルイズは読書を始めた。
 俺はやることも無かったので壁を背にして床に座っていたのだが、ある程度時間が経ったところで可愛らしい欠伸が聞こえた。

「そろそろ寝ようかしら」
 そう言うと、俺がここに居るのを気にも留めずに着替え始める。
 流石にそのまま見ているのも悪い気がしたので、背を向けていた。
 と、一つ疑問が。

「ルイズ、俺はどこで寝たらいいんだ?」
「ベッドは一つしか無いから、床で寝て。明日には干草くらいは用意してあげるわ」

 ふむ。
 まぁ旅の途中では野宿が当たり前だったことを考えれば、建物の中で寝れるだけありがたいとは思うが。

「分かった」
「それと」

 先ほどまで着ていた下着と毛布をこちらに放ると、続けて

「それの洗濯よろしく。毛布は使っていいわ。あと朝起こして」

 言うだけ言って、ベッドにもぐりこんでしまった。

「……分かった」

 少々腑に落ちない部分はあったが、初日ではまぁ仕方の無いことか。
 俺が床に横になると、ルイズが指を鳴らす。
 それを合図に、ランプの火が落ちる。
 窓から射す二つの月の明かりに照らされながら、俺のハルケギニアでの一日目はこうして終わった。




1話以上です。
兎にも角にも、スレ容量不確認失礼致しました。
以後気をつけます・・・

SSは、最初はまったりと本筋を追っていこうと思います。
初心者ですが、どうぞよろしくお願いします。

9:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 07:07:05 edUqqdkU
乙…しかしスレ立てたんなら、テンプレもちゃんと張っといた方がいいと思うんだがどうか。


10:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 07:09:04 edUqqdkU
ごめん。ちょっとカンチガイしてた。
改めて投下乙。
そしてスレ立て乙。

11:約束は次元を超えて
08/11/21 07:30:33 9UIBpFil
追記。
支援してくださった方々、ありがとうございます。
しっかり続けられるよう、頑張ります。

12:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 09:10:45 xvl6rPbT
>>11
スレ立て&投下乙

13:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 09:56:08 3S7TN+zO
乙&乙
XFは久しぶりにWAテイスト溢れるWAだったな

14:ベルセルク・ゼロ
08/11/21 10:11:14 fY0h0K45
例え我が身高熱に蝕まれようと投下はやめぬ……!
五分後くらいから投下します

そして>>1スレ立て乙です

15:ベルセルク・ゼロ23
08/11/21 10:15:06 fY0h0K45
 『桟橋』と呼ばれた巨大な樹木から伸びる一本の太い枝に、何本ものロープを使って帆船が吊るされていた。その帆船の舷側には翼が設けられている。そう、これはただの船ではない。空を舞う飛行船なのだ。
 通称『白の国』とも呼ばれるアルビオンは巨大な浮遊大陸だ。そこに渡るためにワルドが急遽都合したその船の甲板で、船長とおぼしき初老の男が苛立たしげにパイプを吹かせた。
「いつまで待たせるんですかい? 急ぎだっていうからこっちは寝入りばなの船員を叩き起こしてまで出航の準備を整えたんですがね」
 船長は吸い込んだ煙を嫌みったらしくはぁ~、と吐き出した。
 ワルドはそんな船長をぎろりと睨みつける。船長は肩をすくめて「おぉ怖い」と呟いた。
 ルイズはまだ乗船しておらず、自分たちが上がってきた『桟橋』の階段をじっと見つめていた。
「ルイズ」
 ワルドは甲板の上からルイズの背中に声をかけた。ルイズは無言でふるふると首を振る。
「いや。私、もう少し待つわ。あいつ、言ったから。『すぐに行く』って、そう言ったから」
「だがルイズ……我々には時間があまり無い。それに、もしかすると彼はもう……」
「使い魔を信用しろって言ったのはあなたよワルド!!」
 キッ、と振り向いてルイズは声を張り上げた。その目には涙をいっぱいに溜めている。
 その涙がこぼれてしまわない様に、ルイズは懸命に歯を食いしばっていた。
 ワルドはため息をつくと、帽子をくしゃりと押さえつけた。
「……わかった、待とう。だが、あと半刻だけだ。それまでに彼が間に合わなければ出航する……いいね?」
 ルイズは返事をしなかった。代わりに一瞬俯くと、再びワルドに背を向けてじっと階段を見つめだす。
(ふぅ…まいった。妬けるね、どうも)
 そんなルイズの様子に、ワルドは苦笑いを浮かべるのだった。


「ちょこまかするんじゃないよ!!」
 ラ・ロシェールの夜空にフーケの怒声が響く。フーケの苛立ちを表すように、フーケの操る巨大な岩ゴーレムは豪快にその腕を振るった。
 地を駆けるキュルケに向かって振るわれたその腕は、もろともに岩造りの家屋を薙ぎ倒す。
「な、なんだありゃ!? 岩の巨人!?」
「ば、化け物だ!! 逃げろーーーーーッ!!」
 町の人々は突然現れた破壊の権化に混乱し、寝巻きのまま家を飛び出し逃げ惑っていた。ゴーレムがところかまわず振り回す腕はラ・ロシェールの町並みを瓦礫の山に変えていく。
「む、無茶苦茶するんじゃないわよッ!! 何考えてんの!? アンタこんな真似したら死刑確実よ!?」
 ゴーレムの腕をすれすれでかいくぐりながらキュルケはフーケに罵声を浴びせる。
 幸い、まだゴーレムの攻撃による死者は出ていないようだが―トリステインの重要な交易港であるラ・ロシェールをこれだけ破壊してしまってはまず間違いなく縛り首だ。
「はんッ! どの道わたしは脱獄犯で縛り首決定さッ!! なら精々好きに暴れさせてもらうよ!! もっとも……捕まる気なんてさらさらないがね!!」
 ゴーレムが硬く握った拳をキュルケに向かって叩きつける。直撃こそ免れたものの、その衝撃にキュルケの体は浮き上がり、瓦礫の山に突っ込んだ。
「あいたた……んもう!!」
「とどめ!!」
 ゴーレムがその腕を大きく振りかぶる。瓦礫から身を起こし、頭を振るキュルケに腕を叩きつけようとして――嫌な予感にフーケのうなじが逆立つ。フーケは背後を振り返った。
 風竜シルフィードにまたがったタバサが猛スピードでフーケに迫る。
「ちぃッ!」
 フーケの杖の動きにあわせ、ゴーレムは振りかぶった腕をタバサに向かって振るった。シルフィードは翼をはためかせ、ひらりとその腕をかわす。その背にしがみついたまま、タバサが杖を振る。
 氷の塊がフーケに向けて射出された。ゴーレムのもう一方の腕がフーケの前に翳され、巨大な壁となってそれを弾く。
「ファイヤー・ボール!!」
 キュルケも炎の玉を放ち、直接フーケを狙った。しかしそれもまたゴーレムの巨大な腕により防がれる。ゴーレムの腕にまとわりついた炎は、ゴーレムが大きく腕を一振りすると風に吹かれてかき消えてしまった。。
「やっぱり大きすぎだわこのゴーレム……もう、反則よ!!」
 再び迫ってきたゴーレムの腕をかいくぐって、キュルケは毒づく。

16:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 10:15:47 eNAlZxPi
支援

17:ベルセルク・ゼロ23
08/11/21 10:18:36 fY0h0K45
 シルフィードに乗って空を舞うタバサにも、ゴーレムの腕が二度、三度と続けて振るわれた。
 ひらりひらりと軽やかにシルフィードは身をかわすが、その背に乗るタバサは歯を食いしばっている。
 シルフィードの回避行動により立て続けに行われる急な旋回は、その背に乗るタバサに大きな負担をかけていた。タバサはゴーレムの射程の外まで(即ちそれはタバサの魔法の射程の外をも意味する)後退せざるをえなかった。
「本当にすばしっこい奴らだね。このままじゃキリがないわ……ん?」
 住人が避難してがらんどうになった家を見て、フーケはにやりと笑った。思い付いた。ちょろちょろ逃げる害虫をぷちっと潰す方法を。
 誰もいなくなった三階建ての家屋をゴーレムは両腕で挟み込む。ゴーレムはみしみしと音を立て、そのままその家を土台ごと引っこ抜いた。
「なぁッ!?」
「…ッ!!」
 余りの出来事に、キュルケとタバサは目を丸くして声を失った。
 ゴーレムは抱え込んだその家を頭上に振りかぶる。
 狙いはさっきから足元をちょろちょろしてうっとうしい赤髪の女―キュルケだ。
「さあ、よけてみなぁッ!!!!」
 ぶん、とゴーレムは勢いよくその家を投げ放った。巨大な岩の塊が猛然とキュルケに迫る。宙を舞うその家は、月の光を受けてキュルケの周囲に大きな影を落とした。
「そんな……嘘でしょ?」
 キュルケは呆然と呟く。
 前へ走る? 間に合わない。後ろへ走る? 間に合わない。横へ飛ぶ? 間に合わない。上へ飛ぶ? ―間に合うはずが無い!
「くッ…!」
 タバサがシルフィードを駆り、全速力でキュルケのもとへ向かう。
「タバサーーーーーーーーーッッッ!!!!!!」
 だが、それも到底間に合わず、タバサの目の前で―キュルケの姿は巨大な瓦礫の下に消えた。
「あーはっはっはっはっはっは!!!!」
 ずずん、と大地を揺るがす衝突音をバックミュージックに、フーケの哄笑が響く。
 ゴーレムの肩の上で勝ち誇るフーケを、タバサはキッ、と睨みつけた。
「よくも…!」
 フーケ目掛けてシルフィードが一直線に飛ぶ。振るわれるゴーレムの右腕。猛然と迫り来るソレを、腕の下をかいくぐることでなんとかかわす。
 しかし、間髪入れず迫る左腕。かわすのが精一杯で、タバサはフーケとの距離を詰めることができない。
 体勢を崩したシルフィードとタバサは、再びゴーレムの手の届かないところに撤退するしかなかった。
「ふふ……そのまま尻尾を巻いて逃げ出したってかまやしないよ、『雪風』のタバサ? もう十分に気は晴れた。わたしもこれからは忙しい身だ。そうそう時間もかけていられない……あんたのことは見逃してあげる」
「あなたの気が晴れても私の気が晴れない。あなたは私の大切な友達を殺した……絶対に、許さない」
「じゃあいつまでもそんなとこにいないで来なさい、羽虫。言ったでしょう? 忙しいの、わたしは」
「言われずとも」
 タバサの声を合図にシルフィードは上方に向かって翼をはためかせた。風を切り裂き、シルフィードはぐんぐん上昇していく。
「ハッ! 結局逃げるのか!?」
 フーケはどんどん小さくなるタバサを見上げて笑った。
 ゴーレムの肩に乗るフーケが豆粒ほどの大きさに見える高さまで来て、ようやくシルフィードは上昇をやめた。
「何のつもりだ?」
 怪訝そうに目を細めてフーケはタバサの姿を追う。
 フーケの方からも、もはやタバサと風竜の姿は小さな点にしか見えない。
 タバサは自らの位置をゴーレムの『真上』に調整すると、今度は一転、急降下を始めた。

18:ベルセルク・ゼロ23
08/11/21 10:22:02 fY0h0K45
「突撃、ってかい!?」
 フーケは迫り来るタバサを視界に収めたまま、ゴーレムの腕を構えさせる。
 標高が高くなれば高くなるほど気温は下がる。タバサはまるで身を切るような冷たい風に耐えながらぐんぐんシルフィードを降下させた。
(ゴーレムは人の形を模している以上、その腕の稼動範囲には限界がある)
「上から来ればゴーレムの動きを限定できると思ったかい!? あいにくだね! ゴーレムはその気になりゃあ『関節』なんて概念取っ払っちまえるのさ!!」
 フーケは笑う。みしみしと音を立て、ゴーレムの肩が回りだす。その動きを誇示するように、ゴーレムは上に向かってぶんぶんと腕を振り回した。その動きは確かに人間の稼動領域を超えている。
 しかしタバサは止まらない。
 いよいよタバサとフーケ、二人の距離はお互いの顔を視認できるまでに近づいた。
 タバサを見上げるフーケの顔には凶悪な笑みが浮かんでいる。
「叩き潰してやる!!」
 フーケが杖を振り、ゴーレムで迎え撃とうとしたその刹那。
 タバサはシルフィードの背を離脱した。
「なにッ!?」
「『フライ』」
 シルフィードの背を飛び離れたタバサはフーケから見て右に、シルフィードはそのまま左に旋回する。
 タバサの姿を視界に収めればシルフィードがフーケの死角に入り、シルフィードの姿を視界に収めればタバサの姿が死角に入る。
 いかにゴーレムの扱いに長けたフーケといえど見えない相手を迎撃するのは不可能だ。
「小賢しい!!」
 フーケは迷うことなくタバサを自らの正面に置いた。
「所詮あの風竜はアンタの使い魔! アンタが死に、その支配から逃れればわたしを狙う道理はない!!」
「……英断」
 タバサは唇を噛んだ。
「終わりだ! 『雪風』のタバサ!! そんなへなちょこな『フライ』で私のゴーレムをかわせると思うな!!」
 眼前に迫ったゴーレムの腕に、覚悟を決めたのかタバサは目を閉じた。
「万事休す」
 そう呟いて目を開いたタバサは、ほんの僅かに―だが確かに、意地悪な微笑みをその顔に浮かべていた。

「……なんちゃって」

 タバサは突然降下を止めて今度は逆に上昇する。タバサ目掛けて迫っていたゴーレムの腕が空を切った。
 フーケは苛立ちを隠そうともせず、舌を鳴らす。
「チッ! この期におよんで、一体何のつもり……」

「はぁい♪」

 聞こえるはずの無い声を、背後から聞いた。
「馬鹿な……」
 思わず声を漏らし、フーケはゆっくりと振り返る。
 月明かりが燃えるような赤い髪を、妖艶なその肉体を映し出す。
 『微熱』のキュルケがそこにいた。
 巨大な岩ゴーレムの肩の上で、キュルケとフーケが対峙する。
「ここまで近づけばあなたのゴーレムはもう役に立たないわ。まさか自分もろとも私を叩き潰すわけにはいかないものね。距離を取る? 無理よ。私、もうあなたの傍を離れるつもりはないもの」
 右手に持った杖を構え、キュルケは妖しく微笑む。
「私が限定したかったのはゴーレムの動きではなく、あなたの視界。下から接近する彼女に気付かぬよう、あなたの目を上方に固定しておく必要があった」
 一瞬の隙をついてシルフィードと合流したタバサは、その杖をフーケに向けている。既に詠唱は済ませており、いつでも氷の槍を撃ちだせる状態だ。

19:ベルセルク・ゼロ23
08/11/21 10:24:35 fY0h0K45
 フーケはぎり、と奥歯を噛み締めた。
「『微熱』のキュルケ……アンタ、どうやってあの状態から……」
「見くびらないでちょうだい。確かに『微熱』は私の二つ名。でも、扱える魔法は何も『火』だけじゃなくってよ?」
 言われてフーケは気がついた。月明かりなので分かりづらかったが、よく見ればキュルケの服や髪には所々泥が付着している。
「『錬金』…! 地面を泥に変えて……!!」
「前後左右が駄目。上も駄目。じゃあ、下しかないわよね。前にあなたが見せた錬金を参考にさせてもらったわ。でもやぁね。あなたと戦うと毎回汚れちゃう」
 キュルケは泥の付着した自分の髪をつまみ、はぁ、とため息をついた。
「くっ…! だが…、『雪風』のタバサ! アンタはどうやってそのことを知った!? 私と同じく、アンタにもこの女が潰されたようにしか見えなかったはずだ!!」
 納得のいかないフーケはタバサの方に向き直る。
「瓦礫の下敷きになる直前、彼女は私の名を呼んだ」
「は…? そ、それだけで……!?」
「以心伝心、ってやつよ。私たちを甘く見ないでちょうだい、『土くれ』のフーケ」
 フーケは呆然と立ち尽くす。タバサはぶい、とピースサインをしてみせた。
 わなわなとフーケの肩が震える。
「チェックメイトよ、フーケ。もうあなたに道は残されていない」
 キュルケはフーケに語りかける。
 まるで判決を告げる裁判官のように。
「杖を振り、私を魔法で仕留める? ノン、その時はタバサの槍があなたを貫くわ。では先にタバサをゴーレムで叩き伏せる? ノン、ゴーレムを動かした瞬間私があなたを小麦色に焼き上げてあげる。貫かれるか、その身を焼くか、跪くか。選びなさい、『被告人』フーケ」
 フーケが伏せていた顔を上げる。観念したようにも見える表情で、フーケはくつくつと笑った。
「いいえ、『裁判官』。私にはもうひとつ取るべき道がございますわ」
「おかしな真似をすればその場で撃つわよ、フーケ」
 キュルケは油断無くその杖をフーケに突きつける。もしフーケが妙な挙動を取れば即座に炎を放つ準備があった。
「ご心配なく。魔法は使わないし、私はこの場を一歩も動きませんわ」
 奇妙だ。焦燥も絶望もフーケの表情からは読み取れない。
 何が狙いなのか―そのフーケの様子は不気味ですらあった。
「では聞こうかしら。その行動とは何? フーケ」
「簡単ですわ。その行動とは……」
 フーケはゆっくりと地面、つまり自らが立つゴーレムを指差した。

「―ゴーレムを消すこと」

 フーケの言葉と同時に地面が消失した。少なくともキュルケにはそう感じられた。
 ゴーレムを形作っていた岩が魔力の支えを無くし、地に落ちる。
「しまった…!」
 キュルケは落下を始めた自分の体を支えるため「レビテーション」の魔法を唱えざるをえなかった。
「これでアンタの炎は消えた…! 後は……」
 フーケは落下する体をぐるりと反転させた。
「後は『雪風』のタバサ、貴様だ!!」
 タバサが杖を振る。落下するフーケ目掛けて氷の槍が発射された。
 ゴーレムの肩の高さからまともに地面に叩きつけられては無事では済まない。
 だというのに、フーケはタバサの魔法の迎撃を優先した。フーケが杖を振ると岩の塊がタバサとフーケの間に割って入り、氷の槍を受け止める。
 「レビテーション」で速度を殺したキュルケよりも、シルフィードに乗って降下するタバサよりも先にフーケは地面に着地した。
「が…ぐッ……!!」
 着地の衝撃でフーケの関節がぎしぎしと悲鳴を上げる。内臓系にも傷がついたか、激痛とこみ上げる猛烈な吐き気をしかしフーケは飲み込んだ。
(この痛み……二、三本はイったかもしんないねこりゃ……だけど!!)
 痛みに悶える時間はない。フーケは杖を取ると、すぐに呪文の詠唱を始めた。
「逃がさないわよ! フーケ!!」
 キュルケとタバサはもうすぐそこまで迫ってきている。
 フーケは二人を鋭い瞳で睨みつけた。
「『微熱』のキュルケ…『雪風』のタバサ……この『土くれ』に二度も土をつけるとはね……! また大きな借りが出来た。首を洗って待っていなさい!!」
 フーケが杖を振ると猛烈な砂嵐が巻き起こった。
「くっ!」
「うく…」
 周囲の細かな砂粒を巻き上げ、徐々に勢力を増す砂嵐に、キュルケとタバサの目が眩む。
 砂嵐がようやく止んだ時―フーケの姿はその場から綺麗さっぱり消えていた。



20:ベルセルク・ゼロ23
08/11/21 10:27:44 fY0h0K45
 今や人っ子一人居なくなった『女神の杵』亭の酒場で、ギーシュ達と合流したキュルケ、タバサは勝利の祝杯を挙げていた。
「悔しいわね! 完全に追い詰めていたのに!!」
 キュルケは注がれたワインを一息で飲み干すと、乱暴にグラスをテーブルに置いた。
 その隣でタバサは視線を本に固定したままパラリとページを捲る。
「しょうがない。向こうの方が一枚上手だった」
「さすがに伝説の盗賊『土くれ』か……厄介なヤツを敵に回しちゃったかも、ね」
「僕としてはあの『土くれ』のフーケをたった二人で撃退したってだけでびっくりだよ。何者なんだ君たちは」
 ギーシュはそんな二人の様子にやれやれと肩をすくめた。
「それよりも、これからどうする?」
 キュルケがそこにいる皆の顔を見回して言った。
 タバサは我関せずと本を読み進め、ギーシュは隣に立つメリッサにちらりと視線を送る。
「あ~、僕は、そうだな、今更任務には戻れないし……メリッサの世話をしてくれるっていう貴族のところまで彼女を送ろうかな、うん」
「そ、そんな! そこまでしていただくわけにはいきません!!」
 ギーシュの言葉にメリッサは慌てて首を振った。
 ギーシュもまた「いやいや」と首を振る。
「なに、僕が好きでやってるだけだ。気にしないでくれ」
「で、でも……」
 そんな二人のやり取りを眺めながら、キュルケは二杯目のグラスを空にすると、ほぅ、とため息をついた。
「このまま学院に帰ってもダーリンがいないんじゃ退屈ねぇ……ねえ、タバサ。あなたのシルフィードでアルビオンに先回りしちゃわない? 先にアルビオンに行って、ダーリン達を待ち伏せするの」
「現時点で既に船を発進させていると思われる彼らに追いつくのは困難。何より、あの子(シルフィード)を少し休ませないと」
「ぶぅ~、つまんない……って何? どうしたのよギーシュ。ぽかんとしちゃって」
 ギーシュは虚を突かれたような顔でキュルケの顔を凝視していた。
「キュルケ……今君、なんて言った?」
「な、何よ? わ、私何か気に触ること言ったかしら?」
 キュルケの言葉を聞いて、ギーシュの頭の中でかちり、と何かのピースが埋まった。

 フーケの姿を認めたときに覚えた違和感。その正体にギーシュは思い当たる。
 フーケは酒場の入り口を壊し、自分たちの姿を認め、こう言ったのだ。

『まさかあんたらまで来るなんてね。忘れちゃいないよ。『雪風』のタバサ、『微熱』のキュルケ。このラ・ロシェールで待っていた甲斐があったってもんだ』

 ―待っていた?
 ―待っていただと?
 『土くれ』のフーケ。
 何故お前は僕たちがラ・ロシェールに来ることを知っていた?


21:ベルセルク・ゼロ23
08/11/21 10:30:12 fY0h0K45
 ギーシュの中でカチカチとパズルのピースが埋まっていく。
 これは、必要な情報の欠けたキュルケとタバサには辿り着けない、唯一この場で『鉄屑』のグリズネフと邂逅したギーシュにしか辿り着けぬ真実。
 昨日、グリズネフの部下は言っていた。
『―俺昨日『ラ・ロシェール』の酒場であいつ見たぞ?』
 ギーシュの思考は加速する。
 つまり姫殿下がルイズの部屋を訪れたあの夜。何時ごろなのか詳しい時間は分からないが(おそらくは相当深夜だったであろうと思われるが)、既にフーケはここにいた。
 誰に聞いたのだ? 僕らがアルビオンを目指してラ・ロシェールを訪れることを。
 いや、そもそもあの夜の時点で僕らがラ・ロシェールを目指すことを知りえたのは誰だ?
 おそらくはごく少数―或いは皆無ですらあるはずだ。姫殿下自身がルイズを訪ねにわざわざ学院まで足を運んだ程だ。例え王宮の近しい者にでも知られるわけにはいかなかったのは容易にうかがい知れる。
 つまり、『直接姫殿下から任務を受けた僕たち』以外に任務の内容を知るものはいないのではないか―?
 ギーシュはまるで電流が全身を駆け抜けたような衝撃を覚えた。
 ああ、そもそも何故捕まったはずのフーケがここにいた?
 決まってる。脱獄したからだ。
 脱獄? あのチェルノボーグの監獄を?
 何者かが手引きしたんだろう。そう考えるのが最も自然だ。
 誰が? もちろん、トリステイン内の『裏切り者』だ。
 『裏切り者』。突如頭の中に浮かび上がったその言葉がギーシュに例えようもない不安をもたらす。
 頭の中に打ち立てられたとんでもない仮説。ギーシュはいやいやと頭を振った。
 馬鹿げている。なんて馬鹿げた、それでいてひどく不誠実な考えだ。短絡的な自分の思考に笑いすらこみ上げてくる。
 只ならぬギーシュの様子に見かねたキュルケは声をかけた。
「ちょっと、ギーシュどうしたの? 何か具合悪そうよアンタ。大丈夫?」
「―追うんだ」
「え?」
「ルイズ達を追うんだ!! 今ならまだ間に合うかもしれない!!!!」
 自身を苛む焦燥に急き立てられるままに、ギーシュは叫ぶ。
「何を言ってるのよ!? どうしたのあんた!」
「説明してる時間も惜しい! 早く、早くしなきゃ、とんでもないことになるかもしれない!!」
「落ち着いて」
 タバサが読んでいた本をぱたんと閉じた。
「どの道、すぐの出発は不可能。アルビオンまで飛ぶにはもう少しあの子に休息が必要。だから、落ち着いて」
「しかし―」
「落ち着いて」
 透き通った水面のようなタバサの瞳に見つめられ、ギーシュは口ごもった。
「協力はする。だから話して。あなたの考えたことを」
「あぁ…話す、話すよ……君たちの意見も聞きたい。出来れば、この馬鹿げた考えを否定してくれ」
 一度深呼吸してから、ギーシュはぽつぽつと己の仮説を話し始めた。

 確かめなくては―願わくば、ただの杞憂であってくれ。

 思いを胸に、今はただシルフィードの回復を待つ。
 待つことしか出来ぬ歯がゆさに、ギーシュは拳を地面に叩きつけた。



22:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 10:32:04 +6U48a8i
男気溢れるギーシュに死亡フラグの臭いを感じつつ支援。

23:ベルセルク・ゼロ23
08/11/21 10:35:04 fY0h0K45
 しばらく時計を眺めていた船長が片眉をあげてパイプの火を消す。
「半刻経ちましたぜ、旦那」
 船長の言葉にワルドは無言で頷くと、甲板を降りてルイズの傍に歩み寄った。
 それでも振り向こうとしないルイズの肩をやさしく掴む。
「時間だ。行こうルイズ」
 少しの間を置いてルイズは無言でこくりと頷くと、飛行船に付けられたタラップを渡り始めた。ワルドが先に立ち、ルイズの手を引いてエスコートする。
 甲板に渡る最後の一歩を踏み出す前に、ルイズはもう一度だけ『桟橋』の階段を振り返った。
「馬鹿……」
 ぽつりと呟いて、タラップから甲板に降りる。
「それじゃあタラップは片付けちまって構いませんね?」
「ああ、頼む」
 ワルドに一応の確認を取ると、船長は数名の船員を呼びつけた。
 船長の命令を受けて船員達がテキパキと船に取り付けられたタラップを片付けにかかる。
「大丈夫さルイズ。彼はきっと生きている。一度剣を交えたこの僕が保証する。彼はそんなやわな男じゃないさ」
「うん…ありがとう、ワルド」
 ワルドの大きな優しい手が俯いていたルイズの頭を撫でる。ルイズはくすぐったそうに身をよじった。
「うん? 何だありゃあ?」
 その時、ルイズの後ろでタラップを片付けていた船員が素っ頓狂な声を上げた。
 何となく船員の目線を追ったルイズの目が大きく見開かれる。
「ル、ルイズ~~~」
 へろへろになったパックが桟橋からこちらに向かって飛んできていた。
 そしてその後ろには―ドラゴンころしをまるで杖のようにして歩を進めるガッツの姿もある。
「タラップ下ろして!! 早く!!」
 片付けたばかりなのに、とぶつくさ言いながらも船員はすぐにタラップを架けなおしてくれた。
 タラップを駆け下り、その勢いのままにルイズはガッツの胸元へ飛び込んだ。限界ギリギリの体を引きずってきたガッツはその勢いに耐え切れず尻餅をついてしまう。
「おいおい……」
 ガッツが呆れたように声を出すと、ルイズはがばっと胸元に埋めていた顔を上げた。
「ばかッ!!!!」
 たまらず零れ落ちた涙を拭おうともせず、ルイズは力一杯口を開いてガッツを怒鳴りつける。
「ばか、ばか、おおばか!!!! もう禁止! アンタ勝手な行動禁止!!! 勝手にわたしのそばを離れるな!! 動くときはわたしの許可を取るの!!」
「おい、あんまり揺するな。傷に響く」
「わかったの!?」
「わーった、わーった。分かったから手を離せって」
 ぽかぽかと感情のままに殴りつけてくるルイズをガッツは鬱陶しそうに押しのける。
 そんな二人の様子を甲板から眺めていたワルドは呆れ交じりの笑顔を浮かべていた。
「まさか、本当に間に合うとはな。つくづく大した男だ」
 そう呟いて、何度も出航を遅らされてぶつぶつ文句を言っている船長に向き直る。
「待たせてすまなかったな船長。彼が乗り込んだら出航だ」
「今度こそ大丈夫なんでしょうね?」
「ああ、今度こそ大丈夫だ」
 疑り深く聞いてくる船長に爽やかな笑顔で返しながら、ワルドはタラップに歩み寄る。
 ちょうど数人の船員の手を借りてガッツが乗船してくるところだった。タラップを上ってくるガッツにワルドは手を差し出す。
「ご苦労だった、黒い剣士殿。貴殿のおかげで僕らは今こうして無傷で船に乗っている」
「よせよくすぐってえ。ガッツでいい」
 騎士としての礼を尽くしたワルドの態度に、ガッツは顔をしかめながらその手を握る。
「なら僕もワルドでいいよ、ガッツ」
 そう言ってワルドは笑った。
「出航だ!」
 船長の掛け声と共に、慌ただしく船員が動き出す。
 無事一行を乗せた船は今度こそ桟橋を離れ、空を舞った。


24:ベルセルク・ゼロ
08/11/21 10:38:00 fY0h0K45
以上、投下終了
めっきり寒くなったね。皆風邪には気をつけて
いや、ホントに
いよいよ迫り来るクリスマスに戦々恐々としつつ、ではまた

25:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 12:10:33 IpyUWjI4
GJ

投下してないで休めよwwwwwwwwwww

26:サイダー&ゼロ
08/11/21 14:54:28 b29IWlCz
15:00から投下します。

27:サイダー&ゼロ 第6話
08/11/21 15:00:42 b29IWlCz
ルイズがヴェストリの広場に到着した時、全て遅かった。
ダ・サイダーがピクリとも動かず、そしてサーベルにもひびが入っていた。
「あ……間に合わなかった……」
ルイズは、ただ立ちすくむだけだった。
「やあ『ゼロ』のルイズ、使い魔をこの僕が処刑させてもらったよ」
ギーシュ・ド・グラモンが、ルイズに話しかける。
「ちょ……!?処刑?何よそれ…アンタ…」
「ルイズ…君もこの男の事が邪魔なのだろ?」
「ちが」
ルイズの反論を許さないギーシュ。
「『違う』とでも言って、偽るつもりかい?」
「何を根拠にそんな事言うのよ!」
「あの使い魔を召喚して以来、君は恥をかかされ続けてきただろ。貴族として君のプライドは、ボロボロなはずだ」
「それは、そうだけど…でも、アイツは私の使い魔よ!アンタにあれこれされたくないの!」
必死に反論するルイズ。だがギーシュも言葉を返していく。
「ルイズ…君は知らないから、そんな事を言えるのだ。あの男の罪を……」
「罪?罪って一体何よ!」
「あの男は、貴族であるこの僕に逆らったのだよ…これは重罪だよ…この罪は、主の責任でもある。償ってもらうぞ」
ワルキューレがルイズの方向に向きを変える。ルイズも杖を抜き戦闘体制に入った矢先の出来事だった。
ワルキューレにサーベルが飛んでいき、金属音がヴェストリの広場に響き渡り、サーベルが折れた。
皆サーベルが飛んできた方向を見た。そこには、ダ・サイダーがフラフラになりながら立っていた。
「はぁ…はぁ…まだ、女に…はぁ…牙を向けようとするのか…はぁ…はぁ」
「フフフ…ハーハハハ!君は、何て愚かなんだ!そのまま寝ていれば良かったものを!」
ダ・サイダーの行為によってギーシュは、完全にその身を悪意に任せた。
「何かを守ろうとする君の行ないは立派だ…だが相手を選んだ方が良い…まあ…もう、遅いがな」

28:サイダー&ゼロ 第6話
08/11/21 15:01:14 b29IWlCz
ワルキューレが、ダ・サイダーに右ストレートを放つ。
ダ・サイダーは身を屈め、攻撃をかわしそしてバックステップで距離をとった。
「メタコ…はぁ…状況分析結果は?…はぁ」
「ダーリン、ワルキューレが動かす時にアイツの薔薇が動くジャン。それを封じるジャン」
「薔薇か……ワルキューレの方はわかるか?」
「関節部分に隙間があるジャン。多分そこが弱点ジャン」
メタコの分析結果を聞き、勝機を見出すダ・サイダー。
「使い魔…話しは終わったか?…終わらせてやる…何もかも、全てなーー!!」
ギーシュが、薔薇を振る体制に入った。
「メタコ!ピンポイントで攻撃する。日本刀!」
ダ・サイダーも新たな武器を出させる。
「ダーリン……それが……無いジャン」
「は?」
「入ってないジャン…どっかに置いてきたジャン」
ワルキューレが攻撃を再開した。攻撃をかわしながら話すダ・サイダーとメタコ。
「どこかって…うわ!…どこだ…よっと!…メタコ…ほっと!」
「たしか……ダーリンの寝室だったと思うジャン」
「俺様の…あぶね!…寝室?…タイム!…アララ王国のか!」
ギーシュは、一瞬の隙を見逃さなかった。ダ・サイダーの顔に強烈なストレートを叩き込んだ。
「フッ…次は、ルイズお前だ…」
ルイズは、ただ呆然としていた。
「覚悟は出来ている様だな…」
ワルキューレが、ゆっくりとルイズへ歩みを進めていく。
ルイズはこの時、ダ・サイダーのことを考えていた。
(アイツには色々聞きたい事があんのよ!それなのに、問題を起こして…今度は私のせい?ふざけないでよ!)
「ダ・サイダー!!!アンタには色々聞きたい事があんのよ!!!」
「フフフ…ルイズ、気を失っている奴に何を言っても無駄だよ」
「何時まで、こんな奴に手間取ってんのよ!!!さっさと倒しちゃいなさいよ!!!この………スカポンタン!!!」
「フフフ…恐怖で、気が狂ったか?」
この場にいた、キュルケとタバサが敏感に反応した。
「ギーシュ…どうやらまだ、終わってないみたいよ」
「何だと!」
(ギーシュは気付いていないみたいだけど…ダ・サイダーだっけ…さっきと全然違うわね…)
そこには、ダ・サイダーの姿があった。
「メタコ…武器を出せ」
「わかったジャン、ダーリン!ラムネスの独楽と…兵から奪ったハルバード、二つあるジャン」
「独楽なんて使えるか…ハルバードを出せ!」
「わかったジャン」

29:サイダー&ゼロ 第6話
08/11/21 15:01:46 b29IWlCz
メタコはハルバードを吐き出し、地面に刺す。
「よし!」
ダ・サイダーは、ハルバードを両手で持ち頭上でクルクルっと回し、そして構えなおす。
「やーーーってやるぜーーー!!!」
ダ・サイダーの中に眠るヒョウ、パンサーが目覚めた。
「重量武器のハルバードか…そんな物で、僕のワルキューレを倒せると思うな!」
ワルキューレが、ダ・サイダーにまた襲いかかる。
「ダーリン!」
「てやあーーーーー!!!」
ダ・サイダーもまた、ワルキューレに立ち向かう。あの『漆黒の騎士』の様に。
ダ・サイダーのハルバードは、ワルキューレに防がれ、空いた懐に潜り込まれた。
「使い魔!これで寝ていろ!!」
ワルキューレから放たれた、アッパーによりダ・サイダーは後方に吹っ飛び、動かなくなった。
「チッ…使い魔の分際のくせに手間取らせやがって…」
そして、ギーシュはルイズの方向を見る。
「だいぶ時間を取られたな…ルイズ…もう良いだろう」
その刹那…ワルキューレは真っ二つに切り裂かれ、ギーシュの顔すれすれに炎が飛んできた。
「何だ?まだ、邪魔をするつもりか?」
「ギーシュ…みっともないわよ…止めなさい」
キュルケが止めに入った。
「キュルケ!何故止める?コイツを…コイツを今ここで…」
「メイドと主を守ろうとしたのよ。彼とアナタとじゃどっちが正しいと思うのよ?」
「メイドは、この僕の服を汚した。この男は貴族に逆らった罪もある」
「服なんて洗えば良いでしょ。彼…何時貴族に逆らったの?教えてほしいものね」
キュルケの真っ当な意見にギーシュも返す言葉も無くなった。
「そ…それは…」
「『それは』まだ何かあるの?なんだったら、私が決闘の相手になってあげましょうか?」
「わかった………終わりにしよう」
こうして、ギーシュVSダ・サイダーの公開処刑(決闘)が終わった。
ダ・サイダーは待機していた水のメイジ達によって治療を受け、ルイズに説教を受けた。
その時に、ここが『トリステイン』という国、そして『トリステイン魔法学院』だと言う事も始めて知った。

30:サイダー&ゼロ 第6話
08/11/21 15:02:17 b29IWlCz
学院長室では………
コルベールと老人もとい学院長が話していた。
「ミスタ・コルベール、彼は『ミョズニトニルン』なのじゃろ?」
「おそらく………」
「見事に負けたのう?」
「ええ…」
コルベールは、ダ・サイダーが勝つと思っていたため、予期せぬ出来事に混乱していた。
「たしか…『神の頭脳』と言われているんじゃなあ?」
「まあ…」
「あてにならんのう…まあ良い、ミスタ・コルベール、考えたい事が有るので退室してもらえるかな?」
「はい」
コルベールは、学院長室を去って行った。
(ダ・サイダーか…この本のキャラと類似する点が多い…ダ・サイダーか…様子を見てみるべきじゃな…)
学院長の視線の先には、一冊の本が置かれていた。
『ラムネスと聖女の冒険記』とかかれた本が………

31:サイダー&ゼロ 
08/11/21 15:03:02 b29IWlCz
投下終了。

32:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 15:32:28 O4xjs9V3
ベルセルクの人、サイダーの人。両方とも乙

33:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 15:54:11 J5MJyV1A
負けたwwwwwww

34:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 16:52:22 UttxW0c+
ちょいとスレ読んでる人々に質問
実は完結作品の特別編つーか後日談を考えています
200スレ記念にどうかと思って

ただ、本編とは外れた完全な「特別編」です。
具体的には、ハルケギニアではなくクロス先で展開する話
もちろんちゃんとゼロ魔キャラがメインのストーリーですが、活動する世界がクロス先
ストーリー上はちゃんと繋がってます
エログロはありません

「特別編」だから少々の遊びはお目こぼし頂きたい所なのですが
これは本スレOKか避難所行きか

ご意見希望

35:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 16:58:36 ruWxJq8z
話がリンクしているなr個人的には本スレでもいいと思うけど。

36:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 17:01:43 UttxW0c+
もすこし具体的に言うと、クロス先でハルケギニアや虚無やエルフのストーリーが進むような話

37:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 17:02:31 2YOKc12m
君が自分の作品を未完成、不完全作だと思っているなら書けばいい。
ただ、その物語は本当に終わっていないのか?
読者は本当に続きを求めているのか?
蛇足になっていないか?独りよがりになっていないか?

自分は完結した作品の続きなんて書けない、もう終わっているのだから。

38:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 17:02:34 pIhNpQrR
それは完結したクロス作品同士のクロスかね?
それとも提督とか薔薇乙女とかご立派様とか、単一作品の特別編かね?

39:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 17:03:57 UttxW0c+
単一作品です
物語が終わって一年後、さてさてその後の彼等は・・・て所で

40:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 17:05:26 T0Lwcrqt
個人的には、完結お疲れ様的な意味でやっちゃっても構わんと思うが。

41:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 17:05:46 kny8+BtQ
重箱の隅をほじくる人も居るから避難場が無難かも?

42:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 17:14:44 fV7Mm1pE
書ける人は書ける。書けない人は書けない。
自分の嗜好と違うからって、なんで、いきなりけんか腰なの?>>37


43:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 17:16:19 pIAeAW/Y
誰が損する訳じゃないし、ちゃんとルイズが召喚して色々あった話の続きなんだったら問題ないと思うけどな


44:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 17:23:23 O4xjs9V3
やったれやったれ

45:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 17:25:00 2YOKc12m
すみません、ケンカ腰のつもりで書いたつもりはありませんでした。
もしもそう見えて不快になられた方がいらっしゃいましたらお詫び申し上げます。

あくまで一書き手から一書き手への意見と見解でした。

46:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 17:25:58 sqeKVNzF
いいんじゃないかなっ!
僕は読んでみたい、けど避難所が無難かも
あっちに投下してから続き物であれば反応うかがってこっちに投下とか

47:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 17:26:43 nGCiT8qA
あの作品の世界にルイズとか行きましたってか

要するに、本編終わったけど番外編書くよ、って事だろ?
だったら止める理由なんてないさ。

48:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 17:30:18 UttxW0c+
続き物ではないんですが、長いんですよ
多分Wikiにまとめるときに4話くらい分割するかと

「小ネタ集みたいに考えてたら、こんな風になってしまった。シャレにならない」

という感じです



49:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 17:33:02 2etnkuL1
そこまで言われるとその完結作品がどれかが気になってきた

50:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 17:33:59 ruWxJq8z
あるある。

51:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 17:47:35 WXT2TXnp
>>48
そこまで長いんなら、4分割して一日一投すればいいのでは?

52:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 17:47:46 5j92+H2J
「うわぁあああああああ!!!!!!!本物のルイズちゃあんだあああああああ!!!!!
ルイズ!ルイズ!ルイズ!ルイズぅぅうううわぁああああああああああああああ(以下略)」
嬉しさの余りショック死
「こんな気持ち悪い奴が使い魔にならなくて良かったわ、ミスタ・コルベールもう一回召喚してもよろしいでしょうか?」
「許可します」
遺体をためらいもなく焼却するコルベール

53:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 17:51:39 sfokjlI9
スレが荒れてほしくないんで避難所でお願いします。

54:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 17:52:35 lG7x5s5a
姉妹スレの承太郎とか第二部(パラレル)終了後に第一部の後日談とかやってたな
ルイズが杜王町に行くやつ

普通にこのスレでやっていんじゃね? 長さは分割なり何なり調節できるだろうし

55:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 17:53:22 mP2OznW8
というか聞くまでもなく避難所なんじゃないかな
なんでかってのは感覚的なんで上手く説明できないけど、外伝のお祭り的なものならそっちの方が良いと思う

56:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 17:55:23 WXT2TXnp
個人的には本スレで良いとは思うけど、なんだか荒れそうな雰囲気だし、やっぱり避難所が無難かなぁ。

57:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 17:56:43 pdX7+m2M
>>34
個人的には

>具体的には、ハルケギニアではなくクロス先で展開する話

この部分が色々引っかかってくる可能性があると思うから、やるなら避難所が無難な気がする。





58:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 17:57:00 jUGTS52w
誰だか知らないけど一々スレ住人のお墨付きがあります、みたいな言質を取って投下しようという姿勢がうざい
それと自分の作品の特別編を200スレ記念に投下しようという考えにも傲慢が見える
お前の作品はスレを代表するものだとでも言うのか?

59:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 18:02:44 T0Lwcrqt
なるほど、ここでやるとこういうのが沸くわけか。

60:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 18:08:43 UttxW0c+
ふむ、やはり本スレは問題が多そうですね

では後日、200スレと関係なく避難所に第一話から投下しましょう
その後の対応はその後考える、対応も読者任せ、と言う事で

61:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 18:11:52 xvl6rPbT
>>60を見て、>>58に同意する事にした。

62:鷲と虚無 ◆I3um5htGcs
08/11/21 18:26:43 3/3NtLZJ
こんばんは。
他に人がいなければ投下したいのですが、いいですか?

63:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 18:29:01 fY0h0K45
私は一向に構わん!!!!

64:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 18:31:00 iuahaw3Q
支援

65:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 18:32:20 ruWxJq8z
支援

66:鷲と虚無 ◆I3um5htGcs
08/11/21 18:32:32 3/3NtLZJ
9話

ルイズは昨日早くに床についたせいだろうか、いつもより早く目が覚めた。
寝ぼけ眼をこすりながらむっくりと上半身を起こしたルイズは、一瞬なんで私の部屋に鎧や盾が置いてあるのかしらと疑問に思ったが、すぐに昨日の事を思い出した。
あの三人が召喚されて、紆余曲折の末なんとか使い魔に出来たのだ。そして部屋には誰もいない事に気付く。
三人がいったいどこに行ったのか疑問に思ったルイズは、まさか三人が逃げ出したのでは?と恐れたが、それは無い筈だとすぐに否定した。
ウォレヌスが言っていた通り逃げ出したって行く所なんて奴らには無いのだから。昨日が丸っきり夢でもない限り必ず戻ってくる。ルイズは自分にそう言い聞かせた。

(でもだとしたらどこにいるのかしら……主人の許可を得ずに勝手に出歩くなんてふざけてるわ)
そしてルイズは改めて三人をキチンと躾なければ、と考えた。だがそれは簡単にはいかないだろう。
彼らが自分に対して忠誠心などカケラも持ってないのは明らかだ。
それでも使い魔を完全に従順にさせるのはメイジの義務である。それだけは絶対に成し遂げなければならない。
主人の言う事を聞かない使い魔などあってはならないのだ。

そう思った時、ドアが開き、才人、ウォレヌス、プッロがゾロゾロと部屋に入ってきた。
ルイズは心の中でホッとした。彼らは逃げ出したわけでもないし、昨日の騒動が幻だったわけでもない。
彼らは自分が召喚に成功した証拠だ。そして召喚に成功したと言う事はもう自分は魔法が使えるようになったと言う事でもある。
私はもうゼロじゃない、ルイズはそれを強く実感し思わず笑みをこぼしそうになる。これからは級友達にあのふざけたあだ名で呼ばれる事も無いのだ。
幸せを心の中で噛み締めていたルイズに、才人が呆れたような声で話しかけた。

「なんだ、もう起きてるのかよ。なら俺が起こす必要なんて無かったじゃねえか」
ルイズは才人の言葉に、朝一番に主人にかける言葉がそれ?とムカッとなった。
そしてルイズは主人としての威厳を保たねば、と考えた。それにこいつらがどこに行ったのか聞かなければ、とも。
昨日自分が洗濯を頼んだのは完全に忘れている。

「あんたね、それが一日の初めにご主人様に会って言う言葉?おはようございます、ご機嫌はいかがですか、ご主人様って言う位の気は利かせなさいよ。だいたい一体どこに行ってたのよ、あんた達?主人を置いて勝手に出て行くなんて何考えてるの?」
才人は眉をひそめた。こいつ、何言ってるんだ、と言いたげな表情である。
「どこって、洗濯にだよ。お前がそうしろっつったんだろ。忘れたのか?」
「あっ、そう言えばそうだったわね……」
そこにウォレヌスが一つ付け加えた。
「そして私達は顔を洗うのと外の空気を吸うために彼についていった」

完全に忘れていたが、思い出した。確かに自分は昨日こいつに洗濯を命じたのだった。自分の言いつけを守ったのなら、さすがに非難する事は出来ないだろう。
使い魔には厳しく、だがあくまでも公平にと言うのがルイズが受けた教育だ。
だからルイズはならいいわ、でも次からは一人は部屋に残る様にしなさいと言おうとしたのだが、その前にプッロが口を開いた。

「おい、昨日も言ったがな、俺はお前を主人と認めた覚えはない。忘れるなよ、このティトゥス・プッロ腐っても小便臭いガキの奴隷になるつもりなんてない!」
プッロは腕を組み、ムスッとした表情で言い放った。

ルイズは即座に激昂し、彼女の色白な顔が紅に染まった。
自分は今までゼロだなんだと陰口を叩かれても一度も面と向かってガキだなんて呼ばれた事は無い。
ましてや小便臭いとは!そもそも小便などと言う下賎な言葉を自分の目の前で使われた事自体がルイズにとって初めてだ。
「ああああああんた、今なんて言ったの!?しょしょしょしょしょ、小便臭いガキですって!?」

だがルイズの剣幕をプッロは全く意に介さない。彼はルイズの薄いネグリジェに包まれた肢体をジロジロと見ながら、追い討ちをかけた。
「だってそうだろ?その体つきを見る限りじゃ精々十三くらいだろ。なら小便臭いガキだな」
そこに才人が追い討ちをかけた。
「ま、確かにその体つきでは甘めに見積もって14歳ってとこだな。お前、何歳なんだ?」


67:鷲と虚無 ◆I3um5htGcs
08/11/21 18:33:15 3/3NtLZJ
実際の年より若く見られるのは普通は良い事なのだろうが、だが今のルイズにとっては罵倒でしかなかった。
プッロが自分を取るに足らない小娘としか見ていないのは日を見るより明らかなのだ。
そして一番の問題はプッロの言った事が事実、だと言う事だ。
自分の貧相な体つきはいつも悩みの種であり、平たく言えばコンプレックスだった。
だから、私は豊かな体つきのちい姉様とお母様の血を継いでるのよと自分に言い聞かせていたのだが、よりによってルイズが一番気にしてる所をプッロは的確についてしまった。

「あ、あ、あのね、こう見えても私は16よ!こ、子供なんかじゃないの!」
ルイズは声を張り上げる。これで少しでもプッロが態度を改めればと思って。だが彼女の淡い期待はプッロの突然の哄笑に掻き消された。
「あっひゃっひゃっひゃっひゃ!じゅ、じゅ、十六ぅ?その体で?貴族の割には随分とひもじい生活をしてるんだな!ええ?そこらの奴隷でももうちょっとマシな体つきをしてるぞ!」
「うう、うるさいわね!これから成長するのよ!いいい、遺伝的に見てもこのままで止まる確率は低いの!」

ルイズはどもりながら必死になって言い返す。興奮した時の彼女の癖だ。
だがプッロにルイズを恐れる様子は全く無い。だがそれは当然と言えるだろう。
兜以外は全裸で戦い、死を少しも恐れずに野獣の様に突撃してくるガリア人のガエサタエと呼ばれる狂戦士と、顔を紅潮させてどもりながら怒鳴る娘ではどう考えても前者の方が遥かに恐ろしい。
プッロはその様な連中と何度も戦い、生き残ったのだ。

「へ~、遺伝ねえ……でもその年じゃもう成長する可能性は低いと思うがね」
プッロの言葉に才人はプッと噴きだし、ウォレヌスすら僅かに頬を歪ませた。

(ああもう、なんでこいつらはこうもうっとうしいのよ!)
この三人の中でも、このプッロは特に酷い。こいつだけは絶対に自分をご主人様と呼ばせてやる、とルイズは決意した。
そうしなければ気が治まらないし、何よりこのまま平民如きに貴族をバカにさせるなぞ道徳に反する事ですらある。
まずはこいつらに躾を与え、自分が主人である事を頭に叩きこまさなければならない。

それには実力行使が必要だ。こいつらにはいくら口で言っても無駄なのは明らかだった。
実力行使と言っても体格で言えば、自分は才人はともかくプッロやウォレヌスとは比べ物にもならない。
乗馬に使う鞭は棚の中に置いてあるが、その様な物をこの二人が少しでも恐れるわけが無いのはルイズにも理解できた。

だが体格差など魔法の前では何の意味もなさない。
これが昨日までなら話は違っただろうが、もう自分はゼロではないのだから魔法を扱えるのだ。
例え兵士だろうが平民は魔法の前では全くの無力。まずそれを解らせねばなるまい。

(さ~て、一体こいつをどうしてくれようかしら?いったい何時までそうやって余裕でいられるかしら?)
ルイズはどんな魔法を使ってやろうかと心の中でほくそえみながら、プッロを見つめた。

「ヴァリエール、一体これからどうするんだ?朝食に行くのか?」
ウォレヌスにルイズは余裕を見せて答えた。
「え?ああ、そうよ。今から食堂に行くの……でもその前に服を着せて」
「何だと?」
「だから服を着させて。早くしなさい」
そう言いながらルイズはニヤリと笑った。もちろん彼らがそんな要求を呑む筈が無いのは承知している。

プッロの顔から笑みが消え、同時に才人が抗議の声を上げた。
「うんなもん自分で着ればいいだろ!なんで俺達がそんな事しなきゃいけないんだ?」
ルイズはチッチッと自信に満ちた表情を見せながら指を振り、もう一度ルイズははっきりと言った。
「貴族はね、下僕がいれば自分で服を着たりしないの。だから着せて」


68:鷲と虚無 ◆I3um5htGcs
08/11/21 18:34:02 3/3NtLZJ
ウォレヌスは眼を見開き、口を真一文字に結んだ。不快になったのは明らかだ。
「下僕だと?笑わせるな!我々はあくまで雇用されただけの筈だ。服を着せてくれる奴隷が欲しいなら奴隷市にでも行け」
この反論はルイズには予想外だった。確かにこいつらとは使い魔として金を出して雇うという奇妙な契約を結んでいるのは事実だ。
だが、それでもコンタラクト・サーヴァントを通じて使い魔の契約を結んだのもまた事実。ルイズはその点を押し出した。

「例え雇用されたとしても、あんたたちが召喚の儀式を通して私の使い魔になった事に変わりは無いわ。その時点であんた達は私の下僕なの!解る?」
だがウォレヌスも勢いを落とさない。
「だが私たちはお前と給金を条件に使い魔になる事を呑んだ。その様な選択肢を与えられた時点で奴隷とは言えん!」

そしてウォレヌスに続いてプッロが面白そうにルイズに質問を浴びせた。
「それに俺達があくまで拒否したらどうする?どうやって服を着させるんだ?」

「いい質問ね!いいわ、平民が貴族に逆らうとどうなるか教えてあげる。魔法の力をたっぷりと味わいなさい」
ルイズは自信たっぷりにそう言うと、ベッドから降り、机の上の杖を取ろうと腕を伸ばした。
……だがルイズが杖を手にする前に、プッロがさっと杖を取ってしまった。

ルイズは傍から見たら滑稽な程に狼狽してしまった。プッロが先に杖を奪うなど考えもしなかったのだ。
杖が無ければメイジは全くの無力。力で言えば平民と何の違いもないのだ。
「ちょ、ちょっとあんた!すぐにそれを返しなさい!」
「うん?こいつの事か?」
プッロは杖を手でクルクルと玩びながら答えた。顔には意地悪そうな笑みが浮かんでいる。
返すつもりが全く無いのは誰にでも見て取れた。
「そいつは無理だな。あのジジイを見る限りじゃ、魔法を使うにはこの棒切れが必要なんだろ?なら渡す訳にはいかないな」

ルイズは杖を取り返そうとプッロに掴みかかろうとしたが、プッロはルイズをヒョイヒョイと避け続ける。
プッロに触れる事すら出来ないルイズをおかしく思ったのか、才人はククッと笑い始めた。
ウォレヌスはと言うと、わざわざ自分から魔法を使うと宣言するとはマヌケな奴だ、と呆れた顔で呟いた。

「しゅ、主人に暴言を吐くだけでなく杖まで奪うなんて……いったい何考えてるのよ、あんたは!これが最後の警告よ!すぐに杖を返して!」
ルイズは精一杯の凄みを入れて言ったつもりだったが、プッロは杖を返すどころか、何か面白い事を考え付いたかのように笑みを更に底意地の悪そうな物に変えた。
「う~ん、そうだな……返してやってもいいがその前に、俺達に対して魔法を使わないと誓った後に、お願いします返して下さい、って言ってみな。そうすりゃ返してやるよ」

ルイズは絶句してしまった。この野蛮人に杖を返してくれと頼むなど問題外だ。貴族の威厳も何もあったものじゃない、いやそれ以前に自分の誇りが許さない。
(魔法を使わないと誓う?お願いします?冗談じゃないわ!)
だが自分に杖を取り返す術が無いのも事実だ。ルイズは自分の無力さに心中で悪態をついた。
結局、杖が無ければメイジはただの人間なのだ。
ルイズはなんとか杖を取り返せる方法は無いかと考えた……一つあった。魔法とは全く関係無いが非常に効果的な方法を。
これならプッロも杖を返さざるを得ないだろう。

そしてルイズは勝ち誇ったようにプッロに向けて宣言した。
「あんたバカじゃない?使い魔に哀願するメイジが一体どこにいるっていうのよ。あんたら全員今日から飯抜き。主人をコケにした挙句に杖を奪った罰よ。ま、杖を今すぐ返すんなら許してやってもいいけど?」

この宣言にルイズの期待通り、才人は不安な顔になったが、プッロとウォレヌスはそうはならなかった。
ウォレヌスはだからどうしたといわんばかりの表情をし、プッロにいたってはプッと笑い出した。

「おいおい、そんな事に意味があると思ってるのか?」
「ど、どう言う意味よ」
ルイズはうろたえた。予定ではこいつはもうしどろもどろになって許しを請うてる筈なのに。
(なんで?なんでこいつは平気にしてるの?)

69:鷲と虚無 ◆I3um5htGcs
08/11/21 18:34:42 3/3NtLZJ
プッロは哀れむようにルイズに言った。
「お前なんぞに頼らなくてもお前と学院がくれる給金で飯を買えばすむと言う事だ」
この言葉に才人は感心したように声を上げた。
「そ、そうか!それをすっかり忘れてた」

これは完全に考えの外だったが、考えてみれば当たり前の事だ。
学院長が少なくとも普通に生活するには不自由しないだけの金を出すと合意したのだから。
使い魔として雇用されてるんだから当然給金は出さなければならない。それに学院側からも何か仕事を提供すると学院長は言っていたんだからそっちからも収入はあるだろう。
プッロ達からすればその金で食料を購入すれば良いだけの話なのだ。

あんな事に賛成するんじゃなかった、とルイズは後悔した。
だがそれでもルイズは諦めなかった。彼らはまだ金を1ドニエも持っていないのだ。まだ一縷の望みはある、とルイズは考えた。
「で、でも、今日はどうするの?あんた達はまだお金なんて全然ない筈よ!だから最初の給料が手に入るまであんたらは食事抜き!」

だがこれも大してこたえなかったようで、プッロは落ち着いてルイズに返答した。
「別に構わんさ。食い物を手に入れる方法なんざ他にもあるからね」
才人にとってもこれは予期せぬ答えだったようだ。
「あ、あるんですか?そんな方法が?」
「まあな。ま、それをこいつの目の前で教える訳にはいかないがな」

食べ物を手に入れる方法。それが何なのかルイズは考えてみた。
まずサイトはともかくプッロとウォレヌスは相当の場数を踏んだ兵士に見える。ならば近くの森から何かを取って来て食べる位ならやりかねない。
そして特にプッロなら、厨房に忍び込んで何かを失敬する位なら平気でやりそうだ。もしそんな事になって、それが発覚すればそれは自分の責任になる。
使い魔の不始末は主人の不始末になるのだ。厨房からパンを盗んで捕まった使い魔を持つメイジなんて聞いた事もない。
そんな事になれば果たして学院から、いや両親からなんと言われるか……
「おい、どうした?俺たちに着替えさせるんじゃなかったか?杖はもういいのか?」
何も言わないルイズを見て、プッロが実に楽しそうに声をかけた。

ルイズは必死で何とかしてこいつに自発的に杖を返させる方法は無いかと考えたが、何も思い浮かばない。
そして杖を持たずに授業に出るのはリスクが高すぎる。もし何かを実演しろと言われたら言い訳のしようが無いからだ。
正直に使い魔に奪われましたと答えるのは論外だし、無くしたと嘘をついても叱責されるのは目に見えてる。
もうどうしようも無い、そう判断したルイズは断腸の思いでプッロに杖を返してくれるように頼んだ。

「プッロ、杖を返して……お願い。あんた達に魔法は使わないと約束するから」
「そう、そうやって素直に頼めばいいんだ」
そう言ってプッロはニヤッと笑い、杖をルイズに放り投げた。
だが彼は最後にもう一撃加える事を忘れなかった。
「ところで、着替えの方は手伝わなくていいのか?お嬢ちゃん?」

「うるさいわね!気が変わったのよ!気が!服は自分で着替えるわ!」
(一々傷口に塩を塗るんじゃない!もうゼロじゃなくなったって言うのに、一体どうしてよりによってこんな連中が使い魔なのよ!)
ルイズはそう思いながら、恥辱にまみれた気分で制服を身に着けた。

怒りと屈辱に顔をゆがめさせながらルイズはもう一度、こいつらを絶対に、絶対に服従させてやると誓った。
(ヴァリエール家の名にかけて、こいつらに絶対に私が主人だって認めさせてやるわ!絶対に!)

70:鷲と虚無 ◆I3um5htGcs
08/11/21 18:35:14 3/3NtLZJ
四人は部屋を出た。廊下には似たようなドアが幾つか並んでいる。
プッロは上機嫌だった。何せあの生意気なクソガキをへこませる事が出来たのだから。
そして彼は目の前のドアから出てきた女を見て更に上機嫌になった。

その女は褐色の肌と彫りの深い顔を持っており、燃えるような赤毛と突き出た胸がひと際目を引いた。
(こりゃかなりの上玉だ……!このガキとは大違いだなぁ)
年は恐らく二十歳にも達していないだろう。だから女と言うよりは娘と呼んだ方がいいかもしれない。
だが色気と言う点ではルイズとは比べ物にならない。まさにプッロの好みと言える女だった。

そしてその娘が、ルイズに向けて口を開いた。
「あら、おはようルイズ。結局サモン・サーヴァントはどうなったん―」
そこまで言ってから彼女は呆けたように口を開けた。
「あらら、男を三人も部屋に連れ込むなんて……使い魔召喚に失敗したからって随分とヤケになってるのね、ルイズ。意外な一面だわ」

ルイズのさっきまで紅くなっていた頬が再び真っ赤になった。
「いったいなんでそう言う発想になるのよツェルプストー!こいつらは私達の使い魔!」
「軽い冗談よ、本気にしないで……ってちょっと待って。使い魔?彼らが」
そう言って、彼女はプッロ達をマジマジと見つめた。その顔を見るにどうも半信半疑のようだ。
シエスタ達もこのことに仰天していた事を思い出し、人間が使い魔とやらになるのは本当に珍しい事みたいだな、とプッロは思った。

ツェルプストーと呼ばれた娘は手を腰に当て、三人を覗き込んだ。
「ねえ、あなた達。本当に彼女に召喚されて、契約しちゃったの?使い魔のフリをしろって言われたとかじゃなく?」
「ああ、本当にそうだ」
そう才人は答え、プッロはそれに不本意ながらね、と付け加えた。

「私がそんな情けない事するわけないでしょ。嘘だと思うならミスタ・コルベールや学院長に聞いて見なさい」
「あっはっはっはっは!サモン・サーヴァントで人間、しかも三人召喚しちゃうなんて完全に予想外だわ!さすがゼロのルイズね」
「うるさいわね、召喚も契約も成功したんだからその名前はもう無効よ。しかも召喚した数で言えばあんたを三倍も上回ってるのよ!」
ルイズはムキになって悔しそうな声で言い返す。
(こいつら、仲が悪いみたいだな)
プッロは彼女たちのやり取りを見てそう思った。そしてどうやら口げんかでは褐色の娘の方が一枚上手のようだ。

「ま、数では勝ってるかも知れないけどやっぱり使い魔ならもっとちゃんとしたのが良いわよね。フレイム~」
彼女が勝ち誇ったような声でそう言うと、彼女の部屋からのっそりと真っ赤な色をした大きなトカゲの様な生き物が現れた。
驚く事に尻尾には炎が燃え盛っている。

「うわっ!真っ赤な何か!」
このトカゲを見た才人はそう叫んで慌てて後ずさり、プッロとウォレヌスは身構えた。
もっとも、プッロもウォレヌスもこのフレイムが危険だと思考したわけではない。単に戦場での長年の経験のおかげで、未知の物体に反射的に反応してしまったのだ。

「あら、あなた達、サラマンダーを見るのは初めて?私が命令しない限り誰かを襲うなんて事は無いから安心しなさい」
ツェルプストーの言葉に三人は警戒を解き、プッロはこのトカゲをじっと見つめてみた。形はトカゲに似ているが、大きさは桁違いだ。
そして尻尾に炎を灯しているトカゲなど見た事も聞いた事もない。

だがこんな場所ならこれ位の動物ならいてもおかしくないだろうと思い、この事はあまり気にならなかった。
代わりにプッロが気になったのは果たしてこのトカゲが食べられるのかどうか、だ。
基本的に、彼にとって動物と言うのは食べる為に存在しているのだ。

71:鷲と虚無 ◆I3um5htGcs
08/11/21 18:35:46 3/3NtLZJ
(あまりうまそうには見えねえな)
もともとトカゲなんてよほど食料が不足している時位にしか食べた事がないし、特にうまいとも思えなかった。
この火トカゲも例外ではないだろう。だが、こいつの尻尾は既に燃えてるんだから料理する必要がないから楽だなとプッロは思った。

「ほら、この逞しい体つきと尻尾の炎を見なさい。間違いなくこれは火竜山脈のサラマンダーよ。好事家に見せたら値段なんかつかないわよ、きっと」
ツェルプストーが自慢げにその大きな胸を張った。
「あっそ。そりゃ良かったわね」
「ま、そう気を落とさない事ね。ゼロのルイズ。ただの平民三人でもきっと何かの役に立つかもしれないじゃない……もしかしたらね」
彼女は含み笑いをしながらそう言った。ルイズをバカにしているのは明確だ。
それ自体は大いに結構な事だが、「平民三人」と言う言葉がどう考えても肯定的に使われていないのがプッロは少し気に障った。

「そう言えばあなた達、お名前は?」
だがそれでも自分たちにはある程度の興味を持ってるらしい。
恐らくは珍しいものを見た、程度の関心だろうが。

「平賀才人」
「ティトゥス・プッロだ」
「……ルキウス・ウォレヌス」
「あら、そろいもそろって変な名前ねえ」
「そりゃ悪かったな。それにこっちからすりゃそっちも変な名前だらけだし」

才人がブスッっと答える。プッロも彼に同意した。
ヴァリエールだのツェルプストーだの全く耳慣れない名前なう上に、発音しにくいといったらありゃしない。
それにどう見ても自分より十歳以上下の娘にそんな事を言われるのも癪だ。

「おいお嬢ちゃん、他人の名前を聞くなら自分も言うのが礼儀って奴じゃないかね?」
「あら、ごめんなさいね。確かにその通りだわ」
ツェルプストーと呼ばれた娘は特に気分を害した様子は無かった。
だがなぜかルイズの方が難色を示した。

「平民が貴族に対してそんな口を聞くんじゃないの!なに考えてるのよ、全く!」
「キャンキャンとうるさいな、お前は。俺はこっちのお嬢ちゃんに話してるんだよ」
鬱陶しがるように言ったプッロに、ルイズは既に興奮で赤く染まった頬を更に真っ赤にさせて叫んだ。

「あ、あんたはまた主人に対してそんな口を……よりにもよってこいつの前で……!」
「私は別に構わないわ。でもルイズ、使い魔に言う事を聞かせられないのは情けないわね。もうちょっと躾をなんとかした方がいいわよ?」
ツェルプストーはクスクスと笑いながら言った。プッロが見るに、この娘はルイズをからかう事を大きな楽しみにしているらしい。
彼女の言葉にルイズは唇を噛んで睨みつけること以外は何も出来なかった。

「そうそう、ティトゥス。私はキュルケ。キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。二つ名は“微熱”よ。じゃあ授業で会いましょう、ゼロのルイズと使い魔さん達」
ツェルプストー、いやキュルケは最後にそう言うと、ウィンクをし、フレイムを連れて颯爽と去っていった。

去っていくキュルケを見ながら、プッロは何かが引っかかっていた。彼女の名前だ。
(キュルケ、キュルケ……あっ、思い出した!)
キュルケと言うのは記憶が正しければ、ウリュッセウスをたぶらかそうとした魔女の名前の筈だ。
むろん、本その物を読んだ事は無いがプッロもウリュッセウスの冒険については知っている。
(でもまさか関係がある訳は無いだろうな……ただの偶然か)


72:鷲と虚無 ◆I3um5htGcs
08/11/21 18:36:18 3/3NtLZJ
「あ~もう、全くイライラさせるわね、あの女!使い魔にまで色目を使って!」
ルイズが地団太を踏みながら言った。
「一体誰なんだよあいつ。クラスメートかなんかか?」
「残念ながらね!ゲルマニアから留学してきた色情魔よ!」

ルイズの可愛らしい唇から飛び出してきた、思っても見ない言葉にプッロは仰天してしまった。
(ゲルマニアだと!?)
ゲルマニア。勇猛さそして野蛮さでは他に並ぶ物の無い、ゲルマニア諸部族が住む地。
プッロはガリア戦争の最中、カエサルがゲルマニアに牽制的な遠征を行った際にこの地に一度だけ足を踏み入れた事がある。
ある程度「文明化」されたガリアとは違い、そこは完全な未開地としか言いようが無く、こんな場所で暮らすんならそりゃ強くはなるだろうな、と思った物だ。
正直に言えば、あそこにはもう二度と戻りたくない。
(それが一体なんでこのガキの口から出た?ここはゲルマニアと何千マイルも離れている筈だぞ)

「おい……お前今ゲルマニアって言ったのか?」
「そうだけど?」
ルイズの言葉を確認したプッロはこの事について彼女を詰問しようとしたが、その前にウォレヌスが彼の肩を掴んだ。

「一体何を……」
ウォレヌスは答える代わりにプッロに耳打ちした。
「今は黙っていろ。この事については後で調べる」
この事はかなり気になるが、隊長がそう言うのなら仕方ない。

「なに?一体なんなのよ?気になるわね」
「こっちの話だ……ところでゼロのルイズとは何の事だ?」

ウォレヌスは話を逸らすためか、ルイズにあだ名の事について聞いた。
プッロもその事については少し疑問に思っていた。ゼロとは一度も聞いた事が無い言葉だからだ。

「ただのあだ名よ。それにもうその名前はもう私には意味が無いからあんたには無関係」
ルイズはきっぱりと言い切った。彼女の反応を見てプッロにはどうも彼女がその事について話したがっていないように見えた。
(どうやらあまり良い意味じゃないみたいだな、ゼロって言葉は)

食堂に向けて歩き出した四人だったが、先ほどの騒動で、ルイズはかなり苛立っているようだ。
その表情は重い。彼女の険悪な雰囲気を見てとったプッロは、少しやりすぎたかなと思った。
いくら生意気で傲慢だろうと、結局はただの娘。
無論、ちらを足蹴にするなら容赦する気は全くないにしても、あまりからかいすぎるのも大人気ない。

そう思った時、ルイズが足を止めた。
「……忘れてたけど、あんた達は食堂に入れないわ」
才人はルイズに即座に抗議した。
「え~っ、なんでだよ!今更食事抜きとか言い出すのか!?」

このガキ、何を考えてんだ?とプッロは思った。食事を抜こうが意味は無いとさっき言ったばかりなのに。
「おいおい、俺はもう背中と腹がくっ付きそうなんだぞ?それに言っただろ?お前が食事抜きにしょうが関係無いって」
はーっ、とため息をついてルイズは答えた。
「違うわよ。貴族と平民が混じって食事するのが駄目だって事。次からは“何とか”するけど、今日の所は無理ね」

73:鷲と虚無 ◆I3um5htGcs
08/11/21 18:37:04 3/3NtLZJ
(チッ、面倒くせえな)
プッロは元々の性格と、ローマでは法で平民と貴族が同じ権利を保障されている事もあってあまり階級の差と言う物に気を払わない。
「偉い人」にはそれなりの敬意を払った方がいいと言う事位は理解しているし、貴族が平民よりも格式では上と言う事もなんとなくは解るが、貴族と言うだけで心の底から恐れたり敬う様な事は無い。
ましてや貴族とは言えど蛮人の子供でしかない。

だがウォレヌスはさほど気にしていないようだ。
「こっちは構わん。食堂にはお前と同じ位の子供で沢山なんだろう?こちらだけで食べる方が楽だ。だが一体どうすればいい?」
(ま、確かにこいつの様なガキどもがウジャウジャしてる場所で食うってのも疲れるな)
そう考えてプッロは納得した。

「そうね……仕方ないから厨房にでも行って何か貰ってきなさい。私の名前を出せば余り物くらいにはありつけるだろうから」
「なら最初からそっちに行かせりゃ良かっただろ」
「うるっさいわね、今思い出したんだから仕方ないでしょ。とにかく食べ終わったら二年生の教室に集まって。道が解らなければ誰かに聞きなさい」

だが才人は疑問を洩らした。
「そもそも教室に行って俺たちは何をするんだよ。お前と一緒に勉強するわけじゃないんだろ?」
そりゃそうだ、とプッロは内心で笑った。自分が勉強をするなんて冗談でしかない。
だとすれば一体なぜ教室に行かなければならないのだろう。

「当たり前でしょそんな事。教室で座ってるだけでいいのよ」
ルイズの答えに才人は更に疑問を重ねた。
「そんな事してなんになるんだよ?俺達がいる意味はあんのか?」
もっともな疑問ではある。勉強をするわけでもないのにわざわざ教室に座る理由は無いだろう。
そしてルイズもどうやらその答えを知らないようだ。

「いちいち口答えしない!他の使い魔は全部そうするのよ……それに座ってるだけでいいなんて、そんなに楽な仕事なんて他にないでしょう?」
「ま、そりゃそうだけどさ……」
確かに座るだけならこれほど簡単な仕事はないだろう。そう考えれば使い魔とやらの役目も大した事は無いのかもしれないな、とプッロは思った。
「とにかく朝食の後は二年生の教室に行けばいいんだな?じゃあさっさと行かせて貰うぞ」
そう言ってウォレヌスはルイズに背を向け歩き出した。

三人ともあの場所からの厨房への道を知らなかったのだが、幸いにも途中出合った奉公人の一人に道を聞く事が出来た。
そして彼らは厨房へと歩いていたのだが、才人はある事が気になっていた。
さっきルイズが「ゲルマニア」と言った時プッロとウォレヌスは明らかに奇妙な反応をした事だ。
才人は直接聞いた方が早いだろうと思い、プッロに話しかけた。
ウォレヌスでも良かったのだが、彼には近づきがたい雰囲気がある。少なくともプッロの方が話しかけやすい。

「あの、さっきあいつがゲルマニア、って言った時に何か言いたそうでしけど、どうかしたんですか?」
「ああ、あれか。ローマの北にそんな名前の場所があるんでな。それがあいつの口から出たんで驚いたんだよ」

どう言う意味だよそれ、と才人はいぶかしんだ。
「場所って、町の名前か何かですか?」
「いや、国、と言うか地域の名前だな。完全に未開の地でなあ、たくさんの部族が住んでるんだが、連中は人間と言うよりは動物に近い。酷い場所さ」

74:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 18:37:39 iuahaw3Q
支援

75:鷲と虚無 ◆I3um5htGcs
08/11/21 18:37:50 3/3NtLZJ
そう言えば世界史の授業でそんな事を聞いた事があったかもしれない、と才人は思った。
(確か、ゲルマン民族の大移動がどうのって話だったなかな……でも内容は全然思いだせねえな)
学校での成績は平均でも、才人は歴史と言う物に対して興味が殆ど無い。
彼には歴史を習うと言うのが、単に年号の暗記をするだけの作業にしか思えなかったのだ。その為、テストが終わった後は覚えていた事は全部忘れてしまうのが普通になっていた。
今更考えてもどうにもならない事は承知していても、才人は今になってもっとまじめに勉強しとくんだったと後悔した。そうしていればこの人達についてももっと解ったかもしれない。

それでもなぜウォレヌスがプッロを止めたのかが解らない。
「あの、なんでウォレヌスさんはプッロさんを止めたんですか?」
プッロもこれを不思議に思っていたようで、才人に合わせた。
「ええ、教えてくださいよ。あいつがゲルマニアの事を知ってるはずなんて無いのに、気にならなかったんですか?」

ウォレヌスは事も無げに答えた。
「正直に言えばさっさと朝食を食べたかったんでな、それに明らかに機嫌が悪くなったあの小娘と話したくなかった……そもそもあのキュルケとか言う女がやってきたゲルマニアは我々が知っているゲルマニアとは多分関係がない」
「へぇ、なんでそんな事が解るんです?」
「肌の色からして違うだろう、あの女は。あれじゃゲルマニア人どころかシュリア人だ」

実際にゲルマニア人を見たプッロはこの言葉で納得した様子だったが、才人は疑問を捨て切れなかった。
偶然全く同じ名前の国が存在するなんて事があるのだろうか?しかも地球とは何の関係も無いだろう異世界に。
「でもウォレヌスさん、偶然全く同じ地名になるなんて有り得るんでしょうか?はっきり言って都合が良すぎると思うんですけど……」

ウォレヌスは顎に手を当てた。才人が言った事を考えているのだろう。
「……確かに不自然な感じがするのは否めんな。出来ればこの国の地図を見たい所だ。そうすれば地理も含めて色々と確認出来るんだが」
「そんな事するよりもあの女に直接話しを聞いた方が早いと思うんですがねえ」
そう言ったプッロをウォレヌスがジロリと睨んだ。
「ふん、もっともらしい言い訳だな。だがあの女と寝たいだけなんだろう?」
図星を疲れたのか、プッロはえっへっへっへっへ、と笑って何も言わなかった。

才人にはプッロの言いたい事はよく解った。
あのキュルケと言う女の子はとても魅力的だった。ルイズもとても可愛い(少なくとも顔は)が、色気という点では及ぶべくもない。
だが女性経験など全くない才人は、二人のストレートな発言に少し恥ずかしくなったしまった。
キスですら昨日、ルイズと契約した時にしたのが始めてだったのだから。だから才人は急いで話題を変えた。

「それにしてもかっこよかったですよ、プッロさん」
「あぁ?何の話だ?」
「ほら、あいつを言い負かしたことですよ!」

実際プッロに言い負かされ渋々自分で着替えたルイズを見てスカッとしたのは事実だ。
それを見た才人は二人に感謝したかったが、同時に少しばかり恥を感じている。
飯抜きと言われた時、自分はあっさりとルイズの要求に屈しようとしたのと比べて、この二人はいとも容易くそれを撤回させたのだ。

プッロは肩をすくめた。特に考えているわけではないようだ。
「ああ、あれか。気にするな。こっちもあのガキの吠え面が見られて楽しめたし。ま、少しやりすぎたかもしれんがな」
才人も同感だった。ルイズの自信満々の表情が次第に歪んで行ったのは、悪趣味だが確かに面白いと言わざるをえない。
だがルイズは明らかに狼狽し、困惑していた。生意気な奴だとは言え、あんな事を何回も繰り返すのは嫌だ。


76:鷲と虚無 ◆I3um5htGcs
08/11/21 18:39:06 2V5TMeLe
(なんとかあいつにもうちょっと俺たちをマシに扱う様にさせるのは無理なのかな?)
だがそれはルイズの性格を見る限り難しそうだ。と言ってもまだここに来てから1日だ。時間はたっぷりある……
(ってちょっと待て。なんでここに長く暮らす事が前提になってるんだよ、おれ)
こんな所からは一刻も早く帰りたい筈なのに。この思念を晴らす為にも才人はもう一つ気になった事を聞く事にした。

「食料を手に入れる方法なんていくらでもある」と言うプッロの言葉だ。
この発言でルイズはへこまされたのは確かだが、才人にはその方法が解らない。
「ところで、さっきあいつに食べ物なんていくらでも手に入るって言ってましたよね?いったいどうやって手に入れるんです?」

プッロは肩をすくめた。なんだそんな事か、と言わんばかりに。
「うん?そりゃ考えればすぐに幾つか思いつくだろ。シエスタ辺りに厨房から何か持ってきてくれる様に頼むとか、厨房の連中を少し手伝ってお礼として貰うとか、それが駄目ならそうだな、盗めばいいんだよ」
「ぬ、盗む?」
「ああ。夜中に厨房とかにこっそりと入って残り物を幾つか失敬するだけさ。誰の迷惑にもならないだろ?」

最初の二つはともかく、プッロがあまりにもあっさりと窃盗を口にしたのに才人は驚いてしまった。
ウォレヌスもこれには難色を示したようだ。
「我々はケチな泥棒じゃない。そんな事が出来るか」
「可能性の一つとして挙げただけですよ。それはそれとしてもいよいよとなれば近くの森に入って、何か食えそうな物を探すって手もあるな」
「それじゃ時間がかかりすぎる上に長くは持たん。まあどちらにせよ、食料を手に入れるのにあの小娘だけに頼るなんて事はない」

才人は感嘆してしまった。
ご飯なんて待っていれば自動的に母親が作ってくれるし、ちょっと金があればインスタント食品でもなんでも買える。
そんな認識の自分と比べて、この二人は自分よりずっと生活力がある。これは単に彼らが大人だから、兵隊だからとかじゃない。
かれらは何か自分とは根本から違う部分がある。才人はそう直感した。だがはたしてそれを恥じるべきかどうなのか、才人には判断が出来なかった。
-----------------------------------------------------------------------------------
以上です。次回の終わりか、次々回に決闘が起こる予定です。
毎回書いている事ですが、遅れてしまって申し訳ありません。
展開がとにかくスローですが、前回いただいたコメントの通りこのままのペースでやろうと思います。
ただ次回はもうあらかた書き終わってるので、長くかかっても一週間ちょっとで終わる筈です。


77:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 18:45:00 WXT2TXnp
鷲の人、乙。
展開が遅いうんぬんは、そんなに気にする必要も無いと思いますよ。

78:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 18:48:50 rOx55PsY
投下乙です
二人に影響されてか才人がハルケギニアや契約について深く考えてるのが面白いなと思った
(偶然全く同じ地名になるなんて有り得るのか、なんでここに長く暮らす事が前提になってるんだとかね)


79:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 18:55:42 pYvc78pN
鷲の人、お疲れ様

ローマ人から見たハルケギニアかぁ、世界史を久々に思い出すな

年号と単語ばっかでぜんっぜん面白くなかったのはホントだw

80:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 19:28:33 pIhNpQrR
乙でした
昨今の一般学生の世界史認識はこんなもんか…

81:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 19:39:38 HZWbPE1A
「血肉を持つ者、光の下に生きし者、呪うなるかな生なる力を、捧げるなり虚無の闇へ……」

 闇に沈んだ部屋に声が響く。
 静かな夜であった。月は雲に遮られ、月光は地上に届いていない。吹く風は生温く、過分に水分を含んでいる。
 森の獣は息を潜め、草原からは虫の音が微かに響いてくる。時折、強い風が吹くが、月を覆い隠す厚い雲を吹き飛ばすには至らない。
 殆どの部屋の明かりは消え、学院内は静まり返っている。しかし、全くの静寂というわけではなく、ぽつぽつと明かりが漏れている部屋も存在していた。
 そして、ルイズの部屋も、その少数派の中の一つであった。
 閉ざされたカーテンから僅かに漏れ出でるのは、柔らかい橙の光。その光源は、窓際に置かれている勉強机の上に存在していた。
 頼りないランプの明かりが勉強机を闇に浮かび上がらせている。
 その机に陣取っているのは、ジュディであった。
 机上には、魔道書とノートが広げらている。

「何なの、この術? 『スポイル』っていう術みたいだけど、すごく嫌な感じがする」

 解読してた『常闇の魔道板』から顔を挙げ、ジュディは眉根を顰める。
 そして、魔道板を机の上に置くと、膝を抱きかかえるようにして椅子の背にもたれた。その体勢のまま前後に体を揺すり、椅子を軋ませながら考え込む。
 ジュディは、オスマンから魔道板を受け取って以来、少しづつ読み解いていっていた。
 魔道板を読み解く基本は、心で捉える事だ。それが基本であり、極意でもある。
 もちろん、記されている魔道文字は、文字としての機能も持ち合わせている。だが、魔道文字とはそれ自体が魔道の産物であり、記し手の移し身だ。
 魔道板を読み解くという行為は、記し手を知るという事であり。そして、記し手を知るという事は、自らの気の流れを変える事に繋がる。
 そうする事によって、初めて術を習得する事が出来るのだ。

「オジイチャンから貰った魔道板にも、同じような術がのってたっけ? あれと同じような術かなぁ?
 五行の術じゃないみたいだけど……」

 術を使うのには、気の流れを制御するための発動体が必要になる。
 例えば、火行術を使うのには、火行の気を操る杖や腕輪が必要であり、火行の発動体では他の術を行使する事は出来ない。
 基本的に発動体は、獣石と呼ばれる石で造られている。獣石そのもので造られている物から、獣石を埋め込まれている物まで幅広く、形に決まりはない。
 一般的な形は杖や腕輪であるが、それ以外の形状が珍しいというわけでもない。
 だが、マイノリティなのは否めないだろう。誰だって、わざわざ使いにくい物を選んだりはしない。

「でも、どうやって使うんだろう?」

 ジュディは小首を傾げて考え込む。
 いかに異質な術であろうと、その気の流れ制御する発動体がなければ術を使う事は出来ない。そして、そんなモノが存在するなど、ジュディは聞いた事がなかった。
 しかし、ジュディは自分たちが使う『術』とは違う『魔法』が存在する事を知っている。だが、この術は異質な気を有してはいるものの、ハルケギニアの『魔法』ではない。
 そして、この魔道板には異質な術だけではなく、五行の術も記されていた。それは、ハルケギニアの魔法使いが記した物ではない事を示している。
 それを読み解く過程で、ジュディは祖父から渡された魔道板からも、同質の気が感じられる事に気が付いた。
 それは微かなモノであったが、件の魔道板や例のガントレットから感じられたモノと同じであった。
 異邦の地で見つけた物と、祖父から与えられた魔道板。それらから同じ気を感じることが出来るのは、それらがハルケギニアの外からもたらされたという事実を示唆していた。

「オスマンさんが言ってた怪物って、もしかしたらこの魔道板に引き寄せられたのかなぁ?」

 ふと思いつき、呟く。陰陽の気が入り混じり、五行の範疇におさまらない術が記されたこの不気味な魔道板なら、あり得るように思えた。
 改めて魔道板を手に取ると、再び解読を始める。
 刻まれた文字をなぞりながら、ジュディの胸中には、言いようのない不安が渦を巻いていた。

『これはいったい何? 私の知らない秘密が魔道の世界には隠されているみたい』

 心の内にあるのは、謎を解き明かし先へ進もうとする欲求と、踏み止まろうとする理性。そして何よりも、未知への恐れが存在していた。
 まだ未熟なジュディであるが、魔道士としての心得は、祖父から、そして母から教えられている。
 未知を探究し、世界の理を紐解く。それが魔道士の在り方だ。


82:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 19:40:17 HZWbPE1A
 しかし、人が全てを知り尽くす事など、到底出来はしないという事も同時に教えられていた。故に、魔道士はどこかで線引きをして、踏み止まることも必要なのだと。
 ジュディは悩む。魔道の世界には、五行法則の範疇を超えた何かが存在していると、気が付いてしまった。
 気付いたからには、知りたいと思ってしまうのが人のサガだろう。その欲望を抑えるには、ジュディはまだ幼く経験も足らなかった。

「ジュディ? まだ起きてるの?」

 後ろからジュディを呼ぶ声が聞こえる。ルイズの声だ。
 ルイズは、ベッドから上体を起こしている。
 ランプの明かりは、そこまで十分に届いてはおらず、どんな表情をしているかは分からない。かろうじて、体の輪郭が分かる程度だ。

「早く寝ないと、起きられないわよ?」
「はーい。ごめんなさい」

 言い含めるような口調のルイズに、ジュディは素直に従う。
 手に持っていた魔道板を魔道書を重ねてノートの上に置くと、羽織っていたカーディガンを脱ぎ、椅子の背もたれに引っかける。
 そして、椅子を机に押し込むと、ランプの明かりを消した。
 完全な闇が訪れる。

「毎晩、頑張ってるみたいだけど、程々にしなきゃ体を壊すわよ?」
「うん。おやすみなさい」
「ええ、お休みなさい」

 暫くの間、闇に沈んだ部屋には2人の話し声が聞こえていたが、やがて規則正しい寝息が1つ、2つと生まれ、闇は静寂が包まれた。
 いつの間にか厚い雲は晴れ、2つの月が弱々しい光で地上を照らす。それは、静かな夜であった。




            未来の大魔女候補2人 ~Judy & Louise~

              第10話 『王女と髭と魔女2人』




 朝露に濡れた森の中に、粗末な小屋が存在していた。その小屋は、人の手で造られた物ではなく、ただ丸太を積み重ねただけの物であった。
 地面には、柔らかい藁が敷かれ、その端の方には、水の張られた飼い葉桶が置かれている。そして、その小屋には、巨体を持つ何かが横たわっていた。
 幾重にも木の枝を重ねて拵えられた天蓋の隙間から、眩しい朝日が降り注ぐ。
 朝日は、巨大な何かにも平等に降り注ぎ、その姿を照らしている。
 朝日に照らされるその姿は、蒼穹の鱗を持ち、鋭い牙と爪を持つ巨大な竜であった。巨大とはいっても、同族からしてみれば小柄なほうであり、まだ幼生であった。
 その竜が、体に鼻先を埋め、丸くなって寝ているのだった。
 薄っすらと朝靄がかかる森に、朝が来たと告げるように小鳥たちが囀る声が聞こえてくる。
 竜の寝ている小屋の上にも、小鳥はとまり、囀っている。それに反応するかのように、竜はその巨体を身じろぎをし、痙攣するかのように目蓋が震えた。

「ふぁああぁーああぁ……」

 竜は大口を開けて欠伸をする。開かれた口は、子供ならば丸呑み出来てしまう程に大きく、鋭く尖った牙が生え揃っていた。
 竜は欠伸をしたままの恰好で動きを止める。五体を投げ出し、大きく口を広げるその格好はだらしがない。
 そのままの体勢で少し待っていると、小屋の屋根にとまっていた小鳥たちが近寄って来た。
 小鳥たちは鋭い牙の上にとまり、歯の隙間に挟まった食べかすをついばみ始めた。
 小鳥たちは竜の餌になるという恐怖は感じておらず、竜もまた小鳥たちを餌とはみなしていない。
 それは、お互いの利益がかみ合っているからだ。竜は歯の掃除をして貰い、小鳥は餌にありつける。見事な共生関係であった。
 やがて歯の掃除が終わると、小鳥たちは飛び去って行く。
 それを見送ると、竜は再び大きな欠伸をした。次いで、大きく伸びをして凝り固まった体を解きほぐす。
 竜は飼い葉桶の水を一口飲んでから、小屋から顔を出した。陽光が直接降り注ぎ、目を細める。

「太陽さん、おはようなのね……」

 竜はのんびりとした口調で、太陽を見詰めながらそう呟いた。

83:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 19:40:52 HZWbPE1A
 通常、竜が喋ることはない。
 人外の者が喋れる様になるには、メイジの使い魔になる事がまず初めに挙げられる。
 この森が、トリステイン魔法学院の隣にある事を鑑みれば、竜は使い魔なのかもしれない。
 だが、使い魔の契約で喋れる様に成れるのは、犬や猫に代表される長い間人の傍にいた種族だけである。
 竜などという、人の身近にいなかった種族が使い魔になって喋れる様になる可能性など、微塵もない。
 だが、人語を操るという竜が存在しなかったわけではない。
 とうの昔に絶滅したと言われる韻竜は、人語を自在に操り、人と意思の疎通が可能だったという。
 以上の事から、この竜は韻竜であり、それは間違いではない。
 これで、韻竜は絶滅したという通説は覆されたわけである。しかし、その数が少ないのは事実であり、彼女も同族を見た事は、親を除いてはない。
 彼女、つまりこの竜の事だが、の名前はシルフィード。
 シルフィードとは、風の妖精の名前であり、彼女の本当の名前は別にある。だがしかし、彼女はこの名前を気に入っていた。
 何故ならば、それは大好きなご主人様に付けてもらったものだからだ。
 シルフィードが脳裏に思い浮かべるのは、蒼髪で年の割には小柄な体格の少女。暇さえあれば本を読み、何が起こっても感情を露わにすることはない少女。
 無愛想で無口な少女だが、本当は優しい人間だという事を、シルフィードは本能で悟っていた。
 召喚の門を潜り抜け、初めて会った瞬間からシルフィードは少女の事を気に入ってしまった。一目惚れと言っても良いだろう。
 シルフィードの方が遥かに長い年月を生きているが、まるで姉が出来た様な気持ちになり、使い魔になって以降、姉と呼び慕っているのであった。
 陽光に巨体を晒して、温まるのをじっと待つ。やがて、霞がかかったように朦朧としていた意識が覚醒していく。
 目が覚めていく心地よい感覚に身を任せているシルフィードであったが、突如ある事に気が付き、慌ただしく周りを見渡した。
 左右に首を振り、前と後ろを挙動不審気味に振り返る。そうして、周りに人がいないことを確認出来ると、安堵の溜息を吐き出した。

「ふぅ…… 焦ったのね。ついうっかり喋っちゃったのね。
 あっ! また喋っちゃったのね! お口にチャックなのね」

 シルフィードは、主人であるタバサによって人前で喋ることを禁じられていた。それは、無用な軋轢を生みださないための処置であり、面倒だったからではない。
 喋っていいのは、上空3000メイル以上の場所だけと決められていた。
 あたふたと慌てるシルフィードの耳が、ガサガサと木の枝が揺さぶられる音を捉える。慌てて見上げると、太い木の枝に赤い鱗の竜がとまっていた。
 赤い竜は、シルフィードよりも小さく、1メイル半ほどしかない。

「オハヨウ、シルフィード」
「きゅい。おはようなのね、イアぺトス。
 あっ! また喋っちゃったのね。早く空に行くのね」

 挨拶をされて、つい人語を喋ってしまったシルフィードは、一目散に大空へ飛びあがった。それに一拍遅れて、イアぺトスが後に続く。
 シルフィードは、イアぺトスの飛び上れる限界高度まで上昇すると、目を三角にして説教を始めた。

「きゅい! オマエ、何時になったら分かるのね!? 地上じゃ喋っちゃダメなのね!」
「ダイジョウブだよ。周りには誰もいなかったし、聞かれてないよ」
「そういう問題じゃないのね! こういうのは、普段からの心がけなのね。うっかり人前で喋って、解剖されても知らないのね!」
「そんな細かいこと気にするなんて、若さが足りないよ」

 シルフィードが説教をしてイアぺトスが軽く受け流す。既に日課となったやり取りだ。

「きゅい!? もう怒ったのね。そこに居直るがいいのね!」
「アハハ シルフィが怒ったー」

 蒼と赤の軌跡が絡み合いながら、大空を縦横無尽に翔ける。
 2匹はお互いの周りを飛び回り、じゃれ合う。ぶつかり合う事なく位置を入れ替え、踊るかのように飛び回る。 
 無論、シルフィードは本気で怒っているわけではなく、スキンシップの一環だ。
 暫く2匹は、大空での追いかけっこを楽しむ。
 ふと、イアぺトスの動きが止まる。何かを見つけたらしく、地上を見下ろしている。

「あっ! サイト君だ。ここんとこ、毎朝走ってるよね?」

 その呟きを聞いて視線を追うと、大剣を背負った黒髪の少年が学院の内周を走っている姿をシルフィードはその大きな双眸で捉えた。
 サイトは両手に水桶を抱え、水を零さないように腰を落として走っている。

84:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 19:41:17 iuahaw3Q
支援

85:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 19:41:27 HZWbPE1A
「今の光は……?」
 爆発の物とは違う突然の輝きに思わず閉じた目を開いて見えた風景は、コックピットではなく抜けるような青空。
 少し体を起こし辺りを見渡すと、ファルガイアではめったに見られないほどに緑豊かな平原や森や山々、そして古めかしい建物。
 それと杖を持った少年少女。大人の姿も見えるがその姿はみな少し風変わりだ。
 統一感のある服装は何かしらの制服を思い起こさせるが、それと同時にどことなくスペルキャスターのクラスも彷彿とさせる。
「あんた誰?」
 問いかける声がする。彼らの中でも一番俺の近くにいる、ピンクがかったブロンドの少女からのようだ。整った風貌と少しだけきつく吊り上った瞳。年はクラリッサと同じくらいか、少し下か。
「俺は、フィアース。フィアース・アウィル」
「ふぅん、平民にしては気の利いた名前じゃない」
「ここはどこだ?俺はどうして生きている?」
 俺はロンバルディアの爆発に巻き込まれたはずだ。奇跡的に死ななかったにしても、無傷というのはおかしい。
 ふと見ると、目の前の少女が俺の言葉にイライラしているのが見て取れる。
「ルイズ!『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出してどうするんだ!」
 誰かの声とともに、笑いが巻き起こる。
「ちょ、ちょっと間違えただけよ!」
「間違えたってなんだよ!流石はゼロのルイズだ!」
 少女の慌てた反論にも、すぐに反論が飛んでくる。と同時に周囲の人々の笑いが爆笑に変わる。
「ミスタ・コルベール!」
 少女――先ほどの野次からすると、ルイズ、というのが彼女の名か?――が声をかけると、人ごみの中から少し年を取った男性が進み出てきた。
 大きな木の杖、長めの黒いローブ。こちらは宮廷魔術師のような格好だ。
「なんだね?ミス・ヴァリエール」
「あの!もう一度召喚をさせてください!」
 召喚、ということは、俺はこの少女に召喚されたのか。
 あの爆発の瞬間に辺りが輝いたのは、この少女の魔法の影響だったということだろうか。
 思考に沈む俺を余所に、二人の会話は続いていく。
「それはダメだ、ミス・ヴァリエール」
「どうしてですか!」
「それが決まりであり、伝統だからだ。召喚の儀で呼び出された『使い魔』によって属性を固定し、専門課程へと進む。これは神聖な儀式であり、例外は認められない」
 ふと辺りを見回してみると、少年少女は火トカゲやらカエルやらといった、なるほど使い魔という言葉にふさわしい生物とともにいるのが見て取れる。
「でも!平民を使い魔にするなんて聞いたことがありません!」
 その言葉に、またも周囲で笑いが起こる。
「ミス・ヴァリエール、もう一度いいます。例外は認められない、やり直しは無しです」
 強い口調に、少女は肩を落とす。
「ですが」
 だが、彼の話はまだ終わっていないようだった。
「確かに前例のない事態ではあります。どうやら意思疎通には問題が無いようですし、一度彼と話し合うのもいいでしょう。この後の授業は免除と

しますが、コントラクト・サーヴァントが成功したら私のところまで来るように」
「……はい」
 不満そうな声ではあったが、少女は承諾の返事を返す。
「それでは、皆さんは教室に戻りましょう。ミス・ヴァリエールは、この後は自由行動とします」
 その声で周囲の人だかりが動き始める。中には嘲笑や悪口を隠さない輩もいたが。
 浮き上がり、空を飛んで建物へと戻っていく集団には驚いた。これがここの魔法の一端か。暴走後のカティナも宙に浮いた状態でいたが、人が浮

くのを見ることなどめったにない。
 それを、悔しさを堪えながら唇を噛んだままうつむいてやり過ごす少女。
 その姿に、あの瞬間の必死な声が思い出される。
 間違いない、やはり俺は彼女によってこの世界に召喚されたようだ。
「あぁもう!なんであんたみたいな平民が呼び出されるのよ!?」
 周囲の目も無くなり、苛立ちが限界に達したか。こらえきれなくなった様子で声を荒げる。
「まぁ仕方ないわ。先生もああ言ってることだし。付いてきなさい。部屋に戻るわ」
 そういうと、少女は背を向けて勝手に歩き出した。
 手元には愛用のポールアームは見当たらない、もちろんロンバルディアも無い。
 あの瞬間、俺は身一つで呼び寄せられたらしい。装備していたガントレットといくつかのアイテムはちゃんと付いてきていたが。
 見知らぬ世界で武器もなく一人きりというこの状況は正直心もとない。俺はおとなしく彼女の後について行くことにした。

86:名無しさん@お腹いっぱい。
08/11/21 19:41:58 HZWbPE1A
「そうだな、ではどこか証明のできる場所へ移動したいのだが」
「何で?」
「クラスチェンジでは外見は変わらない。能力の変化を見せるには実演して見せるのが一番だろうが、エレメントを室内で使うのはよくないだろう」
「なるほどね。わかったわ、ついてきなさい」

 そういうと、ルイズは部屋を出る。

「とりあえず、その魔法を見せてみなさい。見た感じは平民のあなたが魔法を使えれば信じてあげるわ。武器なんかは使い慣れてそうだから判断できないし」

 そう言いながら、歩いてきたのは最初に俺が召喚された、召喚の儀式を行っていた平原だ。

「ここならいいでしょう」
「あぁ。では……アクセス!」

 ARMを握り締め、スペルキャスターのクラスを展開する。瞬間、周囲から光が集まり俺の体を覆う。見慣れたクラスチェンジの瞬間だ。

「何!?急に光が」
「これがクラスチェンジ、スペルキャスターのクラスを展開したところだ」
「ふ、ふぅん、本当に外見は変わらないのね。で、魔法は?」
「ではあの石に。ファイア!」

 術式を展開。と同時に、小石を中心として炎が勢いよく燃え上がる。

「ほ、他にも使えるの?」
「では、フリーズ!」

 今度は氷柱が立ち上がる。

「他にも土属性のクラッシュ、風属性のヴォルテックがあるが」
「わかった、わかったわ。なによそれ、杖も無しに、しかも四属性全て使えるなんて反則じゃない!」

 憤慨している様子のルイズに、どうしたものかと考える。

「だが多様性は無い。今見せた通り、攻撃にしか使えない術式だからな」

 納得はしてないだろうが、効果は実証して見せた。これでARMのことは信じてもらえるだろう。

「ね。もしかしてそのARMを使えば、誰でもそんなことができるの?」
「個人の脳波への調整が必要だから、これ自体を誰か別の人が使うことはできない。だがファルガイアではARMを購入さえすれば誰でも使用は可能だ。
 あとはクラスさえシェアリングしていれば……もっとも、今のスペルキャスターは基本クラスだから、ARMに初期状態で登録されてあるのだが」

 その説明に、なぜか落胆の色を隠せないルイズ。

「……?どうかしたのか?」
「な、何でも無いわよ。とりあえずそのARMの能力と、あなたが別の世界から来たって話、信じてあげるとするわ」

 あからさまに何かを隠しているのが分かる。が、詮索するのもよくないだろう。人には言えないことだってある。

「あと、その魔法は他の人には見せないようにしなさい」
「何故だ?」
「杖も使わずに魔法を使うなんて、メイジには不可能だからよ。魔物とか、ヘタをすればエルフと間違えられたり、そうじゃなくてもアカデミーでモルモットにされかねないわよ」

 それは流石に困るな。

「わかった、気をつける」
「じゃ、とりあえずわたしの部屋へ戻るわよ」


次ページ
最新レス表示
レスジャンプ
類似スレ一覧
スレッドの検索
話題のニュース
おまかせリスト
オプション
しおりを挟む
スレッドに書込
スレッドの一覧
暇つぶし2ch