08/10/05 04:36:35 WHP91BI2
「指輪のことを知っていると、あの恥知らずで卑怯者の司教に伝えてやりましょう。
彼個人への揺さぶりで、判断を遅らせ、幾らかの時を稼ぐことができると思います。恐らく、彼らの掲げる貴族議会すらもクロムウェルの傀儡でしょうから。その間に、各国にこれを知らせ、軍事連合を組みます」
「……姫さま。それでは、姫さまの御身に危険が」
ルイズの顔が青くなる。
それもルイズは手の一つとして考えてはいたのだ。確かに多少の時間は稼げるだろう。しかし、そうした時にクロムウェルがどういう手に出るだろうか。
クロムウェルも馬鹿ではない。こちらが何時指輪の情報を得ていたか判らない以上、まずは既に各国諸侯に知れ渡っているものという仮定するだろう。
だが実際は、噂という形ですら指輪のことが自分の耳に届いてこない。であるなら情報を入手したばかりで公表されていない段階と判断し、情報の拡散を防ぐ意味で早急にアンリエッタの暗殺か誘拐という手に出るはずだ。
何せ、暗殺の対象となるアンリエッタでさえ、殺しさえすれば火消しに利用できるのだ。『アンドバリ』の指輪はそんな後ろ暗い使い方をするのにも、非常に有用だった。
それはそのまま、誰であれ、おいそれと信用はできないということも意味する。生前のその者に二心は無くとも、死者になれば、もうその意思は関係が無い。
アンリエッタは暫し黙考した後に、言った。
「そうですね。わたくしの身辺警護には平民の者を用いることにしましょう」
「平民……ですか?」
目を瞬かせて、ルイズはアンリエッタの言葉を反芻する。
「そうです。平民にディティクトマジックをかければ、普通は何の反応も示さないでしょう。
しかし、指輪の力で動いているならば或いは……いえ、先住の力を感知できなかったとしても、いざと言う時は、このわたくしの身一つでも抵抗できるでしょうから」
「なるほど……」
ルイズは素直に感心した。
指輪の力で護衛そのものを刺客としたとしても、メイジであるアンリエッタには抵抗の手段が残されている。直接手を出しにくいという状況を作れる。
元より、近衛の護衛は時間をほんの少し稼げれば良いのだ。それだけで他の味方が駆けつけ、暗殺や誘拐の成功率は格段に下げることができる。
「後は、誰をアルビオン王家に亡命を勧告する大使として遣わすか、ですね……」
アンリエッタは独りごちた。
諸侯に指輪の存在をすんなりと信じさせる為にはアルビオン王党派の協力が必要であった。誰がどのように裏切りをしたか、その不自然さを説いてもらう必要がある。
その点から言えば、当事者たる王党派には心当たりがある。それ故、彼らに指輪の実在を信じさせるのは苦労しないであろう。
いずれにしても指輪の存在を大義名分として各国で反貴族派の軍事連合を組むならば、王党派の協力は不可欠と言えた。
つまりアンリエッタの策は、王党派の亡命と協力が前提となっている。
昼間会話をした、ワルドという貴族はどうだろう。すぐにでも命を下して動かすことができる。その力量はマザリーニも認めるところだ。
「ヒース……」
ルイズは困ったようにフロウウェンに視線をやる。
フロウウェンは静かに頷いた。彼女がそう言い出すであろうことは既に予想がついていたからだ。
「ルイズの思うようにするといい」
少し意外そうな顔で己の使い魔の顔を見返すも、やがてルイズも大きく頷き返した。そして、アンリエッタに向き直り、言う。
「姫さま。その役目は是非、このわたしに」
「何を言い出すのです! アルビオンは内戦の只中なのですよ!」
ルイズが実力者だというならアンリエッタも手放しで任せただろう。しかし、アンリエッタはルイズのメイジとしての力量を耳にしたことが無い。ルイズが自分から申し出るまで候補になどとは考えていなかった。
「危険は承知の上です。姫さま。『アンドバリ』の指輪がある以上、誰が敵と通じているとも分かりません」
「それは、確かにそうですが……」
その点で言うならルイズには確かに問題がない。
まず、脈絡なく『アンドバリ』の指輪などという突拍子のないマジックアイテムを持ち出して、ルイズが自分を騙す理由が無い。現実味の薄い話だからこそ、彼女の言っていることに偽りは無いと思えた。
となれば、その忠誠にも偽りが無いということだ。
そして指輪の話が真実であったとするなら、ルイズが操られている可能性は限りなく低い。そうであるなら「指輪をクロムウェルが所有している」という、貴族派最大の弱点を自分に明かす必要性がないからだ。
ともあれ、ルイズは腹芸の類を一切使っていない。
501:"IDOLA" have the immortal servant 3/8 ◆GUDE6lLSzI
08/10/05 04:37:54 WHP91BI2
それは宮廷で育ち、必要とあらば自分も行使することを厭わないアンリエッタにしてみれば、俄かには信じられないことだ。
困難な任務ということを百も承知で、自分から志願するというのは驚きと共に尊敬と信頼に値するものだった。
そういえばそうだった。昔からこういう真っ直ぐな子だったはずだ。アンリエッタは眩しいものように、ルイズを見やる。
「……わかりました。あなたの忠誠を信じます。わたくしの為……いえ、トリステインとハルケギニアの安寧の為に、アルビオンに向かってくださいますか?」
「一命にかえても」
ルイズは再び恭しく跪いて答えた。
「失礼ながら、少々よろしいか」
その時、フロウウェンが静かな声で言った。
「何でしょうか?」
フロウウェンはアンリエッタの問いかけに答えず、そっと壁沿いに部屋の中を進むと、おもむろにドアノブに手をかけ、勢いよく内側へと開け放った。
「うわあっ!?」
身体の支えを失って、何者かが部屋に転がり込んで来る。
「……何かと縁があるな」
鍵穴から漏れる廊下の明かりが遮られていた。誰かが扉の前で聞き耳を立てていると判断したのだが、正解だったらしい。
しかし、その者を見るなりフロウウェンの緊張は解けて、苦笑いを浮かべていた。部屋の中に転がり込んできたのがギーシュ・ド・グラモンだったからだ。
「ギーシュ!? あんた今の話を立ち聞きしてたの!?」
「ふっ。薔薇のように見目麗しい姫殿下をお見かけしたが、共の者を連れていなかったから、これは大事があってはいけないと、陰からお守りしようとしていたのだ。いや、僕のことよりも……」
ギーシュは立ち上がると、芝居がかった口調と仕草で言う。
「姫殿下! その困難な任務、是非ともこのギーシュ・ド・グラモンに仰せつけくださいますよう」
「え? あなたが?」
「姫殿下のお役に立ちたいのです」
またモンモランシーと揉め事の種になるだろうな、と、ルイズとフロウウェンは揃ってそう思った。だがギーシュは女にだらしないが信念には正直だ。そういう点では信頼していい人物と言える。
「グラモン? あのグラモン元帥の?」
「息子でございます。姫殿下」
「あなたも力になってくださるの?」
「任務の一員に加えてくださるなら、これはもう望外の幸せにございます」
ギーシュの言葉にアンリエッタは微笑んだ。
「ありがとう。お父様も立派で勇敢な貴族ですが、あなたもその血を受け継いでいるのね。ではお願いしますわ。ギーシュさん」
その言葉と笑みだけですっかりギーシュは舞い上がってしまったらしい。
「姫殿下が! 姫殿下が僕の名前を呼んでくださった! トリステインの可憐なる花が! 薔薇の微笑みの君が僕に! この僕に微笑んでくださった!」
そのままギーシュは後ろに倒れてしたたかに頭を打ち、幸せそうな顔を浮かべたまま失神した。
ルイズはギーシュの奇行も見慣れているのか、咳払いを一つすると真剣な声で言う。
「では明日の朝、アルビオンに向かって出発することにします」
「王室の方々はアルビオンのニューカッスル付近に陣を構えていると聞き及びます」
「了解しました。以前姉たちとアルビオンを旅したことがございますので、地理には明るいかと存じます」
「どうかくれぐれも気をつけて。アルビオンの貴族たちは、貴女方の目的を知ったらどんな手を使ってでも妨害しようとするでしょう」
アンリエッタは机に向かうと、ルイズの羽ペンと羊皮紙を使って手紙をしたためる。
そして手紙を巻くと、杖を振るった。たちまち封蝋がなされ、花押が押された。
その手紙は二通。片方をルイズに手渡し、言う。
「これをウェールズ皇太子に」
「プリンス・オブ・ウェールズ? あの凛々しき王子さまにですか?」
ジェームズ一世ではないのだろうかとルイズが首を傾げると、アンリエッタが答える。
「ウェールズ皇太子はわたくしが以前したためた手紙を所有しているのです。あの手紙はゲルマニアとの同盟の妨げになるもので、それも手元に取り返さねばなりません。ですから、この手紙はウェールズ皇太子に。
もう一通のこちらは、その件の手紙の代わりに、クロムウェルが見つけるであろう手紙ですわ」
悪戯っぽくアンリエッタは笑う。
「少しは卑怯者への意趣返しになるでしょうか。吉報のつもりで人の秘密を覗き見たつもりが、そこには自分の秘密が記されていた、なんて」
502:"IDOLA" have the immortal servant 4/8 ◆GUDE6lLSzI
08/10/05 04:39:10 WHP91BI2
そういうことか、とルイズも笑みを浮かべた。
それからアンリエッタは右手の薬指から指輪を引き抜くと、それをルイズに手渡してきた。
「これはあなたに。母君からいただいた『水のルビー』。せめてものお守りです。お金が不安なら、売り払って旅の資金に充ててください」
ルイズは深々と頭を下げる。
「この任務にはトリステインとアルビオンの未来がかかっています。母君の指輪が、アルビオンに吹く猛き風から、あなたがたを守りますように」
アンリエッタはルイズの手を握り、それからフロウウェンを見やる。
「どうか、わたくしの友のことをよろしくお願いします。頼もしい使い魔さん」
「この老いぼれで良ければ全力を尽くしましょう」
フロウウェンは一礼すると、言った。
「姫殿下。一つ提案がございます」
「なんでしょうか」
「まずは……この指輪をご覧下さい。これは遥か東、ロバ・アル・カリイエに伝わる魔法の品。『アンドバリ』の指輪には遠く及びませんが、変わった力を持っています」
フロウウェンが手にしている指輪は、水の精霊の話を聞いて、彼が提案したものだった。『アンドバリ』の指輪の話からヒントを得たものだ。
必要に迫られてやむなくテクニックを使ってしまった時の「言い訳」として、この指輪の力でテクニックを行使したのだ、と主張する腹積もりでいるのだ。
因みにルイズもフロウウェンの薦めで、人前でグランツを使ってしまった時の為に同じような指輪を手に入れている。
実際はディティクトマジックを掛けられた時の為にわずかな魔力が込められているだけの、安物の指輪なのだが。
しかし、ここでそれを言い出すということは、テクニックを用いて何かするつもりなのだろうか。
「中庭までご足労願えますか。その力をお目にかけましょう」
「姫殿下!?」
自分の寝泊りする部屋へと戻る道すがら、アンリエッタはそんな声に呼び止められた。
周囲を見回して、大きな翼が羽ばたく音を聴き、上空に声の主を見つけた。
「あなたは……」
声の主は、グリフォンに跨ったワルド子爵であった。
「殿下。供の者はいかがなされました?」
「わたくしに所用があったのです。彼らに責はありません」
失敗した、とアンリエッタは内心で思った。フードを被り直すことも忘れていた。それほどに、さっき見せられたものが物珍しかったからだ。
とはいえフードを被っていたら、不審者として呼び止められ、詰問を受けていた所だ。
「承知しました。このワルド。今夜のことは決して他言は致しませぬ」
グリフォンから下りて、ワルドは恭しく膝をつく。
そんなワルドを見ている内に、先程はワルドに使者を任せようかと思っていたことを思い出す。
友を政情の不安定な内戦真っ只中のアルビオンに送り込もうというのだ。
大人数を都合することはできないが、布陣は可能な限り強力な方が良いに決まっている。そこで、ワルドが信頼に足るかどうか、少し探りを入れてみることにした。
「……あなたの領地はラ・ヴァリエール公爵領の近くだと聞き及びましたが」
「ラ・ヴァリエール公爵領は隣地です。殿下」
「そうだったのですか。では、公爵夫妻とも面識が?」
「よく存じております。私事ですが、父親同士の口約束でラ・ヴァリエールのご息女と婚約もしている身の上です」
ワルドは苦笑いを浮かべた。
「まあ! それは素敵なことですわね。お相手はカトレア様?」
「いえ。ルイズ嬢です。殿下」
「そうですか。ルイズの婚約者……なるほど」
アンリエッタの口元に笑みが浮かぶ。これならば行けるかもしれない。
503:"IDOLA" have the immortal servant 5/8 ◆GUDE6lLSzI
08/10/05 04:40:05 WHP91BI2
「ワルド子爵。あなたの忠誠と腕前を見込んで、頼みたいことがあるのです」
「なんなりとお申し付け下さい。殿下」
「明日、あなたの婚約者のルイズと、白の国アルビオンに向かってはもらえませんか。道中のあらゆる危険から、彼女の身と、彼女に持たせた手紙を守って欲しいのです」
ワルドは一瞬驚いたような顔になるが、すぐに表情を戻すと恭しく応えた。
「はっ。仰せのままに」
忠臣を装い答えるが、内心は笑い転げたい気持ちでいっぱいだった。
レコン・キスタは、アンリエッタが密かにウェールズに送ったという恋文を探している。
どういう経緯を経てその情報を得たものかワルドは知らなかったが、オリヴァー・クロムウェルの、あの『虚無』の力であれば、アルビオンの忠臣からそれを聞き出すのも造作のないことだろう。
この時期に、アルビオンに向かえなどというのは余程の事情だ。アンリエッタがアルビオンに使者を遣わすのならば、理由は十中八九それだろう。
あのルイズを使者にしたのは解せないが――と思い差して、ワルドは心の内で首を横に振った。
そう言えばトリステイン魔法学院の女生徒が『土くれ』のフーケを追い詰めて、その手から宝を取り戻したのだと噂になっていた。
その女生徒の中に、ワルドはルイズの名を聞いた。なかなかどうして彼女もやるものだ。恐らくはアンリエッタも、その噂を聞いてルイズに任せようと思ったのでは無いだろうか。
或いは幼馴染であるアンリエッタのことだ。自分のようにルイズの未知数の才能に目をつけていてもおかしくはない。
しかし両親に叱られて泣いてばかりいた、あの小さな少女が『土くれ』を追い詰めるほどに成長するとは、とワルドは笑う。
自分もフーケを探していたのだが、どうにも尻尾を掴ませなかったのである。
そう。レコン・キスタからは、近年トリステインを騒がしている、フーケと名乗る盗賊との接触を命じられていた。
何でも彼女の本名はマチルダ・オブ・サウスゴータという名で、アルビオンを追放された貴族なのだとか。アルビオン王家の罪業を象徴するような存在だ。レコン・キスタにとっては政治的な利用価値が高い、ということだろう。
つい先日、この魔法学院にも現れたらしい。惜しい所で本人には逃げられたということだ。どうせなら捕らえていてくれれば自分の仕事もやりやすくなっただろうに。
やりかけの仕事が残っているというのは残念だが、それよりもこれは重要な任務となるだろう。
レコン・キスタの走狗としてスパイを続けてきたが、風のスクウェアたる自分の武勇もレコン・キスタに見せ付ける、絶好の機会が訪れたという事だ。
しかも、婚約者のルイズと一緒に、と来たものだ。いや、アンリエッタがルイズを信頼して使者としたからこそ、その婚約者である自分も、今日昨日顔を覚えられたばかりのアンリエッタに信頼されたのだろう。
いよいよ自分にも運が向いてきたらしい。
お前はよくよく素晴らしい婚約者だよ、ルイズ――。
アンリエッタに跪くワルドの口元には、三日月のような笑みが張り付いていた。
「……ヒースは止めるかと思ってたわ」
アンリエッタと別れて部屋の中に戻ると、ルイズが言った。
「行きたがっているのが傍目から見て分かったからな」
「う……」
理想を信じてひた走るのは若さ故だ。それを悪いことだとフロウウェンは思わない。己にもそんな時分があったのだし、誰かの為に何かを為したいという理想や情熱があったからこそ軍に身を置いたのだ。
そんな自分が、ルイズを止める理由などない。ルイズは戦いに赴くわけではないし、何より自分で考え、その上で決断したことだ。彼女の未熟は、自分の経験が補えれば良い。
「ルイズはトリステイン王家に仕える貴族。ならば臣下として務めたいというのを止めるわけにもいくまいよ」
「うん……」
自分の行動や考え方を肯定してくれているというのがルイズは嬉しかった。
嬉しいのだが、素直に喜べない。
タバサやキュルケのようにトライアングルだったら……いや、せめて自分がラインにでも達していたなら、無力なままで行動を起こそうとすることに引け目を感じなかったのだろうか。
グランツは使えるようになった。そこから四大魔法を使いこなす為に自分の力を制御する為の訓練を重ねているが、相変わらず系統魔法はからっきしで、依然メイジとしては『ゼロ』のままだ。
「一つだけ、約束してくれるか? フーケの時のような無茶は絶対にしないこと。勝手な行動は自分だけでなく、仲間を危険に晒すということを忘れるな」
「わかったわ」
唇を噛んで小さく頷くルイズに、フロウウェンも頷き返した。
504:"IDOLA" have the immortal servant 6/8 ◆GUDE6lLSzI
08/10/05 04:41:56 WHP91BI2
朝靄の中、ルイズ達は馬に鞍を取り付けていた。フロウウェンの姿は人目を引かないように、ということで執事の格好である。デルフリンガーも布で包んでおり、傍目からは貴族に付き従う使用人の姿だった。
ルイズは何時もの制服姿に、乗馬用のブーツという出で立ちだ。かなりの距離を馬で移動するつもりらしかった。
マグも持ってきているが、それはフロウウェンに預けている。
「僕の使い魔を連れて行きたいんだけど」
旅の用意をしていると、ギーシュが言った。
「オレは構わないが」
「いいけど、どこにいるのよ」
「ここ」
二人の言葉に、ギーシュが地面を指差す。
「いないじゃない」
ルイズの言葉に、ギーシュはにやっと笑い、爪先で地面を叩く。すると、土が盛り上がり、茶色の大きな生き物が顔を出した。
「ヴェルダンデ! ああ! 僕の可愛いヴェルダンデ!」
それは小型のクマほどもある巨大なモグラだった。その生き物を抱き締めてギーシュが頬擦りする。
「あんたの使い魔ってジャイアントモールだったの?」
「そうだ。ああ、ヴェルダンデ。君はいつ見ても可愛いね。困ってしまうほどね。どばどばミミズはたくさん食べてきたかい?」
ヴェルダンデは嬉しそうに鼻をひくつかせてそれに答える。
「そうか! そりゃよかった!」
「ねえ、ギーシュ。その生き物、地面の中を進んでいくんでしょう?」
「そうだよ。ヴェルダンデはモグラだからね」
「わたしたち馬で行くのよ?」
「平気だよ。結構地面を掘って進むの早いんだぜ。なあ、ヴェルダンデ」
首を縦に振るヴェルダンデ。
「地面を掘り進んで馬に着いていけるのか。かなりのものだな」
呆れたようにフロウウェンは呟く。
「何言ってるの。アルビオンに行くのよ。地面を掘って進んでいく生き物なんて、ダメよ」
「……空に浮かんでいるのだったか。しかし、この使い魔は優秀だと思うが」
「いやあ、ミスタ・フロウウェンは話せる! そうだとも! ヴェルダンデは可愛いだけでなく、とても賢いんだよ!」
「優秀って……ちょ、ちょっと!? きゃあ!?」
ヴェルダンデは鼻をひくつかせると、いきなりルイズに圧し掛かった。
「や! ちょ、ちょっと! どこ触って! くすぐったいったら!! やめなさい!」
モグラの鼻で身体のあちこちを突付きまわされて、ルイズは堪らずに悶えて暴れた。
「これは……なんというか芸術的だね」
それを見て、感慨深そうに悠長なことを言うギーシュ。
「こらこら」
見かねたフロウウェンがヴェルダンデの前足を抑えると、やっとのことでルイズはヴェルダンデの下から這い出す。
「懐かれたんじゃないかい? ルイズ」
「嬉しくないわよっ!」
ヴェルダンデはそれでも名残惜しそうに、ルイズの身体を鼻で嗅ぎ回った。やがて、ルイズの右手に光るルビーを見つけると盛んにその指輪に鼻を摺り寄せようとする。
「え? こ、この指輪? ダメよ! これは姫さまに頂いたものなんだから!」
指輪を庇うようにルイズが右手を後ろにやると、ヴェルダンデもそれを追おうとする。
「なるほど。指輪か。ヴェルダンデは宝石が大好きだからね。いつも貴重な宝石や鉱物を僕の為に見つけてきてくれるんだよ」
ヴェルダンデを抑えながらギーシュの話を聞いていたフロウウェンだったが、ふと上空を見上げた。
「グリフォンじゃないか。誰の使い魔だい?」
フロウウェンの視線を追ったギーシュが言った。その幻獣の背には何者かが跨っている。その人物が、いきなり宙に飛んだ。
マントを風に翻しながら中空で一転すると、鮮やかに地面に降り立ってみせた。
羽帽子を被った、凛々しい顔つきの貴族だった。
505:"IDOLA" have the immortal servant 7/8 ◆GUDE6lLSzI
08/10/05 04:42:53 WHP91BI2
「ワルドさま……!?」
ルイズが驚いたような声を上げた。
「久しぶりだな! ルイズ! 僕のルイズ!」
人懐っこい笑みを浮かべて、男はルイズに駆け寄ると、その身体を抱え上げた。
「お久しぶりでございます」
はにかんだような笑みを浮かべて、ルイズが答える。
「相変わらず軽いな、きみは! まるで羽のようだね!」
「……お恥ずかしいですわ」
ルイズを地面に降ろすと、ワルドはギーシュとフロウウェンに向き直る。
「姫殿下よりきみたちに同行することを命じられてね。お忍びの任務ゆえ、一部隊付けるわけにもいかない。そこで僕が指名されたってワケだ」
そうして、羽帽子を取って一礼する。
「女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵だ」
「魔法衛士隊! それは心強いね!」
魔法衛士隊はトリステイン貴族の憧れである。それはギーシュも例外ではないらしい。
「彼らを紹介してくれたまえ」
帽子を目深に被り直しながらワルドがルイズに問う。
「ギーシュ・ド・グラモンと、使い魔のヒース……ヒースクリフ・フロウウェンです」
二人はルイズからの紹介を受けて、ワルドに一礼した。
「ルイズの使い魔が人とは思わなかったな」
ワルドは気さくな笑みを浮かべて、フロウウェンに近付く。
「僕の婚約者がお世話になっているよ」
「こちらこそ。ルイズに婚約者がいたとは初耳だ」
「お互いの親同士の口約束だけれどね」
かなり鍛えられた体付きをしているのが、衣服の上からでも解る。グリフォン隊の隊長だと言っていたし、相当な腕利きをアンリエッタは助っ人に寄越した、ということだろう。
ルイズの婚約者という立場ならば、任された理由にも納得が行く。
ワルドが口笛を吹くと、空を旋回していたグリフォンが舞い降りてくる。ひらりとそれに跨ると、ルイズに手招きした。
「おいで、ルイズ」
ルイズは気恥ずかしいのか、暫くもじもじとしていたが、やがてワルドに抱きかかえられて、グリフォンに跨った。
ワルドは手綱を握り、杖を掲げると高らかに叫ぶ。
「では諸君! 出撃だ!」
グリフォンが駆け出す。雰囲気に良い易いギーシュが、感動した面持ちでそれに続く。フロウウェンも馬に跨ると一行に続いた。
……少しだけ、フロウウェンにはワルドの瞳が気にかかった。
鷹のように鋭い眼光を湛える瞳に、本心からの笑みを浮かぶことがなかったからだ。婚約者のルイズに向ける笑顔でさえ、その瞳は氷のようなままで、変わらなかった。
覇気に満ちている若者は嫌いではない。だが、それにしてもワルドのそれは野心的に過ぎた。
506:"IDOLA" have the immortal servant 8/8 ◆GUDE6lLSzI
08/10/05 04:43:41 WHP91BI2
アンリエッタは出発する一行を学院長室の窓から見詰め、祈っていた。
「彼女たちに加護をお与えください。始祖ブリミルよ……」
隣ではオスマンが鼻毛を抜いている。
「見送らないのですか? オールド・オスマン」
「ほほ、姫、見ての通り、この老いぼれは鼻毛を抜いておりますでな」
おどけたオスマンの仕草に、アンリエッタは首を横に振った。
「トリステインの……いえ、ハルキゲニアの未来がかかっているのですよ? 何故そのような余裕の態度を……」
「すでに杖は振られたのです。我々にできることは待つことだけ。違いますかな」
「そうですが……」
「なあに。彼ならばやってくれるでしょう。姫さまも、ご覧になったのでしょう?」
「……ええ」
オスマンにも話を通していた。昨夜見た、指輪の力。
何とも不思議な老人だった。
「フーケから宝物を取り返したのも彼の力によるところが大きい。どこかの星から来たというだけに、姫が昨晩目にしたものを含めて、色々隠し玉があるのでしょうな」
「星? 彼は星から来たのですか?」
「……そう申しておりました。ま、よく知らんのですがの」
喋りすぎたことをオスマンは察した。王室に全てを話すのは時期尚早というものだ。
学院長室の扉がノックされる。オスマンが入室を促すと、フーケが書類の束を抱えて入ってきた。書類を机に置くと、窓際のアンリエッタに気付いて恭しく礼をする。アンリエッタはそれに応えると、再び物憂げな顔で窓の外を眺めた。
「ならば、わたくしは星に祈りましょう」
そうしてアンリエッタはまた祈り始めた。
フーケはアンリエッタの視線を追って、そこにルイズ達の姿を見る。アンリエッタの思いつめたような表情から、一流の盗賊の勘で何かあったと鋭敏に感じ取ったらしい。
(……あのグリフォン……魔法衛士隊か? それが揃ってお出かけとはね。あの男も一緒、か)
魔法衛士隊に命令を下せるのは大后マリアンヌ、王女アンリエッタ、枢機卿マザリーニぐらいのものだ。アンリエッタの切羽詰った表情から、単なるお使いなどではないことは容易に想像がつく。
いずれにせよ、自分には関係のないことだ。
ただ少しだけ、あの使い魔のことが頭をよぎった。
先日の惚れ薬で酔っ払っていた時の行動や言動は、何から何まで不本意だったが、一つだけ目を醒ました今でも変わらない印象がある。
あの男は自分の父親に似て、不器用なお人好しだ。
それが、あの男にとって災いにならなければいいのだが。
貴族は嫌いだが、あの男は貴族ではない。だから、無事に帰ってくることぐらいは、あの無垢な姫のように祈ってやってもいいか――
フーケは一瞬思い差して、祈りなど自分の柄ではないと心の内で自分を嘲り笑う。そして学院長室を退出した。
それから、昔最後に無事を祈った相手は、父親その人だったのだと、フーケは忌々しそうに舌打ちをした。
507:"IDOLA" have the immortal servant ◆GUDE6lLSzI
08/10/05 04:44:31 WHP91BI2
以上で11話の投下終了です。
508:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 04:48:27 eqfjvS+S
乙
投下の間隔が早くて嬉しいですが、無理の無いように頑張ってください
509:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 04:49:59 hkYvaiMo
乙でした。
フロウウェンじーさんはいい人だな…
老練なフロウウェンがいつワルドのことに気づくか見物ですなー。
510:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 05:35:59 0XAffr8O
水夏かあ、懐かしいな
サーカスネタなら小ネタでさくら召喚があったが
「一年中咲く桜」召喚もええ
王子時代のジョゼフが召喚しテレパスになってまうとかどうだろう?
511:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 08:13:19 voppKOvT
帝都物語乙です
タイトルとギャプが凄すぎます(^_^;)
この世界の加藤になったイザベラ様の魂に平穏あれ・・・
512:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 09:12:41 UJA08Eo9
B.B.Jokerの生物といい、帝都物語の加藤といい、
自分が好きだが人があまり知らない奴がSSで出てくるというのは、なんか嬉しいな
513:鋼の使い魔(前書き) ◆qtfp0iDgnk
08/10/05 10:03:30 7PTOXt5k
誰もいないのかな?
幕間と「ライブラリ」が出来たので投下予告、10時15分から。
514:鋼の使い魔『幕間』 ◆qtfp0iDgnk
08/10/05 10:15:17 7PTOXt5k
『続・ギーシュの災難』
目の前で妙齢の女性が取り乱したと思うと、目下の少女を掴んで何処かへ走り出してしまった…。
『恋路多しグラモン』としてはいささか気にもなりながらも、ギーシュは何も言わずに突っ立っている。
引きずられて行くルイズを、ぼんやりと眺めていたギーシュにタバサが声をかけた。
「今日はありがとう」
抑揚少なき、実にタバサらしい語調だった。
ギーシュは手を振って答える。
「いやいや、僕こそ感謝したいよ。いい勉強になったし…」
正直これほど自分の魔法の精錬に夢中になったのは殆ど久しぶりの事だった。図面を引いたり、部品を作ってみたり、それを組み上げて一から錬金【アルケミー】で作り出したり…。
ギーシュ・ド・グラモンの目は怠惰な放蕩貴族の目から卒業していた。
そんなギーシュに気も引かれないタバサは、ベルトラックに下げているポーチの中から、一つの小瓶を取り出してギーシュに手渡した。
「…これは?」
「今日のお礼。私がシュバリエの仕事の時に使う薬。使うと元気が出る」
ギーシュが普段、余り生気を満たしている風情でないことをタバサは知っていた。図書館で時間を過ごす時、疲れた姿でぼんやりとテーブルに突っ伏している姿を何度も見た事がある。
ギーシュの手に渡された小瓶の中の薬は薄い水色をしている。空の青さを水で溶かすとこんな具合になるかな、とギーシュは思った。
「へぇ、そりゃあいいや。ありがとう。何から何まで…」
タバサは首を振って、「いい」とだけ言った。
「…でも、そうか。元気が出る薬ね…」
つぶやくとギーシュは無造作に小瓶の蓋を開けて、中の液体を揺らした。秘薬独特のなんとも言えない匂いが鼻腔を突く。
「どれ、それじゃ早速一口…」
「あ…」
515:鋼の使い魔『幕間』 ◆qtfp0iDgnk
08/10/05 10:17:00 7PTOXt5k
タバサが一瞬、何か言おうとするが、ギーシュは構わず小瓶の液体を一口飲み込んだ。
タバサの目にはギーシュの喉が確実に含んだ薬液を胃に送り込んだ事を教える。
「ふぅ。…んー、なんだかスースーして、力が湧いてくるような…」
「違う」
「へ?……ん…んん?…」
タバサがなんとなく、困ったような空気を漂わせているのに対して、ギーシュは薬の効果で徐々に疲労が弱くなっていくのを感じ満足していたが、それが段々と体の内側にふつふつと熱を感じるようになってくる。
「な…なんだか…身体が凄く熱いような…」
「使い方が違う」
「へ?」
「それは飲み薬じゃない。布に浸して匂いを嗅ぐだけでいい」
「えぇ?!そ、それは早く言って…うっ?!」
一瞬呻いたギーシュは胸をかきむしるようにして蹲ってしまう。タバサは覗き込もうかどうしようか、迷っているように見える。
そうしている間に、徐々にギーシュの呻き声が、どうやら大きくなってきていた。
「うぅ…熱い、熱い、熱い、熱いぃ~!」
一際の叫び声を上げたギーシュに、キュルケとコルベールはようやく傍でなにやら変事が起きている事に気が付いた。
「何?」
「どうかしましたかな?」
「あーーーつーーーいーーー!」
「「?!」」
ギーシュが野獣のように吼える。火が出そうなほど目を光らせて立ち上がると、ギーシュはコルベール塔前から猛然と走り出す。
「おおおおおぉぉぉぉぉぉ~!!!」
土煙を上げて走り去っていくギーシュ。コルベール塔前に呆然と見つめる三人が残された。
「ど、どうしたんでしょうなぁ、ミスタ・グラモンは…」
「さ、さぁ?なんでか判る?タバサ」
話を振られたタバサは暫く無言のままポーチをまさぐると、静かにポーチの留め金を閉める。
「……知らない。薬を渡したら走り出していった」
ふるふると首を振るタバサ。キュルケとコルベールは暫くの無言の後、
「そう、変なギーシュね」
「変ですなぁ…。…む、気が付けばミスタ・ギュスがおりませんぞ?」
「ルイズ追っかけてったのかしら?せっかく組み手の後で皆で飲もうと林檎水持ってきたのに。飲む?タバサ」
「飲む」
「ミスタ・コルベール、テーブルお借りしますわね」
「構いませんぞ…はて、しかしエレオノール君は何用だったのでしょう…?」
かくしてタバサの記憶からこの一件が封印された。
516:鋼の使い魔『幕間』 ◆qtfp0iDgnk
08/10/05 10:19:01 7PTOXt5k
さて、コルベール塔前で一行が解散していた、ちょうど同じ頃。
「ハァ、ハァ、お姉様、私、もう限界ですぅ…」
そこは女子学生寮の一室。部屋主は【香水】のモンモランシーである。
貴族の令嬢らしい調度に薬品とガラス器具が目を引くモンモランシーの部屋の一角に、不釣合いな革のベルトが各所に取り付けられた、台のようなものが置かれており、なぜかそこに一年生ケティは四肢をベルトで封じられて貼り付けられていた。
「駄目よ?ケティ。『リリスの卵』の孵化までそのまま我慢しなさい」
「ああん、でもでもぉ、ハァ、女の子の大事なところがぁ、ギュンギュンしてぇ、どうにかなりそうなんですぅ…」
息絶え絶えのケティは甘ったるく呻き喘いでいる。心なしか太ももをもじもじと擦り合わせていた。
『リリスの卵』とは、モンモランシーが魔法書を見ながら作った風変わりな秘薬である。
アメーバ状の魔法生物の一種で、メイジの消化器系内に寄生し、血液を養分に成長する。その代わりに興奮剤の一種を宿主に与える性質がある。
そしてある程度まで成長すると、アメーバ体が分解されて腸内に拡散、宿主の消化機能を助ける効果があるのだ。
もっとも、今ではもっと副作用の少なく、薬効の高い薬方が確立され、使われなくなったものである。
ケティはモンモランシーが作った『リリスの卵』の臨床実験に付き合わされていたのだ。
もっとも、既にギーシュとケティとモンモランシーの三人には『口に出すにはばかるような濃厚な関係』を築き上げてしまっており、三者の形成する歪で形容不可能なヒエラルヒーにおいて、ケティはモンモランシーの言葉にいいえと言えない体にされてしまっている。
モンモランシーはケティの意思を大部分無視してこの人体実験を行っていた。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
ケティは既に『リリスの卵』の興奮剤効果で意識がかなり朦朧とし始めていた。今すぐ自分の体を戒めるものを総てかなぐり捨て、満月の森の中へ走り出したくなるような焦燥感や圧迫感に体を絡め取られている。
「ふふふ…そうやって磔にされて肌を赤らめて息を荒げているととっても素敵よケティ。しばらくギーシュも来てくれなかったし、お互い色々と溜ってくるものね…」
不穏な科白を吐きながら、モンモランシーは磔のケティが緩く肌蹴ているシャツに、手を差し入れる。
大の字に固定されたケティの体が跳ねる。
「あはぁっ!お姉様の手が、ひんやりしてぇ、きもちひぃ~」
「肌がとっても熱くなってるのね…」
妹分で遊ぼうとモンモランシーの指先が、少女の胸元からシャツへ移動しようとしたその時。
バッタン!と扉が壊れんばかりに乱暴に開け放たれた。
「「?!」」
それに驚いた二人の視線が出入り口に集まる。そこには春先のオーグルのような険しい顔のギーシュが体から湯気を上げて仁王立ちしていた。
「「ギ、ギーシュ(様)?」」
517:鋼の使い魔『幕間』 ◆qtfp0iDgnk
08/10/05 10:21:05 7PTOXt5k
問われたギーシュはゆらりゆらりと寄り添っている二人に向かって歩いていく。歩きながら自分の胸倉を引っつかむと、悪趣味なシャツを無造作にひっぱり脱ぎ捨てた。
二人の目の前にたどり着いた時、ギーシュはなよりとした体の線とは裏腹に、ビキビキと筋の浮く上半身から湯気を上げ、人食い鬼もかくやの形相で二人に微笑んでいた。
「やぁモンモランシー。そしてケティ。暫く顔を見せなかったけど元気にしてたかな」
何気ない挨拶だが、どこかギーシュは動物のような芳香を漂わせており、しばらくご無沙汰だったモンモランシーはもとより、薬で興奮状態のケティの正常な判断力を
根こそぎ奪っていた。
「ハァ~、ギーシュしゃま~」
口角の端から透明な液体が垂れ始めているケティだった。
「暫く見ない内に随分息苦しそうだねケティ。戒めを解いてやろう」
段々と口調が可笑しくなっているギーシュは杖を抜いてケティの拘束を解くと、そのまま担ぎ上げてモンモランシーのベッドに投げ付けた。
軽々と浮いたケティがベッドの上でバウンドする。
「あうっ」
「ちょ、ちょっとギーシュ」
一瞬我に返ったモンモランシーだがギーシュはそれを無視してベッドに歩み寄る。
「さぁケティ。息苦しそうな君を一目見て僕はどうしようか考えた。こうしよう。君を骨の髄までむしゃぶり尽くす」
「はふ、はふ、はふ…」
もうケティはベッドの上で四足をついて『おあずけ』を食らった犬になっている。
どこか満足気なギーシュはゆらぁりと振り返ってモンモランシーを見た。
「ああそうだモンモランシー…」
どろりとした目と動物臭のギーシュがモンモランシーを見る。
「今日はいろいろあってすこぶる調子がいいから、……『今日はお前が下だ』」
「は、はひっ?!」
そう言ってけらけらと笑ったギーシュは、杖を一振りして蹴破ったドアを修復し、窓という窓を閉め切っていく。
そして真っ暗になった部屋に混乱したままのモンモランシーが、ギーシュの浮遊【レビテイション】でベッドに引き寄せられていく。
「はーはははは!沢山沢山啼かせてあげるからねー」
「い、いやぁ~!…………ぁ♪」
その日、モンモランシーの部屋からは、ギーシュの高笑いと少女二人の艶やかな悲鳴が朝日が昇るまで耐えなかったという……。
518:鋼の使い魔『幕間』 ◆qtfp0iDgnk
08/10/05 10:22:58 7PTOXt5k
翌日。
ギーシュは久しぶりに快眠感を感じて目を覚ました。カーテンの隙間から朝日が漏れ入っている。
(なんだかすごく楽しい夢を見れたような気がするなぁ…)
寝起きのギーシュはぼんやりとそう思った。
さて、起きたからには身支度くらいはしようと部屋を見渡すと、おや、ここはどうやら自分の部屋ではないらしい。
「…あれ?」
かといって、見知らぬ部屋ではない。調度品からみて、どうやらモンモランシーの部屋、のようだ。
「う~…」
どうやら自分はまた彼女達に捕まって不届きな一夜を過してしまったようだ…。
正直言って今のギーシュはモンモランシーとケティを持て余していたのだった。好意を持たれるのはまったくもって嬉しいが、
愛されるより愛したいのが人の流れという奴で、二人の振舞はギーシュとしては『フォアグラにされるガチョウ』になった気分だった。
(さて、静かに部屋に戻らないと…)
そう思ってベッドの毛布をはごうと手をかけたとき、毛布の下にうずくまっているモンモランシーかケティか知らないが、どちらかがギーシュに抱きついた。
「はう!」
ビクッとわななくギーシュ。驚いていると、さらにもう一方の誰かが毛布のしたから腕を伸ばしてギーシュに張り付く
「はう!」
さらにビクッとわななく。そして徐々に、毛布の下にいたケティとモンモランシーが顔を覗かせた。
「…や、やぁ」
大体こんな状況に慣れてきたとはいえ、ギーシュの甲斐性ではこんなものである。
いや、以前であればケティもモンモランシーも寝起きの頭でふにゃっと崩した顔で腕枕でもせがまれたりもするのだが、今日はどうやら、様子が違った…。
「…ど、どうか、したかな?」
ケティもモンモランシーも、薄らと笑っている。
そして何より、目がどんよりと濁っている。
「ね、ねぇ。何かって言ってくれないかな?『おはよう』とか」
おっかなびっくり話しかけたギーシュに、ケティとモンモランシーはへにゃ、と笑顔を作る。
「「おはようございますごしゅじんさま」」
ぴったりと声を揃えて返してきた時、ギーシュは石像のように硬直した。
そして次の瞬間に毛布を全部剥ぎ取ってベッドから飛び出し、毛布に包まって部屋の隅に逃げ込んだ。
「これは夢だ、現実じゃない、寝るんだ、寝て起きればいつもの朝だ…」
ぶつぶつと独り言の中に耽溺しようとしていた。
「ああ、ひどいわぎーしゅ。あんなにしてくれたのに」
「知らない!知らないぞ僕は!」
「つれないぎーしゅさま。きのうのことはわすれませんわ」
「忘れてくれー!っていうかこれは夢だ!夢だってことにしてくれー!!」
ギーシュ・ド・グラモンは、二度と以前のプレイボーイに戻れそうもなかった。夢と現実の中間の存在になり、永遠に二人の仲をさ迷うのだ。
そして、夢だと思っても目が覚めないので―そのうちギーシュは、考えるのをやめた。
なお、当日ギュスターヴと一緒に百貨店に行ってみる予定だったのだが、以上の理由によりギーシュは外出することはなかった。
519:鋼の使い魔(後書き) ◆qtfp0iDgnk
08/10/05 10:25:43 7PTOXt5k
投下終了。
…何故私は朝っぱらからこんな挑戦的な作品を投下しているのだろう?w
ぶっちゃけレーティングぎりっぎりが『幕間』には付きまといます。はい。
では、少し間を空けまして『ライブラリ』を投下します。
ライブラリは本編中に出てきた小道具を取り上げ、読者の皆様に作品理解を深める一助にしてもらおうとしたものです。
ですが基本的に読み飛ばしていただいても本編には差し支えません。そういう意味で『幕間』とスタンスとしては同じです。
少し半端ですが40分から投下します。
520:ゼロと双子の使い魔
08/10/05 10:35:20 v8JUEtyi
ちょっと2つ確認したいんだが
結構人物の会話よりも背景の描写が多くなってしまっているんだがこのままでもいいかい?
それとも会話メインの方がいい?
あと話ができたらすぐに投下する?それともしばらくためてから投下する?
521:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 10:37:33 QMqARXVl
>>468
同情するなら金を(ry
が召還されるのかと勘違いしてしまった
522:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 10:38:22 GmCzy0Gh
>>520
自分で判断したらいいと思いマース
523:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 10:41:16 izSvlrND
>>520
二度と来ないに一票
524:鋼の使い魔 ◆qtfp0iDgnk
08/10/05 10:42:21 7PTOXt5k
えー、投下していいのかな?
割と短めなのでざらっと投下させていただきます。
『1.ドラングフォルドの魔法書断片』
私は今、アングル地方という所に滞在している。
ここは固守的と思われるトリステインの中でも、比較的自由な空気を感じる事ができる。
というのも、ここは良質の海岸線を持っていて、海運が割と篤い。規模こそ小さいが、国を越えた物流があるらしく、ここに住む人々はそうやって周りの国々から考え方や新しい器機を得ているらしい。
滞在中、私の名前を聞いて町の顔役が挨拶に来た。
ゲルマニアで発掘プロジェクトに参加した事は情報に聡い人たちには知られているらしい。ここにやってくるまでにも、似たような経験をした。
顔役の一人はこの地区の寺院の管理を任されているのだという。私の研究に役立つかもしれない、と思い、私はその顔役の方の家に厄介になることにした。
(判読不明)
…どうやら彼は実践教義運動に対して好意的らしい。彼の書斎にはいくつかのそれらしい本が見つかった。…(判読不明)
滞在期間が長くなってきた。私は今、一つの教区の改革の変遷の中にいる。之を直に見ることは滅多にない。…(判読不明)…彼の奉仕活動の手伝いをする傍ら、寺院の中庭で遊ぶ子供達の世話を任された。
この地方は自由闊達な住民を疎んでいるらしい領主が討伐を怠るために、オークの数が馬鹿にならない。子供を外に出してやれないのだという。
小さな寺院の中庭で遊ぶ子供達は、体力が有り余っているのだろう、よく喧嘩を起こす。
親の仕事を手伝えず、遊びにも不満足を感じているらしい子供達は、よく私に話をしてくれとせがんでくる。
せがまれるたびに、私はいろいろな話をしたが、彼らは私の話す『魔法の使えなかった王様』の話をよく聞きたがった。…(判読不明)
525:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 10:43:11 /ALl1vDE
人のいい使い魔の人続き描いてくれないかなー
ジャンボにならないかなー
526:鋼の使い魔 ◆qtfp0iDgnk
08/10/05 10:44:23 7PTOXt5k
(判読不明)
…私も加わった自警団は過去のオークが出る範囲から当たりを付けた森に入った。
(以下判読不明箇所が続く)
~…近くに松明が燃えているのを確認してから、私が火の魔法でオークを焼き払うと、伏せていたらしい何匹かのオークが飛び出してくる…(判読不明)……
投げつけた杖にひるんだオークに私の脛がめり込み、オークの口から泡が吹き出た。何とか自警団の皆が森から抜けるまでの時間を稼ぐ為に、
私は久しぶりに拳を握りこんでオークの中に飛び込んだ。…(判読不明)
後日、私は教区の人たちに体術を教える事になった。習いに来た人たちの反応は様々だった。
特筆すべきは、庭遊びに飽きていた子供達がとても熱心に習ってくれていることだ。…(判読不明)
…彼は先日の集会で、実践教義に関しては現状を維持するということで決めたという。私はここの住民ではない。かりそめに軒を借りているだけだ。
だから彼らの決定に何かを言ったりはしない。少なくとも、教区の代表としては推奨も非難もしないのだという。
(判読不明。しかしここにペンで書かれた素描画が入っている)
…体術を習いに来る人が徐々に増えている。一人では指導が追いつかないので、出来のいい人に指導方法を教えながら進めている。
(判読不明箇所が続く)
…近頃、肺と心臓の発作が増えつつある。薬と術でごまかしているが、いずれ抜本的な治療をしなければならないだろう。
しかし、今ある金子ではそれも心もとない。教区の皆の手を煩わせる気も、ない。
(判読不明)
ここ数日は養生をしつつ、之とは別に筆を取っている。教区の皆が私が去った後も体術の鍛錬をしてくれるかはわからないが、もし、する気があるのであれば、
これが役に立ってくれるだろう…。
(判読不明)
今、私はゲルマニアの中部に向かう船の上にいる。以前知己を得た貴族に手紙を送った所、治療の当てを見つけてくれたらしい。
教区の皆は僅かながらの金子を包んでくれて、感謝に堪えない。
彼らには私の書いたいくつかの教本を遺していった。大事にしてくれると嬉しい。
泣きべそで私を見送ってくれた子供達の顔が目に焼きついて離れない…。
(文書はここで途切れている……)
527:鋼の使い魔(後書き) ◆qtfp0iDgnk
08/10/05 10:44:58 7PTOXt5k
投下終了。
朝っぱらから連続投下で申し訳ありません。
528:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 10:45:05 /ALl1vDE
支援
529:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 10:48:03 NH3OHI4A
鋼乙
なんというギーシュ無双www
いいぞもっとやれwww
GJ
530:ゼロと双子の使い魔
08/10/05 10:55:43 v8JUEtyi
じゃぁ出来次第投下します
というわけで11時くらいにひとつ投下します
531:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 10:57:19 f4UW+eYr
新作では加藤召喚が良かった。
双子は先が期待できる。
532:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 10:59:33 uCZp/0uW
質問するってのはここの空気を理解してないからだと思うんだ・・・
533:ゼロと双子の使い魔
08/10/05 11:00:04 v8JUEtyi
「いかん!!はなれr...」
二人の異変を感じ取ったコルベールがルイズの肩を掴みを二人から引き離そうとしたのである
掴もうとした右腕は宙をきった
「「きゃあああああああああああ!!!」」
少しはなれた生徒の一段にいたモモランシーとその友人と思われる数人の女子生徒から発せられた悲鳴でルイズは振り向いた
「な!?」
コルベールの右腕が宙をきったのである、そう右腕だけが
「せ、先生の腕が~!!」
コルベールから少し離れた地面に、人間の頭くらいの大きさの斧ここが戦場であれば"戦斧"と呼んでもいいくらいの代物が突き刺さっていたのである
一目瞭然誰が見てもこの二人の子供の男の子が投げた斧だ
悲鳴が上がるホンの一瞬目の前の男の子が身を屈めたまでしか見れなかったが直感的にそう感じたのだ
コルベールの右腕が地面に着地したあたりで自分自身に湧き上がる恐怖、今まで感じた事もない生命の危機を感じてルイズは腰を抜かしてしまったのである
泣き出しそうになった、もしくは気を失いそうになった
16歳の女の子じゃなくてもそれは、あまりのショッキングな光景だったからだ
しかし現実は非常であるルイズは背中に自分の背後にいる人物から自分に向けられる何かを感じ取ってしまったのである
振り返るとさっきまで自分より小さいはずだった子供たちは見上げるほど大きかった
尤もルイズが腰を抜かしてしまったから地面に倒れこむような格好になってしまったのが原因だがそんなことよりも目の前の子供たちだ
人一人の腕を吹き飛ばしたのにもかかわらず笑っている、それも満面の笑みだ
逆光の中でもわかるほどの笑み
これがどれだけの意味を成すのか、そして、目の前の男の子によって振り上げられた斧がどんな結果をもたらすのか
もう一切の判断力及び思考能力をルイズは失っていた―――
「きゃあああああああああああ!!!」
ゴドンッ!!
二人は悲鳴とともに仰向けに倒れてしまった
先ほど振り上げられた斧はルイズのわき腹近くに落ちそのままルイズは気を失った
失いつつある意識の中ルイズはなんとも不思議な感覚になりこうつぶやいた
「きれいね、空」
後から聞いた話だがその後二人も多少苦しんだあとすぐに気を失ってしまったそうだ
534:ゼロと双子の使い魔
08/10/05 11:03:09 v8JUEtyi
以上投下終了
なかなか文章を書くというのは難しいと思った
>>532
すまなんだ
いつもまとめをろmっているだけだからスレの空気にまだなじんでない
535:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 11:05:04 m7IGkh/R
まとめをろmってないで文をまとめて投稿しなさい。
536:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 11:08:10 1+sOjIL1
>>534
だったら何もせずにスレの空気を学ぶところから始めれば良いだけじゃないか?
537:ゼロと双子の使い魔
08/10/05 11:11:56 v8JUEtyi
>>535
なるべくまとめてから投下するようにします
>>536
了解
スレの空気を学びます
しばらく投下は自重します
538:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 11:12:55 f4UW+eYr
起承転結を考えて話を組み立てれば……ネタは悪くないと思うんだ
539:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 11:23:28 QHzRFIJ0
フロウ氏執筆再開待ってたよー
題材がPSOだけにもの悲しい結末を感じさせる。ルーンが胸にあるのも伏線かな?
続き期待してます。
540:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 11:28:04 m7IGkh/R
>>537
待ってますので
後、モモランシーになってますね。
541:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 11:45:44 NH3OHI4A
怪異いかさま博覧亭より博覧亭ごと召喚。
ルイズと貧乳同盟を結成する蓮花
シエスタと癒し空間を形成する蓬
妖怪を見る度タバサと仲良く気絶する八手を幻視した。
ただ榊の性格上話が思いっきり別方向に行きそうな悪寒(妖怪的な意味で)
542:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 11:46:47 m7IGkh/R
ドラクエの最初の村の住人の
「ここは何々の村だよ。」
しか喋らない奴召喚したらカオスだな。
543:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 12:05:57 V523HYLR
>>542
確か小ネタで『武器や防具は装備しないと意味が無いよ』の村人が召喚されてた気が。
ちゃんとガンダールヴやってたよ、それしか喋れないけども。
544:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 12:44:21 aDzAH1AY
社長乙!
寝起きなのに頭が回ってるなルイズ。うぼあーとか言ったくせにw
545:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 13:02:38 z83Qlrt5
蛇の人はどうなったんだ?
546:ゼロの超律 ◆v98fbZZkx.
08/10/05 14:06:00 6FhsQgzY
心臓バクバク言わせながら本スレ初投下行って見ます。
時間は20分くらいからで。
547:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 14:08:26 FOf/AAzj
支援~
肩肘張らずにレッツトライの勢いで。
548:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 14:17:34 JG6zaz9q
支援しますので、がんばって下さい。
549:ゼロの超律 ◆v98fbZZkx.
08/10/05 14:20:34 6FhsQgzY
「うーん……」
太陽の光と、何か大きなモノでわき腹をつつかれたような衝撃を受けることで、その日マグナの意識は覚醒した。
ぼやける視界をそのままに、大きく伸びをして野宿による肩のこりをほぐす。
あくびをしようと口に手を当てたところで、再び背後から、今度は頭を小突かれた。
マグナはうるさいなあ、と思いながら視線を衝撃の元凶に向けた。
「きゅい」
……。
沈黙するマグナ。
ようやく鮮明になった彼は、何か、とてつもなくでっかい生き物とばっちり目が合っていた。
からみあう視線と視線。好奇の色を隠そうともしない、でっけえ生き物の瞳。
「……?」
「きゅい?」
首をかしげるマグナ。つられて首をかしげるでかいの。
目の前のそれは、立派な翼に堂々とした体躯をもち、見事なまでに青い鱗が鮮烈で、パッと見、トカゲのような顔だった。
ドラゴンである。
朝、目覚めたら目の前にドラゴンがいた。しかも目が合った。
悩むマグナ。寝ぼけているので、即座に状況が理解できなかった。
具体的には、ドラゴンの好奇の瞳が自分に対する食欲なんじゃないかなー、と想像するのに十秒ほどかかった。
「うわーっ!???」
「きゅいきゅいー!?」
きっかり十秒。ようやく音をたてて、「ずざざ」と後ずさるマグナ。
ドラゴンびっくり。
マグナは反射的に腰の剣に手を伸ばしたが、まくら代わりにしていた剣は、鞘に入ったままドラゴンの足元に転がっていた。
色々とダメである。
「きゅいきゅい」
「ははは……は、話し合おう!」
「きゅいきゅい」言いながらジリジリと迫ってくるドラゴンに、わりと本格的に生命の危機を感じて後ずさるマグナ。
その実、ドラゴンは突然の大声に文句を言っているだけなのだが、あいにくマグナはドラゴン語を解さなかった。
しかし、ついに壁にまで追い詰められたマグナが、話し合おうと言った瞬間、ドラゴンは前進を止め、なぜかキラキラと目を輝かせて三倍速で「きゅいきゅい」鳴き始めた。
もちろん、三倍速だろうが三分の一だろうがマグナには「きゅいきゅい」としか聞こえない。
なので、まだ朝も早く、野宿と言うこともあっていい加減に眠いマグナは、増大する睡眠欲に引っ張られた。
(危険は、なさそう、だよな……)
そう楽観的に判断し、マグナはゆっくり目を閉じて睡魔の甘美な誘惑に身を任せ……。
「きゅいっ!!」
「あぐっ!??」
そして、ドラゴンの強靭な顎で額を一撃され、問答無用に覚醒したのであった。当然、涙が出るほど痛い。
マグナが鼻の奥のきな臭さと、額部の鈍痛に目を白黒させていると、ドラゴンは機界ロレイラルの銃器「ガットリングガン」のような勢いで「きゅいきゅい」と鳴き始めた。
突然ドラゴン語が翻訳されるような都合の良い事はなかったが、話はちゃんと聞けと抗議していることは、マグナにも想像できた。
550:ゼロの超律 ◆v98fbZZkx.
08/10/05 14:24:09 6FhsQgzY
「ごめん、まだ眠くてさ」
「きゅい……」
よく居眠りを注意されていたことを思い出して、マグナが小さな言い訳をしつつ謝ると、ドラゴンはしょぼんと頭を下げてしまった。
「あ、落ち込むなって。……起きちゃったから付き合うよ、それと今度はちゃんと聞くから」
そう言いながら、マグナが鼻先をなでてやると、ドラゴンは再び目を輝かせて「きゅいきゅい」言い始めた。
やはりマグナには「きゅいきゅい」としか聞こえないのだが、今度は聞く姿勢をとったためか、感情のようなものを感じることができた。
その感情に応じてマグナが適当に相槌を打つと、ドラゴンの方も素直な反応を返してくれる。そうなると、少し楽しくなってきた。
頭いいなお前などと言いつつ、その奇妙な「会話」を続けるうちに、マグナは自分の周りの景色が変化していることに気が付く。
いつの間にか、複数の幻獣や大型動物の類が、うるさそうにしながらもマグナの周囲の地面でくつろいでいたのである。
どうやら、自分が彼らの住居に寝床を求めたらしいことをマグナが気付くのに、それほど時間は要らなかった。
「あ、あの」
「うん?」
マグナがドラゴンの相手をしていると、背後から控えめな声がかかった。
厩舎に入ったことをとがめられるかと、マグナが覚悟をして振り向くと、背後には一人の少女が立っていた。
黒髪とメイド服が特徴の、清楚な感じがする少女だった。少女は幻獣が怖いのか、マグナから十歩ほど離れた位置にいる。
「君は?」
「は、はい。 学院でご奉公をさせていただいております、シエスタと申します。そ、その、厩舎が騒がしかったので……」
「あ、ごめん! もしかして起こしたのかな?」
「い、いえっ! そんな、貴族の方にご心配をいただくほどのことではなく……あうあうあう」
早朝から騒ぎすぎたのかと思ってマグナが頭を下げると、おどおどしていたシエスタは、今度は怒涛の勢いで恐縮しはじめた。
彼女の言葉によって貴族と勘違いされたことを知って、マグナは自分の姿を確認する。
くたびれた着衣はわらまみれで、触れてみた髪には寝癖がついていた。
貴族とは間違えようがない格好だった。
「ええと、シエスタさん?」
「し、シエスタとお呼び下さい!」
「はあ、じゃあシエスタ。俺は貴族じゃないよ?」
「え?」
ポカンとした様子のシエスタを前にして、マグナはとりあえず立ち上がると、まずは衣服についたわらくずをポンポンと払った。
「そもそも、こんな朝早くからわらまみれでドラゴンと遊んでいる貴族なんて居るわけないって」
「は、はあ……でも、それならあなたは一体?」
「名前はマグナ。昨日召喚されたルイズ、様の使い魔ってことになると思う」
マグナがとってつけた「様」とともに主人の名を告げると、シエスタはようやく納得したように表情を和らげた。
ゼロのルイズが平民を召喚したことは、同じく平民であることも手伝って、使用人の間でも有名だったのである。
「ミス・ヴァリエールが平民の使い魔を呼び出されたことは聞いていましたけど、本当だったんですね」
「はは。呼び出された日の内に部屋からたたき出されて、ご覧の通りだけどね」
おかげでわらまみれ、と肩を落としたマグナの様子に、シエスタはくすくすと可愛く笑った。
きゅいきゅいと鳴き声が聞こえたので、「友達は出来たけど」と付け足すと、ドラゴンが嬉しそうに鳴いた。
551:ゼロの超律 ◆v98fbZZkx.
08/10/05 14:25:03 6FhsQgzY
「竜になつかれちゃうなんて、マグナさんは不思議な方ですね」
「うーん、同じ使い魔だからかな?」
一瞬、自分が召喚師だからかなと考えたマグナであったが、口には出さずに別のことを言った。
それは、マグナの中に召喚師を名乗ることへの抵抗感があったためなのかもしれない。
「ところでシエスタ。顔を洗いたいんだけど、水の使えるところを教えてもらえないかな?」
「はい、いいですよ。そのままでミス・ヴァリエールにお会いになったら、マグナさん怒られちゃいますから」
クスクスと笑うシエスタに、マグナは恥ずかしそうに頬を指でぽりぽりとかいた。
「こっちです」ときびすを返したシエスタを追って、マグナは目覚めたばかりの右足を前に出す。
背後から聞こえる、名残を惜しむようなドラゴンの声に手を振って返しながら、マグナは昇ったばかりの太陽を見上げて、一日の始まりを噛み締めた。
552:ゼロの超律 ◆v98fbZZkx.
08/10/05 14:26:23 6FhsQgzY
以上です。
専用ブラウザが使いこなせず変なところで切ってしまいましたorz
あまり長くないですが、このくらいの容量でちまちま上げていきます。
553:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 14:30:21 iwyxUISH
sienn
554:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 14:31:12 iwyxUISH
うわ、支援しそこねた。
乙でした、イイまぐなですね!
555:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 14:38:20 vst52oE0
スミマセン、元ネタは何ですか?
556:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 14:42:42 YVv7Alt1
サモナイ2のマグナ、らしい
まとめに何話かあるってことは、これまでは避難所連載だったのかな?
557:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 14:45:38 oF8ENVEd
乙
原作版(小説)オーフェンで希望したくなった。
558:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 15:03:20 HqZrT5aL
希望なんてウザイだけなんだから一々言うなよ
559:ウルトラ5番目の使い魔 第16話
08/10/05 15:05:38 tob/mskW
こんにちは、では私もこれから第16話投下開始したく思いますが、前方進路よろしいでしょうか。
許可がいただければ15:15より投下開始します。
今回はタバサの冒険形式でいきます。
560:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 15:08:24 iwyxUISH
おお、すばらすぃい、支援です!
561:ウルトラ5番目の使い魔 第16話 (1/8)
08/10/05 15:16:42 tob/mskW
第16話
間幕、タバサの冒険
第一回、タバサと火竜山脈 (前編)
毒ガス怪獣ケムラー 登場!
ここで物語の時系列はややさかのぼる。
才人がツルク星人が気がかりになり、深夜学院を飛び出したとき、走り去る馬の姿を見ていた者がいた。
「きゅい、こんな夜更けにわたし達以外に誰なのね。あ、あれはギーシュさまをやっつけた平民の男の子なのね。
でもあんなに急いでどうしたのかね?」
「知らない……それより目的地が違う」
奇妙に陽気な声と、つぶやくように静かな声は、才人の耳に届くことなく彼とは別の方向へと消えた。
その翌日、トリステインの南方の国、ガリアの首都リュティス
人口30万、ハルケギニア最大のこの都市の郊外に、巨大で壮麗なるヴィルサルテル宮殿がある。
この宮殿の、中心から離れた別荘といった感じの小宮殿『プチ・トロワ』に昨晩の学院の声の主はやってきていた。
「花壇騎士七号様、おなり!」
衛士の声に続いて、広間に姿を現したのは、水面のような青い髪と瞳を持った小柄な少女、タバサであった。
そして、一段高い壇上からタバサをもう一対の眼が見下ろしていた。その髪と瞳の色はタバサとまったく同じで、
ふたりに血縁関係があるのは容易に想像できる。ただし、その瞳に宿る光は澄んだ湖の湖畔を思わせる青さを
持ったタバサとは対照的に、荒れた曇天の海のような黒ずんだ青に見える。
対極の光を宿した二対の青い瞳は、時間にしておよそ瞬き5、6回分ほど視線を合わせていたが、沈黙を
破って空気を震わせたのは、上段にいる暗い目の少女のほうであった。
「ふんっ、ようやく来たかい。ったく、何十回見ても安物の絵画見てるみたいで変わりばえしないねえ。
いっそのこと同じ顔の仮面でもつけたらどうだい、そうすりゃあたしもつまらないもん見なくて済むんだけどねえ」
いきなりの暴言、とても宮廷内で吐かれる言葉とは思えないが、それを咎める者はいない。それは声の主が
この場でもっとも強い権威を持つということに他ならない。
彼女の名はイザベラ、この国の王ジョゼフの娘にしてプチ・トロワの主、タバサから見れば従姉妹に当たる。
だが、そうすると王族の血縁であるはずのタバサがなぜこうして下僕のように彼女にかしずかなければ
ならないのか、それはこの国の中にも巣食う欲望と怨念に満ちた政争ゲームの、その敗者の立場にタバサの
一門はいたからで、特にそうした者への勝者の一族からの感情は、時に残酷さえ超えて禍々しい。
そして、今タバサが置かれている立場は、国の公にできない難題を秘密裏に処理する暗部の騎士団、
その名も北花壇警護騎士団といい、その一員の騎士七号が彼女の肩書き、それはいつ死んでもおかしくない
危険な仕事であり、彼女にあからさまな嫌悪と敵意を抱く従姉妹姫は、常にもっとも危険で難解な任務を
与えるのだった。
「…………」
「ちっ、反論のひとつもしないんだから、人形どころか空気に話しかけてるみたいだよ。まあいい、今回の
お前の仕事だ、受け取りな」
無造作に放り出された書簡をタバサは拾い上げて一瞥した。
562:ウルトラ5番目の使い魔 第16話 (2/8)
08/10/05 15:18:24 tob/mskW
「了解した」
「……おい、お前それ本気で言ってるんだろうな。字が読めないわけじゃないだろ」
顔色一つ変えずにそう言ったタバサに、イザベラは歪めた口元をぴくぴくと震わせて言った。しかしタバサは
まるで今晩の食事のメニューを言うように、指令書の内容を復唱してみせた。
「火竜山脈周辺で、最近頻発している火竜の人里への襲来の増加の原因を調査し、これを解決させる。および、
降下してきた火竜の討伐」
「あんた、わかってるのかい。火竜はハルケギニアじゃエルフに次いで敵にすることが危険とされてるほど危険な
幻獣、その炎のブレスは優に炎のトライアングルクラスに匹敵する。飛翔能力は高く、さらに皮膚は鉄の硬度にも
達するという。火竜山脈にはそんなのが何百匹と巣くってるんだぞ」
イザベラの言葉は誇張でもなんでもない事実である。普通のメイジならトライアングルクラスでも5人で1匹を
どうにかできるかどうか、普通なら「死んでこい」と言われるに等しい内容であるのに、眉一つ動かさないタバサに、
てっきり恐怖におののくであろう姿を想像していたイザベラは、自身の下卑た想像を外されて歯噛みした。
「あーあー、もういい。さっさと行きな、言っとくけどこの時期火竜は産卵期で気性が荒くなってるから精々
気をつけることだね。健闘を祈ってるよ」
忍耐力の限界に来たイザベラはそう言ってタバサを追い出すと、ちっと舌打ちした。
しばらくして窓の外を見ると、タバサが数ヶ月前に召喚したという使い魔の風竜に乗って飛んでいくのが見える。
イザベラにとっては、それが忌々しく、なによりうらやましかった。
(なんであいつばっかり魔法の才が……)
彼女は王族であるが、若くしてトライアングルクラスに上り詰めたトリステインやアルビオンの後継者らと違い、
未だにドットクラス、最低限の魔法しか使いこなすことができず、それがタバサに対して強いコンプレックスと
なっていた。それがタバサへの執拗な嫌がらせの原動力となっていたのだが、どんな非道な言葉にも命令にも
黙々として従うタバサを相手に、その陰惨な欲求が満たされたことは一度として無かった。
イザベラは、メイドが運んできたロマリア産50年物の極上ワインのグラスを取り上げ、一口すすると、ぺっと吐き出した。
「まずい」
彼女は、どうせ火竜山脈に行かせるなら、ついでにそこに生息する極楽鳥の卵を採って来させればよかったと
思ったが、今更呼び戻すこともできず。風竜が見えなくなるまで窓の外を見ていた。
「使い魔か……サモン・サーヴァント、そういえばまだやったことはなかったな……」
火竜山脈はガリアの南西、隣国の宗教国家ロマリアとの国境線にそびえ立つ6千メイル級の壮大な山脈である。
しかし、そこは地球で言うアルプスのような白銀の雪に覆われた寒冷の地ではなく、火竜の名が現すとおりに、
絶え間なく噴出する溶岩と噴煙により黒々とした地肌を現す、活火山の灼熱地獄であった。
タバサはシルフィードを一昼夜飛ばし、翌日の昼間には山脈近辺の街までやってきていた。
そこで食糧調達と、情報収集をおこなったわけだが、なるほど火竜が頻繁に襲来するというのは本当のようだった。
街のあちこちに黒くすすけた家や、全焼して土台しか残っていない家がちらほら見え、屋上に立って山脈方向を
見張っている人間の数も5人や10人ではない。
だが肝心の火竜が降りてくる原因については有力な情報を得ることができなかった。
563:ウルトラ5番目の使い魔 第16話 (3/8)
08/10/05 15:19:27 tob/mskW
竜は幻獣の中では頭のいいほうに入り、人里に近づけば攻撃を受けることを知っている。人間の力では倒すことは
困難でも多数を持って目や口を狙い、撃退することはできる。餌場としては大変不適当なのに、わざわざ困難を
承知で降りてくるほどの何かが山脈に起きたのか。
けれど、その何かがわからない。こんなときに自分から火竜山脈に乗り込んでいこうなどという物好きはいない
からだ。ただ、ここ最近小さな地震が頻発しているということだけはわかった。
「火山活動が活発になり始めたから、地上に降りてきた……?」
タバサはそう推測したが、すぐにそれを打ち消した。多少火山活動が活発になったところで、熱さを好む
火竜にはむしろ望むところのはずだ。
タバサは、街で得られる情報に見切りをつけるとシルフィードに乗り、火竜山脈を目指して飛び立った。
やがて遠目でも火竜山脈の黒々と切り立った峰々と、その上を乱舞する火竜の群れの姿が見えてきた。
「火竜の縄張りの外側ぎりぎりを飛んで、空からできるだけ観察してみる」
シルフィードにそう命じると、タバサは街で買い求めた望遠鏡を取り出した。するとシルフィードはいやいやを
するように首を両方に振ってタバサに"言った"。
「もう、お姉さまも無茶言うのね! 火竜はすごく気が荒い上に貪欲なのね。うかつに近づいたりしたら、
それこそ何十匹もやってくるのね!」
なんと、竜のシルフィードがしゃべったではないか。
「でも、あなたよりは遅い……風韻竜はハルケギニアで最速の生き物」
「そ、そりゃそうだけどね! 怖いものは怖いのね、お姉さまも一度目を血走らせた火竜の群れに追われて
みなさいなのね。尻尾のとこまで炎のブレスの熱さがやってくるのを感じたら、そんなことは言えないのね、
わたしたち韻竜は知識は発達してるけど、戦う力はたいしてないのね!」
そう、シルフィードはただの風竜ではない。ハルケギニアではすでに絶滅したと言われている、人間並みの
知能を有する伝説の竜族、風韻竜だったのだ。
ただし、表向きはただの風竜ということにしてある。幻の絶滅種などということが世間に知れたら、周りに
何をされるか分かった物ではないからだ、ルイズ達の前では一切しゃべらなかったのはそのためだ。
ただし、その反動からか、もしくは生来のおしゃべり好きか、タバサとふたりきりのときは無口な主人の分も
合わせてよくしゃべる。
「もう、もう、お姉さまは本当に火竜の怖さがわかってないのね。そんなんだからあの馬鹿王女がつけあがって
無茶な命令ばかり言い出すのね。そのうち吸血鬼とかエルフとか、そんなのを相手にさせられたらどうする気なのね!!」
タバサはシルフィードの抗議を右から左に聞き流すと、望遠鏡をかまえて山脈の頂上付近を念入りに観察した。
噴火口あたりから噴煙が噴出していることを除けば、特に異常はない。ただし、もしタバサが以前にも
この火竜山脈を訪れていたことがあったとしたら、宙を乱舞する火竜の群れが噴火口を大きく避けて
飛んでいたのに気がついただろう。
564:ウルトラ5番目の使い魔 第16話 (4/8)
08/10/05 15:20:31 tob/mskW
次に山脈の中腹あたりに目をやったタバサは、そこの明らかな異変に気がついて目を細めた。
また、シルフィードもタバサのそんな様子に気づき、背中の主人に声をかけた。
「どうしたのね。お姉さま?」
「まだ初夏なのに、木々が全部枯れてる。調べてみる、あのあたりに下りて」
「はいはい、まったく韻竜使いが荒いご主人様なのねー」
シルフィードはぶつくさ文句を言いながら、火竜を刺激しないように低空を飛んで中腹へ向かった。
だが、下りてみると中腹の山林や草原の状況は想像以上にひどいものだった。
「ひどいのね。なにもかも死に絶えてるのね……」
草木は一本残らず茶色に変わり、地面にはあちこちに鳥や鹿、ネズミから昆虫にいたるまであらゆる動物の
死骸が横たわっていた。
タバサは、きゅいきゅいと落ち着き無く周りを見回しているシルフィードを置いておいて、無表情のまま
地面に横たわっている鹿の死骸を検分して、それがのどのあたりをなにかにこすりつけたあげく、血を吐いて
死んだことに気がついた。
「お姉さま、何かわかったのかね?」
「窒息死してる、呼吸器官を破壊されて息ができなくなったのね。周りもみんなそう、原因は……」
「な、なんなのね? もったいぶらずに早く言ってなのね!」
「恐らく、毒」
タバサは喉の奥から搾り出すようにその忌まわしい単語を口にした。『毒』、その言葉が脳裏をよぎる度に、
彼女の胸に熱い怒りの炎が湧いてくる。しかし、今はそんなことを気にしている場合ではない。問題に
するべきは、これだけの生き物を殺した毒の正体である。
シルフィードは、タバサに毒と言われてうろたえていたが、やがてどうにか落ち着くと、人間に劣らないという
韻竜の知識を総動員してタバサに聞いてみた。
「ふぃーびっくりしたのね。けど、ここは火山なのね、ときたま毒の煙が噴出すのはあることじゃないのかね」
「……」
タバサは即答しなかった。確かに火山は時としてふもとの街一つを全滅させるほどの火山ガスを噴出する
ことがある。常識で考えればシルフィードの言うとおりだろう。また、毒性ガスのせいで火竜が山脈にいられなくなり、
ふもとに降りてきたと説明もつく。けれども、どうにも釈然としなかった。
これといって、物的証拠があったわけではない。しかし、火山から吹き出す有毒ガスが致命的な毒性を見せるのは、
窪地などに空気より重いガスがたまって濃度が濃くなった場合などがほとんどで、風通しのよい山腹でこれほどの
生物を殺すとは、よほど濃度の濃いガスが一度に大量にやってきたとしか考えられない。そして、それだけの
ガスを発生させたにしては火山はおとなしすぎる。
タバサが、どうにも自分を納得させられずに、石像のように固まって考え込んでいると、元々こらえ性のない
シルフィードがしびれをきらしてわめいてきた。
「もー、お姉さまったら、これは自然のせいなんだから人間にはどうしようもないのね。いえ、人間どころか
精霊の力、人間の言う『先住の力』でもこればっかりは止められないのね。大地の怒りには何人も逆らえません、
お姉さまはシルフィより頭がいいけど、これだけは間違いないのね」
一気にまくしたてたシルフィードのご高説をタバサはやはり黙って聞いていたが、やがてどうしても納得の
いく答えを出せなかったらしく、短くため息をつくと、再びシルフィードの背に乗り込んだ。
565:ウルトラ5番目の使い魔 第16話 (5/8)
08/10/05 15:21:50 tob/mskW
「もう少し調べてみる。飛んでいける限り山頂に向かって」
「えーっ、ほんとお姉さまはあきらめが悪いのね。火竜に目をつけられたら大変な……のっ!?」
シルフィードはタバサへの抗議を中断せざるを得なくなった。突然、足元から突き上げるような衝撃が伝わって
きたかと思うと、彼女達の立っている山腹が激しく揺れ動き、立ち枯れた木々がメキメキと音を立てて倒れていく。
「地震!? 大きいのね!!」
「飛んで! 早く!」
慌ててシルフィードは揺れ動く地面を離れて宙へ飛び立った。その瞬間、槍のようにとがらせた枝を振りかざした
枯れ木が、今までシルフィードのいた地面に覆いかぶさってきた。一瞬遅かったらふたりとも串刺しになっていただろう。
崩壊していく山林を見ながら、ふたりはこれが並の地震ではないことを瞬時に悟った。
「ふぃー、危なかったのね。けどまさか、噴火なのかね!?」
「かもしれない。離れて」
二人は同時に火口を見上げた。異変に気がついた火竜や極楽鳥が次々飛び立っていくのが遠目でもはっきり見える。
普段なら恐ろしいものからはさっさと逃げ出すシルフィードであったが、今回は好奇心のほうが勝るようで、空中に
静止して噴火が始まるのかと息を呑んで山頂を見つめていた。
だがやがて山頂から吹き出していたのは、赤いマグマや黒い岩石ではなく、真っ白い霧のようなもやであった。
「あれは……水蒸気? いや、あれは!?」
そのときタバサは見た。もやの中を動く二つの光る点を。
さらに、もやの中から、まるでガマガエルの声を数倍野太くしたような唸り声が響き、次の瞬間、風が吹いて
もやを一気に吹き払ったとき、二人はそこに信じられないものを見た。
「か、か、か、か、かかか、怪獣なのねーーっ!!」
シルフィードの叫びは、それを極めて簡潔かつ具体的に表していた。
姿は、全身灰色で四足歩行、トカゲのように地面をはいずっているが、背中には頑丈そうな甲羅がついていて、
背面を完全にガードしている。頭はカエルをさらに扁平にしたようにつぶれていて、大きく裂けた口の上に
ぎょろりと目がついている。先程のもやの中に見えた光はこいつの目玉だったのだ。だが、何よりもそいつの全長は
少なく見積もっても30メイルを超え、火竜がまるで小鳥のように小さく見える。
もし、この場に才人がいたら、そいつを見て。
「ケムラーだ!!」
と、言ったに違いない。
地球では、怪獣頻出期の初期に大武山に出現し、初代ウルトラマンや科学特捜隊と激戦を繰り広げた怪獣。
先程の地震はこいつが地上に出てくるために引き起こしたものだったのだ。
ケムラーは、のそのそと火口から這い出ると、山肌をゆっくりと下り始めた。
だが、その様子は当然火竜たちの目に触れる。自分達の縄張りを荒らされた彼らは、翼を震わせ、喉から
うなり声を上げて怒りを露にし、住処を荒らす不貞な侵入者に向かって一斉に襲い掛かっていった。
「あわわ、火竜たち、怒ってるのね。あっけないけど、あの怪獣もう終わりなのね。百匹以上の火竜に
襲われたら、炭も残さず灰にされちゃうのね」
シルフィードは、火竜に取り囲まれるケムラーに同情するようにつぶやいた。だが、シルフィードは大事な
ことを忘れていた。ケムラーが出てきたのは火山の火口なのだということを。
566:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 15:22:48 X9UBZtNJ
支援
567:ウルトラ5番目の使い魔 第16話 (6/8)
08/10/05 15:22:58 tob/mskW
そして次の瞬間、火竜たちの口から一斉に炎のブレスが吐き出され、ケムラーの全身を影さえ見えなくなる
くらいに火炎が覆い尽くした。
「大トカゲの丸焼き、一丁あがりなのね」
のんきそうにつぶやくシルフィードの見ている前で、次第にケムラーを包んでいた火炎が収まっていく。
そしてそこには、先程までとまったく変わらない姿のケムラーが、平然と煮えたぎった岩石の上に居座っていた
のである。
「ななな、なんなのねあの怪獣、岩をも溶かす火竜の炎を浴びて無傷だなんて、信じられないのね」
「……生き物の常識を超えてる。まさに、怪獣」
シルフィードもタバサも、その怪獣のあまりにも生物の常識からかけ離れた光景に驚かずにはいられない。
生き物を超えた生き物、それこそが『怪獣』と呼ばれる生物なのだ。
だが、効く効かないは別として『攻撃を受けた』という事実は、ケムラーの防衛本能をしたたかに刺激していた。
突然、ケムラーの背中の甲羅が、昆虫の羽根のようにがばっと空へ向けて割れて跳ね上がり、ケムラーは
火竜の群れに向けて大きくうなり声を上げた。威嚇しているのだ。
けれど、空を舞う火竜にとって、いかに大きく頑丈であろうと、地を這いずるだけのトカゲを恐れる必要はない。
彼らは、生意気にも吼えてくる相手に向かって威嚇し返してやろうと、ケムラーの正面に集まった。
その驕りが、破滅をもたらすとも知らずに。
ケムラーは、火竜が集まったのを見ると、大きく口を開いて火竜たちに向けた。すると、口の中が一瞬稲光の
ように発光した直後に、煙幕のような真っ黒い煙が放たれて、瞬く間に群れのほとんどを包み込んでしまった。
「煙!?」
てっきり炎でも吐き出すのかと想像していたタバサやシルフィードは、いったい何が起こったのかすぐには
理解できなかったが、煙を浴びた火竜たちが撃たれたツバメのように力を失い、バタバタと地上に落下して
いくのを見ると、タバサは血の気を無くしてシルフィードに怒鳴った。
「逃げて!!」
「えっ、な、なんなの!?」
「逃げて、風上へ向けて、早く!!」
「わ、わかったのね!」
訳の分からぬままシルフィードは全速でその場から離脱して風上へ回った。風韻竜であるシルフィードに
とって、風向きを読むなど児戯に等しいが、普段からは考えられないタバサの慌てようにさすがに無関心
ではいられなかった。
「これでいいのね? でも、なんなのね?」
タバサは地上に墜落した火竜の群れを杖で指した。すでにほとんどが絶命しており、その惨状は目を
覆わんばかりだった。泡を吹いて倒れているもの、白目を向いて血を吹いているもの、なかにはまだピクピクと
痙攣しているものもいたが、やがてすべて動かなくなっていた。
「猛毒の煙……あれを浴びたらひとたまりも無い」
「毒!? ということは、森を枯らしたのも、動物たちを殺したのも!!」
「あいつの仕業……間違いない」
ふたりは憎憎しげに前進を再開したケムラーを睨みつけた。
ケムラーの別名は『毒ガス怪獣』、奴の口から吐き出される高濃度の亜硫酸ガスは生き物を殺し、大地を
腐らせ、空を濁らせる。その猛威は過去も、大武山周辺の生態系を壊滅させ、大武市を死の町にしかけたほどだ。
568:ウルトラ5番目の使い魔 第16話 (7/8)
08/10/05 15:24:01 tob/mskW
だが、このまま奴をふもとに降ろしたら近辺の街はおろかガリア全域が危険にさらされる。意を決したタバサは
杖を握り締めた。
「あいつに後ろから近づいて」
「えっ、お姉さま、もしかして……やる気なのかね?」
そんな冗談でしょうと聞き返したシルフィードに、タバサは思いっきり真顔でうなづいてみせた。
「じょじょじょ、冗談じゃないのーね!! 今火竜の大群が全滅させられたの見たでしょう!! どこをどうしたら
戦おうなんて考えがでてくるの!? もうこれは騎士の領分を越えてます、軍隊を呼ぶしかないでしょう!!」
「ガリア軍全軍が集まったとして、あれに勝てると思う?」
うっ、とシルフィードは言葉に詰まった。たった一匹の超獣相手にトリステイン軍全てが敗退したのは、
シルフィード本人も見てきている。ましてやあの毒ガスの威力、人間ごとき何十万集まろうと、呼吸をしなければ
ならない以上勝ち目はない。
「それに、わたしの任務は、どんな理由があろうと失敗は許されない」
さらに、タバサは強い意志のこもった声で言った。
タバサの北花壇騎士という立場は、国の暗部を担当するだけに、どんな仕事でもできませんとは言えない。
第一、王位継承戦に敗れ、暗部の仕事でかろうじて命脈を保っているタバサが、仮に一度でも失敗したら、
イザベラをはじめとする彼女に敵対する王宮の勢力は、それをたてにタバサからその生命を含む全てを
奪い去ることだろう。
だがそれとこれとは話が違う、シルフィードは悲しそうな声で、もう一度だけタバサに聞いた。
「じゃ、じゃあ、軍隊でも敵わないっていう、そんな相手にお姉さまは勝てると思ってるの?」
「それをこれから試してみようというの」
シルフィードは頭の上から氷の塊を落とされたような衝撃を感じた。
「あー、シルフィは目の前が真っ暗になってきたのね。きっとこれは夢なのね、今頃本当のシルフィはやわらかい
わらの中で気持ちよく寝てるのね。そして朝になったら、お日様におはようって言うのね……って、痛っ!!」
タバサは杖の先で思いっきりシルフィードの頭をこずいていた。
「大丈夫、起きてる起きてる……心配しなくても、後ろからなら毒煙は受けないし、あいつの首は後ろを向けない」
言外に「行け」と言っているタバサに、シルフィードは心底がっくりしたが、仕方無しにその指示に従うことにした。
「シルフィはときどき自分がハルケギニア一不幸な竜なんじゃないかと思うのね。でも、お姉さまはどうせシルフィが
いなくてもやる気なんでしょう。はいはい、そんなお姉さまをシルフィはほっておけません。こんなお人よしな韻竜を
使い魔にできたことを始祖とやらに感謝するがいいのね。じゃあ、いくのねーっ!!」
長い独白の後、シルフィードは急上昇すると、ケムラーの真後ろ、山頂方向から一気にケムラーに接近した。
たちまち、怪獣の巨体が眼前に迫ってくる。タバサは呪文の詠唱を始め、攻撃目標を定めた。
選択した攻撃呪文は『ジャベリン』、氷の槍を作り出し敵を串刺しにする魔法。先の火竜の攻撃で、怪獣の
皮膚が熱に対して極端なまでの防御力を持つことを把握したうえで、物理的に皮膚を打ち抜くのが狙い。
そして目標とすべきは、比較的皮膚が薄いと思われる尻尾の付け根。
569:ウルトラ5番目の使い魔 第16話 (8/8)
08/10/05 15:25:14 tob/mskW
目標の真上に出たとき、タバサは小さな目を見開き、渾身の力で完成させた全長5メイルにもなる巨大な
氷の槍を打ち下ろした。
だが、ジャベリンはケムラーの皮膚に1サントも刺さることなく、先端からぐしゃりとつぶれて、美しいがまったく
無価値な氷の破片へと姿を変えてしまった。
「!?」
タバサは一瞬自分の目を疑った。数十サントの鉄板も打ち抜けるほどのジャベリンがまったく通用しない。
怪獣の防御力を完全に見誤っていたことに彼女は遅かれながら気がついた。だがそれは彼女の責任では
ない。ケムラーは鈍重な外見に反して、ジェットビートルのミサイル攻撃はおろか、ウルトラマンのスペシウム光線
さえ跳ね返した恐るべき経歴を持つ怪獣なのだ。
ただ、タバサが自分を失っていたのは、時間にしてほんの刹那のあいだだけだった。
戦いにおいて予想に反したことが起こるのは珍しいことではない。彼女はすぐに、自分の攻撃がこの怪獣には
通じないことを悟って、シルフィードに離脱するように命じた。
しかし、効かなかったとはいえ攻撃を受けたことに気がついたケムラーは、尻尾を持ち上げると、二股に分かれている
その先端をシルフィードに向けた。
「避けて!!」
とっさにそれが攻撃を意味すると察したタバサは、シルフィードの右の翼の付け根を叩いて叫んだ。
瞬間、怪獣の尾の先端から白色の光線が放たれふたりを襲ったが、タバサのおかげでシルフィードは間一髪のところ
で、右旋回でそれをかわした。だが、外れた光線は山肌をえぐり、固い火山岩でできたそれをバラバラに粉砕してしまった。
「あ、危なかったのね……」
どうにか攻撃の届かない高空まで逃げ延びたシルフィードは、寿命が100年は縮んだと息を吐き出した。
タバサのほうは、いつもの無表情に戻っているが、杖を握り締めた手は力を込めたあまり真赤になっている。
怪獣の防御力だけでなく、攻撃力も読み誤っていたことに、自分の判断力の甘さを痛感したからだ。なにが後ろは
死角だ。あんな武器がある以上、どこにも安全な場所などありはしない。
現状では、この怪獣の前進を止める方法は何も無い。ケムラーは文字通り無人の野を行くがごとく、山肌を
悠々と降りていく。その進行方向に小さな村があった。
「か、怪獣だーっ!!」
「た、助けてくれっー!!」
村にいた山師達が慌てふためていて逃げていく。
ここは、山脈のふもとにいくつかある鉱山村のひとつで、火山から採れる硫黄や、近辺で採掘される砂鉄などを
石炭を使って精錬している10軒ほどの小規模集落だが、ケムラーはその中央に一軒だけある大きな工場に近づくと、
火を落とす間もなく、煤煙を噴き上げていた煙突にかぶりつき、煙をゴクゴクと飲み込み始めた。
「け、煙を飲み込んでるのね……!?」
唖然と見守るシルフィードの眼下で、ケムラーはしばらくのあいだうまそうに煙を飲んでいたが、やがて
満足したのか、煙突から離れると、集落の家々に向かってあの真っ黒な煙を吹きつけた。
するとどうだ、煙を浴びた家々が土台からふわりと宙に浮き上がったではないか。そして、浮き上がった家は
わずかに宙を舞っていたが、ドアや窓からガスが抜けると、次々地面に落下して瓦礫の山に変わった。
「い、家が空を飛ぶなんて、いったいなにがどうなっているのね?」
「風船と同じ、煙を中に吹き込んで、その力で宙に浮かせてるの。多分、あいつは排煙が好きで、吸い込んだ
煙を猛毒に変えて吐き出すことができる。恐らく、これまでは火竜山脈の煙で満足してたんだけど、火山が
活動を開始したから、中にいられなくなって煙の多い人里に下りようとしてる……」
「ちょちょ、煙って、この近辺だけでも鉱山村はごまんとあるし、工場や製鉄所も入れたら煙の出るところなんか
ガリア中にいくらでもあるのね!」
シルフィードは言いながら自身の言葉の恐ろしさを悟っていった。つまり、あの怪獣にとってガリア中、
いやハルケギニア中の町々が餌場ということになる。
なんとしても、ここでこいつを食い止める。タバサは任務とは関係無しに、ケムラーと戦う覚悟を決めた。
それは、愛国心や使命感といったものでは言い表せない。
父が、母が愛したこの国、そこに生きる人々を守る。愛する両親に教えられた"クニ"を守ろうとする心。
そしてもうひとつ、彼女はまだ気づいていないが、あの毒ガスによって苦しみながら死んでいった火竜の姿に、
キュルケやルイズ達の姿が重なって、絶対にこいつを進ませてはならないと、彼女にそれを命じていたのだ。
続く
570:ウルトラ5番目の使い魔 第16話 あとがき
08/10/05 15:26:28 tob/mskW
では、前編はここまでです。
支援どうもありがとうございました。
今回はガリアでの話なのでルイズや才人の出番はなし。当然ウルトラマンAの登場もありませんでしたので、
どちらかといえばウルトラQのようになりました。
それでは、次回は本邦初の生身の人間対巨大怪獣の戦いになります。
うーん、なんかタバサとシルフィードが万丈目と一平に見えてきた。
571:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 15:33:07 91/QMhDS
投下乙です
そういえばケムラーは一応は科特隊がとどめをさしたんだっけ?
しかしそれもウルトラマンのフォローと科特隊の新兵器あってのことだし
どうやってたおすのか想像つかん
572:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 15:39:38 iwyxUISH
乙でした!
どうやって倒すのか、楽しみです!
573:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 15:57:54 1GrUHK/r
今までに無い程wktkしてる俺がいるww
続きが待ち遠しい! 乙です!
574:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 16:22:30 o/XTz9Ku
>>556
本スレ怖いということで、しばらく避難所の練習(+代理)スレで連載してた
575:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 16:28:55 rWhaQSQw
最近殺伐としてるからな
だがそれがいい
576:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 16:30:17 o/XTz9Ku
>>552
ところで前回までは表題を末尾に付けてたけど、今回からは無いのかな?
Wikiのメニューのページを修正しようとして気付いたのだけど
577:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 16:48:34 Ggr6q+7O
投下予約なければ、16:55くらいにSSを初投下しようと思います。
分量としては6レス程度。
召喚元は「マルドゥックベロシティ」のウフコックです。
578:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 16:48:38 AELvMe6d
そろそろこっちかな?
スレリンク(anichara板)
579:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 16:53:07 hkYvaiMo
まぁ投下する方はそちらへ…だな
580:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 16:54:47 A2VKk5oW
現在488KB
なわけで支援などが入っても13KBに収まるネタならいいが
よくわからんなら次スレ投下でOK
581:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 16:54:48 Slu1l+NF
残り12kBか
向こうに移っちゃってこっちは埋めちまったほうがいいかな
582:577
08/10/05 16:55:41 Ggr6q+7O
あ、補足。6レスと書きましたが、今回投下するのが6レス程度だけ、
という意味で、全体から見たらプロローグ程度です。
>>578-581
あ、失礼しました。ではそちらに投下します。
583:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 17:46:14 epr0aclu
はえーな、もうそんないったのか
584:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 17:49:38 s8tHOn33
投稿が多かったのも有るけど無駄にaa貼るから早く容量尽きちゃうんだよね
500KBなら超人日記からA児召喚(ジャム付)
585:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 17:50:39 Slu1l+NF
600レスいってないのに次スレは早いな
今回やたらと雑談の割合が少なかったんだよな
まあいいや埋めちまおう
586:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 17:54:59 tUQPPbeb
あと10kbか
587:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 18:35:27 DQ/wNyWh
どうせ埋めるなら作家への応援に使わないか?
グルグルの人GJ!
続き楽しみにしてます、けどできればオヤジやギップルもいっしょに見たいです
588:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 18:59:44 N4RkOgF5
ならば、自分もマネしてっと
社長の人GJ!
この先、どんなデュエルと舌戦を繰り広げてくれるのか、楽しみにしてます
589:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 19:02:10 3Yf71Q24
ギフトの続きが読みたいなあ
590:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 19:05:06 pFddGLZI
蛇の人はどこへ行ってしまったんだ・・・
591:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 19:15:35 izSvlrND
>>590
話は出来てる見たいだし、近日中に来てくれるのを待ってようぜ。
592:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 19:21:46 HqZrT5aL
たまにあることだが不注意の割り込み予約に先を譲られるとなぁ……
593:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 19:33:42 r0F7kOUP
乳酸菌が不足してきた。銀様とルイズのキャッキャウフフをーミーディアムの人ー
594:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 19:34:50 dpQITx5S
ガリア情勢いじってる作品が結構好き
とくに原作最新刊を読むともう・・・
しかしガリア情勢いじると原作トレースがほぼ不可能なんだな
595:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 19:36:07 jV1GnVbp
さっき某所の「ゼロの冥王」を読んで思い出したけど、「イクサー2」召喚ってどうだろ?
596:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 19:40:45 HqZrT5aL
>>595
それで書いてくれたら良いか悪いか判断するぜ
597:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 19:42:24 s8tHOn33
あのOVAあんま長くないからほとんどオリキャラになりそうじゃね
イクサー1ならルイズと
「これがシンクロ!!」とか使えてよさそうだが
598:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 19:44:07 91/QMhDS
>>595
せめて三女辺りにしといてやれ
599:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 19:51:28 o/XTz9Ku
黒蟻さんはもうこないのかな
600:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 20:04:43 hkYvaiMo
黒蟻はあれだけでも読めてよかったと思える作品だけどやっぱり戻ってきて欲しいよなー
601:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 20:05:44 pKNPq9je
イザベラ管理人の続きを……ッ!
俺は!
待ってますんで、どうかひとつ。
602:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 20:07:21 4m0hPRvX
500kbなら黒蟻ほか休止中の作品が大量復帰
603:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 20:12:45 SYpEdK00
500KBならティファニアが桃鉄の司会者ももたろう召喚。
トリステイン、ゲルマニア、ガリア、ロマリアで桃鉄勝負をすることに。
604:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 20:16:03 fOAlk8O3
500KBなららくだい魔女とか児童書から召喚
605:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 20:23:06 t7/jhrKh
>>603
鉄道ないから、馬車と船?
606:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 20:24:06 5YQcQDC9
いきなりSBRになったw
607:ゼロのグルメ
08/10/05 20:33:07 CvPX0Tf/
……とにかく腹が減っていた
俺は仕入れた輸入雑貨を置いておく倉庫で南千住に格安の物件があるというので
見に来たが予想を上回るボロさだった
その上隅田川が近いせいか品物に最悪の湿気が強くサビやカビがひどい
全くの無駄足だった
「あんた誰?」
おまけにどうやら俺はまたも路に迷ったらしい
目の前には見知らぬ学校の生徒達がいた
「ルイズったら『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出してるわ」
「さすがはゼロのルイズだ!」
みんなマントに杖を持っているのはなぜだろう?
でもある種の美意識が感じられる…
「ミスタ・コルベール!」
「なんだね。ミス・ヴァリエール」
「あの!もう一回召喚させてください!」
「それはダメだ。ミス・ヴァリエール」
「どうしてですか!」
「決まりだよ。二年生に進級する際、君たちは『使い魔』を召喚する。今、やってるとおりだ…」
目の前の生徒が先生らしき人物に注意を受けているがこっちはそれどころじゃない
とにかくどこか店をさがさないと……
「ちょっとあんたどこに行くのよ!?」
まいったな…いったいどこに迷い込んでしまったんだ?
さっきから見慣れない景色が広がっている
イヤ…焦るんじゃない、俺は腹が減っているだけなんだ
腹が減って死にそうなんだ
「見つけたわ!あんた儀式の途中で勝手に出歩かないでくれる!?」
くそっ、それにしても腹減ったなぁ
どこでもいいから“めし屋”はないのか?
「コラ!無視するな!!」
608:ゼロのグルメ
08/10/05 20:34:43 CvPX0Tf/
しばらく歩いているとそれっぽい建物が見えてきたぞ
ええい!ここだ、入っちまえ
「どうされましたか?」
「何か腹に溜まる物を…」
「シチューしかないですけどいいですか?」
「じゃあそれで」
注文をしてしまうと少し気が楽になり店内を見回すゆとりが出てきた
しかし…さっきのウエイトレスの格好は凄かった
今流行りのメイドさんというヤツだろうか?
「はい、おまちどうさまです」
「ほー、うまそう……もぐ」
なんとも素朴な味のシチューだ
子供の頃、夏休みに田舎のおばあちゃんちで食べたお昼かな?
しばらく食事を楽しんでいるとさっきの生徒がやってきた
「まったくこんなところにいたのね、さっきから人の話を聞かずに勝手にうろちょろして!
さあ早く儀式を済ませるわよ!!」
生徒のあんまりな物言いに思わずカチンと来る
「人の食べてる前でそんなに怒鳴らなくたっていいでしょう
今日はもの凄くお腹が減っているはずなのに見てください!
これだけしか喉を通らなかった!!」
「ハァ?あんたそれ大方食べてるじゃない?」
「フン!」
「がああああ!痛っイイ、お…折れるう~~~~~~」
「それ以上いけない」
ウエイトレスの一言でふと我に返る
あーいかんなぁ…こんな…
いかん、いかん
「……お勘定」
「は、はい…えーと800円です」
「ごちそうさま」
「…ありがとうございます」
俺はゆったりと店をでる
腹ははち切れそうだ…食いすぎた
俺は数メートル歩いたところで店を振り返った
おそらく…俺はあの店には不釣り合いな客だったんだろうな…
ようやく明治通りに出た、タクシーが来れば乗ろう
来なければ歩いて地下鉄日比谷線の三ノ輪駅に出ればいい、そう思った
俺は得体の知れない奇妙な満足感を味わっていた
609:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 20:36:04 91/QMhDS
通貨が何故に円w
610:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 20:36:59 1+sOjIL1
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なぎはらえー |:|\\:::::||.:.||::::://|
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ヽ ∠____vvV____ヽ < ≧__/ ゝ、t‐┐ ノ .|┐ ./ /
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611:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 20:37:49 1+sOjIL1
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612:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 20:37:51 epr0aclu
500kbなら俺に創作意欲がわきまくる
せっかく暇ができたのに筆がすすまねぇ…
613:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/05 20:38:32 1+sOjIL1
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