あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part175at ANICHARA
あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part175 - 暇つぶし2ch123:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 21:48:56 9hzHDSB0
オディオの人、乙でしたー。

所で私もこのスレに刺激されてSSを書いている者ですが、ちょっと質問があります。
召喚される側の方は別として、ゼロ魔の基本設定はアニメ版、マンガ版(&小説版)とありますけど
これらの設定を混ぜたりしても問題ないでしょうか? つまり・・・
<例> 使い魔召喚時の呪文の違い→マンガ版
    契約前から会話できるか否か→アニメ版
    ギーシュの香水を誰が拾うか→マンガ版
と、あくまで例えですけど、こんな感じにです。
あまり混ぜこぜにするつもりはありませんが、多少は混ぜるつもりであります。
他の作品を見てみますと、どちらかに偏っている作品もありましたので質問させて頂きました。

124:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 21:49:29 OCUwtQGI
公爵家が借金まみれってのもすごいな
でもなんかまともそうな設定つければいいんじゃね

125:ゼロ 青い雪と赤い雨(代理)
08/10/03 21:50:24 5vyLIERN
翌朝アトリが目を覚ますと、見慣れぬ部屋を朝日が照らしていた。
一瞬呆けてしまったが昨日の事を思い出しベッドの方向を見やる。

ご主人様である少女は、ベッドの中でかわいらしい寝息を立てている。
これからこの少女の使い魔というわけである。
しかし、使い魔の仕事等肝心な事を何も聞いていない。
よって朝起きてすればいい事等解らない故、無為な時間を過ごす事になってしまった。

左目の端末でルイズの寝顔を覗きこむ。
端末は円状のモニターをアトリの左目の前に発生させ、ルイズの異時空同位体を映し出す。

(――――!!)

赤藤色(ウィステリア・レッド)の瞳に驚愕の表情が掠めたが即座に持ち直す。

(ありえねぇ・・・)
フクロウ2度目の友情出演。
やれやれ・・・、という今は亡き同僚の声が聞こえてくるようである。

そしてまたその寝顔を眺める。
あどけない寝顔であった。
しゃべると煩い小娘に他ならないが、寝ている分には『絵本』に出てくる少女のようであった。
それだけでもアトリが穏やかな表情をその顔に湛えるのには充分な様にも思えるが、
その瞳にはどこか懐かしい物を眺める様な、どこか寂しい輝きを放っていた。

しかし、やはりご主人様であるルイズが寝ているとあっては、こうして寝顔を眺める他に何もする事が無い。
情報収集が急務である現状、外の探索にでても良かったのだが
昨日聞き忘れたことを聞いておきたかった。
よってアトリは『絵本』に出てくる少女を煩い小娘に戻す事にした。


126:ゼロ 青い雪と赤い雨(代理)
08/10/03 21:51:24 5vyLIERN
「起きろよ」
「な、なによ!なにごと!」
毛布を剥がれたルイズは『絵本の中の少女』を完全に駆逐してしまったかの如く、
身震いしながら叫んだ。

「朝だぜ」
「はえ?そ、そう・・・・・・。って誰よあんた!」
「チッ・・・お前が召喚したんだろうがよ」
吐き捨てるように言うアトリだったが、自分も寝起きに同じ様な状況に陥った為強く物を言えなかった。


「ああ、使い魔ね。そうね、昨日召喚したんだっけ」
ルイズは起き上がると、あくびをしながらその小さな手足を思いきり伸ばす。
そして短く命じる。

「服」

「あ?」
「椅子にかかってる制服よ、取って!」
「チッ・・・」

アトリは舌打ちをしながらぶっきら棒に服を掴む。
アトリとしては自分は使い魔にはなったが、召使になった覚えはなかったのである。
そしてルイズに向かって放り投げると、昨夜から胸中に抱えている疑問をぶつける。

「俺は何をすればいいんだよ」
「そういえば説明がまだだったわね・・・。いいわ!教えてあげる!」
ルイズは得意気に指を立てて言った。

「まず、使い魔には主人と目となり、耳となる能力が与えられるわ」
「意味がわからねーぜ」
「使い魔の見た物が主人にも見えるようになるのよ。でもあんたじゃ無理みたいね!私何も見えないもの!」
「そうかよ」

アトリは内心安堵した。
自分が見聞きしたものすべてが伝わるなんて、そんな能力付加されたらたまった物ではない。

「それから、使い魔は主人の望む物を見つけてくるのよ。例えば秘薬とかね!・・・・でもまぁ、あんたはこの世界の人じゃないし無理か」
その声と表情に落胆の表情が混じりつつルイズは続ける。


127:ゼロ 青い雪と赤い雨(代理)
08/10/03 21:52:08 5vyLIERN
「そして、これが一番なんだけど・・・、使い魔は、主人を守る存在でもあるのよ!主人を敵から守るのが一番の役目!」

「守る・・・か」
どこか遠くを見つめるような眼をしている使い魔を置いてルイズは続ける。

「あんたなんか色々凄そうだしそこは大丈夫そうね。それに元軍人なんでしょ?」

ルイズは唯一この使い魔でも可能でありそうな事なので、声を弾ませ問うが返事は無い。
我が使い魔は何かを思い出しているような、どこか寂しげな表情のままである。
何か思い当たる事でもあるのだろうが、無視されてる側としては面白くない。
ここは仕事を1つ追加でもしてやろう。とルイズが思うのも無理はないのかもしれない。

「後、主人の身の回りの世話も使い魔の仕事よ!洗濯、掃除、その他雑用!」

アトリの瞳に一瞬で表情が戻る。そして
「しらねぇよ」
と言ってそっぽを向く。

無視をしていたと思ったら、今度はそっぽを向かれてしまったとあってはますます面白くない。
ルイズは立ち上がりアトリに詰め寄る。

「何よその言い方!あんたは私の使い魔なんでしょ!?」

一応アトリを睨みつけているのだが、身長差のせいか上目使いになってしまい迫力に欠ける。
しかし怒っている事に変わりはない。
むううううううう・・・・・・・・・と腰に手をあて文句無しのご立腹である。

アトリはルイズを見下ろす様に睨んだ。
しかしその目線に怒気は無く、困惑の表情という方が正しいかもしれない。
ただし、それも一瞬でしかなくすぐにその表情を緩めた。





「俺には・・・できねぇんだよ。」





「へ?」
素っ頓狂な声でルイズは返す。
また召喚した時の様に怒気を孕んだ声で威嚇する物とばかり思っていたルイズには、
このような反応は甚だ意外だったのだ。


128:ゼロ 青い雪と赤い雨(代理)
08/10/03 21:53:00 5vyLIERN
「俺はガキの頃から戦闘しかしてこなかった。俺がやっても返って邪魔になる」
そして、本当にすまなそうに言うアトリを叱り飛ばす程ルイズは鬼にはなれなかった。

「なんだそうなの?しょうがないわねぇ・・・、いいわ、メイドに頼むから」
洗濯くらい誰にでも練習すればできそうな物だが、その間にルイズの服の生地を何着もダメにしてくれるだろう。
それなら、メイドに頼んだ方が良い。
それに、欠点が1つくらいあったほうが親しみも湧くという物だ。

腰に手をあて、手をヒラヒラと振りながらルイズは続ける。
「その代り、わたしを守る仕事はちゃんとやるのよ?」

「そうだな」
小さな主人の心遣いを感じたアトリは穏やかな表情で応えた。





話していたら時間がなくなってしまったらしいルイズは急いで着替えている。
そして、アトリは着替え終わったルイズに連れられて部屋の外に出る。
すると、似たような木で出来たドアが3つ並んでいた。
その一つが開いて、中から燃える様な緋色の髪の少女、いや女性が出てきた。
ルイズより背が高く、女性らしい体付きをしている。
恐らくルイズより3つ4つ年上なのだろう。
褐色の肌をしたその女性はルイズを見ると、にやっと笑った。

「おはよう。ルイズ」

ルイズは顔を顰めると、露骨に嫌悪感をその声に滲ませ応える。
「おはよう。キュルケ」

恐らく二人は友人なのだろうがルイズが嫌そうにしているのは何故だろうか。
二人が話している姿を黙って見ていると、
キュルケと呼ばれた女性の背後から虎程もある巨大なトカゲが現れる。
その尻尾には火が煌々と耀い、廊下の影を照らす。
「おはよう使い魔さん、私はキュルケ。二つ名は『微熱』。『微熱』のキュルケ。そしてこの子が私の使い魔、フレイムよ。あなた、お名前は?」


「ア「アトリよ!」
とアトリの言葉を遮って代わりにルイズが応える。


129:ゼロ 青い雪と赤い雨(代理)
08/10/03 21:53:54 5vyLIERN
アトリにはルイズがキュルケ心無しか何かを警戒している様に見えたが、
目の前の女性を警戒する理由をアトリには見つけられなかった為流す事にした。

「アトリね。へー、いいじゃないの。ゼロのルイズにはお似合いだと思うわ」
と言うキュルケの目には穏やかな嘲弄の波が揺れているのが見て取れた。

それに対して意外というべだろう、ルイズに悔しがる様子は全くない。
むしろにやにやとキュルケを見ているではないか。
キュルケも普段と違うルイズの反応に戸惑いを感じている様子だ。

「耳を貸して」

とルイズに言われたのでかがむと小声で食堂の場所を説明される。
その後ルイズはキュルケに向き直り

「アトリ、キュルケの相手なんかしていたら朝食に遅れちゃうわ!急いで連れてって!」
と余裕たっぷりに言い放つ。

(そういう事かよ・・・・)

少し呆れたがマントの中にルイズを抱き走り出す。
その速さは飛んでいる時程ではない物の、『凄まじい速さ』というべき速さであり
なんの障害物もなく大空飛んでいる昨日とは違い、
室内ゆえに、狭く それでいて直角のカーブ等も存在する中を高速で移動した為、
命じたルイズも肝が冷える思いをした。



そして一人廊下に残されたキュルケは、
視界から一瞬で走り消え去った二人を見て呆然と立ち尽くす他無いのだった。


130:ゼロ 青い雪と赤い雨(代理)
08/10/03 21:55:42 5vyLIERN
今回はここまでです。
大筋はできあがっているのですが、文章にするのが難しいです。
今回は煮詰まっている時に昔から大好きな小説をよんで居た為
影響を受けた部分が多かった様に思います。

――――――――――――――――――
以上線上までが本文です。
毎度毎度すみませんが、よろしくお願いします。 
 

131:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 21:56:34 NRNfNGHs
>>124
考えてるキャラがキャラなんで誰かしらが借金してて自殺手前ぐらいの人がいないと活躍できなくて

132:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 22:01:48 SA9Ys0MR
>>131
ギーシュに首が回らないくらいの借金を負ってもらおうか
借金苦の女の子である必要はないよな? ギーシュなら公式で貧乏貴族だったはずだし

133:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 22:02:18 va8rjUfp
作者さん、代理さん乙です

>>123
全く問題は無い。

134:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 22:02:40 SnlZRO+d
ジル・ド・レなんか公爵で男爵で元帥だったのにバカやって借金だらけだったんだぞ

135:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 22:07:00 5vyLIERN
線より下は要らなかったんだろうか・・・?
ノエイン乙です、このアニメはどのキャラも魅力的だったなぁ
アトリ好きなので召喚だけで終わんないでよかった、続き期待してます。

136:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 22:07:37 NRNfNGHs
>>132
ああ、グラモン家があったか
これなら問題なく夜逃げさせれるかな

137:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 22:08:21 sARQG00T
アトリの人代理の人乙

>>131
借金まみれで原型とどめないルイズ
借金まみれでも性格がかわらないルイズ
理由が書いてあればおk

138:ゼロと工作員
08/10/03 22:10:23 X4PIN6Hy
7話。22:20に投下します。

139:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 22:14:07 SA9Ys0MR
>>136
三文字で大体わかって吹いた

工作員支援

140:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 22:15:20 4nbIYkXE
>>131

クロサギ?

141:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 22:16:41 NRNfNGHs
>>140
違う
ライジングサンといえば分かるかな

142:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 22:18:14 REThiW2H
ジュンイチローか……
※現実の人物とはあまり関係がありません

143:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 22:18:29 X+DuA8HS
前スレ
>>161-164

>>288-293
を推敲したのを上げたいんですが・・・
多スレのほうがいいですかね

144:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 22:18:36 9hzHDSB0
作者の人、代理投下の人、乙であります。

>>133
ご回答ありがとうございました。
これで続きを書く事が出来ます。
できれば、今月中には書き上げた新作を引っ提げて戻ってくるつもりであります。

145:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 22:19:02 X+DuA8HS
って
>>138
支援準備

146:ゼロと工作員
08/10/03 22:21:10 X4PIN6Hy
図書館で許可証と名簿を記入し、いつも奥の席に座っている、
顔なじみとなった青く見える黒髪を持つ少女、タバサに話しかける。

「こんにちわ」
「・・・うん」

フリーダはオスマン達から正式に異世界の人間であると認められ、この世界の教育を受けている。
講師となるのは『雪風』の二つ名を持つ、眼鏡をかけた十代の小さなメイジだ。
齢は14歳、背は140cmほどで、魔法学院2年。無言、無表情。
発育が遅れ、背が小さく大人しいために12歳ほどに見える。
生徒の中では特別優秀な存在らしく、<トライアングル>の称号を貰っていた。

フリーダはタバサの元へ通い詰め、文字や文章の読み方といった基本的なものや、
地理政治文化、歴史といったものまで、ハルケギニアについて様々な知識を学んでいる。
魔法や魔道具などの異世界の知識は、物語の中に居るようで彼女にとって面白かった。
映画や小説の設定資料や使われた道具を生で目にするようなものだ。
彼女は真綿に水を染み込ませるように知識を吸収していった。

「問題、正式名称は「王立魔法研究所」。トリステインの王都トリスタニアにあって…」
「通称アカデミーね」
「正解」

タバサは非常に無口なものの、聞けばちゃんと答えてくれる。
教えてもらう代わりに、フリーダはトリステインでは未発達と思われる自然科学や数学の知識を教えていた。
レベルの低い学院の授業に半ば飽きていたのでタバサにとっても有意義な時間であった。

「tanθ = sinθ / …」
「飲み込みが速いわね、なら…」

古風な紙媒体の本を使い、鉛筆で紙に書き取り、覚える。
脳に埋め込んだ<<記憶領域>>経由で覚えてきたフリーダにとって、
手で覚えるのは古臭く非効率極まりないことである。
それでも彼女は嫌いではなかった。

図書室の壁に掛けてある時計を見ると、とっくに夕食の時間は過ぎていた。
熱が入りすぎて夕食を抜かしてしまったようだ。
一段落したのでタバサと一緒に休んでいると、
いつものようにキュルケが林檎やサンドイッチの入ったバスケットを持ってきた。
タバサと図書館に夜遅くまで入り浸るようになって以来、毎晩彼女は差し入れを持って来てくれるのだ。
彼女はタバサの体調が心配だから持ってきているのだそうだ。
服や男はだらしないように見えて、実はマメで世話焼きなのかもしれない。

「それにしても、たった一週間でずいぶん懐いたわね。タバサ」
「・・・・たぶん、違う」

タバサの頬が微妙に動いた。
表情が乏しいので判りづらい、多分喜んでいるのかもしれない。

147:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 22:21:16 wsb/5EmI
>>141
平家?

148:ゼロと工作員
08/10/03 22:22:15 X4PIN6Hy
「林檎。食べる」
タバサがバスケットから林檎とナイフを取り出し皮を剥く。
危なっかしい手付きで皮ごと身を剥ぐ。
角ばった林檎が出来そうだったので。

「貸して」
不器用な姿にフリーダは見ていられなくなり、手を貸した。
慣れた手で林檎の皮を剥く。

「へえ、上手いわね」
皿の上には林檎の兎が乗っていた。
遊び心で、瞳や毛の細工を無駄に凝ってみた。

「刃物の扱い、慣れてるの?」
「ええ、昔レストランで働いてたから」
「・・・そう」
キュルケは林檎の兎を頭から食べた。シャクシャクと子気味よい音がする。
「・・・もったいない」
タバサは残念そうに兎を食べる。
無表情に見えて、可愛いもの好きなのかもしれない。

「・・・・・・」
タバサがじっとフリーダの顔を見ている。
視線は眼鏡に注がれている。
放っておいたら黙っていつまでも見つめていそうなので、問いかける。
「…掛けたいの?」
「うん」
フリーダは眼鏡を外し、渡した。
タバサは歪みのないレンズの向こうでどんな世界を見ているのだろうか。
付けた心の仮面が外れそうで、ぎこちない微笑みを返した。

「・・・度が入っていない」
「レンズを一枚通したら、世界が綺麗になって見える気がするの」
彼女はレンズと同じ、薄っぺらい『自分』に対して苦笑いする。

「今週の休み、みんなで一緒に街にいかない?」
「あたしとタバサとルイズつれてさ、買い物に行くの。案内したげるわよ」
「そうね。この国を知るいい機会かもね」
「・・・シェルフィード」

149:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 22:22:32 X+DuA8HS
支援

150:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 22:23:14 wsb/5EmI
失礼、支援

151:ゼロと工作員
08/10/03 22:23:40 X4PIN6Hy
「どうして私がツェルプストーなんかと」
ビルの2階ほどの大きさがある羽を広げた蒼い竜の背で、
ルイズがぶつぶつ小声で文句を言っている。
三人はタバサの使い魔、シェルフィードの背に乗り、
ハルケゲニアの王都トリスタニアへ向かっていた。
タバサが魔法で風の障壁を張るおかげで、
高度にも関わらず生身で外に出ても快適である。

ルイズはフリーダとの付き合い方を考えていた。
朝はルイズが着替えるのを手伝った後、洗濯に行き、
ルイズの授業がある昼間は平民のシエスタと共に雑用、
食事も別で、授業後はタバサと勉強、忌々しいツェルプストーとも仲がいい。
其処まで考え、気付く。自分は存在感がゼロのルイズではないのかと。

会話する暇がないじゃない!

そういえば、まだ学校から貰ったフリーダの下着の替えや
制服以外の服は用意していなかったなと思い出した。
先日、ツェルプストーがフリーダと一緒に買い物に行こうと粉をかけていた。
先祖代々寝取られてきたツェルプストー家に使い魔まで取られては堪らない。
焦ったルイズは主人の懐の深さと、偉大さを示すため、
街で物でも買い与えようかと思っていた。
その矢先の出来事であった。



「壮観な光景ね」
上空のシルフィードから街を見下ろす。
街の中央に聳え立つ、白い石造りの尖塔。
王城を中心に整備がなされた街路は巨大な人口を抱える都市にも関わらず、
一様に入り組み細く狭い。
街を二部する巨大な河を隔て、街と城に分かれている。
どうして街路を広くとらないのか彼女は不思議に思った。
旅なれた彼女には一目で判る。
こうした不自然な景色は、たいてい設立初期に戦争があったためだ。

「トリステインの王都よ。ここらじゃ一番大きな町なんだから。特産品は…」
ルイズが誇らしげに説明している。
だが、フリーダの冷静な目に映るそれは、ただの街だ。
そして人殺しの専門家、暗殺者であるである彼女は、
無価値なものを美しく飾ろうとするすべてが嫌いだった。



トリスタニアの大通りを歩く。
休日の通りには露天が出展し、元々5mほどしかない道を更に狭くしていた。
「狭いわね。これでも大通りなの?」
ルイズが怪訝な顔をする。
「アンタどんなとこに住んでたのよ」
「私の住んでいた街はこれの3倍はあったわ」
「ゲルマニアでもそんなものないわよ」
「…そう」

152:ゼロと工作員
08/10/03 22:24:58 X4PIN6Hy
トリステインの王都、トリスタニア。
街の中央には、王城を始め石造りの白い美しい建物が立ち並び、多くの貴族が暮らす。、
街一番のブルドンネ通りの路地には色とりどりの安物の衣服や帽子をずらりと並べた露店や、
手製の首飾りや指輪を売る立ち売りの商人や、タライや包丁フライパンを置いた金物屋、
箱売りしている果物やザルに無造作に詰まれた野菜を売る露天商、
試験管に入った妖しい色の秘薬を売る屋台が立ち並ぶ。
肉を焼く臭いや、店主と客の競り合う声が聞こえ市場は騒々しい。
商品を搬入する台車や、忙しそうな買出し業者、子供連れの夫婦や学生、
空には風竜やグリフォン、ヒポグリフなどの使い魔や風船が飛び交い、混雑を通り越し猥雑だ。

「ほら、そんなに物珍しげにしてると、スリに狙われるわよ!」
フリーダはルイズに注意されるも、街の姿に気もそぞろだった。
様々な星の、街を見てきた彼女であったが、
本の中でしかなかった街の光景が現実のものとなっているのだ。
本好きな彼女としては実に魅惑的だ。


「アンタの服を買いに来たんだからね!」
今日の予定は学院から出て、街へフリーダの服を買いに行くことになっていた。
召還時の服はボロボロで替えの服や下着がなかった為だ。
当初はキュルケがフリーダの服の金を出すといっていたのだが、
ルイズが使い魔の面倒を見るのは主人の務めと首を縦に振らなかったため
全額、ルイズ持ちとなっている。

「摺られて私に恥をかかせないでよ!」
財布は金貨が一杯に詰まっていて、重い。
スリが嫌なら私に財布を持たせるなとつきかえそうと思ったが、面倒なので止める。
ルイズの言葉に一々反応していたのでは日が暮れるから。

「いいじゃないの。楽しんでるんだから」
隣に歩いているキュルケがフォローを入れた。

「ルイズだって初めて街に来たとき同じだったでしょうが」
自分の身長ほどもある長い杖を抱え物静かに歩くタバサが首を縦に振った。

「あ、あれは子供のころの話しで」
ルイズがキュルケにからかわれている。いつもの通りだ。
そのうちルイズが一方的に興奮しだして杖を抜いて爆発させるだろう。
ほら、予想通り爆発させた。
それをキュルケが軽くあしらい、タバサが無言で被害が広がるのを抑える。
三人の日常風景だ。

服を大量に買いすぎたルイズがキュルケに
「シェルフィードじゃそんなに持ってけないわよ」
と諭されたり、ご主人様と使い魔の関係に気の大きくなったルイズが
アクセサリーを大人買いしようとしたのを
「・・・無謀」
とタバサに止められたり、彼女オススメのハシバミ味のアイスを食べて
「に、苦っ」
とルイズが悶絶したりと三人は買い物を楽しんでいる。
フリーダは目をそらし、眼鏡を直す。
はしゃぐ彼女達の中にいるのが、たまらなく場違いで、恥ずかしくなる。

153:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 22:25:50 X+DuA8HS
支援


154:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 22:26:08 wsb/5EmI
支援

155:ゼロと工作員
08/10/03 22:26:40 X4PIN6Hy
「少し、辺りを見てきていいかしら?」
アイスを食べて一人を除き全員で悶絶した後、フリーダが切り出した。

「いいわよ。私達は店で待ってるから」
「待ってる」
「苦あいいい」

三人から離れ路地を歩く、中央通りから一本離れただけで街の本来の姿が見えた。
表通りとは反した整然と並んだ店舗は店主やその他の人々が数人、寒々と店番をしている。
客や騒々しい商品の搬入は少なく静かで活気のない市場。
早々と店仕舞いする店主や無人の店舗が所々に見える、
中には一区画丸ごと無人の地域もあった。

「…いろんなお店があるのね」
「どう?楽しかった」
ルイズは好物のクックベリーパイを口いっぱいに頬張っている。

「……………ええ」
「それにしてもフリーダって意外よね。何でも知ってるくせに何にも知らないもの」
タバサもキュルケに同意する。
「・・・アカデミーでも教えられる知識を持っているのに、普通のことで珍しがる」

からかわれているようだからフリーダは訓練して身に付けた不自然でない笑顔を作る。
「…………私の国ではこんな光景、なかったから」

「フリーダの国に私も行ってみたいわ」
ルイズの『フリーダの国』の言葉は彼女を不機嫌な現実へ引き戻す。
「無理をして外に出る必要もないわ。……ここは、平和だもの」
彼女は思う。少女達はこのトリステインという国が病んでいることを知らないのだろう。
同じ街で、同じ空気を吸いながら、彼女達は違う世界を生きている。
ここも、フリーダの居場所ではないのだ。

トリステインは彼女の故郷だ。
メイジと平民に見放され徐々に寂れつつあるけど、ルイズにとって守りたい場所である。
乱立する店の隙間から王宮の尖塔が見える。
その下には綺麗な白い石造りで出来た貴族達の屋敷と平民たちの街が広がっていた。
街は雑多で敷き詰まっていて、汚い。
それでも彼女は街が好きだった。

「落ち着いた街ね」
「もっと派手なのがいいわ。トリスタニアは地味すぎるわよ。」
ツェルプストーはゲルマニア生まれで派手好きだからトリステインの愚痴ばかりこぼす。
伝統と格式を守ってこその貴族なのに。

フリーダがじっと短剣を付けた平民の腰元を見ている。
完璧で、何事にも無関心に見えた外国の少女。
そんな彼女にも人間らしいところがあるのがわかって嬉しい。

「危うく忘れるとこだったわ」
「服も靴も下着もお菓子も買ったわよ」

まだ買うつもりかとツェルプストーが非難する。
いいじゃない。私だって久しぶりに街に来たんだから。
本当はまだまだ買いたかったが、シェルフィードが運べないのなら仕方がない。

「・・・武器」
タバサが店を指差した。

156:ゼロと工作員
08/10/03 22:28:04 X4PIN6Hy
投下終了
非魔法世界人がルイズの世界に行ったら誰でも珍しがると思うんだ。
お町さんイベントはデルフを手に入れた後。
いずれ工作員が水辺で少女と戯れるのを書けたらいいな。
ラグドリアン湖でフリーダとタバサが杖と銃を向け合いながらキャッウフフとか。

157:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 22:32:30 UZ8CDhsv
工作員の方乙。

……ってその状況どう考えてもキャッウフフって展開じゃNEEEEEEEE!!

158:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 22:32:43 X+DuA8HS
>>156
乙でした
さて、wikiで作品を読む作業に戻るか

159:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 22:32:58 NRNfNGHs
>>147
源氏です

160:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 22:33:13 IcDqu/op
シルフィード、な。

161:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 22:35:29 VouUfILH
そんな「殺して あげる。好き だから」なキャッキャウフフは見たいので是非

162:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 22:36:35 wsb/5EmI
>>159
中村俊太?

163:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 22:40:50 NRNfNGHs
>>162
名前違うw

164:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 22:57:16 gxHI13rs
>>141
タイゾーを拉致ればOK

165:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 22:57:48 IcDqu/op
サムラァイガンマン

166:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 22:59:11 RurxOjv3
ゲルマニア皇帝ブッシュか?

167:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 22:59:42 VnjoiErW
グゥグゥガンモゥ

168:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 23:04:23 6F/O8G3Y
覇王・愛人より黒龍召喚
ギーシュのゴーレムをカンフーっぽい何かでなぎたおす

169:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 23:07:33 K+QolU9f
全四回程度の短編なのですが、投下してもよろしいでしょうか
召喚されたキャラクターは今回の投下終了時に記したいと思っています

170:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 23:08:31 REThiW2H
おk、支援

171:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 23:09:48 6K+/WRFp
>>168
黒龍よりも世界一腕の立つ殺し屋に期待しちゃうぜ……w

172:無惨の宴
08/10/03 23:09:59 K+QolU9f
それではいかせていただきます

――――――――


 それは名を持たない。
 大多数が無意識に忌避し、臆病者は回れ右で走り出し、攻撃的な人間であれば迫害を試
みる。誰も名付けようとはしない。それとの和合を考える一部の狂人でさえ、名を与えよ
うとはしなかった。
 決まった姿かたちを持たず、形容することさえ困難な対象に、誰が名をつけられようか。

 それは貪りつくす。
 死骸、腐肉、塵芥から、鋭く尖った無数の針、産業廃棄物、天を駆ける流星まで。
 時には己が産み落とした卵でさえも、区別例外なく一呑みで喰らう。

 それは際限なく増える。
 穢れと汚濁、目を背けたくなるものを床にして卵を孵す。
 産まれた子は、親と寸分違わぬおぞましくも忌まわしい姿でせせら笑う。全てを貪り、
それは多くなり、大きくなり、はばかる事を知らず世に蔓延る。

 それは死なない。
 大地を溶かす超高温は涼風、巨鯨をも倒す猛毒は食後の葡萄酒に過ぎない。
 鍛え抜かれた刀剣は、それを二つに引き裂くが、死を与えるに及ばない。二つに引き裂か
れたままで泰然自若にまどろむのみ。
 人類の英知が生み出した悪魔の子である爆弾は、それを粉々に吹き飛ばすが、命を奪うに
いたらない。死神の鎌から逃れ、寄り集まっては元に戻る。

 その姿は常にうつろう。
 心臓が弱い人間であれば見ただけで命を奪われることさえある醜怪な肉体は、生来持った
流動性ゆえに他者の姿をとることを可能とする。つまり、ごく容易に人間社会へ紛れ込んで
しまう。
 傍らで微笑む少女は本当に少女なのか? 将来を誓い合った青年は本当に青年なのか?
 臥所をともにするその時まで、布一枚下に蠢く異形を知ることはできない。
 知ってしまえばもう遅い。ただただ叫びが空を裂く。

173:無惨の宴
08/10/03 23:10:57 K+QolU9f
 ここ最近、城内の噂話はある一つのことに集中していた。ちょっとした雑談、無体な上
役への不平不満、仕事上の悩み事、馬鹿な笑い話、猥談、あるいはクーデターへの布石と
なる謀(はかりごと)まで、あらゆることが一つの話題に収束してしまうのだ。王女が召
喚した使い魔は摩訶不思議で前代未聞、耳目を集めないわけにはいかない変り種だった。

 現王打倒の志を秘めたる騎士は「奴ばらめは我々の計画を邪魔するに違いない」と考え、
お抱えの学者は「まさにまさにあらゆる生命の体現と呼ぶに相応しい。わしに任せてくれ
れば不死の秘法を解き明かすことができように」と鼻息荒く意気込み、厨房勤めの好色漢
は「ありゃあきっと具合がよろしかろうぜ、ぜひとも一晩おつき合い願いてえもんだ」と
だらしなくやにさがり、生真面目な庭師は「あんな気色の悪い生き物、きっとこの世界の
ものじゃあないね。ちらっと見ただけでも吐き気がすらあ」と吐き捨てた。

 そして数人の召使い達が、今日も今日とて井戸端会議に精を出す。
「けっこう可愛くないかな? ぷにぷにっとしてて」
「あんたの悪趣味にはほとほと呆れるわ……」
「まぁ矛先がこっちに向かなくなったのはありがたいことだけどね。いじめられるのはあ
いつのお仕事」
「使い魔ってのも骨よねぇ。私、生まれ変わっても使い魔にだけはなりたくない」
「でもでも、なんだかんだで殿下と仲良しよね」
「そう? ただいじめていじめられるだけの間柄でしょ」
「でもでもでも、話してみたらけっこういい人だったのよ」
「うげっ! あんたあれと口きいたわけ? やっぱり悪趣味だわ」
「……ふふ、実は仲良しどころじゃないのよねぇ」
「なによ。思わせぶりな口きくじゃない」
「あたしね、殿下がボソッとつぶやいてるの聞いちゃったのよね。『このままじゃ使い魔
に殺される』って」
「聞き間違いか何かでしょ。なんでメイジが使い魔に殺されなきゃいけないのよ」
「だいたいあの殿下が殺されたくらいで死ぬもんですか」
「アッハッハ、それいえてるわあ」
「わたしは仲良しだと思うんだけどなぁ……」

 皆が皆、自分の意見を述べ、声高に論ずるも、けして結論が出ることはない。
 それがどこから来たのか、誰も知らないからだ。分厚い生物図鑑、象牙の塔の学者達、
神話や伝承、代々の口伝、子供が好むおとぎ話や胡散臭い都市伝説まで、王女が召喚した
生物を特定できるものは何一つとして存在しなかった。

174:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 23:11:19 a6r2+Dvv
支援しとく

175:無惨の宴
08/10/03 23:11:53 K+QolU9f
 上空で二度旋回し、ようやく使い魔が言わんとしていたことを理解できた。クン、と鼻
を一度鳴らす。不快な臭気がタバサの鼻腔をつつく。
 シルフィ曰く、臭いの元はリュティス郊外にそびえるヴェルサルテイル宮殿のほぼ全て
を占めるグラン・トロワ……ではなく、そのグラン・トロワに付き従うようにして建築さ
れた薄桃色の建物に他ならないそうだ。

「臭う」
「でしょう!? シルフィが言った通りなのね!」

 なるほど、風竜の鼻なら二リーグ先から気がついていてもおかしくはない。宮殿を目指
すシルフィの速度が徐々にゆるみ、咳き込み、ごね、もだえ、さっさと進むよう命ずる主
に対して不満をもらしていた理由がここにあった。
 ずばり、生ゴミの臭いが漂う。どこの田舎領主であろうと、城と名のつく場所に住んで
いれば、もう少し気をつかう。ましてやプチ・トロワを支配する傲慢で我侭な王女が許す
はずもない。

 ―何があった?

 従姉が生きようと死のうとどうでもいいが、これから向かう先に異変があったとすれば
見過ごせない。空から見るかぎりでは街はいつも通りに機能していた。痩せた馬が白菜で
いっぱいの荷車を引き、露天商が声を張り上げ、髭を伸ばした強面の衛兵が闊歩する。
 たしかに生ゴミの臭いが強いとはいえ、裏町や貧民窟とどっこいどっこいだ。風向きの
こともあるし、そうとうに鼻のきく人間であっても宮殿の異臭に気づくことはないだろう。
 ただし街から臭いを嗅いだ場合の話だ。宮殿に住んでいればそうもいかない。プチ・ト
ロワだけではなく、グラン・トロワでもこの異臭に気づいているはずだ。
 何が原因なのか。気づいていても取り除けないようなことなのか。
 平常と変わらぬリュティスの有り様は、宮殿の異様さをより一層際立たせた。違和感と
切り捨てるには強すぎる異物感の残滓を感じる。

 心配だ心配だと騒ぎ立てるシルフィを落ち着かせ―何かあればすぐに呼ぶ、と言って
おいた。タバサとしては、それがシルフィへの方便で終わってくれることを祈る―案内
の騎士に続いて廊下を歩く。
 足元を何かが走り回っている。だが目をやると何もいない。
 酷い焼け跡がある。小火以上大火事未満の火災があったようだが、あちらの絨毯が焦げ、
あちらの壁がただれ、あちらの窓枠が焼け、といった具合で火元が判然としない。
 破片を飛び散らして粉々に砕けた壷がその身を横たえていた。誰も片付けないのだろう
か。ここの主を思えば、召使の首が―文字通り―飛んでもおかしくはないのに。
 天井で動く気配を感じ、見上げるとシャンデリアが揺れている。小さな目が隙間からこ
ちらを見ていた。贅を凝らした時代物のシャンデリアに潜むは何者か。年端もいかぬ子供
でさえ狭すぎるであろうその隙間に、誰が身を隠せるというのか。
 廊下の隅に巨大な蜘蛛が巣を作っている。にんまりと笑いかけたように見えたのは気の
せいだと思いたい。
 人の気配が無い。生き物の気配はあるが、あきらかに人のものとは違う。
 一つおかしなことを見つけると、全てがおかしなことに思えてくる。幽霊の正体見たり
云々という言葉を思い出し、幽霊の二文字を再認識したことで背筋に怖気が走った。

176:無惨の宴
08/10/03 23:12:25 K+QolU9f
「べつに緊張することはないさ」
 はっと前を見た。分厚い鎧に包まれた大きな背中がそこにある。
「呼び出された理由は知ってるんだろ?」
 この場には二人の人間しかいない。そしてタバサは口を動かしていない。つまり、先導
する騎士が話しているということになる。
「イザベラの使い魔自慢にほんの少しの間つきあってくれればいいんだよ」
 どの派閥に属していたとしても、タバサに対してここまで馴れ馴れしく話しかけてくる
騎士はいない。王女のことをイザベラと呼ぶ騎士もいない。きちんと敬称をつけるか、余
人の耳が無い場所で「簒奪者の娘」と憎々しげに吐き捨てるか、どちらかだ。
「あいつが召喚した使い魔ってのがまた傑作でさ」
 この騎士が使い魔なのか?
 だが、ただの人間を召喚してイザベラが自慢するとも思えない。タバサの使い魔が風竜
だと知っている以上、高位の魔獣でなければわざわざ呼びつけたりしないはずだ。騎士の
生まれではないことが、足の運びや受け答えといった細かな挙措からうかがえる。騎士で
ないとしたら、前を歩く人間は何者だろう。
「会えばきっとあんたも気に入るだろうしな……」
 タバサはゆっくりと拳を握りなおした。元々敵地ともいえるこの場所で油断するつもり
はないが、向こうの意図が読めない以上、いつも以上に気を引き締める必要がある。

 二階へ続く階段を昇り、三つの角を曲がったところで二人の侍女が立ち話をしていた。
到着以来、騎士をのぞいて初めて見る人間に、多少なりとも安堵を覚えなくはなかったが、
どうにも様子がおかしい。不躾にタバサを眺め、大声で噂話らしきものに興じている。
「野良犬と聞いていたが、それほど下卑ているわけじゃない」
「むしろイザベラよりか、よっぽどお品がいいじゃないか」
 たしかにイザベラと言った。
 前を行く騎士に輪をかけて態度が大きい。噂話というよりは、まるでタバサに聞かせよ
うとしているかのように声が高くなっていく。
「かといって狼ほど気高くはない」
「狐ほど賢くもないな。も少し賢ければ、ここまで来る前に踵を返していようさ」
 顔に見覚えが無い。イザベラに仕える侍女たちは、もっと自信なさげにおどおどしてい
る。タバサに話しかけるときも申し訳無さそうにし、目を光らせる嗜虐的な主を意識して
びくついていた。この二人にはそれがない。
「とすると、ディンゴか」
「それともコヨーテか」
 二人の侍女は態度も容姿も瓜二つだった。
 衣装が共通しているのはもちろん、深い闇色をたたえた双眸、淡く光る銀色の髪、官能
性を隠そうともしない体つき、あらゆる部分が似通っている。双子というにも似すぎてい
た。まるで複製のような……。
「どちらにしても、あれだわな」
「そうだ、あれだ」
 すれ違う直前、二人が顔を見合わせた。その口唇は頬の端まで押し広げられ、鮫の歯を
研ぎに出してもここまでは尖るまいといった皓歯をずらり並べて満面の笑みを浮かべた。
「叩き殺して食らえば美味い」
 口を揃え、さも愉快そうにケラケラと笑った。

 吸血鬼、ミノタウロス、怒り狂う火竜。どれも恐るべき敵だった。心の奥底から込み上
げてくる恐怖をなだめ、押さえつけ、前に進んでここまで来た。
 それら明確な恐怖とは違った。真綿で首を絞めるという言い回しがピタリくる。正体、
相手の意図ともに見えてこない。それゆえ対策を講じることができず、ただ阿呆のように
従って、諾々と進むのみ。
 気持ちが悪い。侍女二人の言う通り、踵を返してしまいたいが、それこそ軽挙妄動だ。
命令無視だのなんだのと咎められ、タバサだけでなく事は母にまで及ぶだろう。

177:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 23:12:42 REThiW2H
冒頭見てBMかと思ったが違うか支援

178:無惨の宴
08/10/03 23:13:10 K+QolU9f
 足元にぐにゃりとした感触を覚え、チラと下に目をやると、絨毯に巨大な眼がはりつい
てこちらを見ていた。思わず足を止めて見詰め合うが、数秒たたずにすっと絨毯に溶け込
んで消えてしまう。ほどなくして、どこか―おそらくは近い―で若い女が怒鳴った。
大勢で走り回るような音がそれに続く。
「……今のは?」
「さあ?」
 こちらを振り返る騎士はにやついていて、一部始終に収まりが悪く、落ち着かない。
空気はどこか重く、生ゴミの臭いはますます強くなる。
 タバサは中指で眼鏡を押し上げた。品性を隠そうともせずにやつく騎士を、半ば以上睨
むようにして見返す。

「……」
「ククッ」
「……」
「……なるほどねぇ」

 何がなるほどなのかは分からなかったが、騎士はそれで納得したらしく、再びタバサに
背を見せて歩きだした。
 生暖かい風が首筋を撫で、獣臭さが生ゴミの臭気に混じり、ひそひそと話す声、せわし
なく歩き回る音、それら一つ一つに注意を重ね、消耗していく精神力を実感しながら王女
の居室に近づいていく。イザベラが何かを企んでいることはもはや明白だったが、ここで
逃げるわけにはいかない。じわり広がる恐怖心を理不尽な王女への怒りに変え、眉一つ動
かすことなくタバサは進んだ。
 ほどなくして大扉に突き当たった。騎士は控えの間へと続く大扉に手をかけ、パーティ
ーでダンスを申し込む貴族のように、仰々しい動作で入室を促した。
「そう身構えるなよ。イザベラだってさ、本心じゃお前と仲良くしたいんだぜ?」
 控えを通され、幾重にも垂れ下がったカーテンの間から顔を出す。

 素早く目を走らせた。
 中央には黒檀と思しき黒いテーブル。その上には香草サラダや水鳥の包み焼きといった
料理が並び、メインとなる大皿は染みのついた白布で覆い隠されていた。脇には無個性を
絵に描いた中年の召使いが五人、いつの間に追い越したのか、先ほど出会った二人の侍女
がそれに連なる。
 よじれた杖に寄りかかる干からびかけた老メイジ、見覚えのある騎士……タバサの記憶
が正しければ、東花壇騎士団団長のカステルモール、扇情的な衣装に身を包んだ若く美し
い踊り子、長年の経験と押し出しの強さを感じさせる太鼓腹の行商人、鼻息で吹き飛んで
しまいそうにちっぽけな花売りの小娘、詐欺師特有の小ずるさを隠そうともしない猫背の
男、眠そうな目を限界ぎりぎりまでたるませた老婆、喪服姿特有の悲哀を一切感じさせな
い痩せこけた中年女。
 イザベラがいない。
 ある者はベッドの上に寝転び、またある者はスツールに腰掛け、所狭しとイザベラの居
室を占有し、皆一様に笑みをたたえてタバサの方へ顔を向けていた。
「やっときたねシャルロット」
「よくぞまいった」
「首を長くして待ってたんだよ」
 歓迎の意を口々に繰り返す。歓待された側としてはあまりに寒々しく、暖炉が恋しくな
る季節でもないのに指先が震えて止まらなかった。

179:無惨の宴
08/10/03 23:13:42 K+QolU9f
 大皿の上にかけられた白布は赤い染みで汚れている。黒檀のテーブルが濡れているのも
その染みが原因だろう。絨毯にまでポタポタとだらしなく垂れていた。今まで何度も見て
きた、時に流し、時に流させた、赤い液体……血液だ。

 部屋の中央には案山子がつきたてられていた。装飾過剰なドレスをまとい、ミスリル銀
製の大きな冠をかぶせられた藁人形が、いったい何を模しているのかは考えるまでもなく
分かる。この部屋の主以外の何者でもない。

 半歩さがろうとし、ここまで案内してきた騎士の手が伸びる寸前横へ跳んだ。腰をさげ、
どこから何がこようとも対応できる体勢で集団へと向き直る。眼鏡がずれたが、直してい
る余裕はすでにない。
 折れそうになる膝を伸ばし、右手で杖を掴もうとしたが空をかいた。シルフィの背に杖
を置いてきたことさえ忘れている。焦燥感が増していく。

 この部屋に来るまではイザベラの悪ふざけという可能性もあった。
 だが、悪ふざけのため自分に見立てた案山子を飾ったりするだろうか。あのイザベラが。
 案山子といえば、お飾りの王、頭が空っぽの愚物を揶揄するために使われることもある
鳥追い人形。プライドの高いイザベラが、そのように屈辱的なことを許可するわけがない。
これを考え、実行した人間はイザベラ以外であり、当のイザベラがどうなったかは―タ
バサは血にまみれた大皿を見、すぐに目を逸らした―つまりこういうことなのだろう。

「どうしたねシャルロット」
 老メイジが一歩前に出た。
「遊びにきたんだろ」
 踊り子がそれに続く。
「イザベラだって楽しみにしてたんだ……ねえイザベラ」
 タバサからは見えないよう白布を持ち上げ、皿に盛られた何かに向かって騎士団長が語
りかけた。
「我らが主の友なれば我らが友も同然」
「あたしたちと遊ぼうよ、シャルロットおねえちゃん」
「イザベラはオレらの相手しすぎて疲れちまったんだとさ。だらしねえこった」
「綺麗な髪……うらやましいわあ」

 背後は壁。窓は右前方。抜け出るには充分な大きさだが、距離が遠い。駆けて四歩とは
いえ、障害物が多すぎる。主兵装である杖を持たない今、力押しは無謀が過ぎた。

「つるっつるの卵肌だ。まるで赤ん坊だね……ひっ、ひひひっ」
 引きつり笑いには耳を貸さず、口元をマントで隠した。
「赤ん坊ってことは、つまりあれだ」
 取り囲む連中には気づかれないよう小さく口笛を吹く。この距離なら聞こえるはずだ。
「そう、あれだわな」
 廊下で出会った侍女と同じ表情だが、今度は人数が違う。揃いの笑顔、揃いの口調で
「叩き殺して食らえば美味い」
 老メイジは仕込み杖の刃をあらわにし、騎士は剣を抜き放った。商人の棍棒には釘が打
ってあり、侍女のナイフは黒い液体で光っている。鋭く研いだ裁ちばさみ、庭師が使う植
木ばさみ、大振りの包丁、蛮刀、ハンマー、ノコギリ、手槍に草刈鎌。各人がバラバラの
得物を抜き放ち、歯を剥き出しにし下品に笑った。その間にも囲みは小さくなり、タバサ
との距離は三歩と半ほどもない。機があるとすれば今しかなかった。

180:無惨の宴
08/10/03 23:14:28 K+QolU9f
 口元を隠していたマントを跳ね上げ、右前方の視界を塞ぐ。体勢を低くしたまま前転
し、マントに気をとられた間抜けの足を払い、絨毯の上に転がした。一連の動作の中、
ルーン詠唱を始めることも忘れない。
 押さえ込む間際、タバサが暴れることは予想できたはずだったが、部屋の中を占める
者は一人として対応できなかった。左から襲い掛かる踊り子の顔面にスツールを叩き込
み、壁を蹴って絨毯の上を転がった。その勢いで跳びあがるのと同時に窓ガラスが割れ、
タバサに向かって愛用の杖が投げ込まれる。
 打ち合わせは全くなかったが、使い魔と主ならばタイミングを合わせる必要すらない。
騎士と老メイジの頭上を飛び越えた杖を見事に受け止め、風を切ってひゅんと半回転さ
せ、目の前に構えた。ほぼ同時に詠唱が完成する。
 部屋の中に漂っていた見えない水分が、あるいは大皿から染み出していた赤い液体が、
鋭利な刃となって凝結した。乱入してきたシルフィに注意を奪われた無防備な背中を、
一すくいの情け容赦もなく氷のナイフが斬りさいなむ。
 老メイジの額が割れ、騎士の装甲は鉄クズになり、花売りが壁に叩きつけられ、老婆
の腕が肘から切断された。ベッドが切り裂かれ、スツールが吹き飛び、天幕がズタズタ、
文机が砕け散り、タバサを除いた部屋の中の全てが打ち倒され、純粋な破壊のために編
み上げられた高度な技術は、結果をもって存分にその意義を示した。

「お姉さまってば遅いのね! もっと早くシルフィを呼んでくれれば……」
 さらに不平をぶつけようとしたシルフィだったが、タバサの様子を見て思わず言葉に
詰まった。
 タバサは立ち尽くしていた。
 氷の嵐は収まっていたが、タバサの体を貫く吐き気を伴う悪寒は否定しがたいものに
なり、小さな体が小刻みに揺れ、両手で抱いても寒気はおさまってくれないだろう。強
く噛んだ唇からは鋭い痛みを感じるはずだが、それすら無かった。
 タバサは知った。連中の攻撃に真剣味がなかった理由を。こちらの攻撃に対し、ろく
な対処をしなかった理由を。
 連中は避ける必要がなかった。

 打ち倒された老メイジと騎士が重なり、二人は一つに溶けた。服が、杖が、鎧が、肉
体を含めたあらゆる所持品が一つに混じる。切り飛ばされた老婆の腕が絨毯の上を這い
ずり、そこへ加わる。他の者も同様だ。形を失くしているが、動きを手放してはいない。
這い、震え、蠢き、壊れたスツールや天幕の残骸まで飲み込み、案山子にすがりつき、
その重量で寝台を押し潰し、チーク材の鳴く音がミシミシと響く。
 名状しがたい肉色の混沌が部屋の中を満たそうとしていた。

 この常識を揺るがし狂気を誘い出す光景を前に、理性よりも野生が先んじた。不定形
の何かがタバサの足元に達しようという動きを見せた刹那、タバサ本人よりも早くシル
フィの首が窓から突き入れられた。マントをくわえとると、強引に引き寄せ、自分の背
中へと投げ落とす。
「ボヤボヤしない! 一時退却!」
 窓枠を蹴り、天に向かって飛び出した。幼生とはいえ、逃げの一手を選択した風韻竜
に追いつけるものなど存在しない。
 はずだった。

181:無惨の宴
08/10/03 23:15:37 K+QolU9f
「あ……ありえないのね!」
 飛び始めてから五分に満たない間に、プチ・トロワはもちろん、リュティスでさえは
るか後方に置き去った。そんな高速度で飛ぶシルフィードに追いすがろうという物体が
ある。
 鳥に似た翼は四対八枚。全体のサイズはシルフィードと同程度か。
 人間から頭部を切り落とし、その頭部から毛という毛を全て取り去り、極端に戯画化
された手足をつければこのようになるだろう。想像力豊かな子供の悪夢といった風情だ
が、不幸なことに、これは悪夢ではなく、悪夢のような現実だった。
 風を受け、バサバサとはためいていたマントが眼下の森へと吸い込まれていく。木々
の間を縫う低空飛行にもぴったりとついて離れない。水しぶきをあげて池を割ったが、
目くらましなどものともしない。
 このままではほどなく追いつかれてしまう。

「あれなんなの!?」
「逃げて」
「逃げてるのね!」
「もっと速く」
「これ以上無理!」
 
 後ろの『なにか』は表情こそにこやかだが、頭部にあたる部分をつるりとした鉄兜で
覆い、右の触手で巨大な棒杭を掴んで振り回していた。棒杭には、それに見合う大きさ
の板がくくりつけられ、呪文めいた文様が描かれている。何もかも理解しがたい。
 その笑顔はこれから行われる歪んだ愉悦に期待しているだけのことで、人間のそれと
は全く性質が異なるのだろう。餓えた禽獣のヨダレに等しいものだ。間違っても騙され
てはいけない。固く拳を握り締め、二度三度と膝に叩きつけた。逃げることがかなわな
いなら、シルフィードと自分で迎撃しなければならない。ここで死ぬつもりはなかった。
まだやらなければならないことが残っている。恐怖にすくんで震えていることも、悲壮
感に酔い、英雄ぶって散ることも許されない。母のことを、父のことを忘れてはいけな
い。醜かろうとみっともなかろうと生きなければならないのだ。

 タバサはシルフィードの首にしがみつきながら必死で考えた。
 切り裂かれても血の一滴さえ流さず、人間並かそれ以上の知性を有し、騎士から絨毯
までその姿を自由自在に変化させ、風韻竜を凌駕する速度で空を飛ぶ未知の生物相手に、
どう立ち回るべきなのか。
 うなじに感じる生臭い吐息は恐怖心からくる錯覚か。それとも……だが振り返る暇が
あるなら考えなければ。
 時間はもうほとんど残されていない。


――――――――――
ここまでで無惨の宴はとりあえず終了
ここから無惨の宴舞台裏となります

182:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 23:20:20 qGtAx5jA
支援

183:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 23:20:59 BxLxKL55
支援

184:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 23:31:52 qGtAx5jA
あれ?
今日はここで終わりで舞台裏は後日投下ってことか?

185:無惨の宴舞台裏・前編
08/10/03 23:34:38 QpchjNlc
 深夜はとうに過ぎ、これから朝方にさしかかろうとしている。
 灯りを落とし暁闇が忍び寄る部屋の中、寝台に腰掛けた王女が一人考え事にふけって
いた。トレードマークともいうべき大きな冠を脇に置き、整った眉根にしわを寄せ、あ
ざやかな青色一色の髪をかきむしる。考えが全くまとまらない。
 そもそも考えるという習慣を持たない王女である。面倒なことは人に任せ、任せた者
が失敗すれば厳しく叱責し、興がのればあざけり、笑い、時には鞭で打ち据える。失敗
がなくとも、虫の居所が悪ければ誰彼かまわず当り散らし、狩りに賭博にと飽くまで遊
び、世界各地の美味珍味に舌鼓、プチ・トロワの造りから家具小物類、召使いの服にい
たるまで趣味を押し通し、血税の上に胡坐をかく。周囲の評価はともかく、本人にとっ
ては当たり前のことで、反省も後悔も思い悩むこともなく、放恣放埓に生きてきた。数
日前に使い魔召喚の儀式を終えるまでは。

 あいつをどうする。どうすればいい。
 このままではまずい。すごくまずい。それは承知している。
 かといって誰かに相談することはできない。恥を触れて回るようなものだ。
 一人でどうにかしなければいけない。何をどうすればこの問題を解決できるのか。

 役に立たないことが浮かんでは消えていく。何も思いつかないが、かといって眠くも
ならず意識が冴える一方、まぶたは軽く、気は重い。ワインをあおろうという気にもな
らない。ここ数日、まどろみは彼方に逐電していた。ああ、と呻いて頭を抱える。
 深く考える習慣を持たずに生きてきたとはいえ、王女を責めるのは酷というものだろ
う。哲学者だろうと宗教家だろうと政治家だろうと科学者だろうと大魔法使いだろうと
ならず者だろうとペテン師だろうと、この悩みを解決できるとは思えなかった。
 爪を噛み、膝を上下に揺する。寝台の上に転がり、寝返りを打つ。
 もう一度ああ、と呻き……。

 ―ぺにょん

 魂が身体に引き戻された。そんな気がした。
 瞬時に脳が覚醒、身体を全力で機能させようとしたが追いつかず、足をもつれさせ、
転げまろびつ扉に張り付き、聞き耳を立てる。

 聞こえた。聞き間違えようがない。あの気の抜ける忌まわしい音。
 あいつだ。あいつの足音だ。あいつが来た。来るなと命じておいたはずなのに。

 心音は早鐘、汗腺は湿原、王女の心は麻のように乱れ、針の落ちる音さえ聞き逃さな
いよう、全身全霊を聴覚に集中させている。

 ぺにょん、ぺにょん、ぺにょん、ぺにょん、ぺにょん

 来た。近づいている。

 ぺにょん、ぺにょん、ぺにょん、ぺにょん、ぺにょん、ぺにょん、ぺにょん

 音がどんどん近くなり、やがて止まる。王女の緊張は頂点に達した。ノックか、声を
かけるか、いきなり開けるか。どう出るつもりか。
 扉から耳を離し、一歩退き、二歩退き、三歩退いたところで天井がミシリと軋んだ。

「フェイントォォォォオオオオオオオオ!」
「ぎゃぁぁぁァァァァアアアアアアアア!」

 扉に集中していた王女は、それ以外への注意力を欠いていた。だが王女でなくとも同
じことだったかもしれない。誰が自分の枕に急襲される事態などを想定できるだろう。
「ハーッハッハッハ、びっくりしただろ? 退屈そうだから驚かせようと思ってさ、枕
のフリして待ってたんだ」

186:無惨の宴舞台裏・前編
08/10/03 23:35:48 QpchjNlc
「あ、あ、あ、あ」
「イザベラってば全然気づいてくれないからさ、体切り離して足音だけ立ててみせたけ
ど……どうよ俺の驚かせテクニック」
「お、お、お、お」
「いいよね、悲鳴あげる女の子って。でもさ、できたら『ぎゃあ』より『きゃあ』の方
がいいな。俺の好みの問題だけど」
「お、ま、え、と、いうやつは……!」

 肩を震わせ怒りをあらわにする主に対し、使い魔の方はいささかも動じていない。扉
から、化粧台から、寝台の下から、カーテンの隙間から、小さな、だが形は同じ使い魔
達がわらわらと現れ、イザベラにまとわりつく。

「なーなーイザベラー、遊ぼうぜ」
「わーいわーい」
「くすぐってやるぞ。こちょこちょ」
「らんらんらん」
「朝っぱらからみんな元気だなー」
「そういえばイザベラ、ちょっと悩んでるっぽかったぞ」
「マジで?」
「年頃の女の子だもんな」
「髪の毛いいにおいー」
「悩み事があるなら俺に打ち明けてみればいいじゃん」
「るんた、るんた」
「そうだよ、三人寄れば文殊の知恵って言うだろ」
「百人乗っても大丈夫とも言うよな」
「使い魔と主は一心同体」
「主の悩みは使い魔の悩みだ」
「俺の物は俺の物、お前の物も俺の物ってやつだな」
「GペンのGって何の略なんだ?」
「おでこぺちぺち」
「いい音するな。さすがはイザベラのおでこ」

「お前ら……!」
 顔の色は憤怒の真紅に染まり、太い血管がドクドクと血液を送り続けていた。
「いい加減に……!」
 肺いっぱいに空気を吸い込み、それに倍する勢いで吐き出し、あらん限りの力を込め
て怒鳴りつけてやろうとしたその時、再び天井がミシリと軋んだ。

「も一回フェイントォォォォオオオオオオオオ!」
「ごぶっ!」

 天井板を破って降りかかる圧倒的質量に押し潰され、哀れな王女が倒れ伏す。やんや
と喝采で闖入者を出迎える使い魔の群れ。全身をぴくぴくと震わせ、絨毯の上に突っ伏
す主。彼女を心配できるだけの配慮を持った者はこの場にいない。

「天井なんかに隠れたもんだから微妙に出るタイミング逃しちゃってさー」
「いや、今のタイミングはナイスだったんじゃねえか?」
「イザベラもびっくりだ」
「本当だ。びっくりしすぎて寝ちゃったぞ」
「寝てるイザベラもかわいいなあ」
「おいおいイザベラは俺のご主人様だぜ? おかしなこと言わないでくれよ」
「違うぞ、イザベラはみんなのイザベラだ」
「そうだそうだー」
「おでこぺちぺち」

 薄れゆく意識の中、イザベラは思った。やっぱりこのままじゃ殺される、と。

187:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 23:35:49 XS39Sxat
ぺにょん……とな 支援

188:無惨の宴舞台裏・前編
08/10/03 23:36:39 QpchjNlc
 世の中には人生を賭して召喚に臨むメイジもいるが、イザベラはもっと軽い気持ちで
杖を振るった。自分の実力にはうっすらと気づいていたが、気づいていないフリを決め
込んだ。
 王族である自分が呼び出すものがつまらない犬猫小鳥などであるわけがない。きっと
竜、それも韻竜だろうから、人形娘に自慢してやろう。ただの竜しか召喚できない実力
不足を嘲笑し、韻竜をけしかけてチビな風竜を追い回してやる。
 傲岸不遜で自信過剰な考えだったが、結果としてイザベラの願いが叶ったかどうかは
誰にも分からなかった。呼び出された使い魔が何であるか、強いか弱いか良いか悪いか
可か不可か甲か乙か判断できる人間がいなかったからだ。

 主の腰までギリギリ届かない体長は不満だ。使い魔は竜のように大きなものがいい。
 人間の言葉を話す点は素晴らしい。知性の高さは韻竜に通じる。
 幾人か目を逸らすものがいたように、あまり見目麗しいとは言いがたい。イザベラは
感じなかったが、不定形生物が無理やり人間の頭部を模したようなその姿に生理的嫌悪
感をもよおす者もいるのだろう。
 ディテクト・マジックで魔力が感じられないのも残念だった。先住魔法の一つや二つ
使ってくれてもかまわなかったのだが。

 当たりと断言することはできないが、外れと言い捨ててしまうこともできない。その
辺はこれからじっくりと見極め、当たりなら大事にかわいがり、外れなら打ち捨ててお
けばいい。召使いが適当に世話をするだろう。
 神聖な使い魔召喚の儀式など屁とも思わない不届きな王女は、「もう少し調べさせて
ほしい」と言い募る学者を捨て置き、キョロキョロと落ち着かない使い魔の腕―と思
しき箇所―を引っ張って自室へ連れ込んだ。

 乗馬用の鞭を振るって質問―イザベラ以外はこれを詰問と称する―したところ、
いくつかのことが分かった。
 魔法を知らない。杖の先からちょろちょろと水を出してやったら大いに感動していた。
 自分が何であるのか知らない。生物であることは確かだが、それ以外不明とのこと。
 死ぬ方法を知らない。死に方を探してさまよっていたらしい。

「ああん? 死ぬ? なんで死ぬんだい」
「みんなから嫌われるし、俺なんて生きてても意味ないし、なんだか疲れちゃったしさ。
そろそろ死にたいなーって」
「はん、くっだらないね」
 ここまで何も知らない使い魔とは思わなかった。人語を解すからにはそれなりの知性
があるはずなのに、これでは白痴魯鈍もいいところではないか。
 どうやら使い魔が外れだったらしいことが分かり、イザベラのいらつきが増す。その
矛先は目の前にいる使い魔へと向けられた。

「嫌われたからなんだってのさ。嫌われて死ぬなんて負け犬もいいとこじゃないか。わ
たしだったら嫌ってるやつを引き裂いてやらなきゃ死んでも死にきれないね」
「強いな……あんた」
「お前が弱すぎるんだよゴミクズ。死にたいところでお生憎様だけどね、使い魔っての
は主のためだけに生きることが許されるんだ。勝手に死ぬことなんて許されやしないか
らよおっく覚えときな」

 大きな目のふちに涙をためている使い魔に指を突きつけ、イザベラは言い切った。相
手を思いやる気など毛の先ほども無いため、全く悪びれていない。使えない使い魔を憂
さ晴らしに使ってやっているのだから感謝してほしいくらいだとさえ考えていた。
「ああそれと。今度わたしのことをあんたなんて呼んだりしたら歯糞の詰まった口を鋼
線で縫いつけやるからそう思え。わたしはイザベラ様だ。これもよおっく覚えときな」

189:無惨の宴舞台裏・前編
08/10/03 23:37:15 QpchjNlc
「……ありがとう」
「ああ?」
 聞き間違いではない。感謝の言葉だ。なぜ?
 不審げなイザベラに気づいているのかいないのか、使い魔は涙ながらに感謝した。
「ごめんな、泣いたりして。こんなふうに励ましてもらったの初めてでさ」
「いや、べつに励ましたわけじゃ」
「俺みたいなのってほとんどいなくて……ずっと一人ぼっちで寂しかったんだ」
「聞いてるのか」
「これが使い魔と主の絆ってやつか。俺もファーストキスを捧げたかいがあったよ」
「おいこらさらっと気持ち悪いこと言うな」
「そうだな。ファーストキスだけじゃ申し訳ないな。受け取ってくれ」

 どこから取り出したのか、赤ん坊の拳ほどもある大粒の宝石を取り出した。どうやっ
て加工したのかその形はつるりとした球状で、見る角度を変えるたびに輝きの質を変化
させ、千変万化の美しさで見るものを魅了する。これだけ大きなものならば、城の一つ
や二つではすまないだろう。辺境の小国が買えてしまう。
「へぇ……悪くないじゃないか」
 手にとって眺めてみる。悪くないどころではない。これほどの品、ガリアの王女でさ
え見たことがない。つまり、世界中どこを探しても無いということだ。

 なるほど、この種の手合いだったかと内心頷いた。ちっぽけで愚かな使い魔だが、小
利口な処世術は心得ていたということだ。強いものへ貢ぎ、媚び、へつらって生きなが
らえようとはせせこましくもいじらしい。
「悪くはないが……これで終わりとは言わないだろうね」
「欲しいならもっと出すけど」
「出す?」
「ああ」

 言うなり使い魔はテーブルの上にあったワインの空瓶を手に取ると、ものの一口で飲
み込んだ。数秒後、軽い音とともに美しい球体を生み出した。尻から。
「ほら、出てきただろ」
「お前、これ……」
「綺麗だろ。ウンコの専門家もこんな美しいウンコは認めないって言って……」
 悲鳴と怒声を足して二で割らず、そこに発情した火竜をかけてからオーク鬼の咆哮を
絡めた叫びがプチ・トロワを貫いた。イザベラつきの侍女は後に語る。この世の終わり
を告げるかのように恐ろしい……でもどこか悲しい声だった、と。

「どうしたんだよ急に大きな声出して」
「き、貴様……貴様というやつは……」
「何かあったのか、イザベラ」
「このわたしに……よくも……下賤な……!」
「あ、ひょっとしてそんなに嬉しかった? ハッハッハ、照れるなあ」

「いかがなされましたイザベラ様!」
 使い魔は笑い、主は怒る。絨毯の上には巨大過ぎる宝石が落ちていて、部屋の中は荒
れ放題に荒れている。駆けつけてきた騎士が見た光景は以上のものだった。変事を察し
て駆けつけたのだが、それにしても変事が過ぎたと言わざるをえない。
「これは……いったい……何事でございますか」
「いや……なんでもない。なんでもない……」
「ですが」
「いい。気にするな。それよりも」
 口調こそ落ち着いているが、その表情は正視に耐えるものではない。王家に仕える騎士
として王女の癇癖を把握してはいたが、ここまで怒りに燃える王女は見たことがなかった。
「地下に出る。準備をしておきな」
「そ、それは……」
「おいたの過ぎた使い魔にはきっちりと教育してやるのが主の責務ってもんだろう?」
「……はっ」
 地下。即ち拷問部屋。痛めつけるだけではけしてすむまい。確実に死者が出る。そして
それは、イザベラが怒る原因を作った者になるだろう。

190:無惨の宴舞台裏・前編
08/10/03 23:38:28 QpchjNlc
 光あるところ影あり。光が強ければ強いほど影の色は濃くなる。華やかなヴェルサルテ
イルの地下にある陰惨な拷問室は、あやふやな噂が立つことこそあれ、実際どうだったと
体験に基づいて語られることはまず無いと言っていい。行って帰ってくるものがいなけれ
ば、想像以上のことを語るわけにもいかないからだ。
 使い魔を黒光りする鎖と見た目以上に重い鉄輪で縛りつけ、動きを封じる。地下である
というだけでは説明のつかない薄ら寒さが、ここで何が行われてきたかを如実に物語って
いた。
 正式な拷問であれば、情け容赦を母親の腹の中に置いてきた熟練拷問吏の出番と相成る
が、これはあくまでも使い魔のしつけである。実際のところ、自分で打ち叩かなければ腹
の虫がおさまらない王女のわがままだったのだが、怒り狂うイザベラを止められる者がい
ようはずもなかった。

 小さな燭台のみが照らす石造りの部屋の中、鞭がしなり、間を置かず肉を打ち据える。
これで聞こえる音がもう少し生々しければ随分と陰惨な光景になったことだろう。
「おい」
「なに?」
「なんだこれ。さっきから叩くたびに『ぽにょん』とか『ぷにゅん』とか気の抜ける音が
聞こえるんだけど」
「そう言われてもな」
「おまけにお前はなんか嬉しそうだし」
「そりゃ美少女のスパンキングサービスなんて嬉しくないわけないじゃん」
「……よし、やめよう」
「ええぇー! 途中でやめるなんてそりゃないよ。延長料金いくら?」
「お前もう口きくな」

 全身を針で突き刺されて泣き叫ばない者はいなかった。今日までは。
「おお、なんか肩こりがとれた気がする」
「なんで眼球に針打たれて肩こりが治るんだよ大馬鹿! 次!」

 体の端から寸刻みで削られていく。もはや拷問ではない。処刑だ。人間相手なら。
「……どうしよう、これ」
「どうしようって言われてもな。イザベラがやったんだから責任持てよ」
 わらわらと散っていく使い魔を前に、王女は呆然と立ち尽くす。

「わーいわーい」
「あははー」
「こら逃げるなー」
「うっほほーい」
「おでこぺちぺち」
「集まれー」
「よいしょ、よいしょ」

 切れば切っただけ数が増えるなどという非常識な生物のことまで考慮している拷問方
法があるわけがない。
「……とりあえずくっつけて元に戻すか」

 猛獣をしつけるための器具で電気を流してみる。
「光ってる……意味が分からない」
「心が休まる明るさだろ?」
「そうかもしれないけど、お前の得意げな顔が腹立たしい」
「抱き締めてもいいんだぜ?」
「わたしに感電しろってのかい? よし、次!」

 ガチガチに凍らせてやろうとすれば、
「もっさもっさだな。やたら長い毛だ」
「うーむ。実に不思議ですぞ」
「なんで喋り方まで変わるんだい」

191:無惨の宴舞台裏・前編
08/10/03 23:39:07 QpchjNlc
 酸で溶かそうとしても、
「クソ! 酸かよ! なんで酸なんだよ!」
「不機嫌になるだけでダメージ無しか……次だ」

 石を抱かせてみたが、
「ぺらっぺらだな」
「昔のアニメとかであったろ、重いものに潰されてヒラヒラーっと宙に舞うの」

 車輪で伸ばしてみる。
「二つに切れた……」
「あれ? 声が」
「遅れて聞こえるよ」
「遊ぶな」

 水責め。
「膨らんだ……」
「夏場はいいウォーターベッドになるぞ」

 三角木馬。
「なんだいその期待に満ちた表情は?」
「え? い、いや別に期待なんてしてないって。嫌だなー、次は三角木馬かー」
「そうかいそんなに嫌かい。それじゃやめとこう」
「そんな! ひどい! あんまりだ! 楽しみにしてたのに!」
「……やっぱりやめとこう」

 いっそ魔法で洗脳すれば……。
「よし! 魔法! いいぞイザベラ! 俺のご主人様! すごい! エロかわいい!」
「テンション高っ! うざっ!」

 餌をやらなければどうだろう。
「俺、空気からも栄養摂取するから。痩せはするけど死なないよ」
「くそが!」

 今度はガスで窒息させる。
「もうちょっと自分というものを真面目に考えてだな」
「なんでお前に説教されなきゃならないんだい」

 毒を飲ませる。
「おかわり!」
「ない!」

 ガクリと肩を落とし、前のめりにくず折れた。息があがり、蓄積した疲労が身を苛む。
意味の無い努力、つまりは徒労。これほど人を疲れさせるものはない。
「なんなんだお前は! デタラメじゃないか! どうすりゃいいってんだい!」
「だから言っただろ。俺、自分がどうすれば死ぬのか知らないんだよ」
 「死に方を知らない」とは知的レベルの低さからくる発言だと思っていた。まさかこ
こまで死ににくい生き物が存在しようとは。この生命力に比べれば、ミノタウロスやト
ロル鬼、サラマンダーやワイバーンでさえ柔弱のそしりを免れない。
 冷静になって考えてみれば、不死に近い生物を召喚したのだからメイジの実力も相当
なものだと満足することもできたのだろうが、それで満足するにはイザベラの頭に血が
のぼり過ぎていた。

「残る手段は……火だな。あれで死なない生き物はいないはずだ」
「火ってボウボウ燃えるあれ?」
「火を使うなら地下でやるわけにゃいかないね。とりあえず表に戻るか」
「よーし行こう行こう」

 目的が変わってしまっていることには主も使い魔も気づいていない。

192:無惨の宴舞台裏・前編
08/10/03 23:40:10 QpchjNlc
とりあえず以上です
召喚者はイザベラ、呼ばれたのはB.B.jokerより生物です

すいません、途中でさるさんに咎められてました

193:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 23:40:28 BkWn9D4I
もしかして・・・4コマのあれかな支援

194:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 23:42:11 9Tff0D2b
>美しいウンコ
元ネタ知らんが爆笑したwww


支援しますよ!

195:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 23:43:58 XS39Sxat
B.B.jokerか
昔読んだことあったけど内容忘れた……
とりあえず面白かったよ乙

196:ベルセルク・ゼロ
08/10/03 23:47:57 r4hZyl34
生物大好き。おもしろかったですGJ!
12時半くらいから投下しますね

197:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 23:48:24 Z1usZ/fj
ちょ、ホラーが一気にギャグにw

198:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 23:48:32 X+DuA8HS
0時より
>>143
を投下したいと思うのですが

199:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 23:50:07 vqdu4BYJ
現在入っている予約
0:00
>>195
0:30
>>198

200:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 23:50:39 XNaeEqte
というかタバサはどうなったんだ?

>196
支援だ!

201:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 23:51:58 BzoaEiw1
ベルセルクキタ。これで勝つる!

202:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 23:52:16 7MCnjJrD
交通整理改

24:00
>>198

24:30
>>196

ベルセルクキター!

203:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 23:52:19 XS39Sxat
>>198
一応確認しとくけど、まとめの方で訂正できる範囲じゃないくらいの変化なんだよね?
まあそれはそれとして、>>196で先に予約入ってるけど大丈夫?
30分以内に投下終わって、且つ感想とか入れる時間が短くてもいいなら投下してもいいんじゃないかな


>>199
違うよ、何か違うよw

204:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/03 23:57:48 X+DuA8HS
>>196
ベルセルクさん!
俺タイミング悪杉

>>203
まとめられてないから大丈夫のはず
投下自体は速やかに終わらせる。

205:エースコンバット・ゼロの使い魔 一話
08/10/04 00:01:10 DtgfrKoN
俺は死ぬはずだった
でも死ななかった
あいつの放った赤い光は 俺の乗っていたイーグルの
右翼をその光と同じ色で包んだ
あいつなりの手向けだったのかもな
痛む体を引きずってたどり着いた場所は
あの核の爆心地だったんだ
何も無い光景
それがなんだか
悲しくてしょうがなかった
でも そこで強く生きる人々がいた
俺は彼らに助けられたんだ
国境も関係なく助けてくれる人が、そこに居た
世界に境目なんて必要ないかもしれない
でも 無くすだけで変わるんだろうか
世界を変えるのは人を信じる力なんだろうな
信じ合えば憎悪は生まれない
俺は基地に帰り 恋人と結婚した
家もこうして構えた 国境の近くだ
確かめたいんだ あいつが、片羽があそこまで
執着していた国境の意味を
そしてそこで生きる人々の意志を
ここに答えなど無いのかもしれない
でも探したいんだ
そう 今はそう思う それでいいと思う
この映像はあいつらも見るのか?
会ったら伝えてくれ
まずはサイファー いや 鬼神に
「英雄、たまには連絡くれよ、妻がファンなんだ」
そして、片羽に
「なあ片羽 あんた どこに行っちまったんだ?」

ウスティオ空軍第6航空師団第4飛行小隊クロウ隊3番機
パトリック・ジェームズ・ベケット 
Patrick   James    Beckett


206:エースコンバット・ゼロの使い魔 一話
08/10/04 00:01:57 DtgfrKoN
オーシア連邦内テレビ局OBC報道ドキュメンタリー番組内インタビューより

『片羽の妖精』
本名ラリー・フォルク
ウスティオ空軍第6航空師団第66飛行隊 『ガルム隊』2番機

ガルム隊の2番機で、階級は少尉。ベルカ出身の28歳。TACネームは「ピクシー(妖精)」。

以前戦場で右翼を失いながらも帰還した経歴があり、それを誇るかのように右翼を赤くペイントした
F-15Cを操る。このエピソードから、「片羽の妖精(Solo Wing Pixy)」の名でベルカ・連合軍双方
の空軍に広く名を知られている

一番機、サイファーを「相棒」と呼び、ともに活躍するも、戦争の目的が「ウスティオ解放」から
「ベルカ侵攻」に変質していくことへの疑念を隠し切れなくなり、ベルカに7発の核が爆発したと同
時にガルム隊を去る。

その後、アントン・カプチェンコ、ジョシュア・ブリストーらのクーデター組織「国境無き世界」に加
入し、かつての相棒であった「円卓の鬼神」サイファーと雌雄を決する。アヴァロンダムにてガルム
隊の2番機となったPJを撃墜するが、その後に解析結果から機体のECM防御システムと、その弱点
が前部エアインテークと判明。V2再突入を巡ってのサイファーとの死闘の末、左エンジンに被弾を
受け戦闘不能となり、その後突然機体ごと消失する。それ以降
片羽の妖精と呼ばれた男、ラリー・フォルクの消息は途絶える。
後、事の一部始終を見ていたAWACS、「イーグルアイ」は、その様子をこう語っている


「まるで何かに吸い込まれるかのように、ADFX-02は、ピクシーは忽然と姿を消した」、と

207:エースコンバット・ゼロの使い魔 一話
08/10/04 00:02:44 DtgfrKoN
俺は、空に居た。
厚い雲の下、ここを飛ぶ戦闘機は俺と、奴だけだ。
<<撃て 臆病者!>>
既に3発のミサイルを貰っていて、これで4発目になる。
ECMPによる機体の保護も、もう限界に近づいている。
はっきり言って、こちらが圧倒的に不利だ。
しかし、だからこそ、ここで諦める訳には行かなかった。
兵装表示を見、体が興奮に沸きあがるのが分かった。
通常ミサイルが、一発。
それが、当時世界最強の戦闘機であった、ADFX-02 の、最後にして、唯一の装備だった。
それは奴も、サイファーとて同じことだろう。
もう、多くを語る必要はない。後は、純粋に戦うのみ。
操縦桿を大きく動かす。インメルマンターンをし、「鷲」の名を冠する戦闘機と向かい合う。
サイファーとの距離を示す数字が、見る見る減っていく。
1700...1600...1500...
その間、沸き上がる体とは対照的に、頭は不思議と落ち着いて居られた。
死への恐怖はない。元よりその覚悟の上で傭兵になったのだ。
1200...1100...1000
勝負の時が確実に近づく。操縦桿のボタンに、指を当てる。そして
900...800
射程に入る。
<<撃て!>>叫ぶと同時に、思いっきりボタンを押す。
奴も同じ事を考えたらしい。奴の翼の下から白い筋が延び、機体内はアラート音に包まれる。
お互いにロール機動を取り、ミサイルを避けようとする。
正面から猛スピードで接近してきた両主翼を青に染めたF-15Cイーグルとすれ違う。
その瞬間、機体に衝撃が走り、俺は事を悟った。
これまで、だな。
唯一、ECMP防御システムが及んでいないエアインテークを撃ち抜かれたADFX-02は
あっという間に速度が低下、右エンジンの内部温度が異常値に達しており、どす黒い煙を吐いていた。
キャノピー越しに奴のほうを見る。所々機銃の跡があるが、俺の放ったミサイルが
着弾した痕跡は無い。
これで、よかったのかもな。
電気配線が焦げだしたのか、異様な匂いのするコクピット。
そのせいか、ベイルアウトしようにもキャノピーが飛ばない。
閉鎖されたこの空間で、俺は深くため息をついた。
しかし、ため息の大きさほど、俺は落ち込んでなかった。
むしろ、「宿敵」に完膚なきまでに叩き潰され、清々しい位だった。
アヴァロンダムから発射された核弾頭―V2はこの機体から発信されている信号が消滅すると自爆するよう
セットしてある。ちょうど大気圏外に達した頃だろうから、今自爆すれば地上に被害はない。
破損したエアインテークの破片が、内部の燃料パイプに穴を開ける。
其処から漏れ出す大量の燃料は、高温のジェットエンジンを火種に、どんどん燃え上がる。
もう、逃げられない。
「じゃあな、相棒」
自分を撃墜したF-15Cのパイロットに向けてそっと呟き、俺は目を閉じた。
そして、内部の燃料タンクに、直接火が燃え移ろうとした時――

208:エースコンバット・ゼロの使い魔 一話
08/10/04 00:03:30 DtgfrKoN
<<そんな馬鹿な…・・・>>
アヴァロンダムにて、ウスティオ、引いては連合軍を裏切った、そして世界の命運を握る男、「ラリー・『ピクシー』・フォルク」
の討伐を命じられたガルム隊。その支援のために来ていたAWACS「イーグルアイ」は自らの目を疑っていた。
サイファーとの一騎打ちに破れ、脆くも宙に散ろうとしていたPIXY。
そのピクシーが乗っていた機体が、突如消失したのだ。爆発することなく。
<<何が起きたんだ・・・・・・>>
今の状況を把握しようと、頭を必死で働かせる。
(あんな事、有り得ないはずだ。物理的に機体が消失するなど…)
ふと、空を見上げる。
管制システムでもあったADFX-02からの電波が途絶えたために、V2は
はるか上空10000mで自爆していた。
<<こちら地上のPJ!、イーグルアイ、状況はどうなった!?>>
ヘッドホンから聞こえる声に、正気を取り戻す。
<<事情は後で説明する。今ヘリボーン隊をそこへ向かわせた。しばらくの辛抱だ>>
そういって、PJとの通信を切る。そして、もう一人にも通信を入れる。
<<サイファー、任務完了だ。
・・・今は取り敢えず帰ろう。お前の帰りを待ってる奴らがいる>>
もう一人の男、円卓の鬼神と呼ばれた男は、静かに頷いた。


「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
 五つの力を司るペンタゴン!
 我の運命に従いし、"使い魔"を召喚せよ! 」

古びた石造りの城のような場所で、一人の少女が叫ぶ。
何もそれは一回目の事ではない。既に何度も繰り返し、そして失敗する。
その結果起こる爆発。
証拠に、すでに彼女の周りにはいくつものクレーターが出来ている。
周りの人間は、既にその回数を数えることにも飽きたらしく、自分が呼び出した
使い魔とコミュニケーションをとっている。
彼女はその近くの先生と思わしき人物と掛け合い、なんとか最後のチャンスをもらう。
深呼吸をし、何とか心を落ち着け、もう一度呪文を唱える。
しかし、発した呪文は先ほどまでとは違うものだった。
「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ、神聖で美しく強力な使い魔よ 、
 私は心より求め訴えるわ。我が導きに答えなさい! 」
唱えている途中で、皆からその呪文に対して疑問の声が上がる。
あくまで途中のみで、その後にはその疑問は出なかった。
何故ならば

その時起きたのは、大柄である男子生徒を軽く10メイルは吹き飛ばすような、
強力な爆発であり、口を開ける暇など無かったからだ。

209:エースコンバット・ゼロの使い魔 一話
08/10/04 00:04:36 DtgfrKoN
「ゲッホ、ゲッホ・・・」
何とか立ち上がり、煙を払う彼女。
長いピンク色の髪の毛は、少し煤けていた。
何人かはレビテーションの魔法でとっさに空中に逃げたり、
地面を盛り上げて盾にしたりしていたが、
それでも大多数の者は、その爆風に吹き飛ばされていた。
「いくらなんでも、おかしいじゃない……」
げんなりとした顔で、そう呟く彼女。
「ちょと、ヴァリエール!そんな感想漏らす前に一言言うことがあるでしょ!」
燃えるような赤い髪の女が、彼女に怒鳴り散らす。
「そう言っても仕方ないじゃない!私にどうしろって言うのよ!」
負けじと言い返す。
「どうしろもこうしろもないわよ!」
腕を組んで彼女を睨む赤髪の女。
「私はあんんたに謝れって言ってるの!」
彼女は一瞬罰が悪そうな顔をするが、直ぐに
「嫌よ、死んでもツェルプストーなんかに頭を下げるなんて!」
折れかけた気持ちを、一瞬で持ち直させる。
「もう・・・タバサ!タバサどこ!?」
赤髪の女――キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー
がそう言うと、突如上から青い髪の小柄な女が落ちてくる。
いや、舞い降りると言った方が正しいのだろうか
「ここ」
ただ、一言そう告げる小柄な少女。
「お願い、タバサ。風系統の魔法で煙、晴らしてくれない?」
「解かった」
小柄な少女、タバサが自分の身の丈は有ろうかと言う杖を振るう。
すると、彼女を中心に、心地いい風が流れ、少しずつ煙が晴れていく。
「ありがとう、タバサ」
「いい」
短い言葉を交わして、お礼を言うキュルケ。そして、彼女に
「で、あんたもこれでチャンスを全部使い切った訳だし」
と言う。顔を一瞬で青くさせる。
「遂に落第…

「おい、煙の先に何かあるぞ」
誰かの言葉にキュルケの言葉が止まる。
少女がその声に反応して、未だ尚煙に包まれている向こう側を見てみる
彼女に対する文句が止み、徐々にざわめきが小さくなる。
薄く煙に移るのは、巨大な影。
「・・・・・・」
皆が、何が現れるのかを固唾を呑んで見守っている。
やがて、煙が晴れる。
そこには          白い体を持つ、両腕を広げたドラゴンが居た。

210:エースコンバット・ゼロの使い魔 一話
08/10/04 00:05:35 DtgfrKoN
「成功・・・・・・?」
見てるほうも具合が悪くなりそうだった顔、一瞬元気を取り戻したような顔になる。
なぜ一瞬なのか?それは、
「やった!成功した!これで、・・・こ・・・?」
徐々に語尾が弱まる言葉。それほどまでにそのドラゴンの形状はおかしかったからだ。
その頭に当たるはずの部分は妙に細く、長く尖っており、両翼は薄く、空を飛べるとは思えない。
そしてその、こちら側に向けられた羽の片方は、赤く染まっていた。
「なに、これ・・・・・・?」
彼女が疑問譜を出す。いや、彼女だけではない。
「コルベール先生、これは……」
性格が軽そうな金髪の少年が、怖々とした顔でそこにいる大人、コルベールに質問する。
「いや、私にも、あれが何なのか……」
その人物、コルベールは言葉を濁す。今まで読んだどんな文献にも、あのような
竜は記載されていなかった。それどころか、あれが本当に竜なのかさえ疑わしい。
周りの人々は皆、異口同音にこんな言葉を出す。
「あれは一体何なんだ?」
その形状に、やがて皆にその疑問が伝播する。
最初は好奇心が勝っていたが、やがて、それは悪い想像へと変わっていく。
あれが大暴れするのではないか、突然爆発するのではないか。
何時もが何時もである為、中々信用されない。
「とにかく、」
咳払いが聞こえ、振り向く。
「ミス・ヴァリエール、サモン・サーヴァント成功おめでとう。とりあえず
コントラクト・サーヴァントを済ませてしまいなさい」
真っ黒な頭をしたコルベールが、少女に向かってそう言う。
「分かりました、コルベール先生」
深呼吸を一回、二回、とする。
――よし。
出来るだけ心を落ち着けて、彼女は足を踏み出した。


一歩ずつ踏み出すにつれ、その物の異様さが伝わって来るようだった。
どんなに少なく見積もっても、20メイルは超えるであろうという大きさ、
車輪のようなものがついた足、そして胴体の中心に着けられている
巨大な大砲のようなもの。「ようなもの」という、いろんな既視感に襲われたのも
異様に感じる理由のひとつかも知れない。
そして、赤く染まる右羽以外は、完全なる左右対称。

両手両足で数えるような歩数で、その近くに来た。
恐る恐る、頭と思われるその物の先端に触れてみる。
――冷たい。
この感じは、どこかで触ったことのある気がした。
・・・・・・そうだ、これは鉄だ。剣や鎧に使われる、あの硬い金属。
これは生き物ではないと、直感的に理解する。
「おい、これピクリとも動かないぞ」
ついてきた他の人々も、その物の様子がおかしいことに気づき始める。
「おいこれ、死んでるんじゃねーか?」
「まさか」
皆口々に感想を漏らす。
「さあ、コントラクト・サーヴァントを」
コルベールに進められるがままに、その儀式を始めるため、呪文を唱える彼女。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 、
 五つの力を司るペンタゴン 、この者に祝ーーー「~~~~~~~~~~」
突然のことだった。
上から聞こえる声。驚いて上を見上げる。


そこには、奇妙な服を着た男が居た。


211:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/04 00:05:47 ZoKR+0Qu
支援

212:エースコンバット・ゼロの使い魔 一話
08/10/04 00:06:34 DtgfrKoN
目蓋の外が、眩しい。
そうか……俺は死ぬんだな……
状況を、何とか理解しようとするが、断念する。
これから死ぬってのに、そんなことをするのは野暮ってもんだ。
傭兵である以上、宗教など信仰してはいなかった。
天国や地獄など、そんなものを信じる暇も無かった。
死んだら、其処で終わり――それが戦場でのルールだった。
だがもし、死後の世界があるとしたら、おれが逝くのは――

地獄だろうな。心の中で苦笑する。
幾つもの命を奪い、仲間を裏切り、悪魔の兵器、核に手を出した男だ。
あんなことをして天国に逝けるのならば、もう400年は前に天国は満員だろう。
意識が少しずつ、遠くなるのが分かる。
少しの間ぐらい休んでも、今更罰は当たらないだろう。
そう思って、意識を手放した。



はずだった。やがて意識は遠くなるどころか、はっきりとしてくる。
ぼんやりとしていた視界も徐々に冴えて来る。
どうなっている……?俺は死ぬんじゃなかったのか?
それとも、もうあの世に着いたってのか?
それにしても様子がおかしい。今、俺は何かに座っている。
それは、パイロットシートだった。あのとき、電気系統がいかれたせいで
飛ばなかったシートだ。
そんなことはどうでもいい。問題は、なぜ爆発して木っ端微塵になったはずの
コクピットに座っているのか、だ。
いや、まだここがモルガンのコクピットであるという確証はない。
ここがどこか確認する為に、彼――ラリー・フォルクことPIXYは
目を開き、愕然とした。

それはここがADFX-02モルガンのコクピットの中である事にではなく、
キャノピー越しに見える外の風景に対してだった。
どこなんだ、ここは
先ほどまで居た雪の降るアヴァロンダムでは無い事は確かだ。
綺麗な、見事なまでの、快晴。この短時間にこうなるのは有り得ないだろう。
さらに、俺が知る限り、あの付近にはこんな大きい石造りの建物は無かった筈だ。
もし異常気象が発生して、もしあったとしても、それは意味の無いことだ。空を見上げ
、軽く眩暈する感覚を覚える。
月が、二つある。

213:エースコンバット・ゼロの使い魔 一話
08/10/04 00:07:06 DtgfrKoN

こればかりは、自分の中にあるどんな理屈を使っても、説明できなかった。
大きく、ため息をつき、とりあえず気持ちを落ち着ける。
まずは、状況確認だ。
まず、一つ、俺は生きているらしい。信じられないが。
次に、二つ、ここはさっきまで俺の居た世界ではないらしい。これも信じられないが。
最後に、三つ、前方、いや周囲には、黒ローブを着た人が沢山居る。皆、驚いた様子でこちらを見ている。
……OK、これが現状の全てか。
とりあえず、今警戒すべきはあの新興宗教のような集団だろう。
俺も、宗教じみた集団の思想に感銘を受けていたんだがな。

とりあえず、まずは外に出るべきだろう。
そんなことを考えながら、俺は武器を持つ。
ベルカ公国謹製、ワルサーP99を右ポケットに入れ、
ありったけのマガジンを服の下に入れる。
レーションも申し訳程度に持っておく。
ウスティオ製の方が美味いんだがな――そんなことを考えながらふと、主翼を確認してみる。
日の光に当たり反射する、赤い羽。
・・・なに?
驚いて見直してみる。
傷一つ、付いていない。
そんな馬鹿な、あの時確かに感じていた。
スプリットSから背後を取られ、機銃の嵐がこちらに向かって吹き荒れ、
赤い片羽、すなわち右羽が蜂の巣となったのを。
もしやと思い、武装表示を見てみる。
―――
GUN・・・800
MSSL・・・8
TLS・・・Full
MPBM・・・6
FUEL・・・Full
―――
そこに表示された数値があらわす事。武装、燃料、全てが元に戻っている。
あの、決戦前の状態に。
全部使い切ったはずなのに、ご丁寧に完全復活ときた。
爆発していない時点で、気づくべき事象だったのだろうが。
・・・・・・・こいつは、迂闊に放置出来ないな。
懸念事項が、一つ増えた。

外を見ると、こちらを指差して何か話し合っている。
否、俺をというより、この機体を指しているようだ。
――キャノピーに、気づいていない?
一般的な飛行機を知っている人ならば、どこかに人が乗っていることぐらい
分かるはずだ。だが、彼らは明らかに、ノーズコーンを指差して話している。
まるで、飛行機の存在を知らないかのように。
やがて、その中の一人が前に出て、ノーズコーンの前で何かを呟いている。
気味が悪いほど、鮮やかなピンクがかったブロンド、といった所だろうか。
そんな髪の色をした少女だ。
・・・・・・あれは、一体何をしているんだ?
とりあえず、こいつらに質問したいことが山ほどある。
俺はキャノピーを上げ、下にいる奇怪な髪の色をした少女に話しかける。

「~~~~~~~~~~~~~~~~――「そこで何をしているんだ?」

214:エースコンバット・ゼロの使い魔 一話
08/10/04 00:10:55 DtgfrKoN
思ったより早漏で終わったぜ!
ADFX-02参考画像
URLリンク(blog-imgs-18.fc2.com)
URLリンク(www.geocities.jp)
URLリンク(www.acecombat.jp)

お目汚し済みませんでした。
でもこれでようやく落ち着けるぜ!

215:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/04 00:19:44 ZoKR+0Qu

素直に契約までいけそうな雰囲気が感じられないが、無事終わるのかなw
とりあえず次を期待しておく

216:ベルセルク・ゼロ
08/10/04 00:28:46 ayycpQ60
それじゃあ投下始めますね

217:ベルセルク・ゼロ19
08/10/04 00:30:39 ayycpQ60
 険しい山道を進むと、峡谷にはさまれるように造られた町並みが目に入る。
 月の光に照らされたそこはアルビオンへの『船』を出している港町ラ・ロシェールだ。
 山道に月の光を浴びて影が伸びる。
 ワルドとルイズが跨るグリフォンの影。それとギーシュと少女が跨る馬の影だ。
 ギーシュの馬に跨っているのはグリズネフから救出したあの少女だ。
 少女はメリッサと名乗った。
 メリッサは亜麻色の髪を肩まで伸ばしていて、今はルイズの制服を身に纏っている。メリッサの身長はルイズより頭一つ大きいので、服の丈は足りず、ボタン回りもぱつんぱつんだ。
 そのままではあまりに扇情的だったので、今はギーシュのマントを羽織っている。
 町が見えたことで一同はほっと一息ついた。
 学院を出発してからここまでほとんど休憩を取らずに駆け続けていたのだ。グリフォンに跨っていたルイズやワルドはともかく、激しく揺れる馬上にいたギーシュは疲労困憊だった。
 それでも女の子に弱みは見せられないと、ギーシュは鼻から息を吐いて背筋を伸ばしている。
 ワルドはそんなギーシュにちらりと目を向けると、ふぅと息をついた。
(今日は上等の宿に泊まることにしよう)
 しっかりと疲れを取らなければ明日以降に影響が出る恐れもある。ワルドはそう考えた。実際、ワルドも昼間の思わぬ精神力の消費で少々疲れを感じていた。
 町が見えたことで、自然と一同の足が速くなる。
 その時だった。
 突然、ギーシュが駆っていた馬の足元に矢が突き立った。
 驚いた馬は慄き、立ち上がってしまう。
「うわわわ!!」
 馬から振り落とされたギーシュは地面でしたたかに腰を打ち付けた。
 一瞬遅れて少女・メリッサがさらにギーシュの上に落ちてくる。
「うぼふ…!!」
「ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか!!」
 慌ててメリッサは飛びのいた。幸い、ギーシュがクッションになって彼女自身に怪我はない様だった。
「うがが……き、気にしなくて結構だ……! 怪我がないようで何より……!!」
 涙目になりながらもギーシュは親指を突き立てる。
 ワルドは油断無く周囲に目を光らせた。
 空気を切り裂く音がして、次々と矢が飛来してくる。
 ワルドが風を巻き起こし、それらの矢を蹴散らした。
 矢は山道を挟む崖の上から放たれている。月の光に照らされて、崖の上で黒い影が蠢くのが見えた。
「何なのあいつら!!」
 ルイズがヒステリックに叫ぶ。
「盗賊か夜盗の類か……? ぬぅ!」
 崖の上だけでなく、岩陰からも影が飛び出した。
 薄汚れた鎧を身に纏ったその出で立ちから、傭兵崩れの盗賊だとワルドは判断する。


218:ベルセルク・ゼロ19
08/10/04 00:33:32 ayycpQ60
 盗賊たちは剣や斧、思い思いの武器を持ち、グリフォンに跨ったワルドたちに襲い掛かる。
 そのうちの一刀がグリフォンの翼を掠めた。
「チィッ!!」
 ワルドは思わず舌を鳴らした。
 ルイズを抱え、バランスを崩したグリフォンから飛び降りる。
「ギーシュ君! 少女を連れてこっちへ!! 私から離れるな!!」
 近くにいた盗賊を一人切り伏せてワルドは叫ぶ。
「ワルド! まずは上の奴らをなんとかしなきゃ!!」
「今飛び上がれば格好の的だ。心配しなくても上からの射撃はもうない。味方に当たるからだ」
 ギーシュがメリッサの手を引き、ワルドの傍に駆け寄ってくる。
「ギーシュ君、その少女は君が守れ。ルイズは私が命をかけて守る」
 ギーシュは不安そうなメリッサを一瞥すると、こくりと頷いた。
 満足そうにワルドは微笑み、頷く。そんなワルドにルイズが食って掛かった。
「ワルド! 私戦えるわ!!」
 ワルドは困ったように微笑み、ルイズの頭を撫でた。
「大丈夫だルイズ。僕に任せて」
 雄たけびが聞こえる。斧を大きく振りかぶった男が間近に迫っていた。
 ――杖を抜き、一閃。
 男は喉から血を噴き出し、もんどりうって昏倒した。
 ざっと見回して、敵の数はおよそ20。ワルドはしかし、その顔に余裕を浮かべていた。
 メリッサを背中に庇い、ギーシュは胸元のポケットから薔薇の造花を抜いた。
 あのグリズネフとの戦いを経て、精神力は既に空。体も、水の秘薬で治療したとはいえあちこちが痛む。
 敵を鮮やかに切り倒すワルドの姿が目に入る。メリッサの震えを背中に感じる。
「ワルキューレ!!」
 杖を振る。途端に意識が白濁する。唇をかみ締める。痛みで自分を引き止める。
 そこに現れたのは彼の誇る勇壮な戦乙女とは似ても似つかぬ醜悪な青銅の塊。
 ただ、腕があるだけ。ただ、足があるだけ。
 かろうじて人の形を保っているだけの、のっぺらぼうの人形だった。
 これが、からっぽの精神力で作り出せた限界。格好つけのギーシュには耐え難い無様だった。
 しばし、ギーシュは己の錬成した人形を見て唖然とする。
 だが、敵は待ってはくれない。鉄の刃を振りかぶって、ギーシュがかろうじて作り出したゴーレムへと切りかかる。
 ギーシュの脳裏に、グリズネフの言葉がよぎった。

 ――ゴーレムに立派な鎧も兜も必要ねえ。人を殺すにゃあ手と足があって、武器が持てりゃあ十分だ

「うわああああああああ!!!!!」
 恥も外聞も無く、ギーシュは叫ぶ。
 鎧も兜も持たぬ人形は目の前に迫った盗賊に向かって突進した。



219:ベルセルク・ゼロ19
08/10/04 00:36:39 ayycpQ60
 ルイズは悔しくて、悔しくて、唇をかみ締めていた。
 守られているだけの自分が悔しかった。求められない自分が悲しかった。
 自分はあの土くれのフーケだって捕まえたんだ。
 もう私は『ゼロ』のルイズなんかじゃない。なのに。
 もうギーシュはぼろぼろだ。操っているゴーレムは普段の形とは異なる、とても単純化されたモデル。それは彼の精神力の限界を示している。
 ワルド。彼もまた、口には出さないけれど疲労しているのだ。
 その証拠に、魔法を使ったのは矢を払った最初の一回だけ。
 それから彼はずっと杖を剣として扱い戦っている。
 盗賊から救出した少女・メリッサはもともと戦う手段を持たない。
 つまりは、今この中で五体満足に戦えるのは自分だけなのだ。
 本来戦うのは自分であるはずなのだ。
 そもそもこれは私が姫様から仰せつかった任務なのだ。
 なのに――こうやって、二人が戦っているのを後ろから見てるだけなんて、
「そんなの、許されるわけないじゃない!!」
 ルイズは杖を手に取り、駆け出した。
「なっ!? ルイズ!!」
 予想外の事態に、ワルドの動きが乱れる。
 ワルドの射程圏内を外れたルイズに盗賊が迫る。
 ルイズは一瞬恐怖に体が固まりながらも、呪文の詠唱を始めた。
「落ち着いて……出来る、私は出来る!!」
 紡ぐ言霊は『錬金』の魔法。必ず失敗し、爆発を起こす魔法。
 だが、それは発想を転換すれば必ず対象を爆発させる魔法と成りえる。
 フーケとの戦いを経て、ルイズが必死に考えた『戦うための手段』だった。
 問題はその射程の短さ。対象に確実に魔力を伝導させるために必要な距離はおよそ1メイル。
 盗賊の持つ剣が振り上げられる。
 しかし――
(間に合う!!)
 ギリギリで詠唱を終えたルイズが杖をふる――その刹那。
 ワルドがルイズの体を抱きかかえ、飛んだ。
 盗賊の振る剣がワルドの羽織るマントを切り裂いた。
 ルイズの制御を離れた魔力はあらぬところで爆発を起こし、四散した。
「…ッ! つぅ……!!」
 ワルドの顔が歪む。剣が掠めたのだろう、ワルドの右肩に血が滲み出していた。
「ワルド!!」
 ルイズはワルドの腕を離れようと身をよじらせる。
 ワルドはどこまでも涼やかな微笑みを浮かべ、ルイズを強く抱きしめる。
「大丈夫だ、ルイズ……安心して。君は、ここでじっとしていればいいんだ」
「違うッ! ワルド、私は……!!」
「ルイズ、僕を信じて」
 そう言い残すとワルドはルイズから離れ、再び盗賊たちと対峙した。
 残されたルイズは、ふるふると力なく首を振る。
「信じているわ……ワルド……だけど………」
 刃と刃が擦れ合う甲高い音が、どこか遠くで鳴っているような感覚に陥る。
「あなたは……私を信じてはくれないのね」
 足元がおぼつかない。見ると、ルイズは池をたゆたう小船の上にいた。
 霧に囲まれて対岸の様子はよく見えない。もちろんこれは錯覚だ。弱いルイズの心がこんな風景を見せている。
 この場所は、幼いルイズが辛いことがあった時に逃げ出していた隠れ場所だ。



220:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/04 00:37:57 l7IgJFHr
ぬ、さるさんかな?

221:ベルセルク・ゼロ19
08/10/04 00:39:42 ayycpQ60
(結局、私は――)

 変わったはずだった。
 土くれのフーケを捕まえて、もうゼロだなんて呼ばせないように、戦う手段を頑張って探して。
 もう私は『ゼロ』なんかじゃない。
 そのつもりだった。
 ルイズの脳裏に、別れの時に見たガッツの背中が思い浮かぶ。

 ――お前、何か勘違いしてるんじゃねえか?

 力が抜けて、ルイズはその場にしゃがみこんだ。
 小さく膝を抱えるその姿は、行き場を見失った迷子のようだった。


 結局、私はこの場所から一歩も動いていなかったんだ―――


 ぽろぽろと涙が零れる。
 子供のようにうずくまり、嗚咽を漏らしながらルイズは泣いた。
「ルイズッ!!!!」
 ワルドの声に、ルイズははっと顔を上げる。
 一本の矢がルイズめがけて飛来していた。
 岩陰から強襲した盗賊の中にも、弓を持つ者がいたのだ。
 ワルドは呪文を紡ぐが間に合わない。既に空に近かった精神力は、新たに魔法を発動するのに致命的な時間を要した。
「馬鹿な……」
 思わず、ワルドの口から声が漏れる。
「何故…何故貴様らはルイズを狙う!!」
 半狂乱になりながらルイズの方へ手を伸ばす。
 ルイズの目には、迫り来る矢の動きがやけに遅く見えた。
 襲い来る激痛を予感して硬く目を閉じる。

 ドン! と重い音がして地面が揺れた。

 矢はいつまでたってもやってこない。

 ルイズは恐る恐る目を開く。

 たなびく黒いマント。いつかのように、広い背中をこちらに向けて。

 ――黒い剣士がそこにいた。



222:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/04 00:40:50 ZoKR+0Qu
ガッツ来た支援

223:ベルセルク・ゼロ19
08/10/04 00:41:31 ayycpQ60
 ルイズに迫っていた矢は構えた大剣に弾かれ、地面に落ちている。
「ガッ…ツ……?」
 幻ではない。目の前の黒い剣士は、確かな存在感を持ってそこにいる。
「どうして……?」
 事態がうまく飲み込めない。ルイズは恐怖で座り込んだ姿勢のまま、ぼんやりと風に揺れる黒いマントを見つめていた。
「おい」
 低く響くその声に、ルイズの肩がびくりと反応する。
 体は前を向いたまま、ガッツが視線だけをこちらに向けてくる。
「何そんなとこでうずくまってやがる」
「え……?」
 突然現れた黒い剣士の出で立ちに唖然としていた盗賊たちが我を取り戻す。
 ルイズを囲むようにしていた3人の盗賊が、目線で示し合わせて同時に飛び掛ってきた。

 バリリ……!
 響いた音はガッツが歯をかみ締めた音。

「これは……てめえの戦だろうが!!」

 ぎしり、と剣の柄を力強く握りしめ、凄まじい速度で振り切られた鉄塊は、一振りで三人の盗賊を吹き飛ばした。


 駆け出すガッツの背中を、ルイズは呆然と見つめていた。
 胸の中でガッツの言葉を反芻する。
 何故だか――何故だかはわからないが、胸が熱くなった。
 涙が滲んで景色が歪む。
 だがこれは先程までとは意味の異なる涙。
 ぐし…と袖で目を拭う。
 そうだ――これは、私の戦いなんだ。
 たとえ、私に戦う力が足りないのだとしても――戦えないのだとしても!

「『戦わない』なんて選択肢、ありえないのよ!!!!」

 杖を抜き、しっかりと立ち上がって駆け出す。
 ルイズの目は、鮮烈な輝きを取り戻していた。


 決着はあっという間だった。
 盗賊の半数を切り倒したところで、残りの者は散り散りに逃げ出していった。
 ガッツはその背にドラゴンころしを仕舞う。と、ギーシュが話しかけてきた。
「ガッツ、キミはどうやってここに?」
 ガッツはその問いには答えず、空を見上げた。
「あっちも片付いたみてえだな」
「え?」
 つられてギーシュも空を見上げる。
 見覚えのある風竜が空を舞うのが見えた。


224:ベルセルク・ゼロ19
08/10/04 00:43:34 ayycpQ60
 宿場『女神の杵』。ラ・ロシェールで一番上等の宿だ。
 そこの一階に備え付けてある酒場で、一行はくつろいでいた。
 よほど疲れたのか、机に突っ伏しているのはギーシュで、それを心配そうに見つめているのはメリッサだ。
 死んだようなギーシュにパックがおもしろそうにちょっかいを出している。
 ガッツはコップに注がれた酒を傾けていて、キュルケがそのすぐ隣で熱っぽい目をガッツに向けている。その隣には黙々と本を読み続けているタバサの姿があった。
 ガッツとパックをここまで運んだのはタバサの使い魔である風竜シルフィードだったのだ。
 ルイズとワルドの姿はここにはない。二人はアルビオンに向かう船の調達に向かっていた。
「それにしてもあんたぼろぼろねえ」
 キュルケが膨れ上がったギーシュの頬をつつく。
「痛い痛い! 頼むから触らないでくれたまえ! 大体なんで君たちまでここにいるんだ! ガッツをここに連れてきたらもう用は無いんだろう!?」
「だぁっておもしろそうなんだもん」
「君なぁ……これは極秘の任務なんだぞ? 遊びじゃあないんだ!」
 よろよろと体を起こしながらギーシュはビシッ、とキュルケを指差す。
「硬いこといわないの!」
 芝居がかったその仕草に少しイラついたキュルケは強めにギーシュの後頭部をはたいた。
 抵抗する力がこれっぽっちも残っていないギーシュは強かに額をテーブルに打ち付ける。
 メリッサはそんな二人のやりとりを止めるに止めれずおろおろとしていた。
 額から血を流し痙攣するギーシュの目の前にシュタッと栗頭の妖精が舞い降りる。
「極上の傷薬はいかがかね?」
 まるで商談に使うような眼鏡をかけてパックはギーシュの眼前にずずいと詰め寄る。
「な、なんだきみは!」
「なんだチミはってか。何を隠そうこの私こそが『鉄の城』ガッツの家主であるパックだ」
「はあ!? ってちょっとおい何を!」
「見れば随分体を痛めているご様子…この『妖精の粉』を用いれば明日にはもう完全、完調、絶好調でございます。なぁにお代は後払いで結構でゲスよ」
 いやらしい笑みを浮かべ、ギーシュの返事も聞かずパックはギーシュの体に己のりん粉を擦り付ける。
「な、なんだこれ。痛みがみるみる引いていく……!」
「どうでげす? いい具合でざんしょ?」
「す、凄い!! もっとやってくれ!!」
「お安い御用ざんす」
 後に、ギーシュは法外な値段を請求され、パックの奴隷と化すことになる。
 ワルドとルイズが戻ってきて、出発は明後日になることを告げた。
 ワルド、ルイズとメリッサ、ギーシュとガッツ(とパック)、キュルケとタバサ、一行はそれぞれ割り当てられた部屋に戻る。
 メリッサの今後など考えるべきことはあったが、それは全て明日に回して今日はとにかくしっかり休むことになった。



225:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/04 00:44:57 ZoKR+0Qu
ギーシュ、奴隷になんて……(涙) 支援

226:ベルセルク・ゼロ19
08/10/04 00:45:00 ayycpQ60
 月の光を浴びる丘に、一人の女が立っている。
 女が見下ろす先にはルイズ達が泊まる『女神の杵』亭があった。
 カツン――と小石が転がる音がする。
 気配を感じて女は後ろを振り返った。
 そこには白い仮面を被った長身の男が立っていた。
 男の手には血に濡れた杖がある。
 しばしの無言。
 月の光を浴びて、岩肌に二人の影が伸びている。
「どういうつもりだ」
 先に口を開いたのは仮面の男だった。
「何がだい?」
「とぼける気か?」
 男は血に濡れた杖を女に突きつけた。
「逃げた奴に聞いた。貴様が言ったらしいな。『桃色の髪の女を討ち取った者には倍の金を出す』と。俺は『ルイズにだけは手を出すな』と言ったはずだな?」
 仮面の男から殺気が漏れる。
 しかし、喉元に刃のように鋭い杖を突きつけられてなお、女はくつくつと笑った。
「少しあのお嬢ちゃんには怖い思いをしてもらおうと思っただけだよ。それくらいのお遊びは許されるだろう? 何しろあの子は私を捕まえた憎き相手なんだからさ。それに――」
 女は――『土くれ』のフーケは目を細める。その瞳には嘲りの色が浮かんでいた。
「まさか、あの程度の連中にあの『閃光』のワルドが遅れをとるとは思わなかったんでね」
 男の手がピクリと揺れる。対するフーケはあくまで余裕。
 またしばし無言が続く。
 仮面の下で、男は舌を鳴らした。
「二度目はないぞ」
 そう言って、杖を引く。マントを翻し、フーケに背を向けた。
「次に勝手な真似をすれば、殺す」
「心得とくわ、ボス」
 わざとらしくそう呼んで、フーケは笑った。


227:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/04 00:45:49 M2m6mMuo
タバサはパジャマなのかな?
支援だ!

228:ベルセルク・ゼロ
08/10/04 00:48:03 ayycpQ60
ちょっと短いですが投下終了
次のワルドのプロポーズ&決闘まで行くと長くなりすぎるんでここできりました
本スレや避難所で応援してくれた人ありがとう
おかげでまた書く意欲が出てきました
完結までストーリーはあらかた考えてるんですが、文にするのは難しい……
ではいずれまた近いうちに

229:ゼロの使い魔はメイド
08/10/04 00:55:08 Q1zm9o5x
ベルセルクのひと、乙です
拙作のほうも、1:00から投下させていただきます

230:蛇の使い魔 ◆FkZGcfA2Hg
08/10/04 00:55:47 /nXUfk4D
1:00に投下します


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