リリカルなのはクロスSSその76at ANICHARA
リリカルなのはクロスSSその76 - 暇つぶし2ch419:くらいべいべ
08/09/22 20:57:12 1lTozM8Y
そんなこんなで飼い主の愚痴を聞きつつ、家で日向ぼっこする日々を繰り返していたのだが、唐突に事件は起こった。
 その日、私は恒例の散歩を行っていた。正確には私の縄張りの巡回といったところか。猫である私以外の種族でも大抵行うこと。
 とはいっても基本この街は同種族の闘争や異種族間の闘争も起こらない平和そのものであるので必要かと言われれば、私の心の贅肉といったところか。
 いやはや飼い猫である私は体にも贅肉がついていて、最近それが非常に気になるのだが。それはいかに。
 そうやって塀の上をのそのそと歩いていると、空気が変わった。どこかおかしいのだが、なにがおかしいのかと言われるとよくわからない。だが確実に変わっていた。
 どんよりと停滞した空気。
 何故か、人っ子一人、ましてはそれ以外の種族すらいない現状。
 明らかに異常だった。
 私の脳裏に警鐘が鳴るのを無視してそのまま進む。
 人間の諺に好奇心猫を殺すという言葉があるが、実際そうなるかもしれないのに、首を突っ込もうとしている私は明らかにご主人に感化されているな。
 やれやれ。そう心の中で呟くと慎重に先に進む。
 警戒しながら、おっかなびっくり進むと向こうには小さな公園がある。私は公園の前に座ってどうしたらよかろうかと考えてみた。別にこれというものが浮かばない。
 ここまできたのだから、進むしかない。虎子を得んとするならなんとやらだ。
 まあ私の場合は虎とは同属なのでむしろ歓迎されるかもしれないが。そう決心するとそろりそろりと公園の中に前足を踏み入れる。
 縁とは不思議なもので私が此処で引き返していたら、私はあのような事態に陥っていなかっただろう。この出来事は今日に至るまでの腐れ縁である元同属の双子の姉妹との出会いの切実となるのだから。
 さて、公園に足を踏み入れたのはいいものの、私は途方に暮れてしまった。
 何故ならそこはまさしく異界となっていたのだ。外から見た限りでは全く判らなかったのだが(後に聞いた話によると封鎖結界というけったいな術の効果らしい)公園に踏み入れた途端、世界が変わった。
 空は紅く変質し、どこか歪に歪んでいた。その中心で二人の化け物が踊っていた。
 そう。化け物だ。
 何もないところから雷を出したり、手に触れることなく物を動かしたり、動体視力に優れた猫である私ですら視認するのが難しいほど高速で動いたり、空を飛んだりするものを化け物といわずして、なんといおうか。
 思わず猫なのに阿呆の人間のように口を開きっぱなしになってしまったのは、誰であろうと責めることはできないであろうと私は思う。
 やがてその舞踏が唐突に止まると、二人はお互いはなしている。よくよく話を聞いてみると主人がよく話している涼宮なんとかについてのようだった。
 話に聞いた白人という人間の種族である黄金色の毛を持つ女性とご主人とよくいる自称宇宙人だという長なんとかという人間にしては美しい毛並みを持つ二人の会話は酷く物騒な内容だった。涼宮なんとかを拘束するとか、しないとか。
 やれやれ。そういうのは本人のいないところでするものではないのではと、場違いなほど酷く暢気に私は思った。
 そんな二人を眺めながら、ふと周りを見回すと少しはなれたところに人間がいるのを発見した。
 私の主人であるキョンだ。
 彼はどうやら酷く腰を抜かしているようで、なんというか。酷くみっともない格好だった。
 詳しくは彼の名誉のためこれ以上は言えない。
 なんともいえない、生易しい暖かい視線を送りつつ、彼に近寄る。呆然としている主人は私が至近距離に近づいても気がつかない。
 しょうがないのでニャーと一鳴きして、自己主張してみる。おお。ようやく気がついたようだ。
 彼は酷く驚いた顔をして私を抱きかかえると、ほっとしたのか、色々と愚痴りだした。うん。愚痴るのはいいが、ご主人様よ。空気読め。
 かくして私は涼宮なんとかを巡る、途方もない騒動というか、事件というのに巻き込まれてし

420:くらいべいべ
08/09/22 20:59:35 1lTozM8Y
 投下しました。
 題名は「とある猫の憂鬱」です。
 413様415様ご指摘ありがとうございます。
 これからは気をつけます。

421:くらいべいべ
08/09/22 21:06:24 1lTozM8Y
 ああ!またしてもすみません。投下したつもりが尻切れトンボになってる!
 とりあえず、最後の行は 

『かくして私は涼宮なんとかを巡る、途方もない騒動というか、事件というのに巻き込まれてしまったのだった。やれやれ。』

 となります。すみません。

422:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/22 21:15:54 psly/ZMt
乙ー
・・・・・なんだこれ!?

ここへの投下は初らしいと聞くが、なんという奇奇怪怪な話だ
sageの件に関してはJane doe Styleていう2chや同じシステムの掲示板をブラウズする為だけのソフトがあるから、それを使うといい
ボタン一発でsageたりできる

423:くらいべいべ
08/09/22 21:24:52 1lTozM8Y
 そんなのあるんですか?
 あまり2chの出入りにも掲示板の書き込み自体してないんで、よくよくわからないことがおおすぎて。
 こういうのって、常識以前の問題らしいので、結構ご指摘を受けることが多いんですよね。
 それで結構へこんだりorz
まあ、生易しい目で見守っていただけるとありがたいです。
 

424:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/22 21:27:18 fz/ooGbM
乙!
むふぅこれは摩訶不思議……。


425:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/22 21:42:29 68HudTVg
少し亀だがTHE OPERATION LYRICAL氏GJ!
降ってくるのはやっぱり隕石かレールガンなのか?


426:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/22 21:50:02 fz/ooGbM
>>423
僭越ながら、できれば暇を見つけて2chのやり方について情報を集めてみてはいかがでしょうか?
このようなネットの場ではほんの少しの注意不足により、痛い目に合う事が多いようなので。
自分も始めのころは、sageやアンカーの仕方がわからずに苦労しました。
手始めに2chで検索して、やり方を見てみてはどうでしょうか。
後、その他にわからない事があったら避難所のスレ(運営あたり?)で質問をしてみるのも良いかもしれません。
どうも失礼致しました。


427:くらいべいべ
08/09/22 21:53:54 1lTozM8Y
 426様提案ありがとうございます。
 そうですね。まずは自分でですね。
 さっそく、いってきます。

428:魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg
08/09/22 22:12:35 yU1nRSFV
ジョジョクロスの小ネタですが、15分から投下させていただきたいんですがかまいませんねッ!!

429:魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg
08/09/22 22:17:29 yU1nRSFV
 ―エリオがジェイル=スカリエッティ一味に組することとなった切欠はこうだった。

 本名<エリオ=モンディアル>はプロジェクトFと呼ばれる人造魔導師計画によって生み出された。
 その真実を知った時、彼は研究施設に送られたが、その一年後には偶然と運を味方にしてそこを脱走した。
 それからは、路地裏を這う虫ような生活だった。
 実の両親だと思っていた人間に裏切られ、施設で囚人のような扱いを受けていたエリオの心には、世の中の全てを憎む意思が疼いていたが、しかし所詮は子供でしかない。
 この巨大な社会という化け物の腹の中で、親の加護を失った無力で憐れな子供の行き着く先など決まっている。
 人生に捻くれた大人達に殴られ、飢えに苦しみ、そんな日々を過ごすうちにエリオは少しずつ絶望していった。

『これは運命なんだ! ボクはもうすぐ、父さんと母さんがそうしたように誰も彼もに忘れられて死ぬんだ』

 そう信じた。
 行くところはなかった。
 ひとりぼっちだった。
 心底まいっていた。
 エリオは4歳にして人生を捨てていた。

 ―そんな時だ。
 ノラ猫のようにレストランのゴミ箱を漁っているエリオの所に、少し年上の少女がたまたま通りがかった。
 名前を<チンク>と言った。
 その少女に声を掛けられた時、すでに弱りきっていたエリオは彼女が自分に何を求めようが驚く気も抵抗する気もなくなっていた。
 自分とは立場の違う裕福なお嬢様の気まぐれ、とは思えない力強い彼女の腕に引かれ、エリオは歩く。
 チンクはそのレストランにエリオを引き入れると、待ち合わせをしていたらしいテーブルの仲間に視線を送り、次いで店の給仕に向かって叫ぶように言った。

「こいつにスパゲティを食わせてやりたいんですが、かまいませんね!!」
「……え?」

 その突然の提案に、驚いたのはあろうことかエリオだけだった。
 テーブルの仲間は何を質問するわけでもなく、かといって嫌悪の表情も無く、自分に運ばれたスパゲティの皿を薄汚い小僧の前に差し出した。
 呆気に取られるエリオの頭の中は、感謝はもちろん疑念すら吹き飛んで真っ白になっていた。
 彼らの揺ぎ無い行為は憐れな子供に対する安っぽい同情心など超越した、確固たる理念を貫いていた。
 促されるままに、久方ぶりの食事を済ませ、人心地ついたエリオはチンクとテーブルについた仲間の男を交互に見る。
 男は何も喋らないので、エリオの方から尋ねた。

「何で、ボクなんかにこんなことしてくれるんですか?」

 男は、その質問に答えなかったが、感情を込めない態度でこう言った。

「そうしたいと言うのなら、しばらくオレ達の住処に泊まってもいい。
 だが、ガキは親のところへ帰るもんだ。そして学校へ行け! いいな……」

 得体の知れない乞食の小僧を受け入れる、奉仕の精神などという生温い心構えではない本当の懐の深さと、真っ当な世界へ戻そうとする厳しさを男は実感させてくれた。
 ただ人生に捻くれただけの子供なら、その言葉でもう一度正しい道へと戻れるかもしれない。
 だが、エリオは両親の元へはもう戻れないし、決して心を許すことも出来ないだろう。
 それからエリオは、独白するように自分の素性を男に話した。
 苦痛しかない行為だったが、驚くほど抵抗や反発はなく、まるで自分の抱えてきた苦しみは今この男に話す為に溜めてきたのだ、と思うほどすんなりと口から漏れた。
 全てを話し終えた時、男は立ち上がった。

430:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/22 22:18:50 fFzR0lBs



431:魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg
08/09/22 22:19:02 yU1nRSFV
 ―その時、男の瞳には『怒り』が映っていた。
 何に対するものか?
 少年を殴った大人達か。生まれの違いだけで隔離し、モルモットのように扱った研究者達か。あるいは、命を玩び、生み出した子供を捨てた親に対するものか……その全てであるのかもしれなかった。
 吐き気をもよおす『邪悪』とは―何も知らぬ無知なる者を利用することだ。自分の利益の為だけに利用することだ。
 自分達の欲求を満たす為にエリオを傷つけた、手前勝手な愛情を振舞う両親を含む大人達ッ! それを育む腐った社会ッ!
 それら全てに対する男の純粋な『怒り』だった―。

「事情は分かった。すまなかったな。
 オレから君に出せる選択肢は少ない。君が『働く』というのなら、オレはオレの所属する『組織』に君を推薦しよう」

 エリオはこの男が何となく堅気の人間ではないのだろうという直感が正しかったことを悟った。
 苦笑を浮かべながらチンクも立ち上がり、それにつられるようにエリオも席を立つ。
 答えは既に決まってた。
 僅かな時間でしかなかったが、一人の人間として敬意を払ってくれた男の真摯な態度をエリオは既に信頼していたのだ。
 彼について行きながら、エリオは慌てて尋ねた。その名前を。

「―ブチャラティ。ブローノ・ブチャラティだ」

 男は自らを『ギャング』と名乗った。




<リリカルなのは×ジョジョ第五部>

―眠れる運命の奴隷達―(前編)





 ―トーレが自らの『意志』というものを強く意識するようになった切欠はこうだった。

 トーレは戦闘機人<ナンバーズ>の三番目として、この世に人工的に産み落とされた。
 長い年月で経験を積み重ねることによって、人間らしい判断や自我といったものは手に出来たが、彼女には生きがいだとか心を動かすものは最初から無かった。
 どこかで誰が死のうが、たとえ自分の手足がなくなろうが、心は動かないだろう。そうなっていた。
 ただひとつ……『巨大で絶対的な者』が出す『命令』に従っている時は、何もかも忘れ、安心して行動できる。兵隊は何も考えない。
 トーレは人間ではなかったが、人間を模した故に生み出される苦悩を、その無感情な戦闘機械としての心に抱いていた。
 その一点から何かが生まれそうな気がする。
 しかし、トーレはそれを不純物と感じ、消し去りたいと思っていた。
 自分は、後の生まれた感情豊かな姉妹達とは違う―。

 ある日、彼女の創造主であるドクター・スカリエッティは稼動中のナンバーズを集めて一人の男を紹介した。

『彼が今日から君達のリーダーだ』

 その決断に至るまで一体どんな経緯があったかは分からない。しかし、スカリエッティはただ簡潔にそう告げた。
 男の名は『ブローノ・ブチャラティ』
 何の変哲も無い、魔力すら持たないただの人間だった。
 一つだけ違う点があるとすれば、それは彼の持つ『特殊能力』だったが、戦闘能力という自分達にとって最も重視すべき観点からすれば、それほど特色ともならない能力だった。
 男は強い。が、それも人間の範疇だ。
 そう分析し終えた時、トーレはブチャラティに対する興味を失った。
 絶対的な任務遂行能力。戦闘力も判断力も含めて、トーレが興味を持つものはそれだけだった。その時、彼女の自我はただ戦いの為に存在した。
 そして、当初。ブチャラティは当然のようにナンバーズには歓迎されなかった。
 いきなり自分達の上に立ち、それでいて能力的には自分達に劣っている―それが歓迎される筈は無い。
 ブチャラティもその点は弁えているのか、彼がナンバーズの戦闘訓練に干渉することはほとんどなかった。賢明な判断ではあったが、その行動をクアットロが皮肉って彼を嘲ることも何度かあった。

 ―だが、変化はすぐに訪れた。

432:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/22 22:19:30 fFzR0lBs



433:魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg
08/09/22 22:21:33 yU1nRSFV
 実戦経験を積む為の一環として、ナンバーズは他次元世界へ『任務』に向かうことが多々あった。それは重要な物資の強奪であったり、障害となる要素の排除であったりした。
 その全てにブチャラティは同行し―不思議な事に、帰還した時には『任務』を共にしたナンバーズと信頼関係を築いていたのだった。
 既に単独で任務を任される立場だったトーレには分からなかったが、チンクを始めとする他の姉妹が次々にブチャラティへの評価を改善していく様は素直に驚きだった。
 あのクアットロすら例外ではなかった。

『数値化できる能力じゃない。あの男には、言葉では伝えきれない『何か』がある。おそらく、ソレこそが私達に最も足りないものなのだろう』

 不思議な笑みを浮かべて呟くチンクの言葉を、やはりトーレは理解出来なかった。
 その疑問を解消する為にブチャラティへ模擬戦を申し込んだこともあった。
 結果はトーレの勝利だった。しかし、その戦いの中で疑問は更に深まった。
 能力値では圧倒できるはずのブチャラティに一時期は逆に追い詰められるところまで行った。
 トーレの確かな経験に基づく理詰めの戦闘予測を、ブチャラティは意外な発想とそれを実行する度胸によって尽く覆していったのだ。
 何より、ブチャラティの戦い方には理屈では説明し得ない疑問がついて回った。
 トーレは戦闘の後に尋ねた。

「お前の判断や行動は時折勝利に繋がらない場合もあった。自らの命を賭けてまで、何故そんな判断をしたのだ?」

 戦闘のダメージをおくびにも出さず、ブチャラティは服の埃を払いながら答えた。

「単なる訓練だと言われればそれまでだが、オレは戦う時に明確な目的を定めて戦っている。
 そして、その目的の為に勝利する方法は様々なはずだ。オレだけの力で何もかも勝ち抜く必要はない。オレの仲間の誰かが、オレの戦いを引き継ぎ、勝つことを想定して戦っている」
「そんな……そんな不確定なものの為に命を賭けると言うのか? ただの無駄死にになるかもしれないというのに?」
「そうだな、オレは勝利という『結果』だけを求めていない。
 大切なのは『勝利に向かおうとする意志』だと思っている。向かおうとする意志さえあれば、たとえオレが倒れたとしてもそれを引き継いだ誰かは勝利に近づく。
 そして、これは戦闘に限ったことじゃあない。生きることは『受け継いでいく事』だ。
 何が正しく、何が間違っているのか。決めるのは自分だが、それを教えてくれるのはそれまでの自分を育んでくれた『黄金の精神』なんだ」
「……」
「オレは、自分の『信じられる道』を歩いていたい」

 ブチャラティの言葉は、トーレにとってそれまでの価値観を変えてしまうほどの衝撃に満ちていた。
 単なる一個単位の戦闘機械として歩んできたトーレにとって、自分の『意志』を別の誰かに託すという発想は全く無かった。
 戦い、負ければそこで終わる。ただそれだけだ。
 だがこの時、ブチャラティはトーレに別の道を示した。
 自分の意志を引き継ぐ者―いるとすれば、それはやはり自分と同じ血肉を分けた姉妹達ではないか? 身近な存在が彼女に更なる後押しを与えた。
 カプセルに眠る、未だ生まれぬナンバーズの後継達を眺めながらトーレは一つの革新を得る。
 この時、トーレはブチャラティの『意志』を言葉ではなく心で理解した。




 ―ノーヴェがブチャラティという男を信望するようになった切欠はこうだった。

 彼女にとっても、やはりブチャラティとの出会いは彼を侮るところから始まっていた。
 自分が生まれた時にはもうそこに居た男。リーダーでありながら、能力は自分より下。勝気な性格のノーヴェはそんなブチャラティに分かりやすく反発した。
 彼女には、教育係であるチンクが苦笑と共にそれを戒める理由が分からない。
 それを分かる切欠はすぐにやって来た。
 ある日、ノーヴェは初の『任務』を与えられ、補佐のブチャラティと共に別の次元世界へ向かうことになる。
 そして、そこで彼女は未熟ゆえにミスを犯し、窮地に立った。
 救ったのは、もちろんブチャラティだった。
 戦いや任務を成功させるものは、単なる能力の優劣や数値化されたデータではない。
 その無言の証明を見せ付けられたノーヴェは悔しさと自らへの不甲斐なさを噛み締めることになった。
 自分を気遣うブチャラティの言葉が煩わしい。冷徹で合理的な判断のように見せているが、根本にある優しさを感じ取れることが、逆にノーヴェには辛かった。

434:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/22 22:22:02 fFzR0lBs



435:魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg
08/09/22 22:23:46 yU1nRSFV
「あたしのことなんかほっとけよ!」
「そうはいくか。いい加減拗ねるのをやめろ。失敗から学んでいけばいい。長い人生で経験することに比べれば、こんなものは失敗の一つでしかないんだ」
「うるせえ、知ったような口聞くな! あたし達は『戦闘機人』……戦うための、兵器だ! 戦って勝ち抜く以外の生き方なんて―ねぇんだよッ!!」

 叫んだ。その瞬間、ブチャラティはノーヴェを凄まじい剣幕で怒鳴りつけた。

「甘ったれた事言ってんじゃあねーぞッ! このクソガキがッ! もう一ペン同じ事をぬかしやがったら、てめーをブン殴るッ!」

 ノーヴェは悔しさも忘れて呆気に取られていた。
 何故、彼は突然怒り出したのか?
 それから任務が終わり、アジトに戻っても、ノーヴェの心にはその時の衝撃と彼の怒りがもたらした不思議な感覚が残っていた。
 以来、訓練の時も座学の時も、いつも考えるのは彼の『怒ってくれた事』だった。

 ―なぜ、彼はイキナリ怒ったのだろう?

 でも、あの怒りは『恨み』だとか『嫌悪』だとか、人を『侮辱』するようなものは何もない怒りだった。
 初めての任務で敵対した者達から感じた『敵意』 あの時のように敵が『怒る』時とは大違いだ。
 マジになってこのあたしを怒ってくれた。彼には何の得もないのに……。
 彼のあの態度の事を考えると勇気がわいてくる。
 不思議な感覚だった。まだ成熟し切れていない、幼い精神しか持たないノーヴェは、その暖かい想いを理由も分からないまま受け入れていた。
 そうして、自然と自分の中で一つの人生観が生まれていった。
 戦う為に生み出された人工の生命<戦闘機人>―。

『戦闘機人っていうのは、ああいう人の為に働くものだ』……ひたすら、そう思うようになった。誇らしさすら感じていた。

 それは創造主の思惑さえ越え、一つの人格として生きることへの意義を見出した瞬間だった。
 以来、ノーヴェにとってブチャラティはチンクに並ぶ、仰ぐべき師であり兄となったのだ。





 ブチャラティとの邂逅から幾年月。ナンバーズも着々と目覚め始め、全ての予定は順調に消化される日々だった。

「予定は順調。素晴らしいことだ」
「そうだな」

 小洒落たティーポットで紅茶を注ぎながら、満足そうに呟くチンクにトーレが相槌を打つ。

「予定と言えば、昨日の任務で予定外のモノを拾ってきたそうじゃないか?」
「エリオのことか? 問題ない。我々の新しい仲間となる予定だ。今、ブチャラティがドクターに会わせている最中だろう」
「フン、ものになるといいがな」
「ブチャラティに任せておけば、何も問題ないさ」

 そんなやりとりとする年長組とは別のテーブルで、クアットロとノーヴェという珍しい組み合わせの二人が顔を突き合わせていた。
 ノーヴェの手元にはノートとテキスト。訓練スケジュールに組み込まれていない、個人的な勉強を行っているのだ。
 しかし、そんな向上心溢れる気概とは裏腹に、視線を彷徨わせるノーヴェの様子から既に飽きが来ていることは容易に分かった。

「何か今日は気分が乗らないんだよなぁ。今日の訓練って座学がメインだったしさぁ、一日ぐらい自主勉しなくてもさぁー」
「……あのね、ノーヴェ」

 元々体を動かす方が好きなノーヴェがそわそわとし出すのを優しく嗜めるように、クアットロはその背中にそっと手を回した。
 落ち着かせるように撫でる。

436:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/22 22:23:52 fFzR0lBs



437:魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg
08/09/22 22:25:06 yU1nRSFV
「あなたは立派よ。一般的な数学なんてデータ共有で簡単に記憶できるのに、自分の力で一から理解したいから『教えてくれ』なんてなかなか言えるものじゃあないわ……。
 そして『九九』だってちゃんと覚えたじゃない?
 教えたとおりにやればできるわ。あなたならちゃんとできる」

 優しく、そして強く言い聞かせ、クアットロは書きかけのノートを手に取った。
 そこには『16×55』と式が書かれている。ノーヴェが今まさにぶつかっている『算数』の問題だ。

「さあ、いいかしら? 6かける5はいくつ?」
「6かける5は、ろくご……えと、ろくご……」

 ノーヴェは脳に直接データを書き込む方法とは全く勝手の違う、おぼろげな記憶を探りながら答えを搾り出す。

「……30?」

 確証の持てない呟きだったが、黙って見守っていたクアットロは途端に破顔した。

「そうッ! やっぱりできるじゃあない! もう半分できたも同然よ!」
「そーかッ! ろくご30ねッ! よしっ!」

 正解に気を良くしたノーヴェがやる気になってノートに向かい合うのを満足そうに見つめ、クアットロは微笑んだ。
 その時、唐突にまた別のテーブルから別の妹の怒鳴り声が上がった。

「何のマネっすかこりゃあ~~~!?」

 椅子を蹴って立ち上がるほど肩を怒らせているのはウェンディだった。
 同じテーブルに座ったセインが、不思議そうに彼女の怒りの元凶らしい皿の上の物を見つめた。

「何って、イチゴケーキじゃない。紅茶のお茶請けなんだから、好きなの選べば?」
「イチゴケーキだっつーのは見りゃわかるっす! チョコケーキでもなきゃチーズケーキでもないっすからね。
 そうじゃあねえっすよ! ケーキが『4つ』じゃないっすか! このあたしに死ね! っつーんすかぁ!?」

 美味しそうな『4切れ』のケーキを指して怒り狂うウェンディの言動が理解できず、セインはしばし呆然と促されるままにケーキを眺めていた。

「……『4切れ』じゃ足りないの? もっと食いたいの?」
「知らないんすかッ、マヌケッ! 『4つ』のものからひとつ選ぶのは縁ギが悪いんすよ!
 5つのものから選ぶのはいい! 3つのものから選ぶのはもいい! だけど『4つ』のものから選ぶと良くない事が起こるんっすよ!」

 ウェンディは何も分かっちゃいない、という嘆きすら見せて、怒りの矛先をセインに向けた。
 既に呆れ始めているセインを尻目に、深刻な表情で語り始める。

「クア姉だってナンバーズの『4番』だから起動が遅れちゃったし、挙句あんな性格破綻者になっちまったんすよぉ~」
「ウェンディちゃん。あとでちょっとお話しましょうね」

 こめかみに青筋を立てながらクアットロは言った。もちろんウェンディは聞いていない。

「そんなの迷信だよッ! 冷静に考えて、1個ずつケーキが減っていったら誰かがいずれ『4つの中』から選ぶはめになるんだから!」
「そこなんすよッ! こーゆー場合、お茶請け用意したセインが気をきかして3コにすべきなんっす……! まったく察して欲しいっすね!」
「もうォ~、じゃあ食べなきゃいいでしょォ~?」
「イチゴケーキが食いたいんすよ、あたしはッ!!」

 もはや子供の癇癪になっているウェンディの主張を尻目に、クアットロのテーブルではノーヴェが悪戦苦闘を経て問題を終了させていた。

438:名無しさん@お腹いっぱい。
08/09/22 22:25:20 fFzR0lBs



439:魔法少女リリカルなのはStylish ◆GJQu3lVpNg
08/09/22 22:26:36 yU1nRSFV
「やったーッ! 終わったよ、クアットロ。……どう?」
「出来たの……どれどれ?」

 自信満々で差し出されるノートに書かれた成果を見る。
 クアットロの顔から暖かい笑みが消え去り、急激に温度が低下していった。

「何これ……?」

 ノートには『16×55=28』という式が描かれていた。
 抜け落ちたかのような無表情の問いに気付かず、ノーヴェは既に答えは正解だと過信した笑顔を浮かべている。

「へへへ♪ 当たってる?」

 さあ、褒め称えてくれッ! 言わんばかりのノーヴェの顔に、次の瞬間クアットロは無言でフォークを突き刺した。

「ぁぎゃああああーーーッ!?」

 予想だにしない不意打ちに、血を撒き散らしながらノーヴェは悲鳴を上げた。頬には刺さったフォークがブラブラ揺れている。
 痛々しいその姿に対して、むしろクアットロは怒り狂っていた。

「この格闘バカが、私をナメてんのかッ! 何回教えりゃあ理解できんだ、コラァ!」

 普段の淑女らしい丁寧な言葉遣いも、艶のある穏やかな物腰も消え去り、顔面に血管をピクピク浮かせながら凶相へと変貌したクアットロは容赦なくノーヴェの頭を掴み上げた。
 髪がブチブチと引き千切れ、無理な角度に曲げられた首の骨が悲鳴を上げようが無視して思い切り顔を逸らせる。

「ろくご30ってやっておきながら、なんで30より減るんだ? この……」

 そのまま殺意さえ感じる怒りと共にテーブルへと振り下ろした。

「ド低脳がァーーーッ!!!」

 派手な激突音に顔面の骨とテーブルが軋む音が混ざり、周囲に響き渡った。
 うつ伏せになったノーヴェの頭を中心に血が広がる。
 しかし、そんな突然の惨状にも周囲の反応のほとんどは冷めたものだった。
 癇癪を納めたウェンディが『あ~あ、切れた切れた。またっす』と呆れたように紅茶を啜る。トーレとセインに関しては完全に無視を決め込んでいる。
 毎回の事だからだった。
 ただ一人、チンクだけが二人の姉妹喧嘩というには少々激しい諍いを止めようとその場でオロオロしていた。

「低脳って言ったな……。殺す、殺してやる! 殺してやるぜぇ~、クソ姉!」
「年上への口の利き方がなってないわねぇ……気に入らないなら言い方を変えるわ。ブチ殺すわよ、クサレ脳みそが!」
「こ、こら! 二人とも止めるんだ、それに使っていいのは『ぶっ殺した』だけだ!」

 完全に殺意にまみれた二人だけの世界に没頭する傍らで、背の低いチンクが必死になって半ばワケの分からないことを言っている。
 そんな一触即発の状況下へ、チンクの願いに応えて事態を収拾し得る人物がやって来た。



「てめーらッ! 何やってんだ―ッ!?」





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