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コラム:潜在成長率回復を阻む「真犯人」
中国の追加緩和、日欧の追加緩和観測などを好感し、世界的な株高傾向が続いている。
ただ、アグレッシブな金融緩和で株高がもたらされても、それはあくまで一時的で、その先の
実体経済への効果が限られるのは、すでに多くの人が認識していることだろう。(略)
<円安誘導政策は内需部門への課税、輸出部門への補助金に等しい>
1つの問題は、私たちの所得獲得能力(付加価値の生産能力)が低下していることだ。
(略)私たちの支出は平均的に見れば、所得の伸びに規定され、その所得の伸びは
付加価値を生産する私たちの能力、つまり人的資本によって決定される。
この人的資本については、マクロ的に見ると大きく分けて2つの問題に我々は直面している。
1つは少子高齢化の影響で、労働力の頭数そのものが減少していること。もう1つは、
平均的な労働者の生産性の伸びが足踏みしていることだ。これらは、金融緩和で
資産価格を一時的にかさ上げしても、解決される問題ではない。
むしろ、アグレッシブなマクロ安定化政策を行って総需要を刺激すると、ぬるま湯となり、
現状を変えるインセンティブが働かず、現状維持が積極的に選択されるケースが少なくない。
この議論は神学論争になるので止めておくが、問題はアグレッシブな政策の長期化や
固定化が、資源配分や所得分配を歪め、潜在成長率そのものを抑制することだ。
(略)2000年代以降の日銀の「所得・支出アプローチ」が典型だが、2012年末に始まった
アベノミクスでは明確にトリクルダウン(浸透)政策だと説明された(金利低下や円安によって、
まずは企業の業績が回復し、最後に家計の所得が増えて個人消費が回復するのだと)。
2000年代の長期の景気拡大局面では、円安によって輸出数量は大幅に増加し、輸出企業の
設備投資が増えるところまでは何とか到達した。しかし、家計部門の実質所得の増加まで
には至らず、個人消費の明確な回復も見られなかった。
戦略そのものが間違っていた可能性が大きいのだが、政策は再検討されず、むしろ
アグレッシブな金融緩和で超円安を目指すという戦略が採用された。
それが2012年末から始まったアベノミクスだが、今回は超円安にもかかわらず、
輸出数量の増加というプロセスの最初の部分も達成されていない。
「所得・支出アプローチ」に固執すれば、効果が現れないのは、政策の規模が十分ではない
からであり、効果が現れるまで、さらに金融緩和を追求し、一段の円安に誘導すれば良い
という政策提言につながる。しかし、この政策は、内需部門に課税し、それを原資に輸出部門に
補助金を与える政策に他ならない。日本では、製造業に比べて非製造業の生産性の低さが
しばしば問題にされてきた。しかし、製造業が良く見える理由の1つは、円安という補助金が
与えられているからではないか。
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