【近藤節】近藤唯之スレその3at MEIKYU
【近藤節】近藤唯之スレその3 - 暇つぶし2ch99:神様仏様名無し様
07/07/18 21:41:43 8XJowOgc
代打で出て行って三球三振。つまり、糞の役にも立っていない。

「なぁ小関よ。打席に立ってるだけならデパートのマネキンでも
 できるよなぁ。いますぐ郷里の栃木に帰ってラーメン屋継げや」

と言われても仕方のない結果である。原も伊原も何も言わなかった
ものの、小関は二軍落ちを覚悟した。それどころか、今シーズン限りで
戦力外通知されることすら考えた。どこの世界でも、生え抜きばかりが
大事にされて、外様は使い捨てである。

ドラマはそこから72時間、つまり3日後にやってきた。
7月18日、甲子園球場で阪神-巨人戦が行われた。1-5とリードされて
迎えた7回表、マウンド上には久保田智之投手が仁王立ちしている。
この回先頭の木村拓也二塁手が四球で出塁すると、原はベンチを
ぐるりと見回した。阪神には藤川球児という絶対的な抑え投手がいることを
考えれば、このチャンスを活かすか活かさないかは「ダイヤモンドと消し炭」
くらいの違いがある。この時点でベンチには、小関以外にも小坂誠、古城茂幸、
清水隆行、鈴木尚広と4人もの左打者が残っていた。
これまでの実績、久保田との相性、そして生え抜きベテランであるなどを考えれば、
ここは清水を使うのが定石である。しかし次の瞬間、原の意を伝える伊原の言葉を
聞いて小関は思わず前につんのめった。

「小関、お前の出番だ」

小関が震える手で自分のバットを掴んで打席に向かい、久保田が2球目に
投げた150キロの直球をぽんと振ると、ぽんと右越本塁打になった。
おぼつかない足取りでダイヤモンドを一周しながらベンチの原を見ると、
そっぽを向きながら鼻毛を抜いている。伊原はと見てみれば、下を向いて
帳面を開き、次の作戦のメモをとっている。しかし小関の心の底には、2人の
上司の思いがじぃーんと染みわたっていた。

結局この日は3-5で敗戦、首位・中日とのゲーム差も2.5と広まった。

「こら、惨めな負け方ばかりしやがって、恥を知れ、辞めちまえ」

原監督以下、コーチ・選手が巨人ファンの罵声を浴びながら宿舎行きの
バスに乗り込むと、先頭の座席に座っていた原が、最後に乗ってきた小関の
肩をぽんと叩きながらこう囁いた。

「小関、ありがとうよ」

その夜、伊原は宿舎ホテルのバーに小関を誘い、こうつぶやいた。

「なぁ小関、俺たちは外様だけど、ちゃーんと見ていてくれる上司もいるんだ。
 シーズンが終わるまで、このことだけは忘れないでいような」

管理職、とりわけプロ野球チームの監督なんて、評価されるのは1人だけで
あとの11人は無能呼ばわりされ、毎年半分は首にされてしまう。
そんな中で、生え抜きエリートを差し置いて外様の選手にチャンスを与えることが
どれだけ勇気のいることか、監督経験者の伊原はわかっていたのだと思う。

男にとって、よき上司との出会いこそが人生の99%を決めるのだと、私は本気で思っている。


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