【近藤節】近藤唯之スレその3at MEIKYU
【近藤節】近藤唯之スレその3 - 暇つぶし2ch68:神様仏様名無し様
07/05/11 22:18:31 KuN0sErD
プロ入りしてから20年も経とうかというときに決まった東北楽天へのトレード。
サラリーマンに喩えれば、定年まで数年と迫ったある日、仙台支社への転勤を
命ぜられたとのと同じと言っていい。
仙台と言えば杜の都、牛タン、酒もうまい。しかし、山崎にとって仙台での酒は
自棄酒であり、涙酒であった。
「ふざけるんじゃないよ。本塁打王まで獲った俺が、最後の花道をこんな
 見知らぬ街で過ごさなければならないなんて、神も仏もいないんだなぁ」
そうつぶやいて焼酎5杯である。

しかし男の人生なんて、下駄を履き、玄関の扉をくぐるまでわからない。
東北楽天に移籍して2年目、田尾安志に代わる2代目監督として、野村克也が
就任した。野村が就任してまず最初にしたことは、山崎の自宅に電話をかける
ことであった。御年70になる野村は、聞き取りにくい低い声で、ぼそり、ぼそりと
山崎に語りかけた。

「なぁ山崎よ。お前は人並み以上に努力しているのに、周りはそう見てくれないから
 苦労するだろう。若い頃の俺にそっくりだなぁ」

そしてこう続けた。

 「お前がここまで築いてきた20年のキャリア、この若いチームに預けてくれんか」

名古屋で始まった山崎のプロ野球人生は、捕手失格の烙印を押され、ポジションを
たらい回しにされ、怪我に泣いた人生であった。中学時代は野球以外に相撲でも鳴らし、
プロ入り後は火事場から子供を助け出すなど「気は優しくて力持ち」を地で行く山崎も、
真面目にやっていても不真面目に見える態度が上司からの不評を買い、望まぬトレードも
甘んじて受け入れてきた。名古屋から神戸、そして最後にたどり着いた東北の地で、
野村という理解者と出会えたのである。
いい女との出会いもたしかに格別だが、いい上司との出会いこそが、男を本当の男に
変えるのだと、私は本気で思っている。

野村の言葉を聞いた山崎は、受話器を握り締めたまま大きな体を震わせて嗚咽を漏らした。
顔をくしゃくしゃにして涙を流す山崎に、野村はさらに続けた。

「なに、別段変わったことをする必要はない。これまでどおりに野球やれや」

山崎ほど、真摯な姿勢で野球に取り組んできた選手を私は他に知らない。
だから、普段着のプレーをすれば、周りの若い連中が勝手にその背中を見て学ぶ。
野村はそう言いたかったのである。

電話を切った山崎は、仙台に来て初めて、真に旨い酒を飲みに飲んだ。
不器用な野球を20年続けた山崎も男、不器用な言い方で山崎を泣かせた野村も男、
男同士の心のふれあいに、余計な言葉は要らないんですよね。


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