06/10/30 21:29:34 JDh63mnD
玄関前の広いエントランスで、僕は白衣を着ていた中村さんを見つけることができた。
「中村さん、どうもお世話になります」
「おう、いよいよ来たな。疲れている様には見えないし、早速案内するけどいいかい?」
中村さんは大学の先輩で、ここに僕を呼んでくれた人だ。
「ハイ!よろしくお願いします!」僕は、彼の後に続いた。
「おっ、”艦長”ご機嫌そうだな」そう言うと、中村さんはホールの入口にいる
男性に声をかけた。
振り向いた“艦長”は中村さんと話をしているのだが、残念ながら僕には何を
言っているのか解らない。
重々しく敬礼をする”艦長”に、中村さんも白衣のポケットから手を出して、敬礼を返す。
「かなり重症だろ。でも根はおとなしくていい男なんだよ」
「なんとなく解ります。”艦長”の帽子、カッコよかったですよ」
「ほら、見てごらん、あそこの彼女」
指差す方を見ると、髪を緑に染めた小太りの女性が、ニコニコして僕らを見ていた。
彼女は、胸を強調した露出の多い格好で、僕は目の遣り場に困った。
中村さんは彼女とも何やら言葉を交わしていたが、これまた僕には意味不明だ。
僕はこの先、彼らとコミュニケーションを取れるのだろうか…?少し不安になった。
「彼女ね、君のことがタイプだってさ。よかったねー」中村さんが、からかう様に笑う。
「えっ、こ、光栄です、ハハ…」何とかなりそう…かな?
着物を着た目付きの鋭い男の横を通りかかった時、彼はいきなり手に持った刃物を、
奇声と共に僕の目の前に突きつけた。僕は思わず、わぁと声を上げた。
「あっはははー、びっくりしたかい?歓迎されてるみたいだね」そうか、よかった…。
「どうだいピエール、やっぱり違うだろ、日本のコミケの熱気は?」
「ハイ、フランスから来た甲斐が有りました。東京ビッグサイトは世界中のオタクにとって
聖地ですよ!感激です!」
僕は、日本語が解らない僕の為に通訳兼案内をしてくれる中村さんに感謝しながらも、
チビでデブ男なのに何故か金髪のカツラを被って、”赤木リツコ”のコスプレをしてる
中村さんの方が、よっぽど"重症"なんじゃないか?と、少し失礼なことも思っていた。
「おおっ、ピエール!”涼宮ハルヒ”がいるぞ!」ハイヒールなのによく走れるなぁ…。